月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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惑星アップグレード

 私は目の前に立つ人形をじっと見つめた。彼女が、ストリボーグたち旧式オムニックの後継者。音声機能はそのままにしろ、識別名までもヘルタという。

 私は彼女が何者なのか理解するため、付き添いのオムニックへと尋ねる。

 

 

「そちらのオムニック、聞いてもいいだろうか。彼女は、あの天才そのものなのか?」

「回答:とても難しい質問です、狂风サマ。解釈:このオムニックは、元所有者の断片的な記憶と思考能力を一部持ちながら、再現率は約86%。加えて思考回路に、選出されたヒスイノのオムニック10万体の処理装置が取り付けられています。」

「なんと、ほぼ再現されているのか…。やはり君たちは、他と比較しても遅れなど取りはしないよ。」

「ほぼ、じゃない。私は新しく生まれ変わったの。」

 

 

 私の足元から抗議の声が飛んでくる。見ると、人形ヘルタはじとりと目を細めていた。確かに、生まれ変わったといえる。本人であれば、私の物言いに言葉を返すことすらしないだろうからだ。

 

 付き添いのオムニックは、人形の改造結果を端末で見せて説明した。この人形ヘルタは、本人の「魂の欠片」をベースに回路が組まれているため、パーツを交換しても自己同一性を保つことが出来る。そして処理能力は、オムニック10万体分の回路が繋がれているため、有機生命体の脳の処理を優に超えているという。

 

 付き添いのオムニックは、私の部屋に追加で人を呼び、運ばれてきた巨大な箱を開いてみせた。その箱に入っていたものは、巨大な本のような機械と鋼鉄の大鎚、そして上半身だけ存在する人型ロボットだった。人型ロボットの外見はストリボーグの戦闘型に似ているが、より頭部が伸び前傾姿勢になっており、四本腕が存在する。

 

 

「ドール・ヘルタの背部に、接続部が追加されています。結論:背部ユニットにより、本体の護衛と処理能力の更なる向上が可能になります。」

 

 

 私は指し示された、人形ヘルタの背部を見た。緑色の紋様があり、淡く光っている。私は今更、人形ヘルタが背中を露出されるドレスに着替えていることに気づく。

 信用ポイントを多く持った資本家が出席する、社交パーティで着ていけそうな、品があるドレスだ。

 

 試しに展開してもらうと、人形は堅牢なロボットに抱えられるように包まれ、宙に浮いた。紫の瞳が緑色に染まり、口が真一文字に閉じられる。圧縮言語がドールヘルタの口から飛び出し、背後のロボットが手に持った本型の機械を指でなぞる。そしてロボットが律儀に頭を下げて、私に実体化させた電子データを手渡す。

 電子データには、簡潔かつ分かりやすくドールヘルタの設計書が書かれていた。

 

 曰く、彼女は三つの意識が一つに混ざっている。ヘルタ本人の意識と、人形に芽生えた自我、そして私の民であるオムニックたちの思考。自らへの圧倒的な自信、自己愛はそのままに、オムニックとヒスイノへの想いが強く顕れているのだ。

 私はその文面から、未来のため身を捧げたオムニックたちを強く感じ、その遺志をはっきりと受け止めた。悲しみに暮れ、足を止めている場合ではない。彼らの望んだ発展のために、私は進み続ける。

 ヘルタ本人も故郷へ、並々ならぬ感情を抱いているのだろうか。もしそうだとしたら、第二の故郷と呼べるほどに、目の前の彼女がこのヒスイノをもっと愛してくれればと、切に願うばかりだ。

 

 

「ここで話していても、時間の無駄でしょ。」

「なるほど…もう分かった。貴女は模倣された生命ではないし、同志として歩めることも。…であれば、貴女のことは何と呼べばいいだろう。」

「しっかり区別してくれればなんでもいい。」

「そうか。ならば君を、旧友たちと同じように扱おう。智械黑塔、オムニックの知恵者として。」

 

 

 自由意思を持った人形、智械黑塔。智慧を持った機械のヘルタ。直球な呼称だが、彼女は異議を唱えることはなく頷いた。

 背部ユニットとの接続を切り、智械黑塔は私の前まで歩いてきて催促する。

 

 

「早速だけど、最高の研究施設を用意して。借りは返す。技術の停滞なんて、すぐに打破してあげるわ。」

 

 

 両手を腰に当て、智械黑塔は勝気な笑みを浮かべた。生まれ出た天才の真価が、これから分かる。

 

 

 ヒスイノ-Ⅷ。数十年前、チャドウィックの研究のため施設を貸し出した惑星に、私と智械黑塔は来ていた。人員は要らないと彼女は言い、作業用ロボットを遠隔操作して何かを開発し始めた。背部ユニットに制され、メッセージで伝えられる。

 

 

『この程度の躓きなら、50システム時間あれば十分。あなたは業務をしながら待ってて。』

 

 

 オムニックたちから、既に問題を渡されていたのだろう。数十万といるオムニックが回路をショートさせた問題を、たった2日ほどで解決できるとは。

 私は外へ出ると、智械黑塔の性能を思い返しながら業務を行う。彼女は、私の旅へ同行できるよう改造されているそうだ。同行できる実力という部分について、顕著に現れているのが戦闘能力である。

 

 華奢なボディであるのに、背部ユニットを取り付ければ、戦闘能力はどの戦闘用オムニックより上になる。それをヒスイノ-Ⅷに来る道中、実際に見て理解した。

 智械黑塔は試し打ちとばかりに、星海ではぐれたスウォームへ長距離射撃を行った。スウォームの行動は直接的ではあるが、不規則で読みづらい。だが放たれたレーザー砲は、未来予知のごとき精度であった。

 

 まず背部ユニットが持つ鋼鉄の大鎚が変形して、超巨大な砲台となった。私が所持する大盾に取り付けられたレーザー砲を、更に強化したような代物である。

 次に智械黑塔は右目を閉じ、照準を定めてから、ばんと一言発して指鉄砲を上げた。その瞬間、誤差なく極太のレーザーが放たれ、増殖する間もなく蟲の外殻を打ち砕き消散させた。

 

 単純な火力と卓越した演算能力。それらが合わさった結果、接近する必要もなく敵の殲滅を可能としているのである。自慢げな表情でこちらに目配せしてきたのが、記憶に新しい。

 

 

 彼女は時間の無駄だと評していたが、会話も対人関係をほぐす重要な要素だ。私は、宇宙船の中で手持無沙汰になっている智械黑塔と雑談を行ってみた。

 聞けば聞くほど、彼女の人格はヘルタとは違うことが分かった。第一に、話を面倒がらない。彼女はヘルタの記憶について言及した。

 

 

『研究を途中で放り出すなんて、勿体ないわ。ま、それは脳が一つしかないからでしょうけど。私は、並列して機械を動かせるし――キリの良いところまで成果は出すつもり。』

 

 

 智械黑塔は、ヘルタが無駄と切り捨てた研究にも価値を見出しているようだ。起動してから一月であるという部分も関係しているのだろうか。あらゆる分野に興味を持っているようだった。

 既に頭の中では、形が出来上がっているという。私は、彼女が本当にヘルタの一欠片だったのか疑問を持った。

 

 そして智械黑塔は、私と同じように星間を飛び回ることで知見が得られると考えている。天才とは論理を突き詰めるだけであっても形にできるものだが、彼女は組み込まれた凡人たちの思考にも影響されている。

 

 

『知恵の輪を、再現や理論だけで越えられると思う?ヌースの既知を上回るには、其の演算処理能力を超えることと、自分の脚で特異点のきっかけを探し求めることだけ。』

 

 

 智械黑塔は話した。ヘルタは使令になれるほどの頭脳を持っていても、他派閥の技術体系や専門外のことに関しては知ろうとしない。天才とは性格だけでなく、知識に関しても尖っているものなのだと。

 飽き性と、興味がないことに積極性を出さない点がもし足枷となったら。知恵の輪を抜け出すとき、必要な資格を備えていなかったら。智械黑塔は人類における全ての既知を記録し、行く運命の祝福や天才の思考回路さえ既知とし、やがて「知恵」の星神ヌースの演算を越え、全てを識る。

 ヌースは人が作った機械である。ならば人間に越えられない訳がない。彼女はそう断言した。

 

 

 2日ほど、つまり50システム時間が経過した。智械黑塔は私に顔を見せると、データの送信を完了した旨を話した。質問されると考えたのか、私にも研究の内容を見せてくれる。

 

 

「私と同じような回路を再現できるようにしたよ。これで新型のオムニックは、思考回路の外付けを行っても自壊しない。」

「…有機生命体の協力があれば、物質的な継承さえ行えるな。」

「また技術革新が止まったら、手を加えようかな。それじゃ移動中も研究ができるように、改造した宇宙船を準備して。オムニックになったんだから自己改造もできるし。完璧な私を更に磨かないとね。」

 

 

 気軽に要望を出すところは変わらないようだ。私は苦笑すると、通信にて研究者にかけ合い、開発の進んでいなかった宇宙船を製造するように話した。

 

 

 それから智械黑塔は私との星間移動中に、虚数エネルギーでの拘束装置をアップグレードさせ、ヒスイノの守りを堅牢にした。まだ効果は見ることが出来ていないが、何れ嵐が放つ矢が降り注ぐとき、真価を発揮することだろう。

 

 智械黑塔は現在、横で思索にふけっている。ヘルタの知識の外に関してである。天才の欠片が入った凄まじい演算能力でも、零から一を作り出すのは難しいのだ。

 ヘルタは若返りを行うことができるため、人体の細胞の構造まで熟知しているが、生命の蘇生・創造までは辿り着いていない。生命に関しては先を行く研究者がいることも関係しているのだろう。

 

 

「狂风、ルアン・メェイから機械以外のことを聞きだして。ミームウイルスの除去なら私でも辿り着けるから、もっと専門性の高い成果がほしい。天才の蘇生を行うなら#4の彼女が来るかもしれないけど、まだ私は認識されていないから問題ない。今のうちに知っておくべきなの。」

「報酬の変更を提案してみよう。…君がルアン・メェイさんの元に行ったら、驚くだろうか。」

 

 

 素直に頼み事をする智械黑塔に、私は必ず応えることを再三伝える。ベースが知人程度の他人であろうと、旧友とヒスイノの民が造った、娘のような存在だ。それに彼女がより広い世界を見れば、ヒスイノ全体に益を齎してくれる。

 また思索に戻る奇跡のような子を見て、私は急速な繁栄を幻視した。

 




智械黑塔(ドール・ヘルタ、オムニックのヘルタ)…

知恵・物理

あらゆる「知恵」を渇望する、元遠隔人形。人格ベースはヘルタ本人のようで、計10万体のオムニックの思考回路を統計し再構築されている。自らが何者であるかには興味を持っておらず、「私」という自我があること、それだけでいいと判断している。

ヘルタ本人には及ばずとも、知識の総量と引き出しの多さは無制限である。しかし現状は知恵を探究することのみに興味があるわけではなく、惑星の繁栄を少なからず演算結果に組み込んでいるため、「天才」にはなれない。

―――

通常攻撃[単体攻撃、拡散攻撃]…
指定した敵単体に智械黑塔の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。
(必殺技使用後は2ターン継続して、背部ユニットが智械黑塔ごと回転し、鋼鉄の大槌を振り回す。)

戦闘スキル(全体攻撃)…
敵全体に智械黑塔の攻撃力X%分の物理ダメージを与える。このとき、最も最大HPの高い敵に攻撃力X%+20%分の物理ダメージを追加で与える。

鋼鉄の大槌が砲撃モードへと移行し、全体を呑み込むほどのレーザー砲を放つ。

必殺技…
敵全体に智械黑塔の攻撃力X%分の物理ダメージを与える。風化を付与する。

智械黑塔が操作する巨大ロボットが、加工された巡狩の矢を放ち全体攻撃を行う。

天賦…
必殺技を放った後、2ターン継続で自身の速度+X%。

秘技…
「缶詰の脳」を自身を含む味方に、確率かつランダムで付与。

―――

マダム・ヘルタが発表されたため、人形ヘルタを強化したらどのような性能になるか妄想しました。

背部ユニットは、崩壊3rdの重装ウサギ19cと、崩壊スターレイルのスヴァローグの中間をイメージしています。
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