月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

60 / 128
狼の守り

 豊穣の指向性を持たせた強大な力は、嵐の復讐心を煽るに違いない。その推論を導き出すまでにそう時間はかからなかった。

 ルアン・メェイの実験レポートから、私の肉体はますます不死性を高めていると分かった。人の手に余る内包エネルギーは肉体を癒やし、巡狩の矢であっても死まで届かないだろう。

 力を得た後どう使うかは大方決まっている。それを実行に移すだけだ。

 

 まだ準備さえできていない状況であるので、民に災いが降りかからないために、惑星から離れた宇宙船内部で待機する。この巨大宇宙船はいち早く拘束装置を取り付けているため、防護可能だ。

 私はもしものときのためを考え、智械黑塔に離脱した方がいいのではないかと言葉を投げかけたが、彼女は普段通りの口調で返した。

 

 

「私の改良を疑っているわけ?ヘルタはチャドウィック博士と問題を解いたけど、私は彼とその案をより補強したの。機械工学は完璧よ。」

「信頼しているさ。だがまだ、直接撃たれたことはないだろう。他の者を巻き込みたくはないから、提案してみただけだ。」

「そう。」

 

 

 智械黑塔は、私と共に晩年のチャドウィックと会話し、彼の最期の瞬間まで研究を行った。チャドウィックはわずかに残った命の灯火さえも研究に費やし、満足げな表情で世を去っていった。彼に燃え殻は似合わない。知恵の道とは際限なく未知を追い求めることなのだから。

 

 気にせず研究を続ける智械黑塔をしばらく視界に入れた後、私は考えを巡らせた。ひとまず各ヒスイノの責任者、それと技術者を集めて方針を打ち立てることにする。無論遠隔による会議である。

 

 数刻し、呼び出しに応じたヒスイノの民たちへ、私は現在の状況を伝える。そして全体に一度危機感を抱いてもらうため、欠け月を取り込んでいない長命種が増えたときどうなるかを話した。会議に参加した民は、予想以上のどよめきを返す。

 

 

『狂风様のお力の向上、喜ばしいことではありますが…。今のヒスイノで守り切れるかどうか…。』

『我らはただ怯えるだけではない!神秘の壁の開発を更に進めれば、対抗できるはずです!』

『拘束装置もある!過信は禁物ですが、民が殺されることは防げましょう!』

『見通しが甘すぎる!実際にあの神速の矢を見れば、恐ろしさでそんな大言壮語は吐けまい…!』

 

 

 人種の様々な民は、ただ皆が暮らす地を守るためを思って議論を白熱させている。私は収拾がつかなくなる前に、声を響かせる。智械黑塔は退屈そうに頬杖をついていた。こういった認識合わせの場は、学術的興味をそそられないだろうが、智械黑塔にとっても大事なことだ。

 

 

「皆、一度静まってくれ!巡狩の矢から逃れるには、まだ問題がありすぎる。故にヒスイノが行ってきた策の延長線上において、新しい計画を打ち出した。一部の機械工と研究者には話を通していたが、今この場を以て皆に伝える!」

 

 

 私は電子データを各員に送信し、計画の根幹を見せる。大きく投影された画像には、精密に書かれた設計図が映し出されている。これは第二次豊穣戦争以降、戦闘用、土木用と多岐に渡って使われていた船種の改良案だ。

 上半身だけ取り付けられた造物エンジンに、深緑の騎士の鎧を模した装甲。我々ヒスイノが持つ船であることが一目で分かるデザインである。

 

 

「方舟航行プロジェクト――飾り気のない名前だが、その重要性は何よりも高くなるだろう。拘束装置による巡狩の矢の捕縛、それに神秘の壁の建造。この二つを同時に行うための船だ。」

 

 

 方舟と仮で呼称している巨大宇宙船は、つまるところ仙舟の始まりをなぞらえている。かつて仙舟は古国から飛び立ち、長命を求めて星海を彷徨った。彼らの始まりは豊穣を欲することだったが、私たちは巡狩の矢を求めと存護を為すことを目的とする。

 計画では設計図にあるこの巨大宇宙船を複数飛ばし、巡狩の矢が落とされる場所を予測し拘束装置を起動させる。そして神秘の権能を用いた防護壁によって、惑星の状況を霧中に包む。これによって巡狩を騙すのだ。

 

 予測について。旧世代型と新世代型のオムニック、それに導き手である智械黑塔は共に力を合わせ、高度な演算処理を行う装置を作った。豊穣の力を受け取った生命が暮らす場所に、巡狩の性質を持った虚数エネルギーの片鱗が現れるかを演算する機械だ。

 演算ができる範囲は、ヒスイノと協力者のカンパニーの手が届いている星系に限られる。ロボット並びにオムニックの生産は加速度的に増やされているため、拡張性の高い装置として運用が可能である。

 

 私たちが話している最中に、予測演算装置の結果が送信される。星海を動き回る嵐は、生命が思考する間もないほどに速く矢を放ち、太古からの執念を果たす。宇宙船に狙いが定められたのである。

 

 

「…このプロジェクトを始める前に、まず私が試すとしよう。」

『狂风様、どうされたのですか!?』

『通信が…!』

 

 

 私は、横に座っている智械黑塔に目をやった。宇宙船内部が朱く点滅し、アラートを鳴らす。急激に収束する虚数エネルギーの波、迫りくる神罰を知らせるために。

 私は外へ出て、放たれるはずの矢を待つ。もし拘束装置が不完全な機能だったとしても、巡狩と豊穣が均衡を保っているように、私の身が其の矢を対消滅させるだろう。また副産物として、私の身に耐えがたい激痛と周囲を諸共吹き飛ばすほどの被害をもたらすことは、分かりきっていることである。

 

 私は厄介な存在だと、心の内で呟く。嵐は、豊穣への復讐を果たすためなら多くの犠牲が伴うことさえ許容している。いくら仙舟同盟に力を貸していようと、其の冷酷さが何れ彼らにも牙を剥くことになる。仙舟は豊穣勢力と交戦しているのだから、矢の余波を受けることだって考えられるのだ。

 巡狩と豊穣の争いは終わらない。互いの運命を象徴する神がいる限り。

 

 神々は個人の願いに向き合うことなどない。ならば、私たちは星海を形作る人間として、傲慢にならなくてはならない。私は思う。この宇宙において「主役」は星神ではなく、人間なのだと。

 

 

『拘束装置起動。衝撃に備えて下さい。』

 

 

 次の瞬間、強烈な光が弾けた。私が目を細めながらも、豊穣に死を告げる力を視界に収める。宇宙船を取り囲むように、球状に展開されたバリアがまばゆい光を留め、矢の勢いを殺していく。時に抗い星海を貫ける一撃が、まるで時間に取り残されたように。

 そうして、数刻にも感じられるほど緊迫した一瞬は、次第にほぐれていく。完全に止まった光矢を見て、装置の改良が完璧であることを正しく認識したからだ。光矢の周りには、縛り付けたように装置由来のエネルギーが回転している。

 

 しばらくして通信が回復し、私はヒスイノの民に矢が停止する光景を見せた。豊穣に属する民は涙を流し、技術への畏れさえ抱いていた。

 私は宣言する。傲慢なる人間である我々は、人の手で生命を生かし守り抜くのだ。

 

 

 

 ほどなくして方舟航行プロジェクトは開始し、琥珀2156紀、またいで琥珀2157紀前半のヒスイノにおいて、最も大きな計画となる。

 私は宇宙船に滞在する期間を増やし、惑星に降り立つときは星外にて拘束装置がいつでも起動できるように船を配置しておくことを徹底した。

 

 豊穣の民が暴れ回る場所に嵐は現れ、暴で暴を制そうとする。私たちは略奪を歓びとする豊穣の民を制圧した上で、矢から無辜の人々を保護していった。

 

 

 力を得てから常に危険を感じる日々であったが、嵐の攻撃の手が次第に弱まり、いつの間にかぴたりと止んだ。

 何故か。私は宇宙船の外を見た。

 

 私の視界の内で、資材が荷台から降ろされ、造物エンジンと人間大のロボットによって「壁」が急速に作られていく。粗削りな出来だが、神秘性と耐衝撃性を確保しているため十分な機能である。

 またこの神秘の壁は、姿を隠すだけでなく力無き者たちの防衛線となる。ヒスイノと交易を行う原住民が危険にあわず、生を育めるように私は願い続けていた。

 

 

 私はいつの日か、温かな香りを感じていた。ヤリーロ-Ⅵや、星海のあちこちにいる建創者から嗅ぎ取れる、懐かしい香りである。

 琥珀の気配。私は神秘の壁から目を離し、星空を眺める。寡黙で巨大、内に確かな熱を秘めた其の姿が少しだけ見えた気がした。

 

 

――――――

 

 「流れ星」は、ある者には凶星として降り注ごうとする。略奪者と超常の光にどうしようもなくなった、無辜の民は親しき者を想う。まだ死にたくないと願う。

 

 すると、民は温かさに守られる。ごつごつとした暖かい巨人の影が墜ちる星を阻み、代わりに大きな盾を与えるのだ。見ることが出来ても掴むことの出来ない不思議な盾。民はそれを希望といった。

 

 




狂风(前編、未完成の狼)…

存護・物理

蟲を喰らって緑翠に染まり、倏忽の血肉を喰らって血の紅に染まり、力を得て色は抜け落ちた。

純白の狼が遠い昔から望んだ守りは形作られ、彼は更に遠くへ手を伸ばす。

―――

通常攻撃 斧槍連舞 [単体攻撃、拡散攻撃]…
指定した敵単体に狂风の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。
(必殺技使用後は3ターン継続して、拡散攻撃を行う。)

戦闘スキル 紅鎧 [防御]…
味方全体に狂风の攻撃力X%+Yの耐久値を持つ「紅鎧」バリアを付与する、3ターン継続。
「紅鎧」を重複して獲得する時、バリア耐久値は累積される。
「紅鎧」の耐久値は、戦闘スキルが付与できるバリア耐久値の200%を超えない。
「紅鎧」を付与された味方が攻撃を受けると、味方の攻撃力X%の物理ダメージを与える。

兵を模した血肉が味方を存護し、反撃を行う。

必殺技 解放された力 [全体攻撃]…
敵全体に狂风の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。同時に味方全体の最大HPの30%を回復する。(天賦発生時、追加で狂风の攻撃力のX%の物理ダメージを与える。)

花々が咲き、楽土のごとく大地は彩られる。筋肉を増強させ、斧槍、牙、爪で敵を切り刻む。

天賦 降臨する欠け月…
紅鎧によってバリアが張られた味方、自身が攻撃を受けた後、狂风の「欠け月」+1。「欠け月」が7まで溜まると、味方全体の速度+40%、最大HPの20%を回復。

秘技 冷たい月狂い …
秘技を使用するたびに「欠け月」が1層溜まる。(最大3層)


追加能力…
1.狐族がパーティ内に一人いるごとに、味方全体の会心率+10%、会心ダメージ+20%
2.欠け月を有する味方が一人いるごとに、味方全体の行動速度+10%
3.■■■

―――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。