月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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三度目の豊穣戦争

 数年経ち、予測されていた戦乱が起ころうとしていた。白狼猟群と犀犬猟群はようやく詳しい情報を掴み、それぞれが私たちヒスイノに通信を寄越す。

 

 古き歩離の民たちは、自らが主になって豊穣連合軍を結成した。そして、遠い昔に砕かれた活性化惑星「計都蜃楼」、そして更に昔に存在していた「呑界羅睺」を仙舟の内一艘に墜とすため、進軍を続けていると。文献によれば呑界羅睺は、かつて九艘あった仙舟の内「蒼城」を呑み込んだ惑星である。

 

 歩離の民の目標地点は、仙舟「方壺」。仙舟六艘の中でもっとも持明族が多く住まう船。

 それを聞いて私は、古き歩離らしくない狙いの定め方だと思った。二つも活性化惑星を引き連れ、墜とそうとする執拗さは、確実に計画を成功させようという執念を感じさせる。仙舟人の多い羅浮でも、狐族の多い曜青でもなく、方壺。持明族は、仙舟同盟の中で唯一豊穣の力を受けていない、「不朽」の末裔。他二種族と比べ、関係性は一歩離れたところにある。

 

 間違いなく、ただ殺戮をするためではない。私は今回の連軍が何を目的としているのか、思考に没頭しそうになったが意識を現実に引き戻す。企みを止めればいいだけの話だ。ヒスイノに移住したいと嘆願しに来る持明族は、羅浮を除けばほとんど方壺からであり、私たちとしても関わりの深い船である。

 つまり広義ではヒスイノの仲間だ。私は民の延長線上にある存在を、見殺しになど絶対にしない。

 

 私は立ち上がり、ヒスイノの面々に通達する。組織の上層には既に伝えておいたことであり、通信を繋げると歴戦の戦士たちは準備を開始する。

 

 

「深緑の騎士たちよ、我らが再び盤上に上がる時がきた!仙舟方壺に古き狼の群れが迫っている。我らは仲間の命をより掬い取らねばならない!古き歩離から少しでも豊穣の道を行く者を見つけ出すためにも――総員、ヒスイノの練兵場に集合せよ!」

 

 

 これだけ大規模な豊穣連軍を結成できるのも、今回の戦が最後だろうと私は推測している。古き歩離の軍は、確かに数を集めた。だがそれでも、私たちの兵力の方が数も質も上なのだ。仙舟から移住してきた三種族からも、当人やその子孫が騎士として加わっている。

 豊穣連合軍がかき集めてこの人数ならば、古き歩離はもうほぼ終わったも同然だ。

 つまり残った歩離の民が略奪以外の道を選べる、最後の機会である。決して逃してはならない。

 

 

 しばらく経ち、十二ある惑星それぞれに集まった深緑の騎士たちが、準備を行っている。時間の猶予はないが、持てる兵力全てを使うために、怠ってはならない確認作業だ。

 

 神秘の壁、並びに妖弓の矢を拘束するため派遣されていた方舟も帰還している。確保された巡狩の矢は加工され、活性化惑星を破壊するために鋭く磨かれている。一本一本が宇宙船サイズの矢だ。あらゆる生命を呑み込み一つにしてしまう活性化惑星であっても、この矢を喰らえば動きを止めることになるだろう。

 私は、普段乗船している巨大宇宙船から、より戦闘に向いた造りの船に乗り換える。装甲を展開すれば、巨大な人型機械が姿を現し、矢をつがえる。

 

 敵戦力の器獣を孤立させ、内部から狼を引っ張り出せるように、汎用装備も多く積み込ませる。各小隊から準備完了の報告を受け取り、私の乗る船もほどなくして点検が終わる。

 

 今回の戦いには、「抗う者」で同盟を結んでいる厄災前衛やカンパニーは参加できない。それぞれの派閥で決議を取るまでの時間が稼げなかったからだ。私はそれでいいと考えていた。巡狩と豊穣の戦いには、その輪に捕われた者のみがいればいい。

 

 ヒスイノに所属する人間として、白珠や智械黑塔は力になってくれるようだ。白珠は旧友から受け取った弓を持ち、智械黑塔は背部ユニットをメンテナンスしている。智械黑塔は言った。確実に勝つためには、矢を撃つ精度を上げる必要があると。

 頼もしい彼女たちの背中には、勝気に笑う鍛冶師と、長く同じ時を過ごしたオムニックの友の幻が見えた。

 

 

 出立前の最後の準備を行っていると、ヒスイノに移住した持明族の代表たちがやってくる。息を切らせた彼らは頭を下げて言う。

 

 

「私たちの故郷をどうか…!お願い申し上げます…!」

「戦場に出ていない民を、死なせはしない。吉報を待っていてくれ。」

 

 

 私はその場に居合わせた持明族の戦士たちにも目をやり、彼らに返す。巡狩を信じられず、豊穣の力を扱う地に身を置こうと、大切な同族であることに変わりはない。持明族の戦士たちも、惑星に残る仲間に対して声をかけ、必ず守り抜くことを伝えた。

 

 ようやく全ての戦艦が出立準備を追える。私は通信にて全艦隊に向かって宣言する。

 

 

「我らの守り、我らの矛となる騎士達に通達する。豊穣の内乱を終わらせ、星海に平穏を齎すために…同志たちよ!共に進まん!」

 

 

 無数の戦艦がエンジンを吹かし、惑星を飛び立つ。枝由来の跳躍を駆使し、ヒスイノから遠くに位置している方壺へと舵を切った。

 

 

―――――

 

 

 大規模な戦いの最中。仙舟「羅浮」神策府にて、卜官の女性が、目の前の男女に向かって「方壺」への支援について陳述を行っている。卜官とは、高度な演算によって未来を予測する仙舟の組織、太卜司に属する人間だ。太卜司の人員は占卜を通して、仙舟の動きを決定づける重要な役割を受け持っている。

 守勢に徹すれば、挽回の余地はあると、卜官の女性、符玄は結果を導き出した。しかし、歩離人率いる豊穣連合軍の攻勢は激しく、守りに徹することは出来ないと帝弓天将は判断する。

 

 方壺に近い位置にあった羅浮は援軍を出し、曜青の軍が来るまで耐えることになった。

 その後は占卜の結果通りであった。二個の活性化惑星を持ち出した豊穣連合軍に、方壺への援軍に向かった雲騎軍は大敗を期す。

 どうすればこの状況を打破できるか。これを見た符玄は考え抜き、新たな策を導き出す。帝弓の垂迹を顕現させるのだ。

 

 

「景元将軍に鏡流将軍。お聞きください。仙舟『玉殿』にある瞰雲鏡を方壺に運び、光矢が最後に放たれた場所に向けて、助けを求めるのです。まだ敵は方壺に上陸しておりません。活性化惑星が墜とされる前に動けば、勝機はあります。」

「鏡流将軍、あなたでも二つを相手取るのは厳しいでしょうか。」

「…景元、あのときは雲騎の精鋭総員でかかってやっとだった。星の一つは、我と精鋭部隊が押さえてみせよう。だがもう一つは、今の兵力で留めることは出来ん。」

 

 

 景元は憔悴しきった表情で鏡流に問い、その後険しい表情を浮かべる。いくら一騎当千の力を持っていようと、人の身には限界がある。景元は決断を迫られていた。

 

 そして景元は何かに気づいたように目を少し見開いた後、穏やかな調子で符玄に言う。符玄の策を採用し、決行することを。符玄は内心策を受け入れられたことに驚きながらも、真剣な表情で前に一歩出る。

 

 

「本件の提案者として責任を持ちます。私自ら戦場に赴き、策を実行しましょう。」

「符玄殿、建言に感謝する。しかし君には、瞰雲鏡を操作する権限がない。私と鏡流将軍が全責任を負う。…そうだ。一つ、君に問いかけておきたいことがある。」

「何でしょうか、将軍。」

 

 

 景元は鏡流に目をやる。鏡流は剣の手入れをしながら深く頷いた。

 そして符玄は景元から、わざとらしく今思いついたような調子で問いかけられる。

 

 

「星暦7954年…太卜司が巡狩の降臨を観測し、雲騎艦隊の春霆衛を送ったことを君は覚えているだろうか。そしてそのときの結果も。」

「…何故、今それを?」

 

 

 符玄は訝し気に聞き返し、景元は微笑みながら立ち上がる。符玄はそのとき玉殿にいた。符玄は頭脳明晰であり、観測結果についても頭の中を整理すれば、すぐに思い出せる。帝弓の矢が忌み物を一掃したという不変の結果である。彼女はそれを口に出そうとするが、景元は身を翻し符玄の言葉を間接的に遮った。視線を背後に向けて、彼は言う。

 

 

「その結果こそ、私が君の策をのんだ理由だ。符玄殿、心配しなくていい。帝弓の矢は必ず、忌み物に注がれる。」

 

 

 そして景元は表情を鋭く、鏡流と共にその場を去った。符玄の目には、先ほどまでの憔悴が嘘かのように、景元の背中が大きく見える。符玄は困惑しながらも、策の成功を祈りながら彼らを見送った。

 

 

―――――

 

 

 現在、仙舟「方壺」の状況は芳しくない。周囲には、大量の器獣が押し寄せていた。雲騎軍は星海で軍勢を押しとどめているが、上陸を狙う飢えた狼たちの攻撃は緩まない。

 仙舟「玉殿」から瞰雲鏡が、敵に気づかれないよう運びこまれる。その後、曜青の月御将軍が、瞰雲鏡を守る任務にあたった。

 

 まだ歩離人の獣艦が上陸していないにも関わらず、戦場はひどく荒れている。

 次々に運び込まれてくる重傷の兵士たちに、曜青の医士、椒丘は、後方にて手足を絶えず動かし続けていた。

 

 

「施術を始めます!頂躓散の準備を!」

 

 

 一人また一人と応急措置を行い、命を掬い取る。以前無力感を味わっていた椒丘は、もう諦観の域からは抜け出していた。自分だけでは全てを助けることなどできない。だが、手が届く距離だけでも救ってみせると。

 駆け込むようにやってきた雲騎軍の兵士が、椒丘に言った。椒丘の手が止まりそうになるような衝撃的な事実。後方にいる彼は知りえないことだ。

 

 

「月御将軍が、瞰雲鏡を守る任を受け持った…!それに、もう限界が近い!歩離人の獣艦がすぐそこまで来ている…!」

「そんな…。…いや、僕たちにできることをするだけです。重傷の兵士をここに!」

 

 

 椒丘は、将軍との今生の別れを幻視しふらつきそうになるが、ぐっと足で踏ん張る。そしてその雲騎軍の兵士が担いできた人員を運ばせ、すぐさま施術に取り掛かる。

 椒丘の脳裏に浮かぶものがあった。歩離人の群れと共に戦ってきた白装束。彼らがこの場に来てくれれば。青丘軍の兵士も、うなされながらあの白を願う。

 

 

 

 また別の地点。瞰雲鏡の前で薙ぐ風を感じながら、狐族の女性月御将軍は、青丘軍の指揮を取る。獣艦に青丘軍の戦艦が激突し、艦隊に入り込んだ歩離人たちを切り刻んでいく。

 そして彼女の元で、青丘軍にて急激に成長している飛霄が先陣を切っている。武器は壊れ、拳と敵の骨を使ってまで戦場を荒らし、小さな勝利を得ている。

 

 月御将軍は、上空を見た。器獣に乗って方壺を守る、歩離人の群れがそこにはあった。

 

 腥風猟群としてかつて仙舟に仇なしたが、権力争いに負け夫を失い、方壺に帰順した小さな群れだ。群れを率いる歩離人の女性、月里火は、方壺に所属するため言葉を尽くそうとしたが、監視はあれどあまりにも簡単に迎え入れられたという。それはヒスイノの前例があり、持明族の未来を照らした騎士たちが居たからだと。

 重傷を負っていた月里火の子をすぐさま治療した方壺の持明族たちに、彼女は群れ一同、最期まで命を尽くすことを約束した。

 

 紅く脈動する二つの惑星が、今か今かと墜ちるのを待っている。月御将軍は抗戦し続けるも、狼たちの上陸を避けることができない。方壺に血の雨が降るか、それとも帝弓の矢が万物を消滅させるか。彼女はその二択に苦悩する暇もなく、体を動かし続ける。

 

 

 続く戦の地獄。それを打破するための転機。かつて陥落地で苦しんでいた狐族、そして持明族たちはそれを待ち望む。

 

 

 帝弓の矢が万物を包み込もうと光り輝いた。その瞬間、歩離人と斜線上にいた雲騎軍の兵士たちは等しく、死の恐怖を味わった。歩離人は巡狩の星神の圧倒的な力を、兵士たちは忌み物だけでなく何故自分たちも呑み込むのかという絶望を。

 だが、一方の軍勢においてそれは安堵と涙に変わった。巡狩の矢じりは、人の力によって掌握される。

 

 

 

 突然の出来事だった。獣艦でも仙舟の戦艦でもない、深い緑色の船が次々に空を覆い尽くしていく。両者に向かって白いローブを纏った集団が跳躍し、飛翔し、戦いへと介入する。

 大きな吠え声と共に、拡声器から雄の声が戦場に響き渡った。その声は言った。

 

 

「我ら、深緑の騎士は宣言する!我らは巡狩と豊穣の戦争に再び介入し――その大規模な戦いに終止符を打つ!星神はただ黙り、我らの戦いを見ているのみ…願おうと死を与えるならば、人の手で内乱を止めてみせよう!」

 

 

 緑の戦艦から姿を現した巨体は、腕を振り上げ虚空に巨大な壁を作り出す。両者軍勢を隔てる壁からは草花が咲き、歩離人と雲騎の兵士の傷が癒えていく。これこそ、豊穣の力。そして生命を護る存護の力だ。

 体が癒えても歩離人は其の力へ本能的に怯え、反対に活力を取り戻した雲騎の兵士たちは、かけ声のまま戦艦を突き動かす。

 一転攻勢。三つの船からなる雲騎軍の艦隊は、昇る二つの活性化惑星に立ち向かう。

 

 

―――――

 

 

 私は宇宙船に取り付けられた拘束装置と汎用装備の併せ技で器獣を引き寄せ、深緑の騎士たちと中に乗り込む。智械黑塔は宇宙船から、加工された巡狩の矢を放ち続けてもらっている。

 

 乗り込んだ器獣。そこには私が考え得る、もっとも凄惨な地獄が広がっていた。

 

 

「コロス、コロス…!」

「そうだ!獲物を喰らい、死ぬまで走り抜く。それが狼のあるべき姿だ…!」

 

 

 遺伝子祈祷師であろう一人の歩離の民は感極まったように叫び、その周りには知性の欠片も存在しない狼たちがいた。焦点はあわず、ただ肉を引きちぎり、殺意だけを募らせている。

 騎士の狼が唸りながら、その惨状に向かって憤る。

 

 

「貴様ら…同族を何だと思っている!」

「ふん、牙の削がれた裏切り者どもに言えたことか。我に続け、狼たちよ!存分に殺し尽くせ!」

 

 

 遺伝子祈祷師の狼は、ぺらぺらと喋りながら群れを動かす。

 この凶暴性が増した歩離の民たちは、生まれたときから言葉を教えず、狩りとその報酬だけを与え続けた個体だと。個体数を減らした古い歩離たちは考えを先鋭化させ、偏らせ、強さを尊ぶことだけを望んだ。即戦力を作り続けるため、無理やり増やされた狼たちは次第に脳が委縮し、ただの獣になってしまった。

 

 

 私は目の前が真っ暗になる思いであった。古き歩離は滅びる時まで、その誇りを貫くものだと思っていた。だが結果は見ての通りだ。戦場で手を伸ばしても平穏を望まず、自ら飢え続けた先にあったのは、純粋な殺戮衝動だったのだ。

 

 私たちは、器獣の中を駆ける。生体兵器のごとき扱いでも狼は狼だ。知能を持って襲ってくる個体よりも、肉体が特化している故か動きは早い。戦う中で頭を搔きむしる個体もいた。生物科学技術によって脳や体をいじられているせいだ。

 手段を選ばない戦い方に、私は何故と心の中で問いかけ、そして力を解放する。

 

 

「癒し護る、堅牢なる壁よ!ここに顕現せよ…!」

 

 

 私は器獣ごと壁を形成し、知恵の与えられず暴れ回る狼を抱き留める。すると狼たちはぶるぶると震え始め、気を失った。

 遺伝子祈祷師の狼が、荒い息で其の力を問う。

 

 

「ウ…ウウウ…。」

「な、何故だ…何故裏切り者の犬が、豊穣の権能を振るえる!」

「なぜか。これは薬師だけが与えたものではない。欠け月が、人が、私に繋いでくれた力だ!知性ある生命に価値を与えない文明には未来がないことを、これから私がおしえてやろう…!」

 

 

 私は遺伝子祈祷師を睨みつけると、大盾を壁に叩きつけた。そして一部の深緑の騎士に狼を預け、別の器獣へと跳躍する。健やかな生を望まれなかった狼に、私たちが価値を与え命を掬い取るために。

 

 星海を騎士と雲騎軍の兵士たちが飛び回っている。活性化惑星が脈動しているのもよく見える。あれを破壊することと、哀れな狼を保護することにはあまり猶予がない。私は深緑の騎士たちに急ぐよう伝えた。

 

 

 方壺を包囲していた器獣の群れは、私たちと雲騎軍に包囲されることとなった。次々に倒されていく器獣に業を煮やしたのか、複数の遺伝子祈祷師が、活性化惑星を方壺へとじりじり移動させていく。

 私は智械黑塔のいる戦艦へと戻ると、総員に告げた。雲騎軍の艦隊を、活性化惑星からなるべく離れるように誘導するようにと。

 

 

「嵐の光矢は、別の艦が拘束してる。いつでも譲渡させられるよ。」

「ありがとう、智械黑塔。では行こう。星さえ穿つ一撃を、命を貪る活性化惑星に叩きつけるために。」

 

 

 智械黑塔は手動操作に切り替え、操縦室のロボットに信号を送った。私が狙うのは計都蜃楼の方だ。もう一つは雲騎軍の精鋭が押さえこんでいるようで、もうすぐ決着がつく。

 私は戦場を駆ける彗星を見た。白珠の腕はさび付いておらず、兵士たちの横から適確な射撃で「呑界羅睺」の破壊を援護している。やはり彼女は英雄だ。私は笑みをこぼすと、前だけを見た。

 

 高速機動により、計都蜃楼の前まで辿り着く。智械黑塔は、光矢の狙いを定めることに演算を集中させ、私はその補助を担う。智械黑塔の背部ユニットが、私の視界に予測演算が為された電子映像をかぶせる。

 

 この船上部に取り付けられた巨大ロボットは、巡狩の力を直接触れるために強度を増されている。そのため、自動操作では動かせないほど複雑な回路が使われており、普段は智械黑塔の操作によって動かされるのだ。私は智械黑塔の補助として、腕を動かす役割につく。

 

 

「目標物譲渡完了。私の見せている通りに動かして。」

「ああ。…光矢は放たれるものではない。人間の手で、突き立てるものだ…!」

 

 

 オムニックの演算を引き受けているがゆえに、私の頭が電気信号により焼かれるが、そんなものは些細な問題だ。豊穣の治癒力によって瞬時に治しながら、体を振るう。

 

 巨大ロボットが光矢を突き立て、さらに奥へと拳をめり込ませる。計都蜃楼が巡狩の力、混じりけのないエネルギーで撃ち抜かれ、白いヒビを入れていく。そして白い光は惑星全体に広がっていき、焼け落ちるかのようにその惑星は崩れていった。

 

 

 同じ頃、最強の剣豪とナナシビトの力によって、呑界羅睺は凍り、切り刻まれ、大嵐の矢によって完全に砕け散っていた。剣豪とナナシビトは、戦艦越しに微笑み合い、互いの健闘を称える。

 

 古い歩離の群れは完全に勝機を失い、命からがら逃げ延びるか、そのまま星海の藻屑となって消えていった。私は戦場にて救える命を逃さないため、動き回り続ける。

 

 戦が終わった頃、私たちは救えるだけの命を宇宙船に抱えていた。豊穣の民は、ここからどんどんと新しくなり、生まれ変わっていく。何れ、巡狩と豊穣の戦いが完全に終わる時まで、私は新しい豊穣を見守りたい。そう願った。

 

 

――――――

 

 

 仙舟「方壺」に朝日が昇る。血に染まらぬ、新しい日がやってくる。羅浮や曜青からやってきた援軍は、地面に体を預け大きく息をつく。こうして深く呼吸できることが、どれだけ素晴らしいことか。

 第三次豊穣戦争、方壺の戦いと後に呼ばれる戦以降。仙舟の内三艘は、ヒスイノを戦友として認め、これまで以上の歩み寄りを見せることになる。

 

 豊穣に所属していようと、彼らは帝弓の矢をつがえ、生命を呑み込む惑星を討った。仙舟内に巡狩へ疑念を持つ者が増えようと、仙舟の敵とはならない。何千年も変わらなかった仙舟同盟に、変化が訪れた。

 

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