月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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蟲を狩る鉄騎

 第三次豊穣戦争から一年。仙舟同盟は、方壺での戦いを星海全体に発表した。ヒスイノの協力、そして戦争の際使われた、彼らの力についても。

 これを受けて「抗う者」の共同出資者兼、三大派閥の一つであるスターピースカンパニーは、水面下で警戒を強めることになった。抗う者への出資は、カンパニー全体から見れば僅かであったが、ヒスイノの主が使令級の力を行使したとなれば話は別だ。

 抗う者という組織内で力の均衡を保つため、またはより優位であるために、使令の力を賜った一部署、戦略投資部がカンパニー側の代表に加わることとなった。

 

 一方ヒスイノ側は、巡狩と豊穣の対立の輪からほとんど抜け出し、勢力を更に拡大していた。略奪を行わない豊穣勢力と、仙舟同盟の内「羅浮」「曜青」「方壺」との貿易を推し進め、星海全体の脅威に目を向けている。

 ヒスイノの主の方針も、壊滅勢力やスウォーム、ある星神や使令への狂信により大規模な被害をもたらす集団などに、戦力のリソースを割くよう転換しているようだ。

 

 生命を無為に弄ぶ集団や、惑星規模の生命を奪う集団。それらに対し、ヒスイノは「抗う者」に所属する一派閥として対抗する。

 民は無辜であり、戦士は返り血で染まろうと罪を背負い己が同胞を護るために動く。同盟相手が蛮行に及べば、全てを恨まずその対象のみに牙を剥く。

 戦士は無垢でなくとも、後世の民が善良なまま星海を駆けられるように。深緑の旗は今も変わらず掲げられている。

 

 

―――――――

 

 

 丁度休暇中であった日。私は智械黑塔や白珠と共に、白露に構うためヒスイノ-Ⅳへとやってきていた。白露はもうすぐ医士としての修業期間を終えるようで、白珠と一緒に星海へ飛び立てると喜んでいる。角が生え、新しき持明族としては一人前だ。

 

 現在白露は私の目の前で、鳴火商会から輸入した生物の一種、夢獏を撫で繰り回している。夢獏は小さな瞳を垂らし、鼻提灯を付けてすやすやと眠っている。

 

 

「ようしよし…!旅に出るとき、こやつも連れていきたいところじゃのう…。」

「精神療法においてとても効果的な生物だと聞いているが、やはり医士の目から見ても効果はあるか?」

「もちろんじゃ!移住してきたばかりの人間の不調は、夢獏でほぼ解決できるしの。それに見てみい、こんなにも愛らしい生物がおるか…!?」

 

 

 私の顔の近くに夢獏が近づけられる。試しに指の腹で触ってみると、夢獏はむむと鳴き声を発して眠りから覚める。確かに映像で見た印象通りの生物だ。丸みを帯びた姿は、星核によって浸食された惑星における裂界でよく見かける「次元プーマン」にも似ている。

 私を少し視認した後また眠りにつく夢獏を横目に、卓を囲む三人と話をする。白露が旅をするならば、最初はどこがいいか。白珠は映像を見せながら快活な調子で、智械黑塔は研究内容を見ながら視線を合わせず言う。

 

 

「やっぱり、最初は仙舟ですよ!ようやく大手を振って中に入れますし、方壺の観光をしましょう!」

「…タイキヤンがいいんじゃない。お子ちゃまにはうってつけ。」

「母様の撮った映像は最高じゃ!…じゃがおぬし。わしはもう七十を超えておる!いつまでも子ども扱いするでない!」

「持明族だったら、まだお子ちゃまでしょ。それに小さいし。」

 

 

 白露はびしりと智械黑塔に向かって指を向け、智械黑塔は邪魔そうに彼女の小さな手をどける。初めて会った時に比べれば背は伸びたが、見た目は幼子のままだ。持明族には時間が必要なのだろう。

 長らく共に時間を過ごしてきた故か、智械黑塔は知人に対して、話題を合わせるようになった。私はそれを喜びながらも、白露の初来訪場所をどこにするか私なりに考えていく。

 

 

「随分考えているの…ぬしはどうじゃ?仙舟もタイキヤンも面白そうではあるが、狂风からの提案を聞いてから決めたい!」

「人工的な美であれば、熱帯夜の都やパンクロードは素晴らしい地だ。こことは真逆で、記憶にも深く刻まれるだろう。だが、白露が望む体験にしては危険すぎるな。」

「わしは異邦の惑星でまず、美味いものが食べたいのじゃ!」

「早く決めて。今日は新しい研究を始めるんだから。」

 

 

 私の両耳から二人の要望が入ってくる。白珠は横でただ笑って見ている。私はまず白露の要望を紐解き、最適な場所を頭の中で思い浮かべていく。

 

 思考に没頭していると、私のビーコンに連絡が入ってきた。意識を戻し確認したところ、「抗う者」の一派閥、厄災前衛からだった。メッセージにはこう書かれている。

 

 

『同盟の主、狂风様。失礼いたします。今回の連絡は、二十三年後に終焉の描写のあった惑星と国家についてになります。』

『私たち厄災前衛は再度避難勧告に向かおうとしたのですが、現状においても国家は危機に立たされていました。避難しようにも喰い殺されるため、抗戦を続けているようです。』

『グラモス共和国。この、スウォームの大群に呑まれている国に救援を願います。』

 

 

 続いて座標が送られ、遠方からの観測記録が添付される。なるほど、耐えていられるのが不思議なくらいの大群だ。全て倒すのには、私抜きの力であれば最低二年はかかるだろう。増殖するのだから尚のこと、時間は多く見積もらなくてはならない。

 私は了承の意を厄災前衛に送り、すくりと立ち上がる。

 

 

「ぬお!いきなり立つでない…!」

「すまない。だが急ぎの用が出来たのでな。また会う時までには決めておこう。」

「休みなのに動かなくてはならないなんて…狂风も大変ですね。」

「んうう、分かった…。」

 

 

 暗に休みを返上するほどの出来事だと伝えると、白露は夢獏を抱きしめて小さく言った。私は白露と白珠にまた会うことを告げ、智械黑塔と宇宙船へ戻る。ここからは仕事の時間だ。

 

 

 私は宇宙船の中にて、「抗う者」と深緑の騎士に通達をする。現在戦闘に身を置いていない部隊は、速やかに私が示した座標へと向かうこと。そこでは大規模な戦いが予想されるため、食料や弾薬の補給は過分なまでに行っておくことも、強く伝えた。

 私の横では変わらず、智械黑塔が座りながら研究を進めている。今彼女が行っているのは、ある惑星の生態調査において取得した生体サンプルの解析である。それは蟄虫の一種で、遺伝子変異を起こした特殊な個体群だ。

 サンゴ礁と共生するその蟄虫は、ピクリとも動かず水槽に収まっている。智械黑塔は研究室内のロボットを操作し、もしもが起こったとき用のレーザー砲を位置調整する。そして、遠隔にて蟄虫の内部構造を調べ始めた。

 

 私は作業が終わったタイミングを見計らい、智械黑塔に話しかける。

 

 

「智械黑塔。今回の遠征場所は、スウォームの大群が国を襲っている。悠長に観察は出来ないが、繁殖の研究材料にもなるかもしれない。」

「そう。変異種がいないかだけ確認する。戦況が悪かったら、矢の使用も視野に入れないとね。」

 

 

 智械黑塔は端末から一瞬だけ目を離し、私にそう答えると再び作業に戻った。智械黑塔は、博識学会に所属する人物が書いた『諸界異虫記』を参考に、数々の蟲の生体構造を確認してきた。彼女の高度なスキャン能力は、討伐対象である蟲の内部を、遠くからでも読み取ることが可能なのだ。

 豊穣と繁殖の力は被る部分が存在する。既知から未知を読み解く方式をとる智械黑塔にとって、特殊な種の解明は長い研究の序章に過ぎない。

 

 巨大宇宙船へ目標座標を登録し、自動操縦に切り替える。私の力が強くなろうと、スウォームから救助をするには手間がかかる。私は到着するまで、戦場でどう動くかを考え続けた。

 

 

――――――――

 

 終わらない戦い。銀色の甲冑に身を包んだ鉄騎たちは、腕甲で蟲を砕き、炎を以て燃やし尽くし、また戦場を駆ける。

 鉄騎に余計な事を考える暇はない。そうした瞬間に蟲の顎が装甲を噛み砕くか、蟲の爆発した余波で上半身が吹き飛ぶからだ。

 

 ただ彼らは女皇陛下に忠誠を誓い、広大な領土を持つ帝国の繁栄のため死力を尽くす。己が出した熱によって燃え尽きるまで。

 

 

 突然の出来事だった。

 鉄騎たちと蟲の大群の横から、見たことの無い装甲を付けた騎士がやってきたのだ。緑一色の甲冑の軍勢は、瞬く間に戦場での数を増やし、蟲を砕いていく。

 遠くから白い光線が射出された。巨大な蟲の一匹がそれで吹き飛び、増殖した蟲も散る。また、巨大な壁が蟲の大群に対して突き上げられ、外殻を破壊する。

 

 援軍なのか。鉄騎たちは戦場にて初めて迷いを見せた。自らを構成するものは仲間と蟲だけだったからだ。逡巡する鉄騎の横で、緑色の騎士は変わらず蟲へと武器を振るう。鉄騎たちは瞬時に判断し、緑色の騎士たちと肩を並べた。

 

 だが未だ蟲の大群は数を減らすことなく、帝国を襲おうと羽音をけたたましく鳴らしている。鉄騎は跳躍し、炎を舞わせた。

 

 

―――――――

 

 グラモス共和国の代表らしき人物からの通信が、こちら宛に届く。スウォームによって通信が阻害されていたようだ。私はそれに対して言葉を返した。

 

 

『こちらグラモス共和国、執政議会の者です!支援感謝いたします!』

「こちらは『抗う者』だ。これよりグラモス共和国の軍を援護する。戦況が安定するまでは、辛抱願いたい。」

『ザ――鉄騎を現在生産中で――。――体補充可能です。』

「何?戦場で戦っているのは、ロボットの類か?」

 

 

 通信がまた不安定になり、私が聞き返しても人の声がしなくなった。智械黑塔のスキャン越しに見えるグラモスの兵士は、自律して動いている。とても滑らかに動いており、遠隔操作ではここまでの精度は出せないだろう。

 智械黑塔は目を細めて言う。私の前に表示させていない、細かいスキャン結果についてだ。

 

 

「下にいる兵士たち、ロボットじゃないよ。装甲の下から有機生命体の反応が出てる。…あと、顔の作りがそっくり。」

「クローン技術が使われているのか。だから生産と…。」

 

 

 グラモス共和国の現状は一先ず置いておく。過去の調査においてこの国は、無為に命を散らすような政治を行っていない。今は国が滅亡しないように協力すべきだ。

 私は智械黑塔の補助を借りながら、兵士を巻き込まないように力を行使していく。突き上げる壁は後方に控える蟲を巻き込み、外殻を勢い良く砕く。

 

 智械黑塔は、宇宙船に取り付けた巨大ロボットを自身と同期させ、ロボットの左腕からレーザー砲を放っていく。殲滅戦において背部ユニットはもしものときの保険だ。近くにやってきた蟲を消滅させる役割を行っている。

 

 

「ばん、ばん。…多すぎてげんなりしちゃう。」

「付き合わせてしまってすまないな。」

「…いいよ。この星で得られるものもありそうだし。」

 

 

 智械黑塔は、目だけを増援に来たグラモスの兵士たちに向ける。彼女は兵士に興味を持ったようだ。クローン技術か、はたまたその在り方か。

 

 銀色の甲冑を身に纏った彼らは炎を纏い、蟲の群れに突貫していく。自身が死ぬことも厭わないような、捨て身かつ猛烈な勢い。

 国を守るにしても、命を投げ捨てるように戦うものだろうか。クローンであろうと、自身も国民の一人のはず。私は最もらしい推論を思いついた。彼らは戦場で死ぬために造られている。

 

 生産という単語、何体という数え方。グラモス共和国に生きる民は、スウォームの脅威から逃れた後どのように動くか。頭から締め出そうとしても、私は戦の後を考えざるを得なかった。

 

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