月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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迎える

 大守護者の補佐を始めてしばらく年月が経った。智械黑塔は、研究をしながらもヤリーロ-Ⅵの建材を使って新たな開発を片手間に行い、サマンサは首元で切り揃えた白銀の髪に、柔らかな目元という外見は変わらずとも、芯のある人間になった。

 サマンサの内面の成長は顕著であった。日々の学びと、学友との交流を経て自身の価値観を見つけ、今後の人生の仮組みまでしたという。サマンサは言った。白露や白珠のように星海を旅して、そこに生きる人々の一助になりたいと。

 結局四年制のベロブルグ大学には最後まで通いきることになり、省いた入学試験も入学して少し後に行った上で、正式に卒業証書を得た。

 

 私が補佐をしている間に大きな問題は起こらず、星海で起こされる絶滅大君由来の破壊についても、「抗う者」として原住民の避難を徹底させていた。終焉の描写で見た物事は必ず起こるが、その被害を軽減することできる。近年は厄災前衛の避難勧告が更に効率化され、前例を見聞きしている惑星の民は素直に応じることが多くなっている。

 積み重ねることで人は他者を信用できる。豊穣の力を受けた知的生命体が全て、星海の脅威ではないことを知らしめたように。

 

 またヤリーロ-Ⅵに居を構えていても、友人やヒスイノの民には定期的に顔を見せることはできていた。

 技術は絶えず進歩しているため、枝を使った跳躍技術が応用され、短距離のワープを繰り返す方式から、一気に目的地近くまで跳べる方式を採用した、最新型宇宙船が数を増やしているのだ。その発展技術が使われている宇宙船は少人数用のものだけであり、船内では仲間と言葉を交わすこともできない。だが近い内に、私が普段乗っているような巨大宇宙船にも搭載されるだろう。

 その暁には、智械黑塔の研究や、サマンサの望む星間旅行の効率が飛躍的に上昇するのは間違いない。

 

 

 年を追うごとに、カカリアは大守護者としての才覚を顕にしている。数年前に、そろそろ補佐をしなくとも問題ないだろうと考えたのだが、少し滞在期間を伸ばす必要が出てきた。カカリアは士官学校を卒業した後、大守護者としての責務の他にしなければならないことができたのだ。それは彼女自身の子を育てることだった。

 士官学校のときから知り合った男性と共になり、金髪の幼子が生まれた。名はカカリアが付け、キオラという。もう一つナターシャという名前も考えていたようだが、周りの意見を参考にして僅差でこちらにした。

 キオラの父親はヤリーロ-Ⅵの民が居住できる場所を増やすために奔走しており、ベロブルグにはほぼ戻ってこない。

 

 大守護者の責務と惑星内部の開拓はどちらが重要か、それは決めきれないことである。どちらにせよ、未開拓の地に幼い娘を連れていくことはできない。またカカリアも父親も身寄りがないため、頼る先は知人となる。そのため生まれたばかりのカカリアの娘は、クリフォト城の執務室や私の宇宙船で過ごしたり、シルバーメインで暇をしている教官役の老人たち、カカリアの親友などが構い、健やかに成長していった。

 

 

 

 時は巡り、カカリアの娘も学校に通えるようになった。それとほぼ同時期に、ヤリーロ-Ⅵにとって重要な行事が執り行われる。次期大守護者を選出するための集団試験だ。早いようだが、一つの代で頑張りすぎて引継ぎが上手く行かないのは避けたいと、建創者たちも判断したのだろう。

 

 大守護者の継承に、血筋は関係しない。カカリアもかつて先代に下層部から連れ出されたのだ。他都市の復旧が完了するまではベロブルグ内に収まっていたが、現在はヤリーロ-Ⅵに定住している全ての子どもから選出されることになる。

 かつての集団試験に立ち会ったことは何度かある。選定にやってきた子どもは皆、思考速度とその場での知識の吸収力、論理的な思考力を兼ね備えており、驚いたのを覚えている。

 

 子は自由に遊ぶのがいいと考えているが、このしきたり自体に問題はないとも考える。教育の有無によって隔たりがない選定方法は、ヤリーロ-Ⅵの発展を支えることに繋がるからだ。

 また大守護者になっても、家族がいれば定期的に帰ることはできる。そういった子にとっては、もう一人の親ができるようなものである。

 

 そうして私は選定試験を陰から視察し、ある少女が次期大守護者に選ばれるのを見届けた。大守護者補佐としての活動も、いよいよ大詰めだ。数日後私は最後の仕事として、カカリアと共にその少女と顔を合わせることになった。

 

 

 ベロブルグ下層部。地髄を掘る炭鉱夫の街。カカリアが幼少期生まれ育った場所だ。奇しくも選定された少女もそこにいる。

 上層部と下層部、名前は分けられているが貧富の差はほとんどない。代々の大守護者が地髄の重要性を理解し、ヤリーロ-Ⅵにおける炭鉱夫や探索者の地位を向上させたからだ。仕事場の近くで住まう炭鉱夫が多いが、日中はもらっている給金を上層部のレストランで使っている姿を日常的に見受けられる。

 私は薄茶色の少し汚したローブを身に纏い、黒いコートで身を包んだカカリアと並ぶ。キオラは、暇をしたサマンサがカカリアの家にて見てくれている。夜の帳が街を包んでいる間に、少女を迎えよう。

 

 

「おじいさま、選ばれた子がいる孤児院の経営者――名前を見て驚いたわ。ナターシャというんですって。」

「…髪色は違うのに、どこか似ているな。キオラが成長したら、彼女のようになるのではないか。」

 

 

 私はカカリアが示す電子書類を確認し、長い緑髪を一つ結びにした女性の顔を眺める。雰囲気は全く違うが、顔の作りが似ているのだ。

 経歴書から、彼女はベロブルグ医学院を出た後、義理の兄と共に医者としての活動を行っているようだ。孤児院の経営も兼ねて行うとは、やはり医者というのは利他の精神に溢れているのだなと、私は深く思う。

 

 

「孤児院で多くの子どもの面倒を見ているから、彼女の話は参考になるだろうな。もう少しベロブルグを見ていたい気持ちはあるが、君はもう立派になった。つきっきりになる必要もない。」

「ええ、寂しくはなるけれど…。…彼女も血のつながった親を知らないみたい。これだけキオラと似ていれば、遠縁の可能性だってあるわ。引き取る前に、少し話していきたいわね。」

 

 

 上層部から下層部へ、少し荒い造りの家々が並ぶ通りを歩く。酒で酔った炭鉱夫がうろついているが、それ以外に人気はない。民家の灯りはともっており、談笑する声が漏れる。ほどなくしたら下層部、リベットタウンの住民は眠りにつくだろう。

 

 石煉瓦でできた階段を上り、一際しっかりとした造りの建物の前までやってきた。この孤児院は最近できたらしく、下層部の支援を兼ねてカカリアが資金を提供したらしい。私より一歩前に出て、カカリアは孤児院の正面ドアに取り付けられたチャイムを鳴らす。

 階段をぱたぱたと降りる音がして、ドアが開く。先ほど写真で見た温和な様相の女性、ナターシャが微笑をたずさえて立っていた。

 

 

「大守護者様、外は寒かったでしょう。どうぞ中へお入りください。」

「敬語なんて抜きでいいわ。引き取った後もここに来るでしょうし、年も近いでしょう?カカリアって呼んでちょうだい。」

「あら…噂通り、とてもフランクなのね。なら…カカリア、私のこともナタって呼んでもいいわよ。」

 

 

 ナターシャは口元を押さえるとさらに雰囲気を崩し、カカリアに接した。カカリアも親近感を覚えている故か、表情がいつも以上に柔らかい。まるで初対面ではないみたいだ。

 私も麻のローブを脱ぎ、ナターシャに挨拶する。

 

 

「こんばんは、ナターシャさん。ヤリーロ-Ⅵと協力関係にある狂风です。私も同盟を結んだ者として、選定された少女に顔合わせに来ました。」

「狂风さん…長くヤリーロ-Ⅵを見守ってきた貴方も来てくださったなら、向かう道もきっと心細くないでしょう。実は、孤児院の子どもたちに秘密にしていたことがばれてしまって、今も皆起きているんです。絵本になった元の話を聞きたいと言って寝てくれなくて。申し訳ございませんが、貴重なお時間をいただいてもよろしいですか。」

「もちろんです。子守歌代わりにでもなりましょう。」

 

 

 ナターシャはふふと目を細めて笑うと、私たちを通した。ローブを畳み、私は身を縮ませて中に入る。入口は私にとって狭くとも、孤児院の中は天井も高く広かった。

 しばらくすると寝間着を着た幼子たちがやってきて、私の足元を囲んだ。その中には選定された少女もいた。

 勝気な様子の藍色の髪をした少女が、その少女の手をつないで言う。

 

 

「でか!遠くから見たのとはわけが違うわね、ブローニャ!」

「この方が大守護者さまと何百年も交流がある――大昔は紅色だったって本当なのでしょうか?」

「はじめまして。ナターシャさんから私の話を待っていたと聞いたが、何の話がいいだろうか。」

 

 

 カカリアも選定された少女、ブローニャを確認すると私に向かって軽く頷き、孤児院の奥へと入っていった。ナターシャもまた頭を下げると、私と子どもたちを寝室まで案内する。ヤリーロ-Ⅵの子どものみならず、ヒスイノの民の少年少女の交流も休暇中は深めていたので、子どもの集団の扱いは慣れているつもりだ。

 大広間に川の字になって寝るのが、リベットタウン孤児院の日常のようだ。私は布団の群れの中心に座り、子どもたちがリクエストした話をしていく。

 子どもは肌触りの良いものに触れたがるので、私の毛並みには小さな手たちがぺたぺたとついてくる。

 

 

 ベロブルグを守り抜いた女傑の話、星海を跋扈する壊滅勢力との話、義侠心に従い己の正義を為す戦士たちの話など。私が子どもたちに語り聞かせていると、一人また一人と眠りに落ちていく。もう夜も遅く、健康な子は寝る時間だ。

 小さな電球が一つだけ点灯した大広間を子どもに気をつけながら、そろりと四つ足付けて出て行く。すると一人の子ども、ブローニャもまた目を開けており、手を繋いでいた少女を起こさないように部屋を出た。

 

 私と小さな少女は、カカリアのところに行くまでに言葉を交わす。

 

 

「…改めて、自己紹介しよう。私は狂风。君が大守護者になるまで、なった後も話す事が多くなるだろう。よろしく頼む。」

「よろしくお願いいたします、狂风さま。」

「かしこまらなくていい。そうだ。君と一緒にいた少女、とても仲が良さそうだったな。」

「ゼーレという名前です。私は引っ込み思案なところがあるのですが、ゼーレはいつも引っ張ってくれて…。私、少し不安なんです。未来の大守護者なんて、本当にできるのでしょうか…。」

 

 

 選定試験では目を見張る頭脳を見せていたブローニャだが、普段は少し内気なようだ。そうでなくとも、仲の良い友人と離れ、別の環境で生活するのは不安が勝るだろう。私は指を出し、ブローニャに言う。

 

 

「大丈夫だ。カカリア君やその娘も君を温かく迎える。そして君の親友ゼーレにも、孤児院の皆にもいつでも会いに行ける。初対面だが私を頼ってくれてもいい。君の才能ならば、大守護者として大成できると約束しよう。」

「励ましてくださってありがとうございます。とても心強いです。…狂风さま、これまでの大守護者様はどのような方々だったのですか?」

 

 

 顔を上げたブローニャの顔には陰りは無かった。少しずつ目の奥が輝いていくのを見て、その勇ましさに私は小さく笑うと彼女の質問に答えていく。大守護者への憧れは、ブローニャの道を明るく照らすことだろう。

 

 それから私は、この短期間で馬が合った様子のカカリアとナターシャの元まで行き、カカリアとブローニャ二人と共に夜道を歩いた。

 カカリアの家にはキオラとサマンサが待っている。これからブローニャとキオラが仲良くやっていければと切に願うばかりである。幸いキオラも快活で男勝りな性格なので、ゼーレと共にブローニャを引っ張っていってくれるはずだ。

 

 私は今日を以て大守護者補佐を降り、朝日が昇る頃サマンサと宇宙船へ戻った。これからも彼女たちの成長を見守っていこう。次もその次も、継承が続きヤリーロ-Ⅵが繁栄し続けるように。

 




スターレイル本編におけるカカリアの実子…

本編で、カカリアの実子の名が明かされることはありませんでしたが、

崩壊シリーズにおける母子設定を混ぜ、崩壊3rdのナターシャ・キオラから、後ろの名前を取ってきました。描写していませんが、外見イメージと口調もワタリガラスの幼少期にしています。
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