月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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カンパニーの表裏

 ジェイドとの「抗う者」としての会談を終え、しばらく月日が経った。

 私は宇宙船に訪問してきた、厄災前衛兼メモキーパーの女性ヘッジングに話す。カンパニーが関わる終焉の選別を再び行いたい旨を。

 

 私に植え付けられた終焉の描写は、既に全てヘッジングやメモキーパーの協力者によって洗いだされた。そして何者が惑星や文明に滅びを齎すのかも、調べ上げられている。

 だが、私はもう一度彼女に願った。カンパニーの市場開拓部が近年更に過激な動きをしているため、対処を誤らないように情報を整理したいのだ。

 

 

「記憶の中を確認するのは、賛成ですわ。それに別動隊を動かすならば、慎重に事を進めなくてはなりませんものね。」

「その通りだ。協力者であるからこそ、正体に気づかれてはならない。」

 

 

 以前から「抗う者」としての活動では、ヒスイノのみが担当する惑星もあった。他の派閥が抗う者としての決議をする余裕がない場合や、カンパニーが滅びの要因になる場合だ。後者の場合、黒い装甲を纏った人間種が別動隊として動くことになる。

 カンパニーは勢力圏を拡大するために手段を選ばないことがある。専らその役割は市場開拓部が担当している。他の部署は、カンパニーが入り込めた後の惑星と、協力関係を押し進めるからだ。

 市場開拓部は強硬策を多用するため、あと一歩遅ければ原住民を皆殺しにされていたケースもある。そのためカンパニーは強力な味方であり、厄介な敵にもなり得るのだ。

 

 ヘッジングは私の願いに頷き、手を伸ばす。

 

 

「参りましょうか、クゥアンさん。直近何年の記憶を探りますの?」

「十年分にしよう。見落としが無いのは分かっているが、何せカンパニーの人間に市場開拓部について警告されたくらいだ。綿密に計画を立てなくては。」

「…分かりました。それでは目を閉じて――ゆっくりとわたくしの歩みについてきてくださいまし。」

 

 

 私は意識を暗闇に委ねた。そしてヘッジングの助けを借りて、思考の海を深く深く潜っていく。

 

 

 記憶の奥底へとたどり着いた。目の前のヘッジングはホログラムのように虚像がぶれ、単色で構成されている。優雅な笑みを浮かべた彼女に並び、暗闇を歩いていく。

 

 私たちが進む暗闇には、いくつもの情景が浮かび上がる。火の海に包まれる家屋、なすすべもなく命を散らす原住民。これは星海ではありふれていて、だからこそ人命を救うことを諦めてはならない。

 

 

『クゥアンさん、うなされることはありませんか?豊穣の血肉が完全にあなたと一体になってから、睡眠の質が悪い時期がございましたよね?』

『大丈夫だ。一時期と違って、見る夢全てが悪夢じゃない。随分前のことなのに…流石メモキーパーだな。』

『智械黑塔さんが心配してらっしゃいましたから、よく覚えているのですわ。』

 

 

 ルアン・メェイの研究により、紅から純白へと変わった後。私は十数年、悪夢だけしか見ない時期があった。おそらく豊穣の指向性を持った力が、急速に体内を活性化させていたからだろう。紅く染まった頃から長らく見ていなかった、くっきりとした悪夢が私を精神的に追い詰めた。

 記憶にある終焉の描写そのものや、私が守り切れなかった同胞の亡骸が転がる情景、そして相容れず倒すしかなかった狼たちの憎しみに満ちた虚像。

 

 私の手は血で染まっている。守る者が多くなればなるほど、古き歩離を無視することは出来なくなっていった。私やヒスイノの民が守りたいと思う存在を、古き狼たちは悦に浸りながら奪おうとするのだ。

 伝統を捨てて、飢えることも苦しむこともの無い暮らしを望んでくれれば。受け入れたはずの悔やむ気持ちを、深層心理は残し続けていたのだ。

 

 悪夢の中で私は、変わらない結論を思い続けた。戦で奪った命、掬い取れた命、どちらの重みも背負う。そうしていつの日か来るかもしれない最期まで歩み続けるという結論を。

 真っ新では、取りこぼす命が多すぎる。武器を握るということは、敵対者の命に干渉することなのだから。だが目的のためと、進んで人命を奪う外道に成り下がってはならない。この線引きは、長きにわたって作り上げた騎士団のルールに基づく。血に酔わず、治癒と存護を為せ。

 

 

 私はヘッジングと一つ一つ記憶を読み解いていく。次の十年は、描写の密度が濃い。終焉の星神が見てきた、星海中の滅亡。その一要素が関わってくるのだ。

 記憶の一番後ろには、とある星神の動きが描写されている。それに伴って多くの星神が動く様子も。

 神々の戦い。繁殖の星神を殞落させて以来、集まることの無かった星神たちが争う。

 

 

『カンパニーも市場を広げている場合ではありませんのに…。』

『存護を広げれば、危機も乗り越えられると考えているか――終焉の兆しを信じず、軽視しているかの二択だろうな。』

 

 

 直近に起こる一つを注視する。カンパニー社員が銃を放ち、血の海が広がる描写。原住民の服装を見るに、牧歌的な生き方をしている民族のようだ。カウボーイたちは先進的な軍事力に太刀打ちできず、残酷なまでに命を落としていく。

 カンパニーの非道は、多くある描写の隙間に散りばめられている。私は一つずつ抜き取り、ぼやけた時計の針を視認する。

 そして全ての描写の確認を終えると、ヘッジングに合図する。漏れはなく、全て予定通りに。彼女は了承し、指をぱちんと鳴らした。

 

 

 私は意識を浮上させると、早速深緑の騎士へ改めて通達を行った。加えて、巡海レンジャーの知人に対しても連絡を行う。巡海レンジャーは「抗う者」ではないため、来てくれれば心強いという程度だ。

 

 義侠心を持つレンジャーたちは、「抗う者」の裏側に対して協力すると言ってくれた。彼らは己が信じる正義を貫く。弱きを助け強きを挫くこともその一つであり、カンパニーが力を振りかざし蛮行を行うときは呼んでほしいと彼らは話した。

 

 また、今回向かってもらう惑星についても、秘密裏に調査をしてある。カンパニーに対し、資源分布の似た無人の惑星をタイミングよく提案する。そうすることで、市場開拓部は強硬策を中断する必要が出てくる。資源の不足が理由ならば、邪魔の入らない惑星に向かう方がいいだろう。

 これで一先ず対処は出来た。私はジェイドの言葉を待ちながらも、業務を行う。

 

 

――――――

 

 アルガン・アパシェという惑星は、資源が潤った地だ。星海から見ればまだまだ発展途上であろうが、原住民はその潤沢な資源を使って星を発展させてきた。彼らは移動手段として馬や鉄道に乗り、この惑星で最も先進的な武器である銃の腕を上げる。

 闘争はあれど、どれも惑星を滅ぼすほどではなく小規模に収まっている。当たり前のことだ。誰しも大切な人がいる。全てを滅ぼそうとする者はおらず、いたとしてもアルガン・アパシェの技術力では不可能である。

 

 だがそれを覆す存在が星外から現れる。黒服の人間たちは、自らをスターピースカンパニーの市場開拓部だと名乗った。

 

 

 惑星で生きる一人間、アルガン・アパシェの古い言葉で「装填された銃」を意味する名前の青年は、ある時黒服の人間たちが地元の住民と睨み合っているのを見た。黒服たちは青年のみならず、アルガン・アパシェの全住民に共感覚ビーコンという代物を与え、彼らとの言語による意思疎通を可能にさせた。

 

 天外の技術はすさまじく、青年の好奇心を揺さぶる出来事であったが、それはまた別の話だ。黒服を護衛する武装兵が前に出て、現地住民を威圧する。黒服たちはアルガン・アパシェの潤沢な資源を得ることを望み、立ち退きを命じたのだ。

 

 

 それから彼らは原住民を脅し、無理やりに資源を発掘し始めることになる。安金を後から渡し、同意しなかった原住民は邪魔であるから、「仕方なく」殲滅する。星海の発展に、この星の資源は必要不可欠だと。

 

 見せしめとばかりに仲間が撃たれ、原住民は怒りの炎に燃える。例え敵対していようが、それは内輪での話だった。いきなりやってきて土地を奪い、やがては惑星から追い出そうと画策するカンパニーから故郷を取り戻すのだ。

 

 一部始終を見届けた青年は、黒服たちへの戦いに仲間と共に挑むことにする。緊張状態が走り戦いが始まった後、天外からまたしても船がやってくる。黒く染め上げられた艦隊と、小さな船たち。

 船から降りてくる人間は、カンパニー社員の装いとはまた違い、黒に彩られた鎧に身を包んでいる。そして少数の奇抜な服装をした戦士たちは、各々別の武器を持ち、地にしっかりと足を踏みしめた。

 

 

 ガンマンの射撃は、カンパニーの最先端装備に敵わない。劣勢に立たされ、衣類をカンパニーの銃が貫いていく中、黒い鎧と奇抜な戦士たちは、原住民へと味方した。黒い鎧は積極的にガンマンの盾になって銃撃を弾き、一般市民への避難誘導を行う。また戦士たちは、カンパニーの武装解除を念入りに行う。

 

 戦場で駆ける青年は目を見張り、奇抜な戦士の内、一人の老戦士を目で追った。彼はアルガン・アパシェのガンマンのように、銃を使ってカンパニーを圧倒していたのだ。数々の戦場を渡り歩き勝利を収めてきた技術に、少年は魅了された。

 

 

「すげえよ爺さん!オレらが手も足も出なかった、あのクソ野郎どもに、圧倒しちまうなんて!」

「ここの原住民か。君も銃を扱うのか?」

「ああそうだ。ちっ…クズが、土地をめちゃくちゃにしやがって!」

 

 

 青年は白と黒の交じった髪をかき上げ、悪態を吐く。カンパニーの人間が少しずつ撤退していく中、青年は荒れた街を眺める。人命救助はほとんど間に合ったが、ガンマンは犠牲になった。彼を育てた老人は無事でも、共に育った仲間の一部は命を落としたのだ。

 青年の仲間の手当てを黒い鎧たちと行い、青年はカンパニーの人間によって同胞が散ったことに対し共に強い憤りを露にした。

 

 傍に付き添った老戦士は、青年の様子をじっと見てから口を開いた。それは同じく銃を扱う者として、彼の昔を想ったからか。粗暴な口調の中に、熱く芯の通った「正義」を見たからか。

 戦士は提案する。無辜の民を守るため、狙いを定め巡狩を遂行することを。

 

 

「私は『開拓』をこのような過激な行いとして知らしめたくはない。目的は違えど、君たちと私は巡狩を為せるだろう。」

「あん…?巡狩だって?」

「そうだ。復讐の化身、荒れ狂う嵐の運命。理不尽に屈することを良しとせず、怒りに身を投じる覚悟があるならば――私たちは君を迎えよう。」

 

 

 青年は仲間の背中を軽く叩いた後立ち上がり、カウボーイの帽子を深く被り言う。そして目線を上げたとき、青年の瞳には強い信念が浮かんでいた。

 

 

「スターピースカンパニー、市場開拓部――しっかり覚えたぜ。…爺さん、オレはアンタと行きたい。ヤツらとその元締めに一泡吹かせてやるよ!」

 

 

 老戦士は頷くと老い先短い体を伸ばし、青年を連れて宇宙船へと向かう。この若きガンマンは己の術を継承させるにふさわしい義侠かどうか、見極めようと考えを巡らせながら。

 

 

―――――

 

 その後アルガン・アパシェの原住民たちは、星外からの来客を警戒する日々を続けたが、友好的な使者が来訪したことにより、少しずつ交流を行うようになっていく。

 そして後に、老戦士ティエルナンに連れられた青年は、星海中に自ら付けた偽名を知らしめることになる。

 巡海レンジャーのブートヒル。アルガン・アパシェで「撃ち殺されたガンマン」を指す偽名の彼は、死んだ仲間の亡霊を背負い、巡狩を為す。

 

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