警備用ロボットの装甲は、並みの歩離の民相手であれば、爪を折れるほどだった。何故このような兵器を持ちながら、ほぼ抵抗せずに殲滅されたのか。これが多くあったならば、歩離の民も一筋縄ではいかず、もっと荒れ果てた星になっていたはずだ。
私は警備用ロボットの手足の隙間を狙い続けて転倒させ、動力部分を引き抜く作業を行った。三体の機械は動力を抜いた後も、しばらくこちらを攻撃しようと動いたが、やがて機能を停止した。
「プログラム、強制シャットダウン…」
「…これで無力化できたな。皆、もう大丈夫だ!」
私は隅に避難していた白狼や狐族、それにイゴサへと声をかける。狐族たちは頭を出し、工場の中を恐る恐る見渡すと、少し震えた足を使って私と合流した。
私は機能停止したロボットの表面を見る。何か模様のようなものが書かれており、戦闘中派手なそれがやけに目に入ってきたからだ。それを覗き込んでいる私に、白狼が言う。
「気になるんですか?これはカンパニーのマークですよ。スターピースカンパニーが作ったロボットは、色んな星が抱えていますから覚えています。でもこんな大きく描かれているのは、あたしも初めて見ました。」
「なるほど…私は、ロゴが付いた物は初めて見た。…カンパニー製だから、オムニックの技術力とは直接関係がないのか。」
イゴサに残存していたデータは、星が作られる以前の交流についての項目が、ひどい虫食い状態になっていた。単語すら読み取れないほどに。そのためカンパニーとの取引があったことが読み取れなかったが、カンパニーの影響力を考えれば不思議ではないことだ。私はイゴサに尋ねる。
「イゴサ、他に状態が良い施設があるか調べられるだろうか?ロボットの製造場所や、外部との繋がりを持てる施設を重点的に頼む。」
「承諾。広範囲スキャンを開始。」
私が頼み込むと、イゴサが星全域を調べ始めてくれる。イゴサがスキャンを終えるまでに、私は考えを巡らせた。カンパニーについてだ。
スターピースカンパニー。宇宙を支配できるほどに影響力を持った、経済圏を作っている超巨大企業だ。彼らは存護の星神、クリフォトを信仰しており、独自の評価制度を立ち上げているらしい。信用ポイントという、我々の物々交換をもっと精密にしたものを用い、商売の基盤を作っている。
歩離の民は、社会の構築に他の派閥を必要としない。略奪さえすれば物資が確保できるからだ。そのため歩離の民側が取引をするつもりはないし、外部の派閥も取引を行おうとしない。
歩離の民であることが商売の足枷になるため、対策を考えることは必要だ。だが商売を望んでいる歩離の仲間たちにとって、カンパニーと接点を持つことは、間違いなく大きな一歩になるだろう。
まだ動かせる施設によっては、接点を持てる機会がすぐそこになるかもしれない。私は期待を胸に、イゴサの回答が来るのを待つ。
「スキャン完了。スキャン結果、機械骨格製造所5棟、意思電子シグナル工場1棟、外部伝達送受信所4棟を確認。復旧確率は何れも50%以上。結論:指定された施設の復旧は可能。」
「ありがとう。では順に回っていこう。共感覚ビーコンの回収を行ってから。」
二階の製造ラインが音を立てて動いている。私は皆を連れて、緻密かつ小さいそれを回収することにした。
ロボットが動く様は狐族に強い恐怖を与えたが、それと同時に機械に対しての興味もより強くさせたようだ。製造ラインの稼働箇所を見て、多くが童のように楽しんでいる。彼らにとって恐怖は身近なものだ。歩離の民が出すフェロモン、狼毒で強制的に怯えることもある。いつ喰われるかを考え、恐れ続ける日々を送ってきただろう。自らの内から湧き上がる恐怖をある程度制御できるのだ。
稼働箇所に触って怪我や機器の故障が起こらないよう、私は柔らかく手で制止する。
見ていると、指定の量を作り終え製造ラインが止まる。檻から出した人間よりも多めに作り、五百ほどを機械から取り出した。共感覚ビーコンはカプセルに包まれた上で、小さい板状の容器で梱包されている。これなら移動中潰れることも無いだろう。
狐族が持っていた袋にこれを詰め込み、工場の外に出た。そして道を戻っていく。製造ラインが全て排出し終えるのを待っている間に、イゴサへスキャン結果を詳細に訊いたところ、徒歩で向かうには距離が開き過ぎていることを知った。金属片が飛び交うこの星では、狐族の体が傷つく可能性がある。
私たちは器獣の中へと入り込み、飛んで移動することにした。
器獣の内壁に袋や梱包が取り込まれるのはまずいと考えたので、数人の狐族に管理してもらうこととした。白狼と同じ部屋にいた混血の戦奴と一緒に、彼らを残すようにする。
イゴサの発した順番にそれぞれ状態を確認していく。三つの施設は、やはりこの星の核となる技術であり、それぞれが地区に分かれて固まっていた。
まず機械骨格製造所だ。これはロボットを製造するための工場である。オムニックとただのロボットを分けるのは、自由意思があるかどうかであり、ただ機械の体を作っただけでは意思が得られない。だからこそ、施設を分けているのだ。状態が良い5棟の内、3棟のみが動いた。
次に意思電子シグナル工場である。これがロボットとオムニックを分けるためのシグナルを打ち込む施設のようだ。唯一状態の良い棟以外も見て回ったが、爪痕や、歩離の民が使わない銃の痕が施設の壁と機械を破壊しつくしており、とても動かせる状態ではなかった。やはり、シグナルこそが生命体かどうかを分ける点であるため、念入りに壊されたのだろうか。辛うじて残った棟も、予備電源が少ないため、大気を晴らすまでは慎重に扱った方が良いと私は判断した。
最後は、外部伝達送受信所である。他の星系と公なコミュニケーションを取るための施設である。これに関しては4棟全てが何かしらの損傷を受けており、送れはするが外に届くかどうか怪しい状態だった。仲間たちが開拓しようとしている星が発展させられたら、これらの施設の復旧を行う人員を集めるのが良さそうだ。
収穫は十分すぎるほどにあった。機械骨格製造所にて加工された素材を使ったところ、ロボットが合計三十体も作ることができたのだ。彼らの姿は青緑色の体をした人型で、頭部が円柱であったり、人間を模した造形であったりした。明らかな戦闘用が、円柱の頭部にモノアイを青緑に光らせたロボットであった。人の顔を意識した造形のロボットは、他星とのコミュニケーションを図る役割を担っていたようだ。
そして意思電子シグナル工場では、シグナルの埋め込みに十体のみが成功した。戦闘タイプが一人に、対話タイプが九人だ。残りは私たちの指示を聞くだけの、意思の無いロボットである。
「イゴサ、オムニックになれるのは一握りということなのだろうか。施設の故障ということか?」
「回答:意思シグナルは、本来0.0001%以下の確率で流れたと、星■ス■■のデータベースには記載されている。結論:装置によって補強している。」
「ああ、ならば元々流れにくい個体もいるということか。」
オムニックたちは自身の誕生から、巨躯であり皆を率いている私を主だと結論付けたようだ。
そして、既にインプットされている星の事前知識とあまりにも違う環境に、彼らはオーバーヒートしかけていた。戦闘タイプのオムニックが、流暢な機械音声で言葉を発する。対話タイプのものは人が中に入っているのではないかと思えるほどであった。
「星ヒスイノ-Ⅰにおける環境を分析。データベースの更新が不可能。マスター、現状の把握を最優先事項に追加した。」
「マスターご説明願います。私の演算では、この星が滅亡したとしか結論付けられません。」
「…貴方たちをオムニックとして生み出したわけから、説明させてもらおう。」
私はイゴサから受け取った情報や、事前に分かっている歩離側からの情報から現状を説明した。そして私たちは、侵略や略奪をさせるために皆を作ったわけではないとも。ヒスイノ-Ⅰ、そしてヒスイノ-Ⅱ。無機生命体の星を基点とした呼称は、失われた星の名前そのものだった。壊れておらず穴抜けでない情報群から、この星が想像以上に発展していたことが読み取れた。
しかし、外部とはカンパニーとの細い繋がりがあるだけで、それも現在から90年ほど期間が空いている。元々、別の星から渡ってきた無機生命体が興した星であったため、元の星からの繋がりはほとんど持ってこられなかったらしい。そしてこの希少な技術力は、数多の星群と一緒くたにされていたようだ。
この星に住んだあとも交流があったうえで、カンパニーが重要視していないならば、寧ろ好都合であると私は考えた。
歩離の民であるという部分を隠すか、覆すことができれば、今まで歩離には無かった外部との商売が滞りなく進められるからだ。重要な星であったら、荒らされていたか、記録が多く残っていて疑いの念は晴れず商売すら出来ないかの状況だっただろう。
オムニックたちによって情報の補完ができたところで、私の目的を話す。
「オムニックの皆。作られたばかりだが、私の大仕事に付き合ってほしい。まずは二つの星の開拓だ。かつてここを戦場にした歩離とは違う、存続の道を進みたいのだ。恨みの類を、何とか呑み込んではくれないか。」
「マスター、私はここに生きる有機生命体しか認識していません。そしてデータベースにある歩離人のカテゴリーによれば、理知的な会話をしない種族とあります。この時点で、私はマスターを別の種族だと結論付けました。」
まっさらな記憶領域のオムニックたちは、口々に協力を申し出てくれる。その様子は血の通った有機生命体と何一つ変わらないように見えた。
狐族たちが機械の体の手触りを確かめながら、交流を深めている。白狼は戦闘タイプのロボットとオムニックに強い関心があるようで、好戦的な笑みを浮かべている。
オムニックは、共感覚ビーコンの取り付けや、体系的な教育プログラムを人間たちに行ってくれると言ってくれた。またイゴサの修理も行ってもらうことにした。機械いじりから、教育まで万能にこなせる対話型のオムニックは私たちの開拓を推し進めることになるだろう。
こうして私たちは、心強いロボットとオムニックを連れてヒスイノ-Ⅱへと戻った。大気の内から見える同族たちは、育てられていた器獣を強固な紐でつないでいる。運んできた植物の種子の類も置いているのが見えた。
ここに来てから四日五日ほど経って、仲間の準備はそろそろ終わりそうだ。私は、これから取る様々な対処を頭の中で思い浮かべながら、器獣を陸に降ろした。