宇宙ステーション「ヘルタ」内には、異様な雰囲気が漂っていた。長年の技術交流や研究資材提供などで、宇宙ステーションとは親交の深いヒスイノからの使者が、明らかに何かを警戒している装いであったからだ。
通常、研究者や技術者の護衛として来る深緑の騎士は多くても七人ほどである。それも星間を運航している際に戦闘が起こる可能性を加味した人数であり、最低限の人数で抑えられているのだ。
だが今回、彼らの訪問において武装した護衛はその倍以上、二十名の人員がやってきていた。ステーションの所長である少女、アスターと職員の幾人かが案内をしたが、その間もアスターは胸騒ぎを止められなかった。
ヒスイノから来た技術者のオムニックが丁寧に職員へ質問し、持ち込んできた技術開発について職員側が吟味するといういつも通りの光景。アスターは技術交流会に興味を持っているため、大きめの業務を片付けてから偶に聞きに行っていたが、傍で控える戦士たちが気にかかってならない。
また反対に、深緑の騎士側も緊張状態を保っていた。盟主狂风から依頼を受けて集められるとき、それは特段危険な任務となる。そのため、人員は長年の実績を誇る熟練の戦士たちである。だが今回の任務は一際不気味であった。
大隊長を通した任務内容を、一人の騎士が読み上げ眉をしかめる。
「宇宙ステーション「ヘルタ」のシステム時間で、21時40分21秒…その一時間前から全域の警戒を怠るな。分だけでなく、秒数まで書いてあることなんてあったか…?」
「盟主様が言うには、万が一が起こらないようにするためらしい。それもそれで怖いよな…敵が出てくるかも分からないなんて。」
狼と狐族の戦士が顔を見合わせ、疑念から唸る。今は丁度、30分前。この静寂は平穏無事を表しているのか、それとも嵐の前の静けさとなるのか。
それは後者となった。
宇宙ステーション「ヘルタ」の索敵レーダーに、突如多数の反応が示される。反物質レギオンの軍勢だ。何千ものヴォイドレンジャーは虚空から出現すると宇宙ステーションを包囲し、攻撃を開始した。
その時間と、伝えられていた時間は一致する。深緑の騎士達は驚きのまま、その多くが宇宙ステーション外部へと繰り出し、ヴォイドレンジャーたちを蹴散らしていく。少数は職員たちの動揺を落ち着けることや、ステーション内の巡回に任を当てた。
だがこの侵攻は、はぐれのものではなく企てられたものであり、亡霊たちの量は依然と多い。防衛戦は争いを普段しない職員たちにとっては長く、疲弊するほど続くことになった。
アスターは指揮系統として、職員たちに適確な指示を出しながら更なる応援を呼ぶ。一つは「抗う者」の増員、もう一つは天を駆ける銀河鉄道、星穹列車の増援を。
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実験生物の処理を早々に終え、残るは宇宙ステーション「ヘルタ」の厄介事のみとなった。宇宙船にて星海を渡航していると、宇宙ステーションに向かっていた深緑の騎士の小隊長から連絡が入ってくる。音声入力のため、誤字の目立つメッセージだ。そこには、時間通り反物質レギオンの侵攻が始まったという旨が記されていた。すぐさま行動を開始したため正確な秒数までは分からないが、間違いなく分数は同じだったと。
私はただ一言、増援を送るというメッセージを返すと、両手を組んだ。今から抗う者が動いても数日かかる。向かっている私たちが動くのが吉だろう。取り越し苦労であったらどんなに良かったか。
これは偶然ではない。エリオというテロリストのまとめ役が「壊滅」と手を組んでいたとして、正確かつ半端な時間を予定するか。それを教える必要もない。つまりエリオの脚本とやらは予言に近く、終焉由来の力である。
私は立ち上がると、近くに座る智械黑塔へ伝える。あの電子ラベル通りのことが起こったと。
「…本当みたいだね。着くまで研究は一旦止めるわ。どこを攻めているのか、レギオンに思い知らせてあげる。」
「宇宙船にいた方が武装ロボットを動かせるし、都合がいいだろう。私は宇宙ステーションに降りる。」
集まってきた三人にも、現在の状況を簡単に伝える。ついこの前までダウンしていた星は宇宙ステーション「ヘルタ」についての情報を知らないだろうが、そこが智械黑塔の故郷のようなものであり、知性のない化け物に襲われているということを説明したところ、勇ましい表情になる。
荒事のエピソード記憶は無くとも、体が覚えているということなのだろうか。
「任せて。腕っぷしは強いから!」
「拙もいけるぞ。武器を振った後はいつもよりもっと眠くなるから、終わったら寝かせて…。」
「それじゃあ、サユと星は狂风についていって。二人は、サマンサみたいに星海上で飛び回れないしね。」
「…ヴォイドレンジャーは人の名残はあれど人ではなく、生命でもない。故に戦いに加減はいらない。星、私についてきてくれ。君の護身用の武器は何がいいか、決めよう。」
「うん。取り回しの良いのが欲しい。」
どちらも戦う気があるようだ。知性ある者との血で血を洗う戦いは出来る限り遠ざけたいが、それ以外について私は成長の機会だと考えている。私の遠くに行かなければ、ヴォイドレンジャーの凶刃に倒れることもないだろう。そういった意味で今回の襲撃は、救援でありながら挑戦の場でもあるのだ。
サユには既に、自身で作り上げた機械仕掛けがある。サユの体躯ほどある、黒い特大剣だ。装甲を纏っていないサマンサでは持つのがやっとなほどの重量であった。頭脳だけでなく四肢の筋力も増強されている遺伝子改造人間だからこそ扱える代物だろう。
これは特製のクナイなのだとサユは力説していた。電気シグナルで繋がっており、投擲した後も戻ってくるらしい。
私は武器庫に行くと、カードキーにて棚に並べ隠していた武器の数々を表に出した。星はこういった仕掛けが好きなようで、女性の中でも少し低めの声を震わせていた。
「おおお…!これぞロマンだね。狂风はどれを使うの?」
「ただの収集品だ。私の体に合って、かつ壊れない武器はもうない。腕に取り付けるもの以外な。だから星の好きなものを手に取ってくれ。」
「それじゃあ…あのバットみたいなのを。変形する感じがいい!」
「分かった。…武装を研究開発しているチームからの品だな。振り上げるときに変形して、派手に炎が吹き出る。展開した時、先端を自分へ向けないようにだけ注意してくれ。」
「うん。これが私の相棒か…。」
すりすりと側面を撫でながら、星は小さく微笑む。このバットはシリーズ物であり、かつてヒスイノに降り立って初めて研究開発された「炎鎧」の系譜である。私がこの仕組みを使った炎鎧で、呼雷と共に鏡流を相手取ったことを思い出す。今では骨董品と呼べるほどに技術革新が為されているわけだが、近年このシンプルな機構が一部の歴史好きに、現代の技術を用いながらリブートされたというわけだ。
数ある武器からこれを手に取るというのも、縁である。私は喜びの念を湧き上がらせながらも、巡狩の光矢を使った腕甲を付ける。その後、嬉しそうな星を連れて共有スペースに戻った。着いたらすぐに戦いである。
枝由来の跳躍が終わり、宇宙ステーションの近辺に辿り着く。外では深緑の騎士の乗る戦闘艦たちが、ステーション側からの援護射撃を受けながらヴォイドレンジャーたちを各個撃破している。レギオンは目標地点に足を踏み入れるまでは上空に姿を現す。艦の操作に慣れている騎士を選ぶように言ったことが、吉と出たようだ。
とはいえ少なくない数が宇宙ステーション「ヘルタ」の中に侵入しているようだ。外は智械黑塔とサマンサ、それに深緑の騎士たちに任せるとして、私たち三人は中へ向かうことにした。
見ると、プー治郎までがついて来ようとしている。大きなプーマンはサユが押さえると、ぷうと鳴きとぼとぼと宇宙船内に戻った。
そして私たちの横を、金色の粒子を撒きながら列車が通った。星穹列車だ。また宇宙ステーションで会うことになるとは。
星穹列車とは初会合から数えるほどしか会っていないが、姫子とヴェルト、この二人の乗員について強さはよく理解している。彼らもいれば、安心して事に当たれるといってもいいだろう。私はサユと星に声をかけ、二人を両腕に抱き上げると宇宙船から飛び降りた。
私は宇宙ステーション「ヘルタ」内を見回しながら、深緑の騎士の一人を発見する。彼は胸の前で拳を置くと、主制御部分へ個人的な回線で連絡を行った。
「来てくださったのですか、盟主様!貴方が来てくだされば、レギオンは恐れをなして逃げていくでしょう!スタッフの方の避難は次々に完了しています。」
「ヴォイドレンジャーは随分入っているようだ。私たちも対応する。防衛課が設置されているが、その方々もか弱い。職員を見つけたら、戦わせるのではなく保護を最優先に。」
「は!」
私は二人を手招き、建物の上層、通路のあちこちを浮遊しているヴォイドレンジャー、バリオンの数々を指し示す。あのような狭い場所で戦えば、私の力だと壁を壊しすぎてしまう。ああいった細かい部分は、人間種の体躯である二人が頼りになる。
「いいか二人とも。あそこのヴォイドレンジャー、16体を手分けして倒してくれ。私はあそこに固まっているやつらを潰しておく。」
「承知…狂风様。星、行くぞ。」
「よし。…その恰好かわいいね。」
「ムジナはかわいいからな!」
サユは普段着ている緑色の和装から、彼女の好きなムジナを模したという、フードと飾り尻尾を付けた忍者姿になった。私の目の届く範囲、二人は走っていく。
―――――
サユはその小ささから想像のできないほどに高く跳躍した後回転し、突風を巻き起こす。自らが台風であるかのように。その勢いのまま、風を纏った黒い特大剣が投擲される。ヴォイドレンジャーの一体は、直撃したそれで大ダメージを受け宙へと吸い込まれていった。
「やるね。」
「一撃離脱こそ、拙の得意技だ。」
「私も…始めようか。」
ベクター星は、上着の下に見せている白いシャツをはためかせながら、炎鋼のバットを振り抜く。火花が飛び、展開されたバットの隙間からマグマのごとき灼熱が、ヴォイドレンジャーの鎧を焼き、砕いた。
サユがぐっと親指を立てると、星もまた同じくサインを返す。まだまだ敵は残っている。サユと星は身長に差が大きくありながらも背中を合わせ、お互いの得物を振るっていく。サユは小動物のごとく跳ね回りながら、特大剣を軽々と振り上げ、切る。星は持ち前の運動神経の良さで大胆に足を運び、ヴォイドレンジャーの懐、頭部を強打する。
敵が半分以下になった後、サユは星のバットと同じように機構を展開する。
それはサユの体が纏ったような荒風だ。左手を地に、右手で持った剣の先を向け、力強く突きを放つ。黒から白に染まっていた特大剣が力を解放するように、風の刃をヴォイドレンジャー三体に叩きつけ、倒しきる。
「星、風をやる。炎嵐を喚ぶぞ。忍法…風纏い!」
「オッケー、サユ。炎嵐よ、荒れ狂え!」
サユは印を結ぶと腕に突風を纏い、風の球を星のバットに投げる。炎鋼のバットから湧きたつように、炎を巻き上げた嵐の柱が具現化された。星はバットを振り上げると、両手で柄を持ちヴォイドレンジャーの群れを薙ぎ払った。一体また一体と炎を纏った嵐に喰われ、宙に吸い込まれていく。
そして辺りが幾ばくかの焦げ跡のみになった後、炎鋼のバットから風の球が離れ、サユの体に戻っていく。サユの瞳が一瞬光り、元の黄色になる。その様相は、歳陽が憑依した時と同じようであった。
星は腕を回した後、呟く。まだまだ元気な様子だ。
「だいぶ多かった…。まだいるんだよね?」
「そうだな。でもこの襲撃が本番じゃないぞ。ルアン・メェイさんの後始末が拙たちの任務だからな。」
「えっ…!?そうなの…?」
星は全く以てそれを知らず愕然としている。彼女は、これが終わればゆっくりできると思い込んでいた。
サユは小さく頷くと、狂风と合流するため星の手を引いて戻っていく。
―――――
私は拳を叩きつけて、ヴォイドレンジャーを四散させるとその欠片を握りつぶした。これが残す欠片の類を手綱に括り付けて、他猟群に強さの証明としようともしていたことを思い出す。これら雑兵は、ヒスイノの戦士にとってもはや脅威ではない。これらを纏め上げる使令こそが、恐ろしく強いのだ。
ヴォイドレンジャーが私の背後に出現し、刃を刺しこもうとしてきた。私は振り向き様に裏拳を叩きつけ、足甲を付けた脚で蹴りつける。こういった建造物内では、私の指向性を持たせた力の多くが使えないのが問題だ。これもまた力が使いこなせていない故なのだろうか。私は存護の指向性を持たせた力を両手に宿し、その場限りの「武器」を作り出す。琥珀の鉱石が粗く削られたような見た目。守護者の大槌を。
「はああ…」
低く息を吐き、背中に担げるほどの巨大な大槌でヴォイドレンジャーを叩き潰す。ヴォイドレンジャーたちは槌に潰されて地に伏せ、宇宙ステーションの壁にへばりつきながら虚空へと消える。
沢山いたやつらも、通路で見かける度倒していたら見当たらなくなった。逃げたのか、それとも量が減ったのか。見回るうちに後者であることはすぐ分かった。
星とサユが戻ってくる。指定した分より多めに倒したようだ。私は彼女たちの武勲を称えると、ホームの方へと向かう。ヴォイドレンジャーの索敵をしながらそこへたどり着くと、先客がいたようだ。
赤髪の女性、星穹列車のナビゲーターである姫子と、もう三人。私は彼らに見覚えが無かった。
声をかけるため近づくと、星があっと声を上げる。星の視線は、灰色の、彼女と同じような服装をした青年に注がれていた。
「あの人、私の生き別れの弟じゃない!?記憶喪失からの定番の流れ…ここで回収されるんだね…。」
「…なるほど。彼があの…。星、彼はおそらく――ん?」
ホームが陰る。上を見ると、反物質レギオンが鍛え上げた終末獣が複数飛んでいた。細かな造形は違くとも、全て翼が生えているタイプのようだ。明らかに過剰な戦力。宇宙ステーション「ヘルタ」、並びに天才の住処かつ故郷の惑星ブルーを本気で攻め落とそうとしているようだ。深緑の騎士や智械黑塔の集中砲火で二匹は相手できているが、もう二匹はこちらに突っ込んでくる。
私は早めに歩くと、目を見張っている姫子に声をかける。
「星穹列車のナビゲーター、姫子さん。また会えるとはな。加勢しよう。あっちの一匹は私たちが。」
「戦艦が飛んでいたからもしやと思っていたけど――ごきげんよう、狂风さん。積もる開拓の話は、後でしましょう。」
「うわあっ!あっちもでかいけど、こっちもでかすぎ!姫子、何でそんな平然と話せるの!?」
「…抗う者の盟主の一人が、直々に来るとは。」
私は元気よく騒ぐ桃白髪の少女と、槍を持った黒髪の青年を見た。はっとする。黒髪の青年の顔は、雲上の五騎士の一人、丹楓そのものだ。転生してから変わらず龍尊として、仙舟「羅浮」にいたのではないのか。
疑問が新たに浮かぶが、それもまた後回しだ。よく似た服装の灰髪の青年へ指を交互に向けている星と、丹楓の転生体にじっと目を向けているサユの背中を指で軽く押し、終末獣に視線をやらせる。
終末獣が、けたたましく叫び声を上げる。損壊を軽微に。私たちは三人それぞれの得物を振るい、終末獣へと走った。
サユ(4号、AK-A-4)…
知恵・風
モチーフは、崩壊シリーズと世界を共有している「原神」における早柚。
乱破(AK-A-3)はサイバーパンクな忍者であることから、忍者つながり。(本二次創作79話あとがきから)
文献のみで仙舟式の印を自分なりに再構成し、忍法と言い張っている。「魔法」を学び終えた後、その技も忍法と言うつもりである。
智械黑塔から受け取った、人工的に育成された歳陽を使役し、風のごとき膨大なエネルギーを纏う。歳陽を体に入れるため、更に眠気が来るのが早い。
普段は和服。戦闘時の服装は、原神での衣装を赤めにしたものをイメージ。
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通常攻撃[単体攻撃]…
指定した敵単体にサユの攻撃力のX%の風属性ダメージを与える。
(サユが、背丈ほどある特製クナイを投擲する。)
戦闘スキル[全体攻撃]…
敵全体にサユの攻撃力X%分の風属性ダメージを与える。このとき、裂創と風化を確定で付与する。
(全身に風を纏い、敵全体に向かって全身を回転させながら体当たりする。)
必殺技[全体攻撃]…
敵全体にサユの攻撃力X%分の風属性ダメージ+既に敵へ付与されている状態異常に合わせ、サユの攻撃力X%分の他属性ダメージを与える。(多く付与されていればいるほど+分は追加されていく。最大3つ)
(サユが印を結んだ後、腕から突風を巻き起こし、様々な色に変化する嵐を敵全体に解き放つ。)
天賦[強化]…
必殺技を放った後、「むじむじだるま」を召喚する。全体の速度+X%、全体をサユの最大HPY%+ZのHPを回復させる。
秘技[強化]…
秘技を使用した後、最大25秒間「風々輪」状態になる。「風々輪」状態の間は一定範囲内の敵を引き寄せられるほか、自身の移動速度+50%。移動を止めたらその場でアクションをし解除される。