ロボットとオムニックたちを歩離の仲間たちに紹介し、狐族がまとめていた人間たちに共感覚ビーコンと、教育プログラムを施す。
ビーコンは埋め込むタイプではなく、消化器官から含めば中枢神経まで辿り着く物であったため、手間はほぼ無かった。オムニックの手でビーコンを起動してもらい、唸り声や腕の動きで伝える原始的なコミュニケーションから、幼い者ほど早く言語に順応していった。
私は一旦彼らの一部に人間たちを任せ、歩離の仲間たちや狐族たちとの話し合いを始めた。今後行っていくことについてだ。
私を含め三十人の歩離の民についてだが、行いたいことはある程度まとまっている。大きく三つに分けられ、農地の開墾や武器研究などの「製造」と、外部との商売、宇宙や星神に関する探究になる。
詳しく、星神についての探究は、歩離の社会では唾棄すべきものだと位置づけられている。豊穣の民として星神を信仰することが望まれることで、偉大なる薬師を詮索するのは侮辱だと考えるからだ。またこの探究心は、「腥風猟群」が長けている占星術の系譜になる。占星術は、戦の風向きを星を用いて占うもので、歩離の民の戦いに大きな利がある。それもあり、戦いと関係がなく、侮辱的でもある探究は軽視されている。
私はこれらの三つが歩離の守りを固め、未来を作り出すものだと思っている。そして三つの有用性を猟群全体に示すことこそ、私が行わなければならないことだとも。
開墾については、特段問題はない。草原を切り拓き薬効のある植物を育てていくだけだ。「肉の蔓」のように、疑似的な鮮血の滴る植物の種子も、仲間たちは持ち込んでいる。強い塩味こそ美食とする歩離の民にとっては、満足できる食材になるだろう。
武器研究については、ヒスイノ-Ⅰの復旧を進められれば、歩離のバイオテクノロジーと合わせて、急速な技術の進歩が望めそうだ。ロボットの骨格を作る技術は、仲間が考える外骨格の技術に通ずるものがある。この武器研究を進めることが、私たちの群れの新しい力を誇示することになる。
そして商売は、育てた動植物や技術力といった、群れの力を周知させる役割を担う。まずは猟群に対して売り込みを始めることになるが、受け入れられるかは別の話だ。スターピースカンパニーに対する通信を送り続け、外部との商売を行うことが中心になるだろう。
星神の探究、これについて今後の展望を老狼が話す。豊穣の民である我らが探究者になったとき、まず最初に知りたいと願うのは、豊穣の星神、薬師について。次に薬師を目の敵にする妖弓、巡狩の星神、嵐についてだろう。彼は、薬師に強い興味を持っている。
「薬師様…其のお力はあまりに強大だが、霧に隠されたように御業は覆い隠されている。儂にはもう時間がない。其の御業の跡を辿りたいのだ。」
老狼は、探究と力を求める本能によってぎらついていた。群れから解き放たれ、自らを焼き溶かすほどの憧憬をようやく追えるのだと、彼は呟いた。彼や少数の狼は、まず探究した上での情報を後継に伝えるようだ。情報の管理は、オムニックたちが最適である。カンパニーや無機生命体が持つ、銀河における一般的な星神の知識と共に、彼らに記録係を務めてもらうことにした。
狐族はやはり、自由を渇望していた。痛めつけられることのない生活と、自分たちの居場所を守るための作業を行いたいと考えている。そのため、多くは産業の発展に尽力したいと言った。
そしてこれらに属さない、少数の狐族と狼たち。戦奴の狐族であったり、獲物を甚振るより自らの力を高めたい狼は、戦いを望んだ。これしか考えられないという消極的な理由を話す者も、瞳の奥は戦の火が燃えあがっている。
私の信じる強さとは守りである。精神面においても強さを見出している。
しかし皆を守るためには、肉体的な力や群れとしての軍事力が必要だ。気に入らないと同胞狩りに来た者や、他の敵対してくる勢力を屈服させる力を得るために、産業の発展以外の行動は不可欠である。
個としての力を示すには、鞭に付けた戦利品が最もな手段になる。オムニックの部品や人間達から得た歯など、協力関係にある別種族から物をもらったとしても、猟群は認めないだろう。
そこで私は考えた。うってつけの、破壊衝動に従う存在がいるではないかと。
反物質レギオン、数々の星をただ破壊していく集団。それと、ただ増殖して害を撒き散らす蟲である、スウォーム。この二つの存在に対して、歩離の民は戦いを仕掛けることに意味を為していない。戦ったところで、星の資源を得られないからだ。完膚無きまでに破壊しつくされた星は、武器牧場にできない。奴隷や餌となる人間も皆殺されるため、倒し終えたところで利が無いのだ。
鞭に括り付ける戦利品のためだけに、その集団に挑む。私は近くに残った一部の仲間たちに話した。
「遠征を定期的に行い、まず反物質レギオンを打ち倒す。まだ少数だ、無理がない程度に狩るとしよう。どうだ皆。」
「狂风様、あなたの理想にオレが力になれることと言ったら戦うこと。雑種は、戦うために生きるんです。…それにしたって、まさか、狼主様方と肩を並べて戦うときが来るとは。」
「わたしも問題ありません、狂风様。狐族を盾にするのは、女々しいと思っていたものです。ようやく、己の爪だけで戦える…!」
歩離の民の基本的な戦法、狐族を使い捨てたり戦獣を向かわせてから蹂躙する、集団と数を重視した戦い方とは大きく変わる。一人一人変わった者が集まった群れでは、それに苦言を唱える狼や狐はおらず、ただ戦いを渇望している。私は彼らを率いて遠征に向かうことを決めた。
白狼の方をちらりと見る。後ろ手を組んでいた彼女は私の視線に気づくと、軽く笑う。彼女も問題がなさそうだ。
私はオムニックや人間たちに今後行っていくことを話し、戦闘用のオムニック一人を集団に連れ出した。ロボットには産業に従事してもらい、彼は共に遠征へ来てもらうことにする。戦いの内で最適化し、思考回路を更新していけるオムニックであれば、この星ヒスイノを守る力になれると考えたからだ。無機生命体に対しデータのインプットが可能であるから、他のロボットが彼の戦闘の模倣を行うこともできる。
そして復旧が進み、生産ラインが十分に動かせるようになれば、守りは更に堅牢になる。
「戦闘に長けているならば、より動きを調べておくのが良いはずだ。反物質レギオンやスウォーム、そして我ら豊穣の民は、星にとってありふれた悲劇を作り出す。新しい歩離を目指すのに、出鼻を挫かれるわけにはいかないからな。」
「了解した。マスターに同行し、有効的なデータの蓄積を行う。」
こうして、私たちの群れは動き出した。餌とされる人間がいない、種族混合の群れである。私の目的は変わらず、歩離の新しい姿だ。狼や狐を多数として別種族とも交流を持つ、この理想的な状態を広げる。そのために基盤を固め、猟群に、果てには宇宙に、滅びを回避するための姿を認めさせるのだ。
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時が流れるのは早く、十年の月日が経った。呼雷の前で宣言したのが、最近のように感じる。
私は陽の光で目覚め、ヒスイノ-Ⅱの生まれ変わった地を眺めた。来たときは草原が広がっているだけだったが、今は土壌の茶色が覗き、そこから人工的な肉塊や、血の滴る植物、薬効成分のある植物などが生えており、よく育てられているのが見える。
気温の管理や肥沃さを向上させる、生物膜のドームが土壌を覆い赤く染めている。この生物膜のドームは、歩離が長命を授かった伝承の内にある「赤泉の水」から発展した技術だ。もはや、赤泉の水が流れた歩離と狐族の故郷は遠く、どこにあるかさえ分からないが、技術は絶えず前進している。
毛並みを整え、いくらか狼好みに改良された合成肉を食べ終えた。肩を鳴らし、居住用のテントから出る。
今日からまた、遠征を始めることになっている。戻ってきたら、私より若い狼が行う成人の儀についていくことになるだろう。私は、器獣の前で人員が集まるのを待った。
起きるのが早い狼と狐が順々に集まり、最後に、ストリボーグと名を持った戦闘用オムニックと、白狼がやってきた。ストリボーグ、この名はどこかの文化圏における、風にまつわる名であるそうだ。彼は共に戦いに出るうちに、私へ信頼の類を持ってくれたらしく、私と共通する部分のあるそれを名乗るようになった。
オムニックは規則正しいため、ここに来てから生活が段々と崩れてきた白狼を起こすように、習慣が形作られている。ストリボーグは俵担ぎにしていた白狼を降ろすと、私に言う。
「マスター、おはようございます。白狼の回収を完了いたしました。」
「いつもありがとう、ストリボーグ。…白狼師匠、そろそろしゃんとしてくれ。」
「ああ…?もう少し寝ないと、損ですよ…天気が良いですし。」
「皆、もう準備中だ。これから行くのは、師匠の意見を採用した地点だろ。言い出した師匠がこの体たらくでどうする。」
いつも瞼が閉じかけではあるが、半分夢の中である白狼は、ほぼ目が開いていない。私は彼女の体を揺すり、興そうとする。すると私の言葉に反応したのか、耳をピンと立たせ目を覚ました。
「そうですよ!すぐ準備します、少々お待ちを!」
「…私も準備を終えよう。ストリボーグ、イゴサから何か情報をもらっているか?武装についてだ。」
武装や補給を持ってきた仲間たちからそれらを受け取り、全身に着用する。イゴサは今、歩離や狐族に合わせた外骨格の製造を仕切っている者の一人だ。彼は元々、小さいコアに巨大な外骨格を纏ったオムニックとして製造される予定であった。それが襲撃によって、コア部分のみが作られたタイミングで稼働停止した。
この自らの境遇故に、外に纏う「鎧」に興味を示したそうだ。「外骨骼動力鎧」と私たちが命名したそれは、全身を覆う青緑の装甲だ。戦いの中で、自身の四肢が千切られるのを煩わしく感じていた狼たちにも好評で、遠征に行く者は欠かさず装着するようにしている。
前の遠征まで使っていた武装と見た目は変わっていないように見える。ストリボーグは改善箇所を説明してくれた。
「回答:イゴサからは鏡面盾を武装に追加、稼働箇所の改善。この二つがアップグレードされたと共有されています。」
「ありがとう。なるほど、これか…。」
「鏡面盾は非展開時、背後のダメージ軽減。展開時は、全方位へ人工血の散布を行う機能があります。」
「これは歩離用だな。使えそうな機能だ。」
この盾は、血の香りで戦いを鼓舞する役割を果たすようだ。月狂いで理性を失わないようにした私にとっては、あえてそれを破る戦法の際使うことになるだろう。私は軽いそれを背中に接続すると、顔を全て覆う兜を被った。
仲間たちは皆装着をし終えたようで、私の前に集まってくる。この十年で仲間も増えた。当時檻の中にいて成長した人間や、老狼が話を広めてくれたのか噂を聞きつけてやってきた歩離の民。偶然遭遇して戦い、群れの一部となった歩離と狐族たち。施設の稼働箇所が増え、オムニックとして自我を持った個体たち。
この遠征に向かう人員も増えている。未だ無名の群れであるが、それも一つきっかけさえあれば、爆発的に名を知り渡らせることができるだろう。
表情を感じさせずとも無機質な兜の奥から、私に戦いの熱を感じさせる。自らのための略奪でなく、個の力を高め、結果的に群れを守るための戦い。
私は腕を振り上げ、宣言した。
「これより、陥落地の一つに向かう!我らの協力者、ヒスイノのオムニックたちから情報があった。荒れ果てた地に、反物質レギオンが追い打ちをかけようとしているとのことだ。既に歩離の同族は抗戦している。生き残りの同族に示すのだ!我らの強大さ、守りから得た力を!」
皆は拳を振り上げ、己の信念を言葉に出す。私と共に来た者も、後から加わった者も大きくは同じだ。狼が自由に宙を駆けることができるように。
私たちはそれぞれ改良された器獣に乗り、星軌の間をくぐって、目標地点へと向かった。