月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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星飼いたちの営み

 造翼者の女性が木製の槍を素早く突き出し、星の足を狙う。動きを鈍化させるなら、動きの基点となる脚部にダメージを与えればいい。だがその正確な突きは、星が持つバットの一振りによって、容易く弾かれる。力が付与されているにも拘わらず槍は半分に折れ、穂先が地面を転がった。女性は目を見開き、バットを構える星の全身を見る。

 

 星は簡単に折れた槍、試練を受けている二人を順番に視界に入れてから、造翼者の女性に尋ねる。サユとサマンサに相対する僧は、攻防の中で槍を捨て、徒手空拳で闘っている。

 

 

「その臂力、ただの人間種とは違うようですね。」

「動き止まってるけど…私の勝ちってことでいいの?」

「いえ、驚いただけです。強き者には、相応の力を。今から全力でお相手しましょう。」

「なるほど。ここからが本番だね。」

 

 

 造翼者の女性は、祭服にぶら下げていた棒のようなものと、圧縮された鎧を取り出し、それぞれ展開する。淡い緑色の甲冑が全身を覆い、持っている棒も装飾の凝った槍へと変形する。星はその姿に見覚えがあった。宇宙ステーション「ヘルタ」で、狂风と話していた人の見た目にそっくりだ。

 星は挑戦的な笑みを浮かべると、部分的に炎鋼バットを展開し、走った。

 

 

 金属同士が幾度もぶつかり合う。造翼者の女性は自身の翼を使って空中からの突きも行うが、星にバットで力強く弾かれる。兜で隠された女性の額から、一筋の冷や汗が垂れた。

 彼女はヒスイノで生まれた年若き造翼者であり、短い期間ではあるが深緑の騎士として活動していたことのある元戦士だ。実戦から離れて久しいとはいえ、修練を重ね、戦士のときの運動性は維持できていると自負していた。

 

 それでも、目の前の少女に押されている。少女の表情は薄いが、とても全力を出しているようには見えない。それが、造翼者という種族が生まれ持つ高いプライドにひびを入れた。

 

 

「この強さ!ムキになってしまいそうだ…!」

「翼が便利すぎる…私もジャンプできたらな…。」

 

 

 星は上を眺めて、ぽつりと呟いた。跳躍力があっても、バットが届かない間合いである。星は迎撃の構えを取った。

 

 造翼者の女性は考える。一撃離脱を行っていけば勝機はあるにしても、これは試練だ。鎮圧のために手段を選ばない実戦とは違う。空中戦という選択肢は消され、地上戦のみになる。

 造翼者の女性が星と打ち合っていると、彼女の武器におけるリーチの有利が、運動能力の差で埋められていく。懐に入られそうになれば横や後ろに飛び、距離を維持しようとしても、星は槍を反らしながら向かってくる。状況の不利は変わらない。

 星の、鋭いかけ声と共に放たれる強打が、造翼者の女性の槍を空中に飛ばす。得物が手元から離れたことで、視線が一瞬星から外れる。星はその隙を逃さなかった。

 

 

「くらえ!」

「ぐ…お見事――」

 

 

 造翼者の女性の胴体に、星の放った一撃がクリーンヒットする。女性はバットに当たったボールのように勢いよく吹き飛び、門に叩きつけられた。

 土煙が晴れてからしばらくして、造翼者の女性は星の元に再び歩いてくる。武装を解除し、金髪が汗で濡れているのが確認できる。星は彼女の様子を見て、バットを山伏の装束に引っ掛けた。

 

 星はサユとサマンサの状況を再度見た。サマンサと戦っていた狐耳の男性は腹部を押さえながら、掌を前に出してギブアップを伝えている。またサユと手合わせしていた僧は、彼女と握手をしている。どちらも試練は終わったようだ。

 後ろに控える修験者たちから歓声が上がる。造翼者の女性は髪を整えると、にこやかに門の先を示した。

 

 

「あなた方の力は、他の修験者を奮い立たせることに繋がるでしょう。どうぞお入りください、お強いお方。」

「私のことは、銀河打者って覚えておいて。」

「ええ、銀河打者さん。しっかり記憶します。ようこそ、祈る者の街へ。」

 

 

 その後、星は祭服を着た人間たちや街の見どころなどについて、造翼者の女性に尋ねる。彼女は都度丁寧に返し、赤水の殉教者という派閥の概要や、門の内の産業について説明した。また最下層で提供されている料理・衣類については街の人たちが作っており、店舗運営については僧侶と半々で行っていることを女性は話す。

 来訪者用の品は少なそうだが、食事は期待できそうだと星は思った。

 

 それから星たちは合流し、門をくぐる。その際、認証機能で全身の特徴が登録される。これで彼女たちは、臨時の通行証なしに、自由に出入りできるようになった。

 

 中に入るとそこには、木造とレンガ造りの入り混じった建物群が並んでいた。畑や田んぼも民家の横に作られている。この街の様子だけ見ると、星間移動ができる文明レベルだとは思えないほど、のどかだ。

 

 門の少し先に、奢摩と毘梨が立っていた。彼らは、星たちの闘争で汚れた衣類に驚く。

 

 

「試練を受けたのか…。正面から入ってくるとは思わなかった。」

「僧たちと手合わせできる機会は貴重だ。それこそ、試練の時しか拳を振るわないだろうからな。…良い運動もできたし、これでお昼寝できれば完璧だ…。」

 

 

 サユは気分良さそうに、眠たげな瞳を揺らす。星はサユに続けるように、美味しい料理を食べた後の手合わせは楽しかったと話した。

 

 

「毘梨。あんたがおすすめしてくれた料理、おいしかったよ。」

「…はっはっは、まるでただのイベントみたいに言うじゃないか!食事処については、星さんの好みに合ったようで良かったよ。」

「あなた方が食事を摂っている間に、駄那師匠――この惑星を統括していらっしゃるお方に話を聞いてきた。街を見て回りたいでしょうが…拙僧と毘梨は、あなた方を一度寺院まで案内せねばなりません。」

「それは、拙たちに何か問題があったということか?」

 

 

 奢摩が言葉遣いをあらためて、星たちに話す。サユは両手で頬を包むと、目を開いて聞き返した。すると、誤解があるといって奢摩は両手を振り、言葉を続ける。

 

 

「サユさん、どうか気を悪くしないでくれ。私たちは、お客人を部屋まで案内するよう、申し付けられたのみ。盟主様と同じく、お連れのお三方も寺院で休まれていかれると…。」

「そういうことでしたか。サユに星。父さまからメッセージが来ていますから、確認してください。」

「いつの間に…。」

 

 

 二人はスマホを取り出し、メッセージグループを確認する。星が添付した写真に反応が来ており、その下に狂风から寺内部の写真と、寺院で泊まる旨が文字で送られてきていた。

 

 

『寺の中は、少し怖いものがある。見学するときは充分に気を付けて。』

 

 

 メッセージには、歳陽をデフォルメしたスタンプが続いていた。怖いものとは何か。星は好奇心でいっぱいになりながらも、スマホの電源を落とす。

 そして星は、僧侶たちの顔を順々に見ると頷き、街並みを見ながら寺院についていくことにした。

 

 

 星は街で暮らす人の中に、山伏姿の者がほとんどいないことに気がついた。

 そのことについて質問すると僧は、ここの人間は他のヒスイノから来た者も混じっていると答えた。そのため、修行を絶え間なく行うというよりは、牧歌的な生活を楽しむ人間が多いのだと。ここで生活していると、修験者の角が取れ、穏やかになるそうだ。

 

 また、少数の修験者は人に囲まれていることにも星は気づく。中には、山伏姿でも覇気がなかったり、病弱そうな人もいる。星たちは目にしてこなかった、肉体以外の秀でた才能を用い、「別の手段」にて試練を通ってきた者たちだ。

 囲んでいるのは主に、祭服の教徒たちである。そして人だかりの外から、だらしのない印象を受ける「破戒僧」がヤジを飛ばしている。

 

 

「試練を乗り越えた皆さん!私たちのクラブに入りませんか?私たちは美食を日々作り、心血を注いでヒスイノの発展を支えようとしています。料理が好きな修験者さんは是非、私たちのクラブまでお越しください!」

「わたしたちは、演奏隊です!入って下されば、下層のパークの音楽や星間で披露するヒスイノの音楽祭への参加、またはあの有名歌手、ロビンさんのバックで演奏する方々と共に切磋琢磨できたりも!音楽に秀でた修験者さん、そうでない方も大歓迎です!」

「勧誘が熱心すぎるぞー!もっと気持ちに寄り添えー!」

 

 

 騒ぎを見た後、奢摩が胸の前で手を組むと、星たちに謝った。

 

 

「見苦しいところを見せてしまい、申し訳ない。あれは恒例行事のようなもの。若く熱い考えを持つ者を、教徒が取り込もうとしているのだ。」

「何だか、サークルとか同好会が、新入生を取り合っているみたいだね…。私も見てきていい?」

 

 

 星は物珍し気に人だかりを観察した後、一歩踏み出す。だが、あれに吞まれれば戻ってこれなくなると、冗談半分でサマンサが言い、彼女の手を引いて止めることになった。

 

 さらに歩くと、いくつかある寺院の中でも一際大きい建物が見えた。華美な装飾はないが、荘厳さを感じさせる造りだ。この寺院こそが丹輪寺の本拠地であると僧侶は話し、入口にまで案内する。受付係は何人かおり、今回は狐族の女性が担当した。

 手続きが終わった後、星は受付の女性の顔をじっと見つめる。女性は小首を傾げた。

 

 

「お客人様、どうかされましたか?」

「気になったんだけど…あんたは、狐族?それとも狼?」

「ああ、見た目では分からないですよね。わたしは狐ですよ。ちなみにあそこにいるわたしの友達は狐で、あっちの友達は狼です。」

「…やっぱり、全員狐族に見える…。」

 

 

 親しげな様子で受付係の女性は、他の人間を手で示した。星は片目をより細めて、容姿を観察する。だがどれだけ目を凝らしても、星には全く区別がつかなかった。狐族の受付係は悪戯気な表情で、自身の鼻頭を指でつつき言う。

 

 

「どちらか見分けるのは難しいですが、匂いは全然違います。お客人様の鼻が良ければ、もしかしたら…。」

「なるほど。いつか試してみる。」

 

 

 小話が終わり、星はサユに手を引かれて本堂の中を歩く。木の匂いが星の鼻孔を通り抜け、彼女は気分良さそうに深呼吸をした。

 広く幅が取られた廊下を進み、途中のふすまを奢摩が開ける。その部屋は適度に大きく、三人分の布団が既に敷かれている。入ってくる温かな陽光と、柔らかそうな敷布団にサユの顔がほころんだ。

 

 

「あなた方のために開けた間だ。困ったことがあれば、私か奢摩、受付にでもビーコン経由で話してほしい。水浴びがしたいなら、廊下を進んだ奥にある。ではくつろいでいってくれ。」

 

 

 奢摩と毘梨は頭を下げると、襖をゆっくりと閉めた。二人が離れたのを確認すると、星たちは部屋の内部を確認する。まるで宿泊施設のように手厚く物が用意されており、僧服に似た着替えが畳まれているのも見つけた。僧侶であることを示す、金属で作られた戒環はないようだ。星は早速畳まれた赤色の衣類を手に取り、その露出の多さを再確認する。

 サユはあくびをして、襖に手をやる。

 

 

「…星、サマンサ。水浴びをしたら、拙はお昼寝する。街を回るのは二人だけで頼むぞ。」

「寝るのが早い!」

「睡眠環境は良くありませんでしたからね。戻ってきたときには、父さまと寺内で合流できるでしょう。星、外を見に行きましょうか。」

 

 

 襖を開き、歩幅小さく水浴び場へと向かうサユについていきながら、星は頷く。だがまずは体をしっかり流し、服を着替えてからだ。星たちは戸を開け、浴室へと足を踏み入れた。

 

 

 

 身を綺麗にし、少しサイズの違う僧服に身を包んだ星たちは、ところどころが騒がしい街へと繰り出した。まばらにある工芸品を展示した店、若者向けなのかぬいぐるみや下層のパークにいたキャラクターのグッズなどが売られた店、他にも俗っぽい店が並んでいる。サマンサの目の色が変わったため、グッズを販売している店へと二人で入り、ぬいぐるみを手に取ってみる。

 

 

「これ…幹が太い木みたいだけど…。」

「それはおそらく、倏忽を模したものですね。大戦については講談で話されたり、劇にされたり…最近はアニメにもなっているので。」

「そんなにメディア展開が豊富なんだ。」

 

 

 倏忽について、サマンサが大まかに説明する。重い話だと伝えた上でだ。

 

 第三次豊穣戦争は記憶に新しいが、第二次豊穣戦争の当事者もまだまだいる。仙舟同盟、ヒスイノは長命種で構成されているためだ。戦争は数多の悲劇を生んだが、人々を鼓舞した英雄も数多く存在する。

 現在は攻撃的な豊穣勢力が衰え、戦いは小規模に収まっているが、戦争で起こった出来事を風化させてはならないとして、様々な形で語り継いでいるのだ。

 

 サマンサは因みにと続ける。アニメになった英雄譚におけるグッズ展開は、ヒスイノの狐族や元仙舟人が多く入り込んでいると。星は、赤い樹のようなぬいぐるみを見て言う。

 

 

「経緯を聞くと、すごくブラックだね。触り心地はいいのに。」

「狐族の方はブラックジョークも好みますからね。仙舟曜青で、古い狼と狐族を題材としたゲームが流行っていますし。」

 

 

 店員は、話し込んでいるサマンサと星の姿を見て驚いていたが、戒環が無いことを確認し平静に戻っていた。彼女らは僧ではないと理解したためだろう。

 部屋を彩るのに、このぬいぐるみが良さそうではないかと二人は話し合い、それぞれ小さなぬいぐるみを持って会計に行く。手頃な値段であり、気づいたらシリーズを買い集め、部屋に増えていそうでこわいと星は思った。

 

 

 二人は街を巡る。星は時に、街のところどころに置かれているゴミ箱を漁ろうとしたが、その都度サマンサに止められた。

 

 

「星。借りた服が汚くなっちゃいますから、今日は我慢してくださいね。」

「…うん。」

 

 

 サマンサが少しずれた言葉で諭すと、毎回星は残念そうな顔で、ゴミ箱から離れる。

 彼女たちは、教徒が話す講談を聞いたりもした。それは星にとって丁度聞いておきたい話であった。サマンサに娯楽として聞いておくといいと言われながらも、耳をそばだてる。人間種らしき外見の男性は、仰々しい態度で語った。

 

 

「倏忽は狂信を薬師に捧げ、千年以上にも渡る大戦を引き起こした!多数の豊穣勢力の命、仙舟人の命を浪費させたやつは傲慢であったが、それは人々の抗いによって終結した。仙舟を纏め上げるかつての将軍が、雲上の五騎士が、そして大戦末期には我々の矛、深緑の騎士たちが――」

 

 

 星とサマンサは椅子に腰かけ、情熱的な語りと話に合わせて行われる人形劇を楽しむ。

 そして星は、話の中に狂风が出てきたことに対して印象深く感じていた。この話によれば700年は前の出来事であり、そんな昔から自分の面倒を見てくれている人が生きているのかと驚いたのだ。

 

 

「――これにて話はおしまい。戦いの過程で多くの戦士、民の想いが紡がれた。また大戦後も我々は、自らの意思で利他を、治癒の精神を示し続けた。他者を想う人の力こそ、平穏な世を作り上げる礎となる。教徒でない方にもこの考えが共通することを願っている。」

 

 

 教徒の男性は、最後に布教も含めて話を終え、頭を下げる。ぱちぱちと観客から拍手が鳴り、教徒の男性は場を去った。

 

 

「ぬいぐるみ、もう一個買っていこうかな…。」

 

 

 星はサマンサと顔を見合わせると、一言呟くようにそう言う。彼女は、人形劇の中で出てきた小道具に夢中になっていた。

 

 

 時間は瞬く間に過ぎていく。ビーコン経由で僧侶たちから、夕飯は用意するという旨のメッセージが届いたため、二人は腹をすかせた状態で寺院に戻る。彼女たちが持つ手提げの中には、ヒスイノ-Ⅴの特産品や菓子の類が詰まっていた。

 星は辺りを見回し、気がついたことを口にする。

 

 

「この街は暗くなるんだね。」

「ええ。最下層と山頂は、人工的な日照システムが補助でしか使われていないそうですね。時間に間に合うよう、お寺に戻りましょう。」

 

 

 サマンサが軽く星の背を押し、小走りで通りを進む。民家の明かりがぽつぽつと点き始め、大きな寺院からは淡い光が漏れ出ている。星たちが寺院の中に入ると、受付係の狐族の女性が笑顔で帰りを迎えた。

 

 サユが待っているはずの部屋の前まで、星たちは戻る。襖を開くと、布団の上で寝転がったサユが二人を見る。サユは立ち上がると、食事の場所について話す。

 

 

「僧侶たちが集まる食事処がある。狂风様も一緒だ。拙についてきてくれ。」

 

 

 サユは僧侶から説明を受けた通りに廊下を歩き、大広間へと二人を案内する。大広間の奥には白く、全身が柔らかい毛で覆われた巨大な狼が、座布団に身を縮めて座っていた。狂风もまた僧服に袖を通しており、星は新鮮な気持ちになる。

 彼は入ってきた三人を見ると、口の端を上げて手招く。

 

 

「三人とも、山を登ってくるとは最初思っていなかったよ。だいぶ疲れただろう。さあ、ご飯を食べてゆっくり休むといい。」

 

 

 狂风の前に置かれた膳は、彼と同じように大きく、星が寝転がってもまだ余るほどの幅である。星たちは盛られた食事の前に座ると、一拍置いてから食べ始めた。

 

 食事の中、狂风は星たちに道中のことを聞く。どんな人に出会ったか、この惑星に対する印象はどうであったか、創造物たちはこの惑星に移住するのは良い判断か。主に星が問いに答え、狂风はその度に満足そうな笑みを浮かべる。

 

 

「最初の印象と、今は全然違う。だからやっぱり、あの子たちにも惑星全体を見せてあげないと。」

「いい考えだ。だが、それは君の行動力によって半ば達成されているぞ?君たちについて行っていたロボットが遠隔で、創造物たちに映像を共有しているからな。」

 

 

 狂风が掌で示す丸いロボットが、ホログラムを表示させる。保護した全ての創造物の姿と、少し不満げな智械黑塔の姿が映し出されていた。智械黑塔はカメラへ指を立てて言う。

 

 

『狂风、貸しがまた一つ増えたよ。次はホログラム出さないから。』

「借りは返す。…どうだ、星。創造物たちの表情は。」

 

 

 星はホログラムを通して、創造物の顔を見ていく。彼らは皆、未知への期待を叫んでいた。ここでなら、ルアン・メェイの期待に応えられるかもしれない。強い自分になれるかもといった言葉をである。星は狂风を見ると、彼に返した。

 

 

「別の星系も見せてあげたい。まだ一つしか知らないからね。」

「そうか。なら次は、ヒスイノ-Ⅵだな。…タイミングが合って、君たちにうってつけの案内人が来てくれることになった。サマンサはよく知っている人だぞ。次の星系では、安心して街を回ってくれ。」

 

 

 そうして四人と宇宙船から遠隔で通信を繋げている智械黑塔たちは、食事を終えた後も話し、時間を過ごした。サマンサが仕立て屋の店主から聞いた「栞」についても、狂风はかつての出来事を思い出しながら話す。

 物が無くなり、時間が過ぎても思い出は残り続けている。それがサマンサの心を強く揺さぶった。

 

 

 夜遅くなり、狂风と星たちは別れてそれぞれの部屋に戻る。去り際に狂风はあることを、三人に伝えた。

 

 

「この機に、寺の最奥部に行ってみるといい。まだ駄那さんたちが祈りを捧げているだろうから、行くなら今だ。三人とも別々の意味で楽しめると思うぞ。」

「…もしかして、狂风がメッセージで送ってきた、怖いもの?」

「はは!どうだろうな。許可は取ってある。君たちの好奇心次第だ。」

 

 

 狂风は茶目っ気を出したような調子で答えると、廊下の真ん中を歩いていった。彼の体毛がモップのように壁を覆っていくのを、星たちは見送った。

 

 

 部屋に一度戻ると、分厚い羽織りを上に着て、置かれていた手持ち提灯を下げ、星たちは廊下を一歩一歩進んでいく。星は肝試し感覚で、最奥部にあるものに対し、興味をそそられていた。

 迷路のような渡り廊下を、弱い光源で地図を照らしながら歩く。サユはスマホで照らすよりも、雰囲気を重視したいと言った。

 歴史を好むサユは、丹輪寺のこれまでについても詳しく、データベースを読み漁っていた。だからこそ分かる。最奥部にあるものは、悟りを開いた僧侶が行きついた存在であることを。

 

 ついに最奥部まで来た三人はぐぐと、大きな戸を引く。隙間から平坦な調子で唱えられるお経が聞こえ、全貌が明らかになる。

 そこには数えきれないほどの人型、生きている「金身」が安置されていた。

 

 

 灯籠の光が揺らめく異様な光景。確かにこれは「怖いもの」だ。星は息を呑み、僧侶たちに目をやった。

 一番先頭にいる狐耳の女性がお経を唱えるのを一度止め、座布団から立ち上がった。そして隅を通って三人の前にやってくる。彼女は自身を駄那と呼んだ。

 

 

「…星さんに、サマンサさん、サユさん。盟主様から話は聞いておる。ここは涅槃殿。我らが先人が悟りを開き、時が来るまで眠る場所だ。読経を邪魔しなければ、好きなように見学していくと良い。」

 

 

 駄那は重々しい調子でそう告げると、座布団の位置に戻る。そして何事もなかったかのように他の僧に合わせて、お経を唱え始めた。星たちは暗い堂内で転ばないよう、慎重に歩を進め「金身」を見ていく。

 

 金身はどれも、安らかな表情で目を閉じて固まっている。サユが声を押さえながら高揚した口調で説明した。

 博識学会やヒスイノの研究施設の調査によれば金身は生きており、再び動き出す可能性が高いということ。中の状態は謎で包まれており、つまるところ「神秘」の造物に性質が似通っていることを。

 

 星はこの空間の雰囲気を楽しみながらサユの説明に耳を傾け、金身に「神秘」を感じ取っていった。

 

 

 

 そして星たちは涅槃殿から去り、部屋にて三人で川の字になって寝転がる。この二日はわくわくの連続だったと内心満足する。

 次の惑星はどんな場所で、どのような人と出会えるのだろうか。星は期待に胸を膨らませ、暗い部屋の中、眠りについた。

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