月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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龍の地への訪問

 ヒスイノ-Ⅵ。仙舟同盟より移住してきた持明族に加えて、世界レアヴァールを守護する、五本首の「至高なる巨龍」が眷属たち。インフィーノ人の故郷で一族を繁栄させている死龍、「啼風」の子孫たちが主に集まっている。そして三種族の他にも、少数規模の龍の末裔たちが共に住まう地である。

 元豊穣の民や人間種もいるが、全体の1%を切る程度になっている。

 

 龍の末裔と言えどそれぞれ生息地の環境は違うため、地区ごとに景色が様変わりする。例えば、「啼風」の子孫がいる地区であれば、絶えず火の雨が降るように環境作りがなされている。そして龍同士で交流ができるように、地区の中心には色々な規格の施設が建造されているのである。

 

 

 私は既に会談を終えたはずの白珠たちに、メッセージを送る。ヒスイノ-Ⅵに到着した旨をだ。また、私と智械黑塔が星系の責任者たちと話した後合流したら、白露に渡すものがあることも伝えておく。

 

 それは白露が100歳になったことを祝う誕生日プレゼントである。白珠たちと都合が合ったのは偶然に近いが、節目を祝いたい気持ちはあったため、近い内に会おうとは考えていたのだ。

 物は既に用意してある。白露が「巡る医士」として、惑星や人間種の治癒をもっと効率的かつ根治ができるように作った、瓢箪型の医療デバイスだ。これを作る際には、智械黑塔の思考リソースを普段より多く、開発に割いてもらった。

 治療の時間を短縮すれば、より多くの惑星を回ることができる。おそらく、白露は喜んでくれるだろう。

 

 

 数分後白珠と白露から了承の意が返ってきて、星たちと合流する場所を送ってくれた。そこは地区の中心にある、持明族たちが作った祭壇の前であった。

 

 

『星間旅行のひよこたちに、わしがお姉さんとしてたっぷり!旅の極意を叩きこんでおくのじゃ!狂风に智械黑塔、早く来るんじゃぞ!』

『二人とも、フィールドワーク頑張ってください!あたしも楽しみに待ってます!』

 

 

 文字だけでも元気のいい二人に、私は返信を行い、思わず少し笑みがこぼれる。

 私は添付された情報を、宇宙船の人員が入ったメッセージグループへと送信する。着陸するまでの間、皆はいつも通り自由に動いており、星は共有スペースの隅にあるソファに膝をつき、外の景色を眺めている。

 直近の彼女についてだが、波長が合うのか、ルアン・メェイの創造物のうち特定の一匹とよく共に行動しているのが見られる。星はソファ横に並んだその創造物に何やら語りかけているようだ。

 

 

「ゴミケーキ、今回のあんたの役目は重大だからね。仲間に見てきたものを伝える、カメラを食べない、街にあるゴミを私に献上する――」

「ニャ~」

「あ!このチビ…いつの間に私の集めたガラクタを!頑張って溜め込んでたのに!!」

 

 

 星の嘆き悲しむ声は、離れたところでくつろいでいる私たちの耳にも入ってくる。端末を見ていたサマンサの眉が動く。そしてサマンサはすくりと立ち上がると、星の方へと歩いていった。生ごみの類はためていないか、部屋の専用スペースからはみ出していないかといった問答が聞こえる。

 反対に、智械黑塔やサユの表情は平静だ。二人にじっと視線を向けていると、彼女たちは答えてくれた。

 

 

「廃材が欲しいっていうからあげたの。…渡した報酬と同じくらい喜んでたよ。」

「星は箱だけでなく、塵自体にも執着しているようです。収集しているものについては、拙もしっかり目を通しておきます。」

「ああ、頼んだ。腐る物は溜めさせないようにしなければだな。嗅覚がおかしくなってはいけない。」

 

 

 目を凝らすと、ゴミケーキと呼ばれた個体は首を傾げ、ネジやスクラップのようなものを口に入れている。誤飲ではない様子だ。あんな、食べ物ですらないものをエネルギー変換できるとは。私は創造物たちにまた一つ興味が湧いた。

 

 しばらくして宇宙船が着陸し、総員が外へと出た。ここは持明族の住んでいる区間であるため、潮の匂いが鼻腔をくすぐる。星はゴミケーキとすぐに和解したようで、両手でゴミケーキの外殻を持ち、話しかけながら街の景色を見せている。

 私は星とサマンサ、サユに向かって言葉をかける。

 

 

「私と智械黑塔はしばらく離れる。白さんたちと会えたら、一言メッセージをくれるとありがたい。では、三人とも楽しんで。」

 

 

 そして私はサングラスをかけて自信のある表情を浮かべた智械黑塔と並び、区画の奥部、都市の中心へと向かう。新しき持明族ともう一種族、「鬣の龍」の長へと会うために。

 

 

 中心都市は、仙舟の古めかしさと岩肌を合わせたような独自の建築物が立ち並ぶ。往来する住民は、耳が尖っている者ばかりで、細い枝のような角が生えた者もいる。そして龍の様相が濃い、爬虫類のような見た目をした種族も浮遊している。智械黑塔はサングラスをずらすと、彼らの身体だけでなく、手に持つ書物、店頭に並ぶ品の数々をスキャンしていく。データ取りは順調のようだ。

 

 私は住民から珍しそうに見上げられながらも、視線を前方に向けながら進む。その時、私の視界の隅に引っかかるものが映った。

 それは私が知っている顔だった。ヒスイノ-Ⅵの責任者の一人、伏羲という名を冠した幼い少女。だがよく見れば、視界に入った幼子の雰囲気は違う。目の色も違ければ、角も生えていない。私はもう一人の少女だと理解する。

 

 

「女カか?いや…だとしても彼女は、伏羲と共にいるはずだ。」

「家出でもしたんじゃない。あの子、角がない方なのに転生前とは性質が違うし。」

 

 

 智械黑塔は遠隔スキャンを行い、私に言ってくる。前方にいる少女は、やはり伏羲の片割れである女カで間違いないようだ。スキャンを終えた智械黑塔に、私は言葉を返す。

 

 

「よく知っているな。彼女は転生前、一介の医士であったのに。」

「運命に足を踏み入れた人は、データベースに人格再現データが保存してあるの。あなたも知っているでしょ。」

「…そうだな。オムニックは、思い出すという過程がないことを失念していた。」

 

 

 伏羲、女カ。この幼き少女たちは元々、蒼玄という持明族の女性が転生して生まれている。そして蒼玄は、巡る医士としての活動を行った後、医療の地ヒスイノ-Ⅳで教鞭を振るっていた女性であり、白露の師匠でもあった人だ。

 彼女は白露を教え終わって間もなく、脱鱗を行った。彼女は、六百年ほどの寿命を最期まで生き抜いたのだ。それほどまでに蒼玄として長くとして生き、医療の功績も多く残した故に、彼女の転生体は期待をかけられた。

 そして惑星の責任者候補として、角有り無しどちらもが選出され、多くの持明族の中から「新しき持明族」である伏羲が最終的に選ばれたのである。

 

 伏羲と女カの二人には、珍しい特徴がある。ヒスイノが製造する「分裂球体」によって新しき持明族は生まれるのだが、多くはオリジナルの卵から生まれる子どもの方が転生前の性格に似る。彼女たちはその逆で、角が生えた伏羲の方が性格と、それに伴う表情の作り方が似ているのだ。

 彼女らの誕生により、分裂球体は、持明族における「転生後も本質は同じ」という周知の事実を一部覆すことに繋がったのである。

 

 

 ヒスイノの統治者として、彼女らと話す機会もある。知った顔であるため、私は座っている女カに声をかけた。赤みがかった瞳を大きく開けて熱心に本を読んでいる。何やら派手な表紙の書物だ。若者向けのマンガのようである。女カは、私に気づくと大きな声を上げる。

 

 

「わ、びっくりしたぞよ!…狂风さんではないか。こんなところで会うなんて、奇遇ぞよ!」

「奇遇だな。今は自由時間か。」

「うむ。姉上はまだまだ会議が続くそうだが…我は勉学が一段落ついたから、抜け出してきたんだぞよ!狂风さん、姉上たちにはこれから会うのか?」

「ああ。加えて、鬣の龍たちの生活圏の話も聞くつもりだ。」

 

 

 女カは本を閉じると、特徴的な口調で私に言う。伏羲の特殊補佐官である彼女は、疲れている様子だった。選ばれたからと言ってまだ子どもである伏羲に政治は無理だ。そのため、脱鱗が100年以内に行われる経験が豊富な持明族が補佐としてついている。女カは転生体の片割れであり、能力も高いため、特殊補佐官という役割をこなしている。

 

 

「なら、ついでに姉上へ伝えておいてほしいぞよ。補佐官たちに休暇の申請が先ほど通ったことを。まだ年端も行かない我らに長時間労働は厳しいぞよ…。」

「…この星系は、革新を求めすぎて労働環境が崩れかかっているな。君たちの状況について、補佐官たちにしっかり話しておくよ。」

「狂风さん!ありがたいぞよ…!」

 

 

 女カは自由時間を娯楽のために使うようで、再びマンガを読み始めた。私は彼女にまた会おうと言って別れ、再び都市の中心へと足を向ける。私の中で、経済が動こうとしている時でも人を酷使しないようにと、話をつけることが新たに決まった。

 

 

―――――

 

 

 星たちは、持明族の住まう区画における街並みを見ながら、歩いている。サマンサが座標を見ながら案内し、二人はそれに続く形だ。持明族の街は仙舟同盟における居住区の見た目に近く、廃棄物が路上にない。

 星はゴミ漁りについては諦めて、両手に抱えたゴミケーキと共に、街の景観を楽しむことにした。道行く人が皆、耳が尖っていることに気づき、星はサユに聞く。持明族を星は既に知っているが、見た目が違うことに疑問を持ったのだ。

 

 

「列車に乗ってた丹恒は、耳尖ってなかったけど…。」

「彼については偽装だ。持明族だと一見分からないようにして、調査を進めるつもりなのだろうと拙は推測している。」

「なるほど。また今度、私の耳も尖らせられるか聞いてみよう…。」

 

 

 三人は他にも雑談しながら歩き、待ち合わせ場所へと辿り着く。白い壁で覆われた、巨大な祭壇の前だ。ここはランドマークとして活用されており、多くの民がごった返している。

 だが不自然なまでに静寂に包まれている場所があった。祭壇の奥部、小さな灯火がいくつも点いている一段高い場である。そこには、空色の髪の少女と、白髪をした狐族の女性の姿があった。

 

 サマンサが手を振って近づく。にこやかに狐族の女性が手を振り返すのを見て、星は、彼女たちが案内をしてくれる人たちなのだと理解した。

 幼い見た目の少女は目を瞑り、祭壇に向かって祈りを捧げていたが、ゆっくりと振り返る。狐族の女性の顔を幼くして髪の色を変え、角と龍の尻尾が生えた外見だ。少女、白露は両腕を腰の脇にやり、星とサユを交互に見た。

 

 小さな体躯に、岩のようなどっしりとした存在感。星はヒスイノ-Ⅴで三百歳以上の狐族に会っているため、この見た目でも長く生きているということが直感的に分かる。

 

 

「待っておったぞ、宇宙船の新入りたち!わしは白露。ぬしらにナナシビトの栄光を教えてやろう!」




「単語の説明」
分裂球体…
ヒスイノで造られた持明族の卵を分裂、複製させる装置。本二次創作における43話で初登場した。


「人物紹介」
蒼玄…
持明族の女性。本二次創作における61話で登場した。
崩壊3rdにおける「伏羲」の並行同位体としている。青色の瞳、前を切り揃えた黒髪。白露の医士としての師匠であった。転生しており、現在の時系列では故人。


伏羲…
ヒスイノ-Ⅵと、内部派閥をまとめる「新しき持明族」の少女。青色の瞳、前を切り揃えた黒髪。崩壊3rdにおける「伏羲」の並行同位体としている。


女カ…
姉、伏羲の補佐をしている持明族の少女。崩壊3rdにおける「女カ」の並行同位体としている。赤みがかった色の瞳、前を切り揃えた黒髪。

またスターレイル本編で登場する「霊砂」は、元の名前を丹朱というため、彼女は「女カ」の並行同位体である可能性が示唆されているが、本二次創作における女カとは別の人物。
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