月に狂えど血に酔わず、異端の狼   作:棘棘生命

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2月から1日2~3回投稿を行う予定です。
またこれにより、2月中に本二次創作の完結を目指します。よろしくお願いいたします。


朽ちず廻る

 巨大な龍の彫刻が巻きつくように取り付けられた建造物へと赴く。その龍の外見は、「龍」の末裔におけるどの種族とも違う造形であり、「不朽」の象徴であるとされる。私たちは白亜の館の前に立ち、案内役の持明族の後ろをついていった。

 

 館に入るとまず幅広の水盆があり、それが潮の香りを漂わせていた。大都市の中心にある建物であるために、各種族ごとに入口が用意されているのだ。ここは持明族用の入口であるため、彼らが心を落ち着かせられる部屋作りをしているのである。

 

 

 侵入者対策で入り組んでおり、鍵も方々にかけられている館内を練り歩き、ようやく議会のための部屋前に辿り着く。持明族の案内係は頭を下げると、静かに元来た道を戻っていった。私は戸を手で押し、この惑星の責任者と補佐官が既に席についているのを確認する。龍の姿をした種族は体を休める形で机の前に陣取り、私のことを見つめている。

 そして扇状に設けられた席において、伏羲と「鬣の龍」の長は中心にて並んで席についていた。

 

 私の席は、彼女らの向かい側に用意されている。遠隔で議会に参加する際、いつもモニターが置かれている場所だ。私は部屋にいる龍たちを一人ずつ見た後小さく頷き、椅子へと足を運ぶ。智械黑塔は同行者用の隣接した席に座ることになった。

 

 厳粛な空気が漂う中、伏羲が隣の補佐官から紙を手渡され、読み上げる。

 

 

「よくぞいらっしゃいました盟主殿。龍の血族を代表し、この伏羲がお礼申し上げる。それでは早速、最重要課題について、盟主殿と要人殿の意見を交え、議論を始めよう。我ら龍の末裔が、近い内にやってくる神々の戦いへ、どのように貢献できるかについて。」

 

 

 伏羲が開始を告げると、項目に沿って話が始められる。補佐官が各種族ごとに産業の伸び具合、種族の強み、上層部でしか知りえない機密情報の数々が説明される。補佐官という名前ではあるが、第一線で政治を行ってきた人間達であるため、ヒスイノ-Ⅵの実質的な指導者だ。言い淀みなどはなく、スムーズに進む。

 

 神々の戦い、星神同士が戦うときについてはヒスイノ星系群のみならず、ヒスイノと交流している全ての惑星に伝達している。私たちの言葉に半信半疑である惑星も中にはあるが、大きな脅威に備えることは必要だと理解しているため、皆対策を練っている最中だ。

 議論の中で、一部ではあるが文明の融合具合も見えてくる。智械黑塔は微動だにせず足を揃えて座り、話を聞いているようだ。これもヒスイノの膨大な記録データ、厳重にロックがかけられた情報システムに保存されることだろう。

 ヒスイノ-Ⅵについては、機械生命体がほとんど入り込んでいないため、こういった会議も貴重な情報となる。

 

 

 彼らの方針としては、「深緑の騎士」の後方支援と、別の武力集団として「鬣の龍」を出したいとのことだ。「鬣の龍」の長が獣の唸り声のような低い声で発言する。完全な龍型である彼は、人間種のような声帯を有していない。共感覚ビーコンを通じて、独自の言語を把握する。

 

 

『新生せし龍の一族は、ヒスイノの有機的な生命の中で最も大きく、そして不朽を守るための力を持つ。来たる大戦で、吾らが各ヒスイノに分散することで矛と砦が増えることになろう。』

「…確かに破壊力と守りの力どちらも高いが…君たちの意思は合致しているか?星神同士の戦いは、かつてないほどの衝撃が星を襲うだろう。龍の末裔以外の民のために、命をかけられるかが聞きたい。」

 

 

 この「鬣の龍」という種族は、龍の末裔を安定して存続させようとする研究の過程で生まれたものだ。持明族が分裂球体を使って増える際、様々な手法を試した。他の龍の末裔から細胞を受け取ったり、他豊穣の民から血液を得たりして、狐族の血と併せ使用したのである。その結果、狐族の血が細胞と他種族の血を繋ぎ合わせ、生まれてくる一方の「新しき持明族」に変化をもたらした。

 

 鬣を持っており、滑らかだが岩よりも硬質な鱗を持った、完全な龍型の生命を。鬣の龍たちは異なる形の卵から生まれ、龍型の種族が扱う言語を引き継いでいた。

 そして成体となったときには、五頭巨竜の眷属と同じくらいまで体長が伸び、自身の子孫を生んだ。持明族では道具を使わなければできない個体の増加を行ったのだ。彼らの体は、己の種族を繁栄させようと動いたようであった。

 

 長である彼は、中期に誕生した龍の一体だ。蜷局を巻いた純白の巨龍は肯定すると、続ける。

 

 

『盟主。吾ら種族の誕生は、ヒスイノの民全ての働きによるもの。吾らの繁栄に絶えず助勢される民に、武力で恩を返すのが総意である。』

「そうか。だがあくまで主な反撃は、深緑の騎士が担う。君たちは守りに集中してくれ。」

 

 

 鬣の龍の長は頷くと、また静かに議論の波へと戻る。巨大な龍型であり、五頭巨竜や死龍の力を大きく、豊穣の民の力を一部感じさせるとはいえ、数はまだヒスイノの種族の中で少ない方に属している。勇猛果敢でも無理はさせてはならない。

 

 

 話は続き、ヒスイノの守りの固め方について移る。ここで智械黑塔が口を挟んだ。固有文明の保護のため、技術提供と製品輸出、そして保管庫以外手を入れていなかったオムニックが、一時的にヒスイノ-Ⅵに入り込むということを話す。

 

 

「周辺惑星に基地を作るから、それを活用して。私の下にいる人たちが各ヒスイノに散らばるけど、この惑星には多めに派遣するね。」

「技術要人殿、ありがとうございます…!」

「演繹する脳の彼らが多くいれば…。」

 

 

 彼女の気怠そうな情動はポーズであり、防衛作業には思考回路のリソースを0.00001%も使わない。彼女の思考は脅威に対して身を縮めて過ぎ去るのを待つことには使われない。星海の探究、そしてどれだけ被害を出さず神々の戦いを終わらせるかに向けられている。

 

 話し合いの最中、智械黑塔が隣に座る私の腕を小さな手で叩いてきた。顔を向けると、彼女は端末を見せてきた。それは、私の気分を一変させるのに十分な情報であった。

 

 

「今、スクリューガムが来てる。それと博識学会もセットで。」

「どちらも一緒に来るのは珍しいな。スクリューガムさんは、君の状態を見に来たのか?」

「…共同研究の誘い。また新しいシミュレーションをするの。本来はもっと実装までに時間をかけるものだけど、もう悠長にはできないから。落ち着いたら、また細かくテストすればいいもの。」

 

 

 並行して本体が動かしている素体が聞いたことをインプットしたのだろう。智械黑塔は数舜黙ってから答えた。

 この二百年で、彼女の本体は別の場所へと移された。そして並行して思考リソースを割くことで、人格データを分裂させることができるようになった。そのため、今同じタイミングで、複数の智械黑塔が別の人間と話しているのだ。これはいくら頭脳が優れていようと、有機生命体には出来ないことである。

 

 

 別の言語が入り乱れる議論の場にて、共感覚ビーコンを絶えず起動して話を聞く。龍の末裔たちは、先ほど話し合ったことの詳細な計画を打ち出し、一旦の話し合いは終わる。私は前をじっと見る。まだ幼い少女である伏羲は、明らかにぐったりとしていた。女力が話していたことも含め、声をかけるべきだろう。私は席を立ち、伏羲の元へ近づく。

 

 今後もヒスイノ星系群において、議論は交わされる。だが全体の流れは、既に決まっているようなものだ。まずヒスイノを守護し、次に交流のある星系を守る。また、更に大きな枠組みにおける繋がりを守る。

 そして私がすることはシンプルだ。災厄の元凶となる「壊滅」の星神、ナヌーク。その使令である絶滅大君を押さえ込み、力ある者と共に総勢で打ち倒す。運命は違えど、第二次豊穣戦争を再演するかのようだ。

 

 だが私の頭には不安が残り続けている。星神の戦いに対策が取れるのかどうかも懸念事項だが、あの星核ハンターが残した言葉、「崩壊」の星神とは一体何なのか。私が知る終焉の描写に無い正体不明の存在に対して、私は対策を取らねばならない。彼が、あの宇宙ステーションの襲撃を寸分変わらず予知した故に。

 

 

―――――

 

 

 星たちと白珠、白露は合流し、歩き始める。五人のうち、白珠とサマンサは二人で後ろを歩き、他三人は白露が先導する。

 

 白露は、ルアン・メェイの創造物に対して頬を緩めた後、ヒスイノ-Ⅵの案内と、ナナシビトの冒険譚を交互に織り交ぜ、星とサユに話していく。サユは興味深そうに聞きながら、相槌の声を上げる。

 星は、白露が生まれ故郷の施設を案内するのに従い、彼女に幾つか質問していく。星はその時このようなことを思っていた。確かに自分よりも永く生きているのだろうが、外見相応の少女が少しませた話し方をしているだけのようだと。

 

 

「二人とも、飴ちゃんはいるか?わしのお手製じゃ。ほっぺたが落ちるほど美味しい甘みじゃぞ!」

「ありがとう、もらうね。ねえ、白露。ナナシビトっていうのは何?確か、星穹列車に乗ってる人と、こっちの人もそうだって聞いたけど、白露もそうなの?」

「ほう…列車を知っておるのか。ナナシビトというのは、今は亡き開拓の星神、アキヴィリと同じ方を向く者たちのこと。開拓の道を進み、名乗れば誰でもナナシビトになれるのじゃ!無論、わしもその人じゃ。」

「へえ…だいぶ条件が緩いね。じゃあ、ゴミ箱の中身を『開拓』している私も、ナナシビトになれるってこと?」

 

 

 星は神妙な顔をあえて作り、ふざけ半分で言う。白露は眉をしかめた後、星の予想とは反して頷いた。星は、もらった飴玉を頬で転がすのを止める。

 

 

「…それは中々奇抜じゃが、ぬしにその意思があるなら立派なナナシビトになれるじゃろう。未知を楽しむ心も大事じゃからのう。」

「好奇心なら、誰にも負けない自信があるよ!」

「おお、乗り気かの!そっちのちっこいのはどうじゃ?」

「拙はまだまだ未熟な身である故、開拓に向かうには修行が足りません。狂风様の助力をいただいているのですが、まだ。」

「ふむ…狂风からは天真爛漫だと聞いていたが、少し古い情報だったかの。堅苦しくせんでいい。…もしや、狂风に対してもそんな風に話しておるのか!?」

 

 

 サユが頷くと、白露はわざとらしいため息を吐き、ぽんとサユの頭に手を置いた。星から見れば、白露とサユに大した身長の差はないが、一瞬白露の背が高いように感じられた。

 

 

「わしに気遣いは不要じゃ。少し年の離れた姉とでも思って、崩してよいからな。」

「…では、失礼。」

 

 

 サユは畏れ多いとばかりの堅苦しさを崩し、星たちへ普段話しかけるような調子にする。

 

 

 それから、星とサユは色々な建物を見せてもらいながら、雑談をしていった。仙舟の鱗淵境に似た街並みは、景観の美しさから風情を感じさせる。とても星とゴミケーキが求める廃棄物があるようには思えない。

 

 白露は、サユが欠け月を宿している旨を聞いたときは、共に背が伸びることを祈ろうという言葉を返した。また白露は、それぞれの個人的な話をしあったとき、境遇の重さに驚いたりもした。星もサユも、グラモスの鉄騎であるサマンサと同じで人造人間である。作られた目的について考えれば、明るい事象ばかりが浮かぶわけではない。

 

 星は、白露の話を聞きながら「ナナシビト」という存在に強い興味を持ち始めていた。狂风が言った白珠という女性から話を聞くことはほとんどない状況だが、白露が多くを語ってくれている。根源的にわくわくする事象に遭遇したいという思いを持っている星は、白露に新しい話を次々にねだった。

 

 

「聞いても聞いても話が出てくる…。白露は知識も経験も豊富だね。」

「そうじゃろ!母様には負けるがのう。母様が世に出した本は何百、何千に及び、総合的に惑星の記録が為されているんじゃ。じゃからわしは、食べ物や医療の記録に絞って残しておる。」

「時間の重みを感じる…。」

 

 

 年の功とはこのことかと、星は遠い目をする。

 白露は後ろを振り向き、少し離れて話している白珠に目線を向ける。白珠は白露の顔を見て、にっこり微笑んだ。

 

 

「みんな随分歩きましたし、ご飯にしましょうか!白露と決めた食事処があるので、ついてきてください!」

「二人とも、期待してよいぞ。量も味も満足できる場所じゃ。」

 

 

 白珠の快活な声が響く。星はいつの間にか減っていたお腹を擦り、白露たちに続く。 

 

 

 食事の席で、星は白珠の隣に座ることになった。向かいには注文した料理を笑顔で待つ白露が座っている。星は余り物怖じしない性質から、白珠に話しかけた。頼んだ魚料理が来るまでの小話である。

 

 

「私は星。銀河打者って覚えて。…狂风から聞いたけど、すごい人なんだね。旅する中で健康を保つ方法を聞いてもいい?」

「あたしも星のこと、ついこの間聞きました!あたしはもうおばあちゃんを越してますが、よく寝てよく食べることは年齢問わず大事です!」

 

 

 白珠は裏表のない笑みを向けて、星に答える。白珠に他意はないが、星には刺さる言葉だった。度々ゲームに夢中になりすぎて夜更かしをすることがあるからであった。星は誤魔化すように笑みを浮かべると、興味のある「ナナシビト」としての生き方について尋ねる。そして次の目的地についても。

 

 

「直近の予定は、仙舟朱明が入ってます!丁度一か月半後ですね。鍛冶の熱気を感じられる舟です!」

「仙舟…。じゃあ、その朱明っていう舟に『開拓』しに行くの?」

「いえ、ナナシビトとしての活動とは別です!二つ用事があって――もしかして、朱明に興味がありますか?」

 

 

 星は頷く。ヒスイノ-Ⅴにて聞いた講談の中で、仙舟同盟は登場した。実際に見てみたいという気持ちも少なからず彼女の中にはあったのだ。白珠は更に深い笑みを浮かべて言う。

 

 

「なら、一緒に行きませんか!用事の一つで、付き添いに近いことをするんですが、やっぱり年の近い子が多い方がいいですし。」

「いいの?…狂风たちにどうか聞いてみる。」

「ふふ。大丈夫だったらあたしが、狂风たちに詳しい日程を送っておきますね!」

 

 

 白珠の即決断に星は驚きながらも、サユとサマンサの方を見る。彼女らも狂风に任せるようだ。星は、日程についてと白珠の提案に関するメッセージを送った。少しして、狂风から時間を空けられる旨が返ってくる。星は白珠にメッセージを見せた。白珠は同じく狂风にメッセージを送った。

 そして白珠がサムズアップを星に返したとき、皆の分の料理が到着した。

 星は一拍置いてから、食事を始める。

 

 

 

 ボリュームの多い魚料理を完食し、星は腹を擦りながら外へ出た。白露の案内に変わり、白珠と白露どちらもが先頭となって別の区間へと歩く。火の雨が降る区間、翼の生えた龍の種族が飛び回る地である。白露と白露はそれぞれ、三人と一匹のために道具を渡す。それは体を保護するためのバリア生成器である。

 

 

「運命の行人ではない騎士や医士が持っておる備品じゃ。例え運命の道に足を踏み入れたとしても、分かりにくいものじゃからのう。ぬしらは心配無さそうじゃが、念のためじゃ。じゃが必ず、そのおチビちゃんには使うんじゃぞ。」

 

 

 白露は続いて言う。反物質レギオンに対抗できる時点で、ただの人間とは違うと。

 星は星海を取り巻く概念について聞きながら、狂风は親しい人にもルアン・メェイの実験について絶対話さないようにしているんだと、ぼんやり思っていた。

 

 

 白露たちの先導の元、区間のつなぎ目までやってくる。区間のつなぎ目は熱気を吹き出しており、ゴミケーキは甘い匂いの汗をかき始めた。星はゴミケーキに保護膜を使用する。

 

 実際に中へ入ると、星は暑さを感じないことに気づく。煮えたぎったマグマのような地形であるのに、仄かに温かい程度である。星は隣のサマンサを見た。彼女は鉄騎を展開することもなく、景色を眺めている。

 

 

「…やはり星も、運命の道を進んでいるようですね。」

「そうなの?」

「ええ。ここの気温は五十度近くです。この過酷な環境で、息を荒げないのが証拠でしょう。」

 

 

 星は実感がないままに、白露たちへついていく。この区画ではあえて原始的な建築物が建てられており、その中に巣穴として建物を使う龍の末裔が入り込んでいる。

 星は、地表をごろごろと転がる生物を発見し、それが一瞬の内に消えるのを見た。何事かと辺りを見回すと、龍の末裔の一体が、その生物を咥えて空に飛び立っていた。あの生物は、食事用に育てられたもののようだ。

 星に抱えられたゴミケーキが目を大きく開いて、ぷるぷると震え始めた。

 

 

「みんなー!こっちに来てください!お土産にぴったりな物がたくさんありますよー!」

 

 

 白珠が示すのは、この区間で作られた食品や工芸品の数々である。星は手ごろな手土産を物色するため、歩を進めた。

 

 

―――――

 

 

 伏羲との会話を済ませ、館から出てしばらく経った。会議中に返した星と白珠からのメッセージを、智械黑塔へと共有する。智械黑塔はあまり興味がなさそうに見る。

 私は白珠の用事を改めて読み、呟きが漏れる。サユの現状を打破できる可能性があるからだ。

 

 

「朱明の歳陽戦士との修行…。智械黑塔、可能であればサユも修行に参加させるのはどうだ。戦闘後の彼女は明らかに消耗が激しい。融合が上手くいっていないということだろう。」

「いいんじゃない。肉体はカバーできても、まだ精神の耐久性が足りないみたいだし。」

 

 

 私はまたメッセージを送り、白珠の用事に積極的に関わらせてもらうことにする。私は白珠のメッセージを見て、ふと頭に浮かぶものがあった。それは感慨深さと、ある狐族の少女の姿であった。

 第三次豊穣戦争の前から交流のあった少女が立派に成長し、他の仙舟で修行を行うまでになるとは。あの時以降数度会った程度ではあるが、白珠を介して話を聞いたり、メッセージ上のやり取りは長らくあった。それでも少ない情報であるため、精神的成長を意識していなかったのだ。

 

 私は久しぶりに話を聞きたくなり、その少女にメッセージを送った。会ったときには、元気を湧かせるための菓子を渡そうと考えながら。

 

 

 星たちのヒスイノ-Ⅵ探索に合わせ、私たちは合流する。白珠たちの案内のペースが早かったのか、それとも私たちの会議が長かったのか分からないが、彼女らは既に全ての区間に赴いていた。共に回れないのは残念ではあったが、合流自体は出来たので良しとする。

 

 智械黑塔は、長い会議の間に惑星全域のスキャンを終えたようで、満足そうであった。ヒスイノ-Ⅵは龍の末裔の環境適応に力を入れているため、他種族の介入する余地がほぼない。分裂球体の開発については別の星系で行っているため、智械黑塔の義体を損傷が無いように管理できる上澄みの人材は、多く配置できないのだ。

 それを面倒がったのか、智械黑塔は調査を後回しにしており、今日それが叶ったというわけである。

 

 私は、ナナシビトのすごさを伝えられたと笑う白露のために、贈り物を取り出す。

 

 

「狂风、これはなんじゃ?」

「誕生日プレゼントだ。少し遅くなったが、渡しておきたくてな。」

「包装が綺麗じゃが…ええい!少し切れ目を入れてしまうぞ!」

 

 

 白露は箱を様々な角度から見ていたが、強く目を瞑った後かっと開き、箱の側面を切る。瓢箪型の医療デバイスが箱から見える。白露の表情は更に明るくなった。医士としてデバイスには詳しいだろう。

 白露は、この瓢箪は何の用途に使うものか理解した様子で笑顔を深める。

 

 

「最新型じゃ!これ、欲しかったんじゃー!わわ、これ…カタログより機能豊富じゃぞ!?」

「私が関わったんだから当然だよ。」

「ぬしが!?もしや、わしのために…?」

 

 

 智械黑塔が自信に満ちた表情で言い、白露の質問に小さく頷く。白露は嬉しそうな表情のまま、智械黑塔に飛びついた。

 

 

 今回は白珠と白露に軽く顔を見せただけであったが、次は長く行動を共にできるだろう。私は白珠と言葉を交わし、もう一つの用事について聞く。声が漏れないように小さく話す。

 

 

「彼との会談――私が顔を出すわけにはいくまい。確かに今では仙舟と細い繋がりこそあるが、あの古強者がどう思うかは別だろう。」

「ええ。そっちは簡単なお話をするだけですから、待っていてもらって大丈夫ですよ。あのナナシビトの先輩方と同じように、あたしの個人的なお願いをするだけですから。」

「…そういうことか。確かに大事なことだ。」

 

 

 私は白珠の言葉に納得する。仙舟「朱明」を第二の故郷とした親しき友に用事があるのだ。数年の内に弔った、ピノコニーの夢境と巡海レンジャーで最期まで生きた先人と同じように、言葉が返ってこなくとも語りかけたいのだろう。

 

 それから私たちは白珠と白露と別れ、宇宙船へと戻る。星はナナシビトの話を聞けたことと、ヒスイノ-Ⅵの全体を見れたことを楽しめたようだった。

 だが、星はゴミケーキという名の創造物にも語りかけるように言う。

 

 

「色んな自然環境はあったけど、この子にはあまり合わなかった。水場じゃふやけて、マグマじゃ燃えて、凍土じゃかちかちだからね。」

「…ならば、やはり最初は、演繹する脳に任せるのが良さそうだな。皆、今日はお疲れ様。」

 

 

 星たちは順に宇宙船へ入っていき、智械黑塔が残る。彼女は私を見上げると、あることを話した。次の目的地にて、星へ関わらせるものについてである。

 

 名を付けられていない星系。智械黑塔と、ヒスイノの研究者集団が主な拠点として扱う地。智械黑塔の大部分がそこで待つ。

 




<派閥説明>

巡る医士…
(豊穣)

ヒスイノ-Ⅳで研鑽を積んだ医療者は、「深緑の騎士」の護衛と共に星海を巡り、治癒を施す。それは環境問題であったり、病に苦しむ人の治療であったり多岐に渡る。巡る医士をきっかけに、ヒスイノを知る惑星も存在する。



新しき龍血…
(不朽)
ヒスイノ-Ⅵに集まった、不朽の星神「龍」の末裔たち。各々の種族に長い歴史があるため、寄り集まった結果さらに複雑な文化体系を形成している。だが新しい持明族や新しい龍については、龍の末裔の中で希望が見出されており、トップに年若い龍が上げられ、その人物に補佐が数十人つくという形が取られている。

現在のトップは、白露の師匠であった蒼玄の生まれ変わりである伏羲。それと別種族の生体組織を多く取り入れた「鬣の龍」の白龍。

(見た目は、スターレイル本編で厄龍として鏡流に討ち取られた龍に似ているとしている。本編における厄龍の見た目は影のみで詳細は不明。)
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