夏の日。東京から家へ帰る。電車は今、県境をまたいでわたしを神奈川の実家へ乗せていた。
夕日がきらきらと川の水面を光らせている。「きれいだな」とは思うけど、毎日見てるんだから別に感動はしない。
夕日が、今度はわたしを殺しに来た。直射日光だ。さすがに目が痛いから、しかめ面。
数秒たって目を開けると、景色は落ち着いてきた。その代わりに、光の関係なのかやぼったいわたしの顔が窓に写った。わたしがわたしを見ている。
ふと、頭の中をチリチリと刺激する言葉がやってきた。
「ドッペルゲンガー、かぁ」
呟いてみた。飴玉を口の中で転がすみたいな口の動き。隣に立つサラリーマンも、後ろで喋るお姉さんたちも、わたしの声なんて聞こえやしないだろう。
ドッペルゲンガー。そんな言葉があるらしい。
世の中には自分と同じ顔の人間がどこかにいて、三人と会ってしまうと死んでしまうのだと。
昔、都市伝説かなんかの番組で見たことがある。
ふたりが、妹が生まれたあとくらいだったかな。お母さんが「ひとりちゃんとそっくりねー」なんて言うから、番組のことを思い出して少しだけ怖がった。だって、赤ん坊のふたりはわたしとは似ても似つかないくらいキャッキャと笑うし。
幽霊には今でこそ親近感を湧くわたしだけど、ドッペルゲンガーは、一応は実在するらしい。この世の中のどこかに。
わたしと同じで陰キャなのかな? それとも、顔が違うだけで超絶陽キャなのかな?
なんか、わたしが不運を呼び起こしてる気がしてすみませんって感じだなぁ……。
でも、もし陽キャだったら、それだったらわたしの生活を変わってくれたりはしないだろうか。
そうしたら楽なんだけどなぁ……。
チクリと、目に刺激が入る。
窓の向こうのわたしは、冷えた目でわたしを見ていた。
────
六月初め。《ギターと孤独と蒼い惑星》の歌詞を完成させた。最初は悩んだけど、リョウさんは「ぼっちらしい歌詞を書いてよ」と言ってくれた。喜多さんにわたしの呪詛を吐かせるのはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ怖かったけど、でもみんな褒めてくれた。寝不足になった甲斐があった。わたしってすごい。寝不足なのに。いや、寝不足だからこそ真の力が解放されたんだ。
六月中旬。初歌詞完成の勢いそのままに、《あのバンド》の歌詞作成にとりかかった。と言ってもタイトルをつけたのは歌詞が粗方決まった後だったけど。《ギターと孤独と蒼い惑星》ほどじゃないけど、けっこうスムーズに作れた。リョウさんも賛成してくれたし、虹夏ちゃんも褒めてくれた。喜多さんはちょっと歌詞の意味がわかってなかったみたいだけど。やっぱりわたしってすごいのでは?
七月。オーディションが終わって、《あのバンド》も作り終えた頃。虹夏ちゃんと三曲目の歌詞の相談をした。というのは、記念すべき四人揃っての初ライブで演奏できるのが三曲だったから。
全部、オリジナルソングというセットリスト。でも喜多さんがいなかった最初のライブと違って、音楽にそこまで詳しくない──友達みたいなミーハーの人もいないだろうし、むしろ全曲オリジナルでも問題ないかな、とは思った。それに最初の2曲もスラスラっと作れたし。たぶん、わたしいける。
なんて思ったのがいけなかった。
「歌詞が思い浮かばない?」
ちょっとほわほわしてて、けれど心地よいキーの高さ、虹夏ちゃんの声。こういう時、小説かなにかだと『鈴が鳴るような声』なんて言うんだろうか。
わたしたち《結束バンド》の拠点、ライブハウス《STARRY》。開店前の心地よい閉塞感のなかで、虹夏ちゃんは制服姿で聞いてくる。わたしも虹夏ちゃんも、いつかのミーティングみたいに机を囲んで座ってた。
「あちゃあ、さすがに三曲連続は難しかったかな?」
「そっそんなことはないんですけど……すみませんすみません」
「いいっていいって! なんたって始めたばかりだしねっ」
虹夏ちゃんは変わらない笑顔だ。この人、天使なのかな?
「取り敢えず、虹夏が悪いってことか」
虹夏ちゃんとは真逆、平坦で無気力な声。そんな声を持つのはここじゃぁひとりだけ。同じく椅子に座って机を囲むリョウさんだ。
「なんでじゃ、なんで私が悪いってなるんじゃ!」
「ほんの数ヶ月で三曲作詞作曲とか、鬼。悪魔」
「てめ〜……地味に言い返せないんだけど」
虹夏ちゃんは握り拳を作って震えてる。
「あっで、でもわたしが決めたことだし……」
実際、わたしが決めたことだ。三曲目の作詞は。『問題ありません、カッコよくて影の感じる│歌詞《生き様》はもうわたしの横で寝てますから』とか言っちゃった気もするし。
「実際、どうなの? ぼっち節の歌詞は全滅なの?」
と、リョウさん。カレーライスの代金はまだ返してもらってない、けど作詞に関しては信頼できる。
「かっ歌詞が浮かばないわけじゃないんですけど、ちょっと『これじゃないな』って……」
「ふむ……」
沈黙にふけるリョウさんと、そして頭に手を当てて『いかにも悩んでます』みたいな挙動になった虹夏ちゃんがいた。悩むにしても正反対な雰囲気だ。
人工のネオンでキラキラ輝く金髪の虹夏ちゃんと、光を無機質に冷やす青い髪のリョウさん。どうしてこの二人はこんなにも正反対なんだろう。
そして、人工どころか天然の太陽さんみたいな人もいて。
「よくわからないけどで……私、後藤さんの書いた歌詞は楽しそうだなって思うわっ!」
結束バンドの最後の一人。わたしが歌詞の相談をしてから今までの約一分、口を閉じていたのは奇跡だと思う。わたしと同じ秀華高校一年生、赤髪で超絶陽キャな喜多さんだ。
「あっえっ……」
「ほら、例えばこの歌ね? サビ前がもう『聴けー!』って感じで言ってるじゃない?」
「あっはい」
喜多さんはボーカルだ。わたしの歌詞の影響を一番受けるバンドメンバーでもある。そんな人から意見を言われたら、良くも悪くも気になってしまう。
「私めいいっぱい叫んだけど、リョウ先輩には『まだ足りない』って言われるもの」
喜多さんは今日も可愛く笑って、困って、でも楽しそうだった。
話題に出たから、リョウさんに目線を飛ばしてみる。
「別に無理強いはしないけど。今の歌い方も
「きゃー!!!」
喜多さんが叫んだ。今の言葉のどこに悶える要素があったんだろう。
手を叩く音が2回。虹夏ちゃんが促してくれた。
「ほら喜多ちゃん! リョウも! ぼっちちゃんの真面目な相談なんだから、ちゃんと答える!」
作詞ノートが三人の間で行ったり来たり。一応歌詞の残骸みたいなものはノートに溜まっているけど、そもそも歌詞が生まれないという問題がある。
いろいろと、想いの丈を話してみる。ここにいるのは前に歌詞の相談をしたリョウさんだけじゃない。喜多さんも虹夏ちゃんもいる。歌詞のことだけじゃない、脱線しつつもいろいろなことを話した。
最初の二曲が方向性は違っても社会への鬱憤を込めた歌詞だったから、また同じように三曲目を書くのもちょっとためらったこと。
例えば学校のことみたいな何か一つに焦点を当てようと思っても、やっぱり同じような曲になってしまうこと。
そんなことを話すと、虹夏ちゃんは「じゃあ他の感情はないかな?」とは言うのだけど、楽しい感情みたいなものを書こうとすると、やっぱり最初にリョウさんに見せたような歌詞になってしまう。やっぱり、無条件に現状を肯定するような歌詞は好きじゃない。それが悪いとは言わないけれど。
あーでもない、こーでもない、と四人全員で悩む。みんなが、わたしの悩みに耳を傾ける。それは嬉しくて、でも申し訳なかった。
そんな中リョウさんが手を挙げて。
「別に、ぼっちらしい歌詞が『嫌だ』とか『うるさい』とか、そういうマイナスな感情だけじゃなくてもいいと思うよ」
「えっ」
そんな風に言ってきた。
「でも、前に『無理に明るい曲にしなくてもいい』って」
「それは『ぼっちらしくない歌詞は』っていうこと。『楽しい』のがぼっちの感情だったら、それは立派な『ぼっちらしい』でしょ?」
リョウさんとわたしが作詞について話をしているというのは、もう虹夏ちゃんも喜多さんも知っている。だからだろうか。すぐには話に乗って来なかった。
リョウさんは続ける。頬杖をついて、遠くを見ていた。
「それに、『明るい』と『暗い』って両立しないわけじゃないと思うし」
「……両立?」
その言葉には、疑問どころか意味が分からなかった。
明るさと暗さが両立する……? そんなことがあるのだろうか。
と、思ったのだけれど。
「あ、それなら私も少しわかるかも……!」
「えっ?」
喜多さんが手を挙げた。ライブハウスの空気に似合わない、問題が解けた学生みたいな。まあ、わたしたち全員学生なんだけど。
「時々ね、友達のバスケの試合の助っ人に呼ばれるんだけど」
「ぐほぁ」
「あ、ぼっちが吐いて溶けた」
「喜多ちゃんのエピソード、まだぼっちちゃんには劇薬なんだ……」
「助っ人とはいえ試合だし、友達も本気だから。スポーツは楽しいけど、それでも負けると悔しいの」
溶けた体が戻るのを感じながら、喜多さんの言葉が脳裏に響く。
楽しい試合、けれど負けて悔しい。
「それだと、『楽しいの中の悔しい』か」
「だとー……私はもう、あれだよ!」
「虹夏ちゃん?」
「オーディション! 受かったのは嬉しかったけどね? でも、お姉ちゃんにあんなにダメだしされたんだよ? しかも四人全員!」
「私は褒められたけど」
「『自分の世界に入りすぎ』でしょ! 協調性がないって言われてんの!」
「伊地知先輩のは、『嬉しいの中の悔しい』ですね!」
オーディションは、もちろん嬉しかった。それに、その前には。
──この四人でちやほやされたい。
──このまま、バンド終わらせたくない。
悔しさと、決意と、目標があった。
確かに、わたしにも、暗いだけじゃない感情があった。
虹夏ちゃんが喜多さんを見て笑う。
「あとー……あ、あったよ喜多ちゃん。『怖いの中の嬉しい』が」
「え?」
「結束バンドの初ライブ」
「う゛っ」
あ、それは喜多さんの黒歴史……。
「伊地知先輩、その節は本当に……」
「あはは、からかってごめんごめん。でも、あの時喜多ちゃんが逃げたから、ぼっちちゃんは今ここにいるんだよ? それって単に『怒る』でも『怖い』でも『嬉しい』でもないし、不思議な感覚じゃない?」
不思議な感覚。それは確かに、と思う。
虹夏ちゃんの言う通りだし、わたしだって、あの日、学校で『ギターを持って声をかけてもらおう作戦』が失敗したからあそこにいたんだ。直前まで、学校もう行きたくないって思ってたんだ。
あの辛い一人の時間があっても、虹夏ちゃんに誘われたことは、本当に嬉しかったんだ。
喜多さんが逃げたことは確かによくない。でもそれがなかったらわたしは《結束バンド》にいなかったんだ。
リョウさんに『ぼっちらしい歌詞を書いてよ』と言ってもらえたのは、その前にたくさんの納得のいかない歌詞があったからだ。
「ほら、こんなに出てくる。『楽しい』だけでも『悔しい』だけでもないのが」
リョウさんが、そう言った。
いつもと違う。初めて作詞にアドバイスをくれた時とも違う。
心の中にストンと落ちるような、疑問を投げかけてくれた。
「今のぼっちの中にも、ない? 『楽しい』ってこと。あとは、『楽しさが怖い』みたいなの」
────
そんなことがあって、下北沢駅への帰り道。『明るい感情』と『暗い感情』が両立することについて考えていた。
あまり考えたことのないことだった。『明るい』と『暗い』が両立するなんて。
だって、学校は今だって行きたくないし。バイトは休みたい。人前で話すのなんて、なんてつらい道のりなんだ。
ギターを弾くのは楽しい。唐揚げは美味しい。
でも、確かに『明るい感情』と『暗い感情』が両立してた。
そんなの。
(そんなの、わたしじゃないみたい、だ)
ずっとギターと向き合っていたわたしにとって、ここ最近は本当に激動だったんだ。
明るい感情があるというのも、両立というのも、どっちもあることに気づいても、あることが信じられない。
わたしは確かにわたしなのに、でも、わたしじゃないわたしがいる。
そんな風に考えた時、脳裏に浮かぶ言葉があった。前に聞いたことがあって、しばらく思い出すこともなくて、でも今の状況にピッタリな言葉があった。
「……ドッペルゲンガー」
電車に乗った夕日の中。ドッペルゲンガーについて考える。世界のどこかにいる、わたしと全く同じ顔をしたわたしじゃない人。
でも、今わたしが信じられないと感じる、嬉しい感情を持つ自分だって、今のわたしからすればドッペルゲンガーみたいだ。
弱くて、日陰にいて、学校の誰にも話しかけられないわたしの後ろに。
鮮烈で、太陽を見て、世界中の人から注目を集めるわたしがいる。
そんな、妄想ばかりの自分だけど。
(オーディションの時は……少しは《ギターヒーロー》のわたしを出せたけど)
ギターを弾いて、そしてオーディションを成功させたのは、今のわたしじゃない、《ギターヒーロー》という名前の、ドッペルゲンガーのわたし?
そんな風に考えた時。
(あ、浮かんだ)
歌詞が浮かんだ。脳裏に風景が浮かんだ。
わたしの目の前で、わたしに人差し指を突きつけているわたしがいた。
────
台風の日。
一曲目、《ギターと孤独と蒼い惑星》は、失敗した。
二曲目、《あのバンド》は、きっと成功した。
十人もいない観客には響かない。チケットを買ってくれたお姉さんたちは不安げにしていた。
スマホを見る人たちだっている。この曲のいいところは、そんな人たちにこそ響くような、暗くて強い歌詞なのに。
虹夏ちゃんはドラムがもたついて。リョウさんは虹夏ちゃんと息が合わせられなくて。喜多さんは練習で成功していた演奏ができていない。
失敗ばかりの一曲目。このままじゃ、二曲目も、ラストも、失敗に終わってしまう。
四人そろって初めてのライブが、注目もされないで、お姉さんたちを失望させて。
本当にそんなことでいいんだろうか。
虹夏ちゃんの夢が、リョウさんの結束バンドでの再スタートが、喜多さんの頑張りが。その始まりが、こんな終わりでいいのだろうか。
嫌に決まっている。
嫌に決まってる。
このままじゃ、嫌に決まってる──!
両腕に力が入って。いつか聞いたきくりお姉さんのアドバイスが脳裏によみがえって。
『今、目の前にいる人は、君の闘う相手じゃないからね』
『敵を見誤るなよ』
夢中になって、次の曲のどのパートでもないソロギターをかき鳴らしていく。
ドッペルゲンガーのわたし。今、動いてよ。
わたしが“わたし”で。“わたし”がわたしなんだ。
それを、《あのバンド》で証明した。
夢中になりすぎて、下を見すぎちゃった。店長さんからまた注意されるかもしれない。
それでも、息を吐いて、「やってしまった」と思って古びた機械みたいに後ろを振り向くと。
──虹夏ちゃんが、笑ってた。
おでこを汗で光らせて、サムズアップしてくれた。
ああ、これで良かったんだ。
「二曲目っ……《あのバンド》、でしたっ!」
喜多さんの声が響く。いつもの明るい声に戻っている。その目は、星みたいに輝いている。
喜多さん越しのリョウさん。リョウさんは逆に落ち着いている。でも柔らかい表情が、普段の様子からは信じられない頼もしさと優しさを感じることができた。
「じゃあ次、ラストの曲です……!」
喜多さんの声。ライブハウス。青に黄色、赤──カラフルな光。
暗がりと光の中で、最後の曲が、《ドッペルゲンガー》が始まる。
まだ、一曲残っている。
さあ、力を貸して。
指に力が入る。二曲目のような高揚はない。でも汗は流れて、体は火照って、ほんの少しの恍惚があって。
冴えた脳裏が、練習通りの演奏を披露しようとして、最初のフレーズを刻んだ時。
(──あれ?)
思った。
今、わたしは
臆病な
それとも、
急に心臓がきしむ。不安になる。
四人でチヤホヤされたいって思ったのに。陰キャな性格を治して、わたしが《後藤ひとり》として自信を持てた時こそ、「わたしがギターヒーローだ」って言えるのに。
今、わたしは都合よく自分を隠して──
急に、不安が押し寄せる。作詞をした時とは真逆な焦りを感じてしまう。
本当にわたしでいいのかなって、思ってしまったから。
(……みんなは──)
見上げた。不安を隠せないで。
目の前には、カラフルな表情を浮かべる観客の人たち。その向こうに、得意顔の店長さんときくりお姉さん。
思わずメンバーを見た。卑屈な気持ちで。
演奏は続いている。小気味よく鳴るギター、確実に場を支えるベース、爆発力を持ったドラム、そして透き通るボーカル。
虹夏ちゃんが、笑っている。
リョウさんが、楽しんでいる。
喜多さんが、嬉しそうにしてる。
わたしを見つけてくれて、支えてくれて、一緒に歩いてくれる仲間たちが、こんなにも輝いている。
偽物のわたしでいいのか、という不安。
その不安の中に、楽しさがある。
これでいいんだと思えるわたしがいる。
(ああ、そういえば)
相談をして閃いて《ドッペルゲンガー》の歌詞を書いた時。『暗さの中の明るさ』を思い浮かべた。自分の中にいる、自分とは思えない自分をドッペルゲンガーに見立てた。
どちらもわたしだから。代わってあげるよって。
でも、違う思いも込めていたんだ。
わたしの中の
きっと《ギターと孤独と蒼い惑星》を完成させた時のわたしと、《ドッペルゲンガー》を完成させた今のわたしが違う気持ちを持っているみたいに。
数年後、今より前向きになったわたしがいたら、この《ドッペルゲンガー》には違うことを感じると思うから。
今のわたしは、人前が怖いから。臆病だから。泣いているから。
ドッペルゲンガーのわたしの方がいいのかもしれないけど。
いつか、そのわたしが本物になったら。
きっと、その時のわたしは、別のことで怖くなるんだ。ドッペルゲンガーになった臆病な
そんなの、やだよ。
ギターヒーローのわたしも、臆病なわたしも、どっちも本当のわたしなんだよ。
どっちが偽物か、本物か、じゃないんだよ。
それに、ドッペルゲンガーは、何度も会うと死んでしまうって。
わたし、あと二回で死んじゃうの?
そんなのやだよ。
わたしは結束バンドでいたいよ。
わたしは結束バンドでチヤホヤされたいよ。
だから、今はわたしが言うんだ。
ドッペルゲンガーで、後藤ひとりのわたしが言うんだ。
みんなと一緒に、行けるところまで行きたい。
最後まで、一緒にいて、一緒に逝きたい。
そして、誰かの心をわたしの音楽で射っていきたい。
そして、言うんだ。
わたしが言うんだ。君に向かって。
鏡の向こうの、窓の向こうの、写真の向こうの。
画面の向こうの君に向かって。
わたしたちはみんなドッペルゲンガー。
出会ったって死なないよ。泣いたり、笑ったりするくらいだよ。
だから、ね。
また、会おうね。