→本家ほどのクオリティやオリジナリティはありませんが、よろしければお付き合いくださると幸いです。
ある日の夜、ヤーナムは滅びた。
数少ない少数を除いて生き残りはなく、故に封鎖された。
獣の病。
そして、その病に由来する"獣狩りの夜"がきっかけだ。
俺の名はジャック。
獣狩りの夜に巻き込まれ、なし崩し的に夢を見る狩人として活動した者だ。
本来はカインハーストからの招待状でヤーナムを訪れたんだが、それどころじゃなくなったって寸法さ。
一応どさくさに紛れて廃城を訪ねはしたが、結局はいくつかの武具と技術を持ち出して狩りに役立てる以外のことは何もなかった。
結局今となっては、どういういきさつがあってカインハーストに召喚されたのか全くわからない。
だがカインハーストの武器は俺の血と相性が良くてな、おかげで"獣狩りの夜"の数少ない生き残りになれたってわけだ。
獣狩りの夜を乗り越えてヤーナムを脱出した後は、元の街に戻っていつも通りの生活だ。
ただ、俺は今でも時折夢を見る。
だから今でも夢の中のヤーナムで狩人を続けていて、あの時の経験が鈍ることもなく常人よりはいくらか腕が立つようになった。
「貴公に依頼がある、ジャック殿よ。我々には腕の立つ狩人が必要なのだ」
だからなんだろう。
俺の事務所には、いずれこういう依頼が舞い込むようになった。
今となっては、これも俺の新しい日常の一部だ。
「我々と共に"匣の村"へ向かってほしい。そこにいる獣を狩ってほしいのだ」
◆
匣の村。
都市から馬車で移動した先にある辺境の村で、今回の仕事場だ。
一月ほど前から人食い事件が発生し、地元の警察が現地入りしたところで獣の存在が発覚。
当然当時の警察は獣を駆除しようと試みたようだが、失敗に終わったらしい。
そのため新たにその獣を討伐するための部隊を募ることになったのだが、警察機構は人手不足らしい。
そこで、その穴埋めとして俺へ仕事が舞い込んだ。
この場合は警察が依頼主となるわけだ。
「あれが、匣の村かね」
「ああ。噂の通り、奇妙な地形だ。まさしく"匣"のようだな……」
その警察と共に馬車で向かい遠くから見下ろした"匣の村"は、その名の通りに奇妙な村だった。
この辺り一帯は陽の光を感じさせないほどに鬱蒼とした森なんだが、その村の一帯だけ切り取られたかのように一段と低くなっている。
その形は綺麗な長方形で、自然にできたようには見えない。
それでも村として機能させているってんだから、まぁ奇妙なことだ。
明らかに不便だし、おそらく用水には苦労している筈だ。
それでも村として機能させているには相応の理由があって、用水も苦労しているなりに対策の一つぐらいはあるだろう。
いずれにしても俺が知る必要のない、無関係の話だ。
だが……。
俺には、匣というよりは墓のように見える。
これから遺体を納め、その上に墓石を乗せるための。
そんな巨大な墓のように見えた。
「こちらチャーリー。門を開けてくれ」
「応援か! よかった……。すぐ開ける!」
村に入るための道は坂道のようになっており、その道を下った先に唯一の出入り口があった。
獣が出たということで封鎖されており、今回の依頼主であるチャーリーが手帳のようなものを見せてようやく開いた。
そうでなければ、村と外を行き来できないようになっているという。
「状況は?」
「入り口近くの酒場を避難所兼防衛基地にして、なんとか凌いでいる。……次から次へと獣が出てきて、対処が追いつかなくなってきたところだ」
「獣の病か……」
村に入ると、そりゃあ物々しい雰囲気が漂っていた。
辺りには物が散乱して、酷い有り様だ。
民家が並んでいるのが見えるが、今はまともに機能していない廃墟のようだ。
だが遠くから血の匂いが濃くよどんでいるのをかぎ取れる辺り、ここはまだマシな方だ。
「待て……何か、聞こえないか?」
「……本当だ。これは、獣か?!」
「酒場の方だ! 酒場に避難している村人の匂いにつられたに違いない!」
◆
早速仕事の時間だ。
酒場があるという広場に向かうと、獣がいた。
大きさとしては、人よりは一回り大きい程度。
クマのようなものと思えば驚異的だが、ヤーナムを経験した身としてはやや小さめなように思える。
だがその分、動きは素早いだろう。
その両手には鋭い爪が見て取れる。
「……匣? 匣を背負っているのか、この獣」
だがこれまた妙なことに、この人型の獣は背中に匣を背負っていた。
布か何かで匣を縛り、体に固定していた。
さしずめ"匣背負い"とでも言ったところか。
「なんなんだいったい……」
「どうせ生前大切なものを、獣になってもひきずってるというような話だろ。前の仕事でも割とあった話だ。気にしても仕方ない」
その匣背負いをどう狩猟しようかと思索を巡らせる時。
耳に何か入り込んだ。
それは「うわーん、うわーん」という、泣いている声だった。
……赤子の声だ。
「赤子の声……どこからだ?」
「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」
とはいえ、それこそ気にしても仕方ない。
まずは、目の前の"匣背負い"からだ。
「うぉぉおおおおおお!」
匣背負いがその剛腕を振り上げる。
そのバカみたいな爪で切り裂くつもりだ。
「見え見えだよ」
それをわざわざ待つつもりはない。
懐からカインハーストの名銃"エヴェリン"を引き抜き、確かな反動を噛み殺しながら一発"水銀弾"を放つ。
火薬を爆発させ爆音を響かせながらぶっ放したその"水銀弾"は、俺の血を混ぜた特別な代物。
だから獣にはよく効く。
特に血の力をより大きく引き出すカインハーストのエヴェリンなら、その効果はより大きい。
銃弾を食らった匣背負いは、大きく体幹を崩しその場に沈み込む。
「おおっ! 獣がいともたやすく!」
後ろでチャーリーがぼやいてやがるのをよそに、すぐ腰に差した刀に手を添える。
カインハーストの武器"千景"。
元は異邦の武器らしく、片刃で軽く振りやすくそして切れ味に優れる。
だがそれ以上に、刀身の波紋に血を這わせることで、緋色の血刃を形作る妖刀だ。
俺の血は比較的特別で、だからこういう武器と相性がいい。
「ぐぅっ?!」
その血を纏う居合斬りを食らわせれば、それだけで巨体を誇る匣背負いは大きくのけぞる。
物理的な衝撃以上に、その血から侵食してくる呪いが痛むのだろう。
俺はそうやってヤーナムの獣どもや怪物どもを狩ってきた。
「ぐぅるぅ……!」
「まずい、逃げたぞ!」
それを察したのか、それともただ単に生存本能なのか。
重傷を食らった匣背負いは近くの建物の陰に逃げてしまった。
これでは千景の斬撃は勿論、エヴェリンの銃撃も届かない。
「ぐぁあぁあああああ!」
「っ! お前ら下がれ!!!」
「なっ……民家の壁を、壊したぁ?!」
「ああああぁああああ??!!!」
挙句、匣背負いは人並外れた膂力で建物を壊して奇襲を仕掛けて来た。
建物のがれきで、同行してくれた警官の一人で押しつぶされた。
不幸中の幸いで俺やチャーリーは無事だったが、がれきに紛れて飛び掛かってきた匣背負いによってまた一人やられた。
「つっ……?!」
「ジャック殿?!」
そこで俺の悪運も尽きたらしい。
がれきと混乱に紛れた匣背負いの爪が、俺の身も切り裂きやがった。
おまけにその衝撃で吹き飛ばされて、無様に転がされちまった。
これは、少し不味い……!
痛みは大きくないが、一気に血を出したのがまずい。
体に、力が入らない。
「ジャック殿まで……! これが……これが"獣"なのか」
◆
「うわーん、うわーん」
また、赤子の声が聞こえる。
よく聞いた声だ。
ヤーナムでは、嫌になるほど聞いた。
赤子。
俺にとって、少々苦い存在だ。
ヤーナムの夜明けを目指して奔走していた際、俺は赤子の介錯をする羽目になった。
一人は、漁村の悪夢に迷い込んだ先に見つけた"ゴースの遺児"と呼ばれた老いた赤子。
もう一人は、"獣狩りの夜"を何らかの形で引き起こしていたと思わしき"メルゴー"と呼ばれた赤子。
いずれも、真っ当な手段で救出することはなかった。
ただ夢の中に沈み込む終わりしかなくて、だから狩りを以て葬送するしかなかった。
だがそれでよかったらしい。
あるいは赤子を送ることが狩人としての俺の使命であったようで、だからヤーナムにいた時はずっと赤子の声が聞こえていた。
その声が、また聞こえるんだ。
あの悍ましい"獣狩りの夜"の時と同じように。
「うわーん、うわーん」
また赤子が泣いている。
この"匣の村"のどこかで。
「鬱陶しい……よく、聞こえているよ」
懐に仕込んだ"輸血液"。
ヤーナムの時、"獣狩りの夜"に巻き込まれた時によく頼った薬。
久しく使っていなかったが、使い方は体が覚えていた。
ここでようやく、あの時と同じ"狩人"としての息が整った。
「ぐごぉぉぉぉおお?!」
「ジ、ジャック殿……?!」
チャーリーを斬り殺そうとする匣背負いの獣。
そいつは俺に対して無防備に背を向けていて、だからそこへ容赦なく赤い千景の刃を突き刺した。
「うわーん、うわーん」
そんな赤子の声を尻目に、獣に突き刺した千景の刃を横に薙いで獣の背を掻っ捌いた。
その時は不思議と獣が背負っていた匣を傷つける発想はなく、匣を傷つけない軌道で獣を攻撃していた。
後々思えば、それはある種の確信と運命だったのかもしれないな。
「ぐ、ぐぅぅぅうう……!」
ともあれ、匣背負いの獣に大きな決定打を叩きこんだ。
これで今度こそ匣背負いを追い詰めたと言っていい。
「ぐぁあぁあ…………」
「っ! ジャック殿、獣が逃げたぞ……?」
その後、数秒ほどにらみ合いを続けて、匣背負いはその場から逃げ出した。
後を追うことも考えたが、警官が何人か傷を負っていることを考慮して彼らの応急処置を優先した。
「ひとまず、酒場に彼らを運ぼう。奴を追うにしても、状況を把握するにしても、この二人を治療してからだ」
「道理だな。酒場に向かおう」
気が付くと、もう日が暮れていた。
新しい"獣狩りの夜"が始まったのを、示唆するかのようだった。
赤子の声は、何故かもう聞こえなかった。
ジャック
ヤーナムの"獣狩りの夜"を乗り越えた狩人。だが今でも夢を見るようで、狩人としての力で食い扶持を稼いでいる。
特別な血の持ち主であり、特にカインハーストの武器と相性がよく、故にカインハーストの武器『千景』『エヴェリン』を狩りに用いる。
また、何らかの形でカインハーストと縁があるらしく、ヤーナムに向かう動機にカインハーストへいざなう招待状の存在があった。
尤も"獣狩りの夜"に巻き込まれたことで生き残るのに必死で、結局カインハーストでは武器と技術を持ち帰るのみに終始した。
今となっては、どういう縁があったのかはもうわからない。
チャーリー
ジャックに獣狩りを依頼した警官。
匣の村に現れた獣を駆除する任務を任され、そのためにジャックを雇った。
匣の村について聞かされた時、色々な噂を聞いた。
例えば「何らかの遺跡のなりそこない」だとか、「何かあった時に村人を村に閉じ込めるために匣のような地形になった」とか。
いずれにしろ、奇妙な村という感想には変わらない。
匣背負い
匣の村を訪れたジャック達を襲った獣。
二足歩行で大きな爪と膂力を誇り、そして素早い。
また布で縛った匣を背中で背負っている。故に"匣背負い"。
他の獣と比べて強靭な意思を感じさせ、そして生き汚い。
だからか、獣は匣を背負ったままどこかへ逃げ延びた。
※この"匣背負い"はブラッドボーン本編に照らし合わせると、序盤のガスコイン神父枠のボス。
→ぶっちゃけ見た目や戦法も獣化した後のガスコインを少し強化したようなイメージ。