匣の村   作:上代わちき

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 今回SEKIRO要素があります。


三話「首無しの獣」

 

 

 

 教会の地下に、遺跡が広がっていた。

 ヤーナムの悪夢でも見た、所謂"聖杯ダンジョン"と呼ばれる遺跡に似た雰囲気の場所だった。

 

 だがここの遺跡は状態がいい。

 定期的に人の手が入り、管理されていたらしい。

 

 

 

「なんなんだここは?」

「ここに手記があるぞ。どうやら定期的に出入りしていたようだ」

 

 また入ってすぐに文机があり、手記があった。

 書いたのは、多分先程の聖職者なのだろう。

 

 

 

「えーと、なになに……最奥の"虫"についての記録? この"虫"とやらを監視していたというのか」

「監視……まさかこの村、この"虫"を封じ込めるための場所だったんじゃないのか? 匣のような地形と合致する」

「道理で獣の病を村に封じ込めるための設備が整っていたわけだ。村ができている時点でこの状況を予測出来ていたんだ」

「となると、教会の聖職者が直接の監視と管理役というわけだな。だから一番最初に獣になった」

 

 

 チャーリーに対しては言わないが、おそらくは前述の"聖杯ダンジョン"に近しい施設なんだろうと思う。

 ふざけた力を持つ怪物どもが眠る墓の類で、転じてその怪物どもを封じ込める封印としての機能もあった。

 ヤーナムにいた頃は使えるものをなんでも使わないと生き残れなかったから積極的にトレジャーハントと称して墓暴きしていたものだが、本来はかなりリスクがあるものだ。

 それこそ、地上に獣の病が蔓延するような事態に至ったとしても、俺はおかしくないと思う。

 だから普通、この手のものは放置しておくかここのように厳重に管理するのが筋だ。

 

 本来この遺跡は、適切に管理されていた筈だ。

 だからここから獣の病が噴出するからには、相応の"理由"がある筈だ。

 

 

 

「また手記だ。……こちらは個人的なものだな」

「こちらも失礼して……『死にたくない』? この手記の主、不死の手段を探していたようだぞ? そのために"虫"の資料を集めていたようだ」

「不死……? まさか"虫憑き"を試そうとしたのか?!」

「……動機はどうあれ、"虫"を解放したらしい。度し難い……!」

 

 

 虫憑き。

 極東の一部にて伝わる存在で、『死なず』とも呼ぶらしい。

 文字通り虫に憑かれることで不死となる存在なのだが、よくもまぁそんな存在の情報を仕入れることができたものだ。

 

 よほど死にたくなかったのだろう。

 同じ存在であるという証左もないのに、この奥の"虫"を解放したようだ。

 

 

 

「状況証拠だが、事の次第は読み取れた。ことの発端はここを管理していた先の聖職者。不死を目的に、この奥の"虫"を解放した。それが獣の病の原因かもしれん」

「"虫"か。確かに我々警察でも、各地で発生する病の原因の候補として"虫"の可能性を見ていた。これに詳しい専門家が、虫を見ているんだ」

 

 

 繰り返しになるが、この遺跡はほぼ間違いなく"聖杯ダンジョン"に近しい施設だ。

 だからここに眠るという"虫"は確実に碌なものではない。

 

 獣の病の原因として有力視されているものの一つに、ある種の聖杯ダンジョンに潜む"獣血の主"という存在がある。

 見た目は獣だが、そのうちに"虫"が潜んでいる怪物で、一部の狩人はその"虫"こそが原因であると嘯く。

 今ある情報を整理すると、この"虫"こそが今回の獣の病の原因と断定するしかない。

 

 

 明確な証拠があれば確実だが、今は状況が悪い。

 ことの真相は、不安要素である"虫"を処理して落ち着いてから、確かめるべきだ。

 

 

 

「この"虫"を探して、狩るぞ。今はそれが最適解だ。狩らない手はない」

「ああ。異議はない」

 

 

 

 

 

 

 地下遺跡を進むと、危険地帯と化していた。

 人の手が入っていたとしても、獣の病が蔓延する非常事態となれば人食いクモが出てくるようになるらしい。

 ますます普通の遺跡じゃないが、今はそういうものと受け止めるしかない。

 

 だがまぁ、油断をせず落ち着いて対処できれば俺の敵ではない。

 道中に出て来た化け物は、すべて狩った。

 

 

 

 

「これは、獣……?」

「首が斬り落とされている……?」

 

 

 

 安全に"虫"がいるという最奥にまでたどり着けた。

 中には首を切り落とされた獣の死体があって、その傍に獣の首と、首を切り落とすのに使っただろう大刀が堕ちている。

 

 

 

「厳重に封印されていた扉があったからどんな化け物がいるかと思ったが。首が斬り落とされているんじゃ、もう生きていないな」

「…………。先の手記曰く、これが先の聖職者が解放した"虫"らしい。獣の姿をしているってな。……こいつの首を落とすたぁ、獣になる前も相当化け物だったんだな、あいつ」

「もしくはそれだけの執念だったか。死にたくないってのは誰だって同じだ。変に死期が見える上流階級や老人は、手段が増えるから余計に躍起になるとも聞く」

「全員が全員そうではない……とは否定できないのが嫌なところだ」

 

 

 チャーリーが獣の死体に近づく。

 

 

 

「っ! 待て、チャーリー! そいつが死んでいるとは限らない!」

「え……っ?!」

 

 

 唐突に啓蒙が囁く。

 

 というより"獣血の主"を思い出したんだ。

 奴は、首がない状態で動いていた。

 

 中に虫がいるからだ。

 

 

 

 この獣も、似たような性質だったようだ。

 

 

 

「気をつけろ。この"首無しの獣"、片方の腕は切り落とされた首を持ってふさがっているが、右腕の方に大刀を構えている」

 

 

 

 首のないまま動く"首無しの獣"が、大刀を構える。

 流石にあれをまともに食らうわけにはいかない。

 輸血液の回復すらできず真っ二つにされちまうだろうよ。

 

 だから俺もチャーリーも、"首無しの獣"から離れるようにして大刀の斬撃を避けるしかなかった。

 

 

 ただまぁ、それだけだとジリ貧だ。

 いずれこっちから仕掛けないと話が進まない。

 

 だからあいつがまた大刀を振り上げたタイミングで仕掛ける。

 

 

 

「食らえ!」

 

 カインハーストの銃"エヴェリン"。

 こいつで水銀弾をぶっ放して、奴の足元を撃ち抜く。

 

 攻撃する際の隙を突いた銃撃で、だから奴は怯んだ。

 その隙に乗じて千景を構えて奴に肉薄する。

 

 

 

「うぉっと……!」

「ジャック殿……!」

 

 だが"首無しの獣"が体幹を取り戻すのが先だったようで、大刀によるカウンターが飛んでくる。

 とっさに千景の刀身で受け止め、弾くしかなかった。

 ガキィン! という甲高い金属音が響いて、空気が破裂するように火花が鋭く散っていく。

 

 ヤーナムではあまりやらなかった防御法だ。

 あまり慣れないやり方で、正直何度も同じように凌げる自信はない。

 

 

 

「もう一度こいつを食らいな!」

 

 

 だから慣れているエヴェリンの銃撃で、今度こそ確実に"首無しの獣"の体幹を崩す。

 

 チャンスだ……!

 

 

 

「引きずり出してやるよ!!!」

 

 獣の首の断面に右手を突き刺す。

 内蔵攻撃の要領だ。

 

 獣の中に響くような衝撃を与えつつ、中にいる"それ"を見つけて掴み取る。

 それを、大量の血と共に獣の首から引きずり出してやった。

 

 

 

 やはりだ。

 こいつも"獣血の主"と同様の化け物で、だから獣の姿なのに"虫"だったわけだ。

 

 

 

「さぁそのまま…………あ?」

 

 引きずり出した虫を、獣の肉体から引き離して千景で突き刺す。

 そうしようとより力を込めたところで、目が合った。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 目の主は、"首無しの獣"が左手で持っている生首。

 そいつは何故か生きていて、何故か俺の方に目を向けていた。

 

 ぞわり、と背筋から冷たい虫が這いあがるような感覚を覚えた。

 

 "これ"、なんだ……?

 そう思っちまうほどに、その瞬間の俺は凍っていた。

 

 

 

「アァアァアアアアァアアアアアア!!!!!」

 

 生首が、叫び声をあげる。

 その衝撃は凄まじく、その音圧だけで"首無しの獣"の体から引き離された。

 

 

 

「くそ……!」

 

 しかもだ。

 俺としたことが、その時の衝撃で左手に構えていたエヴェリンを落としちまった。

 これじゃあもう銃撃で体幹を崩すことができない……!

 

 

 

「ジャック殿! また大刀が来るぞ!」

 

 チャーリーの声で、ようやっと意思を取り戻せた。

 首から虫が出てきたり生首が叫んだりで狼狽してるのはあいつだって同じ筈だが、それでもチャーリーの方が冷静な辺り、どうも俺は中てられていたらしい。

 

 だがおかげでようやっと怖気が抜けた。

 

 

 "首無しの獣"が振り下ろしてくる大刀を、また千景で弾いて受け流す。

 何とかうまくいった。

 

 

 

「っ?!」

「ジャック殿?!」

 

 

 だがだめだ。

 

 千景で弾き飛ばした衝撃を逆利用して"首無しの獣"が放ってきた大刀の薙ぎ払いを、うまく弾けなかった。

 千景の刀身で受け止めこそしたが、そのまま千景ごと体が浮き上がって、思いっきり壁に叩きつけられてしまった。

 

 今ので内蔵や骨をだいぶやられてしまった。

 体が、動かない……!

 

 

 

「…………」

 

 輸血液がある懐へ腕を伸ばすが、回復が追いつく気がしない。

 もう目の前に、大刀による追撃を構える"首無しの獣"がいた。

 

 

 

 

 

 

「おらぁ! こっちだ化け物!!!」

 

 大刀による追撃が止まる。

 ……チャーリーが、右手の銃で"首無しの獣"を銃撃したからだ。

 

 

 チャンスだ。

 すぐ輸血液を使用し、体の傷をふさぐ。

 血が大量に体の内に入り、暖かい生命の熱と共に活力がみなぎってくる。

 もう体は正常に動く。

 

 

 

「ぐ……?!」

「っ、チャーリー!!!」

 

 だが、その間にチャーリーは攻撃を食らってしまった。

 銃を盾代わりにして直撃こそ避けたものの、俺と同じようにそのまま壁に叩きつけられたようだ。

 

 その衝撃は、狩人でなければ耐えられるものではない。

 チャーリーの肉体では、今の一撃だけで重いものとなる筈。

 

 

 つまり、チャーリーは……。

 

 

 

 

 

「…………」

「っ。すまねぇ……!」

 

 "首無しの獣"と対峙して、血の刃を纏う千景を構える。

 

 エヴェリンはまだ手元にない。

 この血の刃だけで、次の立ち合いを凌ぐか制するしかない。

 

 

 

「…………」

 

 "首無しの獣"が、右手の大刀を大きく頭上に振り上げる。

 それから一歩大きく踏み込んで、むんずと縦一文字に振り下ろしてくる。

 

 

 

「っ!」

 

 あえて前に進む。

 ギリギリのところ、打ち下ろしの刹那で大刀の剣筋を見切る。

 

 

 

 

「…………」

「っ!」

 

 果たして、見切りは成功した。

 先は戦闘の気に中てられて刀身で弾くことに躍起になってしまったが、俺はやはり回避に注力するのが向いているらしい。

 うまく風のように横へ避けて、そのまま"首無しの獣"の懐まで肉薄する。

 

 

 

「食らいやがれぇ!!!」

 

 千景による血の斬撃。

 血の呪いと劇毒を宿す闇の力で"首無しの獣"の足元を突き刺しては斬り下ろし、その体幹を崩す。

 

 

 

 

「そんで、これでしまいだ!!!」

 

 

 そしてもう一度"首無しの獣"へ内蔵攻撃を仕掛けて、そのまま首から飛び出す"虫"を獣の肉体から引きちぎる。

 

 それで、ようやっと"首無しの獣"を無力化することができたのだった。

 生首の目も、死んだようだった。

 

 

 

 

 

 

「チャーリー」

「ジャック、殿……っ!」

「すまねぇ……俺のせいで、あんたを犠牲にしちまった……!」

 

 最低限の処理だけ簡単にして、すぐチャーリーの体を診る。

 

 俺は本職ではないが、これは流石にだめなのがわかる。

 チャーリーはもう、助からない。

 

 

 

「それよりも……"虫"は……」

「撃った。確実にトドメを刺して、狩った」

 

 獣から引きちぎった"虫"は、それでもまだ生きていた。

 それを見てすぐ回収したエヴェリンで銃撃して、確実に殺した。

 最低限の処理とは、そういう意味だ。

 

 

 

「なら、いい……これで、この獣の病は、もうひろがらな……っ!」

「……チャーリー」

「ジャック殿、これを……」

 

 血だまりに沈むチャーリーから、手帳のようなものを渡された。

 これは、匣の村に入る際に見張りに見せて封鎖を一時的に解いた時に使っていた。

 

 

「この手帳を見せれば、見張りは外への出入り口を開いてくれる……街に、帰れる筈だ……」

「……ああ、わかった」

「それと、署の人間に予めこうなった時の備えとなる話をつけてある……その手帳を見せれば、約束の報酬金が……っ?!」

 

 チャーリーが、血を吐きだした。

 いよいよもって、体の活力と熱が失ってきた。

 

 

 

「だから、あとのことを頼む。こんな、ふざけた病を。広げないで……私は、息子の生活を、護ら…………」

 

 

 チャーリーが息絶えた。

 

 俺はいつもそうだ。

 獣を狩ることには慣れているが、獣から人を護ることにはまるで経験不足で知識不足だ。

 今回も、何もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 今回俺に依頼された仕事は、獣を狩ること。

 より厳密には、警察の処理を邪魔するであろう脅威を取り除くことが主目的だ。

 こういってはなんだが、獣の病の原因を探り根絶するのはぶっちゃけそのための手段であり過程でしかない。

 

 だからまぁ、当初警察の脅威として立ちはだかった"不死身の獣"と、新たな脅威になるかもしれなかった"首無しの獣"を排除した時点で、役割の殆どをこなしたと言っていい。

 

 

 

 残りは、ただ一人だけ。

 

 

 

「……酒場が、燃えている?」

 

 

 そうだ。

 まだ、俺の仕事は残っている。

 

 ここからが正念場だろう。

 

 

 




※次回、最終回。


 ジャック
 ヤーナムの"獣狩りの夜"を乗り越えた狩人。カインハーストの業を使う。
 "不死身の獣"に引き続き、"首無しの獣"という強敵を次々と屠った。
 だが、それでも己は完璧ではないと自省している。
 ヤーナムの時から、まともに人を救えた試しはなかった。

 作中で墓暴きを否定するような言葉を吐いたが、筆者に言わせれば棚上げ案件。
 人を救えない無力感に怒りを覚えるのも嘘ではないが、その本性はどのみち墓暴きのそれでしかないという部分も本物。



 チャーリー
 ジャックに獣狩りを依頼した依頼主。
 ジャックの窮地を救ったが、その代わり自身が犠牲となった。
 実は既婚者であり、子供がいる身。
 だからこそ、獣の病が子供のいる場所にまで広がることを何よりも恐れていた。




 首無しの獣
 匣の村の教会の、その地下遺跡に潜んでいた獣。
 首のない肉体をしており、右手には大刀を、左手には生首を抱える。
 だがその肉体の内に虫を宿しており、その虫こそが獣血の主であるという。

 かつてこの村を築いた領主一族は、この"虫"を恐れた。
 故に地下に幽閉し、さらに地上の村に"虫"の監視を命じ、さらに何かあればすべてを村に閉じ込められるよう一計を講じた。
 それが"匣の村"の正体である。



 余談1
※"匣背負い"がガスコイン枠、"不死身の獣"がエミーリア枠なら、"首無しの獣"はロマ枠です。今回の共通点、虫要素があるだけですけど。
→なおわかる人はわかると思いますので白状申し上げますと、今回の"首無しの獣"はSEKIROの首無し獅子猿っぽいイメージで書きました。不死ではないですけども。
→念のため申し上げると今回の"首無しの獣"とSEKIROの獅子猿は無関係です。獣と虫の共生関係の結果、たまたま似ただけという設定です。勿論SEKIROの首無しとも無関係。

 余談2
→「ガスコイン」「エミーリア」「ロマ」の三者には共通点があったりします。全員撃破後のムービーでヤーナムの時間帯が進むボスです。
→原作ではガスコイン撃破後のオドン教会ムービーで「宵」に、エミーリア撃破後頭蓋ムービーで「月夜」に、そしてロマ撃破後ムービーで「赤い月」となります。
→「赤い月」以降は、ゲームクリアまでヤーナムの時間帯は進行しません。そのためその流れを汲む本作もまた、次回で一気に完結となります。

 余談3
※本当に獣の病の原因が"虫"であるとは限らないです。個人的な意見としては、複数ある原因の一つか、もしくは病の媒介者に"虫"がいるのが現実的な落としどころとも考えています。
→ただ、ブラッドボーンをテーマに本当の真相を探ると複雑怪奇となります。そのためこの話の時点では、あえて"虫"を今回の病の原因として断定しています。
→本作は"考察"ではありません。"虫"がブラッドボーンの獣の病の原因とは限りません。上述の設定はあくまで本作限りの断定で、ただの演出です。
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