Side:華恋
四方田君に言われた『死ぬ事は逃げ』という言葉。それがずっと頭の中をグルグルと巡っている。
「ば、ばっとぅ?」
「あ、君は……」
モソモソと布団の中から這い出てきた四角い子。……確か記憶ではキュービットって呼ばれていた筈だ。
「キュビ、クルクル?」
「……心配してくれてるの?」
「きゅっび!」
ぴょんぴょんと跳ねるキュービット。少し微笑ましくて、思わず口角が上がってしまう。
「ふふっ……。ありがとう」
「キュビッ!!」
と、ふと外を見た時。この家の前を二人乗りの改造バイクが駆け抜けていった。
あのバイクは見覚えがあった。キュビズムが乗っていたバイクだ。なら、今の二人組は……
「四方田君と……海歌ちゃん?」
慌ただしい雰囲気の二人。一体何があったのか。
「もしかして、魔物かな」
思わず予想が口からこぼれる。けど、一度人類を裏切ってしまった私が関わる資格なんて無い。何より、今の私には魔法少女として戦うための魔力すら無いのだから。
そう考え、視線を逸らす。と、
「きゅっび!!きゅっびっ!!」
「キュビキュビー!!」
「キュビッビッビッビッ!!」
と、キュービットが三体、ピョンピョンと縁側に続く障子の前で跳ねている。
「もしかして、出たいの?」
「「「キュッビッ!!」」」
思わず聞くと、声をそろえて返事をされた。けど、どうしよう。もう、あの二人は結構離れてるし……。
「何か悩んでるのかい?」
「うひゃあっ!?」
考え込んでいると、すぐ近くから人の声がした。驚いて思わず変な声が漏れた。
「おやおや、驚かせてしまったねぇ」
「えっと、貴女は……」
振り向くと、お婆さんがお盆にお茶を淹れた湯呑み……湯気が出て無いから冷茶だろうか……をのせて持っていた。
「私かい?私は貴田花、いつも孫が世話になってるねぇ」
「貴田……孫……。ああ、海歌さんのお祖母さん!!」
その正体に行き着き、スッキリする。それにしても、油断してたとは言え気配を感じ取れなかったなんて。……私も腕が落ちたのかな。
「ところでさっきから悩んでるようだけど、どうかしたのかい?」
「はいお茶」と、湯呑みを手渡してきながら花さんは質問してきた。
「まあ、ちょっと……」
「あんたは若いんだから、悩んだら取り敢えず突っ走ってみたらいいのさ。それが若者の特権さね」
言い淀む私にそう言う花さん。けど、
「もし失敗してしまったら……」
「失敗なんて、後から取り返せるもんだよ」
「けど……!!取り戻せないものもあるんですよ!!」
思わず言い返してしまう。やってしまったと、言ってから青褪めるが、花さんは顔色変えずに一口お茶を飲み唇を湿らすと口を開く。
「なら、一生懸命取り返せばいいさ。失った分……いや、それ以上をね」
「失った分以上を……」
はなさんの言葉を繰り返してしまう。それが、今の私に必要なこと……?
「どうやら、何か見えてきたようだね」
「……はい。ありがとうございました。花さん」
「そんな真面目くさって言わなくてもいいよ!ただの老いぼれの戯言さね」
照れ隠しか、そう言って手を振るう花さん。そして、
「……ほら、行きたいんだろう?早く行ってきな!」
「はい!!」
障子の前で動かなくなっていたキュービット三体を引っ掴むと、私は玄関へと向かうのだった。
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Side:花
「まったく、
手に持つ湯呑みの茶を飲みつつ、思わず愚痴をこぼす。
「……けど、お陰でマイナスな方向に向かっていた意識を引き戻せたけどねぇ」
『手助けに行かなくてもいいのか、花』
「何を言ってるんだね。私はもうただの老いぼれさね」
影の中から聞こえてきた古くからの相棒にそう答えつつ、家を飛び出していった元アビスマータちゃんこと華恋ちゃんを見届けるのだった。
伏線貼り貼り〜♪