紅莉栖が槙島聖護に子供を授かってからしばらくの時間が経った。最初は全く興味を示さなかった槙島だったが、出産後、彼の態度は一変した。小さな命を目の前にした彼は、徐々に父親としての自覚を芽生えさせ、次第にその子供を溺愛するようになっていった。
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朝の始まり
「…泣いているな。」
まだ日の出前、早朝の静寂を破って聞こえてきた赤ん坊の泣き声に、槙島はふと目を覚ました。隣でぐっすりと眠る紅莉栖を見て、彼は静かにベッドから抜け出す。
彼が赤ん坊の部屋に入ると、ベビーベッドの中で小さな体を丸めて泣いている我が子がいた。槙島は表情一つ変えず、ゆっくりと手を伸ばし、赤ん坊を抱き上げた。
「どうした、もうすぐ朝だぞ。お前も起きるには少し早いな。」
彼は赤ん坊を優しく揺らしながら、低く囁いた。槙島の落ち着いた声に反応してか、赤ん坊の泣き声は徐々に小さくなっていく。槙島はその小さな顔を見つめながら、微笑を浮かべた。
「君は、僕の計画にもなかった存在だ。だが、不思議なことに…君の存在が愛おしくてたまらない。」
彼は冷静さを保ちながらも、内心では自分がこんなにも子供に対して感情を抱くとは思っていなかったことに驚いていた。自分の腕の中で眠り始めた我が子を見つめると、心の底から温かいものがこみ上げてくるのを感じた。
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おむつ替え
「槙島さん…朝早くからありがとう。あなたが起きてくれたのね。」
朝食の準備をしている紅莉栖が、槙島に声をかける。槙島は、笑顔で寝かしつけた赤ん坊をベッドに戻すと、何事もなかったかのように頷いた。
「大丈夫だよ。彼女は僕に任せておけばいい。君はしっかり休んでいてくれ。」
その言葉に、紅莉栖は少し驚いた。かつては冷静で感情を見せなかった槙島が、こんなにも父親らしく振る舞う姿を見て、思わず微笑んでしまう。
「じゃあ、おむつ替えもお願いできる?」
冗談のつもりで言った紅莉栖の言葉だったが、槙島は真剣に受け取り、赤ん坊を再び抱き上げた。
「もちろん。僕がやるさ。」
槙島は落ち着いた動作でおむつを取り替え始めた。慣れた手つきでおむつを外し、新しいものをセットする。その様子に紅莉栖は驚く。彼がこんなにも自然に子供のお世話をこなすとは思っていなかったのだ。
「槙島さん、いつの間にこんなに手際が良くなったの?」
紅莉栖は驚きの声を漏らす。槙島は少し誇らしげに微笑んで答えた。
「彼女の世話は、僕にとっては心地よいものだ。時間とエネルギーを費やす価値がある。どんな知識も、使えば身につくものさ。」
彼はおむつ替えを終えると、赤ん坊を軽く抱き上げて、優しく頬を撫でた。その仕草はこれまでの槙島とは別人のように穏やかで、温かみがあった。
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お昼の時間
その日の昼下がり、紅莉栖は少し外出する用事があり、家には槙島と赤ん坊が二人きりとなった。昼食を終えた槙島は、赤ん坊を抱っこしながらゆっくりとリビングのソファに座る。
「さて、お前もお腹が空いているんじゃないか?」
彼はミルクの準備をしながら赤ん坊に語りかける。まだ自分では何も言葉を発しない赤ん坊だが、槙島に対して不思議と穏やかな表情を浮かべることが多かった。
槙島は冷静に、しかしとても丁寧に赤ん坊にミルクを与え始めた。小さな口がミルクを吸い込む様子を見つめながら、彼はふと考えた。
「この子は、僕とは違う人生を歩むだろう。だが、君は未来に何を見つけるのか…それは僕にとっても興味深い。」
槙島にとって、赤ん坊は「未来」という未知の可能性そのものだった。彼の哲学的な視点から見ても、子供はまだ純粋で、何者にも影響されていない存在だ。彼はその未来に対して、興味を持たざるを得なかった。
ミルクを飲み終えた赤ん坊が、満足げに目を閉じたのを見て、槙島は再び優しく笑みを浮かべた。
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紅莉栖が外出先から帰宅すると、リビングでは槙島が赤ん坊を抱っこしながら本を読んでいる姿があった。彼は物語を朗読するかのように静かに語りかけており、赤ん坊は心地よさそうにその声を聞いている。
「槙島さん、彼女は本当にあなたが好きね。」
紅莉栖がそう言うと、槙島は微笑みを浮かべて答えた。
「僕も彼女が好きだよ。彼女は僕にとって…特別な存在だ。」
紅莉栖はその言葉に少し胸が温かくなった。かつて冷徹だった槙島が、こんなにも優しく赤ん坊に接する姿は、彼女にとって何よりも幸せな光景だった。
「ありがとう、槙島さん。」紅莉栖は微笑んで彼に感謝を伝えた。
槙島はそれに対して、ただ静かに頷き、再び赤ん坊を見つめた。その姿は、かつての彼からは想像もつかないほどに穏やかで、父親としての愛情に満ちていた。
「これからも、彼女を見守っていこう。」
そう呟いた槙島の声は、これまで以上に優しさを帯びていた。