続きをどうぞ
未来ガジェット研究所の午後、紅莉栖はソファに腰掛け、遠くから槙島が娘を抱いて優しくあやしている姿を見つめていた。彼の表情はいつも通りの冷静さを保ちながらも、父親としての愛情が滲み出ているように見えた。娘の小さな手が彼の指を握るたびに、彼の微笑みが一瞬だけ柔らかくなる。それを見つめる紅莉栖の心には、満足感と共に、何かしらの焦燥感が入り混じっていた。
彼女は、槙島と共に娘を育てることに深い喜びを感じていた。しかし、同時に、自分がどこか取り残されているような感覚に苛まれていた。彼の愛情が娘にばかり注がれ、自分に向けられる視線が少なくなっているのではないかという不安が、彼女の胸の中で次第に大きくなっていた。
「ねぇ、聖護さん…」
紅莉栖は、少し不安げな声で彼に呼びかけた。娘に夢中になっている槙島は、優しく微笑みながら彼女を見つめ返す。
「どうしたんだい、紅莉栖?」いつも通りの冷静な口調だったが、娘を見つめる槙島の目はどこか柔らかさを帯びていた。
紅莉栖は、心の内にあるもやもやした感情を吐き出すべきかどうか迷いながら、意を決して口を開いた。
「最近、あなたがあまりにも娘に夢中になっているのを見て、私…少し寂しく感じているの。」紅莉栖は、彼に目を合わせたまま言葉を続けた。「私たちが夫婦であることを忘れてしまいそうで…」
彼女の声には、愛情と共に少しばかりの苛立ちが混じっていた。槙島はその言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべたまま、娘を静かに抱き直した。
「そうか、気づかせてくれてありがとう。確かに、最近は彼女に時間を費やしているかもしれないね。」槙島は紅莉栖に近づき、彼女の手を軽く握りしめた。「だが、それは決して君を疎かにしているわけじゃないんだよ。君がいるからこそ、僕はこうして父親としての役割を果たせているんだ。」
槙島の言葉は、まるで紅莉栖の不安を優しく包み込むかのようだった。しかし、紅莉栖はまだどこか腑に落ちない気持ちを抱えていた。
「でも、あなたが娘に向ける愛情を見るたびに、私があなたの中でどう位置づけられているのか分からなくなるの。」紅莉栖は目を伏せ、声を少し震わせながら言った。「私たちが一緒にいる時間がどんどん少なくなっている気がするのよ。」
槙島はその言葉を静かに聞き、しばらくの間、考え込むように沈黙していた。やがて、彼は紅莉栖の手を少し強く握り直し、彼女の顔をじっと見つめた。
「紅莉栖、君は僕にとって特別だ。君と一緒にいることが、僕にとって何よりも大切なことなんだ。確かに娘の存在は大きいが、君と共に築いたこの家族があってこそ、僕は今の僕でいられる。」
紅莉栖は、その言葉に少しだけ安心したように見えたが、まだ完全に心が晴れることはなかった。「でも、これからも私たちは一緒にいられるのよね?」
槙島は微笑んで頷き、紅莉栖を優しく抱きしめた。「もちろんだよ。君と彼女がいる限り、僕はどこへも行かない。」
紅莉栖はその胸の中で静かに目を閉じ、彼の言葉に耳を傾けた。彼女の中にあった不安は少しずつ和らいでいったが、それでも完全には消え去らなかった。愛と不安が入り混じる複雑な感情の中で、彼女はこの先の未来に対して新たな決意を固めつつあった。