槙島の過去を追体験した紅莉栖は、深く考え込んでいた。彼の生きてきた世界、管理された世界で彼が持っていた理想と行動、その背後にある深い信念は、紅莉栖に強い衝撃を与えた。彼女の頭の中で、何度も彼の過去の出来事がよぎる。
「彼はあの世界で、何を感じ、何を見てきたのか…」
紅莉栖の中で、槙島が見てきた世界と、自分が生きてきた世界とのギャップが、鋭く対比される。管理された世界は、厳格な監視社会で、個人の自由が抑圧され、犯罪係数によって人間の価値が評価される世界だ。科学と理論を信じてきた紅莉栖にとって、その世界はあまりにも異質であり、理解し難い部分も多かった。
槙島が語っていた、「自由とは何か?」という問い。それは彼の生き様の核心であり、紅莉栖にとっても避けて通れないテーマだった。追体験の中で、彼が幾度となくその問いを投げかける場面に直面し、彼女は彼の苦悩と怒りを感じ取っていた。
「私にはわからない部分が多い…でも、彼があの世界で生きるために選んだ道、それは決して彼の本意ではなかったのでは…」
紅莉栖は、自分自身の心に湧き上がる疑念を無視できなかった。槙島の過去に触れることで、彼がただの冷徹な策士ではなく、理想を追い求める一人の人間であることがわかり始めていた。
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「紅莉栖、君はどう思う?」槙島は穏やかな声で問いかけてきた。
紅莉栖は一瞬戸惑ったが、彼の冷静な眼差しを受け止め、考え込んでいたことを言葉にした。「あなたの過去を追体験して、いろいろなことを感じたわ。あなたが戦ってきた世界、それがどれほど歪んでいたのかも理解できる。でも…その世界で、あなたが選んだ方法、行動は、本当にそれでよかったの?」
槙島は少し微笑み、答えた。「紅莉栖、僕は選択肢を持たなかった。ただ、世界のあり方に疑問を持ち続け、それに対して行動を起こすしかなかったんだ。僕の方法が正しかったかどうか、そんなことは重要じゃない。重要なのは、僕が自分自身の信念に従ったということだ。」
紅莉栖はその言葉を聞いて、ますます槙島に対して複雑な感情を抱いた。彼の信念に基づいた行動は、確かに理に適っているかもしれない。しかし、それが多くの犠牲を伴ったことを考えると、彼女の中で疑念が拭いきれなかった。
「あなたの信念が正しいなら、なぜこんなにも多くの人々が犠牲になったの?自由を求めるために犠牲が必要だなんて…」
紅莉栖は問いかけたかったが、言葉にすることができなかった。彼の答えが自分の中で、さらなる疑問を呼び起こすのが怖かったからだ。彼女の中で、槙島の行動と信念の間にある矛盾が大きくなる一方だった。
槙島はそんな彼女の葛藤を感じ取ったかのように、静かに続けた。「紅莉栖、君も気づいているだろう?理想や信念を貫くためには、何かを犠牲にしなければならない。この世界だってそうだろう。時間を操作することで、君たちはいくつもの犠牲を払ってきたはずだ。」
その言葉に、紅莉栖ははっとした。確かに、彼の言う通りだった。タイムマシンを使って過去を変える度に、彼女たちは数々の犠牲を払ってきた。それがなければ、今の世界は存在していなかったのかもしれない。だが、そのことに対して彼女はまだ答えを出せずにいた。
「…それでも、私は…犠牲を正当化するつもりはないわ。」紅莉栖は力なく答えた。
「もちろん、君がそう思うのもわかるよ。」槙島は微笑んだ。「だが、世界を変えるためには、どうしても避けられないことがある。それを受け入れるかどうかが、僕たちの違いだ。」
紅莉栖は槙島の言葉に耳を傾けながらも、完全には納得できなかった。それでも、彼女の中に芽生えた彼への愛情と尊敬は変わらなかった。彼が抱える過去の苦悩を共有したことで、彼女は今まで以上に彼を理解しようとしていた。
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「私たちが今できることは、これまでの過ちを繰り返さないこと…それしかないのかもしれないわ。」紅莉栖は自分に言い聞かせるように呟いた。
槙島はその言葉に静かに頷き、彼女の肩に手を置いた。「そうだね、紅莉栖。僕たちは未来を変える力を持っている。そして、僕たちの娘が持つその力こそが、新たな未来を切り開く鍵となるはずだ。」
紅莉栖は槙島の言葉を聞きながら、心の中で決意を固めていた。彼の過去を共有した今、彼女は彼と共に新たな未来を作り上げる覚悟を決めていた。