『未来への歪み』   作:d1ce-k

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終期 最終章: 志す者の残響

 

 

平和が訪れたかのように見えた世界。しかし、それは一時的な幻影に過ぎなかった。槙島聖護がこの世界に存在すること自体が異質であることを、世界そのものが拒絶し始める兆しが現れたのは、思ったよりも早かった。

 

 

最初は些細なことだった。槙島が家族と過ごす平穏な日々の中で、突然の事故が発生することが増えてきた。彼が外出するたびに、彼の足元が崩れるような不運な出来事が起きた。歩道橋の上で何かが外れて落ちてきたり、車が突然ハンドルを失い彼に突っ込んでくることがあった。何度も間一髪で危機を回避する槙島だったが、彼は徐々に感じ始めていた。「この世界が自分を認めていない」と。

 

 

しかし、槙島はその危機に対して冷静さを失わなかった。紅莉栖や娘の前ではいつも笑顔を絶やさず、どんなに不安が募ってもそれを見せることはなかった。しかし、彼自身が感じる違和感は確実に強まっていた。運命そのものが彼に対して圧力をかけ、彼を排除しようとしているのだと。そして、それが単なる彼個人に留まらないことを悟るのに時間はかからなかった。

 

 

ある日、家族で出かけていたときのことだった。突然、車が制御を失い、猛スピードで紅莉栖と娘の方に向かって突っ込んできた。槙島は咄嗟に二人の前に立ちはだかり、2人を助ける事に成功したが、その瞬間、彼は冷たい現実を理解した。この世界が、自分の存在を完全に排除しようとしているのだと。事故の標的が自分だけでなく、愛する者たちにまで広がっていることに気付いたのだ。

 

「このままでは、紅莉栖や娘も危険にさらされてしまう…。」

 

その瞬間、彼の脳裏にはある決断が浮かんだ。自分がこの世界に存在し続ける限り、愛する者たちにまで危機が及ぶのならば、自分が身を引くしかないのではないか。世界の理が自分を排除しようとしているならば、抗うことは無駄だと悟った。

 

 

 

そして、次の大きな事故が起こった。紅莉栖と娘が街角で買い物をしている最中、突然ビルの一部が崩れ、二人に向かって落下しようとしていた。間一髪のところで、槙島は紅莉栖と娘を押しのけ、自らその瓦礫の下に身を投げ出した。

 

「聖護さん!」紅莉栖の悲痛な叫びが響き渡る。しかし、槙島は瓦礫の下で動けなくなりながらも、静かに微笑んでいた。

 

「これで君たちは…。」槙島は紅莉栖の顔を見つめ、最期の力を振り絞って微笑んだ。そして静かに瞳を閉じ、息を引き取った。

 

 

 

槙島の死は紅莉栖にとって大きな衝撃だった。彼女はその現実を受け入れることができず、何度も彼を失った場面を思い返し、どうすれば彼を救えるのかを考えた。タイムマシンや他の方法を使い、何度も過去に戻って槙島を救おうと試みた。しかし、何度繰り返しても結果は変わらなかった。彼の死は避けられない運命の一部となっていた。

 

「何をしても…彼を救うことはできない…」絶望の中、紅莉栖は自分の限界に直面した。どれだけの知識や技術を駆使しても、世界が定めた運命には逆らえない。槙島を救おうとするたびに彼が再び死に、そのたびに自分が何もできない無力さを感じる日々が続いた。

 

次第に紅莉栖の精神は疲弊し、心が壊れていった。彼を救うことができないという現実が彼女を絶望の淵へと追い詰めた。

 

 

 

月日は流れ、娘は小学生になるまで成長していた。娘は母親である紅莉栖の姿を見て、いつも何かに深い悲しみを抱えていることに気づいていた。紅莉栖は表向きには平静を装っていたが、槙島を失ったことによる喪失感は彼女を蝕み続けていた。

 

ある日、娘は母が静かに涙を流している姿を目撃した。紅莉栖は娘に気づくと、彼女に向かって弱々しく笑いかけ、娘を優しく抱きしめた。

 

「ごめんね、志乃…お母さん、強くないの…。」

 

志乃は紅莉栖の言葉に困惑しながらも、唐突に母に謝り始めた。「ごめんね、お母さん…。次こそは、上手くやるから…。」

 

紅莉栖はその言葉にさらに驚いた。「志乃、何を言っているの…?」

 

「次こそは、ちゃんとお父さんを助けるから…。」志乃は静かにそう呟き、紅莉栖の胸の中で泣き続けた。

 

紅莉栖はその言葉の意味を理解しきれなかったが、志乃の涙の中に、かつて感じたことのない重い決意を感じ取った。もしかすると、志乃は自分たちの力を超えた何かを理解しているのかもしれない。母としての紅莉栖は、娘のその決意にただ寄り添うことしかできなかった。

 

 

世界は、槙島を排除しようとする強制力によって、彼をこの世から追い出した。しかし、志乃の言葉が示唆する通り、その決着はまだついていない。槙島の死が避けられない運命であったとしても、その運命に抗う新たな力が存在するのかもしれない。

 

 

志乃は、父を失った喪失感とともに、何かしらの決意を胸に秘めている。次に訪れる運命の瞬間に向けて、彼女がどのような選択をするのかはまだ誰にも分からない。しかし、彼女の言葉には、未来への希望が込められていることは確かだった。

 

 

「次こそは、上手くやるから…。」その言葉が、新たな未来を切り開く鍵となるかもしれない。

 

 

物語は、この不確定な未来とともに幕を下ろすが、志乃の決意が示す未来への道は、まだ終わりを迎えていない。

 

 

---『未来への歪み』終---

 

 

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