2013年秋、盛岡の地にて。
未だ震災の傷が癒えていなかった人々を勇気づけるべく、がむしゃらに砂を駆ける優駿たちがいた。
【さぁ、先頭集団が最終直線に入った! 依然として先頭を譲らないハルノウラワと張り合うエスポワールシチー! 激しい先頭争い、叩き合いだ! 抜きつ抜かれつで残り200m、脚は衰えません! そのままハルノウラワとエスポワールシチー、ほぼ揃ってゴールイン! これは……あぁっと、写真判定です】
それから程なくして着順が決まった。
1着は10番。2着には8番が表示され───互いの決着はハナ差だった。
【着順出ました……やりました、福延悠一とハルノウラワ! 去年のチャンピオンを下して無事雪辱を果たした! 2着エスポワールシチー、アタマ差……いや、ハナ差まで迫る激しい競り合いを見せてくれましたが、盛岡競馬場、ダートG1マイルCS南部杯。浦和からやってきた乙女の星が見事に逃げ切り、秋の盛岡に春の旋風を吹かせた! また、地方馬としては2007年に高崎から参戦のシャッタードスカイ以来、同じ浦和勢としては2006年からの地方勢四連勝の火付け役、シムーンカルマ以来の快挙です!】
その勝者たる勝ち馬と騎手、馬主や調教師らがウィナーズサークルに集まって表彰式が始まると、観客たちは熱い声援と拍手で彼らを迎えた。
馬は、父譲りの緑のメンコ、母譲りの小柄な体躯が目に見える特徴だったのだが、
「あ、ハルノウラワがお辞儀してる!」
「ハルノウラワ、良く頑張ったよー!!」
観戦に来た子供たちや、その馬を応援していた人々がそんな仕草に思わず笑みをこぼし、観客席の歓声はより大きくなった。
……実は本来、馬という生き物は大きな音には敏感なのだが、その勝利馬は全く動じていない。しかも、この馬、実は牝馬なのだ。もっと言えば、血統を考えるとここまで大人しい馬になるとは普通に考えられない。なのに今、騎手───福延悠一の目の前にいるこの馬は、
「あ、今度は笑ってる!」
「あはははっ、可愛い!」
観客に向けてのファンサービスだろうか、歯を見せて笑っていた。
(……思えば思うほど、この
福延はそんなことをボーッと考えていたが、
「それでは、勝利騎手のインタビューです」
司会役のアナウンサーにマイクを向けられると一先ず、物思いに耽るのをやめてインタビューに答えることにした───。
───2007年頃のとある時期。
「ちょ、オーナー、これはちょっと……」
北海道日高の、とある牧場。
この牧場では競走馬の生産や育成を主な事業として取り組んでいる。
またオーナーの方針で、殺処分されかけた競走馬などを出来る限り買い取り、種牡馬や繁殖牝馬、もしくは乗馬やふれあい用として第2、第3の馬生を送らせようと努力している、この当時としては珍しい取り組みを行なっている場所でもあった。
その名を、「ハグロ牧場」という。
当然、繁殖牝馬の交配を決めるのもオーナーである。
このオーナー、時には堅実に、時には浪漫に走る傾向もあり、中には「どこからそんな配合を思いつくんだ!?」とツッコミどころも度々出てくる。
「ナリタトップロード産駒のゴーアレディの2006といい、アイルトンシンボリとファレノプシスの間に生まれたハグロフォルゴーレといい……まだ芽が出たばかりで予想が付かないのに、今度はこの配合ですか……?」
「別に売るつもりはないさ」
「だとしてもこれは……」
牧場長が難色を示した配合。
それは、
父・キングヘイロー、
そして、
母・ハルウララ、
という種付けの予定だった。
「確かに両者にはリファール系が二、三代前で両方とも見られるし、ハルウララに至ってはパーソロン系の血が濃い。……だが、
「はぁ……」
牧場長はこう思った。
(まぁた始まったよ)と。
このオーナーは時に、天のお告げのような、奇妙な血統とか、名前とかを思いつく。
その一例が、
3歳時に桜花賞と秋華賞を勝利し、今年はこれから天皇賞・秋に挑むが、その前に函館記念と札幌記念で北海道二冠を狙うつもりだという。誰が見ても現状実力のある現役牝馬の一頭だと認識するだろう。
だが、その馬が生まれたきっかけも、オーナーがスペシャルウィークとビワハイジの配合を思いついた所から始まっている。
なお、ビワハイジは、倒産した早川牧場(後にハグロ牧場へ再編)から日高大洋牧場を経てハグロ牧場に戻ってきた繁殖牝馬であり、日高大洋牧場はスペシャルウィークの生まれ故郷でもあった。
その二頭が同じ牧場で顔を合わせた時に仲が良いようにこのオーナーには見えたらしく、彼は大洋牧場を経営しているスペシャルウィークのオーナーに何度も頭を下げて、種付け交渉を勝ち取った。
さらに、彼は種付け時の馬同士が仲が良いかどうかの相性も見て決めてくる……らしいが、一体彼には何が見えているのか。牧場長にはさっぱりわからなかった。
「……わかりました。とりあえずこれで行きます。でも、どんな気性難が生まれても自己責任でお願いしますね?」
「分かってるさ……」
しかし、普段この牧場長も配合には特に文句を付けてくることは無い。
むしろ、今回のことは珍しかった。
何せ、パーソロン系の血に、リファール系のクロス。
ついでに、キングヘイローとハルウララの二頭は共に気性難という共通点すらある。
これでキングヘイローの
……そんな一抹の不安は感じたが、オーナーが「どうしても」と言ってきた限りはオーナーの責任なので、牧場長は、「俺はもう知ーらない(意訳)」ということで、キングヘイローとハルウララの交配を準備させることにした。
それから時は流れて約1年後。
〈……で、貴方が生まれたの〉
〈えぇー……〉
母馬・ハルウララの初産。
生まれ出てきたのは鹿毛の牝馬。
その牝馬は、自身の誕生秘話を母から聞かされて明らかに引いていた。
そして、まだこの時は誰も知らなかった。
この生まれたばかりの牝馬が競馬のダート界に新たな旋風を引き起こすことを。
今回は馬名をぼかしていますが、ストーリーが進むにつれて解除して行く予定です。
主人公の前世は?
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架空馬超マシマシ
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架空馬ちょい増し
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ほぼ史実通りにやれ