本当はこの冒頭部分だけを投稿して12.5話という扱いにしたかったんですが、短すぎて投稿できず……(約600文字ほど)
泣く泣く書き足して、1話にしました。
若草賞が大盛況に終わり、関東に帰ってきて、何やかんやあって4月半ばに入ると、少しずつ日本中が落ち着きを取り戻し始めていた。
それでも被害が甚大なことには変わりがなく、競馬のレースもそのほとんどが開催地変更を余儀なくされた。
【オルフェーヴル、オルフェーヴル、抜け出した! ゴールイン! やりましたオルフェーヴル、代行開催の地となったここ小倉でクラシック三冠の一冠目を手にした!】
私の前世では東京開催だった皐月賞が、なんとこの世界では小倉での開催になってしまうとは驚いた。何気に小倉でG1開催なんて初めてなんじゃない?
何故こんな離れ業ができたのかというと、一時期競馬場としては閉場していた中津競馬場をトレセンとして改修したお陰で、中央馬たちが小倉へすぐ向かえるような体制が出来ていたからだという。
その中津競馬場では、本来なら高知でやるはずだった黒船賞を代行開催したというんだからさらに驚いた。
それも中山や南関東などで開催するはずだったダート競走は被災していない地方競馬場を総動員し、ついでに地方にお金を落とさせまくる徹底ぶり。
また、マリーンカップは被害が比較的少なかった足利競馬場で4月14日に代行開催した結果、近年でも稀に見る超満員になったんだそうな。
私が知ってる歴史では2011年はマリーンカップも黒船賞も中止に追い込まれていたのに三度驚いた。いやぁ、驚くことばかりだ。地方競馬場が4つや5つ生き延びてるだけでこんなに違ってくるなんて。
ただしその一方で、浦和の桜花賞を始めとする複数の競走は残念ながら中止を余儀なくされたものもある。他の地方競馬場にも開催が優先された競走も多数あり、そのスケジュールとの噛み合わせが悪かったり、代行開催地が南関東から遠くなってしまったものなどもある。
……まぁ遥々、広島まで行って若草賞に出て勝って帰ってきたら「桜花賞出来るぞ!」なんて言われても出れないので困る。
ただ、若草賞への出走は本来の予定になかった遠征だったことを岡嶋先生は考慮して、念のため、4月末の東京プリンセス賞は回避になっちゃった。私行けたんだけどなー……。
大井競馬の人が「お願いだから出てください!」って血涙流しながら土下座していたらしい(馬主さん談)。
その代わり馬主さん、「
実は馬主さん、私の今年の目標(特に後半)についてはかなり悩んでいるみたい。
そもそものプランでは南関東オークスの結果如何ではJDDに出さずに9月のオーバルスプリントに直行させてから、11月の浦和記念かチャンピオンズカップのどちらかに出して、今年最後のレースに東京大賞典のつもりでいたみたい。
ところがあぁ言ってしまった以上はJDDに出なければ不義理になるし、そもそもこの世界では「忠臣・浅井長政」の子孫である馬主さんからしても捨ておけない問題みたいだ*1。
本番まで時間がないので実戦経験を積みつつ、余裕を持って2100mを走り切るスタミナを付けることが目下の課題になった。
それで5月開催の東京湾カップ*2に出走することに。
もちろん、これにはちゃんと意味がある。
曰く、
「若草賞は1800mとはいえ格付けなしの重賞に過ぎない。難易度は南関の優駿たちが集まった東京湾カップの方が高いだろう」とのことで、ついでに「(今年前半の山場である)JDDの予行演習」も兼ねるとのこと。
このレース、後々知ったけど、あのイナリワンが初代チャンピオンなんだそうな。
ちなみに「東京スプリントに出したかった……」と馬主さんはボヤいていたけど、開催時期的にそれだと休養のために東京プリンセス賞を回避した意味がなくなるし、そもそもこれは4歳以上からしか出走できないので選択肢から外れた。
しかし、まぁ、3歳馬も出れる地方ダートのオープン戦ってこの時期に中々ないのは難点だ。
青竜ステークスとか鳳雛ステークスは中央のレースだからおいそれと地方馬が出れないし*3。
マリーンカップは足利開催に代行されたけど開催時期が休養期間に被っちゃうから出れなかったし。
プラチナカップの初開催なんて2018年だもんなぁ……。
え? 東京湾カップはどうなったかだって? ぶっちぎって勝ってやりましたよ、ジャクソンライヒに1馬身差つけて。
そして、気付けば6月15日。
季節はあっという間に初夏を超えてジメジメな梅雨を迎えた。
夏は好きだけども梅雨は勘弁して欲しいなぁ……。
───♪
夜の川崎競馬場に鳴り響くファンファーレ。
パドックから見てもとんでもない人集りが出来ていたけど、そこからパカラパカラとスターティングゲートまで軽く走って向かう途中スタンドに目を向けると……。
〈うっわぁ、マジかこれ……〉
【今日の川崎競馬場は満員御礼。例年の南関東オークスとは比にならない混雑ぶりで、普段は閉鎖している3号スタンドにも1万人の観客が詰めかけています】
客席を見てみると、3号スタンドがまだ使われてる状況にビックリだよぉ。あんた死んだんじゃなかったんかい!
【スパーキングナイターの川崎競馬、開催3日目メインレース第10競走。東日本大震災復興支援、農林水産大臣賞典。第47回南関東オークスG2。グランダムジャパン2011、南関東では3歳最終戦。距離は2100m、3歳牝馬14頭。3号スタンドの使用は残念ながら今日が最後になってしまいますが、その花道を飾るに相応しい大レースが展開される予感がします。今年は浦和の桜花賞が中止のため、同競走からの優先出走権を持つ馬がおりません。その代わり、東京湾カップを制したハルノウラワが今日は2枠2番での出走。地方重賞若草賞で鎬を削ったマルヒロブライティ、マニエリスム、さらに福山のマンボビーンも今競走に参戦してまいりました。マンボビーンの他、他地区からは岩手のエーシンショコラ、笠松のエンジェルロードら3頭。JRAからは4頭。他は南関東所属馬たちが占めています】
今日の南関東オークスに集いしは私を含めて14頭。
一応他地区からの参加もできるので、ユメちゃんが史実通り参戦してくれるかと思ったけれど、北関東オークスと日程が被って断念する羽目に……ちなみに、あっちではしっかりと勝った模様。ついでに、一緒に若草賞を走ったのに、北関東桜花賞の開催日程が4月下旬に移動したことで何とこれも走って、しかも勝っちゃったので、無事北関東牝馬二冠に輝いた。おめでとう。お陰で私もここは負けられない戦いになっちゃったけどね!
ただ、あまりのハードスケジュールだったからか、今は9月に控えているオーバルスプリントのため全面休養中だという。
【枠入り進んで13頭が既にゲート内。最後に船橋のハルサンサン、14番枠へ誘導されます……収まりました。枠入り完了───】
ガチャンッ
【───スタートしました、外から好スタート13番ピュアオパール、内から飛び出した2番ハルノウラワ。二頭に内から4番のマルモセーラ畳み掛けていきます。1番カラフルデイズが四番手。その外から12番、福山のマンボビーンが五番手に上がっていきました。続いて6番マニエリスムと内側に5番マルヒロブライティ。その後に3番のヴィクトリーブーケがやや後退して8番ヴァレイオブローズが交わして上がっていきました、その外から14番のハルサンサン、後方離れまして9番のハートゴールド、7番ツルノボサツ。さらに後ろに離れまして、11番のエーシンショコラ、10番エンジェルロードが最後方です。非常に縦長になったまま、先頭がスタンド前直線に入ります】
さぁ、1回目のスタンド前直線に入ったら、一瞬目に入った3号スタンドには家族連れの人たちがいて、お子さんたちからは「ハルノウラワがんばれー!」って声も聞こえた。
一方、所々に見える競馬おじさんたちが唸ってたりするけど、申し訳ないね、馬券を捨てるのはまだ早いよ。
折角内枠を取れたんだからこのまま突っ走る!!
【2番ハルノウラワと13番ピュアオパールが激しく競り合い、三番手マルモセーラから2馬身のリード。三番手集団固まってきて、外から12番のマンボビーン。内にカラフルデイズ。三番手集団三頭がやや固まってピュアオパールとハルノウラワを追走します。このグループを見ながら少し離れて6番マニエリスムと14番のハルサンサンがこの位置。内側に5番マルヒロブライティ、少し後ろに8番ヴァレイオブローズが固まっていて第1コーナーに入ります。後方3馬身近く離れてヴィクトリーブーケ、ハートゴールド、それから7番ツルノボサツ。後ろの二頭はかなり置いて行かれています。そのまま第2コーナーを抜けて向正面へ】
さぁ、ここからエンジンの回転数を上げてくわよ!!
【先頭は13番ピュアオパール、2番ハルノウラワが競り合っていきますが、ここでハルノウラワ、ペースを上げていった! 4番マルモセーラが追走し、四番手に1番カラフルデイズ、内側から行きます。外から12番のマンボビーンですが、ハルサンサンとマニエリスムがジリジリと詰めていきまして、しかしハルノウラワがぐんぐん伸びてきます!】
後ろから〈え!? 冗談でしょ!?〉みたいな声がしたけど、悪いね、そのまま置いてくよ。
ここまででも結構スタミナを使っちゃってるけど、ここからならまだゴール手前まで全力疾走できる。
【ハルノウラワ、ピュアオパールから3……いや4馬身のリード!! 先団はハルノウラワを追って固まっています、5番マルヒロブライティと8番ヴァレイオブローズが上がっていきます。あとは9番遅れ始めているハートゴールド。それからツルノボサツに並ぶようにヴィクトリーブーケ。先頭は3コーナーに入りました。残り400、依然として先頭はハルノウラワ粘って逃げています。ピュアオパールとマルモセーラ追走、内側からカラフルデイズが強襲の体勢。しかしここでマンボビーンが外側から強烈な追い上げを見せています!】
お? マンボビーンちゃん来るつもりだね?
でも私に追いつけるかな?
特訓した成果が出てる出てる!
それは数週間前。群馬トレセンにいた時のこと。
「大外を走らせて鍛える、と?」
「そういうことになる」
ある日の朝。群馬トレセンの調教師である敷浪先生が、岡嶋先生と福延さんにそんなことをアドバイスした。
そのアドバイスに岡嶋先生と福延さんは怪訝な顔をする。
そもそもの話。
「ダート2000m」だとか「芝2400m」だとか距離をどう測っているのかと言えば、内枠の柵、いわゆる内ラチがあって、そこから1m外側の外周を測った距離が芝かダートかの「〇〇mコース」となる。ついでに言うと日本では距離測定の開始地点がスタートゲートより5m先から。
つまり、公称の「2000m」だとか「2400m」だとかは、実は「2005m」とか「2405m」が正確な距離ってことになる。
何それ詐欺じゃんって思うかもしれないが、そもそも0mから巡航スピードに乗れる馬どころか車ですらこの世にはいない。なので、最初の5mは助走区間という扱いになるんだとか。
ここで。
内ラチを円A、外ラチを円Bとして、2枚の円を重ね合わせる。
こうすると、内ラチの円は外ラチの円よりも小さいことがわかる。
つまり、大外を回るってことは、内ラチに近いところを走るよりもさらに長い距離を走ることになる。
図形の面積を求めよだの三角の一片の長さを求めよだの、数式的な小難しい話を抜きにしても、これだけは小学生でも分かる常識だろう。
問題は
ただ、馬畜生に生まれ落ちてから早三年余り。一概に馬全てがそこまで知能指数が低いわけではない……けれども。
「この……ハルノウラワちゃんだっけか。タービンぐらい賢い子だな」
先ほどの「内ラチの円」と「外ラチの円」を重ね合わせた図。実は私が適当に木の棒を拾って口に咥えてダートコースの上に砂をなぞって描いたもの。
私が「ここをずーっと走れ、ってこと?」と言わんばかりに外ラチをなぞっていたら、流石に敷浪さんも面食らった様子。
こういう風に「人間の子供に教えるようなやり方で理解できる馬」なんて今のところタービンさんと私ぐらいだろう。サポートが入ればプカラさんもプレジャー先輩もユメちゃんにも理解してもらえそうではあるけども。
つまり、私と岡嶋先生と福延さんは敷浪先生が言いたいことを理解出来た。
「体力を温存するために大外を出来る限りぶん回して、邪魔が入らない状態でトップスピードに持っていき、そして先頭を差せ、と?」
「体力を温存すること」と「大外を回ること」は、一見すると矛盾しているように思う。
そもそも、競馬に限らずコースを走る競走というのは、「コース内側が経済コース」と呼ばれている。
前述したように、内ラチに近ければ近いほど走る距離が短くなる。つまりは……まぁ大体その分スタミナを温存できる、と考えていいだろう。スタミナを温存できれば、最終直線に入って使える脚が残る。……普通に考えればそうだ。だけども、
「小柄なハルノウラワだと内側に寄りすぎると馬群に嵌まって抜けられず、さらにそれでスタミナを擦り潰されると最終直線でヘロヘロ、か……」
ローレル賞で惨敗した原因がまさにそれだった。
あの時はまだ福延さんが私に慣れていなかったのもあるけど、教科書通りに内ラチからの経済コースを狙おうとしたら馬群に呑まれて体力を削られて。ようやく抜け出せたと思ったら先頭が遥か彼方に行ってしまった後という有様だった。
それで兵庫ジュニアグランプリの時は最初から全力疾走して先頭をキープする作戦で行ったものの、結局はあれもオルフェから最後の最後に差されて負けたし。
そう考えると全日本2歳優駿の出遅れはやらかしだったのに、結局はそのお陰でレース展開を冷静に、文字通り一歩引いた状態で見て考えることが出来たから勝てたようなもの。人生ならぬ馬生もどう転がるかわからないものだ。
けれども、そういう運任せばかりではいずれ勝てなくなるのが目に見えている。
「小柄故に馬群を抜け出しやすいのは武器になりますが……それだったら逃げで走り切るべきでは?」
「メインプランはその方がいいかもな。特に内側を走るなら先頭を一切譲らずにトップスピードを保ったままがベストの走り方だろう。……でも外側からだったらどうする?」
「外から内に……確かにちょっと……」
「だろう?」
福延さんは敷浪先生からの指摘に答えを濁すのだが、外から内に入っていくのは結構大変だ。
かく言う私も馬群は苦手だ、なので外の前側をなるべく走って、最終直線でブッ差す!って戦い方をしている。
しかし、逃げで果たして中距離を走り切れるかどうか自信がない。
「だから逃げが使えない時は、敢えて大外を走らせるんだ。
「どうやって?」
「それを
「……トップスピードの向上ですね」
「そうだ。
知ってるかな?
坂って
【さぁ先頭ハルノウラワ、4馬身のリードのまま、第4コーナーを過ぎて二度目のスタンド前最終直線へ。追い縋るピュアオパール、外から追ってくるカラフルデイズ、マンボビーン、後は横一線、ハルサンサン、マニエリスムが突っ込んできた。ハートゴールドも追い込んでくる。ピュアオパール後退、カラフルデイズとマンボビーンがどんどんハルノウラワとの差を詰めていく! 差は1馬身、ハルノウラワにカラフルデイズ追走、マンボビーン一歩遅れた。ここでハルノウラワかカラフルデイズか、カラフルデイズ、ハルノウラワ……今並んでゴールイン!これは……どっちだ。どちらが勝った? 3着はマンボビーン、4着マニエリスム、5着ピュアオパール。1着と2着に写真判定のランプが点きました】
はぁ……はぁ……はぁ……やれば出来らぁ……! 2100m、逃げ切ってやった! ……だよね?多分勝ったよね私!?
【えぇと……あ。出ました。1着2番ハルノウラワ、2着1番カラフルデイズ、ハナ差での決着です!】
……よっしゃあぁぁぁぁぁぁっ!!
「「「わあぁぁぁぁっ!」」」
【ハルノウラワ、勝利の咆哮! 観客席からの歓声も止みません。浦和の桜吹雪が南関牝馬三冠最後のレースを見事に制した!!】
〈はぁ……はぁ……はぁ……あー……悔しぃー! 若草賞のリベンジしたかったのにまさか逃げ切り勝ちされるなんて……!〉
〈差し脚使いと思ったら逃げまでできるとかどんだけー……〉
〈ふふん、どんなもんよ!〉
マニエリスムちゃんとマンボビーンちゃんは悔しそうな顔をしていたけど、いやぁ、今日は作戦が見事に嵌まって大当たり!
テイエムスパーダを100円で買って万馬券が当たった時みたいに気持ちいい!
……とはいえ。
〈しっかし……みんな強かったわぁ……〉
〈何それ、嫌味?〉
〈そんなわけないじゃん。今回はたまたま上手く行ったってだけなのよ……
〈え……あんたジャパンダートダービーに行くの!? 〉
〈当然でしょ。でもJDDは知っての通り3歳が挑めるダートG1の中でも最高峰。今年は南関に限らず色んな所から強敵が現るって言うし〉
〈……じゃぁ、あんたに教えといてあげる〉
そこでマンボビーンちゃんは、ある耳寄り情報を教えてくれた。
……それがまさか、あの
まさに、人生……いや私の場合は馬生か。どう転ぶかわからないのもまた醍醐味で面白くなってきた。
これだから競走馬はやめられない。
実は筆者は図形の問題が大の苦手でした。
例えば「三角の一片を求めよ」とか「辺xの角度を求めよ」なんて問題が出ると、計算式が中々組み立てられなくて時間ばかりが過ぎていき、面倒臭くなって定規や分度器で長さや角度を測って答案に書いてしまった、なんてことも一度や二度ではありませんでした。
よくもまぁこんな奴が理系の大学を無事卒業できたもんだなと我ながら呆れてます。
本作のジャパンダートダービーはどっち版を(できれば)見たい?
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実馬で
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ウマ娘で