「出すならここしかないな」って。
また、活動報告にて『質問箱』を設置させていただきました。
皆さんの投稿、心よりお待ちしております。
ハルノウラワは特別留学の直前に福山レース場まで遠征して若草賞(
そんな彼女が中央トレセン学園にやってきてから早くも2ヶ月が過ぎた頃。
「ハルナさん、短い間ですがお世話になりました!」
「こちらこそ。たった2ヶ月だけど一緖に過ごせて楽しかった」
美浦寮の水回りの修繕も終わり、今年の4月に本来美浦寮に入寮予定だったウマ娘たちは、順次仮住まいから荷物を美浦寮の部屋に移動させて退去を進めていた。
メジロクーパーも当然その内の1人に含まれており、別れは惜しいが、ハルノウラワに頭を下げてお礼を述べて部屋を後にする。
「……そんなに落ち込まない。別にどっか遠くに行っちゃうわけじゃなくてトレセン学園に行ったらいつでも会えるんだから」
「う、うぅ……そうじゃなくて。また別の人と同室にならないといけないから、ボクのせいで迷惑をかけないか心配で。特に寝起きの時」
「あ、あぁー……た、多分大丈夫よ」
中央トレセン学園に来て、このマンションの一室に入居してからの2ヶ月、このルームメイトは特に朝に弱いことが嫌でも分かった───そんなメジロクーパーの存在は、ハルノウラワにとっては手の掛かる妹のような弟のような? どこか庇護欲を掻き立てられたものだが、それについては本人を前にしては言えなかった。
そんな彼女が部屋を退去した後ろ姿を見送ってから1人、ハルノウラワは自室の自分のベッドに寝転がる。
今日は特にトレーニングもなく一日休みのお達しも受けているので、スマホゲームをやりつつ時間を潰していた。
だが、それもついに飽きて天井を眺めていたら、
(……あたしの部屋ってこんなに広かったっけ?)
気付けば、メジロクーパーが退去してから1時間ほどが経っていた。
このままボーッとしてるのも良くないな。と思ったので、すっくとベッドから起き上がり、机の上に、台座付きのiPadを置いて動画サイトを起動してみる。
そこでハルノウラワが検索ボックスに入れた単語、それは───。
───6月9日、園田レース場。
【ダービーウィークのファンファーレで迎えます、今年で第12回目の兵庫
そして、音は拾えていないが、ゲートが開いたのが動画でも十分に見えた。
12人のウマ娘たちが一斉に園田のコース場を駆けていく。
【───兵庫ダービー、スタートしました。あぁっと1番のグリーンアイズ出遅れた、5番のチビスパも後方からのレースになりました、早くも2番のオオエライジンが先頭に立ってハナを主張します。2番手から12番エヴァシオン、9番ボリングブルクも続き、4番手の位置にナコウトオトメオー、6番ナナクサ、左耳飾りのウマ娘たちです。その後に8番ホクセツサンデーが続きまして、そこから2バ身開いて10番のヘルファイア、外から7番のプレシャスエリー、内には4番マルヨロイヤルと3番ニシノイーグルが追走の体勢。1番グリーンアイズは後方から2番手の位置。最後方に5番チビスパのまま向正面から第3コーナーに入ります───】
ここで一旦、映像をストップして、ハルノウラワは第3コーナー手前での順位をメモ帳に手書きで書き出してみる。
(コロちゃん……まさかこんな所にいるなんてね)
驚きと懐かしさを感じると同時に、逃げの体制に入っているオオエライジンの第3コーナーでの通過タイム(スタートから200m地点)もメモし、動画を再開した。
【───12人のウマ娘が縦長に広がった展開、ここで2番手のエヴァシオンが仕掛けて先頭代わる。オオエライジンの外側からホクセツサンデーとナコウトオトメオーとナナクサとボリングブルク、何と2番手集団固まっています。しかし何とかオオエライジン、折り合いに専念して再び先頭に立ちスタンド前直線に入って行きました。2番手に11番ナコウトオトメオーと12番エヴァシオン、9番ボリングブルク、6番ナナクサが接戦ですが、ここで外から8番ホクセツサンデーが追い上げてきた。第1コーナー手前でオオエライジンに並び、今ハナを奪ったホクセツサンデー。3番手集団固まっていますが、6番ナナクサが少し後退し、10番ヘルファイアが追い上げて、後は離れて3番ニシノイーグルと4番マルヨロイヤル。さらに後方にプレシャスエリー、グリーンアイズ、チビスパが続いて第2コーナーを回っていきます12人───】
そこで一旦映像を止めて思案するハルノウラワ。
(……へぇー。兵庫ダービーってこんなに面白いレースだったんだ? だったら参加した方が良かったかな……いや、それをやったら南関東オークス出れなかったし……今更考えるのはやめよう。それに私の本番はこれからなんだし。その本番のレースにあなたが出てくるんだったら、全力で迎え打ってやるんだから)
中央トレセンに特別留学してきたハルノウラワであるが、中央トレセン学園に整っているトレーニング施設だけでなく、チーム[ライジェル]に所属し、宮松明美トレーナーことフレアカルマの指導と、チーム[セントーリ]の射手園トレーナーらのサポートをこの2ヶ月受けてきた。
その結果、中央のクラシック級ウマ娘用のダートオープン戦である京都開催のいぶき賞*2を勝利して中央での競り合い方を身に付けて、さらにスタミナを鍛え上げて、
だが、これから挑むジャパンダートダービーは、紛れもないダートG1。交流重賞の中でも最も過酷なレースとして控えているはずだ。
もちろん、既にハルノウラワは交流重賞(それもダートG1)において、全日本ジュニア優駿で勝利を収めた経験があるし、今のところ、9戦7勝という戦績を積み上げており、これだけを見れば充分な実力者だと断定できるだろう。
だが、この兵庫ダービー。園田開催の重賞で、中央の格に当て嵌めればオープン戦か良くてG3レベルの重賞に過ぎないものだが、福山に行って参戦した若草賞の時のように全国の地方から集まった強豪たちが競り合い、その結果、これだけ熱いレース展開が繰り広げられている。しかも、1着のウマ娘にはジャパンダートダービーへ優先出走する権利も得られるというのだから侮れない。
困ったことにハルノウラワは、
そのために兵庫ダービーを最近繰り返して見ている。
何度も何度も見ているし、結果もわかっているのに、興奮してしまうのだ。
その興奮で
「で、それで寝不足に?」
「は、はい……」
翌日の放課後。ハルノウラワは目の下にクマを作ってチームの練習場に現れたため、即座に保健室に叩き込まれる事態になった。
そして、担当トレーナーであるフレアカルマは事情を聞いて、研究熱心なハルノウラワに感心した反面、レース研究に夢中になりすぎて寝不足になってしまったことに呆れ顔だった。しかし、モノは試しと言わんばかりに質問を切り出した。
「……それで、あなたから見た
その質問が出て、ハルノウラワは耳がピクリと動き、思わずピンッと張った。
「……これは私なりの勘だけ……ですけど」
「ハルナ。今ここにいるのは私たちだけだから、無理に敬語を使わなくていいよ」
「……じゃぁ、カルマ姉。あたしが思うに、コロちゃ……うぅん、オオエライジンは、大井の2000mでも強敵になると思う」
そうして昨日の映像と実況を思い返すと───、
【───向正面に入りまして、縦長の展開。残り800を切りまして、先頭でホクセツサンデーとオオエライジンが競り合っています、やはりこの2人のマッチレースの様相と化すか……と思いきや、3番手にグングン上がって2人に待ったを掛けるはナコウトオトメオー! 中津ジュニアプリンセスカップ*3、九州G2
───と、レース展開と実況を何度目かの脳内再生をして、ハルノウラワは言った。
「病気がちだった昔のコロちゃんとはまるで違ってビックリしちゃった。まさに今のあの子は「コロちゃん」じゃなくて「オオエライジン」なんだ、って再認識させられちゃった」
ハルノウラワは、遠い日の高知での記憶を振り返るが、それがあっという間に兵庫ダービーの情景に塗り潰されてしまった。
「兵庫ダービーでは……ナコウトオトメオーさんたちのような強敵も参戦してきたにも関わらず、逃げで圧倒して勝利。この競り合いで、ホクセツサンデーのスタミナをガリガリと削っていたのも見てとれた。逃げで放っておくと置いてかれる、でも、競り合ってもスタミナで潰される……」
「スタミナか……あなたの弱点を的確に突いてくるのは間違いないわね」
「はぁ〜……何で南関東オークスなんて勝てたんだろ……?」
「一種のゾーン状態に入っていたからじゃない?」
「ゾーン……ね……」
言われてみれば、最初の1000mを超えた辺りで何かを見た気がしたのだが……正直なところ、全くと言っていいほど思い出せなかった。
「……何か見た、って顔してる」
「! え。ま、まさかぁ……」
フレアカルマからの鋭い指摘に、ハルノウラワは目を見開いて否定しようとする。
しかし。
「隠さなくてもいい。
「……え? それって、カルマ姉の最初の担当さんっていうと……スキッパーちゃんが?」
ハルノウラワからの問いに答えるように頷くフレアカルマ。
フレアカルマの最初の担当ウマ娘といえば、
「あなたがどんな光景を見たのかは敢えて聞かない。けれど、同じ状況を作れればJDDでも勝機がある。問題はその
「条件……?」
「そのゾーン状態に入れる条件が何だったか。心当たりはあるかしら?」
「……うーん……」
急に問われても、パッとは出てこない。
「……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいわ。うーん……条件が分からないとなると……」
「となる……と?」
「……地道にスタミナを鍛えるしかないわね」
「えー……結局そうなるんだ……」
どこぞのプール嫌いな芦毛のウマ娘みたいな嫌な顔をしていると思うかもしれないが、その想像はハズレだ。
ハルノウラワはむしろプール大好きなウマ娘である。泳ぎはお世辞にも上手とは言えないが……。
それ故にスタミナが中々身に付かないという欠点を抱えてもいるので、いわゆる近道行動に走りたくなる気持ちは分からないでもない。
が。
「良い言葉を教えてあげる。私の先輩からの受け売りでね。「一足飛びはやめておけ。一つ一つを段階的に」って」
「……その先輩があたしの知ってる人なら説得力無くね?」*6
「もぅ……それなら「ローマは1日にして成らず」と言うべきかしら? とにかく何事も一朝一夕で出来るわけじゃないんだから頑張りましょう?」
「……そうだね。じゃぁ……」
ベッドから起き上がるハルノウラワを、フレアカルマが引き留める。
「あぁ、今日はもうダメよ」
「どうして?」
「まだあなたの目の下にクマがあるから。今日この後はもうお風呂に入ってご飯食べて早く寝なさい。トレーナー命令よ、いいわね?」
「ラジャー、ボス」
「よろしい。……ふふふっ」
「……あはは。子供の頃もこんなことあったっけ」
「そうね……」
思えば、幼い頃のハルノウラワに会ったのは、実家の和菓子屋の手伝いをしていた時だったな、と、フレアカルマは振り返る。
《もう。手伝ってくれるのは嬉しいけど、
《ら、ラジャー、ボス》
《よろしい》
あれ以来、ハルノウラワは「和菓子職人になりたい」という夢を追いかけるように「宮松庵」を出入りしていた。
もし東北の大震災が無かったなら、今頃、ハルノウラワは「宮松庵」で職人修行をしつつ、レースのためのトレーニングに明け暮れていたに違いない。
将来のために手に職を付け、かつ、青春をトゥインクルシリーズで駆け抜ける、という、とても欲張りなことがハルノウラワはやりたかったに違いない。
……しかし、仮にそうなっていたら?
南関東オークスを勝てなかったかもしれない、とフレアカルマは思った。
「……ねぇ。ハルナ」
「なぁに? カルマ姉」
「あなたの夢は、まだ「和菓子職人」?」
この答えは聞くまでもなく分かっている。
「もちろん。……今はそれどころじゃないから修行をお休みしているけど。いつかはなりたいってまだ思っているよ」
「……そっか」
ただの確認のつもりで尋ねたことだったが、フレアカルマの脳裏に焼きついた幼き日のハルノウラワの姿と言葉が頭を過った。
《和菓子って甘いのに見た目も綺麗で大好き!》
《あたしもいつかこんな風に和菓子を作って誰かを笑顔にしたいなぁ》
あぁ……今更だけど、この子の行動原理は何も変わっていないんだ。
「みんなを笑顔にしたい……それがあなただもんね」
「カルマ姉?」
「……みんなを笑顔にできる走り。あなたが目指したいものはそれよね?」
それを尋ねられてハルノウラワは強く頷いた。
「うん」
「私、あなたが目指したい走りが実現できるように頑張るからね? ……だからこんなことが今後ないように」
「ちょ……カルマ姉、恐いって……」
目標を再確認・再認識しつつ、再発防止を心に刻みつけることになったハルノウラワであった。
本編とは関係ないけれども、この話を作ってる最中に「東武鬼怒川メジロ線」なる電波を受信してしまった。
はい、今回、ついに出てきましたオオエライジン。
本当は作中で描きたかったのは園田ジュニアカップ(2010年)だったんですが、レース映像も実況もなかったので代わりに見つけたのが、2011年の兵庫ダービー。しかも見ていて実況を聞いている内に「え、何これ凄い」って思えてきて、そこでついでに「この世界ならでは」の豪華キャストを追加して筆が乗って調子にも乗った結果、実物より激戦になってしまった……。
ジャパンダートダービーはまた次回となりましたが、ついでにここでアンケート取りたいと思います。
ご協力いただければ幸いです。
本作のジャパンダートダービーはどっち版を(できれば)見たい?
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実馬で
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ウマ娘で