最初はトークショーでお茶を濁す昼間のシーンだったのを、ライブに変更、ついでに昼ではなく夜の舞台にしたり、選曲やパート分けに悩んだりと頭を抱えました。
さらに、キャラデザもちゃんと定まっていなかったので、折角SpellAIと、その使い方を教わったのだからと、とりあえずは仮置きながらもキャラのイメージを作ることにしたら、とんでもないボリュームになってしまいました……。
詳しくは、活動報告にて。
余談ですが、冒頭で登場するハルノウラワとシムーンカルマは、以下のイラストに描かれているような、さいたまトレセン学園の制服を着て登場しています。
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あと、最後の方でアンケートを設置いたしましたので、投票よろしくお願いします。
その他、評価・感想もお待ちしております。
※2025年6月28日追記……緊急事態。詳しくはこちらをご覧ください。
※2025年6月30日追記……熟考の末、「ホテルカリホルニア」を「グッバイテキサス」に改名しました。
※2025年8月28日追記……オオエライジンのウイニングライブの様子を少し変更しました。
晩夏から初秋に入る8月の後半のある日。
……いわゆるここからが「残暑」というやつであるが、現代人からすれば8月なんて前半も後半も関係なく同じぐらい暑い。もはや酷暑と言ってもいいし、何が「暑さが残る」から残暑だというのか?
何なら9月や10月まで暑いとはどういうことか。もはや8月を残暑と言うべき季節ではないとは思うのだが?
そんな愚痴はさておき。8月といえば、夏休みにお祭りに旅行にとイベントが尽きない楽しい季節でもある。
しかし、楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうのが常だ。
それこそ、燃え尽きた線香花火のように物悲しくもなるのだが、「そんなの知るか」と言わんばかりに、さいたまトレセン学園の連絡掲示板には今年のジャパンダートダービーを激走したハルノウラワの写真とレース記事が掲示されており、まるで夏休み前の7月で時間が止まってるようだった。
「……はぁ……」
久しぶりにさいたまトレセン学園へと顔を出したハルノウラワ本人は、そこまで歌っていた鼻歌も引っ込み、それを見て何とも言えない溜め息を吐いた。
「そんな浮かない顔してどうしたの?」
「!」
背後から声を掛けられて驚いて振り返ると、
ツンと、彼女の頬に何かが触れた。
「やーい引っ掛かった」
「シ、シム姉ちゃん!?」
(肩を叩かれていないので厳密には違うが)俗に言う「肩をトントン*1」という悪戯を食らう。
そんな子供っぽい悪戯を仕掛けてきたのは、黒髪のストレートヘアを靡かせてさいたまトレセン学園の制服に身を包み、右耳には先端にオレンジのポンポンがついた紐飾りを巻いている。
この人はハルノウラワにとって幼馴染の姉のような存在なのだが……。
「ちょ、な、いきなり何!?」
「むぅ。反応が冷たいなー」
「……シム姉ちゃんもいい歳なのに、こんな子供っぽい悪戯仕掛けてくるなんて。これで凱旋門賞ウマ娘ってのが信じらんn」
「ストップ。お小言はそこまで」
「む……」
シム姉ちゃんと呼ばれているそのウマ娘は、ハルノウラワの唇に人差し指を縦に当ててその後続いたであろうお小言を断ち切る。
ハルノウラワはそれに対して不満で唸るも、それ以上は言えなかった。何故なら、
「黒潮盃の時からでしょ? そんな元気がない感じなのは」
「!」
「あーぁ、せっかく後輩兼可愛い妹分が気になってやってきたのになぁ」
「……」
一撃で核心を突いてきてドキッとする。
一瞬の静寂の後、さらに畳み掛けてきた。
「……やっぱりね。ハルナちゃんさぁ、さっきまで少年時代のフレーズを鼻で歌ってたよね?」
少年時代という曲の冒頭といえば、「夏が過ぎ風あざみ」の歌詞が有名だと思う。
その意味は、「夏が終わって物悲しい気分になる」というらしい。
……正直に言うと、あの黒潮盃が終わってからそんな気分になってるのがあたしだ。
「どうしてそんなブルーな気分になってるかお姉さん聞いてあげようか?」
そんなシム姉からの申し出に、あたしは素直に頷く他なかった。
時は遡り。およそ2週間前。
ジャパンダートダービーから約1ヶ月後。
【大井レース場、今年度第9回開催最終日の6日目。今日のメインレースは第10レース、黒潮盃。距離はダート1800m。南関東G3ですが、16人のクラシック級ウマ娘たちがこの全国地方交流戦に集まります。発走時刻は20時15分を予定しています】
時計を見ればそろそろ夕方の6時を指そうとしている時間帯。全国放送のテレビ・ラジオからはそんな実況の声が流れていた。
7月の大井も暑いが、8月の日中ともなれば酷暑だった。
今は日が地平線の向こうに落ち始めてその暑さも少しは和らいでいたが、それでも気温は30度手前の熱帯夜。
よって、茹だるような暑さ、汗ダラダラで服が皮膚に張り付くような気持ち悪さは未だに残っているような有様だった。
そんな8月の環境下であるにも関わらず、今年の大井レース場はいつになく人が詰めかけている大盛況ぶりを見せていた。
それは、この8月半ばの開催日、特に15日と16日にて、名付けて「サマースペシャルグリーディング」という名のファン交流会が行なわれていたためだった。
地方・中央を問わず、今をときめくダート界のスターウマ娘たちが大井に集まっての特別ライブとサイン会を実施。しかも、
時間は17時50分発走の第7レースと18時45分発走の第8レースの間。
開催場所は、メガツリーが目印のウマイルスクエア。
その一帯を柵で囲み、簡単なテント付きステージとサイン会場をポン付けし、観客エリアにも日除け用のテントを複数設置。数列のベンチ席は既にこの暑さにも関わらず観客が犇めいて満席、席に座りきれなかった人たちはそのベンチより後ろの立ち見スペースから、観客たちは申し訳程度のスポットクーラーの冷風を受けながら、イベントの開始を今か今かと待っていた。
「わぁ、すごい。お客さんがこんなに来てくれてるよ……!」
「ホントね……」
舞台袖の覗き窓から見ていた今日の主要人物たちであるウマ娘たちは、緊張しつつも、ダートレースの人気がここまで大きなものになった実感に胸を躍らせていた。
そこで漸く、ステージが明るくなると、会場に詰めかけた観客たちの間から拍手が上がった。
それが「夜の部」開幕の合図であると同時に、
「レディース&ジェントルメン、老若男女、遠近様々な所からお越しいだだいた皆々様。お待たせいたしました! 只今より、サマースペシャルグリーディング2日目・夜の部を開幕いたします。司会は
「「「「わぁぁぁぁぁぁっ!」」」」
開催宣言と共に歓声も上がる。
今宵、司会役を務めるのは、スーツに身を包んだ進行役のウマ娘───うまたせ女史である。
「夜の部最初の曲は……おや。このピアノの伴奏は?」
続いて設置されたスピーカーから流れ始めた音楽は、ピアノの伴奏。
「きっとこの場の誰もが知ってるはず、そう、ダートG1のウイニングライブの定番曲『Unlimited Impact』! 歌うのは、さいたまトレセンを代表するウマ娘たち! 紹介しながらライブを始めましょうか!!」
「まずはさいたまの新星! 浦和の桜吹雪、ハルノウラワ!!」
「続くはベテラン、セイウンプレジャー!」
「今日はこの人も歌います、フレアカルマ!!」
うまたせは、流石はベテラン司会というべきか早口ながらも周りにハッキリ聞こえる紹介を間に挟む。
そこで更に5人のウマ娘がステージに出てきて、歌唱に加わった。
「続いてはこの曲、『BLOW my GALE』! 先ほどの3人に、さらに豪華キャストが参戦! 栃木のリアライズノユメ、中津のナコウトオトメオー、群馬のナコウトプカラとシャッタードスカイ、そして高知の総大将といえばこの人、グランシュヴァリエが加わります、さぁどうぞ!!」
「さぁ、盛り上がってまいりました! ここまでお送りしたのはURA公認のウイニングライブ曲。キラキラしていてすごい迫力でした。さて、ここからは地方ウマ娘たちのウイニングライブ。各々が好きな曲を持ち込んで、1着になったらそれで歌って踊るのが地方流! 今度は北関東トリオがお送りします、シャッタードスカイ、リアライズノユメ、ナコウトプカラのトリオがお送りします。原曲は
「続いてお送りする曲は『愛が止まらない』。これを歌ってくれるのはこの方々です、どうぞ!」
何処か聞き慣れた哀愁漂うバラード風の曲が流れ始める。
それと同時に、ステージの両側から登場する二人のウマ娘。
片方はロスマンズジャケットを思わせる緑色の勝負服の茶髪のウマ娘、もう片方は紺色の夜空に花火が打ち上がった様子を描いた着物風の勝負服に身を包んだ黒髪のウマ娘たち。
「元横浜トレセン所属、中央で立派になった芝のスプリントG1ウマ娘、ダイタクヤマト!」
「続けてアイルトンシンボリ!」
さらにそこで他のウマ娘たちも歌唱に加わり、サビのワンフレーズを繰り返して歌った。
日本語歌詞と英語歌詞の融合、曲調もあってライブ会場の熱が少し和らいだように思えたその時、
思わず、「デン、デン、デン、デンッ」とビートを刻みたくなるような伴奏が流れ出し、会場からは歓声と笑い声が溢れた。
「さぁ、フロアも温まってきたところでこれ行きますか、『ダンシング・ヒーロー』! メインボーカルはもはやレジェンドのお二人、トロットサンダーとゴーアレディ!」
「伝説の二人による歌唱、ライブ会場はすっかりダンスフロアです。しかし、そういえば地方のウイニングライブで洋楽が使われ始めたきっかけというと……この曲目を忘れちゃ困る、『Even If You Say』! 歌うのは引き続きゴーアレディ!」
「哀愁ソング、物悲しい気はしてもついつい聴きたくなるそんな曲。もう一曲行きます、『Touch Me Touch Me』。歌うのはハルノウラワと、そして、さいたまからのスペシャルゲストが一人、シムーンカルマ!」
「中々良かったですねぇ……おっと、この伴奏は?」
それはこれまでの90年代前半の雰囲気から一気に10年飛んだようなスピード感が強めの曲*3。
「この曲を帝王賞で聴いたことがある人もいるでしょうね、ここでURAよりスペシャルゲストスターの登場です」
進行役のうまたせによる解説と共に、その「スペシャルゲストスター」のウマ娘が姿を現し、シムーンカルマの勘は当たった。
「シムーンカルマ永遠のライバルであり、実質三冠女王! メジロシクローヌによる、NUAGE原曲の『Don't wanna lose my baby』!」
「さぁ、次の曲は「Shake My Days」。歌唱は全員でコーラスから、おっと、今回最後の追加ゲスト、それも船橋から2人! 船橋最強ウマ娘フリオーソと、船橋のプリンセスクラーベセクレタです!」
フリオーソがクラーベセクレタに向かい合ってそう歌うと、セクレタはこう返した。
続いてセクレタにスポットライトが当たり、フリオーソの周りを歩きながら歌う。
2人は観客たちに一瞬向いたと思ったら、背中合わせになり、
ここでフリオーソとセクレタは互いに向かい合う。
そこで長い間奏が入り、船橋の2人より後ろに下がっていた14人のウマ娘たちがそれぞれ踊りながら前に出てくる。
「さぁ、ライブもいよいよ終盤戦です、……え? 今誰か「燃え上がれ」って言ってた? それに応えましょう、次の曲は『Next Frontier』!」
そこで一旦曲が途切れるも、続いて流れてきた伴奏に会場のボルテージは最高潮に達した。
「皆様、今日のライブは楽しめましたか? そのライブもそろそろ終わりの時間です。締めはグランシュヴァリエによる『瀬戸の花嫁』です。今週の水曜日、川崎レース場で行なわれるスパーキングサマーカップに出走予定とのこと。この曲をウイニングライブで披露できるといいですね。では、どうぞ……!」
グランシュヴァリエ以外のウマ娘たちが舞台袖に引き上げていく最中に、スタッフの1人がさり気なくグランシュヴァリエにアコースティックギターを手渡す。
グランシュヴァリエは軽くチューニングを挟んでから弾き語るように、『瀬戸の花嫁』を歌い始めた。
ライブイベントが終わり、第8レースを挟んだ後、第9レースまでの間はサイン会とグリーディングが実施される……その幕間の出来事。
「それでは改めてゲストの方々に登場していただきます。どうぞ!」
ライブ時の背景はそのままに、ステージ上にパイプ椅子が5つ用意されており、一つはステージ正面から見て左側に司会のうまたせ用に用意されていた。
彼女と1対4で対面する形で、うまたせの反対側にはパイプ椅子が4つある。
うまたせの司会進行に合わせて、再び4人のウマ娘たちが舞台袖から姿を現すと、トークショーを今か今かと待っていたファンたちの間から歓声が上がった。
「改めまして、皆様、ライブお疲れ様でした。きっと会場にいる皆様ならご存じの方ばかりかと存じますが、そうでない方もいるので、ご紹介させていただきます」
うまたせがそう言うと、まずは、栃栗毛で日焼けした肌のウマ娘が席を立ち、会釈した。
服装は、黒のベストと、金縁のオレンジブラウンのスカート。その上着にベルトで固定した銀縁のガウンにはボリューム袖と萌え袖を組み合わせたような大きい袖口があり、さらに銀のマフラーを巻いているという組み合わせの勝負服、履いているのは茶色のブーツという姿。
その姿に思わず唸ったファンも少なくなかった。
「み、皆さんこんにちは。フレアカルマこと、トレーナーの宮松明美です」
少々緊張気味に挨拶をするフレアカルマ=宮松明美トレーナー。
何を隠そう、彼女は中央トレセン学園に所属する正トレーナーでありながら、今日の彼女の服装は
普段の彼女が着ているのは、教え子たちと併走またはトレーニングを監督する際のジャージか、もしくはトレセン学園の一般的な女性トレーナーたちが着ているような女性用のスーツであり、そんなトレーナーである彼女が現役時代の勝負服姿で現れ、しかも、先ほどのライブでは歌って踊っていた。その姿に感激したファンもこの場には少なくなかった。
何なら、普段彼女が
続いて、文字通りの入れ替わり立ち替わりで、フレアカルマが椅子に座ると、その横にいた小柄で艶のある黒鹿毛のウマ娘が席を立って自己紹介した。赤い宝石のような目をしている。
「皆さん、こんばんは。ゴーアレディでございます」
そう名乗りながら華麗なカーテシーを披露したゴーアレディ。
彼女の異名を、誰が言ったか“貿易商のご令嬢”。
実際、彼女の母方の実家は江戸時代から続く商家であり、元総理大臣の祖父までいるというのだから驚きだ。
しかし、「親の七光りかつその子供はロクデナシ」というよくある話に彼女は当てはまることなく、かつて野田トレセン*5に現役時代全て通して所属しながらも、現役時代は「地方レース場の全てに自分の名前や記録を刻む」という目標を宣言し、彼女が現役時代に稼働していたほぼ全国の地方レース場を走り抜いた経歴を持つ(なお、アラブウマ娘限定のレースしか行なわれていなかった当時の園田や益田レースなどは除く)。
よって彼女の22戦18勝の公式記録には、中津レース場を除いて当時サラ系ウマ娘が出走できた全ての地方レース場の名前が連なっている。
その「中津レース場」の名が記録に刻まれなかった*6理由も実に無念であり、中津大賞典への出走直前、それもゲート入り前に脚の故障に気付き、出走取り消しを余儀なくされたからだった。原因は疲労骨折と屈腱炎の同時発症という最悪のコンボ。レース中の事故・故障による大怪我という最悪な事態こそ免れたものの、これで現役を引退する羽目になり、現在ではさいたまトレセンOG兼……実はトレーナーであるのだが、トレーナー姿の彼女のことは身内しか知らないのはここだけの話だ。
ゴーアレディの次に観衆に挨拶を交わしたのは、その隣に座っていたトロットサンダー。
「やぁ皆さんこんばんは、浦和の“The perfect miler”こと、トロットサンダーです」
トロットサンダーの活躍をリアルタイムで見ていた層からすれば「浦和のスーパースター」といえばゴーアレディよりはトロットサンダーの名を挙げることが多い。
その理由としては当時さいたまトレセンへの統合前の浦和でデビューして、その後中央に移籍してから芝のG1を1勝以上したウマ娘といえばトロットサンダーが唯一だったからだ(ちなみに、さいたまトレセンへの統合後にはクロスクロウなどもいるが……)。その勝ち鞍といえば、マイルCSと安田記念。故に今では自他ともにトロットサンダーの名は“浦和のThe perfect miler”としても知られている。
そして、最後のゲスト、メジロシクローヌは挨拶をするが、その表情には心の底からの喜びが浮かんでいた。
「こんばんは。メジロシクローヌです。またここに来られて嬉しいです」
この世界における、
スイープトウショウと鎬を削ってのティアラ二冠、三冠目では菊花賞にてデルタブルースらを降して、ティアラ路線から移ってきたウマ娘としては実に約57年ぶりの勝利という快挙を達成した。
二度の凱旋門挑戦、一度目は僅かな差で頂点を逃し涙を呑みスランプにも陥ったが、二度目の挑戦では同じ日本から参戦していた“英雄”ディープインパクトと“騒々のくノ一”ノイジースズカを纏めて降して、“アメリカの総大将”スペリオルワンダーを2着に抑え込んでの大金星。
現役時代には史上2人目のG1八冠を達成し、その戦績はまさにドラマのようだと評されるが、それらの勝利の中で彼女にとって思い出深いレースを挙げるとしたら───、
「───メジロシクローヌさんにとって思い出深いレースといえば、やはり凱旋門賞を勝利した時?」
「確かに1番はそれです、でも、その2番目か3番目ぐらいに思い出深いのは帝王賞ですね」
「おぉ、帝王賞ですか」
「はい」
うまたせによる司会進行でしばらくトークショーが続いたところ、うまたせがメジロシクローヌに前述の質問を振ると、意外な答えが返ってきた。
「帝王賞を思い出深いレースとして挙げて下さるとは……大井の関係者の方々にとってはきっと嬉しいでしょうね。でも何故?」
「そうですね……あの時は最初の凱旋門賞挑戦のために気合いを入れていて、生涯で一番のレースを出来ていたと思います。だって、大井で走れたことだけでも凄く嬉しかったんです」
「その理由をお伺いしても?」
「はい。実は私、飛行機が好きなんです。ここ大井レース場は近くに羽田空港があるじゃないですか。初めて東京大賞典を見た時、空では飛行機がエンジンの唸り声を上げながら離発着して過ぎていきました。それを見て……はしたないとは分かっているんですが、凄く興奮しました。「東京にこんな凄いレース場があるんだ」って、その時初めて知りました。だから、出来ればジャパンダートダービーも走りたかったんですがトレーニングスケジュールの都合上諦めるしかなくて……帝王賞を走った時はそのリベンジも兼ねてました」
「おぉー、なるほど……そんなことがあったんですね。それで勝負服も?」
「はい。大体の部分はパイロットをイメージしてますね───」
───ステージ上でトークショーが繰り広げられている一方で、ステージがある側よりメガツリーを挟んで反対側のスペースでは、サイン会とグリーディングイベントが実施されていた。
大抵のライブ参加したウマ娘たちはサイン会のみの実施に留まったが、この内、ハルノウラワ、ダイタクヤマト、アイルトンシンボリ、フリオーソ、シムーンカルマの5人はグリーディングイベントもこなしていた。
また、ハルノウラワは、会場を提供しているTCKからの要望で、ジャパンダートダービーの優勝レイを羽織った状態でイベントに臨むことになった。
写真撮影したい人、サインを貰いたい人たちを1グループずつ中に入れて、係の人たちがお客さんからカメラや携帯を預かって撮影。
たまーに、小さなお子様を抱っこしたり肩車したりといった形での写真撮影になることも。
しかし、ハルノウラワは後にこう語る。
「後々、あんなに忙しくなると分かっていたらサイン会だけにしておけばよかった」と。
……というのも、
(明日からお父さんお母さんがお仕事というご家庭も少なくないはずだと言うのに、夜になってもグリーディングにやってくるお子様連れのファミリー層がほぼほぼ絶えないんですけど……!?)
「うわぁ……まだ20組ぐらい並んでないか?」
(マジですか……)
彼女が思っていた以上にお客さんが詰めかけており、その困惑ぶりやら、横でフリオーソが言ってることに思わず口をあんぐりと開けそうになるのを、何とか、
(い、いけないいけない! そもそも自分で「大井でグリーディングをやりたい!」と言い出した以上、たったこの程度で「疲れたぁ」なんて言いたくない。もうちょっと頑張ろう)
一応は自分もアイドルウマ娘の端くれに名を連ねるようになった、そう自覚しているハルノウラワは、疲れた表情を見せないように何とか堪えて、来場客たちに笑顔を振り撒いて対応する。
「はい、にーんじん!」
カメラマン役のスタッフウマ娘の掛け声と共に、ハルノウラワはお客さんの前では決して笑顔を絶やさずに写真撮影に臨んだ。
第9レースが終わり、サイン会兼グリーディングイベントも無事終了し、気付けば日も落ちていた。
第10レースのパドックが始まるまでほんの僅かな時間。
「はぁー、疲れたぁ……!」
今回のイベントに参加したウマ娘たちは全員、一旦控え室で休憩に入っていた。
サイン会だけでも大変だったはずだが、グリーディングまでこなして気を張っていた面々は、ここで緊張の糸が切れたため一気に疲労がのし掛かってくるかのような感覚に襲われる。
特にクラシック期で体が完全には出来上がっておらず、スタミナが他のベテラン勢には明らかに劣っているハルノウラワは露呈すると一気に控え室のテーブルの上に上半身が崩れ落ちていた。
「ちょ、ちょっと、ハルノウラワ! はしたない格好はやめなさいったら!?」
……この場のハルノウラワはクラーベセクレタが頬を思わず赤らめてしまい注意までしてしまうほどの姿を晒していたが、どんな格好をしていたのかはあえて詳しく書かない。読み手の想像にお任せする*7。
しかし、言われてから数秒のタイムラグはあったものの、ハルノウラワも慌ててテーブルに伏せていた上半身を何とか起こして、身なりを慌てて整える。
「にしても、ハルノウラワさんも中々にチャレンジャーだね……こういう大きな会場でのイベントは初めてって聞いてたのに」
「ハルナはん、あんたはほんまにクラシック級どすか?」
「え、あ、はい……」
「ほえぇ……そうとは思えへん程にタフどしたなぁ……」
「そうだよね……イベントの時、全く疲れた素振りも見せずにお客さんに愛想も振り撒いていたし」
「とにかく笑顔を絶やさへんでやり切ったのはすごいどすえ。うちらだって中々出来るこっちゃあらへんどすさかいね」
同じくグリーディングイベントに参加した先輩たちにあたるアイルトンシンボリとダイタクヤマトは口々にそう言い、ハルノウラワのイベント時の姿勢をそう評価した。
「まぁ……素人に毛が生えた程度ではありますが」
メジロシクローヌは一見毒のある言い方をするが、続けてこう評価した。
「とはいえ、その根性は立派だと思いますわ」
「……ありがとうございます」
するとクラーベセクレタが続けて言った。
「そうね……ハルノウラワ……認めるのは癪だけど、今日のあなたが凄かったのは褒めてあげるわ」
「コーヒーの飲み過ぎでお腹下したくせにぃ」
「う、うるっさいわね……! もう過ぎたことよ。……だけど、確かに南関東三冠達成が出来なかったのは悔しいし、ハルノウラワ、あなたと勝負をつける大舞台だったのに、あんなことで欠場する羽目になって……その、ごめんなさい……」
1ヶ月前、ジャパンダートダービー。
実は世間の下バ評でも、数年振りの南関東三冠に王手を掛けたクラーベセクレタと、アイドルでありながら不屈の根性を見せて南関東オークスを制覇したハルノウラワ、そこに挑む挑戦者たち多数、という構図で、要は、クラーベセクレタとハルノウラワの頂上決戦が期待されていた。
しかし、クラーベセクレタの悪い癖がこの歴史的対決になるハズだった舞台に水を差すことになってしまった。
彼女の悪い癖というのは、実は緊張するとコーヒーだけでなく飲み物を何杯も飲んでしまうというもの。
これが災いし、レース当日のクラーベセクレタはほぼほぼトイレに籠ったままで、脱水症状も心配されたため、一時的に病院送りになった。
その代わりにジャパンダートダービーではオオエライジンとハルノウラワが最終直線でのデッドヒートを繰り広げ、観客たちを大いに沸かせたという。
その経緯をリアライズノユメは「まぁそういうこともあるさ」と深刻には受け止めずに茶化した。それが彼女なりのフォローであることも、周りもクラーベセクレタも理解していた。
……メジロシクローヌだけは、「アスリート失格ですわ」とクラーベセクレタに言いたい顔をしていたが、流石に空気を読んでそれは喉の奥に飲み込んだ。
しかし、メジロシクローヌのそれがあろうとなかろうと、クラーベセクレタは、ハルノウラワに謝れずにおれなかった。
「……そうね……」
ハルノウラワは、そこであることを考えていた。
「……ハルナ、何考えてるの?」
「そうね……再戦に相応しい舞台……か……うーん……」
「……ハルノウラワ?」
「……東京大賞典か、帝王賞か、それとも……フェブラリーステークスか、かしわ記念か……」
「「!」」
「……あ。今、パッとレディスクラシックが思い浮かんだけど、イルくんとフレア姉……トレーナーたちと相談しなきゃ」
「「……はぁ〜……」」
リアライズノユメ、セイウンプレジャーは思わずそんな深い溜め息を吐く。
「ちょ、何? 二人とも」
「いや、ハルナちゃん、今後のレースローテ、まさか忘れてるわけじゃないでしょ?」
「9月にオーバルスプリント。ユメちゃんやプレジャー先輩と走るレース。もちろん分かってるわよ?」
「……なぁんだ」
「それならいいけどさぁ」
するとクラーベセクレタは、嬉しいと思った反面、少々呆れも混じった溜め息を吐きつつこう言った。
「はぁ……分かってるなら、まず目の前のレースを勝つことに集中しなさい? 東京大賞典やフェブラリーステークスに出るか否かなんてオーバルスプリントの後でも間に合うでしょ?」
「私だって不完全燃焼気味だもん……」
そんな話をしていたら、控え室のドアが開き、
「みんなお疲れ様」
労いの言葉と共に、数人のウマ娘のレース場スタッフと共にア○エリアスなどのスポーツドリンクや水、お茶などの飲み物を持ってきたフレアカルマや各々のトレーナーたち。
「あぁー、フレア姉ちゃん……」
「大丈夫? ハルナちゃん、スポドリ飲む?」
「ちょうだい」
「はい」
というわけで、流石に喉が渇いたのは我慢できなくなり、ア○エリアスの2リットルペットボトルをラッパ飲みぃ!
グリーディングだったら絶対にアイドルがやっちゃならないようなポーズだけど、控え室だし、他のみんなも同じように飲み物を飲み始めたしセーフでしょ……なんて思ったら、今シャッター音した? ピカッとした? 今フラッシュ炊いた?
一体誰が?
そう思ってその方向に目を向けたら、
「!……ゲホッ、ゲホゲホッ……!」
「ちょ、大丈夫?」
(……やめろぉ、今すぐ撮るのやめろぉ、恥ずかしいから、何なら記憶から消してくれ。トホホ、まるでテトリスだ*8)
思わぬ人物の登場に驚いたハルノウラワは、呑んでいたスポドリが気管に入って咽せてしまう(とはいえ、思考には余裕があったようだが)。
彼女にとってはそれは無理もない。そこにいたのは、
「「「オオエライジン!?」」」
「ちょ、何でこんなとこに!?」
「何で、って、そりゃぁ、ボクが走ること知ってるでしょ? 会いたかったよハルナ!」
「……久しぶり、コロちゃん。ジャパンダートダービー以来よね」
控え室にヒョッコリと顔を出した赤い髪のウマ娘。
この場にいるウマ娘たちの中で、彼女と同じレースで走ったことがある者たちはその名を知っている。
オオエライジン。
兵庫トレセン所属の地方ウマ娘の1人であり、つい1ヶ月前、ここ大井で開催されたジャパンダートダービーにも出走していた。
ホームグラウンドが園田レース場であり、メイクデビュー以来、7戦を全勝した記録も持つ、紛れもなき強者のウマ娘の1人だ。
世間は彼女をこう呼ぶ。“園田の最終兵器”、または“雷神”と。
しかし、そんな異名で呼ばれるより彼女にとって嬉しいのは、幼馴染であり、今やライバルでもあるハルノウラワとの再会だった。
2人は再会を喜んで抱き合った。それを微笑ましく見守るセイウンプレジャーと、フレアカルマとシムーンカルマ。
……だが、ハグが終わったところでハルノウラワはこんなことを言った。
「……さっきの話。コロちゃんが走るのはもちろん知ってるわよ。そんなことより、
「え?……ぁ」
ハルノウラワに指摘されてオオエライジンはまだ兵庫トレセン学園の制服姿のままだったことに気付き、その表情に沸々と焦りの色が浮かび上がる。
「あぁー! 忘れてた!! ごめんね、また後で!!」
慌ててハルノウラワたちがいる控え室を後にして、廊下を走り、三つほど奥に離れた部屋に駆け込むオオエライジン。だが、部屋を間違えたらしくすぐに部屋を出て、もう一つ奥の隣の部屋に入っていった。
今更だが、この世界での地方のレースの重賞は体操服ではなく、勝負服を着て出走するのが一般的になっているためである。
「……あの子、大丈夫なの?」
「着替えは早い方だから……」
「まぁ、今日のレース日程が
その背中を見送りながら、セイウンプレジャー、ハルノウラワ、そして入り口付近にいたシムーンカルマがそんなことを言った。
シムーンカルマが言うように、今日の大井のレースは
本来、メインレースと言えば「第11レース」を指す場合が多く、第12レースまで行なうことが多い。
この理由は色々とあるけど、それは今は重要ではない。
何が言いたいかというと、
部屋に戻って慌てて着替え始めたであろうオオエライジン、5分経ってから勝負服を身に纏って部屋から出てきた。
「はぁー……何とか間に合う、かな?」
その姿は、まるでギリシャ神話の登場人物をイメージしたかのような出立ち。
彼女にとってのパーソナルカラーはオレンジと白。白いシャツの上からオレンジのギリシャ風ローブを纏い、ダイヤ模様が入った紫のスカートを履いている。
足元はダートを走るための白い厚底サンダル。
赤い髪を右側でサイドポニーにして纏めている。
【業務連絡、業務連絡です、第10レース黒潮盃出走予定のオオエライジンさん、オオエライジンさんいらっしゃいますか?】
「あ、いけない!」
館内放送が流れてきたため、オオエライジンは慌ててパドックへ向かう。
その際にハルノウラワからの視線に気付いて、オオエライジンは手を振ってから走り出した。
それを見たハルノウラワは手を振り返して応じた。
「……さて、みんな行きましょうかね」
「そうね……休憩時間は終わり。誰かシャッターちゃんかプカラちゃんに
「あ、私がやっとくよー」
「もうひと仕事……頑張りますかねー」
勝負服姿のまま、一向は休憩室を後にする。
彼女たちが向かった先は───。
大井レース場開催日6日目第10レース 黒潮盃(S2)
ダート右1800m / 天候 : 晴 /ダート: 良
| (枠番) | (ウマ番) | (出走者名) |
| 1 | 1 | ベストマイヒーロー |
| 1 | 2 | ファジュル |
| 2 | 3 | エースキッド |
| 2 | 4 | ゴーディー |
| 3 | 5 | ブラックサンダー |
| 3 | 6 | ピエールタイガー |
| 4 | 7 | セントマーチ |
| 4 | 8 | ラカンパーナ |
| 5 | 9 | ハルサンサン |
| 5 | 10 | ドラゴンウィスカー |
| 6 | 11 | オオエライジン |
| 6 | 12 | グッバイテキサス |
| 7 | 13 | ハバナマティーニ |
| 7 | 14 | ミサキティンバー |
| 8 | 15 | オーナーシップ |
| 8 | 16 | リアライズブラボー |
───慌ただしくパドックを終えたオオエライジンは大井レース場のコースに駆け出てきた。
既にコースのあちらこちらにはこれからのレースに出走するウマ娘たちの返しウマの足跡が残っていた。
「コロちゃーん!!!」
その声に振り返ると、観客席の最前列に、
「頑張ってねーっ!!!」
それに返事をするかのように、ハルノウラワはさらに声援を贈る。
その声を背にして出走ゲートへと向かうオオエライジン。
【本日開催のサマースペシャルグリーディング、プレゼンターのハルノウラワからの声援に応えてオオエライジンが今出走ゲートに向かいます。TCK第10競走。本日のメインレースは重賞です。南関東G2黒潮盃。距離はダート1800m、クラシック級ウマ娘たち16人による競走です。北海道、岩手、笠松、愛知、兵庫、高崎から1人ずつ。この内4人はそれぞれの地区のダービーを制した強者たち。岩手から参戦のベストマイヒーロー、岩手ダービーの勝者は今日は1枠1番からの出走で5番人気です。北海道優駿の勝者ピエールタイガーは3枠6番。そして、ジャパンダートダービーでも5着ながら好走を見せた高崎のグッバイテキサスと、兵庫のオオエライジン。片や北関東ダービーを制し、片や兵庫ダービーまでは7戦全勝で地元園田では負け無し。今日のグッバイテキサスは6枠12番で2番人気、オオエライジン6枠11番からの出走で1番人気】
【先月のジャパンダートダービーの熱狂が思い起こされますね、二冠ウマ娘不在の中でも最終直線でのハルノウラワとオオエライジンの奮戦……オオエライジンは惜しくも交流重賞でのG1勝利こそ逃したものの、そんな彼女が再びこの大井に来てくれました。スタンドをご覧ください。黒潮盃は
【えぇ、他にも、同じくジャパンダートダービーに出走していたミサキティンバーのためにと、観客席に横断幕まであります! 今日の7番人気です】
【さぁ、16人の枠入りですが、16番リアライズブラボーが入りまして係員が離れます───】
ガチャンッ、
【───スタートしました、おっとセントマーチ、あまりいいスタートを切れなかった、後方からのレースになります。先頭に立ったのは4番ゴーディー、8番ラカンパーナ、それから11番のオオエライジン、リアライズブラボーが前に行きます。その後ろにベストマイヒーロー、12番のグッバイテキサスここにいた。その横に9番のハルサンサンが並ぶ、それから5番のブラックサンダー、各ウマ娘が第1コーナーへと差し掛かります。ブラックサンダーの外に13番ハバナマティーニが付けていきます。先頭からしんがりまでおよそ12バ身ぐらい、ここから2コーナー先頭向正面に入ります。ここで先頭が16番リアライズブラボーに変わって1バ身のリード。2番手ゴーディー、その後ろ1バ身差でオオエライジンが3番手で続きます、兵庫の雷神ここでも雷鳴を轟かせるか。8番ラカンパーナがその内側、後は外側からハルサンサン、間にベストマイヒーローとグッバイテキサス。そこから2バ身差で10番ドラゴンウィスカー。外から5番のブラックサンダー。内に2番ファジュルと続いていきます。ここで7番セントマーチが追い上げ、内側から上がっていきました。その後に外から14番ミサキティンバー、外並んで13番ハバナマティーニ、後方グループに6番ピエールタイガー、北海道のダービーウマ娘。15番オーナーシップ、3番エースキッドがしんがり、今先頭が3コーナーを曲がっていきまして残り600m。16番リアライズブラボーが僅かにリードして先頭、ゴーディーが2番手、オオエライジンが3番手、前の3人が4番手を突き放して2バ身、3バ身とリードを広げていきます、間も無く第4コーナーを抜けて直線へ。後方から猛烈に追い上げてきますセントマーチ、グッバイテキサス、ミサキティンバー、さらに外からブラックサンダー上がってくる】
最終直線に入り、観客からの声援にもより一層の熱が入る。
【外からオオエライジン、内で粘っているリアライズブラボー、後方から逆襲を図るセントマーチ、グッバイテキサス、ミサキティンバーの3人だが、先頭2人が抜け出してぐんぐん後方を突き放していく。3番手セントマーチ、4番手グッバイテキサスが外から抜け出した、しかし、先頭オオエライジンとリアライズブラボーがリードして、地方レース場最長の大井の直線で叩き合い! 先頭争いはこの4人に絞られた、だが僅かに今オオエライジンが前に出る前に出る! オオエライジン、勝った!!】
橙のローブに身を包んだウマ娘───オオエライジンが先頭でゴール板を通過した。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
【兵庫の雷、ここでも炸裂! 勝ちました11番オオエライジン、ジャパンダートダービー2着の雪辱、ここ大井の地で見事に晴らした。兵庫ダービーウマ娘がここ東京でも勝利。全国区重賞を初めて手にしました!!】
実況と観客たちの興奮と歓声、それに応えるかのように、オオエライジンはガッツポーズを見せた───。
───そして、助走の後、スタンド前に戻ってきて、ウィナーズサークルに立った時。
「え!? み、みんな、何でウィナーズサークルにいるの!?……わぁっ」
「サプラーイズ! コロちゃ……いいえ、オオエライジンちゃん。黒潮盃勝利おめでとう!」
黒潮盃を見事勝利で飾ったオオエライジンをウィナーズサークルで待っていたのは、本日開催のサマースペシャルグリーディングに参加していた総勢16人のウマ娘たち。
その内の1人であるハルノウラワから直に花束を手渡されて戸惑うオオエライジン。
「ちょ、何も聞いてないぜ?」
「どういうことですかこれ?」
同じレースに出走していたグッバイテキサスとミサキティンバーら、ハルノウラワらとも顔見知りのウマ娘たちも驚いていた。
すると、
「ふっふーん。私たちのアイディアだよーん」
「プカラ先輩とシャッター先輩?」
「私たち先輩なりに君を激励したくてさ」
「テキサスちゃんが勝ったら真っ先にお祝いしたくて、それも今日のイベントに出てた私たちがプレゼンターなら盛り上がるかなって思ってたんだけど……」
「うぅ……面目ない……」
スタンド前の電光掲示板。4着に「12」、5着に「14」の数字が刻まれていた。
「さぁさぁ、勝利者とプレゼンター以外は帰った帰った」
「テキサスちゃん、帰ったら反省会と残念会ね」
「はーい……」
すごすごと、ミサキティンバーとグッバイテキサスはバ道を通って控え室に戻って行った。
一方、手薬煉引いて待っていたインタビュアーは漸く自分の出番が回ってきて、オオエライジンにマイクを持ってきた。
「改めまして……オオエライジンさん、黒潮盃勝利おめでとうございます!」
「あ……ありがとうございます」
「今のお気持ちは?」
「は、はい。園田以外のレースで勝てたのが初めてですごく嬉しいです」
「大井を走るのは前回に続いて二度目でしたよね? どうでしたか?」
「そうですねぇ……とにかく大井はデッカい」
そのコメントに観客席からも笑いが漏れる。
「前回はジャパンダートダービーでハルナちゃん……あ、ハルノウラワちゃ……さんに一歩及ばなくて……友達が勝ってくれたのは嬉しいと同時に、自分が負けて悔しくもあって……」
ハルナ=ハルノウラワの呼び名であることはこの場にいるファンのほとんどは理解している上に、慣れない呼び方に苦労している初々しさには笑いが漏れ、
「直接のリベンジはきっとだいぶ先になるとは思います、けれど、今夜はとにかくここで勝てて良かった」
「今後の出走予定について、よろしければお教えいただけますか?」
「えぇと、そうですね。今のところ、岐阜金賞が次のレースとして予定してますけど、その先がどうなるかはまだ決まってなくて」
「なるほど、次はカサマツに雷鳴を轟かせに行くんですね!」
「はい!」
「最後に何か一言お願いします」
「いずれは「地方の雷神」に、やがては「日本の雷神」って呼ばれるぐらいに活躍して、またここに立ちたいですね!」
「ありがとうございました!! さて、続きましては花束贈呈に賞状贈呈に……は終わってますね。となると、残るは第12レース終了後のウイニングライブですね。ちなみに、曲は?」
「これはボクの友達が昔歌ってくれた曲です。……『君がいた夏』」
「おぉ。夏にピッタリな曲ですね。……えぇ、では、第12レースのパドックに放送を移ります。後半第7から第12レースを走ったウマ娘たちのウイニングライブは、第12レース終了後に行ないますので、皆さま、もう少しだけお付き合いくださいませ」
そして、第12レースが終わった後。
前述のアナウンスの通り、第7〜第12レースを走ったウマ娘たちによるウイニングライブが午後9時から始まった。
各々が歌謡曲を歌って、民謡を踊って、時には中央・地方の統一ライブ曲を披露しつつ、ついに、第11レース組の番がやってきた。
ハルノウラワは最前列でサイリウムを片手にそのライブを見ていた。
この曲を聴いていて、ハルノウラワの胸の内には去来する思い出が押し寄せてきたようだった。
───幼い頃、高知で一緒に過ごしたこと。
海岸で飽きるまで夕陽が沈むのを一緒に眺めていたこと。
急な転勤で高知を離れて別れた日のこと。
泣きながらも、再会を誓い合ったこと。
何年も経って、遠い園田の地で活躍している姿を映像を見た時のこと。
そして、つい1ヶ月前の大井での再会と、ジャパンダートダービーで魅せてくれた豪脚───。
それから早くも2週間が過ぎようとしている。
「つまり、ハルナちゃんはコロちゃんと離れて寂しいってこと?」
「……まぁ、その……うん、そういうこと」
こんな感情、まるで子供の我が儘みたいで認めるのは癪だった。
けれども、改めてあの日の夜を思い出すと、あれから心のどこかに穴が空いたような気分になったままなのも事実だった。
何とか持ち前の根性でその寂しさを表に出さないように誤魔化してきたものの、つい先日、
「それが、フレア姉ぇにバレちゃって……暫くトレーニングはお休みしなさい、って言われちゃって……オーバルスプリントまであと1週間もないのに、どうしよう……」
「そっか……」
オーバルスプリントが1週間後に控えている。だが、
「今ならまだ出走取り消しをしてもペナルティーにならないと思う……けど、そうもいかないわよね」
シムーンカルマは自分から提案したことをすぐに否定し、ハルノウラワも頷いた。
オーバルスプリントは、大事なレースだ。ハルノウラワにとってはさいたま学園でのイロハを教えてくれたセイウンプレジャー先輩の引退レースに華を持たせたいからこそ出走を決断したというのに。
ユメちゃんこと、同期のリアライズノユメとのリベンジも重なっていて、今やおいそれと出走を諦めるわけにもいかない。
しかし、こんな気持ちが不安定な状態でやらせては、トレーニングもレースも危険だ。
正直なところ、ハルノウラワにとっては八方塞がりも同然だった。
そんな時に、ハルノウラワの
「管理人さんから……? はい、もしもし?」
画面に出てきた着信相手の名前を見て怪訝な顔をしつつ電話を取ると、その通話内容に驚きを隠せなかった。
「え? それ本当ですか!? はい……はい……はぁ、分かりました。すぐに帰ります」
通話を終えると、ハルノウラワは慌てて帰ることになった。
「シム姉ちゃん、ホントにごめん! 急いで帰らなきゃ」
「うん。聞こえてたわよ。気をつけて帰りなさいね」
「それじゃ、またね!」
そうして足早にさいたまトレセン学園の校舎を後にして、南浦和駅から武蔵野線で府中本町へ。
中央トレセン学園に近い、ハルノウラワが入居してるマンション。
鞄を持って慌てて帰ってきてみれば、中央玄関に管理人が待っていた。
「管理人さん?」
「あぁ、ハルノウラワちゃん。実は電話でも話したように、急遽、君とルームシェアをしたい、って子が現れてね」
「その子は今どこに?」
「君の部屋に上げたよ」
「どうしてそんな……あぁ」
このマンションの管理人は初老の女性。
面倒見が良くて普段からお世話になっているものの、悪戯っぽい笑みを浮かべているのを見て、何かを察した。
それ以上の追求を諦めて、ハルノウラワは自分が住んでる部屋のある階までエレベーターで上がった。
そして、その階に着いてエレベーターを降りたら、なんと目の前に。
「……あ!?」
「やっほー」
そこには何と、中央トレセン学園の制服に身を包んだ、オオエライジンが待っていた。
「え!? こ、コロちゃん!?何で!?しかもその格好……!?」
「ふふっ、驚いた? この前のお返しだよ。サプラーイズ!!」
ハルノウラワは驚きのあまり思考が追いつかなかったが、対するオオエライジンは「してやったり」と悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「ま、まさか、私の新しいルームメイトって……!」
「そう。ボクだよ」
するとオオエライジンはお辞儀しながら言った。
「兵庫トレセン学園所属、オオエライジン。特別留学制度で中央に来ました。不束者ですが、よろしくお願いします……!」
「ひゃ、は、はい……こちらこそ、よろしくお願いします……!」
ハルノウラワも礼をして返すが、2人とも顔を上げてお互いを見ると顔が真っ赤になっていて、
「……ふふふっ」
「……あはははっ」
何とも言えない雰囲気になってしまったが、ついそれが可笑しくて笑ってしまう。
後からハルノウラワが管理人とオオエライジンから聞いた話だと、「ハルノウラワを喜ばせたくて内緒にしていた」んだそうな。
ライブの曲目はこんな感じです
1.Unlimited Impact
2.BLOW my GALE
3.Rush Hour
4.愛が止まらない(Turn it into love)
5.ダンシング・ヒーロー(Eat You Up)
6.Even If You Say
7.Touch Me Touch Me
8.Shake my day
9.Next Frontier
10.Girl’s legend U
11.瀬戸の花嫁
12.君がいた夏
一応YouTubeにプレイリストがありますので、興味がある方は是非聞いてみてください。(最後の三曲は原曲)
ちなみに、各パートのウマ娘たちの色分けはこんな感じです
↓
ハルノウラワ
リアライズノユメ
ナコウトプカラ
フリオーソ
ナコウトオトメオー
フレアカルマ
シャッタードスカイ
セイウンプレジャー
ダイタクヤマト
アイルトンシンボリ
トロットサンダー
ゴーアレディ
シムーンカルマ
グランシュヴァリエ
クラーベセクレタ
メジロシクローヌ
オオエライジン
※なお太字と斜字は全員歌唱、ないしは歌唱に参加している二人または三人のウマ娘たちによる合唱です。
この回を描き始めた時はヴィクトリアマイルすら一週先だったのに、このようなシーン構成になったのはニシノエージェントの日本ダービーの夢が破れて後の週になってから。完成したらメイショウタバルが宝塚記念でG1馬になっていて、シャマルがさきたま杯を勝利してG1二連勝を決めていた……おめでとう!
だいぶ迷走しましたが、始まりと終わりだけは決まっていました。
とはいえ、シーンの作り方はこれの船橋編のライブシーンを思い出す必要があり、時間がかかってしまって申し訳ありません。
本当はトークショー→ライブという流れを考えていたんですが、トークショーのシーンを描いてる内に「コレジャナイ感」ってのが強くなってしまい、順番を入れ替えました。
Girl’s legend Uの歌詞のパート分け中、実際に曲を聴いて、さらに歌詞を何度も見ていたら、歌詞が良すぎて泣きそうになった……。
今回は実馬編・ウマ娘編共に度々顔や名前が出ていたお馬さんをほぼみんなウマ娘として出すことになり、急遽、AI生成の力に頼ることとなりまして、大変なことになりました。
また、方々で色々な人たちにお世話になりまして、今回の話の完成はそれ無くしては出来なかったと思います。
あとがきの末尾に、順不同・敬称略ながらも、お名前を載せさせていただきます。
まずは以下に、今回登場しているキャラクターたちのイラストを貼っていきます。
今回、ハルノウラワのライブシーンが登場しますが、その一枚絵を描いてくださったのは、タダシ(旧sinzan)様です。
◎ハルノウラワ
【挿絵表示】
こちらはpixivにてTK様にお願いして描いてもらったオリジナルウマ娘たちです。勝負服姿だけですがご容赦ください。
◎アイルトンシンボリ
【挿絵表示】
◎ダイタクヤマト
【挿絵表示】
◎メジロシクローヌ
【挿絵表示】
◎シムーンカルマ
【挿絵表示】
◎フレアカルマ
【挿絵表示】
※ちなみにトレーナーとしての姿もおまけで貼っておきます
【挿絵表示】
ナコウトプカラについては、TK様にお願いして描かせていただいた群馬トレセン学園の制服とジャージ姿と、みちザね様が投稿されているAI生成ウマ娘より、勝負服姿の暫定イメージを貼らせていただきます。
◎ナコウトプカラ・群馬トレセン学園制服姿
【挿絵表示】
◎ナコウトプカラ・ジャージ姿
【挿絵表示】
◎ナコウトプカラ・勝負服姿(暫定)
【挿絵表示】
また、AI生成で作って出してみたウマ娘たちのイラストをどうぞ。解説は活動報告にて。
◎クラーベセクレタ
【挿絵表示】
◎リアライズノユメ
【挿絵表示】
◎ナコウトオトメオー
【挿絵表示】
◎シャッタードスカイ
【挿絵表示】
◎セイウンプレジャー
【挿絵表示】
◎グランシュヴァリエ
【挿絵表示】
◎トロットサンダー
【挿絵表示】
◎ゴーアレディ
【挿絵表示】
あと、オオエライジンの場合は勝負服姿だけでなく、兵庫トレセン学園の制服姿と、中央トレセン学園の制服姿も作ってみた。
◎オオエライジン
勝負服姿
【挿絵表示】
兵庫トレセン学園の制服姿
【挿絵表示】
中央トレセン学園
【挿絵表示】
おまけ
ついでに、うまたせをウマ娘化してみた
【挿絵表示】
SpecialThanks‼︎(敬称略)イナダ大根 TK タダシ 零課 スターク みちザね 古生物
ケイジをストーリーに出しても良い?(出典元:「ハジケリスト世代だろ!」より)
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いいよ
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ダメ
使用楽曲コード:00838985,04136136,04415299,0A695282,0E116660,0E156131,0R200517,0S650380,0T339777,25886045,27139441,28853482,74277367