浦和の桜吹雪   作:Simca Ⅴ

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 前回の話が長すぎたのと、実馬編とウマ娘編をやはり分けた方がいいなと思ったので、ウマ娘編を分離しました。
 なんか色々と申し訳ない。

※2026年4月4日追記……ある方からご指摘いただきまして、冒頭で使用している曲をFrank Torpedoの『Never Stop』から、Dave Rodgersの『Wild Reputation』に差し替えました。確かに、このストーリーでは群馬と高崎がシマカゼタービンの世界線と接しているので、この方が良いかもしれない。


ウマ娘編⑥「10月の高崎の夜に」※後書きに特大付録有り⭐︎※2026年4月4日修正

 ───群馬県の高崎。*1

 昔から交通の要所として栄えてきたこの場所だが、今宵は東西南北あらゆる場所から人、人、人、たまにウマ娘、という具合に大勢が押し寄せていた。

 それもそのはず、JR高崎駅から徒歩10分の場所にある高崎レース場にて開催のウマ娘レースはダートG1二連戦。

 今日の客入りは高崎レース場のスタンド席がほぼ埋まっており、足の踏み場もない混雑ぶりだった。

 数年前の改修工事でコースに高低差15mの坂を追加した他、収容人数9000人だったスタンドも改修と拡張の結果、12000人を収容できるようになってのこれである。

 北関東ウマ娘レース協会の大改革が実施される前までここは閑古鳥が鳴いていたとは思えないほどの盛り上がりを今夜の高崎レース場は見せていた。

 だが、そんな観客席も一瞬、静寂に包まれた。

 観客席から見て奥のコースの向正面。

 第3コーナー手前に《TAKASAKI Race Corse》と描かれた発バ機(ゲート)が置かれていて、そのゲートが今まさに、「ガチャンッ」と音を立てて開き、ウマ娘たちが一斉にダートコースへと飛び出して行く。すると観客席からは歓声と、一部から嘆声と驚きの声が上がった。

 

【スタートしました、ダートG1北関東秋華賞。第2コーナー手前向正面平地からの発走です。おっと、メルキュールエリス出遅れたか。それ以外は綺麗なスタートです。14人のウマ娘たちが夜の高崎のコースに駆け出して行きます。早くも緩勾配の5mの下り坂に入りまして、先頭に躍り出ました4番レイガルーダ。二番手に2番リアライズノユメ、北関東ティアラ二冠ウマ娘がこの位置から追随したまま、今度は並勾配の高さ15mの坂を登ります。三番手に5番のフラジアンキスタ、1バ身ほど離れて9番エスエタンダールはこの位置、6番アースグリーンが五番手。今度は再び15mの緩勾配の下り坂へ入りまして第3コーナーへ進入。1周目は各ウマ娘、まだ抑え気味です。そのまま平地になった第4コーナーもぐるっと回って先頭集団がスタンド前直線へ入っていきまして、観客席からも拍手が上がります。早くも先頭を行くは2番リアライズノユメ。4番レイガルーダ続きまして、5番のフラジアンキスタが三番手。さらに9番エスエタンダール、6番アースグリーン、8番メイショウフレンダ、12番メジロデイトナ、4人がほぼ団子状態、ここまでが先行集団を形成してます。2バ身後ろに11番エリモエクレール、内側に1番のエイプリルリリィ、3番ブルーフローラル、13番イセノメガミ、続きまして10番メルキュールエリスやや後方だ。先頭集団が第1コーナーを通過。後ろから二番手に14番ハインドフィスト、最後方に7番ブラックイーグルです。先頭集団が第2コーナーを通過し、向正面入ります。高崎名物の急坂・高崎スペシャル、高低差15メートルの二度目のアップダウンが始まった。まずは5mの下り坂。しかし、先頭はリアライズノユメで揺るがない、2番手レイガルーダとフラジアンキスタが遅れ、後ろからエスエタンダール迫って加速してくる。そこから15mの上り坂へと入ります先頭リアライズノユメ。ここで地元勢のメイショウフレンダ、メジロデイトナも伸びてくるが、後ろからエイプリルリリィとエリモエクレール飛んでくる。アースグリーン後退し、中団先頭に上がってきたメルキュールエリスと入れ替わる。追随してイセノメガミ、ブルーフローラル続きました。ブラックイーグル後方二番手、最後方にハインドフィストです。さあ、緩い坂を降りながら二度目の第3コーナーに入って行きます、ここからが勝負所。依然としてリアライズノユメ、勢いを殺さないまま先頭一人旅。二番手はメジロデイトナだが、まだ8バ身以上の差が開いている。後続もラストスパート、坂を下って加速に入る! ……えぇとここで第3と第4コーナー中間に備え付けのスピードガンからのデータが来ました、……な、なんと! ここまでで時速70km以上が出ているぞ! その勢いに乗ったまま先頭リアライズノユメ、二度目のスタンド前直線、残り300mの最終直線に入った! 後続をさらに突き放しに掛かります。二番手にメジロデイトナ、その後ろからメイショウフレンダ、エリモエクレール、エスエタンダール、メルキュールエリスの栃木三連星続きまして、エイプリルリリィも争いに加わるが届くかどうか。いやしかし、先頭と二番手の差は縮まらない、そのままリアライズノユメ、ゴール! やりました、ついにやりました、リアライズノユメ! 北関東新体制後初の北関東ティアラ新三冠を初めて勝ち取った! 中央から足利にやってきたドリーマーが今まさに夢を叶えた瞬間です! タイムは2分10秒9。二着は12番メジロデイトナ。三着はやや混戦だが、8番メイショウフレンダか9番エスエタンダールか。写真判定のランプがつきました。五着は11番エリモエクレールです】

 

 レース終盤、下り坂を利用した加速で時速70kmも叩き出したリアライズノユメ。

 ゴールを超えてから速度を落とすまでに少々惰走*2して減速し、第1コーナー手前で漸く止まり、そしてガッツポーズ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……や、やったぁ……!

 

「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

 北関東三冠路線整理後では初のティアラ三冠ウマ娘誕生に、夜の高崎レース場のスタンドは大盛り上がりを見せていた。

 その中で、

 

「ユメちゃーん!」

 

 観客たちの歓声に紛れていたために聞き取り辛かったが、間違いなくその声のする方向に目を向けると、若草色の髪をサイドテールにした左耳飾りのウマ娘がこちらを見て笑顔で手を振っていた。

 

「……やったよ、ハルナ、私、やったよ……!」

 

 親友と約束した北関東ティアラ三冠。その栄冠を手にしたリアライズノユメは笑顔を浮かべつつも、涙が溢れて止まらなかった。

 

「あーぁ、一体どうしたんだその顔は」

「え? せっかく勝ったのに泣いてるの? 大丈夫?」

「まさかぁ、きっと嬉し泣きでしょ」

「う、うるさいなぁ……」

 

 後からゴールしたメルキュールエリスとエスエタンダールに茶化され、エリモエクレールからは心配反面ふざけ半分にそんなことを言われたもんだからリアライズノユメは涙を拭いながら3人にそう答えた。

 

 ただ、彼女がウィナーズサークルに立つのは北関東菊花賞が終わってからだ───。

 


 

 ───数時間前。

 とある電車内でウマ娘レース新聞を読んでいた人物たち。

 その新聞の一面には心躍る大見出しが描かれていた。

 

《10月のG1戦線は、高崎レース場から始まる!》

《10月第二週日曜日の夜は高崎開催ダートG1二連発!北関東秋華賞&北関東菊花賞》

《翌日の体育の日は府中でも初開催のダートG1! マイルチャンピオンシップ南部杯にも注目》

 

 その内容に電車内で釘付けになってるウマ娘が2人。

 互いに肘掛けを挟んで記事を見ており、彼女たちの左腕には「新聞部」と刺繍がされた腕章が付いていた。

 

「今年の北関東も凄いメンバーが集まってますねぇ……」

「そうよね……だけど、今年のメンバーは何かヤバすぎない?」

「というと?」

「北関東秋華賞はともかく、菊花賞に集まった子たちって、中央でも見かけた名前が並んでるような気がするけど……」

「……あ。ホントだ。確かこのベルシャザールちゃんって、今年の日本ダービーでも走ってたよね?」

「いつの間に北関東に移籍したんだろ……?」

 

 中央トレセン学園の制服を着たウマ娘が4人に、スーツ姿のウマ娘が1人。皆、寝泊まり用の着替えなどが詰まったリュックサックや鞄、キャリーバッグなどを抱えていた。

 1人は小柄で黒の混じった芦毛の髪ながらどこかお清楚な雰囲気の漂っているが、5人並んでいるウマ娘たちの中では最も顔立ちが幼いように思えた。

 2人目は若草色の髪の毛を左側でサイドテールで結んでいるウマ娘であり、吊り目気味で何処かスケバンっぽい雰囲気がする。

 3人目がスーツ姿のウマ娘であり、髪はツインテールをツーサイドアップにしているオレンジ色に近い栗毛色。彼女は外の風景を度々見つつも何処か落ち着かない様子だったが、隣の2人が今日のダブルG1の出走表を見始めるとそっちに視線が行き、会話に参加していた。

 

 対面側にいる4人目は少し灰色掛かったショートヘアの芦毛の女の子。左耳に赤いリボンが目立つ。若草色の髪のウマ娘に比べるとこちらはより近寄り難いオーラを纏っているようにも感じる。……しかも、寝ているように見えて、実際には目を瞑っているだけであり、片手にウマホ*3を持ちつつ、通知のバイブ音がする度にその画面をチラッと見ている。そして、気になる通知が来ればその中身をチェックするという具合であり、寝ては起きてをこの電車の席に座ってからはずっと繰り返しているような状態だった。

 あと、最後の1人はというと、赤い髪を右側でサイドテールにして結んでいるウマ娘の方はウマホにイヤホンを繋いで音楽を聴きながら目を閉じていた。

 

 彼女たちが今乗っているのはJR上越新幹線。ここはE7系新幹線の車内。

 大宮から乗って高崎までは約30分の行程であるが、5人のウマ娘たちは三人掛けの席二組を対面にして半個室のような空間を作ってなるべく周りの乗客の迷惑にならない範囲でちょっとした旅行を楽しんでる様子だった。

 しかしそれでもだ。

 芦毛のウマ娘の懸念は的中した。

 

「……ねぇ、ハルナちゃん」

「はい?」

「お喋りに夢中なところごめん。でもね、これ見て?」

「え? 何でしょう……? ……ん!?」

 

 ウマ娘がいる世界ではUmastagram(ウマスタグラム)Umatter(ウマッター)などのSNSが存在するが、ショートヘアの芦毛のウマ娘が若草色の髪のウマ娘と、さらにその隣で出走表と睨めっこをしていた暗灰色の髪のウマ娘までをも巻き込んで、彼女が開設しているUmastagramのアカウントをチラッと見せた。

 そこには通知が色々と届いていたが、取り分け彼女たちの目を引いたのは、

 

「ほら、カレンの言った通りだったでしょ?」

「うわぁ……やっぱり撮られてる?」

「一体いつ……2分ほど前?」

 

 カレンというウマ娘が見せた投稿の写真には、自分たち5人がバッチリと写っていた。

 その内、カレンと赤髪のウマ娘は寝ているように見えたが、暗灰色のウマ娘と若草色のウマ娘の2人はレース新聞と睨めっこしていて、栗毛のウマ娘も撮られていることに全く気付いていない様子だった。

 撮影者の位置は、自分たちの席の通路を挟んだ反対側の2人掛けの席。そっちに視点を向けると無人だったが、そういえば大宮から乗った時に若い男性が座っていたような気がする……。

 

「勝手に写真を撮る人も悪いけど、これでカレンや、(ゆう)くんたちの心配の意味も分かったよね?」

「は、はい……気をつけます」

「よろしい」

 

 今回、5人が向かうのは群馬県の高崎。

 しかし、交通手段について出発前に実はちょっとした問答があった。

 


 

 数日前。

 

「ねぇ、ハルナちゃん、それ本気で言ってるの?」

「は、はい。確かに時間は掛かりますけど、新幹線を使うよりは安いかなと」

「えぇー……新幹線の方が良いと思うなぁ」

 

 トレーナー棟の一室に用意されたチーム[セントーリ]のチームルーム。

 特別留学生というポジションにいながらも同チームに所属しているハルノウラワは、自身のトレーナーになった射手園(いてぞの) (ゆう)にあることを申し出ていた。

 ちなみに、ハルナに誘われてオオエライジンもチーム[セントーリ]に加入しており、2人がチームルームに顔を出したちょうどその時、チームのツートップであるマヤノトップガンとダイイチルビー*4までもが同席していたタイミングだったのはある意味では運が良かったかもしれない。

 その「目的」自体には射手園たちは特に異議は唱えなかった。

 しかし問題はそのための「手段」であった。

 

「高崎で開催の秋華賞に君たちの友達が出るんだったよね? 確かリアライズノユメ、さんだったかな? それで君たちは応援に行きたい、そこまでは別に良いんだよ? 問題は交通手段のほう。ここから高崎なんて結構遠いよね?」

「時間も掛かります。新幹線を使わない場合は2時間以上掛かるはずです」

 

 射手園に続き、所要時間について指摘するルビー。

 

 中央トレセン学園の生徒たちはその大半が現役のアスリートたちだ。

 彼女たちの舞台はといえば、近場の府中や中山だけでなく、国内だけでも遠いと南は九州、北は北海道、各地にレース場が存在するため、その移動に国内線の航空機や新幹線は頻繁に利用される。射手園たちもこの学園に来てから何度ボーイング737だかエアバスだかに乗ったかは分からないほどに。

 海外遠征ともなれば船舶や飛行機はまさに必須の交通手段となる。

 オオエライジンはこう答えた。

 

「でも、新幹線で行こうとしたら高いじゃないですか……」

「あと北関東のG1はナイターだったはずです。レースが終わった後はどうするおつもりで?」

「えっと……あ、そうか……」

 

 いつもは南関東のレース場か遠征先のレースに参加、ないしは観戦ということが多かったハルナは、ルビーに指摘された通り、「北関東G1(恐らくは北関東菊花賞の方を指している)が終わった時の時刻」を見落としていた。

 北関東秋華賞の出走時刻は19時35分、北関東菊花賞に至っては20時15分、最終レースもあり、こちらは20時45分出走だ。

 仮に北関東菊花賞を見終わってすぐ帰るにしてもレース場と最寄りの高崎駅も大混雑するであろうし、ここへ戻る頃には午前様になりそうだ。治安が良い日本とはいえ、夜中に女学生2人きりが出歩いてるのも不安が残る。

 そこでルビーとマヤノが同時に名案を思いつく。お互いに目配せをしてから先に話したのはルビーだった。

 

「それにウイニングライブも忘れてはなりません。お友達が出る可能性があるのならば尚更見逃せないはず……ですから、現地で一泊するのが安全です。今すぐにでもダイイチ家から宿泊先を手配できます」

「え、いや、それはちょっと……」

 

 あのダイイチ家だ。どんな豪華ホテルが飛び出すか分かったもんじゃない。

 そんなホテルに泊まりたい憧れが無いといえば嘘になるが、さすがにこれはちょっと……と思っていたら、次にマヤノがこんなことを提案した。

 

「じゃあさ、じゃあさ、群馬トレセン学園の宿泊所を借りてみない?」

「群馬トレセンの宿泊所を、ですか?」

「そう! あと確かコロちゃん、今週の金曜日にレースを控えていたよね?」

「あ、はい……岐阜金杯ですね」

 

 岐阜金杯。

 カサマツレース場で開催される東海地区G1(SP1)である。

 今年の出走メンバーにはアムロ、ミサキティンバー、ミラノボヴィッチなど、これまでハルナやオオエライジンと競ってきたライバルたちも出てくる。

 そのレースに向けてのトレーニングに黒潮盃の後、特別留学で中央トレセン学園に来てからも励んできた。

 特別留学前に兵庫トレセン学園で面倒を見てもらった本村トレーナーとの最後の約束のレース。

 そして中央トレセン学園に特別留学後は初の実戦であり、主にサブトレーナーのマヤノトップガンによる指導でここまで来た。

 そのマヤノがこう言った。

 

「それなら、北関東の重賞レースの次の日は群馬トレセンでトレーニングしよう! マヤが引率でついて行くから!」

「え、そ、そんな、悪いですよ……」

「いいからいいから。マヤもね、北関東の菊花賞は気になっていたんだ」

 

 ここでルビーはさらにあることを思いついて言及した。

 

「……そういえばハルナさんは新聞部でしたよね?」

「え? あ、はい。まだ入って1週間しか経ってないですが……」

 

 何でハルノウラワが新聞部に引き抜かれたかといえば、

 

「後輩にあなたを新聞部に誘ったレース観戦が好きな方が……確か、クロノジェネシスさんと仰っていましたね? ハルナさんたちが北関東で秋華賞と菊花賞の観戦に行くともなれば地団駄を踏みそうなものですが」

「ほぉー、ルビーちゃん、ワルなこと考えたね〜。確かにクロノちゃんなら食いつくんじゃ無いかな? あ、何なら新聞部の取材ということにしてしまえばどうかな?」

 

 その提案を出してきたマヤノに対してルビーも軽く微笑んで、

 

「あなたほどワルではございませんが、マヤノさんのそれは面白い考えだと思います」

「でしょ? トレセン学園の部活動の一環なら経費も落ちやすいだろうし、何より北関東秋華賞と北関東菊花賞なら取材に打ってつけなビッグレースだと思うけどなぁ?」

 

 あれよあれよという間に有効な(しかも札束で殴って解決できる程度のものであれば実現可能なものばかりな)アイディアが次々と出てくる状況にオオエライジンとハルノウラワはポカンとする。

 やや置いてきぼりにはされつつも、ハルナは考えながら答えた。

 

「うーん……それ部長に許可取れるかな……? 仮にそうしても経費から落ちないんじゃないですか?」

「そんなことないと思う。レースを観に行くのも勉強の一部だもんね」

「部活動による学業活動に、学外学習に、学外トレーニングのための宿泊。理由付けはいくらでも出来るかと思いますし、交通費と宿泊費の件は駿川さんや秋川理事長に要相談ですね。それはそれとして……」

 

 さらにルビーが、何かを思い出したかのように付け足した。

 

「……ハルナさん、あなたも既に立派なG1ウマ娘です。その自覚を持ってください」

「えぇーと……?」

 

 ちなみに、ここまでのハルノウラワの戦績は11戦8勝、内3勝はダートG1によるものである。改めてマヤノもその戦績を振り返った。

 

「そうだよ! ジャパンダートダービーに、南関東オークスに、全日本ジュニア優駿に……この時期までにG1を3勝するだけでも凄いのに!」*5

「マヤノさんのおっしゃる通りです」

 

 それにはハルナの横にいたオオエライジンも「うんうん」と頷くのだが、当の本人はといえば。

 

「……そうでしょうか?」

「「「……はぁ〜……」」」

「え? あ、あの?」

 

 ルビーの言わんとすることをマヤノが察して拾い、さらにルビーは抱いていた懸念をハルナに指摘してみせた。

 しかし、当のハルナはというと、「何のことやら」といった具合で、マヤノとルビー、ついでにライジンからも思わず溜め息が漏れ出ていた。

 

「ハルナちゃん、あのね───」

 

 ───コンコンッ、

 

 ライジンが何か言おうとしたタイミングで、そこにドアをノックして現れたのはさらに2人のウマ娘。

 

「どうぞー?」

「入るわね……ちょっと。さっきから話聞こえてたわよ?」

「スイープ先輩に、カレン先輩?」

 

 魔女を思わせるストローハットを被ったウマ娘と、外はねショートヘアの芦毛のウマ娘。

 チーム[セントーリ]の現行メンバーでもあるスイープトウショウとカレンチャンの2人だった。

 

「ハルナ、あんたは自分の影響力ってやつをもっと自覚しなさいよね? 新幹線みたいな半個室を作れる空間があるならいざ知らず、そうでない各駅停車みたいな電車での移動だとあんたは目立ち過ぎよ」

「そうでしょうか……? 確かにG1を3勝していますし、色んなイベントにも出させていただいてますけど……そのG1だって地方や交流重賞のレースばかりですよ? イベントでも先輩たちに至らないことばかりですし」

「そ、そんなことないよ! ハルナちゃんは頑張ってるし、それに南関東や交流重賞とはいえG1はG1だよ!」

「こ、コロちゃ、いや、ライジンちゃん……」

「それに、あんただけじゃなくて、ライジンにマヤまで行くんでしょ? 地方とはいえレース場に行くなら尚更目立つじゃない!」

 

 スイープからの指摘にはオオエライジンですらハッとした。

 そのオオエライジンも地方のG1を勝利し、交流重賞でも好走し、つい先々月に南関東重賞の黒潮盃で勝利を収めたばかりであり、次走は北関東G1がある週に岐阜金賞への出走を控えているから、目ざといファンであればすぐに気付くはずだ。

 それも、単なる遠出ではない。

 地方レース場がある高崎へ向かうのであれば、彼女たちのファンとの遭遇率もより高くなることを意味している。

 

「普通の電車に揺られていたらその間にすれ違うお客さんたち、取り分けウマ娘レースのファンの人たちならすぐハルナちゃんたち本人だとわかってしまうはずだよ?」

「カレンの言う通りよね。いい? 今は昔と違って、ちょっとしたことでSNSで話が広がっていっちゃうじゃないの。そうなると高崎に着いた頃には揉みくちゃで降りるどころじゃなくなってるわよ」

「サイン求められたり、記念写真を求められたり。そうなると駅の職員さんとか他の乗客の人にも迷惑が掛かっちゃうし」

「!」

 

 ハルナは2人に言われて漸く気付く。そんな事態になるなど、イベントに参加した時でもなければ起こり得ないと思い込んでいたため彼女にとっては盲点だった。

 さらに射手園がそんな援護射撃を放った。

 

「2人の言う通りだよ。世の中、良識を弁えたファンばかりじゃないからね?」

「……?」

 

 射手園のその言葉に、ハルナは何故か妙な重みを感じた。

 というのも彼自身、マヤノトップガンとSNSで上げたツーショットが物凄い勢いでバズったことがあるのだが、あの時は変なコメントを書き込んでくる輩やアンチも少なくなかった。

 もちろん、そんな連中は即座にブロックと通報の対象となり、一時はセントーリのファンvsアンチ+変な連中という構図でSNSが炎上したという苦い経験があったためだった。

 

「……というわけだから、ハルナちゃん。カレンも一緒に行くよ」

「え?」

「何かあった時の、カレンチャンだよ」

「そう! あと、やっぱり新幹線で行くよ」

「えぇ……? 本当に大丈夫なんでしょうか……?」

「やはり在来線で行くよりはSNSでの露出もある程度は少なくなるはずです。この程度の旅費であれば学園側に申請すれば経費として落としてくれるでしょう」

「宿泊先と費用もジャーニーさんの遠征支援委員会や学園から申請すれば確保出来そうだし」

「……なんか、申し訳ないです……たづなさんや理事長にも尋ねてみます」

「そこまで君が気負う必要はないよ。むしろこう言う時こそ僕たちを頼って欲しい」

「……ありがとうございます」

 


 

 カレンたちが懸念していた現代技術の怖い部分をハルナが文字通り身に染みて理解してから程なくして、彼女たちの乗る新幹線は高崎駅に着いた。

 

【高崎〜、高崎です。JR高崎線、上信電鉄、ご利用のお客様はこちらでご降車ください】

 

 足早に座席を元に戻して荷物も纏めて5人はすぐに高崎駅の新幹線ホームに降り立った。

 そのまま2階に降り、改札口を超えると、駅構内、特に高崎レース場の方向にある高崎駅東口側はウマ娘レース一色。

 

 《過酷だからこそ挑む価値がある》───それは高崎レース場のキャッチコピーであり、それと共に《本日、高崎レース開催日!》の横断幕も掲げられている。

 

 右目の上の前髪に白い矢印のような流星が入っている暗灰色の髪のウマ娘は、駅備え付けの時計に目をやり、現在時刻を確認した。

 

「もうそろそろお昼ですね。第1レースって何時出走でしたっけ?」

「確か14時20分だったはず」

「熊谷を出発した時に群馬トレセン学園の人に「もうすぐ着きます」って連絡もしているし、駅に着いたらお迎えが待ってるはず」

「それにしても、本当にこんな早くから来て良かったの?」

「当然です! だって今日のレースは北関東秋華賞と菊花賞()()()()()()()()()()()()

 

 マヤノにそう言われながら、クロノジェネシスが取り出したるは彼女自慢の一眼レフ。

 

「これでレースに出てる娘たちのかっこいい姿を激写してみせます」

 

 ドヤッとするクロノ。そんな彼女にオオエライジンが声を掛けた。

 

「……クロノちゃん、今更だけど、何か付き合わせてごめんね?」

「別に気にしないでください。ハルナ先輩が企画を持ってきた時は部長も私も確かに驚きましたけど、秋の北関東のクラシック&ティアラのレースを生で見れるなんて分かったら飛び付いちゃいます。あと部長の伝手で先方の方にも取材の許可を得られましたし。……あ。レース新聞です」

「……買ってく?」

「もちろんです!」

 

 改札口の先にある売店の新聞掛けにもウマ娘レースの新聞が多数用意されていて、掲載誌によっても特集されてるウマ娘たちに違いがあった。

 ウマ娘たちが走るレースが世間を沸かせているこの世界では、学生身分でありながらも彼女たちがスポーツの一面を飾る新聞の存在は珍しくない。

 

(あ、あったあった!)

 

 その内でハルナの目を引いたのはやはり、彼女の親友がページの一面を飾っている《特集!北関東秋華賞(G1)》の記事だった。

 合わせて、そのライバルになりそうなウマ娘たちが紙面を飾る新聞も手に取る。しかもそれらを()()()()()()()

 

「すみません、これと、これをください」

「はぁい」

 

 売店のおばあさんに釣り銭を渡して新聞を購入すると、カレンチャンは怪訝な顔をする。

 

「ハルナちゃん、クロノちゃん、何でそんなに新聞を買うの?」

「!」

 

 その問いにオオエライジンはピクッと反応し、問われたクロノとハルナはこう答えた。

 

「もちろん、鑑賞用と保存用です!」

「あぁ、私の場合はスクラップブックに使う用で買うんです」

「スクラップブック?」

「推しのウマ娘ちゃんや、同期やライバルたちの写真入りの新聞を見つけたら買わずにはいられなくて、あはは、つい……」*6

「……」(汗)

「?」

 

 愛想笑いを浮かべるハルノウラワとはまた対照的に、オオエライジンが気不味そうな表情を一瞬見せたことにマヤノトップガンは気付くが、理由は敢えて詮索しなかった*7

 


 

 高崎レース場開催日2日目第10レース 北関東秋華賞(G1)

 ダート右2100m / 天候 : 晴れ/ダート: 良

(枠番)(ウマ番)(出走者名)

11エイプリルリリィ

22リアライズノユメ

33ブルーフローラル

34レイガルーダ

45フラジアンキスタ

46アースグリーン

57ブラックイーグル

58メイショウフレンダ

69エスエタンダール

610メルキュールエリス

711エリモエクレール

712メジロデイトナ

813イセノメガミ

814ハインドフィスト

 


 

 10月から再び始まるG1のラッシュ。

 そのスタートの合図を切るのは北関東の秋華賞と菊花賞というクラシック級二大ダートG1レース。

 《真に過酷な地で頂点を決めるレース》。そんな呼び声が高い北関東菊花賞も確かに胸踊るが、ハルナにとってはやはり秋華賞(こっち)の方が気になり、出走表に目をやった。

 

 その舞台となる高崎レース場は高崎駅から歩いても10分、しかし駅前からは送迎バスもあるので一瞬で着く。

 ……のだが、ハルナたちがつま先を向けたのはレース場がある東口ではなく、真反対の西口だった。

 そこで彼女たちを待っていたのは、

 

「あ、スカイさんとプカラさん?」

「やぁ、ハルナちゃん、黒潮盃ぶりだねー。オオエライジンちゃんも元気そうで何よりだよ」

「お久しぶり。さぁ行こう。バスが待ってるよ」

 

 彼女たちを出迎えるために待っていたのは、群馬トレセンのグリーンのブレザー、オレンジのチェックのスカートという制服姿のシャッタードスカイと、ナコウトプカラの2人だった。

 西口から降った先の駐車スペースに、オレンジ色の文字で《群馬トレセン学園》と車体に描かれたモスグリーン色のマイクロバスが待機していた。

 ハルナたちが来たことを察して、そのバスからとある人物が降りてきて、深々と頭を下げて出迎えてくれた。

 

「チーム[セントーリ]のサブトレーナーのマヤノトップガンさんと、中央トレセン学園新聞部のハルノウラワさんに、クロノジェネシスさん、それにオオエライジンさん、ですね? 初めまして、ぐんまと申します*8

「ぐんま……もしかして、群馬県公認マスコットキャラクター『ぐんまちゃん』のモデルの方ですか!?」

「え、えぇ、そうです。本来なら群馬トレセン学園の代表には桜葉理事長か、もしくは理事長代理のタッキーが居るのですが、共に多忙で《出迎えが出来ずに申し訳ない》と言伝を頂いてまして……代わりに私がお迎えに上がりました。さぁ、トレセン学園の宿泊所に向かいましょう」

 

 ハルナたちを乗せたマイクロバスは西口を離れて一路、群馬トレセン学園へ。

 鳥川を越え、観音通りに沿って高崎の市街地を南下していくと、あっという間に緑の覆われた小高い丘が見えてきて、そのまま山道に入る。

 しばらくすると、学校の校舎のようなものが見えてきた。

 

「ここが噂の……?」

「はい、群馬トレセン学園です」

 

 窓から見えた風景に、マヤノトップガン、オオエライジン、カレンチャン、そしてクロノジェネシスら初訪問組たちは興奮を隠せない様子だった。

 校舎はそれほど大きくはないが、練習コースを含めた敷地は中央トレセン学園以上に広かった。

 何せ、山道を切り開いて作った全長3kmの群馬スペシャル込みのトレーニングコースがそこにあったからだ。

 当然、オオエライジンは不安げな顔をする。

 (え? ボクにここを走れと?)と。そんな視線をハルナとマヤノに向けるが、2人は誤魔化すかのようにそっぽを向いた。

 

 さらに2、3分行くと、群馬トレセン学園の宿泊所に到着する。

 キャリーケースやお泊まり用の荷物と一緒に彼女たちが降車すると、そこで見知った顔を見つけた。

 

「あ、ユメちゃーん!」

 

 後ろ姿だったがハルナには分かる。

 その先にいたのは、栃木トレセン学園の山吹色のジャージに身を包み、肩掛けのスポーツバッグを持った4人組の集団。

 その内の1人、鹿毛のウマ娘が聞き覚えのある声に思わず振り返ると、すぐに彼女は声の主を見つけて、相手は駆け寄ってきた。

 

「え、ハルナ!?」

「ユメちゃん、久しぶり!」

 

 若草色の艶やかなロングヘアを左側でサイドポニーテールにして纏めている、彼女の親友がそこにいた。

 

「あ、あれ……? ハルナも北関東秋華賞に出るんだったっけ?」

「いやいや違うよ。ユメちゃんの応援に来たんだ!」

「え!? そ、そんなわざわざ遠いところから……?」

「……あたしが来たのに嬉しくないの?」

「い、いやそういうわけじゃなくて……」

「あら? 誰かと思えば浦和の時の」

 

 リアライズノユメと一緒にいた3人のウマ娘たち、その内の1人がハルナの顔を見て、誰だったかを思い出した途端に、やや嫌味ったらしくそんなことを言った。

 

「え、えぇと、そちらの方は……?」

「あ、あぁ、ごめんね。紹介するわね、えっと……」

「エスエタンダールちゃんにメルキュールエリスちゃん、それにエリモエクレールちゃん、だよね?」

「「「「!」」」」

 

 ハルナがリアライズノユメと一緒にいた3人について紹介を受ける前に名前を言い当てると、オオエライジンは言われて気付く。

 

「……あ、思い出した! 確かオーバルスプリントの時にユメさんの応援に来ていた方たちですよね?」

「……あらあら、まさか園田のエースに名前を覚えてもらえるなんて、光栄だこと」

「あとユメちゃんにオーバルスプリント(前走)で負けた浦和のエースじゃん」

「ちょ、ちょっとそれはいくら何でも……」

 

 3人の中でいかにも高飛車な態度で接してきたのはエスエタンダール。

 腕を組んでハルナを見て、さらに心無い言葉を投げつけてきたのはメルキュールエリス。

 そして、自信無さげにオロオロしていたのはエリモエクレールである。

 

 今更だが、この北関東秋華賞に出走する彼女の()()()()は何もリアライズノユメだけではなかった。

 さっきチラッと見た出走表に彼女たち3人の名前も含まれていた。

 

 さて、リアライズノユメの前走といえばダートG3のオーバルスプリントだった。

 この短距離ダートの重賞レースには当然ながら地元勢であるハルノウラワも参戦していたが、ハルナにとっても特別な意味を持ったレースだった。

 それは、元同室の先輩で中央への特別留学の際にも親身になってくれたセイウンプレジャーの引退試合でもあり、彼女の現役でハルナにとっては最初で最後の一緒に走るチャンスだったからだ。

 また、黒潮盃の日に行なったサマースペシャルグリーディングのイベントの際に初顔合わせとなったグランシュヴァリエに、前回のオーバルスプリントで顔見知りになったナイキマドリードも同レースに出走していた。

 片や“高知総大将”とも呼ばれているグランシュヴァリエ、片や、さきたま杯を勝利してG1ウマ娘に名を連ねることになったナイキマドリードと。もはやメンバーがG1かG2にも等しい実力者の揃い踏みにレース出走前のハルナは身震いしたものだった。

 

 そのパドックでリアライズノユメに声援を掛けていた栃木トレセンの制服を着た3人組のウマ娘たちがまさに、エリモエクレール、エスエタンダール、メルキュールエリスだった。

 同じくパドックからハルナを応援していたオオエライジンもその姿を見ていたので覚えていた。

 

 肝心のレース展開は、先頭を走っていたハルノウラワに、「これで最後」とセイウンプレジャーが向正面で勝負を仕掛けてきた。この食らいつきにハルナが快く乗ってしまったことが明暗を分けた。

 まず、ハルナの予想を裏切り、プレジャーはハルナの想像を超える粘りを見せて、プレジャーとの競り合いでハルナは自分自身が思っていた以上に損耗したのだ。道中、三番手からは最大10バ身は突き放していたが、第3コーナーでプレジャーが猛追。ここからスタミナを激しく消耗してしまい、後続にどんどん迫られていった。

 ジャパンダートダービーで綿密に計画立てて行なわれたペース配分ではなく、明らかにそれを誤った破滅逃げだった。

 ハルナはおくびにも出さなかったが、最終直線に入った段階で実は本人が認識できないほどにヘトヘトだった。

 そして、最後の最後で後続から追ってきたナイキマドリードとリアライズノユメに外から差されて抜かれ、敗北を喫した。

 結果はリアライズノユメがハナ差で勝利。G1ウマ娘2人と重賞ウマ娘多数にシニア期何年目かというベテランたちをも纏めて打ち破り、歴代を見てもクラシック期のウマ娘かつ左耳飾りのウマ娘による初勝利という歴史的快挙が達成された瞬間だった。

 また、リアライズノユメにとっても南関東発の交流重賞レースの初勝利でもあった。

 

 だが、ハルナの場合はレース後、射手園トレーナーからそのミスを指摘され、さらにダイイチルビーからも叱責という名のお小言を食らった。

 この内容での敗北は完全に自分自身のミスが招いた結果であることは日を見るよりも明らかだった。

 

 だからこそ、リアライズノユメから激しい叱責を受けるのではないか。ハルナはそう身構えた。

 実際、リアライズノユメからも、「私の思っていたような勝ち方じゃない」とは言われたのだが……その声には、特段怒りも失望も無く、責めてるような口調でも無かった。

 親友でありライバル───その関係は一見すると単純なようで複雑なようでもある。

 その関係性だからこそ、ウマ娘が本来持ってる闘争本能なら先ほどの怒りや失望に加えて「自分を一番に見てほしい」という独占欲のような感情も沸くし、何ならこれ全部が降りかかってもおかしくなかっただろう。

 

 側から見ればこの敗因について、

 

「ハルノウラワも大したことないわね、セイウンプレジャーを侮って負けるなんて」

「絶対勝てるなんて奢っていたんじゃないの? うちのエースを舐めないで欲しいわね」

 

 などなどと、それはそれは心無いことをメルキュールエリスとエスエタンダールがハルナに言ってしまった。

 だが……意外なことにそれに対して意を唱えて叱責したのは───、

 

「みんな、やめて」

「でもユメよぉ?」

「確かに、前走のハルナのあんな負け方は、らしくなかったと思う。だけども、それが私を舐めたことにはならないわ。それどころか、ハルナはいつも真剣に勝負に乗ってくれる……私だってあの時ハルナの立ち位置にいたら、似たような負け方をしたかもしれない」

 

 ───リアライズノユメだった。

 彼女にも分かっていた。

 「セイウンプレジャーがここまで強く実戦で怖いウマ娘だと全く想像ができなかった」ということを。

 これはリアライズノユメも同じだったが、余力の差が勝敗を分けた。

 それこそがハルノウラワ、クラシック期オーバルスプリントにおける最大の敗因でもあった。

 

 特に、群馬トレセンへの遠征でハルノウラワを自慢の後輩として喧伝していた「プレジャー先輩」としての印象が強かったリアライズノユメにとって、ハルナが競技ウマ娘としての「セイウンプレジャー」という自分も一瞬でも恐ろしく感じた存在と、普段の「プレジャー先輩」が結びつかなかったであろうことは想像に難くなかった。

 

 ハルナにとって負けは負け、それも内容からして悔しい負け方ではあるし、レース直後にリアライズノユメからもあんな事を言われた。

 次の再戦では今回のようなミスは犯してなるものか、という決意を胸に秘めつつ、やはりそれでも、親友が勝利したことは素直に喜びたい。

 だからしっかりとウイニングライブでは役割を果たしたものだが、それがメルキュールエリスとエスエタンダールにはささくれの様に気になっていた。

 

「エリス、エタン、あんたたちこそ、私をエースに持ち上げる前にやることあるでしょ?」

「「!」」

「そ、そうだよ! ……ユメちゃん、今日こそは勝つからね!」

 

 エリスとエタンを嗜めるユメ。

 そんな彼女に、エリモエクレールがビシッとユメに宣戦布告した。

 先ほどまでオロオロしていたはずの彼女の目の奥には闘志が見えた気がした。

 

「……フンッ、エクレに言われるまでもないわよ」

「ユメちゃん、あたしらだって今日は負けないからね? 行こ行こ」

 

 エリス、エタン、エクレの3人は足早にマイクロバスへ乗り込む。

 その行き先は「高崎レース場」。

 ちなみに一般の交通機関のバスとは異なり、スタッフや関係者が使用するこのマイクロバスは正門前ではなく、職員専用の裏口のような場所へと向かう。

 

「……なんかごめんね、ハルナ」

「うぅん、別に気にしてない。オーバルスプリントの敗因はほぼあたしの自己責任みたいなものだし……」

「ライジンちゃんも園田から遠くわざわざ……って、その制服はもしかして?」

「あ、はい。その、ボクも特別留学で中央トレセン学園に通うことになりまして」

「ついでに、あたしのルームメイト」

「へー……」

 

 ハルノウラワがオオエライジンのことを「ルームメイト」と紹介した時、リアライズノユメは思わずじっとりとした視線をオオエライジンに向けていた。

 本人は無意識であったが、視線を向けられているオオエライジンにとっては気になってしょうがない。

 

「あ、あの……ユメさんもこちらの宿泊施設にお泊りでしょうか?」

「そうだけど……もしかしてその荷物、あなたたちも?」

「うん、そうなるね。〈菊花賞も見て行ったら夜遅くなるから向こうで泊まって行きなさい〉ってルビーさんが」

「確かチームマネージャーさんだよね?」

「うん」

「そっかぁ……あ、そろそろ私もレース場に行く準備をしなきゃ。ハルナ、また後でね!」

 

 ユメは足早に先程の3人の後を追うようにしてマイクロバスに乗ると、そのバスは間も無く出発して行った。

 

「さて、早く荷物を預けましょう。第1レースが始まってしまいます!」

 

 クロノにそう促されて、ハルナたちは宿泊所にお邪魔し、借りた部屋に荷物を置いて、最低限必要なものを手に再びマイクロバスに乗って今度は高崎レース場に向かう。

 

 マイクロバスは途中までは来た道を戻るが、高崎駅前は通らずに少し遠回りなルートを使いながら高崎レース場へと向かった。

 高崎駅から高崎レース場までは徒歩で10分程度。

 送迎バスならあっという間に着くほど普段なら大したことない距離なのだが、今日はG1開催日だ。

 大勢の人々がウマ娘たちの勇姿を見に近隣の他県、さらにはJRが繋がっている埼玉や東京などの関東圏からも集まってくる。

 よって、高崎駅前から高崎レース場まで道なりの競バ場通りも国道354号も大混雑している。

 

 これを当然地元の人々や現地のスタッフや群馬トレセン学園の生徒たちは理解しているので、敢えて高崎駅前を回避して、競バ場通りや国道354号に比べれば比較的空いている群馬県道24号に回り、一旦レース場を飛び越す形で中居団地西通りまで行きそこを南下し、競バ場通りに交差する場所で右折すると、見事に高崎レース場の裏側へと出る。

 そして、《関係者以外立ち入り禁止》の立て札がある職員専用の出入り口前の小さなロータリーにハルナたちは降り立つ。

 正門前が大混雑しているのとは対照的にここではレースの歓声が少し遠くに聞こえていたが、

 

「さぁさぁ、急いで急いで。第1レースが始まっちゃうよ……あれ、中央トレセン学園の制服? ……って、()()()ちゃん?」

「タッキー先輩……ぐんまです、いい加減覚えてください」*9

「あはは、ごめんごめん……初めまして。タッキーと言います。群馬トレセン学園の理事長代理をさせていただいてます」

「は、初めまして。えっと……何とお呼びすればよろしいですか?」

「あははは、そんな堅苦しくなくていいよ、礼儀正しい娘さんだね……」

 

 群馬トレセン学園理事長代理と名乗ったタッキーというウマ娘であるが、真っ先に挨拶してきた若草色の髪のウマ娘の顔を見て、しばらくしてからそれが誰だったか思い出していた。

 

「あ、あの、何か?」

「君がもしかして、噂の《浦和の桜吹雪》かな?」

「え!?」

「あぁ、失礼。こう呼ぶべきだったね。ハルノウラワさん」

「私のことをご存知……ですよね、よく考えると」

「当然だよ。この前のジャパンダートダービーではやってくれたね。あのグッバイテキサスを破るなんて。……他にも先着したオオエライジンちゃんもいるとは。どういう巡り合わせかな、これは?」

 

 表面上は笑顔を浮かべているが、背後からオーラのようなものを感じたハルナとライジンは反応に困って固まる。

 そんな雰囲気を吹き飛ばして助け舟を出したのは、

 

「ちょっと先輩、ダメですよ? 他校とはいえ後輩ちゃんたちを怖がらせちゃ、メッですよ」

 

 ぐんまちゃんがタッキーをそう嗜めると、タッキーは先ほどまで滲ませていたオーラのようなものを引っ込めて陳謝した。

 

「……あぁ、ごめんね、つい強いウマ娘ちゃんと顔を合わせちゃうと現役時代の血が騒いでしまって、ははは……」

 

 そう力無く笑うタッキーに対してぐんまちゃんが咳払いし、タッキーも襟を正し、改めて尋ねてきた。

 

「えぇと……改めまして。群馬トレセン学園理事長代理のタッキーです」

 

 改めて自己紹介をして仕切り直し、スーツ姿のマヤノと顔を合わせて挨拶を交わす。

 

「あなたが引率のマヤノトップガンさんですね?」

「は、はい。チーム[セントーリ]のサブトレーナーをさせて頂いてるマヤノトップガンd……です。この度は、()()の他、明日午前中だけですが、群馬トレセン学園の練習施設も使わせていただき、感謝します」

 

 思わずいつもの調子でタメ口を使いそうになるのを堪えて、タッキーと握手を交わした。

 

「えっと……ハルナ……ハルノウラワちゃnさんと、オオエライジンさんはご存知ですよね」

 

 明らかに「さん」呼びに慣れていないため思わず「ちゃん」付けしてしまいそうになるのを一生懸命に軌道修正しようとしてるマヤノに一同は苦笑し、

 

「マヤちゃん、いつもの調子でいいと思うよ?」

「そうそう。堅くなる必要ないってさっきタッキーさんも言ってたじゃん」

「射手園トレーナーさんも言ってましたよ、深呼吸って」

「……すぅー……はぁー……うん。落ち着いた。ありがと、みんな。あ、この子はカレンチャン」

「カレンだよ、よろしくね」

「こちらこそ。お噂は予々だ。スプリンターズ・ステークスはお見事だったね。それと君は?」

「あ、はい。中央トレセン学園新聞部のクロノジェネシスです……あ、そうだ、第1レース!」

「おっと、これは失敬。時間を取らせてしまったみたいだ、さぁ、こっちだ。君たちのために特等席を用意してある。あ、ぐんまちゃん、君はマヤノさんたちをVIP席に案内してほしい」

 

 タッキーはクロノとハルナ、それにぐんまちゃんにチケットを手渡した。

 二種類あり、前者は高崎レース場の観客席最前列のスペース、それもウィナーズサークルへ出入りできる特別通行券。

 後者は5人分用意されており、高崎レース場を一望できるスタンド3階・4階に設けられた特別観覧席のチケットだった───。

 


 

 ───場面は再び夜の高崎の景色に戻る。

 北関東の秋華賞と菊花賞のダブルG1を開催する高崎の今日の最高気温は22.5℃*10。夏の暑さは和らいでいるとはいえ、午後2時から始まったウマ娘たちのレースは色々な意味で熱を帯びていた。走るウマ娘たち然り、レースを見ている観客たち然り。メインレースの秋華賞と菊花賞の直前ともなればその熱気は最高潮に達する。気のせいか外気温は既に20℃を下回っているというのに、一向に気温が下がった感じがしなかった。

 

 レース場の時計が19時15分を指した頃。

 クロノジェネシスの一眼レフ備え付けの高性能デジタルカメラには今日のこれまで開催されてきた第1レースから第9レースまでのレース模様の写真が複数枚メモリーに保存されていた。

 ウィナーズサークルの最前列からレース模様を観戦し、撮影し、勝利者インタビューの様子もレコーダーとカメラで保存する徹底ぶり。

 それを文章に起こす作業はクロノとハルナの2人体制だったが、第10レース直前のパドックでは一旦その作業が止まっていた。

 何故なら、

 

【2番リアライズノユメ、今日の1番人気です!】

【高崎での競走は初めてとはいえ、北関東ティアラ三冠に参戦してからはティアラ二冠を含む重賞を三連勝という最近は安定した成績を見せている故に期待も高く盛り上がりを見せています】

 

「ユメちゃーん!」

「!」

 

 高崎レース場のパドックに姿を見せた鹿毛のウマ娘。

 黒い着物をベースに、桃色の星と白い桜模様が描かれた勝負服に袖を通した彼女が声の聞こえた方向に目をやれば、若草色の髪を左側のサイドポニーテールにして纏めていて首からカメラを下げているウマ娘───ハルノウラワと、それとは対照的にセミロングの赤い髪を右側にサイドポニーテールにして結んでいるウマ娘───オオエライジンの2人が自分に向けて手を振ってるのが見えた。

 それを見たパドックにいた黒い着物の勝負服姿のウマ娘───リアライズノユメはそれに応えて小さく手を振ってから、パドックを後にした。

 


 

 そして、そのレース結果は、先ほどの通りだ。

 北関東秋華賞の最中にもクロノジェネシスは愛用の一眼レフをずっと構えており、リアライズノユメが後続に大差に近い結果を付けての快勝。そんな彼女が先頭でゴールを通過する瞬間をクロノは逃さなかった。

 しかし、クロノは時間を忘れて、食事する間も惜しんで観客席からほぼほぼ動かずにいたため、パドックでの出走ウマ娘たちの写真はハルナが撮影を担当していた。

 

「ひゃー……中央トレセンの新聞部ってこんなに機材が充実してるのー……?」

「ソバカスまで細かく撮れてて何だか恥ずかしいなこれ」

「私の泣きぼくろも」

 

 ハルナがデジカメで撮影した写真を見て、「え、自分たちってこんな風に撮れていたんだ!?」と驚きを見せる栃木四人衆───リアライズノユメに加えて、エリモエクレール、メルキュールエリス、エスエタンダールの四人。

 レースを走り終わって休憩もそこそこに勝負服姿のまま、ハルナと一緒にパドックの観覧席の最前列に腰掛けていた。

 

「クロノちゃん自前の一眼レフ程じゃないけど、そこそこ良い感じに撮れてると思う」

「「「「え?」」」」

 

 ハルナにそう言われて驚く4人。

 そう言えばスタンド前直線を走っていたら観客席からやたらとレンズが大きいカメラを構えてるウマ娘がいたような……?

 

【これより第11レースのパドックを始めます。出走ウマ娘の方はパドック裏へ集合願います】

「あ、いけない。これも撮らなきゃ」

 

 ハルナは栃木四人衆と一緒にパドックの観覧席にいた。

 そして、再び出走表に目を落とす。

 

「注目は誰?」

「やっぱりグッバイテキサス?」

「うーん……気にはなるけど、あたしの本命はこの子とこの子、あとこの子、かな?」

 

 エスエタンダールとメルキュールエリスの2人に問われたハルナは出走表の名前で、3番、5番、7番のウマ娘の名前をピンクの蛍光ペンで引く。

 

「クシロスフィアと、ベルシャザール?」

「何でベルシャザール?」

「クラシック三冠でオルフェたちとやり合っていたから。日本ダービーでは3着だったし、それにこの子、ここでも良い勝負をしそうな感じがするんだよね……」

「いやいや、日本ダービーは芝でしょ。中央で強いからってダートでも通用するとは思えないんだけど……」

「私はハルナを信じてみる」

「ユメ? 何故に?」

「ハルナってこういう時の予感を外したことがないから」

「……ありがと、ユメちゃん」

 

 そうしてパドックでの披露が行なわれると、3番目に姿を現したのは水色・黄色・白の明るい色彩が使われた勝負服に身を包んだウマ娘。

 

【3番クシロスフィアです】

【前走、前々走と惜しいレースが続いていますが、この子には高崎を走り切れるスタミナは充分にありますよ】

 

 遠目から見ると背丈はそこまで高くない。

 黒髪だが、癖っ毛が強く、また毛先に行くにつれて緑色になるグラデーションのロングヘアが目立つ。

 肩に飾緒の付いてる黄色いジャケットに、水色の襟とフリルスカート、白い多段スカートという勝負服にパイロットを思わせる帽子を被っている。

 ちなみに、パイロット帽のエンブレムらしき部分には鳥の翼が描かれており、右耳にはマリモの飾りを付けていた。

 続いてパドックで決めポーズをしたクシロスフィアだが、カメラ越しのハルナと目が合った。すると、気のせいかもしれないが、手で帽子を持ち、軽く会釈してきたことにハルナは驚く。

 

「!」

 

 間も無くクシロスフィアはパドック裏に戻っていき、入れ替わりで4番のトウシンイーグルが出てきた。

 

【4番トウシンイーグル】

【───】

 

 ただ、先ほどの一見不可解な行動は横に座ってパドックの様子を見ていたユメも見逃さずハルナに尋ねる。

 

「……クシロスフィアと知り合いだったけ?」

「いいえ?」

 

 

 

 

【5番ベルシャザール。本日の1番人気です】

【5月に行なわれた日本ダービーにも参戦して3着になった実力者ですが、夏からは路線をダートに変更して高崎に交換留学してきたウマ娘です】

【先月開催のOP戦、奥利根賞*11*12で高崎での初陣を飾り、並み居る実力者たちを抑えての一着。その脚で北関東菊花賞出走の枠を掴みました】

 

「交換留学ってことは、ユメちゃんと同じような感じで高崎に行ったってこと?」

「でも高崎って留学で行くの大変だって話だけどね」

「え?」

「そういえば、倍率が高いことと、理事長の面接が難関だって聞いたことがある……」

 

 お披露目を終えてパドックから去っていくベルシャザールをカメラに収めている最中のハルナを横目に、栃木衆がリアライズノユメに視線を向けると、

 

「……ちょっと。そんな理由で栃木に来たわけじゃないわよ? 私の地元はそもそも足利だから」

「そんな理由、って?」

「私が「高崎の倍率が高いから栃木に来た」とか思ったでしょエタン」

「いやいや、そうじゃなくて、高崎に交換留学する面接を受けたことあるの?」

「いいえ? 北関東では真っ先に栃木に来たから受けてない」

「……」

 

 ちなみに、ユメが南関東の地方トレセンに行こうとしたら倍率が高すぎて交換留学での編入が叶わなかったことは、この場ではハルナだけが知ってる。

 敢えてハルナはそれについては言及せずに、黙々と6番のアサクサポイントのパドックでの写真を撮っていた。

 

【7番グッバイテキサス】

 

 話してる間にいつの間にか6番のアサクサポイントはパドックの裏へと戻ってしまったが、程なくして7番のグッバイテキサスがパドックに上がってきた。

 グッバイテキサスはハルナの顔を見つけるなり決めポーズをし、「今日は負けない!」と態度で示す。

 

【気合いが入ってるようです、グッバイテキサス】

【北関東レース新体制確立後のクラシック三冠ウマ娘誕生に大きな期待が掛かっていますが、今日は2番人気な辺り、やはり最近の競走成績が影響しているのでしょうか?】

【その可能性は否めませんね。しかし、今日はその不安を振り払う走りを見せてくれることに期待したいですね】

 

「……このアナウンサー、変えた方が良くね?」

 

 メルキュールエリスは不機嫌そうな顔をしてそう言った。

 

 

 

 そうして数分後。

 北関東菊花賞に出走する最後のウマ娘がパドックに姿を現した。

 8枠12番タイムズアロー。

 彼女の写真をカメラに納めると、それからすぐにタイムズアローはパドック裏に戻っていき、パドックにいた観客のほとんどがスタンド内、ないしは観客席へと向かって行った。

 ハルナは今の北関東菊花賞の出走ウマ娘たちの姿を収めたデジタルカメラの写真を一枚一枚チェックしていくが……。

 

「……?」

 

 クシロスフィアの写真が表示された辺りで手が止まる。

 それも、先ほどのリアクションを行なった場面が偶然写真に納められていた。

 それを横目で見ていたエリモエクレールがあることに気付き、ハルナに囁くように話す。

 

「……ねぇ、ハルナちゃん……って呼んでもいい?」

「いいよ。あたしもエクレちゃんって呼ぶね。どうしたの?」

「多分だけど……ハルナちゃん、あなたが思っている以上に有名人になっているんじゃないかな?」

「え?」

「ほら、ジャパンダートダービーを含めてダートG1を3勝もしてるし。南北関東の地方トレセンに所属してるウマ娘の中でもトップか、それに近い実力者だとみんな思ってるはず」

「……ということはつまり」

 

 エクレは頷いた。

 

「そっかー……つまりは、挑戦状を投げつけてきた、って考えるべきなのね?」

「そうだと思う」

 

 挑んで挑まれて。

 そのどちらもハルナ自身は幾度も経験してきた。

 もちろん、挑まれたからには受けるつもりではいる……だが、

 

(それは良いんだけど、あたし、ダートの長距離でどこまで走れるかな……というかトレーナーが許してくれるかどうか)

 

 口には出さなかったが、新たなチャレンジへの意欲と不安がハルナの胸中で渦巻いた。

 


 

 先ほどの北関東秋華賞とはまた異なり、今度のスタート地点はスタンド前直線にゲートが用意されていた。

 

【高崎レース場からお送りします本日の第11レース、第34回を数える北関東菊花賞。距離は2600m。現在のところ、日本国内に二つしかない長距離ダートG1の一角*13。先ほどの秋華賞は向正面第2コーナーより少し先の平地からのスタートでしたが、今度はスタンド前直線からの出走となります】

【先ほどの北関東秋華賞とは異なり、向正面の直線から500mほど離れた位置からのスタートとなります。スピードを出しやすくなる反面、群馬スペシャルの上がり下がりの激しい坂での加減速度が勝負の分かれ目となることでしょう】

 

(さすが……「関東で最も過酷なダートG1レース」だわ)

 

 ウィナーズサークル内に陣取ってレース模様を撮影しているクロノジェネシス。

 ゲートの向こうで出走準備を整えてるウマ娘たちがチラチラと見える。

 クロノでさえ、この北関東菊花賞が「関東地方で最も過酷なレースである」という話は耳にしていた。しかし、先ほどの北関東秋華賞を観てからだとそれが改めて事実だったと実感していた。

 ラジオから流れてくる解説の放送を片耳に付けたイヤホンから声を拾い、先ほどの秋華賞とこれからの菊花賞との状況の違いを比べてみる。

 特に大きな違いは、群馬スペシャルがある向正面までの距離。

 高崎レース場の直線はスタンド前も向正面も共に約300mであり、第1〜4コーナーを合わせて一周が1200mである。

 そしてゲートが置かれる場所はスタンド前直線のゴールから200m手前の位置。

 つまり、向正面の直線に入るまでにカーブはあるものの約500mの距離があり、ある程度ながらウマ娘なら速度を稼げるだろう。

 ただし、向正面に入ると途端に現れる高低差15mの坂。怪我しないようにと下り坂が緩く作られているとはいえ、これに並勾配の上り坂を合わせて減速を余儀なくされる区間だ。

 中央のレース場で高低差が激しいところといえば京都レース場だが、あの高低差すら4mしかなく、ここに比べれば玩具も同然だ。

 

「……惜しいなぁ」

 

 クロノは誰の耳に入るでもなく、そんなことを思わず呟いた。

 クロノはそもそも芝が得意で、逆にダートには苦手意識すらある。

 しかし、高崎レース場に来て思ったこと。それは、

 

(私も出来ればここを走ってみたいけど……)

 

 それは、憧れでもあり、高望みに近い夢にも思えた。

 

「……その夢、いつか叶うといいね」

「!」

 

 その声がして驚いて振り返ると、

 

「マヤノさん?!」

「やっほー、クロノちゃん。良い写真撮れた?」

 

 ウィナーズサークルで出走ウマ娘たちがレースを走る姿を只管目で追ってカメラで撮って写真に収め続けていたクロノに、首から通行書のパスを首から下げたマヤノが後ろから声を掛けると、クロノは大層びっくりしていた。

 

「……!?///」

 

 まさか、今考えていたこと、声に出ていた?

 動揺するクロノだが、その横の手すりに手を掛けながら、北関東菊花賞に出走するウマ娘たちの姿を見るマヤノ。

 

「……菊花賞」

「!」

「……私が走って勝ったのも同じ名前がついていた。それがこのレースが気になって観にきた理由だったんだ」

 

 何を隠そう、ここのマヤノトップガンは、クロススキッパー、ゼンノロブロイ、ネオユニヴァースらと同じ世代の菊花賞を勝利した経験があるウマ娘だ。

 それも全ては、彼女の最愛の幼馴染に捧げる本番のための貴重な試金石というだけのはずだった。

 それが、今になってマヤノには去来する思いがあったようで、何処か寂しげな彼女の表情を見たクロノは、声を掛けられずにいた。

 

「さっきの秋華賞。凄かったよね。まるで障害物を混ぜたような異質さも感じたけれど、全体を通してみればちゃんと平地のダートのレースだった。()()()()北関東菊花賞よりも迫力あるレースだったし」

「……え?」

「知ってるかもしれないけど、何年か前まであの向正面にある高崎スペシャルって坂は存在しなかった。私が最後に北関東で菊花賞を見たのはそれが出来る前だった」

 

 そしてコースを見つめながらマヤノは軽く溜め息を吐き、

 

「……もし私がまだ現役でクラシック期で、あの坂があったなら、こっちを走ってたかもしれない」

「……」

「……ごめんね、こんな話をして」

「い、いいえ、別に、その……」

「違うよ。確かにイルちゃんにあのレースで勝ってプレゼントを渡せなかったのは悔しい。けれど、あんな坂を見せられたら、マヤ……つい、挑戦したくなっちゃうんだよね。まだ走りたい、って」

「あ、あの、マヤノさん……?」

 

 さらにもう一度溜め息を吐き、

 

「……だって今週は高崎開催でしょ? 明日走ろうとしても無理だなぁって思っちゃったんだ」

「……はぁ〜……」

 

 何だか一気に力が抜けるような話を聞いた気がしたクロノである。

 ……が、ちなみにこの翌日。トレーニングのために群馬トレセン学園の敷地内に作られた()()()()()()()を目にしてマヤノのテンションが爆上がりし、ステイヤーの血が騒いだ彼女との併走トレーニングにクロノたちが付き合わされてクタクタになるのは、また別の話である。

 

【北関東菊花賞。地方G1において最も過酷と称されるこのレース。特にここ数年の歴代優勝者にはシャッタードスカイ、ナコウトプカラ、サロマプリンシパル。群馬を代表するウマ娘たちの名前が軒を連ねています。高崎から世界へ。羽ばたくための登竜門はここから始まります】

 

 間も無く、出走を告げるファンファーレが響く。

 

 〜♪〜

 

 ファンファーレと共に観客席に響く手拍子、ファンファーレが終わると、観客席から拍手が起こった。

 

【高崎レース場からお送りします、第34回北関東菊花賞。出走ウマ娘は12人。今宵は晴れ、バ場も良の発表です。ファンファーレは、群馬トレセン学園吹奏楽部による演奏でした】

【各ウマ娘が枠入りします、まずは奇数番から。1番クラシカルノヴァ、7番グッバイテキサス、3番クシロスフィア、5番ベルシャザール、枠入り順調です───】

 

【───最後に12番タイムズアローが枠入り完了しまして───】

 

 一瞬の静寂の後、ゲートが開くガチャンッという音と共に、12人のウマ娘たちがダートのコースへと飛び出していき、スタンド前からは歓声が上がり、拍手の音が響いた。

 

【───スタートしました、北関東菊花賞! 各ウマ娘が一斉にスタート。綺麗なスタートです。早くも先頭を駆けます1番のクラシカルノヴァと2番オメガスカイツリー。正面スタンド前を疾走して、第1コーナーに向かいます。三番手集団内側に二冠ウマ娘の7番グッバイテキサスここにいる。続きました4番トウシンイーグル、外から6番アサクサポイントと12番タイムズアロー。第1から第2コーナー入ります。隊列は縦長になりつつあります。先行集団から離れた位置に10番ボリングブルク、少し遅れて5番ベルシャザール、9番サクラゴスペル続きまして、さあ、ここから向正面の群馬スペシャルだ。高低差15mのアップダウンに入って集団はやや詰まり気味になる。サクラゴスペルに続きます8番サクライーグル、11番マイネルティンラン、最後方に3番クシロスフィアだが、レースはまだまだ始まったばかり。順位を振り返りましょう。第3コーナー手前を先頭の1番クラシカルノヴァ、2番オメガスカイツリーが通過して引っ張ります。先頭から最後尾まではおよそ15バ身。第3コーナー入りまして、三番手に上がってきたのはグッバイテキサス、続きまして内からアサクサポイント、外にトウシンイーグル、さらにボリングブルクとタイムズアロー。1バ身離れた位置にベルシャザールとサクラゴスペルが並んで走ってます。さらにマイネルティンラン、サクライーグル、最後尾にクシロスフィアという並び順で第4コーナーを疾走します。さあ、先頭集団がスタンド前直線へ入っていきまして、観客席からも拍手が上がります。先頭、クラシカルノヴァとオメガスカイツリーの競り合い。三番手のアサクサポイントから2バ身半のリード、四番手にグッバイテキサス、外からトウシンイーグル、タイムズアロー、ボリングブルク続きまして、さらに1バ身ほど開いて5番ベルシャザール、さらにマイネルティンラン、サクラゴスペル、クシロスフィア、最後尾にサクライーグルという具合に、スタンド前直線を通り過ぎて、先頭も第1コーナーを超えて第2コーナーを回ります。白熱したダートクラシック長距離頂上決戦が繰り広げられてます高崎レース場。間も無く二度目の向正面、二度目の直線300m・高低差15mの坂に果敢に挑む12人のウマ娘たち! 5mの下り坂を超えて15mの上り坂に入ったが先頭のクラシカルノヴァとオメガスカイツリー、やや減速か。後方から三番手以降に控えていたグッバイテキサスとタイムズアロー動いたぞ、さらにさらに後方から追い上げてきます中団からベルシャザール、クシロスフィア、マイネルティンラン! 仕掛けに行ったぞ、向正面の高崎スペシャルで激しく順位入れ替わります。先頭に立ったグッバイテキサス、このまま行ってしまうのか。しかし、二番手に食らいついて離れないタイムズアロー。何とか足を回すクラシカルノヴァとオメガスカイツリーに、後方から追い上げてきたベルシャザール、クシロスフィア、マイネルティンラン。中団からアサクサポイント、トウシンイーグル、ボリングブルク、サクラゴスペル、サクライーグルも緩やかな下り坂を続々超えて加速してラストスパート。通過速度は時速69km。さぁ、先頭集団が第4コーナーを今超えて二度目のスタンド前直線に入ってきた! 歓声上がります観客席! スタンド前直線に入り、グッバイテキサスとタイムズアローの叩き合い、しかし後続のベルシャザールも追い縋り、ここでクシロスフィア加速! 外から先頭三人を抜き去りにかかる! クラシカルノヴァとオメガスカイツリーがズルズル下がってくが、後方からは差し足で突っ込んでくるマイネルティンランとサクライーグル、しかし残り150m、さすがにこれは届かないか。先頭争いはクシロスフィア、ベルシャザールに、グッバイテキサスとタイムズアローまで入り乱れての大混戦! 四人ほぼ一線で今ゴール! これは……一着から四着は写真判定のランプが点きました。五着にマイネルティンランです。タイムは2分46秒1】

 

「ひゃー、激戦だったね……」

 

 あまりの白熱ぶりに嬉しいやら驚きやら色んなものが混ぜこぜになっていて、疲れたような感覚に襲われたハルナは脱力してしまう。

 

「あーぁ、やっぱりこういう時のハルナの予想は怖い」

 

 レース展開を見ていたユメは苦笑いしながらそんな事を言った。

 高崎レース場のターフビジョン横に表示された掲示板の着順。

 一着から四着の表示はまだなく、横の着差の部分に「写真」と表示されているだけだった。

 ちなみに五着のウマ番表示にはマイネルティンランの11番が点灯していた。

 

「四人横並びで一線って、四人同着? ……そんなことあります?」

「確率は低いけど有り得なくないことだもんね」

『同着とか温いわよ。きっちり決まってくれないと』

 

 一階に降りて行ったマヤノの姿が4階のVIP席からも見えていた。

 そしてレースを観戦していたオオエライジン、カレンチャン、それに、テレビ通話でレースを見ていたスイープトウショウは口々にそう言った。

 

 しかし、それからは結果が出るまで異様に長かった。それこそ、第12レースのパドックが始まる時刻に食い込むほどの長い時間だった。

 

「時間掛かりすぎ!」

「もう同着でいいよ同着で!」

「シムーンカルマが凱旋門賞獲った時の再現かよ」

 

 などなど、観客の間からも口々にそんな悲鳴のような懇願のような苛立ちのような、そんな声が続々と上がってくるが、しかし、掲示板は五着以外空欄のままだった。

 

「やっぱり四人同着か……?」

 

 諦めのような、願望のような、そんな言葉を誰かが発した頃。

 北関東菊花賞のレースが終わり、そろそろ25分が経とうとしていた時だった。

 ついにそれが目の前のターフビジョンの掲示板に赤い「確定」の文字と共に表示されると、観客席からは騒めきと声援と拍手が入り混じった音が響いた。

 

【一着は……3番だ! クシロスフィアだ! 3番クシロスフィア、北関東菊花賞一着! 群馬生え抜きの長距離便パイロットが激戦を制した! ついにやった、北関東皐月賞11着、ダービー3着からついに北関東クラシック三冠の一角でG1を手にした! だが、その旅はまだ始まったばかりだ! 二着は……これも驚きです、同着です! 5番ベルシャザールと7番グッバイテキサス! 四着に12番タイムズアローです。惜しかったグッバイテキサス、一着と二着、二着と四着は共にハナ差での決着。一着から四着までの着差はクビ差しかありませんでした!】

 

 改めてターフビジョンに先ほどのレース模様が映し出される。

 内からグッバイテキサス、タイムズアロー、ベルシャザール、一番外側からクシロスフィアがゴール板を通過しているが、ターフビジョンからの映像を見る限りはほぼほぼ四人が同着にも見えた。

 

「クシロスフィア、おめでとー!!」

「テキサス、惜しかったよ! でも次も応援するから!!」

「チャンピオンズカップ出るんだろ!? 頑張れよー!!」

 

 誰かが勝って、それに敗けた者多数───結果だけを語ればそれだけかもしれないが、観客席からは各々が応援していたウマ娘たちへの声援と拍手が止まなかった。

 


 

 結局、写真判定に大幅に時間を割かれた結果、第12レースのウィナーズサークル後にそれが行なわれることになった。

 

【これより北関東秋華賞・北関東菊花賞の合同授賞式を行ないます。まずはインタビューから。改めまして、リアライズノユメさん、クシロスフィアさん、優勝おめでとうございます】

【ありがとうございます】

【はい】

【今のお気持ちは? ……リアライズノユメさんから】

【あ、はい。北関東ティアラ三冠、初めてこれを達成できたウマ娘になれて良かったです。遠方からも友達が応援に来てくれて……尚更負けられないなって思いながら、今日のレース、走らせていただきました】

 

 そのリアライズノユメが手を振った先にいたのは、紛れもなくハルノウラワだった。

 その視線をカメラが追った先に彼女の姿があったものだから、観客席の一部からは「えー!?」とか「うそー!?」とか、そういった驚きの声が上がっていた。

 それに苦笑いしてからの愛想笑いながらハルノウラワは軽く手を振ると、観客席からこれまた「おぉー!」といった声が上がる。

 

【ちょ、ちょっと、ハルナ! 今日の主役は私なんだけど!】

 

 リアライズノユメがそう言うと、

 

「ごめんごめん」

 

 と。周りの観客の声に掻き消されそうな声ながらも謝罪し、何なら「ごめん」と両手を合わせるジェスチャーをするハルノウラワの姿がターフビジョンに映り、観客席は笑いに包まれた。

 

 リアライズノユメは咳払いして、

 

【……と、まぁ、あろう事か油断すると私の晴れ舞台まで食ってしまう困ったライバルなんですが】

 

 それに観客席からさらに笑いが起こる。

 

【だからこそ、その親友の前で負けてられないなと。それでトレーナーさんと直前まで作戦を煮詰めました】

【理想通りの勝ち方でしたか?】

【はい。さすがは高崎スペシャル。練習でも走ってますけど、実際のレースで走ってみるとまぁ競争相手からのプレッシャーやら何やらで緊張はするし、ペースを保つのがいかに大変かを改めて実感しました。だから、先頭を取った時は、何が何でも「誰にも譲ってなるものか」と全力疾走しちゃいまして……】

【と言うことは次走として予定していた……?】

【その……親友の前で言うのは心苦しいんですが、もしかするとレディスクラシックは出れないかも……】

【それは……その……】

【あ、だけど、良いことを思いついた。ハルナ、いいえ、ハルノウラワ!

 

 ユメことリアライズノユメから大声で呼ばれたハルナは驚きながらもなるべく大声で、

 

「なーにー!?」

 

 と返答し、そしてリアライズノユメは、新たな()()()を叩きつけた。

 

【あなたとの勝負は、来年の2月、フェブラリーステークスで!!】

「!」

「おぉぉぉぉおぉぉぉっ!!?」

【何と、リアライズノユメ、堂々とハルノウラワに次走と挑戦状を叩きつけました! さてその返事は?】

 

 そのハルナの返事を聞くために、観客席が一斉に静まり返る。

 そんな最中でハルナの返事は、片手で親指をサムズアップしながら、

 

YES!!

 

 周りの熱気に押されたのもあって思わずその場のノリで英語で答えてしまったが、観客席からは再び割れんばかりの歓声と拍手が響いた。

 

【ありがとうございました、北関東秋華賞、優勝はリアライズノユメでした。続きましては、北関東菊花賞、優勝者のクシロスフィアさんへのインタビューです】

【ようやっと出番か】

 

 そのクシロスフィアのとぼけた態度が観客の笑いを誘う。

 

【今のお気持ちは?】

【そうですねぇ……まさかあれで勝てちゃったなんて、今でも実感が湧かないです。……あぁ、誤解しないでくださいね、もちろん勝つつもりで走ってますけども。ただ、最後の最後で4人接戦ドゴーンって感じでしょ? 正直言って「あ、これ負けたかも」とか「勝てたかどうかわかんねぇ」って、ゴールを通過した時は思いました】

 

 それが一部の観客には刺さったのか、ほとんどが笑い声を堪えていたが。

 

【それが、今日こうしてウィナーズサークルに立ててます。だからご安心ください? 現実ですよ】

 

 そのアナウンサーの一言には耐えられずに先ほど笑い声を堪えていた者たちのほとんどが決壊した。

 

【あっはっはっは……ありがとうございます。レース展開も実は今回結構ハマっていたんです】

【皐月賞11着、ダービー3着からの、今回の北関東菊花賞1着。今回も追込でいきましたが作戦通り?】

【はい。北関東皐月賞の時は酷い負け方をしてファンの皆様をガッカリさせてしまったみたいでしたが、ダービーでようやくコツを掴んで、ついでに去年勝ったノーススターカップのことを思い出しながら今日のためにトレーニングを続けてきました。それがやっと報われた感じです】

【大外を回っての追い込み戦法ですね?】

【はい。トレーナーとも相談して、自分の得意な部分と噛み合わせて、なるべく外側で走って速度を溜めて最後の最後に一気に追い抜きました。最後の最後でちゃんと決まったかは不安になっちゃいましたが……あははは】

【ですね。ところで次走は?】

【そうですねぇ……まずは東京大賞典を目指すつもりです】

 

 クシロスフィアはそう言いながら、ハルナに向けてアイコンタクトを送るが、ハルナは僅かに渋い顔をする。

 

【……まぁ、それが終わったら風の吹くままどこへでも、って感じです。中央を走るのもいいですし、従姉のように海外に行こうかなとも】

【お従姉さんといえば、今年のミラノ大賞典を勝利し、ローマ賞に出走する予定のサロマプリンシパルさんですね?】

【はい。ただ、いきなりイタリアはちょっとと思うので……仮に行くとしたら香港かシンガポールかマカオ辺りかなと。オーストラリアも考え中ですが……ま、まぁ、ただの妄想って思ってくださいな】

【なるほど……ありがとうございました。つきましては、賞状と花束贈呈の後に、ウイニングライブに参りたいと思います。ファンの皆様には、もう少しお付き合い願います】

 


 

 高崎レース場の中央広場に設けられた一段高いライブステージ。

 その周りにはライブを鑑賞するために集まった観客たちが集い、夜も更けて暗闇の中、サイリウムの光がまるで波打つかのように揺れている。

 まずは北関東秋華賞を勝利したリアライズノユメの持ち曲の披露が始まる。

 

 

♪Remember the Time♪*14

 

 

I listen to words that I can hardly conceive

 

Hate and confusion together

 

They show me the way but I just don't believe

 

Nobody's changing today

 

 

Waiting for some love to come

 

I really wanna know the heart of the people around

 

 

I REMEMBER THE TIME when I was like a child

 

And the people who smiled at me

 

Were burning inside of a joy still alive

 

In the mem' rise of my sweetest dreams

 

 メドレー形式で次にクシロスフィアが持ち歌を披露する手筈であったが、観客たちはそこで驚きの光景を目にする。

 なんと、ボーカルを務めるクシロスフィアも含めて北関東菊花賞と北関東秋華賞に出走していたメンバーたち全員が楽器を持ってブラスバンド形式で曲の演奏を始めたのである。

 

 

♪Wild flowers♪

 

 

急に泣き出した空に声をあげ はしゃぐ無邪気な子供たち

 

慌てふためく大人をよそに遠い瞳で 虹の橋 描いてる

 

「いつか渡れたらいいな」 水色の夢ポッケに詰め込んで

 

心の地図広げて 未だ見ぬ世界へ 君もまた巣立ってゆく

 

 

いつでも心を満たすのは 空の青さと風の声

 

一つ一つの想いをつないで

 

たとえどんなに明日が遠くても 霞んで見えても

 

 

押し迫る世紀末(とき)を超えて 僕達はゆく

 

力強く旗を掲げながら

 

遥かなる歴史(とき)に名を馳せた 英雄みたいに

 

誇り高く

 

信じること誰かに伝えたい

 

この(うた)に乗せて

 

 そして、北関東秋華賞の上位5人と、北関東菊花賞の上位5人が前に出てくると、曲がさらに変わった。

 彼女たち総勢10人により披露される曲は───ここで、ウマ娘のファンたちであれば聞き覚えのあるギターの伴奏が聞こえ、観客たちの歓声が上がり始める。

 

 

♪ WINnin' 5 -ウイニング☆ファイヴ- ♪

 

 

WINnin’ 5 青空 飛ぶように駆け出そう 自分(いま)を超えてゆけ!

 

 

重ね合わせた夢*15 笑顔色の勇気をくれた*16

 

あの日 一緒に見た景色に*17 未来を映して*18

 

挫けそうな時*19 励まして 支えてくれたね*20

 

そして誓った*21 絶対 負けないって*22

 

強い気持ちがつなぐ  (ハート)Team(ひとつ)

 

この瞬間に輝け!

 

 

WINnin’ 5

 

全員(みんな)で 叶えてゆく

 

ぶつかり つまずいても

 

走れ! 目指せ! 歓喜の勝利(ゴール)

 

WINnin’ 5

 

ひとりじゃなかったから

 

そう 強くなれたんだよ

 

涙の絆 ねぇ ありがとう☆

 

劇的フィナーレ!!!

 

Yes! High-five!!

 

Yeah!! 天晴フィナーレ!!

 

最強 five!!

 

 そうして、高崎の夜は更けていく。

 だが、今はこの時間を永遠のように楽しみたい。

 皆がそう思っていたが曲はいよいよ終わりに近付くと、各々がそれぞれの楽器を持って演奏しながらリピートパートを歌って〆る。

 

 

WINnin’ 5

 

全員(みんな)で 叶えてゆく

 

ぶつかり つまずいても

 

走れ! 目指せ! 歓喜の勝利(ゴール)

 

WINnin’ 5

 

ひとりじゃなかったから

 

そう 強くなれたんだよ

 

涙の絆 ねぇ ありがとう☆

 

劇的フィナーレ!!!

 

Yes! High-five!!

 

Yeah!! 天晴フィナーレ!!

 

最強 five!!

 

 こうして綺麗にポーズも決まり、観客たちの興奮も最高潮に達した。

 

*1
ここから先は暫し、THE BIG BROTHER(またはデイブ・ロジャース)の《WILD REPUTATION(2020 ver)》を聴きながらお楽しみくださいませ。

*2
助走とは逆の意味

*3
ウマ娘用のスマートフォン

*4
ここでの2人はサブトレーナーとチームマネージャーというポジションにいるため、トレーナーたちが着ているようなスーツ姿である

*5
※ハルノウラワがいる世界では南関東オークスこと関東オークスが2025年までにG1に昇格しています。

*6
◎ハルノウラワのひみつ①

 実は、親友や推しウマ娘たちが載った新聞をスクラップブックにして集めている。

*7
◎オオエライジンのひみつ①

 実は雨の日に靴を濡らして帰ってきた時、誤ってルームメイトの新聞を使ってしまい、怒られたことがある……。

*8
元ネタは、言わずと知れた群馬県のマスコットキャラクター『ぐんまちゃん』。ウマ娘世界ではそれが果たしてどうなる……?

*9
実は今でこそ「ぐんまちゃん」として知られている彼(彼女?)は1994年に初登場しているマスコットキャラクターであるが、初期の頃はゆうまちゃんと呼ばれていた。

*10

*11
高崎開催のダート2000m競走で3歳馬限定戦。北関東秋華賞と北関東菊花賞の開催時期が10月第二週の日曜日に固定化されたため、ここでは開催が9月前半に変更されている。

*12
実際の奥利根賞は2004年開催を最後に行なわれていない。

*13
ちなみに実在で、現在でも2500m以上のダート戦として開催されている重賞レースは南関東重賞(S2)の金盃(大井・ダート2600m)のみとなっている。笠松開催のオグリキャップ記念も元々は2500m開催で東海地方のG1級レース(格付けはSP1)であったが、こちらは2024年よりダート1400mに変更されてしまってる……「なんでや。オグリキャップに因むならせめて1600mやろがいBy筆者」

*14
これはマイケル・ジャクソンの曲ではなく、WAIN Lによる同名の別曲

*15
マイネルティンラン

*16
エリモエクレール

*17
タイムズアロー

*18
エスエタンダール

*19
メイショウフレンダ

*20
メジロデイトナ

*21
グッバイテキサス

*22
ベルシャザール




 クロノジェネシス持ってないのでキャラ違ってたらごめんなさい。

 なお、アプリ版でハルノウラワを育成する際、クラシック期にマイルCS南部杯に出走すると、クソ強ステータスのトランセンドとエスポワールシチーとぶち当たるので、大体は負けイベント扱いになります。

 今回登場した北関東秋華賞と北関東菊花賞。どちらも実際の2011年には存在しないレースな上、高崎競馬の競走でYouTubeに残っている映像は群馬記念ぐらいしかありませんでした。
 さらに、ハルノウラワがいる世界では何処から紛れ込んだか「群馬スペシャル」の因子が入った高崎というか群馬というか、北関東競馬が存続+発展していて、ついでに、実在した高崎競馬場の航空写真も手に入れた結果妄想が捗りまして……。

 さらに悩んだのは、北関東菊花賞の出走馬たちについて。2008年生まれのお馬さんたちを掻き集めるのに苦労しました。最初は架空馬で固める案もありましたが、あるキッカケからあまり実績のないお馬さんの名前を挙げたくなりまして、出走表を見直したら12頭中9頭がいつの間にか実在馬に取って代わっていました。(これに対して北関東秋華賞の出走表に登場する実在する馬名は14頭中5頭)
 しかし、いざレース展開や走れそうな距離といったものを勘案した時に戦績を調べたら、今度はみんな短距離〜マイルでの成績しか残っていないようなパターンが多くて、結局は(一部を除いて)史実の戦績から着想を得ながらの人選(馬選?)になりまして……。
 さらに、上記のことが理由で当初は14頭出走の案で出走表を書いていましたが、12頭の方がリアルかもと思い、こうなりました。
 
 また、架空馬たちの名前と血統にも、前々からやりたかったことをついにここで出すことになりました。
 本当は盛り込みたいものがいくつかありましたが、構成がまとまり切らないことと、キャラクター描写の尺の問題などなどの理由からカットしたものがあります……それはいつかアレンジして出したいな。



◎おまけ①
⚪︎ウマ娘エリモエクレール

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘エスエタンダール

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘メルキュールエリス

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘クシロスフィア

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘ベルシャザール

【挿絵表示】


 今作中に出てきたオリジナルウマ娘たちです。
 ただ実はこの中で「エリモエクレール」と「ベルシャザール」は実馬が存在します。


◎おまけ②
⚪︎ウマ娘タッキー

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘ぐんまちゃん

【挿絵表示】

⚪︎ウマ娘?????????

【挿絵表示】


 今回登場したタッキーと、ぐんまちゃんについては、詳しくは活動報告の『ウマ娘「タッキー」と「ぐんまちゃん」について』をご覧ください。

 ちなみに今回描かれた高崎での開催時、それも一夜にG1級を二連発なのでぐんまちゃんとタッキーは共に正装姿で登場してますが、普段のタッキーはTシャツとジーパンという一見するとどこにでもいるちょっとスポーティな感じのウマ娘です。

※こちらはみちザねさんが直に出力したAI生成イラストです。

【挿絵表示】


使用楽曲コード:0B593157,0B735997,0W284019,26696291

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