北関東の秋華賞と菊花賞が終わり、中央でも菊花賞が終わった次の日。
調教も終わり、競馬新聞を読んでいたら、
《オルフェーヴル、生沿騎手とのコンビでクラシック三冠達成!》
《三冠達成は2005年のディープインパクト以来6年ぶり》
《終始落ち着いたレース運びを展開》
《次走は有馬記念でナコウトプカラと対決か》
やはり、この世界でもオルフェーヴルは三冠馬になった。
その次走が有馬記念で、しかもプカラさんと対決かぁ……ナコウトプカラという馬が私の前世にいなかったから、どんなレースになるか。今から気になってしまう。
今更だけど、プカラさんのお父さんってナリタトップロードなんだよね。そのお父さんが獲れなかったタイトルを娘が獲るってもはやドラマだと思う。
しかもプカラさん、いつの間にか中央で宝塚記念も獲ってるし……記事には、っと。あの時は4枠8番でのエントリーだったんか。なるほど……*1
そのプカラさんは次走がジャパンカップだから……去年、ブラジルカップとアルゼンチン共和国杯を獲ってるから、ウマ娘で言ったら「ワールドウマ娘」の称号獲得にリーチが掛かってるわね。
ちなみに新聞を読む限りだと、菊花賞直後の騎手振り落とし事件もオルフェが起こさなかったみたいで安心した。
さて、次はJBC特集だけども……良くないニュースがまず目に入った。
《リアライズノユメ、JBCレディスクラシック出走回避》
《リアライズノユメ陣営。「疲労が激しいため出走見送りを決断」》
《次走はフェブラリーステークスに照準か》
JBC四競走の出馬表が出るまでにはまだ時間があったものの、ユメちゃんの離脱はちと痛い。
オーバルスプリントのリベンジはやりたかったんだけども……やっぱり北関東牝馬三冠、特に「真に過酷な地」とまで称される高崎の競馬は負担が大きかったみたいで。
そこに北関東秋華賞の前哨戦代わりにオーバルスプリントを挟んだもんだから……。
実はあのレース、岡嶋
この世界にもグリーンチャンネルカップがあって良かったぁ。今度からラジオじゃなくテレビを馬房に常設して貰おうかしら?
だから当然、北関東秋華賞のレース展開も最初から最後まで見ていたけど……なんて言ったっけ? 高崎スペシャルだっけ。
今の今まで群馬トレセンしか行ったことがないからこの世界の高崎競馬場を映像とはいえ生放送で見れたけど、向正面にあんなアップダウンの激しい坂があるなんて……。
しかも、秋華賞も菊花賞もそれを2回繰り返すことになるから、人馬共に緊張しながらの競走だったに違いない。まるで障害物競走かばんえい競馬みたいな光景だったけど、スピードを乗せた走りは一応平地競走であることを思い出させてくれる。
それをほぼ序盤か中盤から先頭を譲ることなくユメちゃんは全力疾走していた。
……まぁ、正直なところ、あんな凄い走りを見せてもらったなら、ここで出走回避は「そりゃそうだ」というか、残念ではあるけど、仕方ないっちゃ仕方ないと思う。怪我してほしくないし。
ちなみに、私の前世にもJBC四大競走はあった。……正確にはこれに門別開催の「JBC2歳優駿」を加えたJBC五大競走だったけれども、まだそれは存在していない*2。何なら、今年からレディスクラシックが始まるわけで。しかも、私にとって馴染みのある「Jpn1」ではなく、今年と来年は単なる「重賞」という扱い。
その初回チャンピオンはミラクルレジェンドだったはず。
……ユメちゃんが出られない上に、JDDの件でクラーベセクレタとも白黒つけなきゃならないし。
このレース、絶対に負けられない。
〈姉ちゃーん!〉
〈……へ?〉
「あ、こら、コロ、そっちじゃないってば!?」
「どうどうどう!」
声というか嘶きを聞いた先に目を向けたら、そこにいたのは見覚えのある栗毛の牡馬……ってか、オオエライジンことコロちゃん!? コロチャンナンデ!?
〈ちょ、コロちゃん!? なんでここに!?〉
さっきまで人参をポリポリ食べながらゴロゴロしていたのに、思わずビックリして飛び起きた。
〈姉ちゃん! 会いたかったよぉ! 今日からよろしくね!〉
〈え!? 園田はどうしたの!?〉
〈こっちに所属?を移してもらったんだ!〉
「あぁぁぁ、岡嶋先生申し訳ない」
「富山先生?」
「オオエライジンなんですがね、JBCスプリントに出走するんで、関東にいる間はうちの厩舎で預かることになりまして……」
「僕も富山先生のところで暫くお世話になります」
「あぁ〜……なるほど」
そういえばプレジャー先輩が現役を引退して退厩してて……それで空いた馬房にコロちゃんが収まったってこと?
でも、富山先生とコロちゃんの騎手さんの話からすれば一時的みたいだし……コロちゃんは浦和に移籍できたと信じ込んでしまってるみたい。
どうしよう? 正直に言うべきなのかな?
そんなサプライズがあって、それからの私たちはJBCに向けての調教に入り、度々併せ馬をすることになり───。
───そして、ついに迎えたJBC競走当日。
大井開催5日目第8競走 第1回JBCレディスクラシック
ダート右1800m / 天候 : 曇/ダート: 良
| (枠番) | (馬番) | (出走馬名) |
| 1 | 1 | エーシンクールディ |
| 2 | 2 | ツクシヒメ |
| 3 | 3 | テイエムヨカドー |
| 3 | 4 | ミラクルレジェンド |
| 4 | 5 | パールシャドウ |
| 4 | 6 | トウホクビジン |
| 5 | 7 | カラフルデイズ |
| 5 | 8 | クラーベセクレタ |
| 6 | 9 | ブラボーデイジー |
| 6 | 10 | ウェディングフジコ |
| 7 | 11 | スターオブジュリア |
| 7 | 12 | ラヴェリータ |
| 8 | 13 | ギンガセブン |
| 8 | 14 | ハルノウラワ |
【今年からJBCに新たなカテゴリーが加わりました。TCK第8競走、農林水産大臣賞典第1回JBCレディスクラシック。初代女王の栄誉に輝くのはどの馬か。その座を争います14頭。ただの重賞とは思えない豪華メンバーが集まりました】
【その代表格が14番ハルノウラワ。今日の2番人気です】
【大外が不利という判断なのでしょうか?】
【恐らくは。しかし、1番人気が8番のクラーベセクレタで、前回、この大井で開催されたジャパンダートダービーではハルノウラワに先着する差し足を見せていました】
〈ハルノウラワ。やっぱり来てくれたのね〉
〈当然でしょ。前回の事でモヤモヤしてるんだから〉
【パドック上で睨み合っていますハルノウラワとクラーベセクレタ】
【前回の競走後、クラーベセクレタは検査結果でカフェインの陽性反応が出たために失格となり、2着だったハルノウラワが繰り上がりで優勝という扱いに。これについてハルノウラワ陣営は、「私たちも馬も困惑していました」とのコメントが】
【まぁ……そうでしょうね。先行で中段に控えた後に最終直線で加速したハルノウラワを、クラーベセクレタは外から抜群の差し脚を発揮して先頭を駆け抜けていきました。あれは本物の強さでしたし、南関三冠を牝馬として22年ぶりに達成した瞬間に会場は沸きましたが、それだけにあの結果には残念でした】
〈あら? 誰かと思えば。薬物で失格になったお馬さんじゃないの〉
〈インチキで三冠獲れてうれしい?〉
そしたらパドックで他の馬に絡まれるセクレタ……。
って、よく見たら片方はカラフルデイズちゃんじゃないの?
そんな汚い口を利く子だとは思わなかったなぁ。……だけど、風の噂で例のジャパンダートダービーの1着剥奪の話を聞いていたら、そりゃ怒りたくもなるよね。
〈あんたがハルノウラワ?〉
〈……えぇ。そうだけど。あなたがミラクルレジェンドさん?〉
〈そうよ〉
【今度はミラクルレジェンドとカラフルデイズがハルノウラワを睨むように見ています】
【カラフルデイズは南関東オークスでハルノウラワと対決して以来の因縁でしょうね。しかしミラクルレジェンドは?】
【何かを感じ取ったのかもしれませんね】
〈ふーん……浦和のアイドル馬と聞いていたのに、思ったより強面な
〈それって挑発のつもり? 悪いけど自覚はある〉
〈……なんとつまらないこと〉
こういう盤外戦術って流行ってんのかな?
ちなみに、前回の時のグランシュヴァリエとはあの後一応和解した。
……前々から思っていたけど、お馬さんになってから私は短気になってる気がするなぁ。
安い挑発に乗って後々痛い目に遭いそうだから肝に銘じとく。
続いてミラクルレジェンドが鼻先を向けて呼びかけた相手はクラーベセクレタ。
〈クラーベセクレタ〉
〈……何かしら?〉
〈南関東の他の二冠もまさか薬物に頼っていたわけではないでしょうね?〉
それは当然の疑問であった。
これ、私が人間かウマ娘だったら天を仰ぐか頭を抱えるリアクションをしてただろうなぁ。
〈……私が何と答えようとも信じてもらえないでしょ〉
〈そうね〉
〈……ねぇ、ちょっといい?〉
そこに割って入るハルノウラワ。
〈ハルノウラワ?〉
〈セクレタ。私、今日は勝っても負けても……いえ、違うわね。絶対にあなたに勝つ〉
〈〈〈!〉〉〉
そのハルノウラワの宣言には覇気があり、クラーベセクレタ、カラフルデイズ、そしてミラクルレジェンドまでもが圧倒された。
〈私はジャパンダートダービーの借りを返すつもりで今日のレースに来たんだからね? 前に大井で私を負かしたあなたの実力。それが本物かどうか。私をまた倒して証明してみて〉
勝者の表彰台に立てるのはたった
〈……えぇ。その挑戦、受けて立ってやるわよ〉
〈そうこなくちゃね。……行きましょ。お客さんが待ってる〉
そこで「止まーれー」という合図と共に周りのお馬さんたちの歩みも止まる。
私たちはといえば、パドックの中央で睨み合っていていつの間にかパドックの輪からは外れていた。
そんな私たちにジョッキーさんたちが次々に乗る。
私の背にも福延さんが乗り、立て髪や首筋を撫でながら語りかけてきた。
「ブルルルルッ……」
「ハルナちゃん、今日は気合が入ってるな……まぁ、当然か。さぁ、今日は勝ちに行こう」
「ヒヒンッ」
JBCレディスクラシック───その初代チャンピオンになるんだ!
【大井開催TCK第8競走。JBCレディスクラシック。出走馬14頭。下は3歳、上は7歳の乙女たちが集います。奇数番の馬は既にゲートイン。偶数番も14番ハルノウラワ、8番クラーベセクレタ、4番ミラクルレジェンド、次々にゲートインします。最後に10番のウェディングフジコが枠入り完了しまして───】
ガチャンッ、
【───スタートしました。綺麗に揃ったスタート。早くも先頭を行きますは1番エーシンクールディ。9番ブラボーデイジー、7番カラフルデイズが続きまして、外から並びかけてくるのは8番クラーベセクレタ、14番ハルノウラワ、12番ラヴェリータ、続きまして10番ウェディングフジコ、13番ギンガセブン。今から第1コーナーに差し掛かるところで、4番ミラクルレジェンドが9番手。続いて11番スターオブジュリア、2番ツクシヒメ、3番テイエムヨカドー、6番トウホクビジン、最後方に5番パールシャドウで第2コーナーを回ります。先頭は9番ブラボーデイジーに変わっている、2番手に1番エーシンクールディ。早くも前に出てきた8番クラーベセクレタ、7番カラフルデイズが横に並んで、すぐ後ろに14番ハルノウラワという状態のまま向正面へ。12番ラヴェリータ、13番ギンガセブン、4番ミラクルレジェンド上がっていきます。残り1000mを通過。11番スターオブジュリア、2番ツクシヒメ続きまして、3番テイエムヨカドー、ここで5番パールシャドウも上がってきまして6番トウホクビジンが最後方に。ここで先頭に立ったのは7番カラフルデイズで第3コーナーに入ります。2番手に9番ブラボーデイジーだが、外から上がっていきました8番クラーベセクレタ。インから突きに行きます14番ハルノウラワ。1番エーシンクールディがこの位置まで後退、12番ラヴェリータ上がっていきまして、10番ウェディングフジコ、ここに4番ミラクルレジェンドも上がってきました。さぁ、第4コーナーに入ります。ここで交わして2番手に上がっていきますクラーベセクレタ、それに続くは12番ラヴェリータ、14番ハルノウラワも行きました。ブラボーデイジー、ウェディングフジコ、ミラクルレジェンドの順で通過していきます。間も無く最終直線、南関最長の大井の直線に差し掛かります。ここで一気に広がる。先頭に立ったぞクラーベセクレタ、しかし、インから持ち出してハルノウラワも加速します、カラフルデイズがズルズル下がってく、ミラクルレジェンド大外に回りまして飛んできました。ラヴェリータ、ウェディングフジコも続きます。ここで5番のパールシャドウがすごい追い上げだ! 観客席から歓声が響きます。先頭集団、クラーベセクレタ、ハルノウラワ、ミラクルレジェンド3頭が激しい接戦、僅かにハルノウラワ抜け出す、ハルノウラワ、抜け出しました、そのままゴール! 1着ハルノウラワです、やったぞハルノウラワ! ジャパンダートダービーでの借りをここで返した! JBCレディスクラシック、初代チャンピオンの座に駆け上がったのは浦和のアイドルホース、3歳の新星ハルノウラワです! 2着は接戦、これは……ハナ差でミラクルレジェンドでしょうか? 3着はクラーベセクレタです。4着はすごい勢いで後方から追い込んできた5番のパールシャドウ、5着に12番ラヴェリータです。勝ちタイムは……1分49秒5! レコードです! 大井1800mでレコードが出ました!! 2着ミラクルレジェンドと3着クラーベセクレタも本来であればレコードタイムの1分49秒6が出ています。何ということでしょう!】
はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ。何、レコードタイムだって? 私が?
や、やったぁ……!
走ったばかりでまだ息が整ってないけど、ウイニングランをしてから戻ってくると少し落ち着いた。
そこで待っていたのは、ミラクルレジェンドとクラーベセクレタだった。
〈やられたわハルノウラワ……〉
〈レコードタイムまで出されたら、文句の付けようがないわね……おめでとう〉
〈あははは……ありがとう〉
〈クラーベセクレタ〉
〈……何かしら?〉
〈疑って悪かったわ。私に食らいついてきた上に私に近いタイムまで出してくるなんて〉
〈それは……〉
クラーベセクレタはハルノウラワに目配せをしようとするが、ハルナはそれに対して反応に困ってしまい、
〈あ、さ、さぁ、私はこれからウィナーズサークルに行かなくちゃ。じゃぁ、またねー〉
〈〈あっ!〉〉
ちょっと照れ臭くなって、私はそそくさとウィナーズサークルに踵を向けた。
レコードタイム?
そんなもん狙って出せりゃ苦労しないわよ。
だけど、これでセクレタに対する疑惑も少しは払拭出来た……ことを祈りたい。
そんなことを考えつつ、私は首に掛けてもらった「第1回JBCレディスクラシック」の優勝レイの重みを確と感じていた。
2011年11月3日木曜日 大井競馬 第8競走
第1回JBCレディスクラシック重賞 ダ1600m(右) 曇 良
着順
1着・ハルノウラワ(※1)
2着・ミラクルレジェンド(※2)
3着・クラーベセクレタ(※2)
4着・パールシャドウ
5着・ラヴェリータ
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10着・カラフルデイズ
※1……大井1800mのレコードタイム
※2……1着ハルノウラワに対して0.1秒差のタイムを記録