浦和の桜吹雪   作:Simca Ⅴ

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 実質的なJBC実馬編のエピローグになります。


#20.5「2011年JBC閉幕〜帰路〜」

 11月3日の最終レースが終わり、無事JBCも閉幕。

 第11競走をパドックビジョンで見終われば私たちも撤収。スタッフさんたちが私がいたスペースを片付ける作業を始めた。

 当事者としては後片付けを手伝いたかったんだけども、

 

「邪魔になっちゃうからダメだよ」

 

 と、美鶴ちゃんに諭されて敢え無く断念。

 そのまま彼女に引かれて馬運車まで直行すると……。

 

「ビヒヒヒヒヒーンンッッ!!」〈姉ちゃぁんっ!!〉

「わぁ!?」

〈び、ビックリしたぁ……コロちゃん、脅かさないでよぉ〉

 

 既に灯りのついていた馬運車に戻ってみると、私を待っていたらしきオオエライジンが泣いてた。

 美鶴ちゃん共々私までビックリだよぉ!?

 うーん? これはどうしたことだろうか。

 

「この子は……オオエライジン? あれ? ……どうして泣いてるの?」

 

 一歩遅れて美鶴ちゃんもオオエライジンの顔と目を見て、異常事態に気付いた様子だった。

 その後、オオエライジンの騎手さんも調教師の人も驚いてた。

 一先ず、オオエライジンを宥めすかして。そうこうしてる内に最終競走まで終わってしまって、私がオオエライジンの隣の馬房に収まり、馬運車が野田トレセンに向けて発車した時には既に午後の11時を回っていた。

 全く。

 

〈あのね、泣いちゃダメ、とまでは言わないけれど、今度からは大騒ぎしないでね? 厩務員さんや調教師さん、それにあなたの大好きな騎手さんにまで迷惑が掛かっちゃったんだから〉

〈ご、ごめんなさい……〉

 

 高速道路に乗った辺りで、漸く先ほどよりは静かになったオオエライジンに私はそう注意をした。

 実際、出発時刻は一時間半から二時間ぐらい遅れてる。

 つまり、本来なら今頃野田トレセンの馬房で夢の中だったはずだし、調教師(センセー)や騎手さんたちにも諸々の予定がある。

 私たちの場合はレースを走ったばかりだから明日はオフだろうけど、周りはそうもいかないはず。

 それはそうと。その原因になったオオエライジンの大泣き。その理由(ワケ)は何だろうか?

 

〈あんなに泣き腫らして大声まで出して、一体どうしたの?〉

〈姉ちゃん……勝てなくてごめん……〉

〈あらら……〉

 

 それはもはや競走馬としてのオオエライジンではなく、身内も同然なコロちゃんとしての姿を私の前で曝け出していた。

 初対面では競うべきライバルであったはずなのに、それが突然に姉弟になるなんて。誰が想像するだろうか、そんなもん。

 

〈パドックでさ、姉ちゃんが応援してくれて凄く嬉しかったんだ、だから「今日は勝とう!」って……頑張ったのに、最後の最後で……〉

 

 あーぁ、また泣きそうな顔になってる……。

 ……まぁ、今夜は姉として胸を貸してあげましょうかね。

 

〈……ねぇ、コロちゃん。世の中ね、確かに勝つことも大事よ。それがあなたの将来を左右するんだから〉

〈僕たちのお父さんもいっぱい走って、たくさん負けても、最後にはG1を勝っていたから、僕らが生まれたんだよね〉

〈そう。だけど、もっと大事なのは、私たちは身体が資本ってこと〉

〈からだがシホン……?〉

〈……要は怪我しないように。病気にならないように。無病息災。例えビリでも無事に走り切ること〉

 

 そこまで言ってから、私は鼻先でだが、彼の鬣を手で触るかのように撫でる。

 

〈……仮に不甲斐ない走り方をしても、逆に私を負かしてもいい。恨みっこなし。私はそんなことで怒らないから。だけど、さっき言ったこと〉

〈えっと……ムビョウソクサイ?〉

〈そう、それ。それを守ってちょうだい。……でないと、私、全てを許せなくなる〉

 

 例え馬券は外れてもいいから、事故だけは起きないでほしい───前世の私は、毎度のように競馬場で馬券を買う際には馬頭観音にそうお祈りしていたものだ。

 私の前世では、サイレンススズカやトウショウナイト、あとはアメイジングスターの時のような悲劇があった。

 それだけはここで、私に、また私の目の前で起きてほしくない。

 幸いにもここでは、サイレンススズカは子に恵まれて、トウショウナイトも健在なのが救いだ。

 

〈……約束するよ。でも、今度こそはちゃんと勝つよ〉

〈そうこなくちゃ〉

 

 完全には防げないかもしれないけれども、コロちゃんからの返事に安堵した私は……その後、いつの間にか眠ってしまっていた。

 起きたら野田トレセンに着いており、私たちもいそいそと車を降りて馬房で床に着いた。

 明日は確かにオフだ。

 ……でも、次走のために気を引き締めないといけない。

 何故なら、またユメちゃん(リアライズノユメ)と走ることになるのだから。

 しかもその決戦の舞台は府中。時は2月───今のところ、2つしかない中央ダートG1の片方、フェブラリーステークスの開催は着実に迫ってくる。

 中央でどこまでやれるかは分からない。けれども、今度こそは不甲斐ない走りはしない。

 ……だけど、芝からダートに入るクソコース、今からでもいいからちょーっとでいいから、考え直してくれないかな運営(JRA)さ〜ん?

 

 なーんて、深夜テンションと疲れと眠気が混ぜこぜになった思考では頭など到底回らず、そのまま消灯した馬房で私の意識はブラックアウトした。おやすみなさーい……。




 元々はJBCスプリントの回の最後の部分に挿入する予定でしたが、この後投稿する話と時系列が前後する関係上、この部分を独立させて掲載することにしました。
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