浦和の桜吹雪   作:Simca Ⅴ

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 先に言っておきますと、地方競馬のデビュー戦に中央の騎手が出ていいのか、あるいは、浦和所属の馬は必ず浦和でデビューしなければならないのか、などについて、筆者は知りません。(ざっと調べても出てこなかった)
 ストーリーの展開上、勢いが有るうちに描きたかったので、もし間違いがあれば教えていただけると幸いです。


#03「デビュー前なのに地方巡業ってどういうこと?」

 ハルノウラワが無事に生まれて数年が経ったある日のこと。

 

「ハルノウラワのデビュー戦を高知でやりたい?」

『は、はい、もし出来れば、というお話なのですが……』

 

 ハルノウラワの馬主、黒松義隆は牧場の電話口で思わぬ人物と会話することになり驚き、その人物の提案にもまた驚いた。

 

 相手は高知県競馬組合の組合長だった。

 

 高知のアイドルホースだったハルウララであるが、その初仔が無事に産まれたというニュースが高知では持ち切りになり、今年デビューという噂を聞きつけた組合長は一念発起で、ハルノウラワの馬主である義隆に直接掛け合うことにした。

 

「うーん……突然にそれを言われても困ります、厩舎とか騎手さんとかその他諸々高知所属でも何でもないのですが?……黒船賞に出すことも考えておくか……

『あぁ、その点については、まず厩舎は宗岩調教師に相談してみたところ、「高知にいる間だけはうちで面倒を見ます!」と了承を得ていますし、騎手についても、馬主の黒松さんがご指名された方で出走できます。浦和競馬協会にも短期の一時移籍の許可もいただいています』

「つまり、あとは私の決断次第、ですかね……」

 

 黒松義隆は一瞬悩んだ。

 既にハルノウラワはここ北海道のハグロ牧場を旅立ち、埼玉の野田トレーニングセンターで現在メイクデビューに向けて調教中だ。

 高知県競馬の組合長が先回りして浦和競馬協会に掛け合っているなら、厩舎にも話は伝わっているか……うーん……。

 

「……わかりました。こちらで管理調教師をしている先生とも相談してから決めさせていただきます。なるべく1週間後にはお返事致します」

『急な申し出になり申し訳ありません。よろしくお願いします』

 

 そこで一旦電話を切り、義隆はポケットからまだ買って間もない真新しい折りたたみ式携帯電話*1を取り出して、即座にある人物にアポイントメントを取った。

 


 

 はぁーい、埼玉の野田トレセンよりこんにちは。ハルナこと、ハルノウラワです。

 最初は「馬名を駄洒落で決めんじゃねぇ!」ってキレて拒否してましたが、慣れてくるとそう悪くない名前に思えてきました……慣れって怖いねー。

 

「いいぞ、このタイムなら新馬戦もちゃんと勝てそうだ。どうだい生沿くん?」

「岡嶋さんのおっしゃる通りだと思います。良馬場も不良馬場も天候を選ばずにタイムに差がない。これで新馬戦前というのが驚きっすね」

「そうだろうとも」

 

 私の馬名にもあるように馬主(オーナー)さんは私を浦和所属にすることに妙に拘っていた。

 でもそんな彼のお抱え騎手みたいな立場の人に生沿さんがいるってどういうこと!? って最初に生沿さんと対面した時はビックラこいたものだ。

 この人確かJRAの騎手よね?

 最初は「まさかこの世界では地方で騎手やってんのか?」とも思ったけど違ったみたいだし。

 つーか、もう今は2010年だから……あれ? お手馬のウッドストックとかオルフェーヴルはどうしたん? メジロジョンソンで凱旋門ジョッキーやらないで大丈夫なん? 私なんかに付きっきりで良いのかしら?

 

 うーん……謎だ。

 

 で、先生っていうか……競走馬に走るイロハを教え込むのが、調教師(テキ)だったっけ?

 私が所属することになった岡嶋厩舎の岡嶋正男先生、うーん……この人も前世で見た覚えはあるんだけども……。

 

 その岡嶋先生と、生沿さんより、「これなら新馬戦は問題なく勝てるぞ」とご評判に預かった。

 ……私の知る推し馬はまだ生まれていないし、私がその推し馬に生まれ変わったわけでもないし。だけどそれはそれで、お肉にならない程度には頑張らないといけないなぁ。だけど、活躍したらしたで、今度は私のせいでその推し馬が生まれなくなる可能性もあるのがまた怖い。うーむ、悩ましい。

 

「そういえば、この娘の半弟が生まれていたんだって?」

「あ、はい、会いに行ってきましたよ。でも、黒松さん、その子は中央に出すみたいですねぇ」

 

 はぁ!? 何だそれ、私はだっさい名前付けられて地方をグールグルさせられること確定してんのに、半弟ちゃんは中央行き確定ですか!?

 

「わ、ととと、ハルナちゃん、落ち着いて、どうどう」

「……この子、クロスクロウやクロススキッパーに似ていますね」

「パーソロン系の血を引いてる以外は似てないはずだが」

「そうじゃなくてですね、反応が一々人間臭くて、馬を相手にしてる気になれないんですよねぇ」

「あぁー……お話は伺っていますが、あれってやっぱりそうだったんですね」

 

 何何何? 私の知らないG1馬の話を勝手に始めないで、ちゃんと全部聞かせろください!

 

「ブルルルッ」

「鼻息を荒くしてる……「私以外の話はしないで」って言ってるんでしょうか?」

「多分そうでしょう。ヤキモチじゃないっすか?」

 

 ちっがーう!! あぁ、ちくしょー……。話聞きそびれたぁ……。

 

 そう……私としても、この世界でしか見たことも聞いたこともない()()()G()1()()という存在がどうしても気になって仕方なくて。

 一応、2年馬生を送っているうちに聞いた名前の馬で、クロススキッパーというと、確か私の半弟ちゃんの父だったはず。

 そして、クロスクロウはクロススキッパーの父親で、生沿さんに初のG1勝利(それも、1998年のジャパンカップ!)を掴ませ、4歳期にイギリスに渡ってキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークスを日本馬として初めて勝利したというんだから……ざっと目立つ戦績を聞いただけで、「この馬ヤバい」って直感したものだ。あぁ……もし前世で活躍していたならきっと好きになっていた。

 

 問題は、その息子───つまり、クロスクロウの初仔だったとかいうクロススキッパーという馬だ。

 聞き齧っただけでも「人間臭い反応をしていた」とかいうし……マジで馬房でどんな過ごし方をしていたのか気になって仕方ない。

 だって、調教(トレーニング)で走って泳いで飯食ってシャワー浴びて……ぐらいしかやることなくて退屈なんだもーん!

 精々、厩務員さんが度々忘れていく競馬新聞を読むことぐらいしか楽しみがないしー……。

 

「おっと、もうこんな時間だ……」

「そうっすね、黒松さんがそろそろ……」

 

 なぬ、オーナーさんがこっち来るんかい! そういう事は先に言って欲しい!

 

「わ、どうしたハルナちゃん」

「きっとオーナーさんが来るって知って嬉しいんじゃないかな?」

 

 逆よ逆! 半弟は中央行き確定してるのに私は地方行き、ついでに馬名を駄洒落で付けるような人だ、絶対碌でもないことを持ち込むつもりでしょ!

 

 ……いや、失礼。

 何も駄洒落で馬名付けるオーナーさんがみんながみんな悪い人ってわけではない。

 むしろ、うちのオーナーも良い人だ。私がそのネーミングセンスに物申したいだけで。

 

 しかし、「碌でもないことを持ち込むつもりだ」って勘は当たる羽目になった……ファッ●ンジーザス!

 

 そんなわけで、馬運車に寄られて揺られて、一旦何処ぞかの空港に連れて来られて、家畜運搬用貨物機に厩務員さんと調教師の先生と押し込まれて、渦潮の海を超えて、次に降り立ったのは高知龍馬空港……そこからまた馬運車に乗って揺られてジャジャジャーン、着いたのは高知競馬場だぁ。えぇー……ここまで来といてあれだけど、マジでここで新馬戦やるんですかぁ……?

*1
docomo SMART series F-04A




今作のハルノウラワが所属する岡嶋厩舎。
この厩舎の長である岡嶋正男調教師には、厳密にはモデルが2人います。

ちなみに、New Orderの「Round and Round」を聴きながら書き上げていたので、ハルノウラワのイメージソングになるかも……。
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