和田さんが調教師になるって聞くと、さらに思い出したのは、本作ではハルノウラワが一時的に高知所属になった際(4話参照)に登場した宗岩さんの元ネタである宗石調教師も引退しちゃったし……。
何だか今頃になって「一つの時代が終わった」というアンニュイな気分になってきた……。
あ。
引き続き『活動報告』でもリクエスト募集中でございますので、よろしくお願いします。(前回忘れてた)
※2026年3月29日追記……そういえば、かしわ記念の宣伝シーンを描き忘れていたので、そのシーンを追加するついでにその前後を加筆修正させていただきました。
《大外から末脚一閃!
《2月19日、東京競馬場(東京都府中市)で行なわれた第29回フェブラリーステークス(G1)。前週まで同地でグリーティングイベントが開催されており、そのイベントの中心で注目を集めていたハルノウラワ(浦和)も同競走に出馬し、2番人気。JRAから参戦のトランセンドとエスポワールシチーがそれぞれ1番人気と3番人気という状況下。ハルノウラワ効果が早春の府中に一足早い春風を齎した。2月19日当日、東京競馬場には述べ11万6598人が詰め掛けた。これはフェブラリーステークス開催当日の観客動員数としては過去最高であり、加えてG1としては初めてJRA-IPATとJ-PLACEが部分的ながらも運用された影響か、同様に同競走の売り上げも193億1388万7300円と過去最高額を叩き出した。今回のレースは過程も結果も全てが十分に見応えあるものだった。序盤から2番人気ハルノウラワと4番人気リアライズノユメ(足利)の地方4歳牝馬コンビがレースを引っ張る展開を見せ、中盤までは二人旅が続いた。しかし、ベテラン勢たちは後方でジッと勝機を伺いつつ追走。そして、第4コーナーから一気にトランセンド、エスポワールシチー、さらに5番人気のワンダーアキュート、テスタマッタら中央勢が牙を剥いた。ここで地方馬のナイキマドリード(船橋)も続くかと思われたところで大外に繰り出した7番人気のナコウトオトメオー(中津)が悠然と加速していたことを周りが見落としていた。最終直線に入り残り300〜200mのところでハルノウラワとリアライズノユメはあっという間に後方からやってきたエスポワールシチー、トランセンド、ワンダーアキュートらに捉えられ馬群に沈んでいったが、ここで大外から猛加速を掛けてきたナコウトオトメオー(鞍上:和多龍次)が最終局面で彼ら彼女らを一気に撫で切り、ハナ差で初の中央G1の栄冠を手にした。地方馬がフェブラリーステークスを勝利するのは2007年に高崎所属のシャッタードスカイが勝利して以来5年ぶり四頭目の快挙であり、テイエムオペラオー産駒としても初の中央G1勝利を掴んだ。また鞍上の和多龍次にとってはナコウトオトメオーの父でもあるテイエムオペラオーで制した2001年の天皇賞・春以来、実に11年ぶりの中央G1勝利となった(地方G1を含めると
あのフェブラリーステークスから早くも10日が経過。
競馬新聞を読んでみようとしたらスポーツ紙に今回のレースのことが思いっきり特集されてて一気読みしちゃった。
はぁー……フェブラリー惜しかったなぁ。
中津で芝からダートに入るコースをあれだけ練習したお陰か躓かないで行けたけど、最終直線でエスポさんたちが差してきたのはともかく、本来なら中長距離向きのはずのオトメオーちゃんがさらに大外で加速してから差してきて、ってのは考えてなかった……まさかドバイのツバキプリンセスと同じ芸当をここでもやる馬が出てくるなんて*1。
というかオトメオーちゃんも中津の馬だから、そりゃあ府中のように芝からダートに入るコースの対策なんて年がら年中やってるだろうし、あたしみたいな付け焼き刃なんかよりも熟練してて当たり前か。
これは負けるべくして負けたと言わざるを得ないなぁ……しかもあんな大観衆の目の前で着外とか面目無い……。
しかし、今更だけどこれってマジなの?
観客動員数が11万人超えてて、ついでに売り上げが193億円だって!?
いくら何でも盛りすぎじゃない……?
というか元の世界でのフェブの売り上げってそこまで大したことなかった気がするんだけど*2、何なら「G2に落とせ」だの「1400mにしろ」だのとネットで辛辣に言われる始末だったのに。……この世界ではそう言い出す人はいなくなるか少なくなるか。
まぁ、そうなるならあたしが負けたのも別に無駄じゃなかった。……うん、もうそれでヨシ!としよう(現場ネコ感)。
「ハルナちゃーん、あ、もう起きてるんだ。お誕生日おめでとう」
〈美鶴ちゃんおはよー。ありがとうねー!〉
そうだった。
遅ればせながらあたしハルノウラワは、本日2月29日が誕生日なのです!
いやぁ、我ながらこんなこと言うのもあれだけど、まぁた微妙な日にあたしゃ生まれたもんだ。
2月29日って4年に一度しかないのに。
……あれ? 今更だけど、あたしって全日本2歳優駿とか勝ってたよね。
2月29日生まれの競走馬がG1級勝ったことあるのは実は初快挙だったんじゃ……?*3
でもそれを取り上げてる競馬新聞に今まで遭遇したこと無いなぁ……何か悲しい。
「今日はアレだけど大丈夫?」
〈はーい〉
「うんうん……体調も良さそう」
「競馬新聞も読んでご機嫌そうだな。ハルナ、誕生日おめでとう。ただ、先週から話してたようにテレビの取材が今日来るけど、いつも通りの自然体でいいからね? 万が一、無礼があったら遠慮なく教えてほしい……俺が何とかするからな?」
実は今、あたしは野田トレセンの岡嶋厩舎ではなく、久々に生まれ故郷のハグロ牧場に戻ってきている。
……久々って言い方もちょっと変かな? 去年JBC走り終わったら真っ先にこっちに里帰りしてたから2ヶ月ぶりか。
お隣の馬房には
お母さんも美鶴ちゃんと義隆さんに気付くと起き出してきて、美鶴ちゃんは頭を撫でながら「おはよう」と声を掛けていた。
そして今日の予定ですが、何と! あたし地上波デビューします!
え? 「競馬番組や中継でとっくに全国区で知られてるだろ」って?
いやいや、今日の取材は珍しく競馬番組とかレースとかじゃないのよ。
あたしを起こしに来た美鶴ちゃんとオーナーの義隆さんと一緒に最終打ち合わせに入るけど、今日来る取材は、何と、見て驚け聞いて笑え、あの『志⚪︎どうぶつ園』なのだ!!
つまり、ただの地上波どころかゴールデンタイムのバラエティにあたし出ちゃうことになりました!
いやぁ、だいぶ有名になっちゃったなぁ……とは思いつつも、あたしの露出度(not痴女)の高さから言えばもっと早くこういう日が訪れてもおかしくなかったんだけども……。
「誕生日ケーキも用意してあるからね? どうせならお祝いをテレビで放映してもらおう」
「……本当に大丈夫なんだろうか。今からでもキャンセルできるがどうする?」
「お義父さんったら……大丈夫だよきっと。あの志室さんだもの」
「とはいえなぁ……馬ってのはぶっちゃけノミの心臓持ちの繊細な生き物だ。オグリのように図太い馬もいたが、そのオグリをガレさせたのがよりによってマスコミだった。同じことをハルノウラワがやられたらこの子は人を信頼しなくなってしまう」
あー、あの有名な話だよね……義隆パッパはそれを一番気にしてた。今回みたいなテレビ取材が来なかったのもそれが理由だったかぁ。
義隆さんの言う通り、あたしみたいなお馬さんは例外中の例外みたいなものだ。
現役の競走馬っていうのは競争心を煽るために調教を受けたりするので、その結果、元来よりも気性が荒くなってしまうパターンが多い。
気性難の代表格みたいな存在で知られている馬といえばドリームジャーニーやステイゴールドだけども、そのお祖父やお父さんに当たるサンデーサイレンスなんかは調教で気が荒くなったという話で有名だし、ハルウララも世間一般で知られているよりは実はかなり気性が荒かったらしい。
中には、厩務員や調教師に酷い暴行を受けた結果、凶暴化したヘイロー……つまり、
そんな血を引くあたしは、バイオレンスという面ではこれに当て嵌まらなかったので、義隆さんや生産牧場の人はめっちゃ首を傾げていたらしい。そりゃ当然か。何と言っても
おっと、話が逸れた。
義隆さんが「ハルナとハルウララに何かされたら今度から本気で取材を一切NGにしなければ」と息巻いており、マスコミに対して辛辣なのも正直よーくわかる。
前世でも、偏向報道は酷かったし、ジャーナリズムを掲げれば何でもありと言わんばかりに勝手なことをして、そのくせ自分たちに都合の悪いニュースは「報道しない自由」発動という腐りっぷり。おまけに国営メディアは自分たちが楽に甘い蜜を吸いたいがために受信料を徴収しようと一般家庭に脅迫まで働くという、「(あんたたちを)好きになれる要素なんてある?」と逆にメディアに問いかけたくなるレベルで酷かったし。
「というか、今回は志室さんを信じて応じただけだ。でないと前に牧場に押しかけてきたT⚪︎Sの連中みたいに叩き出さねばならなくなる」
「あれは酷かったよね。クマ対策用の柵を勝手に壊されたりしてたし……それで警備をお願いしたんだっけ?」
「前田牧場さん御用達の警備会社だね。向こうもマスコミに困ってたみたいで快く相談に乗ってくれたよ」
うっわ、この世界でもやらかしてんのT⚪︎S……。
前世でもバーネットキッドの馬主さんへの押し込み強盗めいた取材なんてやっちゃったもんだから、馬主さんと出版社などなどが徹底抗戦に出た結果、裁判でボロ負けしてたのに。
この世界でもゴミはゴミか……。
ゴミで思い出したが、「紙屑の買い手はあるが人間の屑は買い手がない」とは誰の言葉だったか*4。
マスコミの特に酷い連中ってのはこの言葉に当て嵌まるのが多いかもしれない。
しかし、美鶴ちゃんが言うようにあの志室さんなら、道理を弁えたプロとしての行動をしてくれる……と思うことにしよう。
ちなみに、何でよりによって今日取材なのかといえば、志室さんの予定が空いてるのが今日ぐらいしかなかったからだ。仕方ないね。コント王は忙しいのだ。
……まぁ、でも、今更言うけどウチの牧場って、何年か前から落語家の人がたまーに見学に来ていたりするらしい。
例えば、あたしのことを番組の大喜利ネタに使ってくれたピンクの着物のおじさんとか*5、そのお師匠さんで馬面をネタにされてた司会の人とか。
特に後者に至っては何故かクロススキッパーさんによく会いに来ていたらしいけど、詳しくは知らない。
そんなこんなで暫くすると、何台か車がやってきた。
すると、カメラやら機材やらを下ろして撮影準備に入る人たちとか、バスもやってきて、人がゾロゾロと降りてきた。
その中に、何というか、いかにも「只者じゃない」というオーラが漂う優しそうなおじさんがバスを降りてきた。
「はーい、本番行きます。3、2、1……キュー!」
↓以下、テレビ放送時の内容です。
カメラが回り始めると牧場の一角で、オーバーオールを着た中年の男性と、黒松親娘との会話が始まった。
「黒松義隆さん?」
「はい。初めまして志室さん」
「初めまして。今日はよろしくお願いします」
義隆と志室が握手を交わした直後、美鶴が志室に声を掛けた。
「志室さん、お久しぶりです!」
「おぉ、美鶴ちゃんか。久しぶりだね、元気だったかい?」
「あ、はい! お陰様で」
「いやぁ、ごめんね。……黒松さんにもご迷惑をお掛けすることになったみたいで。ビックリしたよ、新聞とか競馬中継とか見させてもらったけど、今日だったんだね? 本当はご家族水入らずで過ごしたい日のはずなのに」
テロップ《※2012年2月29日収録》
「いえいえ、志室さんもお忙しいでしょうから仕方ないですよ。……むしろ、ハルナは人と触れ合ったり一緒に楽しんだりすることが一際好きなお馬さんですからね。きっと志室さんが来てくれて喜んでくれると思います」
「ほぅ、本当かい? あ、じゃぁ、噂に聞いていたけどもしかしてハルノウラワ……ハルナちゃんって僕も呼んでいいかな?」
「はい」
「じゃぁ。その……ハルナちゃんが新聞を読める馬っていうのは本当?」
「実はそうなんです」
ここでナレーション。
【なんと。あのハルノウラワの噂はどうやら本当らしいです。その真偽を確かめるため馬房にお邪魔させていただくと、さらに驚きの光景が待ってました】
「お。この子はもしかしてハルウララですね?」
「はい。ハルナちゃんの隣がハルウララの馬房なんです」
【目の肥えた志室園長は馬房の名前を見る前にハルウララを見つけてしまいました。そうです。高知で大活躍したあのハルウララが何とここにいました! テレビの前の皆さんもご存知の通り、ハルノウラワのお母さんです】
「そして、馬房を一つ挟んで、ここにいます」
「おっ!?」
「ヒヒヒンッ♪」
【空の馬房を一つ挟んだ先に、いましたいました。ハルノウラワです。早速園長に気付いたようで近寄ってきました】
「お。おぉぉ。凄く人懐っこい子だね?」
「えぇ。人と触れ合うのが好きな子なんです」
【ここでVTRをご覧ください。これは2010年の12月に行なわれた浦和競馬場での映像です(視聴者提供)。さらに去年8月の大井でも、今年1月の中津でも、パドック近くの広場でハルノウラワのグリーディングが行なわれていたんです!】
「いやぁ、現役の競走馬とは思えないぐらい大人しい……」
【実は競走馬って本来は気性が荒い子が多いんです。普通はこんな風に現役競走馬がグリーディングなんて出来ないんですよ? なのにハルノウラワだけは特別で、グリーディングの時は老若男女問わずにファンサービスの連続! さすが浦和のアイドルホースは伊達じゃなかった……。そして、ハルノウラワのグリーディングは遂に中央競馬にも上陸。2月の東京競馬場でも期間限定でイベントが実施されていたんです!】
「で。まぁ、その後フェブラリーステークスには出させて頂いたんですが……」
【結果は6着でした。しかし、ハルノウラワの活躍を一目見たい、あるいは地方競馬場でハルノウラワを見た人、触れ合った人などなどが、ハルノウラワが初めて中央の競馬場を走ると知り。2月19日、第29回フェブラリーステークス開催当日、東京競馬場には大勢が詰め掛けました。その数、な、なんと約11万人! これ、フェブラリーステークスの歴代観客動員数を大きく更新する大記録になっちゃったんです!】
「ハルノウラワ効果、ってやつだっけ?」
「何故かそう呼ばれちゃってますけど、お客さんが多ければ多いほどハルナは喜んでくれます」
「それで次に船橋で走るって?」
「はい。あ、そうだ。ここで宣伝を一つ。……う゛ぅっうん。ハルノウラワの次走は5月2日に船橋競馬場で開催のかしわ記念です、どうか応援してあげてください」
咳払いをしてちょっと緊張した声色で美鶴はかしわ記念の宣伝をサラッとやってのけた。
テロップには、
《かしわ記念(Jpn1) 5月2日17時15分発走予定 詳しくは番組表をチェック》と出ていた。
【美鶴さん宣伝ご苦労様です。……すると、ちょっと目を話した隙にハルノウラワがあるものを園長に持ってきました】
「え? 色紙?」
「あ、もしかして……」
【なんと色紙です。美鶴さんからペンをお借りして園長がサイン】
ハルノウラワを中心に、左にサイン済み色紙を持った志室園長、右に美鶴と義隆が立った状態で写真を一枚。
【園長からサインを頂いたハルノウラワは凄く嬉しそうでした。そしてこの日、2月29日といえば、ハルノウラワの誕生日だったんです】
ハルノウラワのバースデーケーキを運んでくる美鶴の映像が流れる。
【バースデーケーキを見たハルノウラワは興奮を隠しきれない様子でした。このバースデーケーキ、実は美鶴さんの手作り。どら焼きを積み上げた「一生どら焼き」をベースに、所々モナカや白鷺宝などの和菓子で飾られていました】
「「「「「ハッピーバースデー・ディア・ハルナちゃーん、ハッピーバースデー・トゥー・ユー」」」」」
「おめでとー」
ここでテロップが出る。
《ハルノウラワの大好物:和菓子》と。
【美鶴さんや黒松さんや園長、その他牧場スタッフさんたちにも祝われながら、ハルノウラワは大好物の和菓子ケーキを堪能したのでした。……さらにここで、ハルノウラワの許可を頂いた園長と、撮影スタッフの代わりにハンディカムを手にした美鶴さんが馬房に入ってみた。すると、驚きの光景が待っていたんです】
ちなみに、ここから馬房滞在中は、
※この映像は馬との信頼関係の元で撮影されたものです。本当は危険ですので絶対に真似しないでください。
というテロップが出たままになっている。
「馬房の中にお邪魔しまーす……わぁ、凄い」
【先程園長から頂いたサイン色紙を馬房に飾って貰ったハルノウラワはご満悦の様子でした。しかし、彼女の馬房にはそれだけではなく、新聞の切り抜きや写真がいっぱい飾られていました。実はハルノウラワは普段こんなことをしているんです】
ここで、VTRが流れる。
それは野田トレセンの馬房の中で、口に咥えたトングを器用に使って競馬新聞を捲るハルノウラワの姿が映像としてバッチリ残っていた。
それを見た志室も驚く。
「本当に競馬新聞を読んでいる……!?」
【しかも、口に付けたトングを使って器用に新聞のページを捲っています。園長も一緒にいたスタッフさんたちもこの映像にはビックリしました】
「……じゃぁ、この写真や新聞の切り抜きも?」
「はい。ハルナが前に読んで気に入った記事を私や向こうのスタッフさんが切り取って、こうしてスクラップブックみたいにして飾ってるんですが、時々ハルナも読んでるんですよ?」
「へぇー……ハルナちゃんって文字を理解しているんだなぁ……」
【前代未聞です……人の言葉を何となく理解できるお馬さんは居たかもしれませんが、こんな風に新聞記事まで読めるサラブレッドは史上類を見ないかもしれません。そんな彼女のお気に入りの記事や写真の中にはこんなお馬さんまでいました!】
「オルフェーヴル……オルフェーヴルだ? 去年のクラシック三冠を全部勝った馬だったよね?」
「そうですね。実はハルナと同期です」
「へぇー……」
テロップ
《2010年の兵庫ジュニアグランプリで対戦経験あり》
「芝とダートでお互いに戦場は違いますけど、ハルナは結構オルフェを気にしているんです」
「それはまた何で?」
「実はハルナって、元々生沿さんが乗っていたんですけど、その生沿さんがオルフェに付きっきりになっちゃって」
「へぇー、あの生沿騎手のお手馬だったんだ?」
「はい。その後、福延さんに乗り替わりましたけども。最初の頃こそ息が合わなかったんですが、徐々に慣れていって漸く全日本2歳優駿で勝ち星を上げました。普段から落ち着いてて手の掛からない子で怒ることもあまりなくて……あ、でも一回だけとても怒ったことがありましたね」
「え?どんな時?」
「生沿さんがオルフェに乗った時なんて、オルフェは園田のパドックで暴れてたんです。その時、多分ハルナは、〈迷惑掛けちゃメッ!〉ってオルフェを一喝したんですよ?」
「え、えぇ!? そんなことが起きたんですか!?」
テロップでは、
《※生沿健司騎手》と出ている。
ついでに2010年兵庫ジュニアグランプリのパドックでの様子もVTRで流れる。
「実はそうなんです。ついでに、そのレースこそオルフェには負けちゃいましたが、オルフェが生沿さんを振り落としたのを見てハルナは怒っちゃって……」
その後流れたVTRは、兵庫ジュニアグランプリで1着入線後、オルフェーヴルがはしゃいだ様子でロデオのように跳ね回り、騎手の生沿をダートコースに振り落とした様子と、そんな生沿を心配して顔を舐めたハルノウラワと。
その光景に固まった様子のオルフェーヴルに、間髪入れずハルノウラワが嘶き、驚いて怯えた様子のオルフェーヴルが園田のコースに空馬で駆け出していき、ハルノウラワが追いかけ回すというあの日の様子がバッチリと映っていた。
【世間一般では、「兵庫ジュニアグランプリ第二レース」とか言われてるらしいです……ちなみに兵庫ジュニアグランプリと言えばオルフェーヴルだけでなく、こんなお馬さんとも出会っていました】
「リアライズノユメ? 足利のお馬さんだよね?」
「はい」
「ハルナちゃんにとってのライバルだね」
「ライバル……確かにそうなんですが、同時に親友って感じもしますね」
ここで東京競馬場のフェブラリーステークス前のパドックでの映像をVTRとして流す。
その映像では、ハルノウラワとリアライズノユメが並んで立っていて、お互いに目を合わせたり、少し嘶いたり、さらにお互いに鼻を付き合わせたりといった仕草を見せていた。
【リアライズノユメとハルノウラワの関係性は美鶴さんの仰ってる通りなのかも? 二頭の対戦経験は園田だけでなく、その後、福山や浦和でも展開され、フェブラリーステークスでは中盤まで二頭の独走状態が続いてたんです】
「これは……ええぇと……」
「あ、セイウンプレジャーですね。浦和でハルナの先輩だったお馬さんですよ。ハルナにとっては先生や先輩みたいな存在かも」
「へぇー……」
【浦和のセイウンプレジャーといえば、去年高崎で代行開催されたG3さくらんぼ記念を9歳馬として初勝利し、浦和のオーバルスプリントでもハルノウラワやリアライズノユメと競り合っていました。さらにさらに!】
「オオエライジンって、あの兵庫の?」
「はい」
【なんと「園田の雷神」ことオオエライジンの写真もありました】
「実はオオエライジンとハルノウラワってお父さんが同じなんです」
「え、そうなんだ?」
「はい。ハルナにとっては弟?みたいな存在かなと思います」
テロップには、
《オオエライジン 父・キングヘイロー 母・フシミアイドル》
《ハルノウラワ 父・キングヘイロー 母・ハルウララ》の二行が出ている。
【その他にも写真がいっぱい。トランセンドに、エスポワールシチーに、ワンダーアキュート。さらに少しマイナーなところで言うと高知のグランシュヴァリエもありました】
「新聞が読めて、他のお馬さんの写真も飾ってるなんて、こんなお馬さん見たことないよ」
「ですよね。この子、凄く賢いだけじゃなくて、レースも好きな子なんです」
「あ、じゃぁ、写真が飾ってあるのは……」
「ライバルたちを意識したいんだと思います。もっと言えば、一緒に走るのが好きみたいです」
「へぇー……凄い子だねぇ」
そうして志室は美鶴と共にハルノウラワの馬房を後にした。
はぁー……緊張したー。
前に比べたら新聞読んでるところとか馬房の中を見られることとかは別に恥ずかしく無くなったけど、やっぱ芸能人との共演は緊張しちゃうよ。
〈ハルナ、一体どうしたんだ?〉
〈……あれ?プレジャー先輩?何でここに……あ、そっか〉
撮影がひと段落して放牧されたら柵一つ向こうの先に見覚えのある鹿毛のお馬さんがいて、よくよく見たらセイウンプレジャー先輩だった。
何で彼がここにいるかと言えば、
今更驚くようなことでもないが、いつここに来るかは聞いてなかった。
〈へー……テレビの取材が来たんだ?〉
〈そうなんです〉
〈はー……人気者は羨ましいよ〉
〈あぅ……〉
その一言には棘があるようにも感じたけど、あながち否定できないのが辛いところ。
あたしばかりがスポットライトを浴び続けた弊害かもしれない。
〈にしてもお嬢さん、お前さん、死んだ魚のような目をしてるぞ?〉
〈……へ? ……やっぱりわかっちゃいます……?〉
〈何年競走馬やってたと思うんだ? そんな疲れた顔してる奴ならごまんと見てきた〉
さすがベテラン。別に隠していたつもりはないけど、あたしが疲れているのを一目で見破っちゃった。
〈お前さんはまだまだ若い。だが、競走馬ってのは体が資本だ。若いからってあまり無理や無茶はするなよ?〉
〈……なるべく気を付けます〉
〈おいおい……まぁ……うん……仕方ないか。たまに自分を追い込まなきゃならん時もあるだろうしな〉
同じ競走馬として先輩でもあるプレジャーにも覚えはあるのだろう。
特にG1や重賞を前にした時はギリギリまで
しかし、その後、プレジャー先輩が小声で言ったことをあたしは聞き逃さなかった。
〈……俺みたいにはなるなよ?〉
〈え……?〉
〈……おっと、お客が来たぞ?〉
その意味を問い質そうとした時、撮影カメラを持ったスタッフさんたちと一緒に、園長さんが美鶴ちゃんと義隆さんを伴って放牧地にやってきた。
「あそこにいるのがクロススキッパーと、ハグロミッシーレの親子ですね。ちょっと離れたところにオースミキャンディもいます」
「ほー、あの子が今年デビューの?」
「そうなりますね」
あたしたちがいる放牧地から柵を三つか四つ挟んだ先では、確かにサラブレットの親子が佇みながら牧草を食んでいた。
片方はプレジャー先輩並みにお歳を召してるものの尾花栗毛で美男子のようなお馬さん。……あれが噂に聞いてたクロススキッパーか。っていうか、こんな近くにいたん……!?
何で気付かんかったんだろ……。やっぱあたし疲れてるかも。
そのイケオジのお馬さんの周りを走り回ってる鹿毛っぽい2歳馬ちゃん、あれがハグロミッシーレくん……ちゃん? どっちかは分からないけど可愛いなー。
そんな二頭を優しい眼差しで見つめる栗毛のお牝馬さん。だいぶお年を召しているように思えるけど、あれがクロススキッパーのお母さんであるオースミキャンディか……。
あたしが知ってる世界では1998年か99年の日高大洋牧場の火災で亡くなっていたのに、この世界では命を繋いでいる。
遠目から見てもそんな歴史があったと信じられないほどにまだまだ元気な姿を見せているのは何だか不思議な気分だ。
「この子がセイウンプレジャーですね」
「おぉ。さっきハルナちゃんの馬房に写真が飾ってあった子ですね?」
「はい」
〈ぉん? おっさん、ニンジンくれるの? ありがとさん〉
「食べた食べた。良い子だ良い子だ」
「ヒヒンッ♪」
「あ、ハルナちゃん、ここにいたんだ」
わざわざここまで来てくれた志室園長にあたしはファンサする。
確かに疲れちゃいるけど、ファンサ出来る程度の体力は残ってるもんね?
それで園長の顔を舐め回すんだけども、次の瞬間、園長はカメラスタッフに何か合図を送った。
「……はい、オッケーです」
あれ?撮影終わり?
「うーん……ハルナちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「ヒンッ?」〈え?〉
「どうしました?」
「え、うーん、何かね? ハルナちゃん、きっと疲れていると思うんですよ」
「!」
「え? 分かるんですか?」
「まぁ、顔を見るとちょっとね。さっきに比べるとちょっと元気がない気がするし」
「あぁぁ……すみません園長……」
なんと……園長、あたしのコンディションを見抜いてカメラを止めたの?
〈この人間のおっさんの目は騙せなかった、ってことだな……〉
〈あははは……〉
ここは園長さんのご厚意に甘んじてちょっと休むことにしますかね……。
なお余談だけど、この時のあたしの寝姿はバッチリとテレビ放送されることになりましたとさ……。
おぉぅ、恥ずかしぃー……。
まぁだ中東荒れてるし……、ネットでは某絵師さんが引退したり、某牧場での痛ましい動画が出回ったりと3月も騒々しくもそろそろ後半ですが、自分も気付けば転職先の会社で働き始めてそろそろ3週間経ちました。
「まだまだ学ばなきゃならないことがいっぱいだ」。そう思ってた矢先に急性胃腸炎でダウンした……原因は何だろうか……夕飯の食べ合わせが悪かったか、ストレスか……皆様もどうかお身体には気をつけてください。
園長が登場するパートはテレビ放送された時を思い描きながら書いてみましたが、文体や表現が安定していないかもしれません、申し訳ない。
ちなみに今回のナレーションのイメージは中⚪︎貴一さんとか、『カーS⚪︎S』のナレーションの人とかが混ざってる感じです。
あと、今回の話の中でサラッと言ってますが、前田牧場は零課さん作の『ハジケリスト世代だろ!』において主人公馬が生まれ育った牧場で、あちらの話と微妙にリンクしています。
この度は使用許可をいただきまして、誠にありがとうございました。