『活動報告』でリクエスト募集中でございます、よろしくお願いします。※2026年4月19日に締め切ります。
そして、
(↓後書きに続く↓)
2012年4月21日午後7時。
かしわ記念まで残り2週間を切ったタイミングで、ついに「それ」はお茶の間に封切られた。
当初競馬関係者たちの反応は、
「たかがテレビ番組だろ?」
「志室けんがMCのあの番組はたまに見てるがそんなに珍しいものが映ってたのか?」
「特集? あんまり興味ないなぁ……」
そんな冷めた感じの者が大半だった。
ド⚪︎フの大爆笑で一躍有名になったあの志⚪︎けんがMCを務める番組であっても、コント番組ではなくバラエティの動物番組となると毛色が違ってくる。
何なら馬と四六時中一緒にいて飯を食わしてもらっているので、いくら愛想を振り撒く動物の姿を見せられても、その裏のことをつい想像してしまうと楽しめない者もいるほどだ。
ところが、内容をちゃんと見た厩務員や調教師は内容に顔面蒼白、いや、驚天動地となる。
それを上司や同僚に見せてさらに驚かれる、という連鎖が続いた結果……。
間も無く笠松にもその波は到達した。
切っ掛けは、志室園長の番組が好きなとある若い厩務員がそれを見たことだった。
彼にとっては何気ない日常のルーティンのようなものであったが、番組が終わってみれば、信じられないものを見たと言いたげな表情を浮かべていた。
すぐに該当部分を巻き戻して見直した。
前述の言葉を敢えて繰り返すが、青年は「信じられないものを見た」。
しかし、彼がいくら巻き戻して見直しても見直しても、それは紛れもなく現実の出来事だった。
ここでちょっとメタな話をさせていただきたい。
その厩務員の青年が見た番組の内容だが、もし2025年の人々が見たら「どうせ生成AI動画だろ?」と冷めた反応をする人が大半となり、この映像は歴史の中に埋もれていたかもしれない。
しかし、この青年がリアルタイムでその特番を見た出来事は、これは2012年のことである。
2012年といえば、「スマホ」の代名詞としてiPh⚪︎neが産声を上げてからしばらく経つも、日本ではガラケーの勢いがまだまだ強い時代であり、日本国内でのスマホのシェアは約20%前後に留まっていた*1。
つまり、「スマホ? 何それ美味しいの?」とか言われていたし、何なら2026年のガラケー用の3G回線(iモードなど)が3月末で終了するなんて当時の人に話したらあまり信じてはもらえないだろう……いや、アナログ放送が終了した時期だったからギリギリ信じてはもらえそうだろうか?
まぁそれはともかくとして。
そんな時代に生成AIなんて形が出来るのは夢のまた夢だったはずだ。
実際、生成AIが急速に普及し始めたのは2022年以降であり、2012年当時に今のような精巧なAI生成の動画などテレビ局が作れるはずもなく。
即ち、志室園長の番組こと「志⚪︎どうぶつ園」で組まれたハルノウラワの特番の映像は、紛れもなく「本物」だったということになる。
青年はその番組をVHSに録画したものを翌日、自分の厩舎に持ち込んで上司の調教師に見せた結果、その調教師はまずテレビ番組のディレクターに許可を取るために電話し、驚くほどあっさりと許可を得た。
すると、すぐさま笠松の他の調教師や調教助手や厩務員たちを競馬組合の建物の会議室に一堂に掻き集めて、ビデオデッキ付きのテレビからその番組を「上映会」と称して流した*2。
最初は前述のように興味を示さなかったり、内容に爆笑したりしていた調教師や厩務員や若手たちも、次第に特集でのハルノウラワの行動に目が釘付けとなり、一部は顔も青ざめていき───その「上映会」が終わってみれば厩務員・調教師・調教助手、その他笠松競馬の関係者たちは口々にこう言った。
「おいおいこれマジかよ……?」
「馬の写真をあんなに飾ってるなんて……」
「レッドディザイアがウオッカの写真を馬房に飾ってた逸話は聞いたことあるが、ハルノウラワのそれは全然毛色が違う気がするぞ?」
「そうだなぁ……まるで、ポケカをコレクションしてるみたいな目をしてませんでした?」
「ポケカ?何だそれは?」
「ポケモンカードゲーム。トレーディングカードの一種ですよ。僕も昔はコレクションしてました」
「分からないでもないが……明らかに他馬がいないと寂しいとか、写真を集めてる感じではないな。競馬新聞の切り抜きといい、それを明らかに読んでる感じだぞこれは」
「つまり、ハルノウラワは日本語を理解してるのか……?」
「え、じゃぁ、俺が言ったあれもハルノウラワに聞かれて、しかも理解していたってことか……!?」
「!」
そう頭を抱えたのは北山厩務員。
ついでに福山での一件を思い出したのはその上司の柳井調教師。
ふと、柳井調教師はハルノウラワが自分に視線を向けてきた時の事が強烈なフラッシュバックを伴って脳裏に蘇った。
あの時、ハルノウラワは自分にどんな目を向けていたか?
怒りや挑発のような感情でも無ければ、怯えている様子もなく、敢えてその視線の正体を言語化するならば……。
(何だか悲しそうな顔をしていたような気がするが……何故? いや、どうしてだ?)
その答えについては一生分からないかもしれない。だが、ハルノウラワの一連の行動を見させてもらうと、あの視線にも何らかの意味があるような気がしてならなかった。
中には「ヤラセだろ」とか「(着ぐるみ的な意味で)馬の中に人でも入ってんじゃねぇか?」といった心無いような言葉を吐く者も少ないがいた。
いたが、「いや、あれはどう見ても本物だ」、「ヤラセではない」、「着ぐるみであんなことできるはずがない」、といった、さすがは生涯を馬に捧げてきたベテランたちはその羽虫の羽音のような雑音を口々に叩き潰してみせた。
ただし、「馬の中に人が(精神的な意味で)入ってるのはマジかもしれん」と同意した人物も少なからずいたのも事実である。
ところが、ここで誰かが零すかの様に言った。
「かしわ記念というと確かトウホクビジンの次走だったよな?」
「確かそうだった」
彼らの視線はある人物に向いた。
それは深刻な顔をして頭を抱えた、山川厩舎の山川久照調教師である。
彼の厩舎にいる一頭、トウホクビジンが件のかしわ記念に出走するためだ。
そのかしわ記念に出走するであろうライバル馬たちのレースや調教VTRなど、集められる限りの映像や資料には目を通してきたつもりだ*3。
特に、一番の強敵となり得る中央のエスポワールシチーやテスタマッタの調教VTRは穴が開くほど見たし、フリオーソやグランシュヴァリエ、メルキュールエリスなどの他の地方馬のレース映像は繰り返して見ていた。
ハルノウラワについても同様だ。むしろ、地方馬の中では最も脅威と言える存在だからこそ、全日本2歳優駿、ジャパンダートダービー、JBCレディスクラシックなどの主要なレース映像から、弱点を探そうと奮闘してきた。
先日着外に敗れたフェブラリーステークスなんかはまさにその研究材料として打って付けだった……はずだった。
ところが今日お出しされた内容には、そんな努力が消し飛んだかのような衝撃を受けた。
山川調教師は口にこそ出さなかったが、口を固く結んで心の中で冷や汗を垂らしていた。
(……)
人の言葉を理解でき、レースも好きで、ライバルや知ってる馬がいればテンションを上げてきて、しかも積極的に勝ちに来ようとする。
調教時の映像こそ入手できずとも、レースと同じぐらいのやる気で臨んでいるのだとしたら?
果たしてトウホクビジンがあの馬に勝てる要素はあるのか……?
トウホクビジンという馬について肯定的な話を語るなら、「(ゴーアレディが達成できなかった)地方競馬平地開催全場出走達成まであと一歩」という期待が語られる一方、否定的な話はより強い。
その否定的要素の話の一つとしては「トウホクビジンは走り過ぎ」とよく批判されていることが挙げられる*4。
理由は調教師である自分がよく知っている。
原因は南関東と一部を除いて大抵の地方競馬は賞金が安いことだ。
ハルノウラワのバックにいるのは、あの潤沢な資金を持つハグロ牧場だ。
かつて落ちぶれた早川牧場を買い取った酔狂な男がいて、その男をあの黒松家が資金面と財政立て直しで支援した結果が、今や日本のオーナーブリーダーの覇権でノースファームや社大ファームやノルドヒルズともやり合ってて、同じオーナーブリーダーとしてはライバルであるはずのメジロ牧場の立て直しの援助までやってのけた、あのハグロ牧場である。
それに対して、地方馬の馬主というのは大抵が零細企業みたいなものだ。
バックに強い力もなければ潤沢な資金があるわけでもなく。
現に今のトウホクビジンは出走手当目的で時には週一、もっと詰めると中3日や中4日で出走させることも珍しくない状態になっている。
それ故に上位争いに絡まず、もし競馬にブービー馬券があるなら何度その圏内にいたかわからないほどに着順は下から数えた方が早いことの方が多い。
そのレース運びに世間から文句を言われたことも一度や二度ではない───。
(……いや、俺は一体何やってるんだ?)
ふとここで山川は立ち止まる。
今考えるべきは負けることではない。
ハルノウラワの弱点は? トウホクビジンに勝機はあるか?
それを真剣に考えるべきは今まさにその時だというのに、何を後ろ向きなことを考えていたのだろうか?
思い出せ、トウホクビジンとはどんな馬だったか。
(トウホクビジンの持ち味は───男勝りでタフなところと、末脚、か……)
こうしては居られない。
山川調教師は立ち上がった。
「山川さん?」
隣に座っていた柳井調教師は何事かと尋ねるが、山川の答えはこうだった。
「……勝つ」
「え?」
「うちのトウホクビジンでハルノウラワに勝ってやりますよ、ええ! エスポワールシチーやフリオーソすらもちぎり倒して南関G1取ってやります!!」
会議室が静まり返った。
誰かがそれを嗤おうとした、しかし、それと同時に誰かが拍手をした。
嗤おうとした誰かさんの声はその拍手に掻き消され、それどころか拍手の数が増して行った。
「よくぞ言った」
「山川さんがやる気になった!」
「うちの馬を併走に使ってもいいですよ!」
その宣言は、彼自身への発破であり、そして、これからハルノウラワと競り合うことになるであろう他の厩舎の調教師たちに、かつて忘れていた情熱に再び火を灯すきっかけを与えることになった。
ちなみに、件の番組プロデューサーがあっさりと許可を出したのは、笠松競馬組合が問い合わせた時点で既にもうJRAからも全国に点在する地方競馬場に所属する厩舎や関係者やスタッフなどから問い合わせが殺到していたために、プロデューサーはてんてこ舞いで対処に追われて忙しかったせいもある。なお、笠松はまだ幸運な方であり、問い合わせが全国から殺到した結果、電話回線がパンクし、笠松競馬組合はギリギリのところで許可を得られたという裏事情が知られるのは後の世になってからである。
2012年のかしわ記念の出馬表が出てきたので「笠松から出走してる馬いなかったかな?」と軽い気持ちで調べていたら、とんでもない馬が出てきた……。
戦績を見ていたら「ハルウララの113戦なんてまだまだだったんだな」とか思ってたら、まさかうちのゴーアレディの「サラ系レース開催競馬場全出走(あと一場残して未達)」という話が、トウホクビジンという実在馬に被ってくるなんて思いもしなかった……。
トウホクビジン……ウマ娘になって欲しいなぁ。
生成AIで今度作ってみようかな?