浦和の桜吹雪   作:Simca Ⅴ

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※この回のレースでは、バックグラウンド曲にこちらを聴きながらお楽しみください。



#26「雨のかしわ記念」

 ついにやってまいりました船橋競馬場。

 本日5月2日はかしわ記念!

 つまりあたしが出るレース!!

 

 船橋競馬場といえば、あたしはちょうど去年のこの時期、東京湾カップを走って勝ってた。

 今に比べるとあの時は慌しかったなぁと思う。

 あんな災害が起きたんだから仕方ないけれども、浦和の桜花賞が中止になった余波で福山まで遠征して若草賞を勝ってきて、それから南関東に戻ってきた一戦目がここだった。

 実は2020年代に入ってから船橋競馬場ってダートの砂質が変わってたらしく、それ以前と以後では全然足回りが違ってくる……らしい。

 正直言って違いがあまりわからない。

 元々競馬が好きだったアラサー女子としてレースを見てる側と、実際に馬になって走る側とでは改めて全然違うことを思い知らされた。

 

 しかし、前回は不甲斐ない走りをして着外に終わってしまったけど、今日は対策バッチリだ。

 今度こそ勝つぞ、おー!!

 ……って思ってたら。

 

〈見られてるなぁー……〉

 

 改めて今日の出馬表はこんな感じだ。


 2回船橋3日目第24回かしわ記念(Jpn1)

 ダート左1600m / 天候:雨/ダート:重

(枠番)(馬番)(出走馬名)(騎手)
(人気)

トウホクビジン山元朱音
11

クラーベセクレタ三本松泰人

グランシュヴァリエ森永太一
10

テスタマッタ石田泰成

トーセンアーチャー針田隆
13

フリオーソ尾崎啓太

ハルノウラワ福延悠一

シルクフォーチュン岡藤功太

クリーン元橋幸太

10メルキュールエリス益田紀文
12

11オメガイレブン四ツ木岱斗

12ボンネビルレコード鳩羽文雄

13バターネージュ三村弘典
14

14アースサウンド五崎佳輝

 

 出走するはずだったエスポさんがここを外れてさきたま杯に行き、そのまま帝王賞に向かう事になったらしい。

 それで手隙になった五崎さんだけども、今度はアースサウンドとのコンビでかしわ記念に殴り込んできたかぁ……マジか。確か今年のオーバルスプリント勝つのってこの馬だった気がするんだけども。

 そのアースサウンドの他には、トーセンアーチャーとクリーン、それにバターネージュってお牝馬さんを除くと、みんなあたしと対戦記録があるか、もしくは名前に見覚えのあるお馬さんばかり……。ちなみに、バターネージュに今回騎乗するのはカネマサコンコルドくんの主戦騎手でお馴染みの三村さん。カネマサくんとのコンビで2ヶ月ほど前のダイオライト記念を制していて、そのままコンビで帝王賞に殴り込むらしい。……あたしは高みの見物と洒落込もうかしらね?*1

 メルキュールエリスって確か、北関東秋華賞でユメちゃんと競ってたお馬さんの一頭だったような?

 ……その当の本馬(ほんにん)からの視線にあたしはようやく気付いた。

 

〈あの……何か?〉

〈あ、いえ。その……あなたがハルノウラワさんですか?〉

〈そうよ? もしかして……いえ、もしかしなくても、ユメちゃんからあたしのこと聞いてるのかしら? メルキュールエリスさん〉

〈あ、はい。初めまして。メルキュールエリスです……って、私の名前ご存知なんですか?〉

〈もちろんよ。北関東秋華賞の映像を穴が開くぐらい見てたから〉

〈あぅあのレースの……ということは、私の着順も……?〉

〈もちろん。着外だったわよね? 出遅れてその後慌てたのが敗因と見たけど、合ってるかしら?〉

〈うぅ……面目ない……私なんかがまさかこんな大舞台に立つなんて考えたこともなかったのにごめんなさい……〉

〈何で謝るのよ?〉

〈え?〉

〈秋華賞が6着だったから何だっていうの? あたしだってこの前のフェブラリーで生涯二度目の着外をやらかしたわ。……ついでだから、この言葉を教えてあげる。「明日は明日の風が吹く」ってね。秋華賞は秋華賞、フェブラリーはフェブラリーで、両方とももう過去の出来事でしょ?〉

〈え、えぇ、まぁ、そうですが……〉

〈だったらしょげてないで。今これからのレースに集中しなさいな〉

 

 まぁ、「明日は明日の風が吹く」ってのは、幼い頃に見たデジ⚪︎ンのエンディングの受け売りなんだけどね*2

 

 あたしがエリスちゃんを励ましていた姿に怪訝な顔をして視線を向けてきたのは、最早お馴染みのグランシュヴァリエさんだった。

 

〈……何か?〉

〈お前ってよくわからん奴だな〉

〈はい? それってどういう意味ですか?〉

〈いやお前、あいつも俺も同じレースで走ること自覚してるんだろ?〉

〈もちろんですよ? それが何か?〉

〈あんな言葉を掛けるなんて、敵に塩を送るようなもんじゃないか?〉

〈そうですかね?〉

〈ライバルのメンタルを気にしてわざわざ持ち直すようなことを言うなんて。放っておけばいいだろうに〉

〈あたしは別に正々堂々全力で戦いたいだけですよ〉

〈……会話を耳に挟んだが、あのエリスっていう嬢ちゃんはリアライズノユメの知り合いか?〉

〈同じ足利所属の同郷らしいです〉

〈つまり、お前の親友のさらにまた知り合いってことか〉

〈そうなりますね……何が言いたいの?〉

〈お前っていつもそうだな……〉

〈だから、何がですか?〉

〈いや、お前、そんなん繰り返してると後ろから()()()()()?〉

〈へ?〉

 

 ()()()()なんていつものことじゃないの?

 

〈気をつけろよ。天然タラシ〉

〈な、何おぅ!?〉

 

 違った。

 ()()()()って言ってたのかシュヴァリエさん。

 ……ってか「天然タラシ」ってどういうことよ?

 それだとまるであたしが某悪役令嬢みたいじゃないの!?*3

 

〈全く、ご苦労なことね〉

〈お前さんはいつも騒がしいなぁ……〉

〈って、お前、JBCクラシックの時にパドックにいたやつじゃないか?〉

〈あ、こんにちは、フリオーソさん、オメガイレブンさん……に、セクレタ〉

 

 入れ替わり立ち替わりでフリオーソさんとオメガイレブンさん、それにクラーベセクレタと鼻を突き合わせた。

 オメガイレブンさんのゼッケンはその名の通り「11」かぁ……。

 

〈……オメガイレブンさん〉

〈オメガでいいぞ。というか、お前、ニンゲンのシンブンとかいうのを読めるって本当なのか?〉

〈えぇ。それでちょっと……〉

〈あぁ……あれをやっぱり知ってるか〉

〈はぁ? オメガ、どういうことだそれ?〉

〈オレ、このレースで引退するわ〉

「ビヒヒンッッ!?」〈はぁ何だって!?〉

 

「おっと、どうしたフリオーソ、落ち着け。よしよし……」

 

【フリオーソ、何かに驚いたかのように一瞬仁王立ちしましたが、すぐ元に戻りました】

【何があったのでしょうか?】

 

〈お、お、お前!? そんな話聞いてないぞ!!?〉

〈悪いなフリオ……。だけどなぁ、シャッターが引退してから全然張り合いを感じなくなっちまったんだ……〉

〈シャッターって、シャッタードスカイのことか!? だとしてもお前……〉

〈種付けが云々とかいう難しい話は知らん、もう成るように成れだ〉

〈……〉

 

 オメガさんが少しやけっぱちになってるように感じた。

 フリオーソさんもあたしもこれには正直言ってお通夜状態になってしまった。

 ……けれども、オメガさんがこのレースの後、瀬名茂三さんに輓馬や乗馬として買い取られることをこの時のあたしたちはまだ知らなかった。

 知ってたらなんと気が楽だったことか。というか「お通夜状態になってた時間を返せ」と言いたくなった、主にフリオーソさんが。

 クラーベセクレタは特に感傷に浸ることもなく、ただただその事実を淡々と聞いている程度だった。

 

 あたし? あたしはというと、落ち込んでる暇もなく、次のエンカウントが待っていた。

 

〈……しばらくぶりね、ハルノウラワ〉

〈あ、こんにちは。トウホクビジンさん〉

〈何しょぼくれてるの?〉

〈あぁ、まぁその……気にしないでください。前回*4は対戦ありがとうございました〉

〈……どうも〉

 

 あれ?何だか素っ気ない?

 ……いや、でも別に気にする必要はないか。

 だって実際にお話しするのは初めてだったし。

 というか、前回JBCレディスクラシックで対戦したことなんて昨日新聞を読み返してやっと思い出した。

 でも、何だろう。今のトウホクビジンさんの刺すような眼差しは……?

 


 

 ちなみに、この頃のかしわ記念はまだナイターじゃなく、夕方の薄暮に開催していた。

 けれども、そんなの関係ねぇ!……これそういえば小島よしおのギャグだったんだよね。

 ……おっと、話が脱線した。そうじゃなくて今日の開催はといえば、実は雨!

 つまり薄暮だの夜だの関係なく空はどんよりとした雨雲に覆われていて、周りも心なしか暗いし。あたしのギャグが滑ったせいじゃないと思いたいけど初夏のはずが何だか寒いしで。

 午後からずっとシトシトと降ってて、パドック入りした時は一時的に止んでたけど、これからレースって時にまぁた降ってきた……。

 嫌だなぁ。雨って気が滅入ってくるからさっさと止んでほしいなぁ。

 足元もビッチャビチャだし。

 もうこういう日はちゃちゃっと走って、さっさと結果出して、とっとと帰って風呂入って寝る!に限る。

 ……と思っていたら。

 

【奇数番から枠入りします。7番ハルノウラワ、気合いの入ってる様子です。1番トウホクビジン、13番バターネージュ、3番グランシュヴァリエ、9番クリーン、5番トーセンアーチャーに、11番オメガイレブン。続きまして偶数番は、2番クラーベセクレタ、6番フリオーソ、地元勢が先に入りまして、10番メルキュールエリス、12番ボンネビルレコード枠入り……あぁっと。13番バターネージュがゲートで暴れました!】

【枠入りを中断します。一旦全馬、ゲートから出されます】

【お知らせいたします。13番バターネージュは発馬機内で暴れたため、枠入りを中止し、馬体検査を行ないます。発走時刻が少々遅れますのでご了承願います。なお、検査の結果は分かり次第お知らせします】

 

 ちょっとぉ、マジ?

 折角ゲート入りしたのにやり直しとか。勘弁してよー……。

 晴れてるならまだしも雨で足元も身体もビッチャビチャなのにー。

 

【ご来場の皆様にお知らせします。船橋競馬第10競走13番バターネージュは、馬体検査の結果、異常が認められたため、競走除外となります。繰り返します。船橋競馬第10競走の競走除外馬についてお知らせします。13番バターネージュはゲート内で暴れた際に鼻を負傷し出血したため、競走除外となります。なお当該馬の投票馬券はレース結果確定後に返還いたします】

 

 あららー……。

 こちとら15戦ぐらい走ってるし、何ならパドックで見てる側になった時でさえこんなことは起きなかったのに。

 やれやれ……まぁ、鼻血のまま走ったら呼吸困難になったりして危ないから仕方ないし、かといってそこまで重篤ではないのは救いはあったか。

 さて、仕切り直して行きましょうかね───。

 


 

【───今最後に14番アースサウンドがゲートに向かいます、13頭全頭枠入り完了。2012年、第24回かしわ記念───】

 

 ───ガチャンッ、

 

〈!?〉

 

【───スタートしました、おっと、ハルノウラワが出遅れた!! そこで早くも先頭に立ちましたのは今日の一番人気6番フリオーソ、船橋の星。続きます8番シルクフォーチュン、さらに今日がラストランの11番オメガイレブン───】

 

〈おっとヤバい……〉

 

 正直言って焦りそうになったけど、ここは落ち着いて深呼吸しながらレースに入る。

 後ろから四番手か五番手の位置に来てしまい、あたしの横にトウホクビジンが並んでいた。

 

【四番手に4番テスタマッタ、後ろから10番メルキュールエリス、12番ボンネビルレコードの順に追走】

 

〈あぁ、やらかした……でもレースは始まったばかり!そうでしょ?〉

〈……〉

 

 あたしがやや大きな独り言を溢しても、トウホクビジンは不気味なぐらい無口だった。

 ……いわゆるこれは「話題を振ろうとして反応してもらえず気不味い思いをしそうなシチュエーション」に近いが、今のあたしは別に気にしない、何故なら今の独り言は挑発のためにわざと大きな声で言ってみただけだから。

 だが、完全に無視されたり聞き流されたりしたわけではない。その視線は明らかにこちらをマークしていることがわかる。

 ……これはもしかして来る?

 

【少し開いて2番クラーベセクレタ、14番アースサウンド。7番ハルノウラワ、今日は後方五番手辺りからの追走、さらに1番トウホクビジン、3番グランシュヴァリエ、5番トーセンアーチャー、最後尾に9番クリーンという状態で第1コーナーに入って行きます。依然として先頭はフリオーソ、ここで二番手に上がってきたオメガイレブン、ラストラン11番のゼッケン。三番手に8番シルクフォーチュン、続きます10番メルキュールエリス、外からクラーベセクレタ】

 

 レースは間も無く中盤。

 出遅れをここでそろそろ取り返したいところだけども……。

 

「まだだ、待ってくれよ……」

 

 あたしが「行っていいか」という意思表示でハミを噛んで顎を引くけど、福延さんは「待った」と言ってきた。

 そうこうしてる内に第2コーナーを超えて向正面の直線に入る。

 さて、ここでどう仕掛けるか。

 思えば、差しや追込の状態で挑むのは全日本2歳優駿のとき以来……そういえばあの時も出遅れてたっけ。

 

【ここでアースサウンド前に行きます。内にクラーベセクレタ。それを見るようにハルノウラワとトウホクビジン】

 

 この局面でアースサウンドが前に行ったってことは、あたしが警戒されてる?

 今更か。

 今の所、あたしは後方から五番手でまだ待機してるけど、先行集団の筆頭から罵声のような嘶きが一瞬聞こえた気がした。

 耳を前に倒してよく聞いてみるとそれは、先頭で競り合っているフリオーソとオメガイレブンからのものだと気付いた。

 

〈フリオーソぉぉぉぉっ!! 勝負だ!!!〉

〈受けて立つぞ、来いイレブン!!〉

 

 まだ9馬身ぐらい離れてるけど先頭走ってる先輩方がバチバチにやり合ってて圧がめっちゃ凄い。

 普段のあたしなら「うわ近寄らんとこ」ってなるようなオーラが二頭(ふたり)から出てる。

 しかし、ここで怯んでる場合でも余裕もないので、再度福延さんに確認する。

 「行っていいか」と。すると、

 

「ハルナ、行くか? 行くか、よし!! 行け!!」

 

 鞍上の福延さんのお墨付きも貰い、ここであたしは仕掛けることにした。

 あたしは首を前に倒して風を切る体勢へ移行する。ウマ娘で言うならきっと前傾姿勢みたいな状態だろう。

 

「よし、いいぞっ!!」

 

 鞭がない福延さんからの声であたしも加速開始。前から垂れてきたシルクフォーチュン、ボンネビルレコードを交わしながら一路目指すは先頭!

 

【第2コーナー超えてオメガイレブンとフリオーソが依然として激しい先頭争い、ここで後ろから動いたぞハルノウラワ、浦和のアイドルホースが、船橋の星と撃墜王の僚機の争いに殴り込む! だが、その戦いにちょっと待ったを掛けたのは1番トウホクビジン、11番人気だが負けじと喰らいつく!!】

 

〈えっ、やっぱり付いてくるの……!?〉

 

【ここでアースサウンドも動いた、テスタマッタも前に行く、さらにクラーベセクレタも加速して乱入、南関にてハルノウラワ最大のライバルも追い縋る! さらにさらに虎視眈々とメルキュールエリス、グランシュヴァリエもチャンスを伺いつつ、混戦のまま第3コーナーへ突入! 先頭でフリオーソとオメガイレブンが競っているが、ハルノウラワが半馬身差まで詰めてきた、程なくトウホクビジン、クラーベセクレタ、アースサウンド、テスタマッタ、グランシュヴァリエ、メルキュールエリスも続くぞ!】

 

〈ハルノウラワ……! あなただけには、1着になれなくても、絶対に、勝つ……!!〉

〈!〉

 

 なるほど……最初からあたしをマークしていたってわけね?

 じゃぁ、その舞台まで付いて来れるかな!?

 

〈じゃぁ表彰台で会いましょう!〉

〈!!〉

 

【ここで馬群から抜け出し、先頭に躍り出たぞハルノウラワ、スタンド前直線に入って残り400!! 二番手にトウホクビジン、いや、クラーベセクレタ、メルキュールエリス、テスタマッタ、アースサウンド、グランシュヴァリエ。オメガイレブン後退してくがフリオーソ粘ってる粘ってる! 残り300mだが先行集団で激戦だ!! 先頭ハルノウラワだが後ろからトウホクビジン迫る! トウホクビジンかハルノウラワか、いやクラーベセクレタとアースサウンド、テスタマッタ、フリオーソ、グランシュヴァリエ、メルキュールエリス! 残り200m、どうだ、トウホクビジン届くか届くか、いや、ハルノウラワだ! 今ハルノウラワが先頭でゴール!! やりましたハルノウラワ! 前走の雪辱を見事に晴らしてG1級勝利4回目! 2着以下は混戦、着順の確定までお待ちください】

 

 ひゃー、焦ったぁー。

 危うくバーネットキッドの札幌記念みたいになるかと思ったぁ。

 にしても……、リプレイ動画がターフビジョンでデカデカと写ってるけど……うっわぁ。これは分からん。

 

〈はぁ……はぁ……はぁ……全く……〉

〈トウホクビジンさん……?〉

〈……ったく、私らしくない走りしといて結局あんたに負けてるなんて世話ないわよ……〉

〈え? 「らしくない」?〉

〈そりゃそうよ……私の馬主ね、出走手当を目当てで私をレースに出してることが多いのよ……だから普段はこんなに頑張らない、なのに、何か知らないけど急に山川のじいじがやる気になっちゃって……騎手も朱音さんに乗り替わってと……いつもと全然調子が違うっちゅーのにこんな走りしちゃって……〉

 

 あー、なるほど……競馬だとよくある話だわ。

 出走手当だけ稼ぐためにとにかく月3〜4回の間隔で走らされるパターンだ。

 これあたしの前世世界(2020年代)の中央でやったら間違いなくSNSが非難の大合唱で炎上しかねないリアルクソローテというやつ。思えば、ひと月のスパンで2回しかレースを走れないようにされてるアプリ版ウマ娘のクソローテなんてまだ可愛いレベルだ。

 そもそも地方って中央ほど賞金が高くなかったり、そもそも地方財政の財布の紐が硬く絞まってたりすることも相まって賞金を中々上げられなかったりといった問題も抱えていたっけ……南関東に限っても大井を除けば赤字運営だったらしいし。あたしの馬主さんがテコ入れした中津や北関東では改善傾向にあるらしいけど地方競馬全体で見ればまだまだ足りない。

 かく言うあたしの今生の母であるハルウララも8年間の現役時代で113戦も走らされていたのはそれが原因だったりする。

 まさに「馬車馬のようにこき使われる」とはこの事を言うのかもしれない。

 

 そんな無茶を繰り返してきたはずだろうに、いきなり周りがやる気を出した結果、あたしに追い縋ってきたわけ?

 

〈あの、大丈夫?〉

〈……何が?〉

〈身体の調子よ。連日連戦で特に脚を酷使してるだろうにあたしに張り合うなんて……〉

〈心配は無用よ……負けは負けだもの……〉

 

 すると観客席から歓声と嘆声が響き、着順掲示板を見ると、1着にあたしのゼッケン番号()が表示されており、さっきまで真っ黒だった2着以下の着順には、

 

【1着ハルノウラワ、2着トウホクビジン、3着にクラーベセクレタ、4着アースサウンド、5着はテスタマッタで確定しました。また惜しくも6着にグランシュヴァリエ、7着にフリオーソ、8着にメルキュールエリスという着順ですが、2着から8着は全てハナ差での決着です。雨の船橋競馬場、第24回かしわ記念を制したのは7番ハルノウラワです!!】

 

 その実況と共に観客席は歓声の声色にいつの間にか塗り替えられていた。

 

〈私とあなたの着差は……半馬身差? 私の完敗だわ……〉

〈トウホクビジンさんも凄かったというか充分に怖かったわよ……あれは誰が勝ってもおかしくないぐらいの乱戦だったし〉

〈……次会ったら私が勝つ〉

〈えぇ……その時はお手柔らかにどうぞ〉

 

〈ところで表彰台って何?〉

〈え!?〉

 

 ちょ、それ聞くの?

 トウホクビジンさんも何度かレースで勝ってるはずだから見たことあるでしょう?

 渋々ながらその質問に答えていたら、観客席にいる数人の競馬ファンたちの話が偶然だが耳に入った。

 

「な、なぁ、これって地味に凄いことが起きたんじゃないか?」

「あぁ、細井さんがメジロシクローヌに乗ってた時は帝王賞勝ってねーもんな?」

「ってことは……今日の山元朱音騎手の着順って……」

「あぁ。南関東に限ってもG1級で2着を記録した女性騎手って歴代最高着順じゃないか……!?*5

「かー。俺たち歴史的瞬間を観ちまったか……」

「今度は勝って欲しいな」

 

 マジ?

 え、そんな記録があったの?

 

〈あいつら何言ってるの?〉

 

 観客のドヤを聞いてても人の言葉を完全には理解出来ていないトウホクビジンさんは眉に皺を寄せるかのように不愉快そうな顔をした。

 悪口を言われてるのだと思ったらしいので、あたしが慌てて訂正した。

 

〈違くて違くて。全く逆よ〉

〈逆?〉

〈あそこにいるおじさん……おにいさんたちはね、あなたの騎手について「凄い」って褒めてるのよ〉

〈え!? ……それは本当に?〉

〈嘘ついてどうするのよ。本当の話だから〉

〈え、えぇぇぇぇ……朱音ちゃんってそんな凄い騎手さんだったの……?〉

〈あの人たちはそう言ってるよ? ……ついでに、あたしもあんな話を聞いたら、朱音ちゃん……さんがいつかG1級で1着を獲る姿を観てみたくなっちゃうじゃないの〉

〈……それは私のジョッキーをしてる時かもしれないわよ?〉

〈その時が来ても手加減はしないからね?〉

〈望むところよ!〉

 

 ちなみに、朱音さんが本当にG1級レースで勝利できたかどうか。

 結論だけ言えば「出来ちゃった」んだけども、それはまた別の話。

 


 

 2012年5月2日水曜日 船橋競馬 第10競走 

 第24回かしわ記念Jpn1 ダ1600m(左) 雨 重

 

 着順

1着・ハルノウラワ

2着・トウホクビジン

3着・クラーベセクレタ

4着・アースサウンド

5着・テスタマッタ

 

6着・グランシュヴァリエ

7着・フリオーソ

8着・メルキュールエリス

11着・オメガイレブン

 

*1
フラグ

*2
ハルノウラワが言及しているのは、2000年から2001年にかけてフジテレべで放送されていたテレビアニメ『デジモンアドベンチャー02』の前半クールED曲「アシタハアタシノカゼガフク」のことを指している

*3
????「ぶぇっくしょーい!」

*4

*5
地方競馬の女性騎手による南関東での最高着順は、2004年東京大賞典のリバートウショウ騎乗の小山田結菜騎手(4着)。




 今回のかしわ記念で引退レースとなったオメガイレブンは、前回の登場に引き続き、イナダ大根さまからお借りしたキャラクターです。
 この度は使用許可をいただきまして、ありがとうございました。

 冒頭でリンクを貼らせていただいたのは、Maicon Bortoti氏によるアレンジ・インストゥメンタルバージョンの 『Round and Round [Cover] 』。元の曲を彷彿とさせるテクノサウンドが使われている他、ピアノのサウンドが雨音にもマッチしていると感じました。

 あと、お恥ずかしながらほんの数年前までかしわ記念どころか船橋に競馬場があることすら知らなかったため、2012年当時の船橋競馬場の環境が理解不足で申し訳ない。
 
 ちなみに、史実にはこのレースにいたランフォルセ、ピイラニハイウェイ、シャアについてですが、彼ら(ウマ娘になったら彼女ら?)には別の見せ場を用意しています。
 ご期待ください。

 なお道中のくだりでちらっと出てくる某悪役令嬢。中の人がごちうさのシャロと同じ人がやってるのを初めて知った時はびっくりだったなぁ……(遠い目)
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