実はウマ娘編⑧の話を描いてたんですが、その最中に忘れていた話を一つ思い出した。
今回は時系列が前後しそうなので、後々ナンバリングをやり直すかもしれません。
あと、今回は曇らせ展開があります。
4月の中山
【日本全国ウマ娘レースファンの皆様、今年もいよいよ始まります。クラシック三冠の第一歩、第72回皐月賞(G1)。最も速いウマ娘が勝つと言われるこのレースに集うは18人のウマ娘たち。その中で最速を証明するのは一体誰か!?】
【今年も注目の優駿たちが勢ぞろい。その中でも注目を集めているウマ娘たちをご紹介しましょう。今日の一番人気は9番メジロクーパー、これまでメイクデビューも含めて4戦4勝という戦績。去年の新潟ジュニアステークスとホープフルステークスを勝ち上がって一早くG1ウマ娘として名乗りをあげています!】*1
ウマ娘レースのために作られた、パドックという名のお披露目のステージ上に、緊張した面持ちの芦毛のウマ娘が現れた。
銀髪のボブヘアーという一見すると地味な髪型であるが、前髪の左サイドに淡いピンク色のメッシュが入っており、外向きのウェーブが掛かった毛先で鮮やかなブルーが混ざり合う、個性的で繊細な色合いが目を引く。
また、緑色の右耳のカバーにはゴールドの星の装飾とリボンがアクセントとして添えられている。
それらの個性的なカラーの強さだけをこう連ねてみると、明るい快活なウマ娘を想像するかもしれない。だが、その場に現れた実際のウマ娘には、瞳は深く澄んだグリーンで、その表情にはどこか儚げな影が宿る。
その物静かなイメージを後押しするかのように、彼女が袖を通した勝負服にもメジロ家の伝統が現れていた。
トップスは白灰を基調としたジャケットスタイルで、ネイビー色の襟には薄紫色の
胸元には鮮やかなエメラルドグリーンのリボンタイを結んでおり、黄色のラインが走っていた。
ボトムスも同じくエメラルドグリーンのプリーツスカートで、裾にも繊細なラインがあしらわれている。
加えて、足元は黒の編み上げロングブーツで引き締めつつ、ヒール部分にグリーンの差し色を入れることで、全体の統一感と洗練された印象を演出していた。
(私が本当にこの舞台に立ってるなんて……!)
メジロクーパーは改めてこの舞台に自分が立っていることに半ば信じられない気持ちになっていた。
既にホープフルステークスを勝利しているとはいえ、かつて八大競走の一つに数えられていた皐月賞への出走というのは全く格が違うのだと肌で感じた。
しかも、メジロのウマ娘たちは、これまで皐月賞に挑んでは敗れてきた歴史を持つ(最高着順はメジロライアンの3着、直近で挑んだ著名なウマ娘といえばメジロブライト(4着)やメジロトラベラー(12着)などがいる)。
それ故に彼女のもう半分はメジロ初の皐月賞制覇という目標と重圧に押し潰されそうになっていた。
クーパーは俯きがちにフラットな周回路を歩いていた。
極度の緊張で、深く澄んだグリーンの瞳は今にも潤みそうだ。
黒の編み上げロングブーツを踏み出す足取りも、どこかぎこちない。
ただただ、中央の華やかな芝のクラシック戦線という高すぎる壁に、圧倒されていた。
「クーパーちゃん!」
「は、ハルナさん!?」
しかし、観覧席の最前列から聞こえる馴染み深い声に、クーパーの耳がピクリと跳ねた。
そこにいたのは、スマートファルコンとチームを組んで全国ツアーを行なっているはずのハルノウラワだった。
今から1年近くも前になるが、メジロクーパーが中央トレセン学園へ入学した際、入寮するはずだった美浦寮が震災により被災した。
学園側も、入寮するはずだったクーパーたち新入生が大いに困ったことは想像に難くないが、ここでクーパーが割り当てられたのは府中市内で中央トレセン学園から歩いて5〜10分という場所にあるマンションの一室。
その一室こそが、中央トレセン学園への特別留学のため入居していたハルノウラワの部屋であった。
ハルノウラワとメジロクーパーの出会いというのは、これが初めてではない。
茨城に住んでいたメジロクーパーは、物心ついた頃から北関東にあるレース場やトレセンに足繁く通っており、彼女にとって、足利・宇都宮・群馬のトレセン学園とレース場は自分の庭のような存在であった。
そして、件の災難に遭遇する数週間前、群馬トレセン学園の練習コースで中央トレセン学園へ行く直前のウォームアップをしていた時に、ハルノウラワと出会っていた。
クーパーは自身の人見知りで内向的な性格から当初はハルノウラワの存在に苦手意識を持ったものの、不思議なことにそれから間も無く2人は打ち解け、リアライズノユメやセイウンプレジャーなど、ハルナの友人や先輩たちとも気兼ねなく話せるような仲になれていった。
そして、その縁があったのはクーパーにとって幸運だった。
結局、美浦寮が復旧するまでの2〜3ヶ月をルームメイトとして過ごすことになったが、その出来事は上京したばかりで心細かったクーパーにとって新しい環境に慣れるまでの精神的な支えになった。
「真っ直ぐ前を見て!あなたなら勝てる!」
「ハルナさん……!」
ハルノウラワと、その隣には、幼馴染のオオエライジン、そして地方ダートの強豪エスポワールシチーや、三冠馬オルフェーヴルといった、錚々たる面々が共にエールを送っている。
さらに視線を移せば、現在の所属チーム[カペラ]のトレーナーや、フェノーメノ、サトノクラウン、トーセンジョーダン、ウインバリアシオンといった心強いチームメイトたちが、固唾を飲んで彼女の背中を見守っていた。
「みんな、私のために……」
胸元で揺れるエメラルドのリボンタイにそっと手を添える。まだ自信はない。卑屈な自分が消えたわけでもない。
それでも、これだけの人々が自分を信じてくれている。
……そう前向きに、レースへと臨もうとした矢先の出来事だった。
【現在二番人気の10番ケイジ! 去年の朝日杯を勝利して早くもG1ウマ娘の仲間入りを果たしています】
【逃げ・先行型のウマ娘としてその豪脚を小倉ジュニアステークス、函館ジュニアステークスで輝かせ、朝日杯でもその力を存分に見せつける横綱相撲を展開していました】
【身長は2mを超え、同じレースに出る他のウマ娘たちが異様に小さく見えてしまいますね……】
「……!」
パドックに姿を表したケイジに、お披露目を終えたメジロクーパーは愕然とする。
彼女が放つ強烈な覇気がパドックの空気を震わせていたからだ。
【おぉっと、ここでパドックに別のウマ娘が乱入! 14番ゴールドシップです!】
ところが、その威圧感をものともせずに「待ってました」と言わんばかりにパドックへ乱入してくるもう1人のウマ娘。
(ゴールドシップさんの身長は170cmを超えているはずなのに、そんな彼女ですらケイジさんに比べると小さく見えてしまうなんて……!?)
どの道身長が155cmしかないメジロクーパーにとってはどちらも巨人に見えるほどの圧迫感を感じた。
「よぉ、ケイジぃ!」
「おぅ、ゴルシぃ。待ってたぞぉ!」
【遠近法がバグってしまいそうです……ケイジとゴールドシップ。パドック上でレース前にいきなり勝負宣言! 何やら構えを取っています!】
戦績の面では今のところ無敗を誇るクーパーであるが、この2人の実力は、そんなクーパーの存在が霞んでしまうほどに今年のクラシック三冠で主役になり得る。まさしく二大巨頭の激突となるだろう。
「ふふん! 今日こそはあたしこそがハジケリストだって見せてやるぜ!」
「なによヒーローぶっちゃって! ヒロインは私のものよ!」
「なにかやってるー!? ちょ、レース前よ2人とも!?」
ゴールドシップからの宣戦布告に、ケイジはぎゃるんっという効果音……効果音?……みたいなもので反応と対抗をしてくる。
ケイジが所属するのはチーム[シリウス]。そのチームメイトとして応援に来たヴィルシーナからのツッコミもお構いなし、クーパーのことなど丸っきりなど眼中になく、2人だけの
「こいつでリタイヤだ! 芦毛真拳モーニングスター娘! さあ、ヒト耳アイドルの皆さんやっちゃってー! あたしをヒロインにするのよ!!」
ゴールドシップが、フレイル、モーニングスターを持ったアイドルらの波を召喚したかと思えば、
「なんの! ならばこっちは伝説的プロデューサー つんく♂ さんだ!」
ケイジが地面をドンと力強く叩けば、その地面をひっくり返して河⚪︎準一が出てきた。
「アイドルたち出まくったー!! もはやなんのイベントか忘れるわよ!!」
周りが唖然とする中、慣れた様子のヴィルシーナのツッコミが飛ぶ。
「もはや何これ?」と言いたい状況であるが、ゴルシは勝ちを確信したかのように頬を吊り上げてこんな事を言った。
「バカめ! そいつは次長課長の河本⚪︎一だ!」
「「な、しまっ…ぎゃあああああああ!!?」」
【おーっと! レースの前にまさかのアイドルたちとケイジと河本の緊急コンビが乱戦模様! もう何が何だか分からない盛大な殴り合いに会場は阿鼻叫喚です!?】
その乱闘が瞬く間に煙に覆われていった。
「……あ、あの、レース前ですよね……?」
目の前の狂気的な光景に、メジロクーパーは完全にその空気に呑まれていた。
華奢な体をさらに縮こまらせ、思わず耳を絞ってしまい、潤んだグリーンの瞳は完全に混乱している。
この……、何だ。そのこれ……?
「流石はKGワールド……」
……そう呟いたのが果たして誰だったのかは終ぞ分からなかった。が、そのワードこそが、この
事実、この「KGワールド」に周囲のウマ娘や観客たちが完全に巻き込まれており、暫くして煙が晴れると、そこには何処から用意したのかテーブルとその上にお皿が並んでいて、そのお皿に載っているのは「萩の月」だった。
そしてさっきまで領域を悪y……活用して暴れ倒していた張本人たちは呑気に椅子に座りながらお茶を啜っていた。
「ふぅー……レース前には萩の月だよなあ」
「ほんとほんと。お供の
「何だぁゴルシぃ?」
「何で皐月賞って「皐月」って言うんだぁ? 皐月って「5月」のことじゃねーか」
「そりゃそうだ。本当なら「弥生賞」って言うべきだよなぁ?」*2
と、そんな時、ケイジがメジロクーパーを視界に捉えて、目配せをした。
「……なぁ、君は何故か知ってるか?」
「え。え、えぇと……」
突然に振られた質問に目を丸くするクーパーだったが、その答えは本人でも驚くほどあっさりと出た。
「そ、その……旧暦で「皐月」は5月を指していて、この皐月賞の第1回競走も5月開催だったことが名前の由来……です!」
「「おぉー!?」」
「「へぇー!?」」
意外と無茶振りだったが、クーパーの博識ぶりにゴルシとケイジは感心し、観客たちは感嘆の声を挙げていた。
そしてゴルシは茶を啜りながら一言。
「いやぁ、茶が美味い!」
「無茶振りなだけに、ってうるせぇやい!」
「ぎゃあああああああ!!!」
ボケ役のゴルシをツッコミ役のケイジが地面に叩き込んで埋める。
そのシュールな光景に、会場は再び騒然となる。
一方ケイジは何食わぬ顔で茶を飲み干して立ち上がり、テーブルと椅子と小道具を、自分たちが召喚したアイドルたちと河⚪︎準一がそそくさと片付けてフェードアウトしていく。
「さーて。レースを始めるか」
「え!? え!? ちょ、ちょっとゴルシはどうするつもりよケイジ!?」
「おっと、忘れるところだった。皆さんご注目」
ケイジは何処からか赤い大きな布を取り出し、それを地面に犬神家状態になっているゴルシのお尻に被せた。
「ワン、ツー、スリーッ!」
パッとその布を取れば、地面に埋まってたはずのゴルシが、
「「【消えた!?】」」
ヴィルシーナもクーパーも観客たちも、司会ですら驚愕する。
間髪入れず、さっき会場を後にしたはずの河⚪︎準一が宅配員の格好をして「ままどおる」と描かれた段ボール箱を手に再びケイジの横に立ち、
「宅配便でーす」
と言い、河⚪︎準一はその箱をパドックの床に置いて、再びそそくさとその場を後にした。
続けて、またも何処からか取り出した指揮棒でケイジは段ボールに魔法を掛ける。
「チチンプイプイッ、と」
すると箱がガタガタと動き出したかと思えば、次に「バリィッ」と勢いよく段ボールとガムテープが破れる音を響かせながら……、
「段ボールから手足が生えたぁ……!?」
青ざめながら、思わずそんな言葉が出てしまったのはヴィルシーナ。
またも一瞬会場は静まり返る。
他の出走ウマ娘たちも唖然とする。
……だが、その生えた手足、フェノーメノには見覚えがあり、ツッコミを入れずにはおれなかった。
「……って!?」
「ちょ、ちょっと!?」
「「ゴールドシップじゃないかぁ!!」」
パドックの最前列から2人分のツッコミが同時に飛ぶ───ツッコミを入れたお互いの顔を一瞬見合わせたのは、ヴィルシーナと、カペラ所属のフェノーメノだったが、そんな2人の一瞬の沈黙を破る、バリィッとさらに勢いよく段ボールから破ける音。
首から下に段ボール箱を着てるような姿で頭を出したのはやはりと言うべきか、先ほどまで地面にどざえもんしていたはずのゴールドシップ!
「あ、マメちんじゃーん! これだけであたしだって分かるなんてぇ。どう思うケイジぃ?」
「
「だーよな! どやどや!」
「だ、誰がマメちんだ!?」
そのやり取りに観覧席の最前列から楽しそうな笑い声が響き、沈黙を瞬く間に笑いの空間に塗り替えた。
「ハッ、ハハハハッ! なにそれ! さすがケイジさんは面白い!!」
「え……?」
真っ先にそんな声援を飛ばしてきたのは、何とクーパーの元ルームメイトでもあるハルナからだった。
このハチャメチャさが最高に愉快でツボに入ったらしく、プロレスさながらの茶番劇に対して無邪気に大爆笑していた。
そのハルナの隣で、金色の暴君───オルフェーヴルも静かに微笑んだ。
「フフ……やはりあの2人の狂言は愉快だ。これほどまでに……民を惹きつける熱量、我の見識にも、良い刺激となるな」
その声は、どこか自分を鼓舞するようでもあり、同時にどんな大嵐を前にしても決して揺らいではならないという、若き王の義務感に満ちていた。
その一方、フェノーメノとヴィルシーナは、
「ゴールドシップ! レース前だぞ! 神聖な中山のパドックをお前のマイルームにするなァァァッ!!」
「そ、そうよ! いい加減にしなさいよー!!」
2人揃って悲痛なツッコミを入れざるを得なかった。
なお、いつもはヴィルシーナだけがツッコミ役として立ち回る羽目になり、フェノーメノという思わぬ援護は彼女にとっては救いだったかもしれないが……。
「ほらほら、マメちんも『次長課長真拳』の餌食にしてやるー!」
「こらぁ、私の服を引っ張るな!」
隙を見せたフェノーメノに、ゴールドシップが腕にガシッと掴みかかって絡み出す。
怒髪天を衝くフェノーメノと、ヘラヘラ笑うゴールドシップ。
ヴィルシーナにとって横に並んだ
ヴィルシーナとフェノーメノの悲痛な叫びだけが、このパドックで唯一の良心として中山の空に虚しく響いていた。
ついでに、この喧騒から少し離れた[カペラ]の応援席では、この状況にドン引きまくるメンバーの中で、1人だけ感心している人物がいた。
「
「……え?」
そんな事を言い出したすぐ横の人物に、顔を引き攣らせたトーセンジョーダンが振り向くと、ケイジとゴルシの演出に目を輝かせているチームメイトの姿が───光の当たり方によっては深緑にも見える黒髪を、フリル付きの髪留めでサイドテールに纏め、右耳に王冠を模した飾りを付けているウマ娘、サトノクラウンがそこにいた。
「……でも、
「ちょ……ちょちょちょ、クラちゃんまで何言ってんの!? そっちのスイッチ入れないでよ!?」
「そ、そうっすよ!?」
トーセンジョーダンは呆れ顔、ウインバリアシオンも困惑しながらサトノクラウンを2人で必死に制止する。
サトノ家といえば、世界的な規模で多様な事業を展開する
対比としてメジロ家が「レースの格調や伝統」を重んじる名門お嬢様系だとすれば、サトノ家は「最先端技術と莫大な資本力を誇るビジネス系財閥」と言えるだろう。
なお、まだデビューする前のサトノクラウンであるが、後にサトノ家のウマ娘として初めてG1を制し、「サトノの先駆者」と呼ばれることになるのはまた別の話。
そして彼女たちのチームを率いる女性トレーナーは無言で頭を抱え、自チームのクーパーのメンタルより、目の前の地獄絵図に胃を痛めて天を仰いでいた。
……余談であるが、このサトノクラウン以上のサトノの暴走機関車が後年中央トレセン学園に入学してくるのだが……あぁ、前以て言っておくと、その時胃を痛めるのはこの女性トレーナーではないので安心(?)してほしい。
「あ、あの……これが、中央のトップを走るウマ娘たちの……『戦術』、なんでしょうか……?」
「……いや、戦術なわけねぇだろ。ただのバカ騒ぎだ。アタシには一生理解できねぇわ……」
一方、ハルナと共にクーパーの応援に来た現ルームメイトのオオエライジンは中央の底知れぬ狂気に戦慄し、ダートのオシャレ番長エスポワールシチーは呆れ果ててフイッと顔を背けた。
そして、この地獄のような、あるいは最高に賑やかなパドックの暴風雨の真ん中で、メジロクーパーはというと───もう、何が起きているのか、彼女には1ミリも理解できてなかった。
(これが……
ゴールドシップとケイジについては、まるで幼馴染かと思わせるような息ピッタリのコンビ芸で度々話題になっている。
この2人を誰かがこう呼称した。
かく言うメジロクーパーも、この2人が中心となってあの災厄の後に被災地を回り、朝昼は現地住民や自衛隊員たちと協力して復興支援を手伝い、夜は慰問のために、ある時はライブ、またある時は演劇、またまたある時はコント芸を披露したりと、とにかく現地の人々のために汗水垂らして駆け回っていたことを聞き及んでいた。
その2人のコンビ芸をクーパーは生で観たことがない。
それが幸か不幸だったか───結果はこの通り。完全に自分はその狂気の暴風域から置き去りにされていた。
緊張とか、重圧とか、名門メジロの誇りとか、客席から必死に声を張り上げてくれていたハルナたちの応援などなど───そういう真っ当な感情のすべてが、目の前で展開された大乱闘のようなプロレスのようなマジックショーによって木端微塵に吹き飛んだ。
中山レース場開催3回中山8日目第11レース 第72回皐月賞(G1)
芝右2000m / 天候 : 晴れ/芝: 稍重
| (枠番) | (ウマ番) | (出走者名) |
| 1 | 1 | モンストール |
| 1 | 2 | アダムスピーク |
| 2 | 3 | トリップ |
| 2 | 4 | メイショウミサワ |
| 3 | 5 | アーデント |
| 3 | 6 | ディープブリランテ |
| 4 | 7 | ワールドエース |
| 4 | 8 | サトノギャラント |
| 5 | 9 | メジロクーパー |
| 5 | 10 | ケイジ |
| 6 | 11 | マイネルロブスト |
| 6 | 12 | フジマサエンペラー |
| 7 | 13 | シルバーウエイブ |
| 7 | 14 | ゴールドシップ |
| 7 | 15 | コスモオオゾラ |
| 8 | 16 | ゼロス |
| 8 | 17 | ロジメジャー |
| 8 | 18 | グランデッツァ |
【さぁ、いよいよレースが始まります。本日のファンファーレは、宮城県仙台駐屯地を拠点とする航空自衛隊・中部航空音楽隊による演奏です】
気を取り直してついにレース本番。
パドックを後にしてゲートに向かってウォームアップを兼ねて軽めに走る18人のウマ娘たち。
そんな彼女たちの門出を祝うかのように、スタンドからは東京と中山で定番の「GI競走ファンファーレ*3」の生演奏が聞こえてきた。
〜♪
【今年もメンバー揃いまして世代を代表する18人のウマ娘たち。今日の一番人気は9番メジロクーパー、続く二番人気に6番ディープブリランテ、三番人気に10番のケイジ、四番人気に18番グランデッツァ。そして、五番人気に14番ゴールドシップという面々。解説の細江さんの一押しは?】
【そうですね……私の注目株は10番のケイジですね。デビュー戦、重賞二連戦は共に短距離。その後の朝日杯ではマイルを走ってますが、いずれも見ていた感想としては距離が短すぎたように感じました】
【なるほど……ゴールドシップは如何でしょうか?】
【あー……ふふふっ……し、失礼しました、さっきのパドックを思い出してつい……】
【い、いえ、い、いいんです、ははは……う゛ぅん、改めてお願いします】
【は、はい。そうですね……ゴールドシップ。中央トレセン学園では
【なるほど。メジロクーパーは如何でしょうか?】
【新潟ジュニアステークスは逃げ切り勝利、去年のホープフルステークスと2月のすみれステークスも勝利しているので、一応は2000mでも実力が通用することを証明してからの皐月賞ですが、やはり勝利の鍵はペース配分とメンタルになるでしょうね】
「ペース配分とメンタル状態が勝利出来るかどうかの鍵」というコメントに、メジロクーパーはただただ肯定するしかなかった。
事実、彼女にとって、特にゴールドシップとケイジという二大巨頭からは強い圧迫感すら感じていた。
アイドルや芸人と大立ち回りを演じていた
だが今はそれが全て一時の幻だったかのように、2人は、静かで強かで圧倒的な王者の覇気を放ちながらゲートへと歩みを進めていた。
現に、パドック上で段ボールを着る(?)羽目になったゴールドシップも、その段ボールをどこかの誰かに預けて見慣れた真紅の勝負服姿でターフに現れて今か今かとゲートインを待っているし、ケイジの隣になったクーパーと、11番のマイネルロブストはオーラが
あのパドックでのプロレスが盤外戦術だとしたら完全にその術中にハマったとしか思えなかった。
……もちろん、あの2人があそこまでふざけ倒したのは計算があってのこと。
だが、その計算とやらも実は
【えー……今回の皐月賞ですが、優勝者には副賞として、あの「萩の月」の菓匠三全様と「ままどおる」の三万石様、及び「桃生茶」のお茶のあさひ園様より、当該店舗で使用できる「一年間商品無料券」が付いてきます!】
【「萩の月」と「ままどおる」、それに「桃生茶」といえば先ほどの……!?】
【えぇ、はい、ケイジとゴールドシップが展開したパドックでのショーにも登場しました、あのお菓子ですね】
【何と、あれは宣伝だったんですね】
【そうなりますね。「萩の月」に「桃生茶」といえば宮城県の名物、「ままどおる」も福島県の名物……思えば、去年のこの時期はここ中山でのレース開催が事実上不可能となり、代行開催を小倉で展開。その時の勝者は、去年の三冠ウマ娘となったオルフェーヴルでした】
【そのオルフェーヴルが今回パドックの観客席に姿を見せ、メジロクーパーにエールを送り、及びケイジとゴールドシップの寸劇に微笑む場面がありました……果たして、それは勝利の女神の微笑みか、はたまた、他の誰かが皐月賞の栄冠を手にするか】
アナウンサーも解説も言葉を慎重に選びながら、パドックでのケイジとゴールドシップのコンビ芸にそんな意味が隠れていたことに感心しつつ、彼女たちがあの悲劇から立ち上がろうとする人々の精神的な支えになっていることを改めて痛感した。
「さーて……レースを始めるか」
そのケイジからの確かに聞こえた呟きに、ゾクリ、とクーパーの背筋に冷たいものが走った。
あんなにハチャメチャをやっていたのに、一瞬で「レースの顔」に戻る。
それこそが、この怪物たちの本当の恐ろしさなのだと、本能が理解させられていた。
(……でも、お陰で震えは止まった。こんなの見せられたら、縮こまってる自分がバカバカしく思えてくる……!)
恐怖は消えない。けど、卑屈になって俯いている暇なんて、この世代の戦いには一瞬だってない。
耳をきゅっと引き締め、ゲートの先を見据えた。
チーム[カペラ]の皆が見守る中、エメラルドグリーンのプリーツスカートを翻し、メジロクーパーは嵐のような拍手が渦巻く本馬場へと足を踏み出した。
そしてレースが始まった。
【スタートしました! 各ウマ娘綺麗なスタート、いや14番ゴールドシップ僅かに出遅れたか、一方ケイジはスタートダッシュを決めるが、すぐに追いついてきます9番メジロクーパー、4番メイショウミサワ、さらに16番ゼロスがついてくる! ここで一旦下がります10番ケイジ、前3人が逃げ争いを繰り広げてます!】
(ケイジさんが下がった……!?)
【ケイジ、四番手に一旦下がって様子見か。スタンド前直線、歓声が18人の出走者たちを出迎えます。先頭9番メジロクーパーがキープしたまま間も無く第1コーナーに入ります】
【先頭メジロクーパー。さらに前に出ますが、二番手メイショウミサワを引き離しきれず1バ身。それに続いて半バ身差、いえこちらも1バ身差をもって食らいつくゼロス、そのゼロスから半バ身離れてないケイジはこの位置! 中団を形成して頭を走るのは6番ディープブリランテに15番コスモオオゾラ、1番モンストール。14番ゴールドシップはちょっと遅れたか? 最後尾あたりについています】
(何とか逃げをこのまま保てれば……!)
2000m。たったそれだけの距離、誰にも先頭を譲らずゴールする。
大丈夫、ホープフルステークスでも、2200mだったすみれステークスでも同じ戦い方で勝てた。
落ち着いてレースを進行できればきっと……!
【どんどん差が開いて先頭3人の逃げ、メジロクーパー、メイショウミサワ、ゼロスが中団のディープブリランテから6バ身の差をつける。だが、ゼロスから2、3バ身離れてない位置からケイジが追走。最後尾はゴールドシップと7番ワールドエース。実に先頭から最後尾の差は15バ身。向正面ほぼ中間で1000mを通過してタイムは58秒8。今日のバ場を考えると速いタイムです】
(そろそろ仕掛けてくる……!?)
クーパーは本能的に、後ろのケイジの動きを察知した。
その勘の正しさは実況がすぐに証明した。
【ここでゼロス、いや、すぐ後ろにいたケイジ、速度を上げていく!】
(((!?)))
クーパーを含めてケイジの前を走る3人のウマ娘たちに嫌な汗が伝った。
向正面がそろそろ終わり第3コーナーに入ると、一気にプレッシャーのようなものが伸し掛かってきた。
【ケイジ、お得意のコーナリング技術が炸裂して中団を引き離し、前3人に一気に襲いかかる! ここからもう仕掛けに行くのか!?】
後ろから誰かが「無ぅ理ぃ〜!」と泣き言のような声を漏らすが、クーパーはそんな声を耳に入れず、いや、むしろ耳に入れることすら拒んだ。
確実に足音は迫ってくるし、後ろの2人が今にもケイジに抜かされるか抜かされたことを気配で感じ取るメジロクーパー。
それでもクーパーは未だに先頭に立ち続けて懸命に抵抗を試みていた。
【さあ早くも残り600mを過ぎて第4コーナーへ入りました。先頭は依然としてメジロクーパー譲らない懸命に粘る───】
(……! 来たっ……!!)
ついにクーパーもその大きな気配が自分の背後に迫ってきたことを肌で感じた。
【───粘るが、すぐ二番手までケイジが上がってきて襲い掛かろうとしている! ここでケイジ先頭に立とうとするがメジロクーパー懸命に粘って先頭を奪い返す! 激しいデッドヒート! 後方にゼロス───来た! ここで来た! ゴールドシップが飛んできた!』
「来やがったな、『黄金の不沈艦』ゴールドシップ……ッ!!」
(!?)
横に並ぶか並ばないかの距離でケイジの囁きのような呟きのような声が確かにクーパーの耳に届いた。この状況をケイジは読んでいた……?
【先頭メジロクーパーのまま、間も無く第4コーナー超えてスタンド前直線! 中山の直線は短いぞ!】
鳴り響いたファンファーレが遥か彼方に思えるほど、足元は泥濘んでいて重い。
ターフは重ではなく稍重というコンディションだったはずだが、今やレースの終盤戦に入ったウマ娘たちの体力を容豁なく削り取っていく。
数で見れば大したことないように錯覚しそうだが、最終直線は最もウマ娘の通過が多い箇所であり、インコースも既に荒れ果てており、力強く足を踏み込む度に泥が跳ね上がってくる。
よって最終コーナーを迎える頃には、ほとんどのウマ娘が大きく外へと進路を取る。
だが、そんな状況でインコースを選択したウマ娘が少なくとも3人いた。
その内の1人が先頭を直走るメジロクーパーだった。白灰の勝負服を泥濘に汚しながらも懸命に必死に脚を回して伸ばしていた。
【先頭メジロクーパー譲らないが、ケイジが並んで追い越しを仕掛けて、後ろからゴールドシップ、最内の荒れたバ場をものともせずに飛んできて先頭の2人まで4バ、いや3バ身! みるみる距離が詰まってく!!】
芦毛のボブヘア、生まれつき前髪の左半分にピンク色のメッシュが入っていて、そして、かつてのダイタクヘリオスの走りに惹かれて、中央トレセン入学を期に毛先を青く染めた。
それが今やこの過酷なレースの中で、誰かが付けた足跡から風に運ばれた芝や泥を浴びて一部に土色の汚れを被っていた。
しかし、そんなことなどもはやクーパーにとって思考の外。
黒い編み上げブーツのヒールで必死に路面を蹴り上げて先頭を奪わせまいと粘る。
(私だって、チーム[カペラ]のウマ娘なんだ……! ハルナさんたちが見てくれてる前で、無様な姿なんて見せられない……!)
緑の耳カバーを風になびかせ、懸命に直線へと向かう。
名門メジロのプライドをかけた激走。
しかし、どんなに懸命な走りで粘ろうとも、背後から凄まじい風圧と覇気が押し寄せてくるのを抑えられなかった。
「不利だな……だからこそ燃えるぜ……!」
「!」
ケイジのその声がクーパーの真横から聞こえた。
気付けば、あの巨体の背中がクーパーの目の前にいた。
(うそ……速すぎ、る……!?)
先ほどからもう半バ身の背中にまで迫っていたケイジの気配に加えて、ここでさらにゾクリ、とクーパーの背筋に戦慄が走る。
後ろから誰かの声がした。
「よっしゃあー! 追いついたぞケイジ! 勝負じゃおらぁ!」
紛れもなくそれはゴールドシップだった。
「上等じゃぁい! こっからが本当の勝負だ!!」
「ぁっ……!!」
【来た! 来た! メジロクーパーを抜いたぞケイジ、さらに内からゴールドシップが2人に一気に襲いかかる!!】
【何ということでしょう! 今まで誰も影を踏めなかった規格外の逃走者ケイジ! その影を踏んで追いつくのはゴールドシップ! メジロクーパー、懸命に粘るがここは二大巨頭に跳ね返された、ここから完全に2人の世界だ!? 大外からワールドエース、内からメイショウミサワ、ゼロス迫るが追いつけない! KG対決第一の舞台皐月賞からこのぶつかり合いを見せて残り200m!】
内が完全に荒れた馬場の真ん中を、まるでワープでもしたかのような猛加速で真紅の勝負服と流麗な長い銀髪が美しいウマ娘───ゴールドシップが飛んできた。
重馬場を物ともしない異次元のストライド。他が脚を鈍らせる泥の上を、あざ笑うかのように突き進んでくる。
その後は一瞬だった。
さっき追い抜いて行った巨体の怪物に続き、必死に粘っていたクーパーの横を、もう1つの巨大な影が猛烈な速度で置き去りにしていった。
【残り100m! 完全に2人の世界になった! ケイジとゴールドシップ! 最終直線、泥を爆発させながらの猛烈な叩き合い!!』
気付けばゴールの目前は完全に、あの2人の頂上決戦の舞台へと化していた。
クーパーは必死に腕を振り、2人の怪物の背中に追い縋ろうと脚を伸ばす。
しかし、前を行く2人は、一歩ごとに泥を激しく跳ね上げ、クーパーとの距離を無情にも広げていく。
2つの巨体が繰り広げる限界を超えたデッドヒート。その凄まじい熱量に圧倒されながらも、クーパーはただひたすらに、目の前の背中を見つめて走り続けた。
(届かない……! でも、絶対に、離されたくない……!!)
【ゴールドシップ、バ身差を縮める! ケイジ粘る! ケイジ粘る! ゴールドシップ追う! 追う! だけど届かない! ケイジ、クビ差で今ゴール!! 不沈艦のワープですらも規格外の逃走者には届かなかったぁああ! そして、怪物たちの急襲に最後まで粘り腰を見せた9番メジロクーパーは3着でゴールイン!!】
泥まみれの視界の先、クーパーの目の前で、2つの影がほぼ同時にゴール板を駆け抜けていった。
【タイムはなんと1分55秒ジャスト!! 前代未聞! 皐月賞のコースレコードを大幅に更新! ケイジやはり強かった! しかし今まで誰も競り合えなかったケイジにここまで迫り、影を踏めたゴールドシップも負けて尚強し! それに3着に入ったメジロクーパーも懸命に粘っての半バ身でこちらも本来ならレコードタイム。間違いなく今年を代表するウマ娘たちです!】
ゴール板を通過した瞬間から、メジロクーパーの頭の中は真っ白だった。
泥まみれになりながら激しく肩で息をし、周りの歓声が何故か聞こえないほど力強く鼓動する心臓の音を聞いていた。
息が苦しい。全身が泥で重い。そして何より、目の前で怪物2人に文字通り「置き去りにされた」事実が、彼女の小さな胸を容赦なく抉っていた。
ふと掲示板の着順を見れば、上から、10・14・9・7・6という数字が点っていて、タイムは「1分55秒4」を記録している上に、レコードを意味する「R」の字が光っていた。
2着ゴールドシップと3着の差は1/2と出ていたが……。
(……3着……)
その差が何を意味するか。
惜敗ではない。
完敗だった。追い抜かれた瞬間、何もできなかった。
やがて少し離れた先でウイニングランを終えたらしきケイジが戻ってきた。
観客席の前で待ち構えていたらしきゴールドシップと首を傾げ合いながら「次長課長真拳の威力が足りなかったか~」「いや、萩の月の食いすぎだろ」と、さっきの死闘が嘘のようにまたおちゃらけている2人の姿があった。
【皐月の勝利を手に入れたケイジ! 前田家から現れた新星! 大声援を浴びながらウイニングランを終え、松風トレーナーやチームメイトたちが待つウィナーズサークルへと向かっていきます。果たしてなるか無敗の三冠! それを狙える資格はもはや彼女のみでしょう。しかし、ライバルは未だ多い。今日の一戦で不屈の粘りを見せたメジロクーパーに、黄金の不沈艦・ゴールドシップ。彼女たちが阻むかもしれません! 激戦はまだ始まったばかり! とにかく今はこの勝利を楽しむべきでしょう。お祭りウマ娘ケイジ。今日も大いに盛り上げてくれました。あのヒサトモ一族ここにあり。どんな夢を見せてくれるか楽しみです!】
そして観客席を目の前にして、ケイジが右へぴょーん、左へぴょーんと飛んだ後、天に人差し指を立てて、
「ッ・・・・ィいよっしゃあぁあぁああああああああ!!」
「「「ウォォオオォオォオォ!!」」」
ケイジのパフォーマンスに観客たちも盛り上がった。
それを見てクーパーは思ってしまった。
(この人には勝てないのだろうか……?)と……。
気付けば悔しさと、圧倒的な実力差への絶望で視界が滲んでいた。
その結果と悔しさの奥から、今までに感じたことのない、じんわりとした青い炎が、静かに灯り始めていた。
放心状態のまま、トボトボと地下バ道を引き返してくるクーパーの視界は滲んでいた。涙を堪えようと必死でまだ強がってる。
こんな情けない姿を誰にも見せたくなかった。しかし……。
「……クーパーちゃん!」
その声を合図に、泥まみれの彼女の体に、温かいタオルと幾つもの優しい手が差し伸べられた。
「ハルナさん……」
「よく最後まで粘りきったね! すごかったよ、クーパー!」
最初にクーパーの肩をそっと抱きとめたのは、客席から真っ先に駆けつけてくれたハルナだった。
年頃の女の子らしい柔らかさと、どこかホッとするような温もりに、クーパーの目から堪えていた涙がポロポロと溢れ出した。
「うっ……うぅっ……!」
「ど、どうしたの……?」
泣くまいと堪えていたはずのクーパーはついに耐えきれなくなり、えずいて口を突いて出たのは、
「ごめんなさい……」
「! なんで謝るの?」
「だって……だって……! 折角応援してくれたのに……私……勝てなくて……ごめんなさい、ハルナさん……!」
「あぁもう、泣かないの。ほら、皆が見てるよ?」
「みんな……?」
ハルナがそう言って示した先にいたのは、
「! ウインバリアシオンさん、トーセンジョーダンさん!? それに、エスポワールシチーさん……?」
そこにいたのは、チームメイトであり後輩のクーパーのために応援に来ていた[カペラ]の面々(厳密にはエスポワールシチーは違うが)。
「本当にすごかったっすよ、クーパーさん……! あの2人に最後まで喰らい付いていくなんて……!」
「え、でも私……」
「まぁー、確かに負けは負けだし。でも、あんだけバ場荒れてて3着とか、普通にヤバいし。ねぇエスポ?」
「そうそう。上等な走りだったよ。メジロの快速、確かに見せてもらったわ」
チーム[カペラ]のウインバリアシオン、トーセンジョーダンたち仲間が次々と声をかけ、ギャル仲間のエスポワールシチーもトーセンジョーダンに同意してクーパーを讃える。
フェノーメノも無言でクーパーの頭をぽんぽんと叩く。カペラのトレーナーは、まだ胃を押さえながらも、誇らしげに深く頷いていた。
「……う、ぐすっ……ありがと、う、ございます……。でも、私……!」
「おーう、メジロの。良い粘りだったじゃねえか!」
仲間たちに囲まれるクーパーのすぐ後ろからそんな声が掛かる。
ビクッとしながらクーパーが振り返るとそこにいたのは、
「ケイジさん!? それに、ゴールドシップさんも……?」
勝者・ケイジと、2着のゴールドシップ、紛う事なき今回対峙した二大巨頭たち。
2mを超える巨体はクーパーの倍近くあり、その威圧感にクーパーは思わず身を縮めかけた。
だが、ケイジの顔はパドックの時と同じように、どこかカラッとしたハジケリストの笑顔だった。
「あたしとゴルシの『モーニングスター真拳・萩の月コンビネーション』にここまで置いてかれずに付いてきたのは、大した快速だぜ!」
「そうだぞ! 次長課長の河⚪︎も『おめぇ、ええ根性しとるがな!』って絶賛してたぞ!」
「ちょっと2人とも、健闘を称えるなら普通に言いなさいよ! 河本さんはもう帰ったでしょ!?」
横から乱入してきたゴールドシップをヴィルシーナが必死に回収していく。そんな相変わらずのハチャメチャな会話に、クーパーは涙を浮かべたまま、思わず小さな笑い声を漏らしてしまった。
「……次はダービーか? あたしもゴルシも、もっとハジケて待ってるからよ。また真っ向勝負、やろうぜ」
大きな手でクーパーの頭をくしゃりと撫で、ケイジはウイニングライブの準備へと歩き出す。怪物の、ハジケリストなりの不器用な激励。それがクーパーの胸中に、新たな薪をくべたのは間違いなかった───ここから後の
「……中二週でNHKマイル、その後に日本ダービー出るですって?」
皐月賞から一夜明けた、チーム[カペラ]の部室。
窓から差し込むうららかな春の光とは対照的に、部屋の中には重苦しく張り詰めた緊張感が漂っていた。
デスクを挟んで、カペラの女性トレーナーの前に毅然と立っているのはメジロクーパーだった。
白、ピンク、ブルーのボブヘアはいつも通り綺麗に整えられている。だが、緑の耳カバーの下にあるその澄んだグリーンの瞳には、昨日の中山の泥濘で味わった、あの猛烈な屈辱が冷めやらぬまま、どこか余裕のない視線を向けていた。
女性トレーナーは手元のスケジュール表から顔を上げ、驚きを隠せない表情を見せていた。
「無茶だ」と言って止めたくなる一言を抑えつつ、カペラのトレーナーはクーパーを諭そうとする。
「……クーパー、気持ちは分かるわ。昨日の皐月賞……1番人気という最高の期待を背負って、あの足元の悪い状態で3着に粘りきったのは、本当に立派な走りだった。でも、中二週でのGⅠ連戦なんて、今のあなたの体には負担が大きすぎるわ。当初の予定通り、しっかり疲れを抜いてから日本ダービーへ向かうべきよ」
それは指導者として、そして1人のウマ娘を預かる身として、至極真っ当な正論だった。
しかし、今のクーパーの耳に、その正しい言葉は届かない。
クーパーは小さく拳を握りしめ、一歩、デスクへと歩み寄った。
いつもなら自信なさげに俯いてしまう少女が、トレーナーの目を真っ直ぐに見据える。
「嫌です……っ! このまま何もしないで日本ダービーを待つなんて、絶対に出来ません!」
「クーパー……」
「私は……メジロの誰も戴冠したことがない、あの最高峰の日本ダービーを勝つために、ここまで走ってきたんです。京都の生家に残してきた妹に、誇れる姉になるために、あのダービーのトロフィーはどうしても必要なんです!」
「……!」
本当なら止めさせたい。
だが、カペラのトレーナーは未だかつてメジロクーパーというウマ娘の目がここまで据わってるのを見たことがなかった。
目の奥には焦りが見え隠れしているのは否めない、しかし、それと同時に強い決意も伝わってきていた。
「……だからこそ、昨日のような惨めな敗北を、1番人気を裏切ったという暗い記憶を、ダービーの神聖な舞台にまで引きずっていくわけにはいかないんです!」
クーパーの胸の内は、ぐちゃぐちゃに焼けていた。
3番人気だったケイジと、5番人気に過ぎなかったゴールドシップ───あの2人の伏兵に、直線であっさりと置き去りにされたのだ。
あの瞬間の屈辱と敗北感を抱えたままでは、ダービーという頂に挑む彼女は自身の心に、一瞬の『迷い』や『翳り』が生まれてしまう。
そう考えたからこその決意と覚悟だった。
「中二週でも関係ありません。NHKマイルカップに出て、勝利の味で昨日の泥を全部綺麗に洗い流して……最高の、勝者のメンタルのままで日本ダービーへ臨みたいんです。それに、
それは、彼女が「最高峰のダービー」という目標に対してあまりにも真摯に、そして完璧でありたいと血眼になっていたからこその、焦りからくる強弁だった。
「お願いです、トレーナーさん……っ! 私を行かせてください! 完璧な私で、日本ダービーを獲りに行かせてください……!!」
痛切なまでの直談判。胸元で揺れる制服のリボンタイが、彼女の激しい呼吸に合わせて刻み震えていた。
カペラの女性トレーナーは、再び手元のデータに視線を落とした。
中二週。疲労。リスク。頭の中の理性が「止めるべきだ」と警鐘を鳴らしている。
けれど、昨日のレースで、伏兵たちの急襲に遭いながらも、最後まで死に物狂いで粘り腰を見せて3着に残った、あのクーパーの素晴らしいポテンシャルが脳裏をよぎる。
そして何より、我が子のように、妹のように大切に育ててきた目の前の少女が、これほどまでに「日本ダービーという頂に、一点の曇りもない完璧な状態で挑みたい」と、泥臭く前を向いて訴えかけてきているのだ。
(これほどの覚醒を予感させる気迫……。この子なら、本当にマイルのスピード勝負でこの絶望的な焦りすら力に変えて、そのままダービーへの最高の弾みにできるかもしれない───それに)
彼女を傷つけたくないという歪んだ「情」に、女性トレーナー自身が呑まれてしまったのだ。
(もしかしたら……マイルのスピード勝負でなら、あのケイジを圧倒してしまうかもしれない。その可能性に、私は賭けてみたい───)
それは、すべてを察していながらも、目の前の輝きに目を眩ませてしまった、指導者としての決定的な「弱さ」であり「色欲」だった。
カペラのトレーナーは小さく胃のあたりを強く押さえ、自分の敗北を認めるように、重く、深く息を吐き出した。
「……分かったわ。そこまで言うなら、NHKマイルカップへの出走を許可する」
「っ……! 本当、ですか……!?」
「ええ。ただし、体調に少しでも異変や違和感があったら、その時は私の権限で即座に出走を中止させるわ。いいわね、クーパー?」
「はい……! はい! ありがとうございます、トレーナーさん!!」
パッと顔を輝かせ、深々と頭を下げるクーパー。
その嬉しそうな横顔を見つめながらも、女性トレーナーの胸の奥には、すべてを予感していながらゴーサインを出してしまったという、罪悪感にも似た冷たい
【───さあ、府中の長い直線! 春のマイル王決定戦、早くも抜け出したのはやはりこのウマ娘! ケイジだ!!】
皐月賞の敗北を勝利で上書きしたい。得意なマイルなら、あの怪物にだって勝てるかもしれない───そんな焦りと傲慢は、府中の容赦のない直線で、一瞬にして粉々に打ち砕かれた。
「だらァァァッ!! マイルのスピードってのは、こういうことだぜぇ!!」
【強い! 強すぎる! 8番ケイジ、異次元の豪脚! 後続をグングンと突き放して完全な独走態勢!!】
先頭を行くケイジの背中が、皐月賞の時よりも遥かに遠い。
クーパーは必死に腕を振り、髪を振り乱して黒いブーツでターフを蹴った。
だが、この強行軍による疲労は確実にその足腰を蝕んでいた。
自慢の快速は空回りし、ケイジに追いつくどころか、外から他の中央の強豪たちに次々と追い抜かれていく。
(嘘……!? 届かない……っ!? 動け動け動け、私の脚! ……私の脚は、この程度なの……!?)
【8番ケイジ、並み居るマイラーを子供扱い! 圧倒的な大差をつけて、変則二冠のゴールイン!!】
府中の長い直線。クーパーの視界の遥か先で、またしてもケイジが異次元の豪脚でゴール板を駆け抜けていった。
【これは大波乱だ、3番人気メジロクーパーは4着、それに対して5番人気のジャスタウェイが2着、16番人気のシゲルスミオが3着に食い込んだ!!】
さらに、内から鋭く伸びた2着のジャスタウェイ、泥臭く粘り込んだ3着のシゲルスミオの背中すらも、今のクーパーには遠かった。
結果は4着と「完敗」という二文字が再び突きつけられた非情な現実。
勝利で敗北を上書きするはずだった。
最高の勝者のメンタルで日本ダービーに挑むはずだった。
しかし、目の前に突きつけられたのは、皐月賞の時よりもさらに無残にへし折られたプライドの残骸だけだった。
レース後の地下バ道。クーパーの視界は、悔しさと絶望の涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「───ッ」
皐月賞でも敗北に涙した。しかし、あの時とは比べ物にならないほどの大泣きだった。
いつもなら、真っ先に駆けつけて「よく頑張ったね!」と抱きしめてくれるハルナは、今日はどうしてもここに来ることができなかった。
心が折れそうな時、いつも心の支えになっていた元ルームメイトは、ここにはいない。
カペラの控室に戻った瞬間、クーパーはついに糸が切れたように床に膝をつき、激しく泣き崩れた。
白、ピンク、ブルーの髪が涙と汗で顔に張り付き、緑の耳カバーが恐怖と敗北感で激しく震える。
「う、あ、あああああ……ッ!」
部屋に響き渡る慟哭。
チームメイトたちがまだ戻って来ていない中、大声で泣いていた。
それから暫くして控え室に戻ってこようとしたウインバリアシオンやトーセンジョーダン、そして、茶髪のロングヘアと素朴な雰囲気を纏ったウマ娘───ブエナビスタらが、クーパーが大声で泣いてる姿を、開けようとしたドアの隙間から見てしまった。
そしてさらに一歩遅れる形でやってきたカペラのトレーナーも、彼女たちと同じく痛ましげに視線を落としてしまう。
カペラのトレーナーは、自身の選択の過ちを、血を吐くような思いで噛み締めていた。
(分かっていた……あの子の瞳の奥にあるのが、純粋な闘志じゃなくて敗北の恐怖だって、私は全部見抜いていたはずなのに……)
クーパーの痛々しいプライドを自分の手で折ることを恐れ、彼女の焦りと「情」に流されてゴーサインを出してしまった。
その自分の指導者としての弱さが、あの繊細な少女をここまで追い詰め、一番見たくなかったどん底の涙を流させている。
すべては、自らの過ちだ。だからこそ、これ以上は絶対に流されてはいけない。
「……クーパー。入るわよ」
「! と、トレーナーさん……! 今はダメです……!!」
ついさっき来たばかりといった風貌を装って控え室のドアをノックしてから部屋に入ってくるカペラのトレーナー。
クーパーは自身の情けない姿を見せたくないからと必死にトレーナーが入ってくるのを止めようとするが、抵抗する暇もなかった。
「クーパー……」
先ほどドアの隙間から見ていたが、近くで見るともっと酷い顔をしていた。
泥まみれになりながらもケイジとゴールドシップに必死で喰らい付いていったあの皐月賞では終わった時には泥まみれだった。
今日のNHKマイルカップは曇り空だがターフのコンディションは良。勝負服もあの時に比べれば酷く汚れてはいない。
しかし、泣き腫らしたその顔はあの時の敗北以上に涙でグシャグシャで、折角のG1の舞台にと奮発したメイクもすっかり崩れていた。
そんな状態を担当トレーナーに面と向かって見られていようと涙は引っ込まず、むしろ、もっと勢いを増してポロポロと流れて流れて止まらない。
クーパーの涙はさらに床に滴り落ちた。
そんな担当ウマ娘を目の前で見ていたトレーナーは、床に崩れるクーパーの前に静かに膝をついた。
彼女の肩を抱こうとして、その手を一瞬ためらい、膝の上できゅっと握りしめる。
そうして、心を鬼にして、最も残酷で、最も正しい宣告を口にした。
「……クーパー。よく聞いて」
「ひぐっ……、つ、次の……ダービーは、もっと、もっと練習して……!」
「日本ダービーは回避させるわ」
「───え?」
ピクリ、とクーパーの耳が跳ね上がる。
涙に濡れた澄んだグリーンの瞳がハイライトを失い、裏切られたような絶望感いっぱいの顔でトレーナーを見つめた。
今のは聞き間違いか。そうであって欲しい───クーパーはそう願ったかもしれないが、無情にもそれは叶うことはなかった。
「……私のミスよ。私があなたの焦りに引きずられて、こんな無茶をさせてしまった。これ以上走らせたら、あなたの心も体も完全に壊れてしまう。だから、ダービーには出さないわ。出しちゃいけないの」
それは今のメジロクーパーにとっては死刑宣告にも等しかった。
「嫌です……! 嫌、嫌です!! ここまでやっておいて、メジロの私がダービーから逃げるなんて絶対に嫌です!!」
「お願いだから、分かってちょうだい……! あなたに走る才能があるからこそ、私は、あなたの未来をここで潰したくないの……!!」
すがるような、悲痛なトレーナーの言葉。
だが、その血を吐くような教え子の未来を想う「真実」すらも、今のメジロクーパーの心には届かなかった。
メジロの誰も戴冠したことのない頂を獲る。そのために全てを捧げ、1番人気のプライドをへし折られた泥を這いずり回って、それでもなおすがりつこうとした唯一の光。
それを奪われることは、今の彼女にとって、己のウマ娘としての存在価値をすべて否定されることに他ならなかった。
「……っ!!」
言葉にならない拒絶の叫び。
その中には、彼女が憧れたダイタクヘリオスのような明るさも、従姉のメジロシクローヌの強さも持てなかった自身への失望も含まれていた。
クーパーは差し伸べられたトレーナーの手を強く振り払い、涙で視界を真っ暗に染めたまま、カペラの部屋を乱暴に飛び出してしまった。
「クーパー……っ!」
伸ばしたトレーナーの手は、虚しく空を斬る。
彼女は唇を噛み締め、すべてを見抜いていながら止められなかった己の弱さに、ただ静かに拳を震わせるしかなかった。
泣きながら廊下を走っていくクーパーの背中を、たまたま通りかかったあるウマ娘が目撃した。
「……あん? 何事だぁ……?」
そして、そのウマ娘が現場であるチーム[カペラ]の控え室前を通り掛かると、すぐにカペラの部屋の前に佇むメンバーの沈痛な面持ちを見て、ただ事ではないと察した。
その視線に気づいたウインバリアシオンとトーセンジョーダンが、ハッとしてそのウマ娘に振り返った。
「あんたは!?」「あなたは!?」
「トセジョ、シオン、……それにブエナもか。一体何があったんだ?」
その問いにジョーダンとシオンとブエナビスタは言いづらそうにするが、間も無くシオンとブエナが口を揃えて答えた。
「「実は……」」
府中レース場の薄暗い備品倉庫の裏。
無機質なコンクリートの床に、メジロクーパーは壁に背を預けて膝を抱えていた。
良バ場の太陽に照らされたままの、どこまでも綺麗な、一点の汚れもないエメラルドグリーンの勝負服。
それが、敗北した現実の残酷さを白日の下に晒しているようで、今のクーパーにはたまらなく惨めだった。
そこへ、静寂を破って巨大な影が降り立つ。
勝利の熱気を纏ったままの、1着のウマ娘。
クーパーにはその正体が顔を上げずとも分かった。
「……なんですか、ケイジさん……」
小さく、掠れた声だった。膝に顔を埋めたまま、クーパーはそれ以上言葉を紡ごうとはしなかった。
勝ち誇りに来たのかと、あるいは自分を笑いに来たのかと、ただただ心を頑なな殻に閉じ込めようとする拒絶のひと言。
だが、ケイジは怒るでもなく、ふっと優しく息を吐いて、その場にどっかりと腰を下ろした。
そうして、2mを超える巨体を少しでも縮めるように、目線をクーパーの高さに合わせようとする。
「お前の後ろ姿が気になって付いてきちまったよ」
「……放っておいてください。私は4着です。ケイジさんみたいに強くない……っ」
「4着でもよくやってたほうだよ。あたしとジャスタウェイ、それにスミちゃんの猛追を浴びながらよぉ、今日の上り勝負も最後まで踏ん張ってただろ?」
「負けは負けです……勝たなければ意味がないのに……」
ボソリと、膝の隙間から漏れ出た言葉。
その突き放すような一言を聞いた瞬間、ケイジの目元からいつものハジケリストの軽さがスッと消えた。
さっき廊下で、ウインバリアシオン、トーセンジョーダン、ブエナビスタの3人と女性トレーナーから「ダービーを回避することになって部屋を飛び出した」という事情は聞いていた。
だが、目の前でうずくまるメジロクーパーの落ち込み方は、彼女たちから聞いていたものより、遥かに深く、重症に見えた。
「……さっきトセジョたちから事情は聞いた」
「っ……!」
それを責めるつもりは、クーパーには毛頭なかった。
だけど───よりにもよって、今日このマイルの舞台で自分を完全に置き去りにしていった、無敗の王座に君臨する『ケイジ』にだけは、こんな惨めな姿を知られたくなかった。
「……放っておいてください……」
「何でだ?」
「ケイジさんには……私の気持ちなんて、わかりっこありません……。だってケイジさんは、ずっと勝ち続けてる、無敗のウマ娘なんですから……っ」
いつも勝ち、真ん中でハジケ続けているヒーローに、メジロの歴史を背負って、1番人気を裏切って、出走することすら許されなくなった死刑宣告の絶望が、理解できるわけがない。そうクーパーは思っていた。
しかし、ケイジはフッと、少しだけ寂しそうに口元を緩めた。
「無敗、ねぇ。……なぁ、クーパー。お前、あたしが一度も負ける恐怖を知らなかったと思ってんのか?」
「え……?」
「例えば、あの皐月賞の時だ」
クーパーにとっては思い出したくもない敗北。自分の人生の歯車が狂ったきっかけ、挫折を味わった瞬間だったからだ。
それでもケイジの話を拒否することなく、むしろ彼女がポツポツと語る言葉に耳を澄ませる。
「先頭を行くお前に粘られたタイミングで、そこにあのゴールドシップがワープしてきたみたいに猛追してきただろ。あの時よ、あたしの頭の片隅に、一瞬だけ『敗北』の二文字が過ったんだぜ?」
衝撃の告白に、クーパーの耳がピクリと跳ねた。
涙に濡れた澄んだグリーンの瞳が、初めて膝の隙間からケイジの顔を捉える。
「怖かったぜぇ。前ではお前が先頭を譲らず、後ろからはあいつの地響きみたいな足音が迫ってきた時はよ。……あたしだってヒーローぶっちゃいるが、無敵のサイボーグじゃねぇ。あの時ばっかりはあたしも内心ビビったよ。あいつが仕掛けてくることは何となく察していたが、それでもいざ来られるとなぁ……あの瞬間は、もし人生を何週かしても身構えちまうレベルだったぜ」
「人生を何週か……?」
「あくまでも例えだよ。それだけあの時ゴルシがやった追い込みと末脚はヤバかった。もしあたしが一瞬反応が遅れていたら皐月賞を獲ってたのはあいつだったかもしれないほどにな」
素っ頓狂な例えを出されてメジロクーパーは目を丸くするが、ケイジがゴールドシップをライバル視して意識していることは十分に伝わってきた。
「そこまでライバル視しているのに……」
「何故パドックであんなことをしていたのか?って聞きたそうだな。そりゃぁ、あいつとバカやってるのが楽しいからだよ。それはそれとしてレースでは容赦しねぇがな。それはあいつも同じだ。……お前だってそうだろう?」
「……」
レースには常に全力で挑む───その通りだ。
肯定せざるを得なかった。
しかし、クーパーの中に僅かに残ったプライドが、彼女の首を縦に振らせなかった。
「お前のトレーナーがダービーを回避させたのはお前を見捨てたからじゃねぇ、お前を潰れさせたくないって思ったはずだ」
クーパーの胸中に再び渦巻くドス黒い感情。
「あなたに何がわかる?」と口を突いて出そうになった時だ。
「あたしもな、レースローテでトレーナーと喧嘩したんだよ」
「……え?」
「特に揉めたのは
「……どうしてそこまで?」
何故そんな無茶をしてまでこのレースに出て来たのか。
クーパーには理解できなかった。だが、次に出た言葉がその無茶をした理由と、「ケイジ」というウマ娘の本質を理解させるに十分なものだった。
「それはな……
「前人未踏の地……?」
「そうだ。……思い出してみろ。クラシック三冠を達成したウマ娘ならこれまでに6人か7人いるはずだ。だが、NHKマイルカップを含めた四冠を達成したウマ娘は誰もいない。その誰も達成したことがない
ここでクーパーの胸中で渦巻こうとしていたドス黒い感情は霧散した。
そして、このケイジというウマ娘は、「怪物」であり、「強者」でありつつも、「挑戦者」であり、「夢を見る者」でもあるという事にクーパーは気付かされた。
それは無謀とも思える挑戦、しかし、成し遂げた者が未だにいないからこそ、その頂に立つ事の重みがクーパーにも理解できた。
かつてメジロのウマ娘としての皐月賞初制覇を狙って夢破れた苦い経験が皮肉にも理解を後押ししていた。
「……まぁ、その四冠だって簡単に獲れてもつまらない。だからこそ、あたしは、お前やゴルシやジャスタ、スミちゃんや、ジェンティル、シーナやフェノ、あとは
「!」
普段はゴールドシップと漫才芸のようなことをしてふざけ倒して周りを爆笑の渦に叩き込んでても、レース本番ではフェアだが全力で容赦なくバイタリティとフィジカルで他のライバルたちを捩じ伏せる。それがケイジというウマ娘だ。
それに、
《どんなレースであろうと楽しめる自分でいたい》───それはクーパーの元ルームメイトであり、目を掛けてくれる先輩でもあるハルノウラワが度々口にしている心情でもあることに、クーパーは気付く。そして、
(ケイジさんは、ハルナさんと似ているかもしれない……)
クーパーはケイジとハルナに、そのような意外な共通点があった事に内心驚いていた。
「ダービーに出るか否か、……ここから先のことはお前のトレーナーにもう一度聞いてみることだ」
「え? で、でも……」
「出たいんだろう? 日本ダービー。もし日本ダービーを走るつもりならば、あたしはまた皐月賞の時のように、今日のレースのように、全力でお前の快速を相手にしよう。だが、お前の事を潰したくないというトレーナーの思いも嘘偽りがないものだった。もう一度話し合ってみろ。それにだ……あたしが認めた快速だ。お前の足は間違いなく地面を蹴る時に誰よりも重くて、いい音させてた。……だからこんなところで腐ってんじゃねえよ。な?」
怪物の口から語られた、初めての「恐怖」と、走者としての痛烈な共感。
そして、自分を見捨てたわけではなかったトレーナーの真意。
ケイジの無骨で、だけど誰よりも人情味に溢れた大人な言葉が、クーパーの頑なだった心の氷をじんわりと、確実に溶かしていく。
「……っ……、う、あああああ……っ!」
張り詰めていた意地が崩れ落ち、クーパーは再び声をあげて泣いた。だけど、今度の涙は、先ほどの控え室のような閉ざされた絶望の涙ではなかった。
「……ケイジさん、やっぱり凄いな……」
「マジそれ。あのハハハって笑ってる時とギャップありすぎっしょ……」
実は、こっそりとウインバリアシオンとトーセンジョーダンが息を潜めてこの会話を聞いていた。
控え室を飛び出したクーパーを追いかけてきた2人だったが、先にケイジがクーパーの心に真っ直ぐ切り込んでいくのを見て、今は見守るべきだと判断したのだ。
「ほら、泣き止んだらさっさと行くぞ。バックダンサーでも客席からでもいい。あたしのウイニングライブ、特等席で見せてやるからよ」
ケイジはいつものハジケリストの笑顔に戻り、大きな温かい手を差し伸べた───。
───NHKマイルカップの翌日。
東京・京都・新潟、それぞれのレース場で出走していた中央トレセン学園の生徒たちには、「リカバリー休暇」というものが与えられる。
レースというものは重賞であろうと未勝利戦であろうとメイクデビューであろうと、ウマ娘の心身に想像以上の大きな負荷を与える。
そのため、レース直後の過度なトレーニングによる怪我を防ぎ、精神的な疲労をリセットさせるための体調管理規則として採用されたものであり、中央で一定の成果が出ると、地方でもこれに倣って「トレセン」という看板を掲げている学園に順次導入されるようになった。
中央トレセン学園では最低でも丸一日のクールダウンが推奨されている。
だからこそ、チーム[カペラ]のミーティングルームにメジロクーパーの姿がなくても、それは制度に則った正当な不在だった。
けれど、彼女がいつも座っていた空席のパイプ椅子を見つめるトレーナーとチームメイトたちの胸には、言葉にできない重苦しい静寂が広がっていた。
「……クーパーのやつ、一体どうしちゃったの?」
沈黙を破ったのは、お気に入りのネイルを気にする風を装いながら、どこか落ち着かない様子でため息を吐いたトーセンジョーダンだった。
いつもならギャル特有の軽いトーンを崩さない彼女だが、その声は隠しきれない心配に曇っている。
それもそのはず、前述した通りクーパーは今日1日に限って言えば「リカバリー休暇」のために部屋に姿を現さないのも頷けるのだが、トレーナーのデスクの上には、そのメジロクーパーの名前が書かれた「休暇申請書」が2枚───つまり、明日と明後日も学園を休む旨を伝えてきたからだ。
ウインバリアシオンは俯いたまま、小さく首を横に振った。昨日、バックステージの倉庫裏でケイジがクーパーを諭す姿をジョーダンと共に陰で見守り、その後クーパーに付き添って美浦寮の入り口まで送り届けた彼女は、今も後輩の痛々しい傷を思い、きゅっと胸元を握りしめている。
「昨日、寮まで送った時は本当にボロボロだったんですけど……。今朝ハルナさんから『気分転換にクーパーを連れて出掛けてくる』って連絡があって」
「……そうか。あいつ、部屋で塞ぎ込んでるわけじゃないんだな。それならいい」
腕を組み、生真面目な顔で壁に背を預けていたフェノーメノが、いつになく低い声で言った。
しかし、
「いや、そもそもどこ行ったし?」
「ハルナさんと一緒に高知に行くって」
「え?何故高知?」
「ハルナさんはツアーの一環で高知でライブをするため。それに、クーパーさんに見せたいレースがあるって言ってて……」
「今日そんな重賞レースなんてあったっけ……?」
流石にジョーダンも全国地方レースのカレンダーまでは把握していない───もし、仮にそのカレンダーがここカペラの部屋に置いてあって、ハルナの背後関係をジョーダンが理解していたなら、きっと彼女でも察したかもしれない。
そうではないので、今ここにクーパーの姿がないのは、ジョーダンにとってつい不安になる状況であった。
「……もうっ! みんなしてそんなお通夜みたいな顔しないでよ! ピンチの後には、びっくりするような面白い展開が待ってるって相場が決まってるんだから」
「ちょ、クラちゃん……この状況でそれはマジで空気読めてないって」
「空気は
サトノクラウンは、どん底の空気に飲まれるどころか、その瞳に勝気で不敵な輝きを灯していた。
どんな逆境であれ、楽しんで見事にひっくり返して魅せる───それこそが彼女の美学であり、クーパーの快速を誰よりも信じているからこその突き抜けたポジティブさだった。
「……そうだよ。クラウンちゃんの言う通り! 一回や二回の負けくらいでへこたれる子じゃないでしょ」
ここで、茶髪のロングヘアを揺らすブエナビスタ*4*5がサトノクラウンに同意する。
彼女はフッと楽しげに笑って言葉を添えた。
桜花賞勝利の他、幼馴染且つ同期のメイショウサムソンとは日本ダービーで日本一の座を争い、秋華賞ではカワカミプリンセスとも激しい接戦の末に彼女たちを下して栄冠を手にした。
そんな彼女に与えられたのは“実質三冠ウマ娘”という称号。
この翌年には、イタリアG1のミラノ大賞典とドイツG1のバーデン大賞、そして日本へ帰国後にジャパンカップ*6も勝利しており、メジロシクローヌ・スイープトウショウ・ノイジースズカと並んだ四大女王として日本ウマ娘レース史の一時代にその名を連ねていた。
今ではドリームトロフィーリーグに移籍しているカペラ随一の元エースである。
そんな彼女の言葉には強者としての力強さが裏打ちされていた。
「みんなで落ち込んでたら、戻ってくるクーパーが気にしちゃうじゃん! 中二週の強行軍でボロボロになってるのは確かだけど、クーパーなら大丈夫。あの子ならきっと自力でどん底から這い上がってくるはず。それが私は今から楽しみで仕方ないよ?」
三冠の頂点に立つウマ娘だからこそ言える、絶対的な説得力。彼女の言葉には、数々のタフな激戦を潜り抜けてきた走者としての確固たる重みと、王道を歩んできたウマ娘ならではの、凛とした強さが真っ直ぐに滲んでいる。
しかし、そんな風にウマ娘たちが必死に前を向こうとしている中で─── デスクの向こうでは、カペラの女性トレーナーが、痛む胃のあたりを両手で強く押さえるようにして、真っ青な顔で頭を抱えていた。
「……いいのよ、みんな……。今は、あの子に時間が必要だから。……悪いのは全部、あの子の焦りを見抜いていながら、可能性に目を眩ませてゴーサインを出してしまった、私の弱さだから……。私は……指導者として、取り返しのつかない過ちを犯してしまった……」
(うわ……。うちのトレーナー、クーパーのメンタルより先に自分の胃に穴あきそうなレベルで重症なんだけど……)
自責の念に駆られ、血を吐くような思いで小さく震える女性トレーナーの姿を見て、トーセンジョーダンは心の中でギャル特有の呆れと心配のツッコミを入れ、天を仰いでいた。クーパーを信じたからこその、すれ違いの悲劇。
この部屋で一番「リカバリー休暇」が必要なのは、案外この目の前の指揮官なのかもしれなかった。
東京にいるカペラのチームルームがお通夜状態だった一方、時間をやや飛ばしてその日の夜。
既に夕日は沈み、よさこいナイターの時間に突入していた高知
【レディース&ジェントルメン! 皆様大変にお待たせしました! 本日のメインレースは高知が産んだ名トレーナーの名前を冠した『福野洋一記念*7』! その前に、これまた今日のメインイベント! 遥々、東京から全国の地方競バ場を巡って各地のウマ娘ファンに笑顔を届けるため、馳せ参じたるはチーム[ファル&ハルナ with Caravan’S]! その旅も来月の帝王賞で終幕の予定ですが、そんな彼女たちがここ高知レース場に足を運んでくれました!】
「「「わあぁぁぁぁぁっ!」」」
高知レース場の時計が19時15分を指した時、特設ステージは、地方レース場独特の地鳴りのような熱い歓声に包まれていた。
観客たちの中には
そして今日の各レースの幕間では、チーム[ファル&ハルナ with Caravan’S]のメンバーたちが各々ソロ曲を披露していたので、次の10曲目は9人全員で歌う。
集まったのは老若男女、見渡す限り人、人、人、たまにウマ娘に人という大勢の観客。
そのライブ席の、後方列だが見渡しの良い場所に、中央トレセン学園の紫色のセーラー服を着たウマ娘が1人、その中に紛れて立っていた。そのウマ娘は銀髪の左前髪側に薄いピンク色のメッシュが入っており、毛先は青く染まっている───メジロクーパーだった。
彼女はこの高知への旅に誘った張本人に強引に手を引かれて特設客席の一角に座っていたのだが、現地に来て早々この熱気に驚きつつも、同時に興奮を抑えられずにいた。
【では聞いてください、『UNLIMITED IMPACT』!!】
司会進行に沿って、伴奏が流れ出す。
一瞬会場が暗闇に包まれ、サーチライトがステージ上を右往左往する。
そして次にパッと明るくなると、9人のウマ娘たちがステージ上に立っており、曲に合わせて振り付けを踊り始めた。
歌唱のトップバッターを務めるのは、クーパーを
ハルノウラワ、オオエライジン、ハルウララ、キングヘイロー、エスポワールシチー、グランシュヴァリエ、クロススキッパー、メジロシクローヌ、そしてスマートファルコン。各々自分自身の勝負服を着た9人によるUNLIMITED IMPACTの熱唱が無事に終わると、観客たちから歓声と拍手が巻き起こった。
クーパーも周りの観客たちと共に歓声の中でサイリウムを振る。
彼女がこの場で観て肌で感じたのは、名門メジロが至高とする芝の優雅な輝きではない。泥にまみれ、砂を蹴散らし、逆境の底から力尽くでトップへ這い上がらんとする、泥臭くも猛々しい歌声と、それを出迎える咆哮のような歓声だった───。
───それは、今日の早朝のことだった。
「クーパー! 一緒に来て!!」
そう半ば強引に手を引いてくれたのがハルナことハルノウラワだった。
昨日の今日で抜け殻のようになっていたクーパーには丸っ切り抵抗する気力も起きず。あれよあれよと言う間に高知行きの飛行機に乗せられていた。
「ハルナさん……いきなりどうして?」
漸くクーパーの頭が回り始めた頃には飛行機は離陸して30分ほど経っており、そんな質問を隣の席に座って芋けんぴを齧っていたハルナことハルノウラワに尋ねた。
「私の故郷を見せたいのと、あと、高知レース場でライブイベントがあって……昨日のレース、テレビで観てたけど、ブエナちゃんに聞いたよ。酷く落ち込んでたって。だから気晴らしにと思って、ちょっと強引だけど連れてくことにした」
なお、カペラのトレーナーのデスクに置かれていた「休暇申請書」は、ハルナがブエナとシオンを説得して彼女が代筆したものだった*8。
そしていざ高知レース場について見れば、老若男女、大勢の観客が朝の比較的早い時間から正門前に列を成していた。
仮に一般観客席だったなら暫く入場すら無理そうな状態だったが、そこは流石に特別ライブのために集まったチーム[ファル&ハルナwith Caravan'S]なので、特別に許可証を得て裏口から入ることを許されたため、一足早くスタンド席4階の特別観覧席の指定席に陣取れた。
この時点で最初のレースが始まる3時間前だったが、特別観覧席から見下ろした一般観客席は予想に違わず大混雑の様相を呈していた。
「すごいでしょ、クーパー」
「確かに……ですが」
「うん、言いたいことはわかる。府中に比べると確かにね?」
クーパーが言いたかったことをハルナは先回りする。
高知レース場の目下の混雑ぶりから今日は大盛況だろうと予測できる。しかし、その規模といえば、府中にある東京レース場と比べれば幾分物足りなさを感じるのがこの時点でのクーパーの正直な感想だった。
「だけどね、クーパー、砂の上を走るみんなの熱気だって中央に負けてないよ。それに今日はね、私のおじいちゃん……『福野洋一』の名前を冠した、高知ウマ娘たちの特別なお祭りなんだよ」
「福野洋一……って、えっ!!? は、ハルナさんのお祖父様が!?」
ハルナの祖父、福野洋一。
かつて中央で不世出の天才と呼ばれながらも、地方のファンからも熱狂的に愛された伝説の存在。
その名は既に日本ウマ娘レース界の歴史書に刻まれた存在であり、まさかその近親者が間近にいるなど考えもしていなかった。
その伝説のトレーナーの血を引くハルナは、コースに広がる砂の海を見つめながら、いつになく真剣な、真っ直ぐな瞳で言った。
「中央の芝のダービーだけが、ウマ娘が輝く場所じゃない。この砂の上で、泥にまみれて、それでも誰よりも速く駆け抜けるウマ娘たちの魂を……
そうハルナは言っていたのだが───。
───チーム[ファル&ハルナ]による応援ライブが終わると、クーパーは一足早く、高知レース場のスタンド席4階へと向かっていた。
その道中にて、ハルナに言われたことを思い返していたクーパーであるが、最初はその言葉を信じられなかった。
「わぁ……」
しかし、その意味を漸く理解できたのは、4階席から目下、メインレースを目前に控えた一般観客席と高知レース場のコース全体を見渡した時だった。
「……すごい、熱気……」
ハルノウラワたちによるライブの時にも感じたが、クーパーは再び観客たちの熱い歓声に圧倒されていた。
中央の華やかな芝コースとは違う。ここはコース一面がまるで砂の海だった。
しかも、今夜の高知のダートは稍重で水を少し含んだだけでダークグレー色に変色しており、一度照明の外の真っ暗な所に足を踏み出せば、ほぼほぼ真っ黒だ。まるで暗い海に沈んでしまいそうな錯覚すら覚える。
しかし、光の当たるところではそれが一変する。
高知レース場のダートの砂質は稍〜不良の水分を含んだバ場になると、カクテル照明に照らされた白砂が黒っぽく濡れて独特の光沢を放っている。
昼間のレースとは異なりナイター照明の光が湿った路面に反射するため、非常に幻想的かつ力強いレース風景が海のように広がっていた。
それに加えて、パドックから漂う熱気、ファンの声援、泥臭く、生きるための執念に満ち溢れているように感じた。
福野洋一記念*9のスタート地点はスタンドから遠い第3コーナーのポケット。ゲートのすぐ真正面に観客席がある形だ。
しかし、多少遠くても、現代にはテレビカメラとドローン、及びその映像を映し出すためのテレビモニターや大型ビジョンがあるので観客たちはレースが始まる様子を今か今かと興奮を抑えきれない様子でつぶさに観ていた。
そこでスターターが旗を振る姿がスタンド前の
♪京都・阪神競馬場用重賞競走ファンファーレ♪
ファンファーレの演奏が終わると、観客席からは歓声と拍手が響いた。
【さあ、大変お待たせいたしました! 今日のメインレースは高知が産んだ名トレーナーに捧ぐ第3回・福野洋一記念。高知の夜空を彩るのはURA関西の重賞ファンファーレと、今宵の祝いのために集いました出走ウマ娘たち。全員、高知トレセン学園所属です。リワードリメーン、ブレーヴキャンター、コスモワッチミー、シーアクロス、ジュライザセヴンス、ゴールデンコンパス、カツヨトワイニング、チュニジアンブルー、イーグルビスティーの9人によって競われます】
観客席からは遠目でわからないが、ターフビジョンの大画面には着実に1人、また1人とウマ娘たちがゲートインしていく姿がしっかりと映っている。
【最後に8番チュニジアンブルー、ゲートに向かいまして、えー、ゲートイン完了───】
僅かな間、永遠に感じられるほどの一瞬の後、ゲートのランプが赤く光り、そして一斉に開き、9人のウマ娘たちがダートの上へと駆け出していく。
【───スタートしました! 高知ケイバの大一番、第3回福野洋一記念! 各ウマ娘たちが第4コーナーを超えてスタンド前直線に入っていきます!】
9人のウマ娘たちが猛烈な勢いで地面を蹴り上げる。
その瞬間、客席のメジロクーパーの澄んだグリーンの瞳に飛び込んできたのは、中央の競馬場のような、パサついた乾いた砂煙ではなかった。
前夜の夜霧や散水のわずかな水分を吸って、まるで漆黒の泥海のように重く変色した、浦戸湾の海砂の塊───激しい黒砂の嵐がコース上に巻き起こる。
もし光のない所でこんなものを被れば前は見えなかったかもしれない、しかし、この砂とナイターの照明は、まるで化学反応を起こしたかのように、幻想的な風景を観客席から見守る人々に与えていた。
(やっぱりここの砂は水分を吸うと黒くなるんだ……! でも、すごく綺麗……!)
最初は照明の当たらない部分を広い海のように沈んでしまいそうな深い闇のように恐怖さえ覚えた。
しかし、水分を吸って黒っぽく変色したここの砂はナイターの照明に照らされると、光を乱反射して、スタンド前を通過していくウマ娘たちを輝かせていた。
そのウマ娘たちが砂を踏みしめた時に巻き起こす物凄い地鳴りと風圧は全面ガラス張りの観覧席にまで伝わり、クーパーの耳も激しく跳ねる。
(蹴り上げた砂が、後ろの娘たちに……!)
だが、それは決して幻想的で綺麗なだけでは終わらない。
前を走るウマ娘たちが蹴り上げた水分を含んだダークグレーの砂は、猛追する後ろのウマ娘たちに目も開けられないほどの黒砂の洗礼を浴びせていた。
観客たちを魅了する幻想的な光景は、同時に当事者である出走ウマ娘たちに牙を剥く黒い荒波でもあった。
つまり、目の前で繰り広げられているのは、儚くも重い「死闘」そのものだった。
【内から激しく先行争い! しかし、ここで上がってきた! コスモワッチミー上がってきた!!】
他を寄せ付けない圧倒的な気迫で、3番コスモワッチミーが先頭集団を引っ張っていく。
重く粘る海砂を真っ向から踏みちぎり、力尽くで推進力へと変えていく地方の強豪たち。地面を蹴るその足音が、中山の重バ場よりも遥かに重く、鈍く、高知の地面を揺らしていた。
《……あたしが認めた快速だ。お前の足は間違いなく地面を蹴る時に誰よりも重くて、いい音させてた》
───昨日、ケイジに確かにそう言われた言葉が、クーパーの脳裏に蘇った。
目の前で砂の海を猛烈に切り裂いていくウマ娘たちの、この地響きのような足音。
クーパーはここでふと思った。
中央の高速芝のスピード勝負ではケイジたちの圧倒的な大差の前にクーパーの快速は空回りし、心折られてしまった。
しかし、今の目の前で繰り広げられている泥を掴み、砂をねじ伏せるような激しい戦場。
もしかすると、
(……私ってば一体何を考えてるんだろう? 同じことを思って走ったNHKマイルカップは惨敗だったじゃないか……)
自分のトレーナーと喧嘩した原因になったレースローテ───自らのその傲慢な考えや思い上がりや焦りがあの過ちに繋がったのではないか。
そんな後悔が彼女の思い付きに必死にブレーキを掛けようとしていた、その時だ。
【さあ、短い高知の直線コースに向いた! 先頭は完全に突き放したコスモワッチミー!!】
「!」
いつの間にかレースは終盤のクライマックスに差し掛かっていた。
スピーカーから響く実況の声がクーパーを現実に引き戻し、目の前で繰り広げられる激走が暗雲に一筋の光を差し込ませた。
(でも……)
目の前の熱狂に心躍らないと言えば嘘になるし、むしろ、
(あの子たちの中で走りたい……!)
メジロクーパー。
彼女の生家は京都にあるが、幼い頃、茨城の親戚へ養子に出された。
それは物心着く前の記憶である───京都の
それほど茨城の養父母は、自分を実の娘も同然に接して愛情を持って育ててくれた。
そんな両親に不満はない。
茨城の跡取りを継ぐことは決まっているもののそれに対して不服もない。
しかし、妹との再会は、確実にその境遇にクーパー自身のコンプレックスとしてのし掛かっていった。
そんなクーパーが気を紛らわせようとした時───即ち、ウマ娘としての「走りたい」という本能に従った。
すると、その足は自然と北関東のトレセンやレース場のダートコースへと向いていった。
足利か宇都宮か群馬か───果たしてどこで初めてあのコースを走り始めたのかはもはや覚えていない。
しかし、砂を蹴る感触、舞う土埃、ゴーグル無しで初めて走った時は目が痛くなってつい泣いたこと。そんな一番最初に走った頃の記憶が脳裏に蘇り───そして自然と声が出た。
「……行け……」
彼女の胸の内に、青い炎が再び灯った。
【2番手争いは大激戦! 8番チュニジアンブルーが粘る、外から4番シーアクロス、2番ブレーヴキャンターも追い縋るが、先頭はコスモワッチミー完全に独走!】
「行け……行け、行けぇー!!」
【4バ身! 5バ身とリードを広げる! これぞ高知の絶対王者、コスモワッチミー圧勝でゴールイン!!!】
5バ身以上の差をつけて、黒い砂の海を完全制覇したコスモワッチミー。
ゴール板を超えて行った彼女に、いや、出走した全てのウマ娘たちに贈られる大歓声。
彼女たちの勝負服は砂だらけで、髪も汗と泥でぐしゃぐしゃだった。
けれどその姿は、昨日の府中では見ることができなかった───あるいは敗北か焦りに目が曇っていたせいで見落としたのかもしれないが───遥かに泥臭くも美しく、眩い輝きを放っているように思えた。
「……ね? やっぱり、すっごくかっこいいでしょ?」
「! ハルナさん!?」
いつの間にか隣の席に戻って来ていたハルナにクーパーは驚いた。
「……え? あれ? あの、ハルナさん? ウィナーズサークルに……居なくていいんですか?」
チーム[ファル&ハルナ with Caravan’S]のメンバーたちは、今日のレースのプレゼンターであり、優勝者や出走ウマ娘たちを労い、トロフィーや記念品を手渡していた。
また、遠目からでも初老の男性が彼女たちの引率として立ち会ってる姿も見えた。
そんなハルナが何故ここに戻ってきたのか。というかここに居ていいのか。クーパーは恐る恐るハルナに尋ねると、
「大丈夫よ。丘部さんがいるし。それにクーパーのことが心配だったからね。戻ってきちゃった」
「ハルナさん……」
「ごめん、お節介だったかも」
「いえ、いいんです、ハルナさん……ありがとうございます」
大歓声が鳴り響く高知競馬場。
4階の特別観覧席のガラス窓から、メジロクーパーとハルノウラワの2人は、眼下に広がる超満員のスタンドを見下ろしていた。
【さあ、第3回、福野洋一記念を圧倒的な強さで制しました、コスモワッチミーの表彰式がこれよりウィナーズサークルにて行なわれます!】
ウィナーズサークルには、本日の特別プレゼンターとして呼び込まれたスマートファルコンやハルウララ、キングヘイロー、エスポワールシチーたち[ファル&ハルナ with Caravan’S]のメンバーが、優勝したコスモワッチミーを笑顔で出迎えていた。
ハルナが眼下のメンバーたちに対してガラス越しに小さく手を振りながら、横にいるクーパーに尋ねた。
「ねぇ、クーパー。どうだった?」
「え?」
「さっきのレース。すごかったでしょ? あれを私はあなたに───」
【───えー、ここで、高知競馬場へお集まりの皆様へ、特大のサプライズでございますッ!!】
感想を聞こうとしたまさにその瞬間、場内アナウンスの、どこか興奮で震えた声がスピーカーから響く。
何事かと思ったら、その後に2人を待っていたのは───いや、それどころか、その場にいた全員が驚く
【本日この大一番の表彰式へ、このレースの冠名であり、かつて中央で活躍された伝説の元トレーナー……福野洋一さんが、皆様の前に駆けつけてくださいました!!!】
その瞬間、高知レース場全体が一瞬静まり返ったかと思えば、次の瞬間には大騒ぎになった。
地響きのような大歓声と、往年の熱狂的なファンたちによる絶叫に近い「洋一コール」と、万雷の拍手が、そろそろ祭りが終わりかけた哀愁な雰囲気を文字通り吹き飛ばして塗り替えた。
ステージの袖から車椅子を押されて現れたのは、白髪交じりの老紳士だった。
全盛期の非情な事故によって、自らの脚で立つ自由を奪われながらも、その瞳の奥には今なお鋭い勝負師の光が残っている。
「……えっ!? お、おじいちゃん……っ!?」
4階の席で、思わずハルナは席から転げ落ちそうになりながら立ち上がった。ガラスに顔を押し付け、目を丸くしてウィナーズサークルを見つめた。
今すぐあそこへ降りたい───そんな衝動に駆られそうになるが、
「ハルナさん……!」
「う、うん……。すごい人混みだね……。今は、降りられないや……」
クーパーに声を掛けられたハルナは、周りを見て冷静になった。
4階から1階へと続く階段も通路も超満員の観客たちで完全に埋め尽くされ、身動きを取ることすら容易ではなかった───これは、今は無理だ、諦めるしかない。
ハルナはもどかしそうに唇を噛み締めながらも、眼下のサークルをじっと見つめた。
車椅子の福野洋一は、プレゼンターのファル子たちからトロフィーを受け取ったコスモワッチミーの前へとゆっくりと進み出る。
膝をついて屈んだコスモワッチミーだが、そんな彼女に洋一は少し不自由な手で、泥と砂にまみれた彼女の肩をぽんっと叩き、優しそうな顔で口元を緩めていた。
遠目からでは洋一が何を彼女に伝えたのかはわからなかったが、それが4階席のハルナには、何か短い、けれど重い激励の言葉をコスモワッチミーへ手渡したのが伝わってくるようだった。
そして、クーパーも未だに疼いていた。
中央の、一点の曇りもない芝のマイラーたちとは違う。
重く粘る黒に近い海砂を、泥にまみれて力尽くでねじ伏せて勝ったウマ娘を、さらに伝説の天才が心の底から労っている光景は、客席のクーパーの胸の奥底を言葉にならない激しい衝撃で揺さぶっていた。
続いて洋一は、プレゼンターであるチーム[ファル&ハルナ]のメンバーたちとも握手をしたり、何か言葉を交わしたりしていた。
また、彼女たちの引率役を引き受けてくれた初老の男性は、洋一と親しげに何か言葉を交わしていた。まるで暫く疎遠だった戦友と久々に再会したかのように笑みを浮かべていた。
その洋一に、さらにハルウララとキングヘイローが何かを伝えると、洋一が自分たちのいる4階の観覧席に手を振ってくれたのがハルナにも見えた。
それに対してハルナとクーパーは2人揃って洋一に手を振り返した。
2人にとって今はそれが精一杯だった。
少なくともこの熱狂が少し落ち着くまでは身動きが出来そうにない───。
───なお、この日の高知開催は第11レースが最終レースだった。
【お客様にお伝えします。最終第11レースウイニングライブ終了をもちまして、本日の開催日程を終了します。高知レース場の閉門時刻は22時となっております。お帰りの際は、お足元や、お車・バイクの運転に十分お気をつけいただき、速やかなご退館にご協力をお願いいたします。本日は夜遅くまで高知ケイバにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りくださいませ】
場内アナウンスと共に、スピーカーからは「蛍の光」が流れ始める。
魔法が解けていくかのような儚さと共に、大部分の観客も、出走したウマ娘たちも各々が帰路に着いて去っていく。
空っぽになったスタンドに座って佇むクーパーに、隣に座ったハルナは優しく尋ねた。
「……さっきの質問の続きなんだけど、今日のレース、観ててどうだった?」
「そう……ですね……」
そう聞かれたクーパーは、胸元をきゅっと押さえた。
「……泥臭くて、重くて、でも……すごく、格好よかったです。中央の綺麗な芝のレースとは、全然違いましたけれど……みんな真剣で、必死で走ってて、怖いくらい迫力があって…… あんなにレースは凄かったのに、今はまるで……」
夜空を見上げると、あいにくと空は薄曇りで星は隠れてしまっていて、辛うじて月の光だけが見える程度。
そして、先ほどの喧騒はまるで夢だったかのように、同じ場所にいるとは思えないほどすっかりと静まり返っていた。
耳が痛くなるほどに静かになったスタンドで、沈黙を静かにゆっくりと裂きながら言葉を紡ぐ。
「……でも、見ていたら私もあんなレースに出てみたい、そう思えるほどに凄かったです……」
「……そっか」
それは偽らざる本心だった。
今日のレースを間近で見たクーパーは、その衝撃と興奮に影響されたお陰か、昨日に比べれば今の薄雲よりも気分は晴れており、その様子に少し安心したハルナは短くも優しく微笑んで応じた。
しかし、
「……だけど、まだ、その……」
「日本ダービー、諦めきれない?」
「……はい……」
まだ、諦めきれてはいなかった。それもまたクーパーの本心であった。
確かにカペラのトレーナーから日本ダービーへの出走を止められはしたが、あの後、ケイジに言われたことと、彼女のウイニングライブを観賞してからもう一度トレーナーと話し合って、「もう一度考えさせてほしい」と決定を昨夜保留にしてもらったばかりだ。
妹に誇れる姉になりたい悲願と、ケイジに見せつけられた圧倒的な実力差の間で、心は未だに揺れていた上、
「……うーん、どうすればいいんだろうね……?」
「ご、ごめんなさい、ハルナさん……でも、とてもじゃないけど、シクローヌ従姉さんには話せなくて……」
「あー……まぁ、わからないでもないかも」
実に面倒臭い話だが、クーパーにとって今の自分の悩みは、身内ではない部外者であるハルナ相手だからこそ話し易かった。
しかし、逆に身内である従姉のメジロシクローヌにだけは、この悩みを話すことなんて絶対に出来なかった。
仮に最適解を知ってる可能性があっても、凱旋門賞まで制したメジロの絶対的英雄を前に、1番人気を裏切って完敗し、日本ダービーへの出走をウジウジ迷っている惨めな自分を見せるなんて、叩き折れたとはいえ僅かにでも残った名門のプライドが絶対に許さなかったからだ。
そんな時、ハルナはあるものを見つけてしまう。
「……あれ?」
「ハルナさん?」
ハルナは席を立ち既にレースの喧騒も静まった空っぽのウィナーズサークルに向かい、クーパーはそれを追いかけた。
ウィナーズサークルのステージ上に落ちていたのは、
「財布……でしょうか?」
「それっぽいけど……これ多分スキッパーさんのだと思う」
「え?」
「あぁー……これ完全に落とし物ね……あっ」
「え?」
今度は何だろうか。
ハルナが視線を向けた先には、介助の人に車椅子を押されて去っていく人物の後ろ姿があった。
「……! ごめん、クーパー、これ、スキッパーさんに渡してきて!」
「え!? で、でも」
「多分まだ控え室にいるはず、お願い、代わりに行ってきて、まだ間に合うかもしれない!」
ハルナは慌てて、脱兎の勢いでその人物の元へと走っていってしまう。
1人その場に残されたクーパーは渡された忘れ物を手に、控え室へと向かう他なかった。
介助の人に車椅子を押されながら高知を後にしようとする初老男性。
その背後からタッタッタと誰かが駆けてくる足音を耳にして、男性はつい口元を釣り上げて微笑んでしまう。
介助の人に「ちょっとストップだ」と言い、歩みを止める。その足音の主がやってくるのを待ち、程なく現れると、その正体を老人は言い当てた。
「ハルナだな……?」
「え、おじいちゃん……!何で分かったの……?」
「事故ったとはいえ、このジジイは元トレーナー。耳はまだ衰えちゃおらんよ、かっかっかっ」
かつての名トレーナーとしての力はまだまだ衰えていないと自負するハルナの祖父───福野洋一はやや自虐的なネタを交えつつ身体を彼女の方に向けると笑ってみせた。
その姿にハルナにも笑みが溢れた。
ハルナは車椅子の前にしゃがみ込んで、その大きな、少し強張った手をぎゅっと握りしめた。
「おじいちゃん、本当にびっくりしたんだから! 来るなら事前に教えてよ! あんな状態じゃウィナーズサークルに行きたくても行けなかったんだから!」
孫娘の等身大の、少し拗ねたような、けれど愛おしさに満ちていた言葉。
福野洋一氏は、ゆっくりと首を動かし、愛おしそうにハルナを見つめた。手をゆっくりと持ち上げ、ハルナの頭を優しく、ぽんぽんと撫でた。
「暫く会わない内にすっかり大きくなったなぁ……元気にしてるか?」
「……うん!」
「聞いたぞ、コロとルームメイトだって?」
「うん! お陰様で一緒に楽しくやってるよ! 聞いて、私、この前のかしわ記念でも1着だったんだから!」
「あぁ、テレビで見てたさ……ただ、フェブラリーステークスはボロボロだったな?」
「あ、あははは……」
かしわ記念は快勝だったが、その一つ前のフェブラリーステークスは掲示板にすら残れないほどの大敗を喫した。
よりにもよってあれを見られてたか……いや、昨今ではレースの録画も配信も珍しい技術ではないので、見られることは時間の問題だったわけだが。
「まぁ、あのナコウトオトメオーが相手ともなればなぁ。決してハルナが弱かったわけではない、周りの娘たちもまた強かった、それだけの話じゃよ」
「面目ない……だから来年は必ず……」
「ハルナ。気負うな」
「おじいちゃん……」
「お前の活躍は聞き及んどるよ。だが、
「身体が資本」
「おぉ、ちゃんと覚えとるな? その言葉、決して忘れるでないぞ。無理をするでない」
「うん……」
偉大な大先輩であり、かつて中央で名を馳せた名トレーナーからの忠告を改めてハルナは胸に刻んだ。
その上で、ハルナは恐る恐る尋ねた。
「そ、その、おじいちゃん……」
「何だい?」
「その……どうだった?」
「どうだった、とは……あぁ、レースではなく、あの「馬鹿騒ぎ」のことか」
「う゛ぅっ……」
「わしには曲のことなどわからん。最近の曲というのは何を言っとるのかさっぱりだよ」
ウイニングライブの習慣はもちろん福野洋一が現役の頃から無かったわけではない。
しかし、彼が現役トレーナーだった頃は曲目は今よりもっと少ない上に、使われていた曲も全く違う。
そして何よりも地方と中央のウマ娘たちが肩を並べて、あろう事かレース場でライブイベントをするなどとても考えられない時代だった。
故に今回のような出来事を洋一は「馬鹿騒ぎ」と呼称したため、ハルナは少なからず凹んだ……いや、訂正。結構落ち込んでいた。辛うじて顔には出さなかったが。
しかし、
「だが……今日のお前は綺麗だったぞ」
「え……?」
「曲の内容はわからんし、スピードについて行けんかったし、他の曲の時は途中で寝ていたのも事実だ。だが、お前の曲の時はちゃんと見ていた。……何という曲かは分からんかったがな*10。英語はさっぱりだ。だが、頑張って歌っていたのは伝わってきたぞ」
「おじいちゃん……!」
「……よう、頑張ったな、ハルナ」
その深みのある瞳は、地方の砂の上で真っ直ぐに戦い、今日素晴らしいライブを作り上げた孫の姿を、誰よりも誇らしげに見つめていた。
「洋一さん、時間です」
「おっと、すまん。行かねばな……ハルナ」
「う、は、はい!」
「レースもライブもその調子で頑張るんだぞ? わしは応援しとるからな?」
「おじいちゃん……!」
洋一の進行方向は出口へ既に向いていた。が、去り際に洋一は拳を握り、片手を天に突き出すように上げて、言った。
「お前は、お前の道を行け」
「……うん!! ありがとう!!」
祖父と孫娘の短い会話。
しかしそこには、かつてウマ娘レース界の頂点を極めた伝説の「人間」が、今を全力で生きるウマ娘の孫の背中を、力強く押した瞬間だった。
ハルナは満面の笑みでその激励を受け取った。
一方、クーパーはクロススキッパーの落とし物をハルナに託されて、控え室へと向かっていた。
早くこれを渡してさっさと帰ろう───そう思っていたら。
〔……ふぅ。やっぱり砂のレースって圧倒されちゃうね〕
控え室の前まで来て、ドアをノックしようとしたらスキッパーの会話が聞こえてきた。
〔でも、彼女たちの走る姿を見ていると、どうしてもアレを思い出しちゃうよ……〕
〔何がかしらお姉さま?〕
スキッパーは誰かと会話しているらしかったが、その短い受け答えだけで会話相手が誰なのか分かってしまい、クーパーは一気に緊張して部屋に入るのを躊躇った。
〔いやほら、あれだよ、大井のG1……〕
〔大井のG1というと……東京大賞典?〕
クロススキッパーの会話相手は、紛う事なくメジロシクローヌ───メジロクーパーの従姉であり、出来れば今は会いたくない相手───だった。
ただ、シクローヌの答えにスキッパーは首を横に振る、すると、シクローヌは、「思い出したくもない」と言わんばかりに眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。
〔はぁ〜……アレですわね? ジャパンダートダービー〕
「!」
〔そう、それ……結局僕たち、どっちもそのレースを走れなかったよね……〕
今度こそはシクローヌの答えに頷くスキッパーであったが、疲れ故かあるいは未練のせいか、つい首を垂れてしまう。
一方、結果的に会話を盗み聞きする羽目になってしまったクーパーは、(日本ダービー以外の)
〔
そう溜め息を吐く従姉の姿を、クーパーが半開きのドアの前で見たその時だった。
「───そこで何をしている?」
「!?」
背後から響いたのは、重厚で深く、威厳に満ちた初老の男性の声だった。
驚いて口から心臓が飛び出しそうな錯覚を覚えつつ振り返ると、
「お、丘部さん……!?」
かつて中央トレセン学園に存在した名物チーム[プロクシマ]の元チーフトレーナーであり、メジロシクローヌを世界へと導いた名将がそこに立っていた。
定年を超えても第一線で暫く活躍し続けたが、メジロシクローヌが凱旋門賞に初挑戦した時期に病に倒れ、引退を余儀なくされた。
しかし、今ではその大病を克服し、この高知レース場でのトークイベントに今日はゲストとして招かれた。また目的地が同じということで、チーム[ファル&ハルナ with Caravan'S]の臨時引率役も引き受けた。
ちなみに、福野洋一とは同い年であり、中央トレセン学園でトレーナーをしていた頃は彼の同僚であり、良きライバルだった。
彼は鋭くも、どこかすべてを見抜いたような静かな眼差しで佇んでいたが、クーパーはその鋭い視線に少し萎縮し、つい小声になる。
「あ、あの、丘部先生……。これは、スキッパーさんの忘れ物で……あの、私……」
「みなまで言うな」
丘部は、クーパーの事情をハルナから事前に聞かされていた。
また、シクローヌの口からもクーパーと彼女の妹のことは聞き及んでいた。
よって、この一日引率役をする中でクーパーが従姉のシクローヌに対して激しく気後れし、皐月賞・NHKマイルカップでの敗北のショックと、それでも尚、日本ダービーへの欲望が捨てきれない悩みを隠そうとしていたことにも、プロの観察眼で既に気づいていた。
完全に怯えて縮こまるクーパーに、丘部は無言で手を差し出した。
「……え?」
「それ、私が代わりに届けよう」
「あ、はい……お願いします……」
スキッパーの忘れ物である財布を受け取った丘部は、ドアをノックする。
中から〔どうぞ〕と応える声があったので部屋に入る……その直前に丘部は財布を持っていない方の手の指先をほんの少しだけ口元に当て、『静かにしていろ』とクーパーにジェスチャーで示す。
丘部はクーパーをドアの前に立たせたまま、彼女の存在を中にいる2人に知らせることなく、そのまま、すっと控え室へと足を踏み入れた。
───これから自分たちが話す「真実」を、ドアの向こうで迷う少女に、あえて聞かせるために。
「……あ、丘部さん、お疲れ様です」
「おじさま。どうしましたの?」
「スキッパー、これお前の忘れ物だろ?」
「あ……っ!」
ここでクロススキッパーは自分の財布がポケットに無かったことにやっと気付く。
「全くお姉さまったら……」
「あ、あははは……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません、ありがとうございます」
スキッパーから謝罪と感謝の言葉を受け取り、彼女の財布を返す丘部。
「2人とも、もう遅いぞ。早く帰れ」
「は、はい」
「えぇ……」
スキッパーは少しの焦りを表情に浮かべたが、丘部はむしろシクローヌが声のトーンを落としたことが気になった。
「……2人で何の話をしていたんだ?」
「いえ、別にその……」
「話してみろ」
言い淀むシクローヌであるが、丘部は優しく問いかけて会話を促した。
すると一瞬の間を置いてシクローヌはポツポツと語り始めた。
「その……さっき話していたのは、ジャパンダートダービーのことです」
「ジャパンダートダービー……か?」
「さっきのレースの白熱ぶりを見ていたら、つい思い出してしまって……」
「そうよ……私もスケジュールさえ合えば、あの砂の上であっても、誰よりも強く圧倒してみせる自信があったのにって」
「あぁー……」
丘部はその話題を切り出されて僅かに目線を下げた。
「ジャパンダートダービーといえば……お前たちは2人とも出走出来なかったレースだな?」
「!」
改めてその話題が出てきたことに、ドア越しに会話を聞いていたクーパーの耳がピンッと立つ。
「は、はい……僕の時は皐月賞を勝ったは良かったけども……」
「疲労と消耗が激しくて、矢萩と私がお前を止めたな」
「……はい。確か、丘部さんでしたよね、僕にアイビスサマーダッシュに行かせるアイディアを出したのって」
「そうだったか……あぁ、そうだったな」
クロススキッパーは同期に、ネオユニヴァースやゼンノロブロイ、マヤノトップガンら、今でも日本のウマ娘レース史に名を刻むウマ娘たちがいた。
そんな強豪たちが集まるクラシック三冠路線の一冠目・皐月賞では、事実上のクロススキッパーとネオユニヴァースによる一騎打ちとなった。
雨の中、足元も視界も悪い中、クロススキッパーはハナ差で勝利したまでは良かったが、体が出来上がっていない中での激戦はスキッパーの身体に大きな負担と激しい消耗を与え、レース後の彼女は意識を失って暫く昏倒していた。
そのため、それから一年近くの間は
「私の場合は、桜花賞とオークスを勝ったけども」
「ラン……」
「分かってるわよ、お姉さま。確かに私もジャパンダートダービーに出たかった。だけど、私にとっては菊花賞と凱旋門賞がもっと大事だった。だから札幌日経オープン*11や丹頂ステークスへ行く必要があった。ね? おじさま」
「……そうだったな」
メジロシクローヌが走っていた頃の札幌日経オープンと丹頂ステークスは共に札幌の芝2600mで施行されていたレースだった。
丘部自身、果たしてメジロシクローヌが菊花賞の芝3000mを勝利するどころか、ちゃんと走り切れるかどうかが当時は確信を持てなかったため、この両レースを勝利できなければ秋華賞へ行かせる、というサブプランすら考えていた。
そのために、メジロシクローヌが走りたがっていたジャパンダートダービーを諦めさせた。
加えて、実はオークスではスイープトウショウと死闘を演じた結果の同着という戦績を叩き出していたことからも、その消耗と、慣れないダート戦への出走を丘部もシクローヌもリスクと感じて認識していた。
「……」
しかし、今更こんな話題が出てくるということは、いくら過ぎ去ったこととは言え、彼女たちの心の片隅に燻りを残していたのではないか?と丘部は思い、僅かな沈黙の後、彼女たちに頭を下げた。
「お、丘部さん!?」
「おじさま、一体どうして?」
「お前たちにはすまないことをしたな……」
「え!? な、何で丘部さんが謝るんですか!?」
「そうよ、おじさまは何も悪くない」
「だが、どちらにも私が決断に関与したのは事実だ。ジャパンダートダービーがお前たちにとってそこまで大切なレースだったなら、もう少し私も柔軟に考えるべきだった……」
「え、でも……」
「あの時の私は、……まぁ、言って仕舞えば矢萩も同罪になることだが、私の姪や孫みたいなことをしてやれなかったことが、どうしてもすまないと思ってるんだよ……」
「……アイルさんのことですね」
ここで言う丘部の「姪や孫」というのは、正確には「従姪孫」の間柄になるアイルトンシンボリの事を指していた。
それについてはシクローヌもスキッパーも周知の事実として知っていた。
丘部は顔を上げて続けた。
「アイルの時は……まぁ、半分、私が矢萩に担当を投げていた。当時でも私はすっかり老耄だったからな。あいつのような若さも、未熟ゆえの柔軟さもなく、だからこそ、矢萩にアイルトンシンボリを託したわけだ」
「……えぇ、そのお話は聞いてますよ」
「おじさま、その話は耳にタコが出来るほど聞いたわよ……アイルさんの持つ憧れに対して、現実を見せつつも新しい道を与えようとした、って」
「!」
その話を聞いていて、クーパーは朧げながらあることを思い出した。
いつだったかは忘れたが、ある時、アイルトンシンボリのインタビュー記事を目にした事がある。
その中で語られていたのは、アイルトンシンボリにとっての「挫折」と「再起」。
具体的には、アイルトンシンボリにとっての『ベスト』───クラシック三冠の夢───と、『ベター』───芝の中長距離路線から脱却してダート路線へと舵を切る───についてが語られていた。
その内容を思い出してみると、現役時代のアイルトンシンボリは、クラシック期にある決断を迫られたことから話が始まっていた。
端的に言えば、「(アイルトンシンボリには)ダートを走る才能はあったが、芝のクラシック三冠を獲りたい欲望もあって、そのどちらかを選ばなければならなかった」ということだった───それを思い出してみると、クーパーは気付いた。
(私……アイルトンシンボリさんと同じような悩みを抱えていたの……?)
「そうだ。ウマ娘の輝く場所を見極め、五体満足でそこに立たせることこそが、私たちトレーナーの仕事だ。だが、同時に、ウマ娘の夢を叶えることもトレーナーの使命だった……それを当時の私は忘れていたのかもしれないな」
「……ええ。わかっているわ、おじさま。だけど、夢見るだけでは上手く行かない。現実の私たちの手元に何があるか。それを私たちに見せながら、矢萩トレーナーもおじさまも私たちのレースローテを考えてくれたじゃない」
「矢萩トレーナーもカルマさんも丘部さんに射手園くんも、僕たちの全力を誰よりも信じて、壊さないように守ってくれた」
「えぇ……おじさまやみんななりに柔軟に考えた末の決断だったことは、私もお姉さまも理解しています」
「うん……丘部さんがいなかったら、多分僕はここに今立っていません」
実際、クロススキッパーがクラシック三冠から離脱してスプリンター・マイラー路線へのシフトは当時の世間では論争を呼んだ。
だが、結果的には丘部の見立てとアドバイスは正しく、スキッパーの担当トレーナーであり、チーム[ライジェル]のチーフトレーナーでもある矢萩と、当時サブトレーナーだった宮松明美ことフレアカルマらがその後の推移とトレーニング状況を慎重に慎重を重ねて決めていき、スキッパーに皐月賞以上の無茶をさせないように見守った。
これらが功を奏したことで、クロススキッパーというウマ娘は最終的に海外G1とダートG1を含む八冠を達成して現役を無事に終えることができた。
「私の時も、あの決断は必要な犠牲だったと思う。それでもおじさまは私の気持ちを汲んで次の年は帝王賞に出させてくれたじゃない」
シクローヌは、ジャパンダートダービーそのものは走れなかった。しかし、大井2000mを走れなかった悔しさは、翌年の同じ時期のシニアG1勝利で発散していた。
むしろ、丘部の現役最後に凱旋門賞を勝てなかったことの方がジャパンダートダービー未出走よりも心の傷が深かった。
もちろん、その無念も翌年にディープインパクトやスペリオルワンダーらの追撃を逃げ切って勝利して晴らしているが。
───ガタッ、とドアの向こうで、クーパーの靴が小さく床を鳴らした。
薄暗い通路の壁に背を預けたまま、彼女は溢れそうになる涙を必死に堪えていた。
語られたのは、プロのトレーナーたちの命懸けの判断と、戦略の歴史。
そして何より、丘部トレーナーが「あえて自分にこれを聞かせた」という無言のメッセージが、クーパーの胸を激しく締め付け、同時にとてつもない救いとなって広がっていった。
(トレーナーさんが私を止めたのも……私を見捨てたんじゃなくて、私の未来を守るため……。丘部さんたちが、シクローヌお姉ちゃんたちの進路を曲げてまで守ったのと、全く同じ、血の滲むような親心だったんだ……)
だったら……だったら、
(……ジャパンダートダービーだ)
クーパーはこの時、ついに日本ダービーへの未練を断ち切った。
そして、彼女を『もう一つのダービー』という選択肢に誘った。
(ジャパンダートダービーで……私は今度こそ……!)
それは決して、望んだ未来では無かったかもしれない。
しかし、不格好でも、再び立ち上がって挑戦する、今まで燻っていた火種、それが今彼女の中で「反骨心」と言う名の青い炎として燃え上がろうとしていた。
こうしてはおれない。
早く伝えよう。
(待ってて、トレーナーさん……!)
堪らずクーパーは駆け出した。
通用門を抜けて、いよいよコースの照明も落とされ始めて真っ暗になる中、足早に、がむしゃらに走る。
いつの間にか雲が晴れた高知の夜空には、月が浮かんでいた。
それは迷いを断ち切ったメジロクーパーに、新たな道しるべを照らしているようだった。
改めて、各パートのウマ娘たちの色分けはこんな感じです。
↓
ハルノウラワ
オオエライジン
ハルウララ
キングヘイロー
エスポワールシチー
グランシュヴァリエ
クロススキッパー
メジロシクローヌ
スマートファルコン
※太字は全員での歌唱パート
今回の話を描くにあたって2012年当時の「福永洋一記念」や関連する話や資料を何度も調べていましたが、この日の高知競馬場で起きたことはネタが特盛すぎてどれを今回の話でも使うべきか悩みに悩んだ末、こんなにボリューミーになってしまいました。
さらに、メジロクーパーは2012世代。
2012年世代といえばゴルシ。
そして個人的にゴルシといえばケイジ。
というわけで、今回は、零課様作の「ハジケリスト世代だろ!」の皐月賞の回とNHKマイルカップの回をモチーフとして、メジロクーパーの視点からウマ娘編でのお話を書かせていただきました。
だいぶ前からケイジとの共演を考えていた時点で「これを描くのは避けられない話だな」と考えていました。
かなり難産になってしまいまして、皆様お待たせして申し訳ありません。
とてもありがたいことにパドックのシーンは零課様よりプロットをいただきまして、それを原型にしてシーンの組み立てを行なわせていただきました。
ケイジとゴルシのテンションをどこまで自分なりに再現出来るかが個人的には苦労しましたが、久々のコラボで楽しかったです。
改めまして、零課様の全面協力に感謝します。
また、読者の皆様には零課様が現在連載中の「皇帝の友達」もどうぞよろしくお願いします。
おまけ・メジロクーパーのイラスト
◎勝負服姿
【挿絵表示】
◎中央トレセン学園の制服姿
【挿絵表示】