浦和の桜吹雪   作:Simca Ⅴ

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 とても遅くなって申し訳ありません!

 いよいよあのウマ娘が登場します。
 それと、実馬編で今まで明言を避けてきたレースを今回ついに出します。

 あと、grokやべぇ……キャラ生成が久々に楽しくなった。
 その代わり、お財布は大破しましたが……(|||OTL

 今回登場するシービスケットのイラストはTK氏からお借りいたしました。


ウマ娘編⑩「ウマドル・パート3」※おまけに特大付録あり・挿絵あり⭐︎ ※2026年10月11日更新

 ジャパンカップからおよそ1ヶ月後。

 中山レース場は年末最後の中央G1開催を迎えて大盛況であった*1。

 

【日本全国のウマ娘ファンの皆様、こんにちは。今年最後の中央G1開催の地、中山からお送りします。テレビ、または配信サイトのモニターより視聴の皆様、ご覧ください、中山におよそ15万人のウマ娘ファンが詰め掛けています!】

【クリスマスのこの日、皆様の夢が羽ばたく日。ウマ娘レースの神様という名のサンタがくれた今年最後のプレゼント。本日のメインレースは第56回有馬記念。あなたが夢を託すのはどのウマ娘でしょうか? 注目は、今回でラストランを宣言しているナカヤマフェスタ。今年は阪神大賞典を勝利して幸先のいいスタートを切り、イタリアではG1ミラノ大賞典で3着と善戦してからローマ賞を勝利しての凱旋帰国。キャリア最後のレースを白星で飾ってほしいところですが、その他にも強豪が揃っています。1枠1番に群馬から参戦のナコウトプカラ。群馬最強格のステイヤーは前走のジャパンカップ、6月の宝塚記念と今年後半は中央の芝レースにも積極的に参戦し、順調に勝ち星を積み上げています。そんな彼女たちの躍進に「ちょっと待った」を掛けようとするライバルたちは、今年のクラシック三冠ウマ娘オルフェーヴルを筆頭に、エイシンフラッシュ、ヒルノダムール、トーセンジョーダン、ヴィクトワールピサ、ローズキングダムらG1勝利を経験したウマ娘たちが勢揃い。アーネストリー、ルーラーシップ、トゥザグローリー、ジャガーメイル、レッドデイヴィス、キングトップガンら重賞ウマ娘たちも脇を固めています、史上最高の史上最強の有馬記念です。発走時刻は15時25分を予定しています】

 

 その放送をとある場所に用意された控え室で聞いていたハルノウラワは訝しむ。

 それは、「本当に今年が史(・)上(・)最(・)高(・)の(・)史(・)上(・)最(・)強(・)の(・)有(・)馬(・)記(・)念(・)と言えるのだろうか?」というちょっとした疑問だった。

 例えば、数年前に行なわれたディープインパクトが勝利した時の有馬記念も今年の勢いには負けていないし、それよりも前に行なわれた黄金世代が集結した有馬記念の伝説も未だに色褪せていない。

 ……だが、こんなことを誰かが言い出したら恐らくはベストレースに関しての終わらない議論が始まってしまうので、ハルノウラワは静かにそれを飲み込んで忘れることにした。

 それよりも彼女には仕事があった。

 

【えー……本日の中山レース場では、来年3月のドバイ遠征を以って引退するスマートファルコンのために結成されたライブチーム[ファル&ハルナ with Caravan'S]による特別ライブが実施されています】

「……え? 今何て?」

 

 一体今、アナウンサーは何と言っていた?

 何だか聞き捨てならないというか、あ(・)る(・)は(・)ず(・)の(・)な(・)い(・)単(・)語(・)がチーム名としてコールされていたような……?

 


 

 それは射手園トレーナーを説得してから数日後のこと───そのわずか数日の間に状況はどんどん進展していった。

 ステージ会場は無事確保、サプライズで仕込む予定の地方レース場には秋川理事長が各位説得、ほとんどの地方トレセン学園からは色良い返事が貰えて、トントン拍子に話は進んでいき、いよいよリハーサル一歩手前の段階まで来ていた。

 

「……という感じなんだけど、みんな、どう思う?」

「良いと思う!」

「異議なし!」

 

 この日は中央と地方の重賞やG1がない平日の木曜日であるにも関わらず、中央トレセン学園のとある空き教室に信じられないほどの大人数が集まっていた。

 今回のライブツアーに興味を持った者や、自ら積極的に参加を申し出た者たちなど様々。

 ハルノウラワを始め、チーム[セントーリ]と[ライジェル]の面々は当然として、ダート界を引っ張るウマ娘たちが集結していた。

 ハルノウラワにこのライブツアーのことを持ち込んだハルウララ、ワンダーアキュート、コパノリッキー、ホッコータルマエだけでなく、エスポワールシチーやトランセンド、ミラクルレジェンドにカラフルデイズ、ランフォルセなどなど中央のダート走者として活躍しているウマ娘たちに加えて、さらにはアイルトンシンボリに誘われて優雅に佇むファレノプシスや、トランセンドが誘ったらしきヴィクトワールピサの姿まであった。

 また、あの日チームルームにはいなかったが、チーム[ライジェル]のメンバーの1人であるハグロフォルゴーレも同席していた。

 

 これだけでも凄いと言うのに、今日この場には中央だけでなく、なんと地方の著名なウマ娘たちまで同席していた。

 まず中央トレセン学園に特別留学生として在籍しているフリオーソとオオエライジンの他、群馬からはナコウトプカラとグッバイテキサスとシャッタードスカイの3人、栃木トレセン所属の四連星・リアライズノユメ、エスエタンダール、メルキュールエリス、エリモエクレール。

 フリオーソと同郷のクラーベセクレタ、ハルノウラワの先輩である浦和のセイウンプレジャーとシムーンカルマ、さらに、遥々遠方から足を運んだと思われる高知所属のグランシュヴァリエに、福山のメジロトラベラーとカネマサコンコルド、笠松のトウホクビジンやラブミーチャン、そして中津からやってきたアウラヴェルナとナコウトオトメオーの姿まであり。

 また、どこのコネを使ったのかはさっぱり分からないが、彼女たちを見守るかのように教室の後方にはレジェンドウマ娘たちまでもが軒を連ねていた。

 

 そんな時、ガラガラッと教室の扉が勢いよく開くと、

 

「お疲れ様~! みんな、こんな放課後に集まって何のお話をしてるの~☆……って、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?何これ、どういう状況なの!?」

 

 いつものウマドルスタイルとスマイルで颯爽と現れたのはこのライブツアーの中心人物───スマートファルコン本人である。

 普通なら彼女が同じ教室に現れたなら間違いなく教室にいる側が驚くものだが、今回は逆にスマートファルコンが絶叫にも近い驚愕の声を出していた。

 

「みんなこんなに集まって……え、ね、ねぇ、あなたは地方トレセンの人だよね!? 一体どうしてこんな所に……!?」

 

 この教室に集まった面々にスマートファルコンは面食らう。

 

「よ、久しぶり」

「お久ぁ、ファル子ちゃん」

「前走ではやられたけど、改めてJBC三大競走制覇おめでとう」

「それはそれとしてなんでJBCレディスクラシック出ないで引退するの!? 中途半端にも程があるでしょ!!」

「こらっ、カラフルデイズ失礼でしょ!」

「でもさぁレジェ……」

 

 この場には現役・引退問わずダート界で活躍した各トレセン学園のウマ娘たちが集まっているが、彼女たちのほとんどがハルノウラワと同様にスマートファルコンの引退記事に衝撃を多かれ少なかれ受けたことは見てとれた。

 そこへみんなを代表するように歩み寄ってきたのが、他ならぬハルナであり、

 

「スマートファルコンさん、そ、その、初めまして!」

「ハルノウラワさん! JBCの時以来だね!」

「! 覚えていてくださったんですね!?」

 

 ハルノウラワとスマートファルコンが握手を交わす。

 ハルノウラワは確かに今「初めまして」とは言ったが、実は11月初旬に大井でJBCが開催された時、スマートファルコンらJBCステイヤーズに出走したウマ娘たちにパドックから声援を送っていた。

 あの時のハルノウラワは(同日のJBCレディスクラシックに出走していたとはいえ)、あくまでも観客の1人に過ぎなかった。

 そんな群衆の中に紛れていたというのに、スマートファルコンはハルノウラワのことをよく覚えていたようだった。

 

「もちろん! あなたのことは覚えてる! 応援ありがとう。それに、JBCレディスクラシック優勝おめでとう!」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 そこへ、スマートファルコンをさらに驚かせる存在た(・)ち(・)が教室の後方から歩み寄ってきた。

 

「スマートファルコンさん」

「あ、はぃ…って!? あなた方は、ゴーアレディさんと、トロットサンダーさん!?」

「わたしもいるわよー?」

「ハイセイコーさんまで!?」

 

 教室の後方に控えていた人物たちの姿に、スマートファルコンは思わず我が目を疑い、これが夢か現かつい疑ってしまう。

 

 トロットサンダーとゴーアレディ。

 かつて埼玉に存在した浦和トレセンと野田トレセンのそれぞれの代表格のような存在。

 浦和でデビューした後、中央でG1を2勝以上した“雷帝”トロットサンダー。

 全国各地の地方レース場を走り、その足跡を残してきた“貿易風の令嬢”ゴーアレディ。

 

 そして、言わずと知れたウマ娘界の生ける伝説のアイドル、ハイセイコー。

 幼き日のスマートファルコンがウマドルを目指したきっかけを与えた張本人である。

 

「大事な後輩ちゃんたちのためならあたしらも一肌脱ぐのさ」

「全くあなたは格好付けちゃって……」

「そう言うレディも断れなかっただろ?」

 

 夕闇が迫る窓際で、トロットサンダーとゴーアレディが楽しげに談笑し、中央に立つハイセイコーが腕を組んだまま、ふんわりとした温かい微笑みを浮かべて声をかけた。

 

「あはは、相変わらずいいリアクションをしてくれますね、ファル子ちゃん。ちょっと騒々しいですけれど、元気があってとても素敵ですよ」

 

 スマートファルコンは全開だったウマドルモードの笑顔を引っ込め、驚きのあまり背筋をピンと伸ばして姿勢を正した。

 ハイセイコーは優しく穏やかな瞳でスマートファルコンを見つめ、諭すように、しかし確かな敬意を込めて語りかける。

 

「わたしたちの大切な大井の土を踏んで、地方の魅力を全力で背負って走ってきたあなたの引き際ですからね。どうしても気になって、みんなで見にきてしまったんです。……あなたはわたしのように、地方の期待を背負って中央の強い人たちに真っ向から挑む道は選びませんでした。代わりに、自分で全国の地方レース場へ何度も足を運んで、泥にまみれながら、誰も見向きもしなかった砂の上に、誰もが笑顔になれる本当に素敵な場所を創り上げました。……あなたが一人で一生懸命に戦い抜いてきたあの毎日のことをね、わたしは心から誇りに思っていますよ」

 

 レジェンドからの、誰よりもファンを笑顔にする難しさを知る大先輩だからこその、温かく重みのある賛辞。

 スマートファルコンは一瞬だけ胸を詰まらせ、それから、本当に嬉しそうに背筋を伸ばした。

 

「ありがとうございます……! 私のウマドル道、間違ってなかったって、ハイセイコーさんにそう言ってもらえるのが、何よりのご褒美です……!」

「ふふ、だったらその素敵な場所を、次に続く新しい世代の子たちに、綺麗にバトンタッチしなくてはいけませんね」

 

 ハイセイコーは黒板に書かれた『スマートファルコン with Caravan’S』という文字を見上げ、おっとりとした微笑みのなかに、時代を背負ってきたスターとしての絶対的な気高さを覗かせて微笑んだ。

 

「まさか、私の引退ライブのために、みんな集まってくれたの……!?」

「はっはっは、驚いた?」

「さっきの顔は傑作だったのぉ、遥々高知くんだりから来た甲斐があったってもんだ」

「砂のハヤブサに我奇襲に成功せりってね」

「1人でしんみり引退するか、ワンマンライブで終わらせる気だった?」

「そうは問屋が下さないよ」

 

 スマートファルコンの目の前に集まったのは、彼女がいる中央トレセン学園のウマ娘たちだけでなく、地方でも度々競ってきたライバルたち。

 

「みんな……! ありがとう……!!」

「礼ならハルナに言ってほしい」

「そうそう。何せ……ハルナちゃんに、ぃや、ハルナちゃんから《スマートファルコン引退記念ライブ》の話を聞かされてね」

「居ても立っても居られなくなっちまってな。で、みんなが都合のいい日に集まったら、こーんなことになっちまってたというわけさ!」

「ハルノウラワさん……が? みんなを?」

 

 フリオーソが、思わず口を滑らせそうになったシャッタードスカイを小突きながら、この状況を作り出した張本人を讃えるかのように言い、一方でグランシュヴァリエは「蓋を開けたらビックリ」と言わんばかりの顔とリアクションを見せて驚きを表現した。

 ハイセイコーはゴーアレディとトロットサンダーに視線を送り、彼女たちがそれに応える素振りを見せるとハイセイコーは腕を組み直し、ふんわりとした温かい微笑みと同時に、プ(・)ロ(・)と(・)し(・)て(・)の(・)顔(・)をハルナたちに向けた。

 

「さて、チーム名も決まった事ですから、皆さん。やる事は一つですよ?」

「……はい!」

「よろしくお願いします!!」

 

 皆の代表のように思わずそう応えたのはハルナとファル子だった。

 他の生徒たちもハイセイコーのその言葉に息を呑み、唾を飲んだ。

 この後待ち受けているのは、レジェンドウマ娘たち立ち会いのリハーサルであることを皆知っていたから───。

 


 

 ───それはそれとしてハルナはちゃんと覚えていた。

 チーム名は確かにその場にいたほぼ全員の賛同で[スマートファルコン with Caravan’S]に決まったこと。

 あの後、ハイセイコーたちの監督と指導によるリハーサルを行なってライブの練習や曲目の調整を行なっていたことも。

 

【今日のチーム[ファル&ハルナ with Caravan'S]のよる特別ライブは、第9競走ホープフルステークスのセレモニー後に開催します!】

【本日はホープフルステークスと有馬記念でG1が連続しますが、それに加えて今年はスマートファルコンの引退ライブツアーも重なるためかスタンドが例年にも増してさらなる混雑を見せています。迷子や落とし物・お忘れ物には皆様ご注意くださいませ】

 

 ……やはり聞き間違いではない。

 有馬記念の前に1曲歌うことは事前のリハーサル通りだというのに何故かチーム名が違う?

 そもそも何であのネーミングに……?

 

「あっ! ハルナさんまだ着替えてないのですか!?」

「は、ハイセイコーさんにフォルさんたちも!? あ、あの、アナウンス聞いてました? 何でチーム名が───」

「そんなことより、早く着替えなきゃ、でしょ!?」

「あ。あぁっ、そうでした……って、あれ!?」

 

 ハルノウラワ、思わず青ざめた。

 

 今回のライブツアー。

 参加するウマ娘たちの裁量で「ライブは各々の勝負服を着て行なう」ということになった。

 もちろん、それを提案したのもハルノウラワ自身である、なので、今日はレースではなくても勝負服は必須ということで衣装を納めた鞄を肌身離さず持ってきた。何なら、昨日寝る前に中身を確認した時は確かに入っていた。

 

 ところが、今それを開いたら、鞄の中身は空っぽになっていた。

 

「そんな……どうして……!?」

「ハルナさんどうしましたの……あぁっ! 勝負服を忘れてしまいましたの!?」

「あら、それは大変。どうしましょう」

「あぁぁぁぁ……どうしよう……! 折角のライブ失敗できないのに……っ!!」

「ハルナちゃん……」

 

 狼狽しながら落ち込むハルナ。

 それを見たハイセイコーは、ハルナを励ましつつ、ハグロフォルゴーレ(フォル)とファレノプシスとアイルトンシンボリたちに目配せをし、

 

「……あぁっ!そうだ!ア(・)レ(・)が使えるかもしれませんわ! ハルナさん、ちょっとご一緒によろしいですか?」

「え……? ちょ、ちょっとフォルさんアイルさんファレノさん!?」

 

 何かを思い出したかのようにハグロフォルゴーレは、アイルトンシンボリ、ファレノプシスらと一緒にハルナを部屋から連れ出し、隣の控え室に向かった。

 慌ただしく部屋を出ていく4人の背中を見送ったハイセイコーは、誰も居なくなってからこう呟いた。

 

「……ここまでは順(・)調(・)っと───」

 


 

 ───レジェンドのウマ娘たち監修によるリハーサルは数日間行なわれることになったのだが、3日目の朝早くのこと。

 

「あの……ハルナさんがいませんけど……?」

 

 カネマサコンコルドは、教室の壇上に上がったスマートファルコンやレジェンドたちに恐る恐る尋ねる。

 彼女が戸惑ったのも無理はない。

 今回のライブツアーに関わるウマ娘たち全員のLANE*2に、『朝7時に教室へ集合』というメッセージが送られてきたので集まってみれば、そのメッセージを受け取ったらしき全員が空き教室に揃っていた。ハ(・)ル(・)ノ(・)ウ(・)ラ(・)ワ(・)を(・)除(・)く(・)全(・)員(・)が(・)である。

 

 寝ぼけ眼を擦る者、欠伸をする者、朝練の帰りだったらしくジャージ姿で着席している者などなど。

 そんな彼女たちを前にしてスマートファルコンは開口一番に感謝と謝罪を述べた。

 

「みんな、こんな朝早く集まってもらってごめんね。けれど、どうしてもこれはみんなに言わなくちゃいけないことなんだ。それも、ハルノウラワさんには内緒でお願いしたい」

「……もしかして、ハルナに何か問題が?」

 

 スマートファルコンのその発言にまず良い顔をしなかったのはオオエライジンだった。

 彼女のLANEには特に、前述のメッセージに続いて、『ハルノウラワちゃんを起こさないよう、気付かれないよう、内緒でお願い』との一言が添えられていたから余計に彼女は勘繰ってしまった。

 

 その疑念に対してスマートファルコンは、

 

「とんでもない! ハルノウラワさんのお陰でみんなが集まってくれて、楽しいライブツアーになりそうなのに、仲間外れになんてしないよ! だけど、あの人には、ライブ当日までみんなに内緒にしてほしいことがあるんだ」

「……つまり、ハルナに対するサプライズを用意する?」

 

 セイウンプレジャーの鋭い指摘にスマートファルコンは自信を持って頷くと、緊迫していた場の空気が少し緩んだ。

 続けて今度はスマートファルコンがゆっくりと黒板に向き直り、この場にいるすべてのウマ娘たちを見つめ、真剣な、しかし深く感謝の混ざった瞳で頭を下げた。

 

「みんな、私のために集まってくれて、素敵な名前を考えてくれて本当にありがとう。……でもね」

 

 スマートファルコンはチョークを手に取り、木曜日に描かれたまま残っていたチーム名に横線を引いた。

 

 『スマートファルコン with Caravan’S』

 

「え?!」

「ちょ、ちょっと!? 決めるのに時間掛かったのに!?」

 

 中央地方問わず他のウマ娘たちから抗議が飛ぶのだが、

 

「静かに!」

 

 ファレノプシスが一喝して教室は再び静まり返る。

 彼女とファル子が目配せをし、ファル子は横線を引いた《スマートファルコン》の代わりに、別の名前を用意した。

 

 『─────────(ファル&ハルナ)with Caravan’S』

 

「ファル&ハルナ……?」

「うん……私、このチームの正式な名前は───[ファル&ハルナ with Caravan’S]にしたいんだ」

「えっ……? 改名、ですか……?」

 

 その突然の提案に、教室内が再び響めく。

 [ファル&ハルナ]。

 言うまでもないことではあるが、スマートファルコンの愛称である「フ(・)ァ(・)ル(・)子」と、ハルノウラワの愛称である「ハ(・)ル(・)ナ(・)」を並べて「&」で結んでいる。

 しかし、この名前の並びと、ワンダーアキュート、ホッコータルマエ、コパノリッキーを始めとする中央のウマ娘たちは、ファル子の表情を見た瞬間、その「本意」を瞬時に察した。

 

 スマートファルコンは今でこそ「ウマドル」とか「砂のハヤブサ」とか「ダート界のアイドル」として知名度を広げていた。

 だが、それ故に、『彼女が引退した後の空席を誰が埋めるのか』という議論も度々起きていた。

 特にスマートファルコン本人の引退宣言が号外として出てからは、それがネットだけでなく実生活でも口にする人が増え始めて議論が加熱している。

 

 そんな世間一般の議論に対するスマートファルコンなりの回答が、この名前に込められていることを3人はすぐに察した。

 特にホッコータルマエは、

 

(ファル子さんは、自分のバトンをハルナさんに手渡すつもりで……!)

 

 ホッコータルマエはハルノウラワと年代は近い。

 つまり、本来であればこの役目を負うのはタルマエでもおかしくなかったのだ。

 だが、ファル子のダートにかける熱い想いを誰よりも間近で見てきたからこそ、タルマエは真っ先に力強く頷いた。

 

「どうかな……?」

 

 地方ウマ娘たちや、ファル子の真意を理解できないウマ娘たちはその提案に困惑ないしは難色を示そうとするが、

 

「……はい! 異論はありません。むしろ、その名前の方がずっと、これから始まる旅にふさわしいと思います!」

「うん、カレンたちも大賛成だよ☆」

「データ的にも2人の名前を並べるのが一番綺麗だしねー」

「ハルナちゃんがスマートファルコン先輩と並んで立つ日が来るなんて……!」

「私も良いと思う」

「異論なし!」

 

 カレンやトランセンドたち中央のほとんどの面々に、オオエライジンを始め、群馬のシャッタードスカイとナコウトプカラ、同郷の先輩たちであるシムーンカルマとセイウンプレジャー、栃木トレセンの四人組、中津からやってきたアウラヴェルナとナコウトオトメオー、それにトウホクビジンなど、ハルナと親しい地方ウマ娘たちは、その決定に対して次々に納得と賛成の声を上げるか前向きに頷いた。

 

「あのスマートファルコンと、ハルノウラワの名前を並べる……?」

 

 しかし、スマートファルコンの意図をまだ完全には理解できていない他のウマ娘たち───ランフォルセやミラクルレジェンドたち───は顔を見合わせ、その決定に納得がいかず、信じられないといった様子で眉を顰めた。

 特に異議を挟んできたのは、ハルノウラワとライバル関係にあるウマ娘の1人───、

 

「納得がいかないわ、スマートファルコンさん」

「あなたは……クラーベセクレタさん?」

 

 ───クラーベセクレタは頷き、腕を組み、彼女なりの正論をファル子へぶつける。

 

「確かにハルノウラワは同期のあたしから見ても強いってのは認めてる」

 

 今年のダート界でハルノウラワと同期の実力者でもあるクラーベセクレタは、不運があったとはいえ今年の南関東三冠ウマ娘にも一時期王手を掛け、ユングフラウ賞とJBCレディスクラシックで直接対決した経験もある。

 それ故にハルノウラワへの評価はこの場の誰よりも色眼鏡なしに重みがあるものかもしれない。そんな彼女が言った。 

 

「だけどあの子は、まだクラシック期のウマ娘ですよ? 先輩たちが泥にまみれて、シニア期の厳しいダートG1を連勝して、誰も追いつけない背中でダート界全体の『格』を引き上げてきたその歴史を、特等席で一緒に背負ってきたわけではない。絶対王者の最後の花道の看板に並ぶのは、そういうシニアの重みを分かち合ってきたウマ娘であるべきでは?」

 

 彼女の言葉を皮切りに、隣にいたミラクルレジェンドやカラフルデイズたちも頷き、「そうだ」と言う者や、歴戦を戦ってきた他のウマ娘たちに視線を向ける者など様々だった。

 ここで「同感だね」とランフォルセも静かに言葉を重ねる。

 

「ハルノウラワの次走はフェブラリーステークスだろ? これからシニア期の頂点を目指すという大事な時期の若手を、わざわざファルコンさんの引退ツアーの共同看板に据えるには重荷が過ぎるのでは?」

 

 さらにミラクルレジェンドも続ける。

 

「えぇ。私もハルノウラワさんをスマートファルコン先輩と並び立てるには色々と足りないと思います。確かにハルノウラワさんの実力は私たちの世代でも随一ではある。でも、レース経験もライブの経験もファルコン先輩ほど成熟しているとは言えない。何より、このライブツアーはファルコン先輩の花道を飾る大事なもの。失敗出来ません」

 

 場数の不足、『格』の不足、失敗できない、期待が重過ぎるのではないか───実力主義のライバルたちから突きつけられた指摘はどれも重かった。

 セクレタがさらに言った。

 

「えぇ…… もっと他に相応しい人がいるはずよ」

 

 だが、誰かがその問いを投げ込んだ。

 

「では誰がいいと思う?」

 

 声の方向に振り向くと、そこにいたのは、赤白のハンチング帽を被った黒髪のウマ娘。

 中央トレセン学園の制服は着ているようだが……見覚えがない。

 それでもそのウマ娘は再び問う。

 

「答えろ。スマートファルコンの後釜に相応しいと思うのは一体誰だ?と聞いてるんだ」

 

 そのウマ娘からの視線に思わずクラーベセクレタはたじろいだ。

 それにはどこか年季が入っていることを感じさせたが、それでもクラーベセクレタは答えた。

 

「……ヴィクトワールピサさんが、いいと思います」

 

 クラーベセクレタは唇を噛み締め、悔しさを2割、そして認めざるを得ない納得を8割にじませた複雑な表情で、教室の片隅を見つめた。

 すると皆の視線が、金色の髪を靡かせているヴィクトワールピサというウマ娘に集中する。

 レースでは純白のベールを思わせる勝負服を着ているが、普段の彼女も、穏やかで神秘的な佇まいを纏った雰囲気を醸し出しており、自身の勝利以上に「周囲の幸せや世界の平和」を心から願う利他精神も相まって、「聖女」とまで呼ばれている。

 

「何故ヴィクトワールピサなんだ?」

 

 ハンチング帽のウマ娘の問いに、クラーベセクレタは船橋所属としてのプライドを覗かせつつも、今はそれを胸の奥にしまい込む決意をし、そして『浦和のスケバン』への意地が声を鋭くさせながら答えた。

 

「地方を差し置いて中央が目立つ現状はぶっちゃけ面白くない、です……。けれど、あれがあってから、ドバイでトランセンドさんと、ヴィクトワールピサさんが見せたワンツーフィニッシュ……! あのレースにどれだけの人が救われたか。かく言うあたしもその1人で、魂を揺さぶられたと表現するべきか……ともかく、ハルノウラワは、まだあの領域に達してるとは思えません」

 

 クラーベセクレタの言葉に、周囲の地方ウマ娘、そして一部の中央ウマ娘たちも深く頷き、賛同の波が広がる。ドバイを制した世界のヴィクトワールピサか、それとも浦和のハルノウラワか。

 

 皆の期待と、クラーベセクレタの複雑な覚悟を受け止めるように、ピサはただ、祈るように胸の前でそっと手を合わせた。

 そして、波立つ教室の空気を優しく鎮めるように、慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「クラーベさん……そう呼んでもよろしいですか?」

「は、はい。構いません」

「ありがとうございます。……私をそれほど高く評価してくださって、そして、あの砂漠の国での走りを覚えていてくださって、重ね重ねありがとうございます。皆さんの熱い想い、とても嬉しく思います」

 

 鈴を転がすような声が、静まり返った空き教室に染み渡っていく。

 

「でも、クラーベさん。…… 私はファルコンさんの後継者としては力不足だと思います」

 

 その返答に波が立つようなヒソヒソ声が各所から聞こえた。

 クラーベセクレタは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべて恐る恐る尋ねた。

 

「そんな……何故ですか?」

「ドバイでの勝利に、日本の皆さんが喜んでくださり、ファンレターも幾つか拝見させていただきました。《勇気を貰った》という言葉も頂けた時はとても励みになりました。……ですが、皆さんもご存知の通り、私は『芝』を主戦場として走ってきたウマ娘です。ドバイの時はたまたま全天候型(オールウェザー)のバ場が味方してくれましたが……私の本質は、どこまでいっても芝の走者。ファル子さんのように、日本の深い砂(ダート)に足を取られながらも、泥を跳ね上げて力強く進む泥臭い強さは、私にはありません」

 

 それは紛れもなき事実だった。

 何を隠そう、去年の皐月賞と天皇賞・秋と有馬記念を勝利した張本人である。

 そして勘違いされがちだが、彼女は日本でダートを走ったことがないのだ。

 

「ファル子さんがこれまで築き上げてきたのは、地方の、そしてダートの輝きです。そこを歩むべきなのは、私のような芝のウマ娘ではなく、泥にまみれることを恐れない、本物のダートの申し子であるべきだと思うのです。だからこそ、私はハルノウラワさんが適任だと確信しています」

 

 そのピサの言葉は重かった。

 周りが静まり返る中、ピサはそっと視線を落とし、愛おしそうに目を細めた。

 泥にまみれながらも、ファンのために決して笑顔を絶やさない『浦和のスケバン』のひたむきな姿を頭に思い浮かべながら、ピサはさらに言葉を続ける。

 

「ハルノウラワさんの走る姿や、ファンの方々と向き合うときのあの眩しい笑顔……。その姿を見たのはテレビ越しのみですが、拝見するたびに胸がぎゅっと温かくなるんです。地方の深いダートを泥被りながらも、全力で、見ている人すべてを幸せにしようとする彼女の姿は、まさにダート界の、いいえ『みんなの希望』そのもの。ファル子さんが命を懸けて築き上げてきた『地方から世界を笑顔にする』という夢の跡を継ぐのに、これほど相応しい方はいないと思います」

 

 ピサの凛とした声が空き教室に響き渡り、静寂が訪れる。その静寂を破るように、ふっと息を漏らして一歩前に出たのは、ピサと共にドバイの地を戦い抜いたトランセンドだった。

 

「ピサに賛成。それにさ、ファル子がただの『お気に入り』でハルナを指名するわけないじゃん」

 

 トランセンドは集まったウマ娘たちをぐるりと見渡す。

 その瞳には、常に最前線でスマートファルコンと競ってきた者の1人としての絶対的な信頼があった。

 

「アタシが言いたかったこと、全部ピサに言われちゃったけど、ファル子は自分の全てを賭けてハルナにバトンを渡したい。でしょ?」

 

 そう問われたファル子は静かに頷き、トランも頷きながらファル子に同意した。

 

「あの子がファンに見せるあの笑顔とひたむきさは、数字や格付けなんかじゃ測れない、本物の『アイドル』の素質だよ。アタシはファル子の目に狂いはないと思うね」

 

 中央の雄からの力強い言葉に、教室の空気が目に見えて変わり始める。

 

「……フン、相変わらず中央の連中は綺麗にまとめるのが上手いな」

 

 呆れたような、しかしどこか嬉しそうな声で呟きながら教室の前側へ歩み寄ってきたのは、クラーベセクレタにとって意外な人物だった。

 それは地方ウマ娘たちの中でも燦然と輝く実力を有する精神的な存在でもあり───、

 

「え!? ふ、フリオーソ先輩!? でも……」

「正直言えば癪ではあるが、ファル子の考えも理解できるので私は賛成する。あの子、ハルノウラワには、他のこの場の誰もが真似できないような輝きを持っている」

「……その『輝き』とは?」

「ファンイベントでは常に笑顔を振り撒き、例え疲れていようともそれをファンの前ではおくびにも出さない根性、レースでもイベントでもライブでも、みんなを思わず笑顔にさせる前向きさと健気さ。それでいて、勝負事で発揮する折れない心、勝敗に限らず純粋にレースを楽しもうとする姿、自分以上に強い相手や目上の相手でもフェアだが容赦なくそれでいてハングリー精神を剥き出しにして挑んでくる、逆に格下が相手でも油断せず全力で戦おうとする姿。その仕草全てをいざ真似しようにも出来ないのは天然の代物だ」

「……!」

 

 ───フリオーソ。クラーベセクレタから見れば同じ船橋トレセン学園の尊敬する先輩であり、そんな彼女の口から飛び出したのは、あまりにも意外な肯定の弁。

 

 フリオーソといえば、ハルノウラワとの間で「浦和vs船橋」の地元自慢合戦を頻繁に繰り広げていたことは、特別留学生でない外部のクラーベセクレタたちも風の噂程度には知っていた。

 そのフリオーソが、まさか普段あれほど地元の誇りをかけて張り合っているハルノウラワのことを、ここまで熱く認め、擁護するとは思わなかった。

 クラーベセクレタは言葉を失い、大きな戸惑いを隠せないままフリオーソを見つめた。

 

 余談だが、噂話だけではハルノウラワとフリオーソは仲が良くないと思われがちに聞こえるが、実際の2人の地元戦争は、中央トレセン学園ではありふれた光景であるし、その中身も、まるで某大喜利番組のようなノリで行なわれてることを彼女たちはまだ知らない。

 

 ここでさらに別の人物が「オレからも異議はねえよ」と言い、一歩前に出て、フリオーソに並ぶようにして力強く言葉を繋いだ。

 

「3月に起きたあの厄災*3で日本全国の誰もが暗い気分になったのを、おんしゃら(お前ら)も忘れたわけじゃあるまい? 他の奴らはドバイの走りに救われたって言うかもしれんが、オレがいた高知はその後もレースが中止の憂き目に遭うて散々やったがよ」

 

 フリオーソの横に立ったのは、グランシュヴァリエ───“高知総大将”として知られた彼女も数々の南関東のレースに出走し、幾度目かの挑戦でついに浦和記念も勝利した実力者。

 そんな彼女が思い返していたのは、今年の一番辛い時期の記憶───あの大災厄が飛び火して、高知でのレース開催が軒並み中止になった事だった。当然、重賞の黒船賞も中止に追い込まれた───少なくとも高知での開催は出来なかったが。

 

「しかし、そんな時に福山のレースをターブビジョンで見たがよ。福山と言えば最近は閑古鳥が鳴いちゅうようなイメージやったに……」

 

 いつもの悪い癖がつい毒を吐いて出てしまったので、この場にいた福山所属のウマ娘たちに「ごめん」という仕草と一瞬申し訳なさそうな顔をして謝りつつ、グランシュヴァリエはさらに言葉を強めた。

 

「あのレースの熱狂は、画面越しからもビリビリと伝わってきたき。だから、高知トレセンの者たちのほとんどは『ハルノウラワに勇気を貰った』と言いゆう。だから黒船賞を中津に持っていかれようと誰も腐らんかった。それどころか、『よし、だったらオレらで中津も盛り上げてやる』ってみんなやる気になっちまったがよ。だからあの子は素直に凄い存在だとオレは思うね」

 

 黒船賞は高知開催のダートG3。

 本来なら1人でも多くお客さんを呼びたい高知トレセンにとって他場での開催はあまり気乗りしなかったのが本音だったが、中津での代行開催になった時、高知トレセンのウマ娘たちのほとんどが旅費を自腹で出してまで中津レースに出る学友たちの応援に駆け付けた。それこそ高知トレセンが臨時休校しそうな勢いで学内が空っぽになる珍事件まで起きていた。ちなみに、結果的には校(・)外(・)学(・)習(・)という扱いになったのだが。

 

「───ええ、グランさん。本当にその通りですわ」

 

 シュヴァリエの熱い言葉に同調するように、教室の後方から淑やかに歩み出てきたのは、ダークブラウンの髪をポニーテールにまとめ、前髪にその名を思わせる稲妻のようなメッシュが入ったウマ娘。

 アイルトンシンボリとファレノプシスのいた席の横で静かに佇んでいた彼女だが、凛としたお嬢様口調で言葉を繋いだ。

 

「クラーベセクレタさん、ランフォルセさん。あなた方の仰るシニア期の『格』も理解できますわ。……けれど、甘やかしている、だなんて言葉は、この私(わたくし)が絶対に認めません。あなた方は、あの高知の砂上を、現地のウマ娘たちと本気で命を削り合って走ったことがおありですの?」

「ハグロフォルゴーレさん……っ!?」

 

 ハグロフォルゴーレ───フェブラリーステークスを制した年、インフルエンザで中止になりかけた黒船賞で、あの青丘トレーナーとコンビを組んで勝利した。それだけでなく、海外も含めてマイルG1を中心に7勝している正真正銘の強者、伝説に片足を突っ込んでる存在と言っても過言ではないだろう。そんな彼女が続けて言った。

 

「ハルナさんのデビュー戦が高知だったのはご存知?」

「それはまぁ……」

「でも、理由までは存じないでしょう? あの娘が何故、浦和ではなく高知をデビュー戦の舞台に選んだか。それは、生まれ故郷への恩返しを彼女なりにやりたいと望んだからですわ。彼女自身ですら幼い日の記憶しか残っていない地にまた立って、そこで彼女のことをまだ覚えている人たちに自分の晴れ姿を見せたい───ハルナさんはそう言ってましたわ。その結果が、まぁ、大変なことになってしまいましたが……」

 

 実は、ハルノウラワのメイクデビューを高知で行なう際、その相談を真っ先に受けたのがハグロフォルゴーレだった。

 当然だが、当初の彼女は突然の話に面食らった。確かに前述の黒船賞の縁で高知トレセンとの繋がりは強かったし、グランシュヴァリエが高知へ行く際に青丘トレーナーに紹介したのもハグロフォルゴーレだった。

 しかし、高知では長らくメイクデビュー戦が行なわれていなかった。

 

《───いや、メイクデビューは高知で出来たら良いな、程度に考えていたので……難しいなら諦めます……》

 

 あの時のハルノウラワも、少し無茶な事をお願いしていたことをハグロフォルゴーレに謝っていたが、ところがフォルもそれに感じるものがあったのか。

 

《待ってちょうだい》

 

 その後すぐにフォルは高知トレセンに連絡を取った。

 すると、向こうの理事長からも『是非、高知レース場でメイクデビューを!』と二つ返事で了承を得た。

 曰く、『高知レース場でまたメイクデビューをやりたい』と、生徒たちや地元の人々が願っていたから渡りに船だったのだが、いざその当日が訪れると、高知レース場にはすわ重賞かと思わせるほどのお客さんが詰め掛けた。

 そして、その砂上で競った高知トレセンのウマ娘たちも、メイクデビューとはいえ高知でも指折りの実力者が集まっていた。

 結果はハルノウラワがレコード勝ちを決める圧勝だったが、彼女と同じレースを走ったウマ娘たちはその後も注目の的になり、各地の重賞にも顔を出せる実力者として成長しつつあった。

 

「ディーセブンに、ヘルファイア、リュグリオクール……みんな高知を担う次代として注目されている。その種を蒔いたのは紛れもなくハルナさんだと私は思いますわ。……でしょう? シュヴァリエさん」

 

 ハグロフォルゴーレの言葉に、グランシュヴァリエはフンと誇らしげに鼻を鳴らしながら頷く。

 

「何ならオレまでやる気に火がついちまっちゅうがよ」

 

 グランシュヴァリエは気付けばフリオーソ、スマートファルコンと並ぶほど長く走ってきていた。いつ引退してもおかしくないほどに。

 そんな彼女が先日の浦和記念を勝利できたのは、競走能力に衰えこそ見られるもののベテランとしての意地を貫く実力を発揮したから───世間からはそう評価されているが、彼女自身にとって、その勝利にハルノウラワの存在が全く関係ないと言えば嘘になってしまいそうだった。

 実際、ハルノウラワはあの日、浦和記念に出走するグランシュヴァリエの応援に駆け付けていた。

 

 そんなシュヴァリエからの話題振りに、もう1人が反応した。

 

「シュヴァリエさんやフォル先輩がそこまでおっしゃったんなら……この福山の私(わたくし)も、黙っとるわけにはいきませんわね」

 

 地方トレセン所属とは思えないほどの上品な雰囲気を纏い、けれど、どこか勝気なウマ娘がパッと扇子を開くようにして前に出た。

 

「メジロトラベラーさん……!?」

 

  "福山の守護神"メジロトラベラー。

 福山メジロ家のご令嬢。

 一昨年の菊花賞とチャンピオンズカップを制し、福山トレセン学園の名を日本のウマ娘史に深く刻んだ立役者であるが、その直後に屈腱炎による故障を患った。

 そんな彼女が広島訛りがまじりながらも良家のお嬢様らしく威厳を保とうと辿々しくも語った。

 

「私が屈腱炎を患うたことはご存知でしょう? あれになったら、下手すればレース人生そのものが終わりかねん絶望を味わった人も、きっとこの場には少なくないはずですわ。私は意地でも現役を続行しましたが、中々治らんで、そこで3.11まで起きて……正直に申しますと心が折れそうになっとりましたの。でも、私を救ってくれたんは、地元福山の皆さまと、全国のファンの皆様の声援、それに───」

 

 そんな彼女の脳裏で蘇るのは、若草賞当日の出来事。

 

《───なぁベラ。久々にレースを観に行かんか?》

 

 普段は仕事で多忙な父───福山市市長を勤めている───が久々の休日を使って、腐りかけだった自分を連れ出して、向かったのは彼女のよく知る地元の福山レース場。

 この日繰り広げられていたレースというのが───、

 

「お父様と共に、久々に私がレース場に足を運んでみれば、すわG3以上かはたまたG1かと思わせる熱狂に湧いた若草賞。その熱狂の中心に立ち、ただの地方重賞で一生懸命に激戦を繰り広げとったのが、ハルノウラワさんでしたわ」

 

 ハルノウラワが福山レース場の大歓声に迎えられながら先頭でゴール板を超えていく姿を間近で見ていたメジロトラベラーは、それをつい昨日のことのように思い出せた。

 

「ハルノウラワさんが、ご自身の疲労も、重圧もすべてあの笑顔の裏に隠してファンのために尽くされとるというのなら……それは紛れもなく、私たちが目指すべき最高のウマ娘の姿ですわ。だから私も腐るんをやめましたの」

 

 その言葉の意味を知る者は知っていた。メジロトラベラーが来年すぐの中津大賞典を復帰戦の舞台に選んだことを。

 

「あの人と一度でも真っ向から競うてみたい、一緒にライブをしたい。私にそこまで思わせたのですから、ファル子さんのバトン、ハルノウラワさんが受け取るというのなら、何なら私が全力でその盾となり、矛となり、支えて差し上げますわ!」

 

 そんな彼女の一押しに、反論を掲げていた者たちは押し黙る他無かった。

 

 ヴィクトワールピサから始まり、トランセンド、フリオーソ、グランシュヴァリエ、そしてメジロトラベラー。

 各地で活躍している著名なウマ娘たちの言葉が、空き教室に集まったウマ娘たちの心を静かに、しかし確かに一つに結びつけていく。

 もうそこには、中央と地方の垣根など、どこにも存在していなかった。

 

 スマートファルコンはゆっくりと彼女たちの目を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「みんな、心配してくれてありがとう。……でもね、私は全国の地方を回ってきたからこそ、ハルノウラワさんの本当の凄さが分かるんだ。ダートの未来を引っ張るスターに必要なのは、シニアのキャリアだけじゃない。どれだけ深い砂に足をとられても、走ることを誰よりも全力で楽しんで、気がつけば周りのみんなを笑顔にしちゃう力。私が去った後のダート界に、中央と地方の垣根を無くして、新しい砂の王国を創れるのはハルナちゃ、うぅん、ハ(・)ル(・)ノ(・)ウ(・)ラ(・)ワ(・)し(・)か(・)い(・)な(・)い(・)。私はそう確信しているから、名前を並べたいんだ」

 

 中央の絶対王者が語った、ハルノウラワへの圧倒的なリスペクトと、未来を託す覚悟。

 さらにここで皆に問うかのように、スマートファルコンは付け加えた。

 

「それに、ここにいるみんなは、ほとんどがハルノウラワさんの呼び掛けに応じて集まってくれたんだよね?」

 

 それに頷く者は少なくなかった。

 続けてグランシュヴァリエとフリオーソが付け足すかのように言った。

 

「オレたちもいつまで第一線で活躍できるかは分からない」

「ファル子が言ったそのバトンを次の世代に託したい。それは私たちも思っていることだ」

 

 この2人の言動には、メジロトラベラーも力強く頷いた。

 各地の代表格たるベテランたちの言葉と覚悟、そしてファル子の真剣な眼差し。

 それらを受けると反対派だったウマ娘たちも氷解した。

 

「……ファルコン先輩がそこまで言うなら」

「グランシュヴァリエ先輩たちにまで言われたら、もう反対する気は起きませんよ」

「スマートファルコンさんだけでなくフリオーソ先輩まで……。ハルノウラワをそこまで認めて未来を託そうとしているなんて……」

 

 クラーベセクレタは深く溜め息を吐く。

 

(やはりセクレタは頑固だな……)

 

 フリオーソは、クラーベセクレタが心から納得していないことを何となく察する。

 しかし、当のセクレタは思わず肩を落としそうになるのをグッと堪えていたのだ。

 

「……ハッキリ言って悔しいです。悔しいですよ先輩。未来を託す相手がよりによってあの子だなんて……」

「セクレタ?」

「しかし、だからこそ負けてられません」

 

 悔しい思いを振り切るように、クラーベセクレタは前へ歩み寄り、そしてチーム名を前に宣言した。

 

「チーム『ファル&ハルナ with Caravan’S』。先輩たちの思いも込められたこのライブツアー、絶対に成功させましょう!」

 

 その宣言に、教室内からは疎な拍手が起き、やがてそれは教室全体のウマ娘たちからの大きな拍手に変わっていった───。

 


 

 ───もちろん、そんなことが起きていたなどハルナ本人は露知らずである。

 

「……フォルさん、もしかしてこうなることを知ってたんですか? チーム名が[ファル&ハルナ with Caravan'S]になってるなんて……」

「驚いた?」

「そりゃ当然ですよ!」

「勝手に名前を使われて怒ってる?」

「そこは怒ってないですよ……でも、それが決まった場にあたしがいたなら……」

「反対したでしょ?」

「もちろんですよ! あたしがあのファル子先輩に並び立つなんて畏れ多い! それに、この衣装……」

「私(わたくし)の予備の勝負服……と言っても信じてもらえなさそうね?」

「えぇ……あまりにも肌に馴染んでますし、サイズピッタリだし……」

 

 ハルノウラワが怪しむのも無理はない。

 それの答え合わせと言わんばかりに、彼女のすぐ後ろにいたハグロフォルゴーレが(ハルナには見えないような所で)一瞬だが顔を顰めていた───。

 


 

 ───リハーサル2日目の放課後。

 実はスマートファルコンがチーム名変更を宣言する前日の段階から、既にプ(・)ロ(・)ジ(・)ェ(・)ク(・)ト(・)が動いていた。

 

「サプライズを仕掛けたい?」

「はい。実は……この話は、他言無用でお願いいたします……」

 

 この場にいるのは射手園トレーナーと宮松明美(フレアカルマ)サブトレーナーだけ。

 妙な緊張感が今まさに張り詰めた空間の中で、さらに、「他言無用で」というハグロフォルゴーレの願いに、思わず息を呑むトレーナー陣の2人。

 射手園トレーナーがゆっくりと頷くと、恐る恐る、ハグロフォルゴーレは中身を慎重に打ち明けた。

 

「このライブツアーで、ハルナさんに新しい勝負服をプレゼントしたく存じます。しかし、ご本人に知られないように勝負服を仕立てなければならなくて……」

「なるほど……」

 

 頷く宮松サブトレーナーであるが、射手園トレーナーはすぐにある種の違(・)和(・)感(・)に気付いて指摘した。

 

「ハルナに新しい勝負服をプレゼント? それをサプライズで? 何故このタイミングで? このツアーはスマートファルコンの引退ライブだって聞いているけど?」

 

 この時点でトレーナー陣の2人は既にチーム名が[スマートファルコン with Caravan'S]だというのをハルナや、他ならぬ目の前のフォルからも聞いていた。

 それに対してフォルは、こう答えた。

 

「実は、ファル子さんの意図を理解しました」

「……というと?」

「トレーナーもフレアカルマさんもご存知のはずです。今回のライブツアーに参加してくれた地方トレセン所属の人たちは、そのほとんどがハルナさんの呼び掛けに応じて駆け付けてくれました。それに加えて私、さっき見てしまったんです……ファル子さんがみんなに内緒でハルナさんに、センターポジションに立つ練習をさせていました。その理由をファル子さんに尋ねてみたら、《ドバイ遠征中に私がいない間の代役》って」

「……まぁ、それなら、別におかしいとは思えないけど?」

「えぇ。表(・)向(・)き(・)の(・)理(・)由(・)と(・)し(・)て(・)は(・)、です」

「表向きの理由?」

「はい。ファル子さんに真意を問い質しました。ファル子さん曰く───」

 

《ハルノウラワさんに、私の跡を継いでほしい》

《私が、ステージから居なくなった後のこと。みんな多分それを心配していると思う。だから、これは私なりの答え》

 

「───と、仰っておられました」

「ハルナが、スマートファルコンの後継者に指名された……ということ?」

「はい、まさにその通りでございます。そんな時に、ある方からお声を掛けていただきまして……」

「……ある方?」

『失礼するぞ』

 

 「ある方」という単語がキーワードか合図だったのか、ドアの外からノックと、そんな声がしたと同時にドアがいきなり開き、1人の人物がズカズカと部屋に入ってきた。

 

 

「ったく、間怠っこしくて退屈だったぜ」

「え?」「えっ!?」

 

 外ハネ気味の黒髪のミディアムヘアに、その上から赤白のストライプ柄のハンチング帽を被った黒鹿毛のウマ娘が現れた。

 右脚が悪いらしく腕を支えるカフを備えた(ロフストランド)杖を右手で持ち、杖をついて数歩歩いてから、部屋のソファに「よっこらせ」と言いながら腰掛けた。

 

【挿絵表示】

 

 着ている服は紛れもなく中央トレセン学園の制服だが、その仕草やらロフストランド杖を付きながら学園を闊歩している生徒など見たことがない。

 おまけに、このウマ娘にはどこか見覚えがあったのだが……そのウマ娘は溜め息を吐き、呆れたかのように口を開いた。

 

「ったく、アメリカからこんなババアを呼び付けておいて、茶菓子(ビスケット)の一つもないのかい?」

「アメリカ? バ…おばあちゃん……?」

「ビスケット……?」

 

 何気ない毒吐きから出た言葉だったが、そこに僅かなヒントが隠れていたことを見落とさなかったのは流石中央のトレーナーと褒めるべきか。

 フレアカルマと射手園は、3つのワードを並べ、お互いに顔を見合わせた時、その謎のウマ娘の正体が漸く分かった。

 

「「あぁーっ! シービスケットだ!!」」

「おー、漸く分かったか。派手に騒がられるのは嫌だが、誰にも気付かれないってのも寂しいもんだわ」

「い、いやいやいやいや!?」

「あ、あの、アメリカの伝説のウマ娘さnじゃなくて、ウマ娘様(・)が何でこんなところに!?」

「こいつに呼ばれたから来ただけだ」

「え? わざわざ今回のライブのために来日を……?」

「ライブ? 何の話だ? ……つーか、お前らビビり散らかしすぎ。マッキ*4、こいつらはいつもこうなのか?」

「スーパーレジェンドが現れたらこうもなりますわよ……」

 

 無自覚か、分かってて言ってるのかは判然としないが、あっけらかんとしているレジェンド張本人に溜め息を吐きつつ呆れるハグロフォルゴーレであった。

 

 

 

 気を取り直して。

 部屋の冷蔵庫から冷えたペットボトル入りのお茶を出してきて、それをカップグラスに注いで、シービスケットの目の前に差し出した。

 

「あいにくと、これだけしかありませんが……」

 

 急なことで茶菓子など用意されてるはずもなく、飲み物を出すだけで精一杯であった。

 

「まぁ……仕方なかろうか。これで良しとしよう」

 

 そう言いつつ、シービスケットはお茶を飲むのだが、そのまま、ゴク、ゴク、ゴクッと、あっという間に飲み干してしまった。

 

「お代わり」

「は、はい!」

 

 お代わりを要求されて、慌てて茶を注ぐフレアカルマであるが、いよいよ呆れた様子のハグロフォルゴーレが話を急かしに入ろうとする。

 

「はぁー……シービスケットさん……」

「分かってる分かってる」

 

 このままだと本題に入らないまま1日が終わりそうだったので、シービスケットはまず来日した理由を、もう一杯麦茶を飲み干してからポツポツと話し始めた。

 

「ぷはぁー……まぁ、トランスワールド航空のマイレージが溜まったもんで、ちょっとした旅行みたいなもんで来日したんだが、そしたらこれを見たもんでな」

 

 シービスケットが懐から取り出したのは、例のスマートファルコン引退の記事が載った号外だった。

 

「俺は別にぃ、日本のウマ娘がG1を何勝してようが、誰が引退しようかとかそんなもんはさっぱりわからんし、あんまり興味がないんだ。だがなぁ、まぁ、こんな老いぼれな癖して好奇心ばかりは腐ってなかったんか、はたまた異国の地に来たせいでテンションが変に振り切れていたんだか。自分でもわからんが。気付いたらここの正門前に立ってた。だがな───」

 

 ───中央トレセン学園の正門前に立っていたら、後ろから力強いエンジン音がした。

 ふと後ろを振り返ったら赤いスポーツカーがいて……。

 最初は「それも、見覚えのある車だなぁ」程度にシービスケットは軽く考えていたが、その運転手が声を掛けてきたら、その勘が当たっていたことを嫌でも理解した。 

 

「あらぁ!? シービスケットちゃん!?」

「!?……ゲッ、マルゼンスキー!?」

「ちょ、その反応はないんじゃなぁい?」

 

 マルゼンスキーとシービスケットは知り合いで、2人の仲は別に悪いわけではないのだが、シービスケットにとってマルゼンスキーはちょっと苦手な存在だった。

 

「おめーなぁ、先輩をちゃん付けすんなや……」

「それよりどうしてこんな所に?」

「……何でかなぁ。俺にもわかんねぇや」

「ふーん……?」

 

 マルゼンスキーは運転席からシービスケットの姿を頭から足先までざっと見たのだが、

 

「……ねぇ、もしかして学園の中を見てみたい?」

 

 そのマルゼンスキーからの問いに一瞬だけ考えてからシービスケットは答えた。

 

「……あぁ。何だか興味が出てきたんでな」

「じゃぁ見学はアポとってない?」

「まぁ……そうだな」

「……まさかその格好で見学するつもりじゃないでしょうね?」

 

 マルゼンスキーはギョッとした。

 シービスケットの今の姿は、どう取り繕っても、とてもあのアメリカのレジェンドウマ娘とは思えないような見すぼらしい姿をしていた。

 

「失礼な。勝負服ならちゃんと持ってきてるぞ」

「ちょ、あの真っ赤な勝負服で中央トレセン学園に乗り込むの!?」

「……やっぱ駄目か」

「当然でしょ! 目立ち過ぎだし、正体まで知られたら大騒ぎになっちゃって見学どころじゃなくなるわよ……」

 

 やはりシービスケットが中央トレセン学園を見学したいと思い至ったのは突発的なことであり、計画性がなかったことにマルゼンスキーは思わず頭痛がしそうだった。だが、ここですぐに奇(・)策(・)を思いつく。

 ただし、その「奇策」とやらが碌でもないことだと察したシービスケットは思わず嫌な顔が表情に出た。

 

「っあ。そうだ」

「! ……聞きたくない」

「えー、まだ私何も言ってないわよ」

「分かってる、どうせ碌でもないこと考えただろ!」

「そんなことないわよ。それに、このままだとトレセン学園を見学できなくなっちゃうけど、良いのかしら?」

 

 そう悪戯っぽく笑うマルゼンスキー。

 対するシービスケットは他に良いアイディアも浮かばないため、マルゼンスキーに誘われて彼女の車の助手席に座り、そして向かった先が───。

 

「───ってわけでマルゼン宅に拉致られて、この服を着せられたってわけだ。今の若いのがどんなトレーニング積んでるのかとか、日本とアメリカでどう違うのかとかが気になって、ここに来たかっただけだというのにとんでもない羞恥プレイだ……」

 

 ぶっきらぼうな口調で事の顛末をマシンガントークで語ったシービスケットだったが、「俺70超えてんだぞ」とも溢して、顔を赤らめているのを誤魔化しながら麦茶をゴクゴクとさらに飲む。

 

 というかそもそも、

 

「何故フォルが、シービスケットとこんな親しいんだ……?」

「マッキと俺か? 確か最初はイタリアで遭ったな。アイルも一緒に」

「アイル……ともお知り合いなのですか?」

 

 アイルことアイルトンシンボリとも顔見知りであることに射手園は驚くが、ここでフレアカルマは思い出した。

 

「……あっ。思い出した」

「え?」

「確か、矢萩さんと、アイルちゃんがアメリカ遠征でワシントンDCインターナショナルに出走した時*5に、アメリカのトレセン学園の理事長さんと遭った、みたいな話をしていたような……?」

「ちなみに、俺の本名はフランチェスカ・ケイトリン・ハワードだ」

「フランチェスカ・ケイトリン・ハワード……えぇーっ!?カリフォルニアのアルカディアトレセン学園の理事長さん!?」

「はっはっは、驚いたか。まぁ、『シービスケット』って名前がビッグネームになり過ぎてやり辛くて仕方なくてな。人気者も楽じゃねーや!」

 

 シービスケットことフランチェスカ・ケイトリン・ハワード理事長は、驚くトレーナー陣を豪快に笑い飛ばす。

 だが次の瞬間には真剣な顔に戻り、

 

「……で、そのハルノウラワとかいうウマ娘ちゃんのために、勝負服をサプライズかつオーダーメイドで3週間で用意したいって、フォルはそう言いたいんだな?」

「……そうです。凄く無茶なお願いですが……」

「心配するな。こんなババアでもスマホや現代技術は人並みに扱えるからな、すぐ知り合いに頼んでみる。確か、あ(・)い(・)つ(・)は娘っ子と一緒に日本にいたはずだ───あ、だが、サイズとかがわからないのは問題だな……。そこを本人に知られずどう入手する?」

 

 そう問うフランチェスカ・ケイトリン・ハワード───シービスケットと共にハグロフォルゴーレは射手園たちに目線を移した。

 射手園トレーナーはその目力が何を言いたいのか瞬時に察して答えた。

 

「……もちろん、ハルナちゃんのスリーサイズのデータはちゃんと採ってあるよ。それとね」

 

 射手園がフレアカルマに目配せすると、フレアカルマは自身が持っていた書類の束を2、3枚めくってから、それをハグロフォルゴーレとシービスケットに見せた。

 

「……え!? これ本当に!?」

「はははっ、こんな奇(・)跡(・)もあるもんなんだなぁ!」

 

 提示された資料。そこに書かれていたのはハグロフォルゴーレのスリーサイズと身長などの身体データ。

 

「私の体型が、ハルナさんと全く同じ……?」

「シービスケットさん…いえ、ハワード理事長! サプライズ用の勝負服作成に、是非ともハグロフォルゴーレを使ってやってください」

「え、え?」

「サイズだけ知ってても、いざ出来上がった服がハルナちゃんに合わなかったら大惨事になる」

「それに、実際にサイズを測るモデルが居るのと居ないのとでは話が違ってくるからなぁ」

「……えぇ、分かりました。喜んで協力させていただきますわ!───」

 


 

「───まぁ、急拵えの割りには悪くないでしょう? これでレースも走れる本格仕様ですし」

「何故そこまで……?」

 

 フォルが言ったことについて、顔に困惑を浮かべそうになるハルノウラワに対して、

 

「ファル子殿はそれだけ其方に期待している、ということだ」

 

 ファレノプシスはそう答えた。

 

「え、でも、あたしなんて……」

「そう自らを卑下するものでないぞ? クラシック期(ここ)まで、ダートのみとはいえG1を4勝している*6。其方の実力は本物であろう?」

「そうだよ、ハルナちゃん。今の君は、君の同期たちの中でもピカイチの存在なんだから。それも戦績だけに限らない。レースでもライブでもファンイベントでも。君はどんなに疲れていても、それを顔にもおくびにも出さず全力でみんなに向き合ってきたじゃないか」

「いやぁ……あたしなりにがむしゃらにやってただけなのに……」

「その『がむしゃら』も言うほど中々出来ることではない。誇って良いと思うぞ?」

「そうそう。……っと、出来た。こんな感じでどうでしょう?」

 

【挿絵表示】

 

 控え室の鏡を見て驚くハルノウラワと、そんな彼女の着付けを手伝ったハグロフォルゴーレ、アイルトンシンボリ、ファレノプシスの3人は良い感じに仕上がったことで満足げに笑みを浮かべていた。

 

「すごく綺麗な衣装……やっぱり私にはこんなキラキラな衣装似合わない無いですよ……」

「そんなことない。とても似合ってますわよ」

 

 そこに誰かがドアをノックした。

 

「どうぞ?」

「失礼しまーす!」

 

【挿絵表示】

 

 やってきたのは、グランシュヴァリエとスマートファルコン、それにワンダーアキュートだった。

 

「ハルナちゃん、着替え終わったかぃ?」

「迎えにきたぞ……おぉ、見違えたなぁハルナちゃん!」

「うんうん! いつもの勝負服姿もかっこいいけど、こっちの衣装も凄く可愛い!!」

「アキュートさん、シュヴァリエさん、ファルコンさん……きょ、今日は、よろしくお願いします!」

「あらあら、改まってどうしたのぉ?」

「そ、その……だって、そ、そう、チーム名! まさか私の名前がチーム名に使われるなんて思ってなくて……!」

「はっはっは。ファル子の作戦通りじゃなぁ、作戦大成功」

「いえーい!⭐︎」

「あ、あの!!」

 

 グランシュヴァリエとスマートファルコンがハイタッチしてサプライズ成功を喜ぶが、当のハルノウラワはといえば、

 

「今更なんですが、は、恥ずかしくて緊張してきた……」

「あらあら……大丈夫かいハルナちゃん?」

「いや、その、全然……」

「ハルナちゃん、過度に緊張せず、いつも通りやればいいと思うよ」

 

 そう声を掛けたアイルトンシンボリと、

 

「それにライブをするのは其方一人ではないぞ?」

「そうです、私たちもいます!」

「フォル、そろそろお前も着替えよ」

「あ……そうだった」

 

 ファレノプシスとハグロフォルゴーレも、ハルノウラワを支える気でいた。

 なお、フォルはファレノプシスに指摘されるまで、自分がまだ勝負服に着替えていなかったことを忘れていたようで、すぐ別の化粧台へ着替えを手にして向かった。

 

「あ、あの、ファルコンさん。どうして私なんですか? 他にも相応しい人はいたかもしれないのに……」

 

 突然に訪れた大役のチャンスに尻込みしながら、改めてハルナはファル子に尋ねた。

 それに対して、ファル子はこう答えた。

 

「だってハルノウラワさん……あなたは私に真似できないことをやってくれたから」

「真似できないこと……?」

「うん。本当はこのライブツアーね、私1人で全国を巡ってからドバイに行くはずだった。なのに、あなたがみんなを呼んでくれて、気付けばこんなに豪華なライブツアーにしてくれた。それも、地方のウマ娘さんたちまで駆け付けてくれた……」

「……」

 

 控え室の姿見で、ハグロフォルゴーレが用意してくれたという煌びやかなライブ衣装を着用した自分自身を見つめていたハルノウラワに対して、背中にいたスマートファルコンが、表情を見せないように姿見から一瞬顔を背けた。

 

「全部、あなたのお陰だよ……ありがとう、ハ(・)ル(・)ナ(・)ちゃん」

 

 今にも泣きそうな震える声でスマートファルコンはそう伝えるが、それに対して冷静になったのか、はたまた覚悟を決めたかのように、ハルナは言った。

 

「……スマートファルコンさん。……いいえ、フ(・)ァ(・)ル(・)子(・)さん」

「!」

 

 そして、スマートファルコンに振り返りながら言う。

 

「礼を言うのも、泣くのもまだ早いですよ」

 

 満面の笑みで、ハルノウラワはそう言った。

 それは、スマートファルコンが託そうとしたバトンを今まさに、ハルノウラワが受け取った瞬間であった。

 


 5回中山8日目第9競走第28回ホープフルステークス(G1)

 芝右2000m / 天候 : 晴/芝:良

(枠番)(ウマ番)(出走ウマ娘)

1 1アダムスピーク

1 2フェノーメノ

2 3ゴールドシップ

2 4ハタノヴァンクール

3 5シンゼンレンジャー

3 6サトノプライマシー

4 7メイショウカドマツ

4 8タガノグーフォ

5 9レッドシャンクス

5 10ミヤビアミュレット

6 11アドマイヤブルー

6 12トリップ

7 13グランデッツァ

7 14マイネルエクレウス

8 15コスモアンドロメダ

8 16メジロクーパー

 

【さあ、中山レース場第9競走! ジュニア期の頂点を決める中央最後のG1、第28回ホープフルステークス。出走するのは16人のウマ娘たち。只今、3番ゴールドシップがゲートに収まりました───】

 

 一瞬静寂に包まれる中山レース場。

 そこでゲートが開く「ガチャンッ」という音と共に、16人のウマ娘たちが一斉に中山のターフの上に飛び出して行き、再び歓声が戻った、

 

【───スタートです! 東西の優駿たち、総勢16人のウマ娘が今、美しき冬晴れの中山2000mへと飛び出していきました!】

【注目の先行争い、大外8枠16番から弾丸のようなロケットスタートを見せたのはメジロクーパー! 迷いなくハナを叩きにいく! 内からは4枠7番メイショウカドマツも応戦しますが、メジロクーパーがスピードの違いを見せつけ、単独先頭の座をがっちりと奪い取ります! ゴールドシップはやや出遅れ気味か】

 

 その状況に思わず観客席から落胆の声が響いたのは聞き間違いではないだろう。

 その声の中に、野太い怒声のようなものが混じっていた。

 

「おいシップぅ!! 何やってんだコラぁ!!」*7

 

 飛んだ怒号に、周りにいた観客は騒然とするかドン引きした。

 何せ、観客席の後方にいたとはいえ、そのウマ娘があまりにもガタイがよく、座高だけでも背丈も高いことが一目で分かったからだ。

 しかも、見た目は、サングラスを掛けてて、如何にもガラの悪そうなウマ娘、すわばんえいウマ娘か、はたまたヤクザかとも思われたのだが、勘のいい観客はその変(・)装(・)を見破り、正体にすぐ気付く。

 

(ヒソヒソ)「おい、あれって」

(ヒソヒソ)「何でケイジがこんな所に……!?」

 

 間も無くターフからゴールドシップの声が戻ってきた。

 

「うっせー! アタシはこっからだ、見ていなぁ!」

 

 ラップを刻みながらそう反撃してきた姿に、騒然とした空気が一転、思わず爆笑の渦が巻き起こった。

 そのままレースは向正面へと進行し、メジロクーパーの大逃げが冴えていた。

 

【さあ、メジロクーパー、早くも後続を3バ身、4バ身と突き放して大逃げの構えに入った! メジロの大逃げと言えばメジロパーマー、あの有馬の再現をここでやって見せようというのかメジロクーパー! メジロの快速バが中山の坂をものともせず、極上のハイペースで引っ張ります! 2番手集団にはメイショウカドマツ、アドマイヤブルー、そして7枠13番グランデッツァ! ……そしてその遥か後方、1枠2番フェノーメノは中団のインでじっくりと脚を溜めている】

【メジロクーパー所属のチーム[カペラ]のチームメイトですね】

【さらにその直後、後方2番手付近で不敵に構えるのは2枠3番ゴールドシップ!】

【先は出遅れましたが、スタンドから飛んだケイg…う゛っうん、失礼しました、謎(・)の(・)ウ(・)マ(・)娘(・)からの檄に応えるかのようにしっかりとレースを進行中、まだまだ足を溜めています】

 

「何故言い直したし……」

 

 自分が出走するレースが目前に控えていたので勝負服に着替えて控え室にいたトーセンジョーダンはちょっと呆れつつも微笑みながらそう独り言のようにツッコミを入れた。

 

 レースはそのまま第3から第4コーナーへと差し掛かる。

 

【残り600を通過! 第4コーナーのカーブを迎える! 依然として先頭は16番メジロクーパー! リードはまだ3バ身ある! ここで後方から一気に捲ってきたのは3番ゴールドシップ! パワーで大外を豪快に回っていく! フェノーメノもその動きを捉え、進路を確保して直線へと向かう! 先頭は譲らないメジロクーパー、間も無く中山の直線だ、中山の直線は短いぞ!】

 

 メジロクーパー。白灰の執事服をベースにメジロのカラーである青緑のスカートを揺らしながら、第4コーナーをしっかりと回ってスタンド前直線に入ってきた。

 

【さあ、4コーナーを回って最後の直線! メジロクーパー逃げる! 逃げる! メジロクーパーがまだ2バ身のリード! その後ろは大激戦だ! 13番グランデッツァと1番アダムスピークが必死に坂を駆け上がって2番手に浮上! その外から、大外からゴールドシップが凄まじい足音を立てて突っ込んでくる! さらにその間、バ群の隙間を切り裂いて、黒い刺客フェノーメノも矢のように突き抜けた!】

【しかし!! 前は完全にセーフティリード! 影をも踏ませぬ異次元の快速! 16番メジロクーパー、中山の直線を堂々と一人旅で今ゴールイン!! 圧巻の逃げ切りでG1ホープフルステークスを見事に制覇!!】

【2着には大外から捲って上がったゴールドシップ、3着にインから鋭く伸びたフェノーメノ! グランデッツァは一歩遅れて4着。5着にアダムスピーク。タイムは…… 1分59秒9! 新記録です!! レコードタイムが出ました!!新世代が、中山の地に鮮烈な旋風を巻き起こしました!】


 第28回ホープフルステークス(G1) 芝2000m(右) 晴 良

 

 着順

1着・メジロクーパー

2着・ゴールドシップ

3着・フェノーメノ

4着・グランデッツァ

5着・アダムスピーク

:

:

:

:


【ジュニアG1ホープフルステークス、今年の勝者はメジロクーパーでした!】

【さて、本日クリスマスの中山ではG1ホープフルステークスと有馬記念の連戦に[ファル&ハルナ with Caravan'S]による応援ライブとイベントも盛り沢山で、寒空の下にも関わらず、大勢のファンが詰め掛けています】

【数日後に行なわれる東京大賞典、東京シンデレラマイル、東京ジュニアウマ娘優駿が開催の三日間から始まり、来年1月は門松賞が開催される佐賀*8、荒尾金杯が開催される前日の荒尾*9、それから成人の日に中津大賞典が行なわれる中津*10と重賞ラッシュが続く九州地方レース場にてライブを開催。その後、白銀争覇が開催予定の笠松*11、TCK女王盃が開催される大井*12、川崎記念*13を回り、ニューイヤーカップ開催*14の浦和から東京に戻ってきまして、2月のフェブラリーステークスの前週に行なわれるクイーンカップ*15と共同通信杯*16の2日間にもこのチームによる応援ライブツアーが実施される予定でございます。この他にも、5月にはかしわ記念が開催される船橋、6月の帝王賞が開催される帝王賞、そして、7月のジャパンダートダービーでも応援ライブを開催予定だとか】

 

 そのアナウンスをライブステージの裏で聞いたスマートファルコンが目を丸くし、ハルノウラワが天を仰ぐような仕草を見せた。

 さらに実況の口は止まらない。

 

【今回、スマートファルコンの引退に合わせて企画されたこのライブツアーですが、同時に地方でも開催されているダートG1の存在をもっと広めたい。そんな思いから今回のライブツアーが企画されたそうです】

 

 そこまで聞いたスマートファルコンはようやく口を開いた。

 

「……ねぇ、ハルナちゃん?」

「は、はい……!」

 

 ハルノウラワに顔を向けたスマートファルコンは確かに笑顔だったが、一瞬、その顔にはどこか寂しさを抱えていたのをハルノウラワは見逃さなかった。

 

「……ファル子ね、3月にドバイを走ったら、そこで燃え尽きてもいいかなーって、ちょっとだけ思ってたんだ。……でも、まさかファル子の後ろ髪をこんなに力いっぱいつかんで、夏のダートまで引きずり回そうとするウマ娘が現れるなんて思わなかったな……」

「あの……その……ファル子さんに喜んでもらえるかなって思って、みんなで、色んな地方レース場や組合に声を掛けに行ったんです……サプライズのつもりだったんですが……」

 

 ハルナは、サプライズを本当ならここではまだ明かしたくなかった───厳密には大井の東京大賞典前のライブで発表するつもりでいたが。

 しかも今更であるが、余計なことをしてしまったのではないか、とファル子の声のトーンから後悔しそうになった。

 しかし、当のファル子の瞳の奥では、徐々にであるが絶対王者としての強烈な闘志の炎がメラメラと燃え上がり始めていた。

 

【ライブのメンバーも今回の有馬記念に負けず劣らず豪華絢爛。現在進行形でダート界で活躍中のウマ娘たちが結集しています。これから数日後に控えている東京大賞典と1月の根岸ステークス、それにフェブラリーステークスにも中央だけでなく地方でも活躍するウマ娘たちが集まってのライブ開催。メインメンバーはハルノウラワとスマートファルコンの2人ですが、「[with Caravan'S]」という名前の通り、その他のメンバーは基本的に入れ替え制になる予定とのこと。今回の中山と来週の大井での応援ライブでは、中央からはアイルトンシンボリ、ファレノプシス、ワンダーアキュート。地方からはオオエライジン、グランシュヴァリエ。今日はいませんがフリオーソなどが参戦する予定となっていますが、サプライズゲストも登壇する予定も……?】

【この他、各地方を代表するウマ娘たちや、これからデビュー予定の新人ウマ娘もライブに参加するそうです】

【日本では芝レースが主となっていますが、中央で開催しているダートG1は現状2つしかありません。それ故にフェブラリーステークスやチャンピオンズカップ*17への注目が集まりにくい現状がありますが……】

 

 実況がさらに捲し立てるかのように続けた後、ファル子は一歩、ハルナとの距離を詰め、その綺麗な新勝負服の肩をポンと叩く。

 

「ううん、違うよ。ハルナちゃん、ファル子、とっても嬉しくて……!」

「ファル子さん……?」

「実は笠松や中津、いつかは行ってみたいって思っていたけど、まさかこんな形で実現するなんて……。それに、ファル子の後ろじゃなくて、横に並んで走るための半年分の切符を、ハルナちゃんたちがまさか用意してくれていたなんて……! ……あはっ、最高だよ! ドバイで世界を獲った後のステージも、全部ファル子がセンターで輝いちゃうんだからね!」

「ファル子さん……!」

 

 再びファル子は太陽のようにパァッと明るい笑顔を見せながら、今度はハルナに発破を掛けた。

 

「……さぁ、ハルナちゃん、いいえ、ハ(・)ル(・)ノ(・)ウ(・)ラ(・)ワ(・)さん。いよいよ本番だよ、準備はいいよね?」

 

 それに対してハルナ───ハルノウラワも満面の笑みで応じた。

 

「はい、ス(・)マ(・)ー(・)ト(・)フ(・)ァ(・)ル(・)コ(・)ン(・)さん。行きましょう!」

 

【さて、皆様お待ちかねのこの時間がいよいよやってまいりました。本日のメインレース、第10競走。第56回有馬記念(G1)。今年の出走メンバーは14人です。その前に、チーム[ファル&ハルナ with Caravan‘S]による特別ライブが開催されます……えぇー、どうやら準備も整ったようです。チーム[ファル&ハルナ with Caravan‘S]のよる歌唱です。曲は、『Make debut!』】

 

 

【挿絵表示】

 

 

響け ファンファーレ

届け ゴールまで

輝く未来を君と見たいから

 

 

 

駆け出したらきっと始まる story

いつでも近くにあるから

 

手を伸ばせば

もっと掴める glory

1番目指して

let's challenge

加速してゆこう

 

勝利の女神も夢中にさせるよ(バックメンバー5人)

スペシャルな明日へ繋がる(ハルノウラワ & スマートファルコン)

Make debut!(全員)

 

響け ファンファーレ 届け ゴールまで(ハルノウラワ & スマートファルコン)

輝く未来を君と見たいから(オオエライジン&全員)

駆け抜けてゆこう

君だけの道を

 

もっと 速く(全員)

I believe(全員)

夢の先まで〜(全員)

 

 

「ワァァァァァァァァッ!」

 

【チーム[ファル&ハルナ with Caravan’S]による「Make Debut!」をお送りしました、ありがとうございます! さぁ、ここから今日のメインレース、第10競走。5回中山8日目第10競走第56回有馬記念。改めて出走メンバーを紹介しましょう】

 

 5回中山8日目第10競走第56回有馬記念(G1)

 芝右2500m / 天候 : 晴/芝:良

(枠番)(ウマ番)(出走ウマ娘)

1 1ナコウトプカラ

2 2ヴィクトワールピサ

3 3ヒルノダムール

3 4ナカヤマフェスタ

4 5エイシンフラッシュ

4 6キングトップガン

5 7トゥザグローリー

5 8ローズキングダム

6 9オルフェーヴル

6 10トーセンジョーダン

7 11ジャガーメイル

7 12アーネストリー

8 13レッドデイヴィス

8 14ルーラーシップ

 

【1枠1番、群馬から参戦のナコウトプカラ! 今日の3番人気です!】

【地方競バで最も過酷とも言われる高崎レース場で北関東菊花賞とJBCステイヤーズを勝利、中央でもアルゼンチン共和国杯とブラジルカップを制した。海外ではミラノ大賞典も快勝し、今年はさらに中央で宝塚記念とジャパンカップの栄冠まで手にした。その実力は間違いなく本物! 春秋グランプリ連覇に大きな期待が掛かりますが……】

【そこで彼女に待ったを掛ける、その筆頭が6枠9番オルフェーヴル! 金色の暴君は今日は2番人気、しかし、今年のクラシック三冠ウマ娘に輝く王が威信をかけて群馬のチャンピオンに挑みます!】

【他のメンバーも見逃せません。今年の災厄の中、ドバイから日本にエールを届けた2番ヴィクトワールピサ、本日の4番人気です】

【そんな彼女の同期として、3枠3番ヒルノダムール、4枠5番エイシンフラッシュ、5枠8番ローズキングダム、そして、8枠14番のルーラーシップも立ち塞がります】

【そして何より忘れてはいけないのがこのウマ娘。本日の1番人気、3枠4番ナカヤマフェスタ! 今年イタリアでローマ賞を制して凱旋帰国! そして引退レースとして最後に選んだのが今回の有馬記念! 果たして有終の美を飾れるか注目したい所です……】

【なお、引退セレモニーは第12レースの後に予定しています】

 

「派手にやってくれるな……」

「そりゃ当然でしょう? 何たってあなたの引退レースなんですから」

 

 パドックでのお披露目から、スタート地点へ向かう返しウマの最中。偶々併走する事になったナカヤマフェスタとナコウトプカラはそんな言葉を交わしていた。

 

 ゲート前まで着くと、今日の出走メンバーたちが一堂に会す。

 改めて、ナカヤマフェスタは観客席を見ると、その混沌ぶりに内心驚愕していた。

 チーム[ファル&ハルナ with Caravan’S]による特別ライブの影響もあるが、

 

「……何か今日、めっちゃ人多くないか?」

 

 呟くように隣のプカラに尋ねたら、

 

「……あくまで噂なんですが、今日のここには14、5万人ぐらいの人が詰めかけてるみたいです」

 

 そんな回答を聞いてナカヤマフェスタはついに驚愕を表情に出した。

 自分の引退式が思ったよりも大事になりそうな状況に思わずこう漏らした。

 

「……ローマで引退しときゃよかった」

 

 元々はとある知り合いとのコイントスで、最後の1年と決めた今年。イタリア行きかフランス行きかを決め、その結果がイタリア遠征。

 ミラノ大賞典は惜しくも敗れたが、そこでイタリアのバ場を足で理解し、その次に挑んだローマ賞をぶっちぎりの1着。

 それから凱旋帰国した後、進路を尋ねられた時のこと。

 

《ナカヤマさん! 是非有馬に出てください!!》

 

 空港まで駆けて、そう懇願してきたのは、何とナコウトプカラだった。

 

《何でだ……?》

 

 2人は知らない仲ではない。

 実は同期であり、群馬に遠征した時に併せウマをしたこともある。

 群馬スペシャルと呼ばれる、群馬トレセン特有の急峻な坂。そこで2人は競ったことがあるが、ナカヤマフェスタは一度しかナコウトプカラに勝てたことがない。

 それが、去年の冬のことだ。

 ジャパンカップで大敗してレースを引退しようかと悩んでいた時にあの群馬での特訓はカンフル剤になったのかもしれない。

 そして、件の「フランス行き」か「イタリア行き」か。

 その賭けに参加したのが他ならぬこのナコウトプカラだった。

 

 そのナコウトプカラとナカヤマフェスタ、気付けば一度も対戦しないままそのキャリアを終えようとしていたのを、プカラが引き留め、ついでに「ナカヤマフェスタ、有馬記念出走!」というどこかの誰かさんがリーク情報を流してウマ娘ファンを熱狂させてしまったので、「どうせなら」と今回の有馬を引退レースに選んだ、というわけだ。

 

 だが、まさか自分が引退するだけでここまでお祭りになろうとは思っていなかった。

 

「まさに「ナカヤマフェスタ(中山のお祭り)」の名に恥じない状況ではないか」

「オルフェ……それギャグのつもりで言ってるのか?」

「つまらぬか? 事実そうであろうに」

「むぅ……」

 

 思わずナカヤマフェスタは渋い顔をしたが、そこに他のウマ娘たちも乱入した。

 

「それに聞こえたぞ、「ローマで引退しときゃ良かった」だって? 寂しい事言わんでくれよ」

「……ルーラーか」

「そうです。……それに折角ですから、最後は一緒に走りたいと思っていましたから」

「フラッシュまで……」

「それに、貴様とは一度手合わせ願いたかったからな」*18

 

 さらに一拍置いて、オルフェはある人物にこう言った。

 

「あと……貴様のことをハルナが気に掛けていた」

 

 その言葉の行き先はナカヤマフェスタではなく、

 

「……私ですか?」

「あぁ。余も貴様の実力がどんなものか知りたくてな……!」

「ふん、何言ってんだよ。勝つのはオレだ!」

「何言ってるんですかルーラーさん?」

「誰の引退だろうと関係ありません、勝つのは私です!」

「……ふん、それでなくてはな、纏めて叩き潰してくれようぞ」

 

 それが、オルフェなりのエールであることを、ナカヤマフェスタは感じ取っていた。

 

「……やってやるさ」

 

 一度は燃え尽きかけたレースへの熱。

 そこに再び火を灯させたプカラと今度は正面から戦う。

 結果がどうあれ……いや、

 

(この勝負、絶対に負けられない……!)

 

 最後の戦いを勝利で飾るため、ナカヤマフェスタの心はいつの間にか再び燃え上がっていた。

 


 

 冬の中山レース場を震わせる、地鳴りのようなファンファーレが鳴り響いた。

 伝統の有馬記念。スタンドを埋め尽くす大歓声が天を衝くなか、ゲート裏の緊張感は最高潮に達していた。

 

【さあ、中山レース場14人、今ゲートが開きました! 綺麗なスタートを見せました!】

 

 実況の絶叫とともにゲートが一斉に開き、ウマ娘たちが冬のターフへと飛び出していく。

 凄まじいダッシュで行き脚をつけ、一気に馬群を引っ張ったのは1枠1番───北関東・群馬の灯を背負うナコウトプカラだ。北関東競バの歴史と意地をその脚に宿した彼女は、注文通りハナを奪うと、単独先頭の形を作って自らのペースへと持ち込んでいく。

 

【注目の先行争い、内からスッと出ていったのは1番ナコウトプカラ! 群馬の現役エースがハナを取りました! アーネストリー、トーセンジョーダンがこれに続きます】

 

 プカラが刻む絶妙なミドルペースに、後続のウマ娘たちも息を潜める。

 大本命である三冠ウマ娘オルフェーヴルはスタートで少し置かれる形となり、後方2番手付近でじっくりと構えていた。

 そしてその少し前、中団のやや後ろで鋭い牙を研いでいるのが、これが引退レースとなる4番ナカヤマフェスタだった。

 

【群馬のエース、ナコウトプカラ。地方競バで最も過酷な高崎レース場でJBCステイヤーズを制し、イタリアのミラノ大賞典で世界に羽ばたいた脚とスタミナは伊達じゃない! 後方から中央のウマ娘たちも追随するが今は様子見か。三冠ウマ娘オルフェーヴルは後方から2番手の位置、ローマ賞ウマ娘ナカヤマフェスタは中団付近にいるぞ! 密かに足を溜めています】

 

 ローマの地を制した不屈のギャンブラーは、中山の風を浴びながら、静かに勝負の刻を待つ。

 レースはそのまま大きな波乱もなく1周目を終え、2周目の向こう正面へと突入した。

 

【残り800m! 先頭ナコウトプカラ独走状態。群馬初の春秋グランプリ連覇に王手? このまま行ってしまうのか! おっと、ここでナカヤマフェスタが上がってきたぞ!!】

 

 残り800mの標識を過ぎた、まさにその瞬間。中山の短い直線を完全に計算に入れていたナカヤマフェスタが、泥臭く、しかし圧倒的な迫力で外から一気に行き脚を上げた。

 

【ここで外から上がっていくのは4番ナカヤマフェスタ! これが引退レース! イタリアのローマ賞を戦い抜いた不屈の闘志がここで牙を剥く! 一気に先行集団を外から飲み込みにいく!】

 

 フェスタが敢行したロングスパート。それは先行集団を力任せにねじ伏せるような、凄まじい奇襲だった。

 

【第3、第4コーナーの中間地点で、後方に動きがありました! 後方から動きましたオルフェーヴル!】

 

 だが、この動きに即座に呼応したのが、後方待機していた金色の暴君だ。大外から地響きを立てるような凄まじい手応えで、オルフェーヴルが位置を押し上げていく。

 運命の第4コーナーを回り、14人のウマ娘たちは最後の直線へと怒涛の勢いで雪崩れ込んだ。

 

【さあ、4コーナーを回って短い中山の直線に入った! 先頭はナコウトプカラ! 地方の、群馬の執念が粘る! まだ粘る!】

 

 逃げるナコウトプカラの脚は、直線に入ってもまだ衰えない。

 高崎レース場の高低差15mの坂、北関東菊花賞(ダート2600m)やJBCステイヤーズ(2800m)も制したし、イタリアではミラノ大賞典も勝っている。

 群馬から世界へ、地方から中央に挑みに来た彼女は二の脚を死に物狂いで伸ばしていた。

 内ラチ沿いで粘るプカラに対し、外から魂の激走でナカヤマフェスタが並びかけ、一瞬「フェスタが勝つか!?」という執念の残像が中山を支配する。

 しかし、残り150m。

 すべてをなぎ倒して置き去りにする異次元の足音が大外から襲いかかった。

 

【いやここでナカヤマフェスタが前に出る! ナコウトプカラまで肉薄するぞ、さらに、そのさらに大外から、ものすごい足音を立てて三冠がやってきた! オルフェーヴルだ!! 一歩、二歩、次元が違う! 勝負はもはやこの3人が握った!! 群馬の意地か、三冠の意地か、それとも最後を賭けた意地か、意地同士の叩き合いだ!! 残り50、ここで僅かに先頭に立った───オルフェーヴルだ、オルフェーヴル! 1着!! 強い! 強い! 強い!! これが三冠ウマ娘の力だ!!】

 

 一瞬だった。オルフェーヴルが自慢の末脚を爆発させると、粘るプカラも、追うフェスタも、あっという間にその背中の彼方へと置き去りにされた。

 オルフェーヴルが悠々と先頭でゴール板を駆け抜け、異次元の四冠目を達成したその瞬間、中山レース場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 だが、興奮はそれだけでは終わらない。

 

「オルフェーヴル今ゴールイン!! 四冠達成! そして2着はナカヤマフェスタ、惜しくも敗れましたが、最後に恥じない走りを見せてくれました……! その魂の激走にスタンドからは大きな拍手とフェスタコールが送られています!! さらに3着には群馬の誇りを賭けて粘ったナコウトプカラが大健闘。そこから3バ身差ほど遅れてエイシンフラッシュが4着、5着はヴィクトワールピサか、トーセンジョーダンか、ルーラーシップか、3人並んでゴール、写真判定です」

 

 勝者への賛辞。そして、極限の死闘を戦い抜き、それぞれの意地を示した地方と中央のウマ娘たちへの、惜しみない拍手。

 有馬記念の熱狂は、いつまでも中山の空に響き渡っていた。

 


 第56回有馬記念(G1) 芝2500m(右) 晴 良

 

 着順

1着・オルフェーヴル

2着・ナカヤマフェスタ

3着・ナコウトプカラ

4着・エイシンフラッシュ

5着・ルーラーシップ

 

6着・トーセンジョーダン

7着・ヴィクトワールピサ

8着・ローズキングダム

9着・トゥザグローリー

:

:

:

:

14着・キングトップガン

 

 

*1:
なお、実際の2011年当時にはG1のホープフルステークスはまだ存在しないのだが……

*2:
ウマ娘世界版のLINEみたいなもの

*3:
もちろん東日本大震災のことを指している

*4:
MC.202 フォルゴーレというイタリアの戦闘機を製造した会社がマッキ社だから

*5:
同競走は1996年を最後に廃止された。

*6:
ちなみに、ウマ娘世界でのハルノウラワはこの時点で、全日本ジュニア優駿、南関東オークス、ジャパンダートダービー、JBCレディスクラシックをそれぞれ勝利している。理由は後述。

*7:
山ちゃんボイス。ってことは……?

*8:
2012年1月3日開催(史実では荒尾競馬場廃止に伴い、重賞としての開催は2011年が最後となった。現在では佐賀の一般B級クラスレースとしてその名を残している)

*9:
2012年1月8日開催(史実では既に競馬場ごと廃止されているがこの世界では存続している)

*10:
2012年1月9日開催(史実では既に競馬場ごと廃止されているがこの世界では存続している)

*11:
2012年1月13日開催

*12:
2012年1月18日開催(なお同競走は2023年開催を最後に休止ないしは廃止扱いとなっている……)

*13:
2012年1月25日開催

*14:
2012年2月1日開催

*15:
2012年2月11日開催

*16:
2012年2月12日開催

*17:
2013年までは『ジャパンカップダート』と呼ばれていたが今回はウマ娘アプリ基準での表記としました

*18:
史実ではオルフェーヴルとナカヤマフェスタは対戦経験がない。




 改めて解説。
 ハルノウラワが存在する世界では、
①関東オークスが『北関東オークス』との混同を避けるため、南関東オークスに改名している(2010年以降)。
②その南関東オークスが、2018年までにJpn1に昇格を果たしている。
③JBCレディスクラシックは史実と同じく2013年にJpn1に昇格している
④上記の関係で、ウマ娘世界における南関東オークスとJBCレディスクラシックは、ハルノウラワたちがデビューしてる頃には既にダートG1という扱いになっている。
⑤そのため、ハルノウラワはクラシック期終了までにダートのG1級レースを4勝していることになる(実馬編で2011年末までの成績だとG1勝利は2勝である)。


 ちなみに、この世界における実馬のナカヤマフェスタは2011年の凱旋門賞は出走せず、代わりにイタリアでミラノ大賞典を走り、ローマ賞を勝ってから凱旋帰国しています。
 よって引退が数ヶ月ほど後ろにズレています。


 ちなみに、各パートのウマ娘たちの色分けはこんな感じです
↓
スマートファルコン
ハルノウラワ
ワンダーアキュート
オオエライジン
グランシュヴァリエ
アイルトンシンボリ
ファレノプシス

※なお太字と斜字は全員歌唱、ないしは歌唱に参加している二人または三人のウマ娘たちによる合唱です。



 おまけ
◎メジロトラベラー
⚪︎福山トレセン学園制服姿

【挿絵表示】

⚪︎勝負服姿

【挿絵表示】

⚪︎レースでの姿(福山レース場にて)

【挿絵表示】




おまけ・その2
◎ハグロフォルゴーレ(Haguro Folgore)
⚪︎ウマ娘編

【挿絵表示】

 チーム[ライジェル]所属のウマ娘。
 威厳を感じさせる貴族然としたウマ娘であるのだが、実はクロススキッパーの血の繋がっていない妹。
 九州に基盤を持つ豪族ハグロ家の分家、金町ハグロ家の令嬢(ちなみに、金町ハグロ家の次期当主はクロススキッパーで内定している)。

 スマートファルコンの引退ライブツアー時には既にトゥインクルシリーズを引退している。
 現役時代にはマイルG1を中心に国内外含めて7勝している他、リディアテシオ賞が中止になりかけた際に後世でいう「ハグロフォルゴーレ10億円事件」を起こして話題になったこともある。

⚪︎実馬編
父・アイルトンシンボリ
母・ファレノプシス

 2004年3月12日生まれ。
 ハグロ冠が与えられた第一号であり、牝馬。
 登録上は鹿毛だが、実際には暗鹿毛と呼ぶに相応しい具合に、黒と茶色の中間色みたいな馬体をしていた。

 2006年デビュー。同期はウオッカ、ダイワスカーレットなど。
 同期の二頭と共に、07世代の「牝馬三国時代」の一翼となった。

 最終的には、日本の国際G1では阪神JF(2006年)、桜花賞、安田記念(2007年)、フェブラリーステークス(2008年)。国内G1(Jpn1)ではかしわ記念(2008年)。海外ではジャック・ル=マロワ賞(フランスG1・2008年)とリディアテシオ賞(イタリアG1・2008年)のG1計7勝を上げている。
 これとは別に、2008年に高知競馬場で行なわれた黒船賞にも参戦し、同競走における歴代最高売上を叩き出した。また、この際に高知競馬所属の青岡修二騎手とコンビを組み、以後は翌年の引退までコンビを続けた。
 この時の競馬新聞の見出しに付けられたタイトル「高知に轟いた電光石火!」が生涯キャッチコピーとなる。

 また、2008年のリディアテシオ賞が競馬関係者らのストライキで中止になりかけた際には、馬主である黒松義隆が自ら現金を携えてイタリアの競馬組合に押し掛けて、「金なら代わりに出すからレースを開催してくれ!」と懇願したという話はあまりにも有名で、後世では「ハグロフォルゴーレ10億円事件」とも呼ばれている(この事件は後にイタリア競馬の改革に繋がったと後世の歴史家たちは評している)。
 これによって開催されたリディアテシオ賞をハグロフォルゴーレが勝利したが、この際の事前の取り決めで、ハグロフォルゴーレは優勝賞金なしで、2着以下に賞金が繰り下げ分配された。

 その後、2009年のフェブラリーステークスに参戦するが、エスポワールシチーの3着に終わる。
 ヴィクトリアマイルでは宿敵ウオッカとの対決となるが、まさかの11着。2桁の着外がこれまでなかったために観客たちは動揺を隠せなかったが、実はレース中に故障を起こしていたことがゴール後に発覚し、これが結果的にハグロフォルゴーレの引退レースになってしまった。
 
 最終的な戦績は中央G1四勝と国際G1二勝に加えて、Jpn1のかしわ記念勝利。その内、芝2000mで開催のリディアテシオ賞を除き全てマイルでの勝利である。

 ハグロフォルゴーレのリディアテシオ賞への参戦は、以降、日本牝馬によるイタリア挑戦の波が巻き起こることになり、2013年から2017年の5年間に渡って、リディアテシオ賞は日本調教馬が連続勝利を果たしている(2013年・ヴィルシーナ、2014年・ジェンティルドンナ、2015年・ハグロヴェルトロ、2016年・ハグロライトニング、2017年・メジロトラバント)。
 このため、2018年にはリディアテシオ賞は新たに「リディアテシオ賞・ハグロフォルゴーレ記念」という名が与えられた。

 最終的な戦績と、ウオッカやダイワスカーレットが二強として降臨していた時代に稲妻の如く現れた存在であることから、「07世代牝馬の第三勢力」という呼び名がいつの間にかメジャーになっていく。
 また、イタリア競馬の没落を結果的に防いだ功績に関与したことからも、「日本が産んだMC.202」とも言われてる。



おまけ・その3
◎シービスケット

【挿絵表示】

 ウマ娘編では、アメリカ西海岸を代表するウマ娘界のレジェンド。
 出生名は「ケイトリン・ポラード」。後にハワード家の養子になるが、現役時代は「ケイトリン・ポラード」名義を使い続けた。
 後に、「シービスケット」という名前があまりにも有名になりすぎたため、新たに「フランチェスカ・ケイトリン・ハワード」を名乗るようになり、そのままカリフォルニア州のアルカディアにある「アルカディアトレセン学園」の学長、後に理事長に就任する。
(オリジナルの投稿ページはこちら)

おまけ・その4
◎ハルノウラワの特別衣装

【挿絵表示】

 スマートファルコンの引退記念ライブツアーにて、ハルノウラワに特別に用意されたライブ衣装兼勝負服。
 スマートファルコンによる世代交代の意図を察したハグロフォルゴーレと、彼女に協力したシービスケットらによって、僅か2〜3週間程度で作り上げられた。
 つまり急ピッチで完成させたものらしいが、レースもウイニングライブもこなせる本格仕様に仕上がっている。
 普段の彼女が「少し昔の和風少女」であるなら、これは「現代のアイドル」を体現した姿と言えるだろう。

 ハルノウラワのイメージカラーの一つである緑を中心に、アイドル衣装らしい華やかで目立つ半透明のベールスカートが採用されている。

※2026年10月11日更新
 TK氏がpixivにてアップしたハルノウラワ(別衣装)のページはこちらです。
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