ゴーストギター   作:アオノクロ

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第1話

 暑い夏の日に友人に誘われて行った夏祭り。

 手作り感のあるチラシに、演奏会の大文字が目立つように書いてあった。

 日も暮れて少し涼しくなる会場で、僕は出会った。

 

 流行りの曲を演奏するバンドより、吹奏楽部の演奏より、和太鼓のパフォーマンスより、

 

 

 

 誰よりも目立つオバケに。

 

 

 

「ステージ演奏会?」

「ほら先輩がさ、出るらしいから行って見ようぜ!!」

 

 高校一年の夏、僕は友達に誘われて夏祭りに来ていた。

 年々暑くなる夏の日差しも、日が暮れて少し緩やかになり過ごしくなり、それでも汗をかきながらくだらない話をして、お小遣いの許す限りからあげやかき氷なんかを食べ歩く。

 普段は学生の登下校に使われている道路も、夜店や浴衣の人にあふれ、非現実的な雰囲気でテンションが上がる。

 クーラーの効いた部屋でゴロゴロするのも好きだが、こういうことも案外楽しめてるもんだと思っていた時だった。

 

「さっきから音が聞こえてるアレ?」

 

 友人の1人が掲示板を指さす。

 作った人には悪いけど初心者が頑張って作りました、といった感じの真ん中の文字がデカく色づけられそれ以外の情報が見づらいチラシ。

 見れば公民館の駐車場で、ジャンル年齢問わず参加が可能らしい。

 

「そそ、大体は地域のおっちゃんらがピーひゃらしたり、音楽教室とかダンス教室とかの発表だけど部活の先輩がさ、これに出るんだよ」

「お前の部活って、軽音じゃん。お前も出ろよ」

 

 それはそうだな、と自分もうなづいて振り返る。

 よく見ればさっきまで大声ではしゃいでいた姿はなく、暑さとは違った汗をかき始めていた。

 

「いやほら、こんなとこでしても俺の演奏分かってくれるヤツいねーから」

「へー音楽って難しいんだね」

 

 取り繕っているのは分かるが、音楽のことは詳しくないのでそういうものかと受け入れる。

 だが、もう隣ではニヤニヤと笑っている顔があるのでどうも違うらしい。

 

「ちげーって、こいつまだ下手だから出るの恥ずかしいだけだよ」

 

 そうなの? とまた振り返れば耳が少し赤くなっている。

 

「は、はぁ? そんなことねーし、というか1年の中なら俺は上手いほうだぞ!!」

「あーはいはい、それでイキって部活で1番美人の先輩に声かけてフラれたんだろ、知ってる知ってる。あ、ステージに出る先輩って」

「あーもーうっせぇな!! さっさと行くぞ!!」

 

 普段はクラスでも人気のお調子者だというのに、今ばかりは自分よりも年下の子のようでおかしくて笑ってしまった。

 ニヤニヤといじっていた彼も、流行りの曲じゃん、先輩と歌って来いよと笑いながらさらにからかう。

 

「何笑ってんだよ!! オラ来い!! 先輩に友人連れて行くって言ってんだよ!!」

 

 首に手を回されガッツリと捕まえられたまま歩き出す。

 べったりと引っ付いて暑いし、頭を抱えられたままなので歩きづらいにもほどがある。

 ただ何が面白かったのか、いや何もかもが面白くて笑っていた。

 みんなも笑っていた。

 

 

 

「次だ次、お前らも盛り上げろよ」

 

 夜店のクジで引き当てた光るものを押し付けられ、応援の仕方を教わる。

 とはいえ教え方もいい加減だし、自分もノリで頷いていただけなのでいい加減な応援になるのは火を見るよりも明らかだろう。

 練習っぽく適当に振ればそれでいい!! と褒められる。

 これも祭りだ。

 

「お、出てきたぞ」

 

 1個前にやっていた吹奏楽部のメンバーが楽器を持って下がり、逆側からいかにもバンドメンバーといった風貌の学生たちが出てくる。

 いかにもと言ったが、僕はバンド、それどころか音楽といったものに縁がない。

 精々が合唱祭や授業でのリコーダー演奏程度のもの。

 それでも分かる、自分の知らない、知らない人たちばかりに囲まれた場所での知らないもの。

 未知のものに対する緊張で心臓がバクバクしていた。

 

「せんぱーい!! 待ってましたー!!」

 

 ただ隣にはそんな緊張のカケラもない友人が、光る腕輪? みたいなものを振り回して回りに人に笑われていた。

 当の本人はステージで準備する先輩におざなりに手を振られて喜んでいる。

 

「アホじゃん、いつか先輩に良いように使われそうじゃね?」

 

 反対側から耳打ちされて思わず笑ってしまった。

 

「あれだけハマれるものがあるっていうのもいいんじゃない?」

「そりゃなぁ? 俺だって部活が同じだったらあの先輩と仲良くなりてぇよ」

 

 選んだ部活ミスったかな、と惜しむように呟く友人の声に心の中で頷く。

 ギターを持ってマイクの位置を確かめる先輩は、一言で言うと美人だった。

 ダルそうに、めんどくさそうにしながらもテキパキと動き、気怠さと真面目さを併せ持ったような大人びた美人な先輩。

 僕だってあの先輩と知り合えばパシリにでもなってしまう、命令する先輩も命令される自分も違和感なくイメージが噛み合った。

 

「おい、先に知り合ったの俺だからな、ちゃんと俺に断り入れてから声かけろよ」

 

 少し、いやかなり牽制を込めた声が聞こえて妄想の世界から現実に戻る。

 だが、自分から声をかける気もないし、友人の恋路を応援する気もあるが、ステージでたくましいイケメンのドラムと髪を染めたチャラそうなベース(友人に教えてもらった)の男の先輩、2人からも親し気に声をかけられているのを見て慰めるほうが良いかもとまた思考の世界に入っていた。

 

『さて、先ほどの吹奏楽部から続いて軽音部の子たちも参加してくれました。バンド名は~』

 

 準備も終えて、司会の人がバンドの紹介を始める。

 その声につられて老若男女様々な人々がステージ会場に集まってきた。

 こんなにも大勢の人が見に来る、それをこれから僕は体感するのだ。

 さっきまでの吐きそうな緊張ではなく、ワクワクに満ちた緊張が身体に満たされて行くのが分かった。

 

『では1曲目~』

 

 この日、僕は初めて音楽を知った。

 

 

 

「いやーすごいな先輩たち、軽音部の演奏初めて聞いたけどめっちゃすごいわ」

 

 すごいすごいしか言わなくなった友人だが、自分も今は同じ言葉しか出ない。

 先輩たちが演奏した曲は最初の1曲しか知らなかったが、その後も最初のノリ、熱のようなものにつられて盛り上がった。

 

「で、一番うるさかったあいつは?」

 

 いつの間にか隣から消えてた、のではなく、

 

「先輩に差し入れ持って行くって」

「アイツまだ金あったの? 1番食ってなかったっけ?」

 

 その通り、精々が飲み物を1つ買って行くのが精一杯だったが、最終的にはメンバー全員分の4本を持って走って行った。

 足りない分は僕の財布からだ。

 また借りたのかアイツとため息をつくが今回は違う。

 初めてのバンドに感動した自分からの差し入れだ。

 

「へー何ハマった? お前も音楽やるの? アイツと一緒に?」

 

 ニヤニヤとまたいじるネタを見つけたとばかりに、近づいてくる顔を飲みかけのペットボトルの底で押し返す。

 耳が赤くなるのを自覚しながら、そういうのも良いかもと考えた。

 

「え、何マジで!? バンドするか!?」

 

 タイミングが良いのか悪いのか、後ろから声だけでなく身体も飛び掛かってくる重さに思わず揺らめく。

 

「お、愛しの先輩には会えたのか?」

「バッチリ!! ホントに友人連れてくるとは思わなかったって言われた!! 他の先輩もマジかよって!!」

 

 本人は嬉しそうだが、僕は苦笑いだし、冷ややかな目でそれ期待されていなかったんだろ、とつぶやく声。

 小声だったのはせめてもの情けだろうか。

 

「あ、ほらあのギターの人は? 何か言ってた?」

 

 いたたまれなくなったのか話題を変えた。

 記憶を掘り出せば確かにさっきのバンドは4人いた。

 前で歌っていた先輩に、なんかいろいろと動いて目立っていた男の先輩たち。

 その中にもう1人ギターを弾いてた人がいたはずだ。

 

「あ、サポートギターの? 俺知らねぇや、先輩以外の上級生とそんなしゃべんねぇし」

「たぶん1年だぞ、同じクラスにいたはず。顔チラッとしか見れなかったけど」

 

 ほんとに多分だけど、と自信なさげに言うが、それが本当なら同い年で先輩たちと一緒に演奏してる人がいることになる。

 確認もこめて聞いてみるが、

 

「はぁ? 先輩しかいないバンドで1年で出るやついるわけねえって」

「そんなものなの?」

「いろいろあるけど基本そうだな、同い年の方がやりやすいし先輩らのほうが上手いし。だからお前も一緒にしようぜ!! 俺まだバンド組んでねぇんだよ!!」

 

 そう言って肩を組んで抱き寄せる。

 相変わらず暑いし、お互い演奏にはしゃいでもうお互い汗だくなのであきらめて成すがままに引っ張られる。

 

『続きまして、またまた高校生、それも15歳ということで1年生のソロです!!』

 

 いつの間にか準備が終わったのか司会の人が話始める。

 

「もう次始まんのか、行こうぜ」

「聞いてかないのか? 同い年のソロだってよ」

「同い年って時点でそこまで大したことねぇから良いんだって、絶対先輩の方が上手いからきついだろうなぁ」

 

 さっきまでそこそこいた人たちも腰を浮かしている。

 もちろん見ている人もいるが、さっきよりは少ない。

 

「始めようとしてるお前には悪いけど、こんなもんだよ。上手けりゃ人は来るけど大抵はこんなもんだ。だからさっきあんなに盛り上がった先輩は特別って思っとけ」

 

 普段の自信も成りを潜め、少し気落ちしたように話す姿を見てまた音楽を少し知ったのかもしれない。

 いや、音楽を通じて友人のことを分かったのかもしれない。

 

「さ、行こうぜ」

 

 そんな友人を止めることができず、つられて歩き出そうとした瞬間に、ステージの照明が消えた。

 思わずステージを見ると正確には、下から見上げるように照らすライトやステージの上から照らす証明の一部が消えているが、焦った司会の人の声が聞こえる当たり、停電ではないらしい。

 

「どうしたの? 演出?」

「上のライトだけ電線切れたとか?」

「あの子どうするんだろ」

「ギターの音は聞こえるから演奏はできそうだけど、手元も見づらそうだし流石にダメかなぁ」

 

 周りでざわつく声が出るが、真っ暗になってないあたり、そこまで焦ってる人はいない。

 むしろステージの子を心配する余裕があるくらいだ。

 

「あーあ、ホントに運が悪いな。あれだと手元も見えにくいからまともにギター弾けねぇぞ」

 

 俺なら暗視スコープでも用意するかなとふざけいるが、心配のほうが勝っているのか言葉の節々が震えている。

 もし自分だったら、そう考えるだけで僕も震える。

 ステージで、自分1人。

 突然のハプニングで、まともにできな、

 

 

 

 そこで気が付いた。

 

 

 

 あの人には不安も気負いもない。

 それどころか、自分のピンチを楽しむようにステージ上のお化けは笑った。

 そうだお化けだ。

 いろんな人が不安や焦りに憑りつかれている中で1人、祭りのステージ会場という大勢がいる中でたった1人、笑っている様子はとても不気味で幼稚だがお化けとしか言えない。

 なのに恐怖はなく、逆に目が離せなかった。

 黒いパーカーのはためき、

 肩までめくられた袖から伸びた腕、

 全てのパーツが白色のギターに添えられる手、

 音が遠く、見るものスローモーションのようにゆっくりと感じる。

 さっきまでの未知への期待ではなく、何かすごいものが来ると確信した。

 そしてその予想通り僕はこの1秒後、

 

 

 

 ロックに貫かれた。

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