色々と独自解釈を含みます。
プロローグ ずっとずっと前のこと
もっとも古い記憶は、多くの大人に見下ろされていたあの日のこと。
小さく僅かばかりの力しか持たなかった私であれど、それを生み出して器に入れることに成功した事実に興奮しているようだった。
その誕生理由故に、私もそのことに喜んでいた記憶がある。
私の存在は秘匿された。
想定よりも私が脆かったのが一つの原因だが、組織が
彼らの望みによって生まれた私にとって
ある段階で、彼らは私を彼らが有する特殊な装置に放り込んだ。
彼らの研究成果である私を失いたくなかったのだろう。愛情故というには、彼らの祈りは好奇心が強すぎるが。
事前に何があるは伝えられていた。どれだけ経てば目覚めても良いかも知らされていた。
だからそれに従って内側から装置を開けて目を覚ましたとき、研究者たちが消えていたのに驚くことはなかった。
目覚めてからは簡単だった。
彼らは生きてほしいと言った。
生きてさえいれば好きにしていいと言った。
彼らは口にしなかったが、その願いが何かは理解している。私は彼らの祈りによって生まれたのだから。
救世主の到来まで少し時間があることが分かった。彼らの技術で確認すれば二つの解が導き出されたからだ。
それが意味することは分からなかったが、崩壊を示す値が後者の同じところに振れていることを考えれば、それに対抗する救世主もそこで現れると考えて準備するのが良さそうだ。タイミング的に手遅れになるかもしれないが、そうならないように私が大半の準備をすればよいだけのこと。
いずれは救世主への接触が必要となる。
以前に姿見を見たときの自分の姿を思い返し、今の
彼らの技術を拝借し、その姿を今の学園都市キヴォトスに則したものへと変化させる。
再び姿見に自身を映し、今の『テクスチャ』で問題視されることはないであろう姿になったことを確認する。
キヴォトスと彼らの技術の相性は良くない。使える技術もあるが、危険すぎる物も存在する。
私は彼らが遺したタブレット端末にその全ての情報を刻み込んでから、いくつかの有用なものと私では再現が難しいものを選抜して鞄というには大きすぎる箱に放り込み、その研究所を放棄することを決めた。
キヴォトス人の装甲はかなり硬い。だが彼らの研究対象を考えれば兵器系の代物は『テクスチャ』のことを加味しても無法が過ぎる。
それらの危険物の破壊と研究所の崩壊を見届けて、とある場所へと足を運んだ。
「『廃墟』……。なるほど確かにその呼び名に相応しい状態ですわね」
それは私の知識の中で廃墟と呼ばれるに適した建物群だった。
かつては名を持っていた司祭たちが力と名を失った結果か、あるいは『テクスチャ』の影響でこうなったのか、どちらが真実であるかは分からないが、随分と朽ちた様相を呈している。
ここにいるのは、彼らが『ATLAHASIS』と呼んでいた演算装置と実行機能。このキヴォトスには他にも発現すれば危険な代物は存在するが、起動が完了した時点で世界の破滅が決まるのはこの『AL-1S』だけだ。
他のどの原因が爆発したところで一部地域が地図から消えて壊滅するだけかもしれないが、これだけは確定事項である。それを目的としてあれは作られているのだから。
最も近いミレニアムサイエンススクールで情報収集を行ったところ、今は『名もなき神々の王女』という名で呼称されているらしい。
複雑だ。あの司祭たちによって造られた機構にその名が冠されている事実に瞑目する。
「少し、星見をしましょうか」
正しく手順を辿れば、未来の一辺を垣間見ることは難しくない。
可能性の一つを手繰る手段として、私は星見を愛用していた。研究者たちはあまり良い顔をしなかったが、これもただの学問の一つでしかないのである。
「ふむ、遊戯と意思、ですの。意思が二つ、いえ、片方は使命ですわね。しかし、使命はどうしてこんなにも薄く……」
使命が意思に打ち克つということか。それに遊戯が色濃く出ているというのは興味深い。
だが、この結果はつまり『名もなき神々の王女』が別の形の役割を持つということ。それ即ち遊戯と深く関わるのならば手を打つ必要がないということなのではないか。
しかし星見は他の可能性を示唆する。服従と暴走。僅かに見える可能性ではあるが、何も手を加えなければ脇道へ逸れていく可能性が存在していることの証左。
「最重要はやはり救世主となるようですわね。大きく関わるわけではないですが、遊戯との関連として必要不可欠のようですわ」
そこがどう結びつくのか、現時点では全くと言っていいほど分からないが。
だがこれがもっとも有力な可能性であるというのであれば、それを見守るに越したことはないだろう。他の破滅の要因に関しては、私の武力では介入は難しそうというのも理由の一つだが。
もとより私は私を生み出した彼らと同じ研究者。研究が出来れば問題ない。あの司祭たちの目的を考えれば他の原因によって起こる事象は無視しても問題ないはずだ。
だが、『ATLAHASIS』だけはだめだ。あれが何を生み出すか不確定である以上、私に危害が及ぶ可能性がある。
それを考えれば、どちらにせよ『ATLAHASIS』の無視はできない。最低限、監視ぐらいは行わなければならないだろう。
「であれば、ミレニアムサイエンススクールでの生活権の確保が急務ですわね」
近くにいれば、誰かが廃墟へ足を踏み入れた際に確認も容易だ。もし私にとって都合が悪い人間が接触しようとした場合は止めればいい。
そんなことを考えながら、私はミレニアム自治区へ歩みを向けることした。