祈られた少女たちのメヌエット   作:息抜きのもなか

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2月中に終わらせたいと言ったくせに一話しか更新できなかった馬鹿


11.助けを求めてきた少女

 その日、ゲーム開発部が新たに作成したゲームをテストプレイしてほしいと言われ、先生はゲーム開発部の部室を訪れていた。アリスは先生が来る前にじゃんけんで負けて買い出しを担当することになったらしく、今この部屋に居るのはモニターの前に座る先生とその両脇に陣取る才羽姉妹、そしてそれをロッカーから見守るユズの四名のみである。

 新作のゲームはいつも通りというべきか、いろいろと突っ込みどころの多いゲームのような何かだったが、ひとまずこうして完成品として提出されているのはいいことだと先生はまずその部分に対する賛辞を三人へ送る。

 しかし作品の感想より何よりも先にその言葉が出たことで先生の言いたいことを察してしまったのだろう。モモイとミドリはまだ先生が何も言っていないにもかかわらず言い訳を始めてしまう。

 

「えーっと、そう、これは少ない期間で何が何でも完成させるっていう試作品だったの! だからちょっとシナリオに変なところがあっても仕方ないんだよ!」

「お姉ちゃんのシナリオは擁護できないほどメチャクチャですが、短期間で時間がなかったというのは本当なんですっ! だから敵は作画コストを落としてカラバリで対応したり、味方にもモブ兵士として色違いを入れるようなシステムをユズちゃんにしてもらったりしたんですよ!」

「"うん、そこが一番の問題なんじゃないかな……? 今回のは何かに応募するわけじゃない普通に作ったやつなんだよね?"」

 

 先生の指摘に図星だったのか、うっと喉を詰まらせるような音が二つ鳴る。ロッカーからも微妙にガタッと音が鳴ったので、ユズの方にも何か心当たりがあるのだろう。

 別に期限があったわけでもないのに、手抜きのゲームを作っていたようだ。

 彼女たちのことだから何か理由があったんだろう、とはならないのがゲーム開発部。モモイという矢面に立ってしまう人間がいる故に忘れてしまいがちだが、彼女たちは全員が全員作ったゲームをクソゲー認定される原因を有している生徒たちである。

 

「"どうして、こういうコンセプトにしたの?"」

「そ、それは……締め切りギリギリになって気が付いてしまった時に、その状態でも何かを提出できるようにするための練習で……」

「"それだったら急拵えの練習より、締め切りがあるときに計画通りに進められるような練習をした方が良いんじゃ……"」

「それを言われると反論のしようがないけど、そういうことじゃないんだよ! ギリギリで滑り込ませるロマンってものがあるでしょ! ほら、ゲームやアニメとかでもよくあるじゃん!」

 

 持論を展開するモモイだったが、しかしそういったものは作品内だから映えるわけで。

 時間があるにもかかわらず同じようなことをするのは自らの首を絞めるだけであり、作品のクオリティを下げる要因以外の何物にもならない。しかも、そういった作品では登場人物がそれぞれの分野で特異な才能を持っている者たちの集まりであることが多く、これもまたゲーム開発部の面々とはかけ離れている部分である。特にモモイ。

 ロマンは確かに大事ではあるものの、エンジニア部の自爆機能のように、ロマンではあるもののどう見ても不必要なロマンというのも存在するのである。

 であるから先生は締め切りがないならばちゃんとしたクオリティの作品を用意すべきだと思い、禁断の手札を切る。

 

「"あんまりこういうことをしていると、ユウカに怒られちゃうんじゃない?"」

「ユウカだって私たちのゲームを全部プレイするわけじゃないんだし、バレなきゃ大丈夫だよ!」

「へぇ? またロクでもないゲームを作ったのね?」

 

 そこに突然、居るはずのない者の声が響く。

 驚いて後ろを振り返れば、いつの間に部室に入ってきていたのか、セミナーの会計である早瀬ユウカが笑顔でそこに立っているではないか。彼女が歩く際に独特の音を発することは周知の事実であったため、油断していた。先生も無駄遣いをしているときに近付かれる可能性があるとくれぐれも警戒を怠らないようにしなければと心に刻む。

 ユウカは笑顔のまま先生からコントローラーを奪い取り、無言でスタート画面からゲームを開始する。

 あわあわと慌てだす才羽姉妹と、こうなったらもうダメだと諦めた先生。

 沈黙を破ったのは新作のゲームをプレイしているユウカだった。

 

「一応言っておくけど、私はあなたたちのゲームは全てプレイしているわ」

「へ?」

「だからあなたたちがカラーバリエーションだけ豊富なくだらないゲームを作ったり、明らかに難易度設定がおかしい理不尽なゲームを作ったのも、全部ちゃんと把握させてもらってるわ」

 

 それは、ある種の死刑宣告であった。

 自分たちのゲームが全てプレイされている。TSC2以降に作った適当なゲームも含めて全て遊ばれてしまい、中身を把握されてしまっているということ。

 それが意味するところは、自分たちがまともなゲームを出していないことを、早瀬ユウカに把握されてしまっているということでもあった。

 これはまずい。何がって、部の存続が。

 ミレニアムプライスで結果を出したことで廃部は保留になっているものの、あくまでも保留であって、完全に回避したわけでない。継続的に評価される作品を作らなれば、言い換えれば適当なゲームばかり作っているままだと、実績不十分と見做されて再び廃部の危機が訪れてしまうのだ。

 

「あわわ、どうしよう、このままじゃ……」

「大丈夫よモモイ。あなたたちはちゃんとしたゲームを作ったのね? ()()()()

 

 段々とゲームを進めて顔を険しくするユウカに、モモイとミドリの焦燥が増していく。

 そしてユウカの眉間に寄った(しわ)がくっきりと溝を作り始めたとき、その空気は打ち破られた。

 

「先生! ランが! ランがっ!」

 

 悲痛な叫びを上げながら息を切らして部室に飛び込んできた、天童アリスの登場によって。

 その声に振り向けば、天童アリスがそこに居た。しかし、彼女の言う矢生ランの姿はどこにもない。

 その代わりにアリスの胸に抱きかかえられた、紫色の子狐の姿が見えた。

 彼女を見る面々の視線が、その小さな生き物へ集中する。

 

「"アリス、一回落ち着いて。……その子は?"」

 

 先生が優しく声を掛ければ、アリスはモモイが座っていたクッションを奪い取り、そこに紫色の小動物を優しく横たわらせる。突然座る場所を奪われたモモイは状況が状況だからか抗議することもできず、行き場を失くした言葉が彷徨って彼女の口を開けさせたままである。

 アリスは息を乱している小さな生き物に対して悲痛そうに顔を歪め、そしてその泣きそうな顔のまま先生の方を向く。

 

「この子は、ランです。お狐様の姿ではありますが、この子が……ランなんです」

 

 やはり、アリスの手によって寝かせられた子狐は矢生ランであるらしい。

 しかし以前彼女の部屋で見た姿とは似ても似つかないその姿に、先生の困惑は鎮まらない。辛うじて()()()()()のであれば、長い紫色の髪色が子狐の毛色に現れているところだろうか。こうして弱っているときに子狐の姿になっていることを考えれば因果関係が逆なのかもしれないが、それぐらいしか共通点を見出すことができない。

 

「ランは恐らくユリをホログラムにしていたのと同じような技術で、自身も人のように見せていたんです」

 

 アリスはそのことを、以前ランの部屋に突入した時から気付いていたと語る。先生やモモイたちが気付いていなかったから言えなかったらしいが、アリスの目には人の姿と子狐の姿の二つの姿が重なって見えていたらしい。

 その原因についてはアリスがランの語っていた神性に近しい存在であるからなのか、あるいは彼女の身体構造に依るものなのかはわからない。

 しかし先生はランの部屋に突入したときのアリスの様子を思い出し、その言葉が嘘ではないことを確信する。

 あの時、アリスは明らかに目線を下に向けていた。あれは確かに彼女がランの真の姿を見抜いていたからこそではないか。また、アリスは交戦も行わなかった。それはきっと子狐の姿が見えていて混乱したのと、小さな動物を撃つことに抵抗があったからだろう。

 

「"分かった。その子がランなんだね。それで、一体何があったの?"」

「それが、アリスもよくわかっていないんです。おつかいクエストを完了して後はここに戻ってくるだけだったのですが、途中で爆発に巻き込まれてしまって……。買ってきたおつかいの品もどこかに吹き飛ばされてしまって途方に暮れていたところで、倒れているランを発見したんです」

 

 それを見てユウカが自身の持っているタブレットに目を落とし、セミナーに入ってきた連絡を見せてくる。『市街地で原因不明の爆発発生』というタイトルで入ってきた報告はこの付近で爆発が起こったことを報せている。

 アリスがランを連れてきたのは、先生が今日ここに来ると分かっていたからなのだろう。医務室の方が良かったのかもしれないが、今のランのような小動物を扱いに慣れているわけではないだろうし獣医師にかからない限りはそう大差ないと判断したのだと思われる。

 それにタイミングが良いと言うべきか、ここにはセミナーのユウカもいる。その情報をすぐに伝えられるという点でも、その判断を褒め称えるべきだろう。

 そうしてユウカからアリスに対していくつかの質問が行われ、何も情報がないということが把握された段階で、彼女が目を覚ました。

 

「うっ、ぐっ……ここは……」

「ラン!」

 

 目を開いた子狐姿のランに、アリスが駆け寄っていく。

 傷だらけの彼女はアリスに目を向け、そしてその瞳を先生やモモイたちの方に映し、そしてその瞼を一度閉じて大きく息をする。

 そして彼女は懇願するような声音で、先生を真っ直ぐに見つめながら声を出した。

 

「ユリを、探してくださいまし。あの子を()く、見つけなくては」

 

 ピコン、と先生のモモトークが着信を伝える。

 後にしようと思ったが、それが今しがた話題に上がったユリと同じ部活のウタハであったためにその通知を開き、内容を確認して、先生は何か良からぬことが起こっていることを確信する。

 

『先生、ユリくんを見ていないかい? 一緒に実験をする予定だったのだが、まだエンジニア部に来ていなくてね』

 

 ユリを探さなければならない。

 彼女を奪還するための騒動から数カ月。まだ、彼女たち(ユリとラン)の物語は終わっていないようだった。




プロットを書き換えたは良いものの、思ったより難しい。
話のテンポは変わらずなので完結まで4,5話なのですが、一体いつになるのやら。
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