祈られた少女たちのメヌエット   作:息抜きのもなか

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お待たせしました。ギリギリ四月中に更新成功。


12.神に近しかった少女

 事情を聴き始めて最初にランが口にしたのは、衝撃的な事実であった。

 

「私を攻撃したのは、ユリですわ」

 

 その彼女の証言を元にヴェリタスや特異現象捜査部の力を借りて現場のカメラの情報を確認すると、確かに爆発の直前まで中心にいたのはランとユリの二人だったことが確認できる。それはランの言葉通り、鬼灯ユリが爆発を引き起こし、その場を去ったという状況を確定的にさせてしまう。

 先生はひとまずヒマリたちに引き続き監視カメラやGPSの情報を頼りにユリの足取りを追ってもらうようにお願いして、現場の状況をランから聞き取ることにした。

 ヴェリタスの力を借りるために一通りやり取りをして状況を確認をしている間にも、ユウカの伝手を使ってランの手当てをできる人を手配し、彼女が負っていた怪我の治療が行われていた。

 治療を受けて容態が安定したのか、ランはいつの間にかホログラムを再展開し、集まった面々の前に見知った姿のランが現れる。その技術はどういう仕掛けなのか、怪我をしたランが手当てを受けた箇所を反映するように人間姿のホログラムも怪我の治療を受けたような見た目になっていた。

 ヒマリたちにユリの捜索をお願いするのとほぼ同じタイミングでランの治療が終わり、ゲーム開発部とユウカ、そして先生は改めて爆発が起こったときのことを確認しようとベッドに腰かけるランへと向き合う。

 

「"早速で悪いけど、何があったのか聞かせてもらえる?"」

「ええ。勿論ですわ」

 

 ランは記憶を辿るように目を落として過去へと視線を向け、慎重な声音で話し始める。

 彼女が初めに語ったのは、最近、ユリの食生活が終わっているという内容であった。モモイがそれに対して何の関係があるのかと問いを投げると、ランが何を言うよりも前にミドリにもう少し話を聞いてみようよと諭される。

 口を閉ざしたモモイに対し少しだけ手のかかる子供へ向けるような微笑みを送ってから、ランは先生に視線を戻す。

 話を聞いて行けば、ユリは以前は食事を必要としていなかったが為に体調や栄養に気を遣う必要がなかったのだが、身体を得たことで食事をする必要が出てきたという。だというのに、ユリが親しく交流している相手と言えばエンジニア部やヴェリタス、ゲーム開発部といった、食事を参考にするにはあまりにも壊滅的なメンバーである。

 そのため、彼女たちに倣ってしまったユリの食生活は、常人であればすぐに体を壊してしまうようなものをスタンダードにしてしまったらしい。身体ができたばかりでそんな食生活をするのは流動食しか食べていなかった胃に二郎系ラーメンをぶち込むようなもの。

 そういうわけで最近はランがユリの食生活の面倒を見に通い妻のようなことをしているらしい。

 

「"じゃあ今日ランとユリが一緒にいたのは、その買い出しみたいな感じだったのかな"」

「ええ。今日から泊まり込むと言っていたのでついでにエンジニア部の部室で料理をして振る舞って差し上げるつもりだったのですわ」

 

 ことが起こったのは、買い出しが終わり、その足でエンジニア部に向かう最中だった。

 予兆は全くなかったとランは言う。

 突然頭を抱えて苦しみだしたユリにランが駆け寄ったランは、ユリのヘイローが激しく明滅していることに気が付いたという。百合の花を象ったそれがチカチカと明滅する姿を見て危険を察知した時には既に遅く。

 その時起こったことは正確には爆破ではなく、溢れ出る神秘の暴走だったとランは語る。

 溢れ出た力の奔流が結果的に爆発と同じような被害を生んだのだと。

 改めて当時のカメラの映像を見返せば確かに爆炎の類は観察されていない。観測できるのは正体不明の衝撃波と高エネルギー体と思しき何かで、燃えているのはその力で抉られて破壊された建物の中にあった爆発物や機械の類によって引き起こされたものと、高エネルギー体の熱によるものなのだろう。

 口にこそ出さなかったが、先生はそれがアビドス砂漠で見たホシノ(ホルス)が垂れ流していたものと似ていると感じてしまう。

 

「原因は、分かっていますの」

 

 悔いるようにそう溢したランの言葉に、アリスが不安そうに先生を見る。

 そのアリスの想像している内容を察したのか、ランは頭を振ってその仮定を否定する。

 今回の暴走が、ユリを生徒にしてしまったことが原因ではないかという疑念を、それが直接の原因ではないと断言する。

 

「今回の一件は、ユリが生徒となった今でも神性を有していることが原因ですわ」

「それはやはり、アリスたちが無理やりユリと一緒にいたいと願ってしまったことが原因ではないのですか?」

「遠因であることは否定しませんわ。ですが、根本はキヴォトスというテクストに依るものではないやり方で生徒としての器を形成する際に、雑なやり方をしたからという点に尽きますの」

 

 まあ早い話が、深く考えずに力を行使して、あまつさえ自身の優位性を堅持しようとした馬鹿が悪いですわね。

 そんなことを呆れ気味に言ったランは、しかし対策を施さなければならないとも口にする。

 

「神性を有している以上、狂うことからは避けられませんの。先生は『セトの憤怒』を見て想像がつきやすいかと思いますが、長く生きた剥き出しの神性は自身の感情のままに振る舞う怪物に成り果てますわ」

「えぇええ! じゃあユリもそんな風になっちゃうってこと!?」

「それは……すごく嫌かもしれません」

「『かも』ではありません! アリスは絶対嫌です!」

 

 それを聞き、先生はアビドス砂漠で見た『セトの憤怒』を思い返す。

 あれは自らの意思で動いているようで、その実は感情に引っ張られている歪な存在のように思っていた。溢れ出る力の奔流は反転(テラー化)したホシノのそれに近く、プラナの力を借りて『シッテムの箱』の制約を解除しなければ太刀打ちできなかったほどだ。

 その怪物と、ユリが同じような状態に陥っている。

 ユリ自身が望んだ暴走ではないはずだ。最も親しくしていると言ってもいいランを傷つけることなど、ランのために装置を開発するほどの彼女が望むはずがない。

 これは先生として、必ず解決しなければならない問題であると再認識する。

 決意を固める先生を見ながら、ランは続ける。

 

「神性が剥き出しになった状態は周囲の影響を受けやすい状態でもありますの。『セトの憤怒』がホルスの力に()ばれてアビドスに顕現したように。加えて、ユリは生徒としても定義されている以上、色彩の影響を受ける可能性も有していますわ。ただ力のままに暴走するのならまだしも、その状態で色彩に(さら)されたとすれば、それがどういう結果を生むかは想像もしたくないですわね」

「"……連れ戻そう。ユリを。手遅れになる前に"」

「そうですわね。あの場で暴れなかったことを考えると、ユリにも多少の理性は残っていますわ。恐らく皆に迷惑を掛けないよう、人気のない方へ向かったのだと考えていますが……」

 

 そんなことを話していたタイミングで、先生のタブレットがメッセージの受信を伝える。

 差出人は、ヒマリ。

 その内容に目を通して、顔を上げた先生は言う。

 

「"行こう、廃墟へ"」

 

 独りで自らの暴れまわる力を抑える生徒の元へ、救いの手を差し伸べに行くのだ。




月一ですが着実に話は進んでいます。……このペースだと完結は夏?
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