祈られた少女たちのメヌエット   作:息抜きのもなか

2 / 13
1.鬼灯ユリという少女

 ミレニアムサイエンススクールのすぐ近くのゲームセンター。

 ゲーム開発部のシナリオライターである才羽モモイがよく利用しているその場所で、格闘ゲームを行う影が二つ。

 

「おりゃ、うーん、この!」

 

 一つは才羽モモイ。双子の妹と色違いのピンク色の猫耳型ヘッドフォンを愛用する少女である。

 ガチャガチャとコントローラーを操る彼女の口は苦戦しているのか()の字に曲がっていた。実際、ゲーム画面には残り半分を切ったモモイのキャラのHPに対し、相手のHPはほぼ満タンの状態で残っている。

 モモイの隣でそれを観戦しているモモイの色違いのような少女は双子の妹の才羽ミドリだ。姉のヘタクソなプレイを見てどうにもむず痒い思いをしているようである。

 

「いっくよー! えっさ! ほいさ! どっこいせ!」

 

 対戦相手である向かいの機体では黄色い髪に赤のメッシュが入った少女が楽しそうにコントローラーを操作していた。こちらはモモイとは違ってめちゃくちゃな操作はしていないようで、対策が出来ていないモモイのキャラクターに対して的確なコンボを決めていく。

 そのままモモイに影すら踏ませずにHPを削り取り、画面には「K.O.」という表示が点滅した。

 

「なんでー!? この前やったときはコンボ精度低くていくらでも割り込めたじゃん!」

「ふっふっふー。割り込まれて練習にならないなら、割り込まれない相手と練習すればいいんだよ!」

 

 そう言いながらじゃじゃーんと手を横に向けて、背に隠れていた小さなメイド姿の上級生をお披露目する。

 ミドリが小さく溢した「それって練習モードでやればよかったんじゃ……?」という言葉は、紹介されたメイド姿の少女によって搔き消された。

 

「ハァ!? おま、私を誘ってたと思ったらそういう理由かよ!」

「はい! チビネル先輩はコンボの練習にちょうどいいです! アリスもそう思います!」

「だよね! ボクもそう思ってネルパイセンをいろいろだまくらかしてサンドバックにしてたんだよ! いやー気持ちよかったなぁ」

 

 才羽姉妹の後ろにいた大きなレールガン――光の剣を背負った少女、天童アリスが黄色の髪の少女に同意する。それにメイド姿の少女――美甘ネルが反応し、上等だと声を上げながらアリスを隣の筐体へ引っ張っていく。

 隣で対戦を始めたネルとアリスを横目に見ながら、モモイは「もう一回!」と再戦を要求し、再び機体に取り付く。

 

「自分より弱い人をサンドバックにしちゃだめだよ! 私が懲らしめてやるんだから!」

「さっき手も足も出ずにボクに負けたのに何を言ってんのさ。受けて立つよ!」

「さすがにネル先輩をボコボコにしながら練習するのは良くないと思うよ、ユリ」

 

 ミドリからそう諫められながら、ユリと呼ばれた少女は再びモモイへとコンボを開始する。

 しかし、先程とモモイがキャラを変えたからかコンボが繋がらず、割り込まれてしまう。

 

「へっへーん! このキャラにはそのコンボ入らないんだよ!」

「うわー! モモイ君が僕に意地悪するー!」

「意地悪じゃないよ! これも立派な対策なんだから!」

 

 そう自慢げに胸を張るモモイのキャラの攻撃が通り始め、先の試合とは打って変わってモモイ優勢で試合が運ぶ。

 ユリも盛り返したものの、ダメージレースが振るわずに押し負ける形で決着した。

 

「ユリもまだまだだね! 対策の対策ができるようになって初めて上級者を名乗れるんだよ!」

「お姉ちゃんも中級者とは言えないレベルだけどね」

「それは言わない約束だよミドリ!」

 

 もう一回だクソがと騒いでいる隣の機体からの声を耳に入れつつ、ユリは筐体を操作して何やらスマホも操作していた。

 ミドリが何事かと後ろからそれを覗いてみれば、どうやら彼女は対戦動画をスマホの方に取り込んでいるようである。これは姉が完膚なきまでに負ける日が遠くないかもしれないと思いながら、ミドリは瞑目した。

 

「うわわっ、そうだ、今日はパンと牛乳買わなきゃいけないんだった!」

 

 スマホを見てそんなことを言い出したユリはバタバタと自分の鞄に自分の物を詰め込んで、大きな声で「ごめんねお先ー!」と手を振りながらゲームセンターを飛び出していく。

 それを見送ったミドリが彼女が座っていた席の方を見れば、ユリがいつも使っているイヤホンケースが置かれたままになっているのに気が付いた。

 

「お姉ちゃん、これって」

「あ、ユリのイヤホンじゃん! まだ見えるところにいるだろうし、私が追いかけるよ!」

 

 そう言いながらミドリからケースを奪い取り、モモイはゲームセンターを飛び出す。

 ゲームセンターを出てすぐに左右を見回したモモイは、先ほど出ていったユリの姿がないことに気が付いて、どちらにいったのだろうかと首を傾げた。

 

「もう裏道とかに入っちゃったのかな?」

「お姉ちゃん、いきなり飛び出さないでよ」

 

 追いついてきたミドリの苦言に、モモイはごめんごめんと謝罪する。

 モモイがユリの姿がないことを話して姉妹揃ってその事実に不思議がりつつ、仕方ないと割り切って寮の部屋に届けておこうと結論を出す。

 

「じゃあ一旦私が預かるね。お姉ちゃんが持っているとなくしそうだし」

「そうだね! って、あれ?」

 

 妹に促されて提出しようとしたその手に、先程間違いなく手にしたはずの紫色のイヤホンケースがない。落としたのかと思って辺りをキョロキョロと見回してみても、それらしいものは見当たらなかった。

 姉のその挙動不審な様子を見て、ミドリは素早く姉の腕を掴んで自分に向けさせる。

 

「お姉ちゃん……」

「ち、違うよ!? ゲーセンを飛び出した時には持ってたはずだし!」

「言い訳はいいから、今は探さないと」

「そ、そうだねっ! うわっ、見つからなかったらどうしよう!」

 

 二人はユリが持っていた紫色のイヤホンケースを探し始める。

 ゲームセンターの前だけでなく、先程の筐体の近くで叩き落してしまった可能性も考えてゲームセンターの中を滑っていないかも確認する。

 それに試合を終えたネルやアリスも加わったももの、それが見つかることはなく。

 

「確かに持って外に出たはずなんだけどなー……」

 

 モモイはそんな疑問を抱えながら、霧のように消えたユリの持ち物(イヤホンケース)の行方に想いを馳せる。

 妹のミドリから詰められたことも相まって、モモイは失くしてしまったことをちゃんと謝りに行かないと、と落ち込むのだった。




今回のストーリーはパヴァーヌ関連ということもあって原作キャラも多めです。
時系列はパヴァーヌ二章のちょっと前ぐらいを想定してます。
この時期のアリス→ネルの呼称がよくわかんないのでチビネル先輩と呼んでもらってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。