ゲーム開発部での一件を受けて、先生は一度ユウカに報告をしに来ていた。
自分が介入してしまったせいで後味の悪い結果になってしまったかもしれないと報告する先生に、ユウカは私がお願いしたことですからと頭を振った。
「先生から見て、あの子はどうでしたか?」
「"ユリ自体は特に危険な感じはしなかったかな"」
「先程言っていた裏にいる人物ですね。もしかしたら偽装をしたのはそっちかもしれませんし、もう少し私の方でも調べてみますね」
ユウカは先生が落ち込んでいるのを察して、ゲーム開発部で何があったのか問うことはしない。
モモイから一部始終の報告を受けていたということもあったが、先生が上手く行かなかったのなら、それは先生がどうこうという話ではなく、そもそも無理があったのだと判っていたから。生徒と向き合うことに関しては誰よりも長けている先生でそうなってしまうのならば、セミナーという立場のある自分が行っていてもそう結果は変わらなかっただろうとユウカは思う。
それよりもやはり考えるべきは、先生が警戒しているユリの裏側にいた何者かの存在だろう。
ユリの普段の様子を見ていれば彼女が不正を行うとは思い難い。学籍などを用意したと誰かに言われてそれを信じて入学してしまったのではないか、とゲーム開発部で何が原因でああなったのかの詳細を聞いていないユウカはそんな風に考えている。
「"ユリのことは、どうするの?"」
「学籍偽造は問題ですが、あの子自身に問題がないのなら正式なものに変える手続きをしようと思ってます。それで、何か問題でもあります?」
「"えっと、そういうことじゃなくて……"」
ユウカは先生が言葉を濁す意味に気が付かない。
ユリが消えた、というのはただ瞬間移動の都市伝説が本物だったというだけの話で、その場から逃げ出しただけと受け取っていたからである。
加えて、ユリの学籍データに変わらず出席の履歴があることが、彼女の予測を鈍らせていた。
「"ラン――電話の向こう側の子は、ユリを『用済み』って言ってたんだ"」
「『用済み』とはまた不穏な言葉を使いますね……。でも普通に出席はしているみたいだし……」
「"え、出席してるの!?"」
「き、記録の上ではそうなってますね」
身を乗り出してきた先生の勢いに驚きつつも、手元のタブレットを確認しながらその事実を伝えれば、先生は先程と別人かと思うほどに元気を取り戻してユウカが用意した会議室を飛び出していく。
その姿に苦笑しつつ、しかしそれでこそ先生か、といくつかの感情を織り交ぜた
突然開かれた部室の扉に、大げさに飛び上がる肩が一つ。
一つ年下の同級生である部員たちが出払って、ゆっくりと一人で部室でゲームをしていた場への闖入者を想定していなかった小さな体は、しかしコントローラーだけは手放さない。自分が動揺したことに気付いて攻め立てようしてきた相手にまだ落ち着かない心臓を宥めながらコンボを完遂しして、それからようやく部屋に入ってきた者に向き直る。
「えと、先生……? みんなに何か用事ですか?」
「"うん。ちょっと聞きたいことがあってね"」
「聞きたいこと、ですか?」
「"ユズはあの日以降、ユリの姿を見た?"」
「いえ、見てませんね。みんなは結構外に出てるから、もしかしたら見てるかもしれません」
ゲーム開発部の部長である花岡ユズは、否と答えたはずなのに笑顔を崩さない先生の様子に疑問を抱く。たまに徹夜でこんなテンションになっているのは見たことがあるが、それとは少し気色が違うように思える。
まるで、何かの確信を得たような。
自分の仮説が正しい手ごたえを噛み締めているようなその顔つきに何事だろうと考えていたユズの思考を打ち消すように、扉が開く音がユズの耳に届く。見れば、授業を終えたのか先程まで出払っていた部員たちが戻ってきたようだ。先生はその三人を見て先程ユズにしたのと同じ質問を投げる。
「見てないよー! 授業にも出てきてないし、このままじゃユリが留年しちゃう!」
「私が取っている別の授業にも出ていなかったようなので、元々ギリギリと言っていたしもうアウトかも……!」
「うわーん! アリスのせいでユリがユズみたく周回遅れになってしまいます!」
なぜ自分を刺してきたのかわからないが、恐らくアリスに悪気はないのだろう。
まだ情緒的には高校生とは程遠いアリスの言葉を子供の
「あの先生、どうしてそんな質問を?」
「"ユウカに聞いたんだけど、どうやら出席扱いになっているみたいなんだ。だからもしかしたら、誰かがユリを見ていないかと思ってね"」
「なるほど……。でも私もお姉ちゃんも、同じ授業を取っていますがユリの姿を見てませんよ?」
「"うん。きっといまはユリじゃなくて『ラン』の方が出席しているんじゃないかな"」
そこまで聞いて、ユズはようやく先生の意図を理解した。
先生は、直接『ラン』に会いに行こうとしているのだ。自分たちの前からユリという友人を一瞬にして消した誰かに。
ユズにとってユリは良い友人とは言えなかったかもしれない。声が大きくて
しかしそれでも、大切な友人の一人だった。部員であるモモイやミドリと仲の良い、少し距離はあるかもしれないが『友人』とそう呼んでギリギリ差し支えない相手の一人だった。
だから。
「……先生。エンジニア部の力を借りるのはどうでしょうか?」
その提案をしたのは、
なんでこんなところを見ているんだい?
これはただ見栄えの問題で後書き欄を作りたかっただけの無意味な文章さ。