ユズの提案を受け、ゲーム開発部を伴って先生はエンジニア部の部室を訪れていた。
事情を説明すると彼女たちは部活動の方にもユリが出てきていないと言う。
「なるほど、出席の方は記録されていると、そうユウカが言っていたんだね。であれば、データ的にはそれが正しいのだろう。彼女はノアほどでないにしろそういう痕跡を見つけるのは上手だからね」
ウタハのその発言に先生は実際にアリスやユリの偽装に気付いていたセミナーの少女のことを思い浮かべ、その頭を縦に揺らす。ゲーム開発部の面々は一度工作しようとした記憶があるのか、苦い顔をしていることに気が付いた先生がそちらに目を向ければ顔を逸らしてしまうが、それが彼女の優秀さを物語っていると言えるだろう。
余所見をしているうちにデータベースへアクセスしていたのか、視線を戻した先生にウタハは告げる。
「確認してみたが、どの出席記録もついているようだね。現場を押さえるのが良さそうだ」
「"やっぱりそうだよね。でもどれがランなのか分からないんじゃないかな?"」
「そこは専門家の手を借りようじゃないか」
「"専門家?"」
そう問うた先生の質問に答えたのは、共に連れ立ってここへ来た一行の一人。
まるで何で思いつかなかったんだろうとでも言うように底抜けに明るく、ムードメーカーの少女は声を上げる。
「そっか! ヴェリタスに頼めばいいじゃん!」
「"そういうわけで、解析を頼みたいんだけど……"」
「それなら学籍システムというよりは、監視カメラとの照合が良さそうですね」
IDカードの場合は代理出席が横行していますから、と事も無げに不正行為が蔓延している事実を先生の前で暴露しつつ、コタマは後輩たちに指示を飛ばす。マキは意気揚々とパソコンへ向かい、ハレは気合を入れるためか一つ妖怪MAXの缶を開け、各々の仕事にさっそく取り掛かる。
ゲーム開発部の面々はここで協力できることもないので、ただ結果が出るのを待つだけである。
先生は先程のコタマの言葉から、自分の仮説が間違っている可能性を案じていた。
「"代理出席とかがあるなら、出席を代わりにやっている子がランとは限らないんじゃない?"」
「いえ、最近のユリについては目撃情報だけでなく会話をしたという報告すら皆無です。であるならば、先生の仮説通り彼女を隠した犯人が直接その場に出てきている可能性が高いかと」
不安になった先生に、コタマは最近のSNSの情報を漁っていたようで、心配の投稿しかないその一部を先生に共有してくれる。確かにどこを見ても彼女を目撃したという報告がない。偽の情報はあれどすぐに看破されているような程度のもので、本当にユリが消えてしまったのだと思い知らされる。
それはゲーム開発部の面々も同じようで、目を通した結果先程よりも少し元気がなくなってしまったように見える。
「見つけた!」
声を上げたのは小塗マキ。
その声に一同がその画面を覗き込めば、ハレと手分けしていたであろう監視カメラのデータに映る少女の姿がいくつもあった。別の場所で取られたであろう、教室に入るタイミングの写真。その一つは、ちょうどIDカードを出席確認用の端末に振れているタイミングのものもある。
「こっちも画像で照合してみたけど、うちの生徒にこんな生徒はいない。たぶん、この子がクロ」
小鈎ハレもそれに同調し、マキの画面に映っている少女が目的の少女に限りなく近いことを肯定する。
紫色の髪を持つ少女。ウタハよりも深く濃い紫。ビビッドカラーのような、人体を彩るには少しキツめの色。そこを歩いていれば目を引きそうなその容姿が特に何の違和感もなく受け入れられているのはミレニアムという環境である故か。あるいは、ユリを回収したときのような未知の技術によるものを使用しているが故か。
どちらにせよ、敵は見えた。
「"ありがとう。とりあえずユウカに伝えてみるよ"」
そうして、一行はセミナーへ向かう。
「あ、先生、ちょうどいいところに!」
ヴェリタスから共有して貰ったデータを持って乗り込んだ一行を迎えたのは、どこか興奮した様子のセミナー会計。しかしすぐに先生の背後にゲーム開発部の面々を認め、ただならぬ気配を感じ取ったのだろう。こほんと一つ咳ばらいを入れて、先生の要件を先にどうぞと自分の順を譲る。
不正行為が関わらなければもともと情に厚いユウカである。ゲーム開発部に関しては少しとは言えぬほど肩入れしている気もするが、しかし優しいという点に関しては特にデメリットがあるわけでもなく、とやかく言うことではないだろう。
「"ヴェリタスに協力してもらって、ユリの代理出席をしてるらしき人を見つけたんだ"」
それまでの経緯も説明しつつ、いくつかのデータをユウカに見せる。
代理出席の話を聞いていたときは
「私も、あの子のデータの
そう言いながら端末を操作したユウカは、一名の学籍データをモニターに浮かび上がらせる。
紫色の髪の少女。そこには先程ヴェリタスに暴いてもらった容疑者とまったく同じ容姿の少女の学籍が表示されていた。
氏名欄には、『矢生ラン』とその名が記されている。
「この『
「"やっぱり、この子が……"」
納得をしようとして、ユウカから零れた情報を聞き逃さなかった先生は思考を停止させる。
先程、ユウカはなんと言っていたか。ランのことを『既に卒業した年齢』と言わなかったか。
先生の脳裏に、黒い服の大人の姿が浮かぶ。生徒を食いものにする、悪い大人の姿が。
ユリが『
「先生、どうやら『矢生ラン』は、まだミレニアムの寮に住んでいるようです。数年前に設備不良を原因に寮のワンフロアが閉鎖になったんですが、調べてみるとその処理に不審なところがありました。そして、そのタイミングが彼女が卒業のタイミングと一致しているんです」
――恐らく彼女は、そこにいます。
その言葉を聞いてやることは明確になった。しかし、友人を想うが故にここに付いて来てしまった少女たちを巻き込むことには気が引ける。ゲマトリアが関わっているのならば、生徒を関わらせないに越したことはない。
しかし先生の思惑とは別に、同じ情報を耳にしていた少女たちは決意を新たに声を上げる。
「敵アジトへの突入ですね! 先日のクエストのようでアリス、とてもワクワクしてきました!」
「よーし、ちゃちゃっとユリを助けて帰ってきてもらうよ!」
「ユリにお姉ちゃんの相手をしてもらわないと、体がもちませんからね」
「帰ってきたら、私も、もうちょっと……!」
引き止めたかった。
でも、あまりにも希望に満ちた少女たちの気勢を削ぐのは、先生という立場を
「先生、あの子のこと、この子たちのこと、よろしくお願いします」
「"うん、行ってくるね"」
加えて自分の財布を握っているセミナーの少女から頼まれてしまっては、『先生』として引き受けないわけにはいかない。
セミナーを出て件の寮へ先を歩くゲーム開発部の四人の後ろ姿を見ながら、先生はヴェリタスに行く前にエンジニア部から呼び止められ、聞いた仮説を思い出していた。それは、あまりにも滑稽な妄想のようで、しかし、起きたことを説明するのには最も適した結論。
惑って、迷って、招かれる最悪を考慮して、先生はようやく覚悟を決める。
「"みんな、ちょっといいかな"」
無垢な瞳の少女たちが振り返る。
それでも、先生は彼女たちに伝えることを選択した。
伏線撒くのって難しくないですか?
だとも入れないわけにもいかず。仕方ないので捻じ込みますね。