黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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第二十四話 波乱の結末

 速いパス回しから白瀧のドリブル突破により、大仁多高校が幸先良く先制した。

 沼南高校の選手がボールを拾い、試合が再開される。

 センターの選手がスローイン。ボールを受け取り、ゲームを一から組み立てようとガードの選手へとパスをさばくが……そのパスは、臙脂色のユニフォームを着た敵――大仁多の副主将・山本により、叩き落とされる。

 

「パスコースが見え見えだぜ」

「馬鹿! 不用意にパスを出すな!!」

 

 それを見た監督が声を荒げるがもう遅い。

 山本のスティール。転々とするボールを小林が確保すると、彼は白瀧へとノールックパスをさばく。

 ローポストでボールを受けた白瀧は背中に敵選手がいることを体で、目で読み取った。

 

「――っ!!」

 

 一瞬、左足を外側へと動かすそぶりだけを見せて制止。

 すると右足を軸として、リングの方向目掛けて回転、ターンアラウンドシュートを狙う。

 

「撃たせるか!!」

 

 センターの選手も加わり、二人の選手がブロックショットを狙って跳躍する。

 しかし白瀧は伸ばした腕をたたみ、再び膝を曲げて――タイミングをずらして跳んだ。

 その意図を理解して敵選手も空中で自分の失敗を悔やむように表情を歪める。

 

(フェイク――!!)

「――ぐっ!」

 

 その際に白瀧と相手選手の体が衝突。

 体が少し傾いている中、白瀧は手首のスナップだけでシュートを放った。

 

『ピピーッ!!』

 

 それを見た審判の笛が鳴る。一瞬注目が集まるがしかしシュートは止まらない。

 ボールは一度リングに弾かれ、その上をぐるぐる回り――ようやくネットをくぐった。

 

「ディフェンス、白5番! バスケットカウント1スロー!!」

「おおおお! ナイス、白瀧! 連続得点!」

 

 得点を決めた上での、フリースローをもぎ取った。

 大仁多のベンチがよりムードを高めるようにと白瀧のプレイを褒め称える。

 そんな中、監督である藤代だけはいつも通り落ち着いていて、しかし同時に驚愕していた。

 

「……突っ込んだ。白瀧さんがブロックをかわすのではなく、3点プレイを狙って一人で……」

 

 それは白瀧の変化が見て取れたためだった。

 白瀧は普段から無理な、強引なプレイは滅多にしない。敵選手のブロックはダブルクラッチでかわしたり、跳ぶ前にシュートを切り替えたり、あるいは味方にパスをさばくなど、今のようにブロックの上から強引にシュートを放つことはしなかった。

 しかし今、白瀧は二人のブロックがあるにも関わらず、バスケットカウントを狙ってあえてフェイクを使った。

 パスの方が安全に点を決められただろう。その点については不満がないわけではない。……しかしこのプレイは白瀧の変化を感じ取れる、決定的なものだった。

 

(だが、どうなっている? 今のは完璧にシュートの動きだっただろ。それを途中で……?)

 

 沼南の選手達は逆に困惑していた。

 たしかに今の動きはシュートの流れであった。それにも関わらず、まるでフェイクへと移行するのが自然の流れ(・・・・・)であるかのように感じ取れたのだ。

 

「ワンショット!」

 

 審判はそう言ってフリースローラインに立つ白瀧へとボールを手渡す。

 白瀧はゆっくりと体の前でボールをつき、リズムを作る。二回、三回と繰り返して手に収める。

 準備を整えるとフォームを整え、静かにボールを投じた。

 ボールはそのままリングを通過。再びスコアボードに一点が追加される。

 

「よし!」

「ナイス、白瀧!」

 

 フリースローも無事に決め、白瀧は3点プレイを完成させた。

 小林とタッチをかわしてディフェンスに戻る。その間に顔も緊迫したものへと戻り、集中して相手を待ち構えた。

 沼南ボール。ガード二人のよるパス回しで試合を組み立てるが、大仁多のマンツーマンディフェンスに掴まり、前線へとパスを出せない。

 

「くそっ!」

 

 スクリーンを使ってもヘルプが速い。

 悔しさから焦りも生じた。マークを外せていない中、無理やりシュートを放つ。……しかしそのシュートはリングに弾かれた。

 

「リバウンド!」

「わかってる!」

 

 白瀧の掛け声に力強く応えるのは光月。

 ゴール下の沼南の選手二人を、光月はスクリーンアウトで封じ込めた。

 背中を使って無理やり外へと追い出し、ポジションを確保。そのまま相手をボールに近づけることなく、ディフェンスリバウンドを制した。

 

(こいつ、俺達二人を同時に……!)

「小林さん!」

「よっし! 行くぞ!」

 

 その圧倒的なパワーに驚いている暇もない。

 光月は小林へとパスをさばく。リバウンドを制しての速攻。

 中央では小林、右では山本、左では白瀧が疾走する。

 

「速い! 大仁多の怒涛の攻撃!」

 

 会場もその姿に歓喜が湧いた。

 展開の速い攻撃に、沼南はかろうじてガードの選手が一人戻れただけだ。一対三、完全にアウトナンバーである。

 

「白瀧!」

「っし、ナイスパス!」

 

 小林は白瀧へとバウンドパス。

 小林についていたマークは白瀧へとつく。

 これで意識が自分に集中したことを把握すると、白瀧はシュートを撃つそぶりだけを見せ、再び小林へとボールを戻す。

 

(リターン!)

「うおおお!」

 

 白瀧の動きに惑わされたガードが、その攻撃を止める術を持っているはずもなかった。

 掛け声と共に、小林は勢いよく跳ぶ。右腕にボールをもち、そのまま叩き込む。――ワンハンドダンクを決めた。

 

「――っ!」

「ナイスです。……ってか、小林さんダンクできたんですね。知りませんでした」

「まあ、普通はやらないからな。だが――チームが勢いづくならば、やってみせる」

 

 そう言って小林は視線を敵選手へと向けた。

 ……今の一発が強く頭に残ったのだろうか、驚愕して表情が固まっている。

 (大仁多)7対0(沼南)。まだ序盤とはいえ、連続で得点を決められた後に今の一撃は精神的に厳しいものがあったのかもしれない。

 

「さあディフェンス一本! 相手に油断など微塵も見せるな!!」

『おうっ!!』

 

 だがそれでも小林は気を緩めることはない。

 常勝・大仁多は些細な弱さとて見せるわけにはいかない。

 さらにディフェンスを強固にさせ、果敢に指示を飛ばしていった。

 

 

――――

 

 

 ――試合は終盤を迎えても、大仁多の勢いは衰えることを知らなかった。

 

「リバウンド!」

 

 光月のシュートがリングに嫌われ、ボールが宙に浮かぶ。

 両チームがそのボールを巡って跳ぶが……黒木がティップインで無理やりボールを押し込んだ。

 

「また決まった! 大仁多の攻撃が止まらない!」

「くそっ!!」

 

 徐々に大仁多がボールを持つ時間が、大仁多の攻撃の時間が長くなる。

 それにつれて疲労が溜まり、集中力も乱れてくる。そして焦りから……ミスもどんどん増えていく。

 

「あっ、やばっ……!」

 

 沼南高校のファンブル。

 すぐに取りこぼしたボールを追うが、それよりも先に白瀧がボールを確保した。

 

(こいつ、すでに試合終盤なのに……なんでまだこんなに走れる!?)

「山本さん!」

 

 敵が自身のスタミナに驚愕していることも知らず、白瀧は間をおかずに山本へとパスをさばく。

 山本はワンドリブルで横に大きくスライド。マークを引き剥がすと、ヘルプが着く前に素早くシュートを放つ。

 

(……入った!)

 

 ゴール下にも頼もしい仲間がいる。だからこそ心配なくシュートを撃てた。

 そして彼の確信通り、山本が放ったスリーポイントシュートは綺麗にネットを潜る。

 

『――試合終了!!』

「大仁多高校、二回戦も難なく突破!!」

 

 そして試合は終わりを迎える。常勝校の磐石な勝利に、スタンドも歓声を上げて祝福した。

 最終スコア、(大仁多)225対21(沼南)。

 途中でベンチメンバーとの交代もあった。しかしそれでもスターター五人全員が二十得点以上を記録した。

 さらに驚くべきは……フル出場した白瀧が驚異的なスコアをたたき出し、その名を再び知らしめたこと。

 得点:57 リバウンド:1 アシスト:17 スティール:19 ブロックショット:2

 もはや栃木県のNo.1ルーキーと呼んでも誰も否定しないほどの活躍を、結果を残したのだ。

 

 

――――

 

 

 そして――大仁多高校の勝利を皮切りに、各会場で行われていた試合が次々と終了していった。

 

『試合終了――!!』

「山吹高校、磐石! やはり強い!」

 

 第三シード、山吹高校。95対62で二回戦突破を決定する。

 さらに場所を移し――第四シード、常盤高校の試合。

 

「くそっ……」

「お前達が負けたのはお前達が弱かったからではない。俺達が強かった、それだけだ」

『……試合、終了!』

 

 悔しがる相手に常盤の主将――柊がそう言い放ち、試合は終わる。

 最終スコア、103対69。100点ゲームでその日を終えた。

 そして――第二シード、盟和高校の試合。

 

「……よっし!」

「やったな、勇作!」

「ああ、これで俺達の初戦は快勝!」

 

 主将の橙乃と副主将の細川がハイタッチをかわす。

 試合結果、126対54。危なげなく三回戦進出を決めた。

 こうして各強豪校が三回戦進出を決めてその日を終える。

 

 

――――

 

 

 そして翌日――三回戦。これに勝てばベスト四、準決勝へと進める。

 昨日よりも観客が集まるのは当然のことだろう。なにせ今日からは同じ会場で試合が行われる。――すなわち、勝ち残った全ての高校が会場に集結するのだから。

 

 午前の部。山吹高校、ならびに盟和高校がそれぞれのブロックの勝者と試合を繰り広げていた。

 勝ち残った大仁多高校のメンバーは、この二校の試合の偵察へと来ている。

 二試合同時に行われている中、小林や山本をはじめとした上級生達は山吹高校の試合を、昨年盟和高校との試合を経験していない一年生達は盟和高校の試合を重心的に観察していた。

 

 山吹高校はラン&ガンの攻撃重視なスタイルでとことん攻めている。

 リバウンド確保後も、すぐに近い選手へとパスをさばき、とことん走ってシュートまで持っていく。速い展開で試合をものにしていた。

 

「どう見る、小林?」

「……山吹のバスケスタイルはうちと似ているな。だが、特にはスコアラーと呼べる選手がいない。

 チームオフェンスで攻める戦術。――戦うならば、とにかく相手のペースをみだすことが必要になる。そしてパスを機能させなくすることも、だな」

「となると戦うとするなら……白瀧がキーポイントになりますかね」

 

 特に突出した選手はいないものの、その代わりチームとしての質が高い。それが小林が見た山吹高校の印象だった。

 質問した山本も同じことを思ったのだろう、頷きながら試合を見る。今もパスで敵のゾーンを崩している。

 このパス回し、崩すならば遅い展開に持ち込むか――あるいはそのパスを封じるスティールを果敢に行うことが重要。それを聞き、中澤は昨日の試合で活躍した白瀧の名を上げた。小林もその答えに満足げに頷く。

 

「ああ。平面においては白瀧は“キセキの世代”にも劣らないほどの能力を持っている。やつならば、きっと封じてくれるだろう」

「……だが、それは山吹が勝ったらの話」

「そうだな。現状ではまだ盟和高校が有利、というのが今の印象だしな」

 

 試合を想定して語る小林だが、それはあくまで相手が勝ち残ったときの話。

 黒木に追従するように、三浦も語る。たしかにチーム力ならば近年の戦績を考えると盟和高校が上。それが現状だった。

 

「なにせ二年連続で準優勝、しかも今年の主将は昨年のベスト5ときた」

「それを考えると、たしかに今は盟和高校と当たることを想定していた方がよいだろうな」

 

 昨年の試合を思い出し、佐々木と三浦は苦笑しながら言った。

 二年連続で準優勝を果たすことは生半可なものではない。その対策は十分にする必要がある。

 それには皆も同意見で二人の発言は皆の空気を一蹴する効果があった。

 

「――研究熱心なのは良いことだが、まずは目先の試合のことを考えたらどうだ? 昨年ベスト5? それは何も盟和だけに限った話じゃないだろう?」

 

 しかし、再び場の空気を一変させる発言が生じた。

 そちらへと視線を向けると、薄い緑色をベースに白いラインが縁取られているユニフォーム――常盤高校のユニフォームを着た男が目に入った。そしてその男には全員が見覚えがあった。

 

「……柊か」

「よう。久しぶり、って挨拶はいらないか」

 

 口角を上げて小林の返事に応じるのは常盤高校の主将、去年のベスト5――柊省吾だった。

 ――常盤高校三年、柊省吾(ひいらぎしょうご) ポジション:SG 181cm

 

「お前達常盤高校も観戦か?」

「まあな。午後の試合までには時間もある、それならば来週戦う相手のことは見ておくに越したことはない」

 

 小林の問いに答えるだけでなく、あくまで自分達が戦うのだと挑発することを忘れない。『必ず大仁多に勝利する』という意味が言葉の裏にあった。

 柊も本気で決勝まで勝ち上るつもりだろう。小林の目を真っ直ぐに見て言い切った。その度胸は良いだろう。

 

「そうか。だが悪いがその願いは叶わない。――IHに進むのは、大仁多(うち)だ」

「……ふん。まあ良い、今ここで言い合っても仕方がねえ。ただ覚えておけ、今度こそ大仁多の牙城を崩してやる」

「覚えておく。準決勝を頼みにしているよ」

 

 だがその程度の挑発、小林ほどの相手には意味をなさない。

 退くそぶりを見せない小林に、柊は少し威圧されつつもその姿勢を崩すわけにはいかなかった。

 柊は『今年こそお前達を倒して見せる』と大仁多の選手達に宣戦布告し、チームメイトが座っている椅子まで戻っていく。

 

「……準決勝、どうなりますかね?」

「まずは俺達は目の前の試合に集中することだ」

 

 中澤の不安を一掃するように小林は目つきを鋭くして言う。

 たしかに柊も良い選手だが、それだけに意識を向けるわけにはいかない。改めて次の試合を考えるようにと、皆の意識を高めた。

 

「そうだな。……しかしあれだけ言ってくれたのは頼もしいけど、試合でマッチアップするのは俺だよな?」

「……頑張ってくれ」

「そこは他力本願なわけか。はいはい。人使いの荒い主将だぜ、本当」

 

 ポジションの都合上、返答はわかりきっていたとはいえ、山本はため息をついた。

 だが柊を止められないようでは全国で戦えない。特に副主将となった今年はなおさらだ。

 山本はいつもどおり穏やかなな表情を浮かべながら、内心では熱い闘志をさらに燃え滾らせていた。

 

 

――――

 

 

 その一方、白瀧達は少し離れた席で盟和高校の試合を観戦していた。

 

「おう、また決めたな。橙乃のお兄さん」

 

 オフェンスリバウンドを制した勇作が一端シュートのフェイクをいれ、敵ディフェンスをかわした後ゴール下のシュートを決めた。

 無駄が少なく、洗練された動き。同じポジションとして感じるものがあったのだろう、本田が感心したように言った。

 

「……本田。間違っても本人の目の前でそう呼ぶなよ」

「は? 何でだよ?」

「……勘違いされるから」

「……は? どういう意味だ?」

「理由は知らなくても良い。とにかく呼ぶな。命が惜しければ」

「あ、ああ。……わかった?」

 

 だが『お兄さん』という表現が気になったのか、彼の性格を知る白瀧が警告する。

 事情はまったくわからなかったものの、白瀧の表情が真剣なもので、とても冗談を言っているようには見えなかった。だからこそ本田も詳しくは聞かず、了承してその場を収めることにした。疑問形ではあったが。

 

「お兄ちゃん、ナイッシュ!」

「いや、橙乃。さすがにここからでは声援は……届いてる!? さすが勇作さん。なんという地獄耳……」

 

 兄のシュートを絶賛する橙乃。

 しかしすでに勇作を含め、盟和の選手達は早々にディフェンスに戻り始めている。

 ゆえに逆サイドへと走る彼らにはここからでは聞こえないだろうと白瀧が忠告しようとするが、驚くことに勇作は声に反応したかのように、振り返ってVサインを作っていた。それを見て白瀧は驚くしかなかった。

 

「それにしても勇作さんってPFだったのか。リバウンドも中々強いし、ゴール下のオフェンスだけでなく……ミドルレンジからも決めてくる」

 

 そう言う白瀧も勇作のプレイを見て納得したのだろう、冷静に分析する。

 ローポストから重心的に攻めているが、中距離からのカットイン、ジャンプシュートも多用している。とにかく盟和の大黒柱となっていた。

 

「ゲームメイクは、あの五番に一任しているようですね」

「ああ。大抵はあそこからパスが通っている。攻撃の起点だな。小林さんがマークにつくだろうから、そう簡単にはいかないだろうが……」

 

 西村の視線の先にいるのは、盟和高校の五番・副主将の細川。栃木県内では小林に次ぐ実力を持つと言われているPGだ。

 身長はそれほど高いわけではないが、試合の流れを読んでパスをさばき、味方を生かしている。

 

「小林さんとは、違うタイプだな」

「そうだな。あくまで味方を生かす、チームのまとめ役ってスタイルに見える」

 

 同じことを思った神崎も頷く。

 小林はパスをさばくだけでなく、自分で切り込み果敢に攻め立てる選手でもある。

 しかし盟和の細川はスクリーンなど味方を使ったり、パスを中心としたゲームメイクをしている。そこが二人のPGとしての違いであろう。

 

「しかも最終的に勇作さんで決めるという展開が多い。……となると、勇作さんとマッチアップする選手がキーポイントか」

 

 あくまでも得点を決めるのは勇作、そう感じさせるほどに勇作にボールが集中していた。

 となると試合で戦うならば勇作をいかに止められるか、そこがポイントとなる。彼の得点を抑えられれば試合も優位に進めることができると白瀧は予想した。

 

「覚えておけよ、明。お前が当たるかもしれない」

「……え!? 僕!?」

「当たり前だろ。体格的にもポジション的にもお前が一番可能性が高いんだ。よく見ておけ」

「わ、わかった……」

 

 試合を見ることに夢中になっていて自分が戦うことを想定していなかったのだろう。今まで黙っていたのは、おそらくそれどころではなかったからだ。

 光月は驚きつつも、了承の答えを返して勇作の姿を目で追った。

 白瀧たちも再び視線を試合へと戻す。この先戦うことになるであろう、強者の試合を。

 

 ……その結果、山吹高校は90対71で三回戦も突破。

 盟和高校も108対49でベスト四進出を勝ち取った。

 

 

――――

 

 

 午前の試合が終了し――時間は経過して、二日目の最終戦が行われようとしていた。

 選手達が入場する。それだけで観客は沸き立った。それほどまでに彼らの存在は大きかった。

 

「来た! 今大会優勝候補の最右翼、大仁多高校!」

「PG小林、そして期待のルーキー白瀧! 今年も見所満載だ!」

「こっちも出てきたぞ。優勝候補の一角、常盤高校だ!」

「昨年度は4強に入り、ベスト5をも捥ぎ取った柊が今年は主将! 今年こそ!」

 

 大仁多高校と常盤高校。優勝候補と呼ばれる二校。

 お互いこの試合に勝てば一週間後に激突する両校である。どちらも注目選手がおり、その選手達に期待が集まっていた。

 出てきた4校はそれぞれのゴールで最終練習をする。各々が自分の調整を済ませ、審判の笛がなるとベンチへと一度戻っていく。

 

「皆さん、今日はこの若松高校戦で終了です。これに勝利すればベスト4、来週までは練習の日々です。

 ……ですから、今はただこの試合に集中してください。いつも通りやれば問題はない。ゲームプランは事前に話した通り、変更はありません」

『はい!』

「よろしい。では頼みますよ皆さん。――小林さん」

 

 選手一人一人を見て状態を確認すると、藤代は安心して五人を見送る。

 藤代よりチームを託された小林はスターターの五人で円陣を組むと、一つ息を吐いて言った。

 

「皆。わかっているだろうが、俺達は勝つしかない。

 油断も慢心も一瞬たりとて見せるな。いつも通り、俺達のバスケを見せ付ける!」

『はい!』

「行くぞ! ――大仁多、ファイ!」

『オー!!』

 

 力強く声を張り上げ、士気を高める。

 意識を切らす事無く大仁多高校のスターターはセンターラインへと歩いていった。

 

「アップはすんだな?」

『はい!』

「よし。――前にも話したが、今回の相手は留学生が入っている。

 間違いなくやつを中心に攻めてくるだろう。ディフェンスはとにかくゾーンを小さく、中を固めろ。いいか!?」

『はい!』

「よっし、では行ってこい!」

 

 一方、その隣のコートでは常盤高校が準備を進めていた。

 監督の言うとおり今回の対戦相手には留学生がチームに所属している。身体能力が日本人とはかけ離れた彼らは、間違いなく脅威だ。

 ここまでの試合でも留学生が得点・リバウンドの両面において活躍している。

 だからこそ選手達に今一度注意を促すと、監督は力強く選手達を送り出した。

 

「それではこれより、常盤高校対聖クスノキ高校の試合を始めます!」

 

 そして――ベスト4をかけた試合が、始まった。

 

 

――――

 

 

「くっそ! 抜かせるかよ!」

 

 大仁多高校対若松高校の試合。

 白瀧につく二人の選手は何としてでもこれ以上先には侵入させないと、必死に食らいつく。

 昨日の戦いでよほど警戒されたのだろう、ダブルチームによって白瀧もシュートにいく機会は減っていた。

 しかし……彼はハイポストから仕掛ける。横にスライドし、一人をかわすと急加速。ゴール下へと切り込んでいく。

 もう一人の選手が大きく下がってゴールには近づけまいとコースを塞ぐ。

 その結果、攻めあぐねたのだろうか白瀧はついにゴールを横切るような形になった。

 

(よっし!)

 

 『まず一回目の攻撃は防げた』と、相手の集中が一瞬途切れる。

 だが白瀧はバスケットがやや後方にある状態で真上に跳んだ。そして背後にあるゴール目掛けてボールをリリースする。

 ボールは力にそってバスケットへと放られて……リングを射抜く。

 

「なっ……!?」

「バックレイアップシュート。抜かされたくはないとのことなので、そのままシュートを決めてみたよ」

 

 相手に対してニッコリと笑みを浮かべる白瀧。

 『俺を止められるものなら止めてみろ』。そう語っているようだった。

 彼の行動が、言葉が、相手の心に浸透する。もはや次に白瀧が何をするのか、どうすればよいのかわからなかった。

 

『前半戦、終了!』

 

 そして彼の理解が及ばぬまま――大仁多の42点リードで前半戦は終わった。

 

「お疲れ、要!」

「ああ、お疲れ。……お。向こうももうすぐ前半終了か」

 

 光月とタッチをかわす白瀧。

 チラリと視線を隣のコートへと移すと、常盤高校対聖クスノキ高校の試合ももうすぐ前半を終えようとしていた。

 スコア、(常盤)47対38(聖クスノキ)。常盤が9点リード。

 

「常盤がリードしているけど……苦戦してるね」

「ああ。原因はあのセンターか? どうやら留学生みたいだが……」

 

 たしかに光月の言うとおり安心できる点差ではない。

 その理由を考えていると、真っ先に聖クスノキのゴール下に陣取る黒人が目に入った。

 対する常盤はとにかく彼に人数を裂いて防ごうとしているようだが……黒人の選手は三人に囲まれながらも強引にターンし、ダンクを決めた。

 これで(常盤)47対40(聖クスノキ)。7点差となった。

 

「くそっ! あと十秒、一本決めて終わるぞ!」

 

 残り時間が少ないことを悟り、柊が声を荒げてチームメイトに指示を出す。

 メンバーもそれを理解して一気に攻めかかった。

 スリーポイントラインの外で柊へとボールが通る。シュートは撃たせないと二人の選手がマークにつくが、柊は味方選手がスクリーンに来ていることを確認し、大きくスライド。

 これによってチェックが外れてしまった。ヘルプに入るも、その前に柊はボールをリリースする。

 

(やはり撃つのが早い!)

「入れ!」

 

 柊のクイックネスは止められるものではなかった。

 そのままボールはブザーと同時にリングを潜り抜ける。

 前半戦終了。(常盤)50対40(聖クスノキ)。最後に聖クスノキに40点台にされたが、常盤も最後の柊のスリーで50点台に乗せた。

 流れも考えると常盤高校が有利であることには間違いない。

 

「10点差に広げて終わった」

「さすがは栃木の実力者。そう簡単にはやらせないか」

 

 前半戦を見届けて、白瀧と光月も控え室へと戻る。

 最後の一本、あれは聖クスノキ高校に大きな衝撃を与えたことだろう。一桁で終わりたい、そう思っていたところで追撃の三点。数字以上に効果が大きい。

 

「ナイス柊!」

「ああ。このまま後半戦も引き離すぞ! 大仁多に挑むのは常盤だ!!」

 

 柊はチームメイトと言葉をかわし、さらにチームを盛り立てる。

 主将というだけあって彼のチームへと影響は大きかった。

 ただ点を取るだけでは駄目だ。チームをまとめ、その上で勢いをもたらす。それこそが柊に求められているものである。

 

「ちいっ!」

「最後にまた10点差にされた……」

「せっかくまた流れを掴みかけたというのに!」

 

 反対に聖クスノキ高校のメンバーは荒れていた。

 控え室に戻ってもその空気は中々変わらない。それだけ最後のプレイに対する後悔が残っていた。

 

「落ち着け皆。まだ10点差だ。十分追いつける。後半まで集中力を切らすな」

 

 そんな空気を一蹴するために監督は手を叩いて皆の注目を集めると、どいうにか落ち着かせようと皆をなだめた。

 たしかにまだ諦めるような点差ではない。ならば今はもう一度力を蓄えるべきだとそれぞれ栄養の補給をしたり、休息を取る。

 監督もそれを見て満足げに頷くと、チームの柱となっている黒人の選手へと歩いていく。すらっと伸びた体は立っているだけでも周囲に影響を与える。

 

「どうだ、ジャン。お前から見て今日の試合は」

「大丈夫ダ。インサイドは俺の独壇場、相手の外さえ封じれば怖いものはナイ」

 

 まだ少しだけ日本語に慣れていない面があるが、会話には一切支障はない。

 しかも言っていることがこれ以上ないほど頼もしい。彼――ジャンの言うとおり、常盤高校は聖クスノキのセンターである彼をまったく止められていない。

 たしかにパスコースが制限されているために高いパスでなければスティールも多いものの、フリーになる選手も多く、チームにとってはプラスになるものばかりだ。

 

「そうか。だが、最後のスリーを止められなかったのも事実。やはり柊を優先的に止める必要がある、そうだろう?」

「……確か二。リバウンドを取らせない自身はあるガ、直接決められてしまっては意味を成さなイ」

「それじゃあ後半は柊に二人つけますか?」

「いや、それでは中央が薄くなる。……第三Qはディフェンスは沖田、お前が柊についてボックスワンを展開する。やつにスリーを打たせるな。

 そしてその第三Qの結果次第だが、第四Qでは楠、お前を投入する。準備をしておけ」

 

 ジャンも高さに自信がある。それは本人を含めた誰もが理解していることだ。

 しかし今回のように正確にシュートを決めてくる選手が相手では、ゴール下を守るジャン一人では敵わない。

 だからこそ、監督は椅子に座っている選手を見て、勝負に出ると告げた。

 見た目は普通の選手と変わらないが、日本人よりも肌がやや白い。彼――楠は閉じていた瞳をゆっくりと開けて……

 

「……わかりました」

 

 楠は落ち着いた声で、しっかりと意志を告げた。

 

 

――――

 

 

 その後、十分のハーフタイムを終えた後、後半戦が開始された。

 だが時間を挟んだ後でも、どちらの試合も流れが変わることはなかった。

 

「行くぞ、走れ!!」

 

 小林の声に応えるように大仁多の選手達がコートを駆け上がる。

 相手を置き去りにするかのような早い試合展開。パスを次々とさばき、そしてシュートまで持ち込む。

 若松高校の選手たちはついに白瀧へのダブルチームを解いた。

 白瀧のダブルチームで、逆に二人が体力を削り取られてしまったのだ。しかも結果を残せないままに。

 しかも白瀧に二人つくということは、一人がフリーになってしまう。当然ながら、大仁多高校でスターターに名を連ねるほどの選手をフリーにしてしまっては、それこそその選手が黙ってはいない。

 だからこそ後半はゾーンディフェンスに切り替え、中を強化しようとしたのだが……パス回しに対応できなかった。

 

「ナイスパス!」

 

 白瀧から黒木へとボールがわたる。

 相手の裏をかいてパスを受け取った黒木はその場でターンアラウンドシュートを放つ。

 シュートチェックが遅れた上に、長身の黒木を止めることはできない。そのまま大仁多に得点が記録された。

 

「はっはっ……くっ……」

 

 悔しさをこらえきれずに歯を食いしばる。

 しかし対抗策はまったく浮かんでこない。

 結局大仁多の早い展開に飲み込まれるような形で、若松高校は第三Qを終えた。

 

 そしてもう一つ。常盤高校対聖クスノキ高校の試合。

 こちらは逆に、取られたら取り返すというシーソーゲームとなっていた。この拮抗した状況は、そう簡単には崩せない。

 

「ジャン!」

「ムン!!」

 

 聖クスノキはジャンの高さを生かし、とことん中から攻めていく。

 わかっていても、一度パスを通されると厳しいものがある。しかもジャンに人数を裂いているために聖クスノキはミドルシュートもどんどん撃ってくるのだ。

 ジャンがリバウンドを取ることを信じているのか、シュートに行く回数が多い。外れてもジャンが取り、決めてくれる。それが聖クスノキの攻撃だった。

 

「頼む、柊!」

「わかってる!」

 

 それに対抗する常盤高校は、柊にボールを集めていた。

 とにかく点差を広げるためにも、そしてジャンにブロックされないためにも長距離、中距離からシュートを撃つ。

 カットインやスクリーンも利用してマークを外すと、とにかく柊はシュートを決めた。

 

 両者譲らず、お互い決定打には至らない。

 しかし点差は徐々に開いていった。

 第三Qが終了する。スコアは――(常盤)73対57(聖クスノキ)。

 柊のスリーが徐々に効果を発揮してきた。彼とて必ずシュートを決めているわけではない。

 しかし、チームの総合力では常盤の方が上であった。所々でスティールを敢行し、ボールを手にする。攻撃回数そのものは常盤の方が多かった。

 その甲斐あって、常盤が16点のリードを保ち、第4Qまで繋げたのである。

 

「よしよし、勝てるぞ!」

「ああ。後はラスト第4Qのみ」

「大仁多を倒すまで負けられない、絶対に勝つぞ!」

 

 第4Qの開始のブザーが鳴る。

 疲労が溜まっていながら、常盤高校の選手達の士気は最高潮に達していた。

 あと10分。このリードを維持すれば、準決勝に進出できる。そして大仁多高校に挑戦する権利を手に入れる。間近に迫っている希望が彼らを後押しした。

 

「では楠――頼むぞ」

「はい。必ずや」

 

 一方で、聖クスノキ高校の選手達は静かにベンチから登場した。

 しかもこの時、選手交代(メンバーチェンジ)が行われていた。スターターである11番に代わって8番――楠がコートに入る。

 手足の感覚を確かめると、楠は何も言葉を発さずに歩いていく。

 

「お、何だ。最後の最後に選手交代? まさか切り札投入とか言わないだろうな?」

「……」

「チッ。だんまりかよ」

 

 柊の問いかけにも答えず、楠は彼の横を通り過ぎていく。

 その反応に腹が立つ柊であったが、『今はとにかく勝つことだけに集中する』と意識を切り替えてディフェンスについた。

 

 

――――

 

 

 そしてその10分後。

 

『試合終了――!!』

「大仁多高校、準決勝進出!」

「ようし!!」

 

 大仁多高校が155対41で若松高校に勝利した。

 一度たりとも流れを手放すことなく、最後まで相手を圧倒する姿はまさに常勝校という呼び名にふさわしい。

 小林たちもようやく準決勝まで進めたことで安堵し、山本達とハイタッチをかわした。

 

「よかった。これでベスト4だよね!?」

「ああ。あと二つだ。それで全国にいける」

「そっか。もう、ここまで……」

「うん。もう少し。もう少しだ。……っておい、どうした明!?」

 

 突如笑顔を崩し、目頭を押さえる光月。白瀧は友の身を案じて声をかける。

 しかし帰ってきた声は幾分か落ち着いていて。少なくとも彼が心配しているようなことではないとわかった。

 

「ごめん。ただ……僕がここまで試合に立てるとは思ってなくて。いっつも、中学では……駄目だったから……」

「……まったく。矢坂黎明戦である程度よくなったと思ったけど、まだまだか」

 

 光月はただ嬉しかっただけだ。ただその喜びを我慢できなかっただけだ。

 それがよくわかった。本来ならば『しっかりしろ、弱みをみせるな』と言う所だが、今は少し休ませても良いだろうと白瀧は光月の肩を叩き、落ち着かせることにした。今はまだ、それで良いだろうと。

 頭からタオルをかけさせて、ゆっくりとベンチまで歩いていく。

 そんな中、観客の声援が一掃大きくなったことを白瀧は感じた。

 

「なんだ? ……ああ、ひょっとして常盤高校の試合か? 向こうもそろそろ終了するころ――!? なにっ!?」

 

 隣のコートへと視線を移す白瀧。

 しかし、そのスコアボードを見た瞬間、彼の思考は停止した。

 

「……嘘だろ。こ、小林さん!」

「なんだ、どうした?」

「コートを、隣のコートを見てください!」

「隣の? 常盤高校の試合か?」

 

 見えたものを信じられず、白瀧はベンチで片付けをしていた小林を呼び寄せる。

 彼の口調から何かあったであろうことを察した小林も片付けを中断して常盤高校が試合をしているコートへと顔を向けた。

 ……そして小林の表情が固まる。スコアボードを目にしたために。

 (常盤)87対94(聖クスノキ) 残り時間、30秒。

 

「何だと!?」

「……常盤が負けてる? しかも、残り時間30秒だぞ!」

「第3Qまでは常盤優勢だったはずなのに、なんで!?」

 

 小林も、山本も……誰もが目を疑った。

 第3Q終了し、常盤がリードしていたことは知っていた。しかし、それが今や優勝候補の常盤が後のない状況にまで追い詰められている。

 残り時間30秒で7点差という、絶望的な状況にまで。

 

「くっそ! よこせ! 早く!」

 

 PGに強くパスを要求する柊。その表情は明らかに焦りで染まっていた。

 残り時間がない状況でここから勝つためには、スリーを連続で決めるしかない。それは他でもない柊が理解している。

 パスを受けると、柊はマークを振り切るようにクロスオーバーで抜きながらドライブ。

 マークが厳しく、外せないがそこで終わらない。さらに真横に流れるようにロールターン。ターンの勢いを足を踏み込んで殺すと、しっかりと地面を蹴ってボールをリリースする。

 ……しかしそんな彼に立ちふさがるかのように、敵選手のブロックが炸裂した。

 

「なっ……!?」

「遅い。その程度でかわせたと思うな」

 

 ブロックしたのは第4Qから柊のマークについていた8番、楠だった。

 指でボールを弾き、リングに向かって弧を描くはずだったボールは宙に浮かぶ。

 そしてそれをジャンが空中でキャッチ。相手の攻撃を防ぐことに成功した。

 

「柊が防がれた。……あの8番!」

「当たれ、当たれ! 止めてくれ!!」

 

 常盤のベンチから、応援席から悲鳴のような応援がコートへと響く。

 残り試合時間は10秒を切った。聖クスノキ高校は相手を煽るようにゆっくりと慎重にボールを回す。

 そして残り時間6秒。ボールが楠へとわたる。柊との最後のマッチアップだ。

 

「くそ、来いよ! せめてお前だけは止めてやる!」

「……それは無理だ」

 

 柊が必死に手を挙げ、足を動かし、最後の抵抗を見せる。

 だが、そんなディフェンスはもう楠という選手の前には通用しなかった。

 ――目の前から消えた。そう誤認してしまうかのような鋭いドライブ。シュートフェイクにつられた一瞬の隙を見抜かれ、柊は彼のぺネトレイトを許してしまった。

 

「なっ!?」

「くそっ! 撃たせん!」

 

 驚愕で目を見開き、柊はその場から動けない。

 すかさずヘルプで二人の選手が楠を止めるように詰め寄るが――楠は突如腕を勢い良く振るい、ボールを地面に叩きつける。

 

「っ!?」

「なんだ……?」

 

 あまりの力に勢いあまったボールは大きくバウンドし、空中へと浮かんだ。

 誰もが自然と視線がボールを追う。……そしてその先で、大柄の体を誇る男が空中に身を躍らせるのを確認できた。

 

「まさか、アリウープ!?」

「――これで終わりダ!!」

 

 選手達が動揺している中、ジャンは空中でボールを掴む。そして勢いを殺す事無く、ボールを両手でゴールに叩き込んだ。

 その威力に常盤高校の選手が呆然としている。誰もが身動きできない状況で――試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了!!』

「勝った! 勝った勝った!!」

「ウオオオオオ!」

 

 (常盤)87対96(聖クスノキ)。ジャンの雄たけびが響き、チームメイトの歓喜の声が上がる中、聖クスノキ高校が準決勝進出を決めた。

 そして――柊を擁し、優勝候補の一角と呼ばれた常盤高校。彼らは三回戦で姿を消すことになった。

 

「……な」

「常盤が、負けた?」

「それじゃあ準決勝は……」

「決まりましたか。皆さんよく覚えておいてください。来週、皆さんが戦うことになる相手を」

 

 大仁多高校の選手達も、誰もがこの現状を信じられないと語っている。

 そんな中、監督である藤代だけは冷静に彼らに告げた。

 

「来週、我々は決勝進出をかけて――聖クスノキ高校と戦います」

 

 準決勝の相手は常盤高校ではない、聖クスノキ高校だと。

 たしかに試合は何が起こるかわからない。それは誰もが理解している。

 しかし、目の前の現状をすぐに受け入れることは、難しかった。

 

 準決勝第1試合――盟和高校対山吹高校。

 準決勝第2試合――大仁多高校対聖クスノキ高校。

 

 波乱のベスト4、準決勝は一週間後に行われる。


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