黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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第七話 一軍昇格

「……はい、皆さん集まってくれましたね。それでは今日の練習の前に、私のほうから皆さんに一つ発表しておくことがあります」

 

 週明けとなる月曜日、部活では久しぶりにチームメイトである仲間達と再会する日。

 大仁多高校では毎週この曜日に監督である藤代、ならびに主将である小林達によって開かれるミーティングがある。

 今までは藤代監督が出張であったがために彼がこうして部員達を集めてミーティングを開くのは久しぶりのこと、一年生にとっては初めてのことだ。

 

「今日は皆さんも気にしていたことでしょうが、これより一軍メンバーを発表します。

 この編成については上下関係は含まれていません。純粋に私が判断した選手(プレイヤー)としての実力によって決められています」

 

 普段はあまり見られない、藤代の真面目な顔。それが事の重大性を示している。それを察した部員達も誰一人として騒ぐ事無く、乱れることなく彼の声を聞くことに集中していた。

 一年生達の実力もある程度わかった今、部員が多い大仁多高校でも一軍の編成が発表されようとしていた。

 大仁多高校の一軍は合計で二十人編成となっている。ゲームに参加できるメンバー十二人に加え、さらに八人が予備戦力として――ベンチ入りを狙う戦力として配備されることになる。

 

「――では、上級生より発表させていただきます。選ばれたとしてもこれに驕る事無く、また選ばれなかったとしても今後もメンバーの入れ替えはありますので、皆精一杯練習に取り組んでください」

 

 名前を呼び上げる前に、最後に選手全員に気を引き締めるように呼びかけ、藤代監督は視線を一軍メンバーが記載されている名簿へと視線を移した。

 今年度になって最初のチーム編成。一年生が加わった今、誰が名前を呼ばれてもおかしくない。皆自分の名前が呼ばれることを望みながら、監督を見つめていた。

 

「……三年、小林圭介。PG(ポイントガード)

「はい!」

 

 最初に呼ばれたのは主将である小林。その声に答えるように、はっきりと返事をした。

 妥当な選抜であろう。全国区の実力を誇っていると呼ばれている彼だ。大仁多高校には彼を超えるポイントガードは存在しない。実力・実績共に申し分ない選手だ。

 

 そして小林が名前を呼ばれたことをきっかけに次々と上級生の名前が呼ばれていく。

 副主将を含め三年生からは合計で九人の選手の名前が、二年生からは七人の選手の名前が挙げられた。

 そして――

 

「……一年、白瀧要。SF(スモールフォワード)

「……はい!」

 

 ――ついに新戦力、一年生達が呼ばれはじめる。

 戦陣を切って第一に名を呼ばれたのはやはりこの男――白瀧要であった。

 

 

――――

 

 

 一年生にとっての初戦であるミニゲームから約二週間の時間が経過した。

 部活動の仮入部期間もすでに終了しており、俺達はバスケ部に本入部届けを提出をすませようやく本当の部員になることができた。

 

 ……だが、その間に何も変化が起こらなかったわけではない。

 大仁多高校バスケ部に入部した一年生は仮入部当初の三十三人から、二十一人にまで減少していた。

 練習についていけないと感じたもの、バスケ部(ここ)では活躍することが難しいと実感したもの、他の部活に何か別の魅力を感じたものなどなど。辞めた者達の理由は様々なものである。

 

 辞めたやつらの中には俺の知り合いもいた。ミニゲームで同じチームであった真鍋、敵として戦った青樹達といったメンバーだ。さすがに知らない仲でもないやつがいなくなることには寂しさを覚えたものの、そいつらの分までバスケをやろうと強く願った。それに勇や明は健在だしな。まだまだ俺には頼れる仲間がいる。

 

 ……そして変わったことと言えばもう一つ。

 俺達一年生も含め、バスケ部内で早々に部員全員が一軍と二軍に振り分けられたことだろう。

 大仁多高校バスケ部の一軍定員数は二十人。スターターとベンチメンバー、公式試合で登録可能な計十二人の他に八人の選手が予備戦力として加わっている形だ。

 選手の振り分けがされてからは練習時も行動が別々となり、同じ一軍の先輩達と行動を共に機会が増えた。今まで以上に激しくまた実戦的なものが多くなってきている。

 

 そして発表から一度だけ選手入れ替えがあり、メンバーも少しだけ変わっている。 

 今の一軍は一年が五人、二年が七人、三年が八人という状態になっている。その中でベンチ入りをかけて切磋琢磨しているというわけだ。

 

「ディフェンス、声出していけ!」

「ここ一本きっちり止めて終わらせるぞ!」

 

 コートに先輩達の甲高い声が響く。 

 現在、一軍メンバーは基礎練習を終えて、四チーム――すなわちA,B,C,Dにわかれハーフコート5対5を行っている。

 A,Bチームに小林さんなど主力であるメンバーが配置されているところを見ると、おそらく一軍の中でも実力ある選手がA,Bで他の入れなかった選手達がC,Dチームということだろう。ちなみに俺はBチームで現在ディフェンスに当たっている。

 

「神崎、もっと自分から動いていけ! 足が止まっているぞ!」

「ッ! は、はい!」

 

 Aチームの主将でありポイントガードを務めている小林さんが、マークを振り払えずに足が止まっていた勇へと声をかけている。ドリブルしながらも的確に周囲を見渡し、指示を出す姿はさすがだ。

 ……まあ仕方がない話か。勇はシューターとしては優れているものの、言うほど身体能力はまだ高くない。体ができていないことも原因だろう。相手を振り切れないでいる。

 

「ははは! いやー相変わらず厳しいな小林は。悪いな、神崎。……そう易々と好きにはさせないぜ」

「……なんとかしてみせますよ、俺だってこれ以上怒られるのはごめんなんで!」

「そいつは同感だな。じゃ、俺の分まで怒られてくれ」

「それはひでえっすよ!!」

 

 爽やかに、かつ勇を挑発するように勇のマークについているBチームのシューティングガードである三年生――山本正平(やまもとしょうへい)は言い放った。挑発に乗らず、強気で返す勇に山本さんも嬉しそうに笑った。その笑顔が整っている容姿をなお際立たせている。

 やはり、まだ勇が正レギュラーである山本さんを倒すのは厳しいか。背丈は若干山本さんのほうが高いくらいだが、スピードで完全に勇が押さえ込まれている。自由にさせてもらえない。伊達に大仁多の副主将(キャプテン)を任されてはいないか。

 

「……他人の心配とは随分余裕だな、白瀧。俺が相手では不服か?」

「いえ、少しだけ勇のほうが気になっただけですよ。気分を害したんならすみませんね佐々木さん」

 

 勇の方に意識が向いていることが悟られたのか、マークについている相手に愚痴をこぼされてしまった。

 ……Aチームのスモールフォワード、三年の佐々木一(ささきはじめ)さん。去年の冬からレギュラー入りを果たした選手だ。技術はあるものの、それほど体力面で優れているわけではない。このまま動きを読んでマークについていれば大丈夫であろう。

 

「まったくだ。もう少し本気でやってくれ。俺とて、まだレギュラーの座を諦めたわけではないのでな」

「……わかっています。一瞬たりとも、俺がレギュラーだなんて思っていないですよ」

 

 一瞬だけ、闘志とは別の感情が見えた気がした。

 おそらく俺が推薦で入ったことを知ってこの前の試合を見て、レギュラー争いがより熾烈なものになったと感じたのだろう。俺がスタメンに選ばれるとしたら、それはすなわち他の誰かが――強いて言えば佐々木さんがスタメン落ちするということなんだから。

 

 右に走りこんでいた佐々木さんの体が突如逆方向へと消える。

 そこに小林さんからのパスが通った。ボールを受け取るや否や、すぐさま佐々木さんはシュートモーションに入ろうとして手を上げようとし、

 

「だけど、俺は誰にも負けられないんです」

 

 ……持っていたボールは、俺の腕にはじかれた。

 重心の移動から察してすぐにドライブしてこないということはわかった。だから俺は空いた距離を一歩で詰め、スティールを狙ったのだ。

 

「……ッ!」

「俺はもう……迷わないと決めたので」

 

 腕を空中に上げたまま制止している佐々木さん。事態の急変に戸惑ったのだろう。その間に俺はボールを確保した。これで攻撃権はBチームへと移る。

 ……そうだ。俺はもう迷わない。勝つということは誰かを負かすということだ。それくらいわかっている。ならばなおの事俺は負けられない。

 

 

――――

 

「……ふむ。段々と個人の能力の差がはっきりと出てきましたね」

 

 AチームとBチームの五対五の戦況を伺いながら藤代監督は呟いた。

 白瀧の考えているとおり、今回はAとBに主力選手が揃っている。もっと正確に言えば、そのAチームとBチームの配置にもある理由があるのだが、その理由はあくまで参考程度であり、藤代個人の見方であってスターター選出にさほど影響はない。

 

 ちなみにメンバーの分かれ方は以下の通り。

 Aチーム:PG小林、SG神崎、PF光月、SF佐々木、C黒木

 Bチーム:PG中澤、SG山本、PF松平、SF白瀧、C三浦

 

 このゲームではそれぞれ同ポジションの選手達がマンツーマンでマッチアップしている。それによってお互いを刺激し、緊張感を持たせることが目的である。

 

「よーし、よくやったぞ白瀧!」

「ありがとうございます、中澤さん」

 

 ボールを奪った白瀧がボールを自チームの司令塔――二年の中澤秀樹(なかざわひでき)に戻しつつ、答えた。

 

「……しかし、小林さんの目の前で集中が少しでも切れていたのは駄目だ。お前コレが終わったら走って来い」

「え!? いや、ちゃんと集中していましたよ。だからこそ攻撃も防げたんじゃないですか!」

「意識が他に向いていたんだろ、聞こえてたさ。まったく……次も決めろよ」

 

 忠告を一ついれ、最後の言葉は白瀧を見る事無く振り返って言った。ゆえに白瀧の耳には届かなかった。

 同ポジションである小林を尊敬している中澤だ。そんな彼は小林の目の前で誰かが気を緩ますことを許せない。ゆえにこのように文句をつけたのだろう。……最も、彼の力のことは認めているようだが。

 

 そんな中澤はボールを受けとり、再開の合図を確認すると意識を再び切り替える。

 ……さすがに目の前の尊敬している小林を前に、真っ向から挑もうとは考えてはいないようだ。体を相手に対して半身の体勢を取り、ドリブルをしながら回りを見ている。

 何度か体勢を入れ替えた後、山本が神崎のマークを振り払ったことを確認してパスを出す。

 パスはきちんと通り、受け取った山本の体が少し下がった。……まず間違いなくシュートの構え。それを理解した神崎もブロックに飛んだ。

 

「……そう焦るなって神埼、よ!」

「クッ!?」

 

 しかし、山本は神崎が飛んだことを確認するとジャンプをやめてボールを横に出した。飛んでいる神崎は当然これを止める術はない。そしてボールはその先にいる選手――白瀧へと渡った。

 

「ナイスパス!」

「……白瀧、打たせん!」

 

 佐々木のマークも中々厳しい。一瞬だけ白瀧の動きが止まった。

 白瀧はドリブルを続け、右から左へと返しそしてそのまま前進。……すると見せかけ、開いた足の間をボールを通してその場で止まった。

 

「……くっ!? (フェイクか!)」

 

 その動きを見て佐々木も抜きには来ていないのだと、フェイクだと気づいた。

 二度その場でボールを行き来させ、そしてバックステップで佐々木との距離を開ける。そのままシュートを撃つべくジャンプした。

 

「打たせないと、言ったはずだ!」

 

 だが佐々木もまだ終わらない。この白瀧の動きは以前のミニゲームで何度も目にしたもの。ゆえに白瀧が距離を開けることも想像できたため、すぐさま行動に移ることが出来た。シュートコースを完全にふさぐように佐々木の体が跳躍する。……が、白瀧はシュートを打たずにボールをバウンドパスした。

 

「なにっ……」

「よっし、よくやったぞ白瀧!」

 

 ボールは三年の松平猛(まつだいらたける)の下へわたった。相手をギリギリまでひきつけた結果、無事にパスは通った。

 

(……『瞬発力』、か。しかも前や左右の動きに限ったことではない。バックステップのような動きまで。とにかく重心の移動が上手い。跳躍力にも優れている。経験から培ったであろう判断力もまたすばらしい。

 これはもはや才能という言葉で片付けられることでは……いや、片付けていいことではないですね。むしろ逆だ。一年生ならばもう少し危なっかしいところがあってもよいのですが、さすがは歴戦の猛者。きっと血の滲む様な練習をしてきたのでしょう)

 

 その一連の動きを見て、藤代は心の中で絶賛した。

 一年ならばまだ自分のバスケスタイルを身につけられていないものもいる中、彼は自分のスタイルを押し通している。得点能力だけではなく味方へのサポート、どれをとってもスタメンでもおかしくない力だ。

 

「くそっ、ここは絶対に守る!」

「まだまだ足りんぞ光月。まだまだお前は気迫が……足りん!!」

「……ッ!?」

 

 光月が手を伸ばし、圧力をかける。ただでさえ大きな体だというのにさらに巨大に映った。

 ……しかし松平の声に、気迫に押されて彼は一歩後ずさった。

 それを察した松平はすぐさま光月を抜き、ゴール下へと切り込みジャンプシュートを放った。

 

「ッ、まだだっ!!」

「なにっ!?」

 

 だが、追いついた光月のブロックによりボールはリングをくぐらずにボードとリングを行き来する。

 二回リングに当たったところでボールはシュートを放った方向とは逆へと落ちていく。

 

「っしゃあリバウンド任せろ!」

「……甘いな、隼人」

 

 空中のボールをめぐって両センターがリバウンドを取りに行く。

 まず先にBチームのセンター、三浦隼人(みうらはやと)が飛んでボールを両手で確保した。その事実に三浦が笑みを浮かべる。……しかし、それは長く続かない。わずかにタイミングをずらして飛んだAチームのセンター、黒木安治(くろきやすはる)が空中で彼からボールを奪ってしまった。これにより再び攻撃権はAチームへと映る。

 

「ぬがああああ! またお前かよ安治!」

「……現実は、甘くない。お前は、甘い」

「喧嘩売ってんのかテメェ! 上等だ、次は俺が決めてやる!」

「……甘く見られたものだな」

 

 ボールを確保した黒木は驕る事無く、しかし三浦の闘志を沸き立たせた。

 同じ二年生にして同ポジション。色々と感じるものがあるのだろう。寡黙な仕事人と呼ばれる黒木はプレイで、そしてわずかな言葉で語った。

 

「やはり、本番は彼らの中から選ぶことになりそうですね。これはまた大変だ……」

 

 AチームとBチームの選手達の実力を再確認し、藤代は一人呟いた。

 彼は監督として選ばなければならない。誰を起用するのか、大仁多の最強メンバーが誰なのかを。

 

 

――――

 

 

「皆さん、練習お疲れ様でした」

「「お疲れ様でした!!」」

 

 練習終了後、藤代監督の終了の合図によって全員が集められていた。

 今日もまた一段と疲れたな。ゲームもそうだが最近は練習密度が濃い。先輩達に遅れを取らないようにしないとな。

 

「今日の練習前には言えませんでしたが……インターハイ予選前に、他校との練習試合を行います。そしてその日時が決定しました」

「おおッ!」

 

 そして藤代監督から重大なことが発表された。全員から様々な声があふれ出す。

 ……他校との練習試合か。公式戦前にどれだけ高校で通用するのかを試す機会でもある。何としてもその試合でスタメンに選ばれるようにしないとな。

 

「練習試合は次の土曜日。――今回は秀徳高校と対戦します」

「なっ!?」

「秀徳高校だと!?」

 

 発せられた対戦相手の高校を耳にして、動揺が一挙に広がる。

 俺もその名前を聞いて驚いた。まさかこうも早くあいつがいる高校との対戦が実現することになるとはな。……なおの事試合に出なければならなくなった。

 と、俺が試合と対戦相手のことについて考えていると横から肩をつつかれた。視線をそちらに向けるとそこにいたのは勇だった。

 

「どうした、勇?」

「……なあなあ、要。秀徳高校ってどこだ? 強いのか?」

「まさかお前本当に知らないのか? 毎年IHに出るような東京都の強豪校だぞ」

 

 今さら聞くことではないような問いを聞いてくる勇に思わず脱力仕掛けた。

 秀徳高校と言えば、東京都にあるバスケの強豪校。正邦、泉真館と並んで『三大王者』と呼ばれ、IH出場をここ数年逃したことがない高校。しかも去年のIHではベスト8まで勝ちあがっていたはずだ。

 

「これくらいは知っておけ。ただでさえ大仁多(うち)は、秀徳とは因縁深いんだからな」

「へ? 因縁深いって、どういうことだよ? 何かあったのか?」

「……神崎、それをあまり小林さん達の前で言うなよ」

「中澤さん?」

 

 俺の言っている意味がわからず、なおも深く聞いてくる勇を中澤さんが諌めた。

 ……そうだ。中澤さんも去年いたんだから、あの試合は少なくとも見てはいたんだよな。だからこそこの人のことだ、あまり言いふらしてほしくなかったのだろう。

 

「……去年のWC。大仁多高校は秀徳高校と戦い、そして負けたんだよ」

「えっ!?」

「そういうことだ。だからこの練習試合は、ただの練習試合ではないってわけだ」

「……そう、だったのか」

 

 ようやく勇も納得したのか、それ以上は聞かずに引いた。

 この試合は調整なんて甘いものじゃない、先輩達にとっては去年とは違うのだと、成長した姿を見せる試合でもある。ならば俺達も少しでも先輩達のリベンジに協力しなければならない。

 ……とにかく今は出来ることをやる。改めて意欲を高めると、もう一度藤代監督の下へ視線を戻して話を聞くことに専念する。

 

「秀徳高校は皆さんも知っての通り強豪です。さらに今年は『キセキの世代』の一人、緑間真太郎が加入しました」

「……ッ!」

 

 またしても全員の表情が固まった。『キセキの世代』という一言によって。

 無理もない話だ。なにせ相手は全中三連覇を果たしたチームの正レギュラー。いくら一年といえども恐れるなという方が無茶だ。

 

「三年生も去年よりはるかに強くなっていることが予測されます。まったく別のチームだと考えてもよいくらいです。

 ……しかし、恐れる必要は何もありません。相手だけではない、成長したのは私達も同じですよ」

 

 だが、藤代監督の一言で雰囲気が変わった。

 穏やかな表情が、静かな声が、体育館に広がり部員達の暗い雰囲気を打ち消した。……改めて思ったが、本当不思議な人だな。飄々としたつかみどころのない人、気が付いたらこの人のペースにはまっている。それだけ影響力があるってことか。

 

「ですから、それまでは練習あるのみです。そして本番で全てをぶつけましょう。……正式メンバーは当日発表します。それまでは皆さん、全員が選手だということを自覚してがんばってください。

 それでは小林さん、最後お願いしますよ」

「わかりました。ありがとうございました。

 ――皆、先生の話を聞いていたな!? 残っている時間は多くないが、それまで少しでも強くなるぞ! ……それでは、今日はこれで解散!」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 最後に小林さんが締めの挨拶をして解散となる。

 ここからは部活は関係なく、個人練習の時間だ。必然的に一軍メンバーはほとんど残って練習することになる。俺も当然残る。小林さんも言っていたが、残り時間は少ない。ならばなおの事練習に励まないとな。

 

「……明、お前この後残ってやるか?」

「ああ、今日も練習していくよ。やっぱり不安だからね」

 

 俺はお目当ての巨体を捜し、声をかけた。予想通り明も残って練習するようだな。

 まあ先ほどの話を聞いたら、大抵のやつは何もせずに帰るというのは無理だろうな。

 

「それなら明、すまないが今日は俺に時間をくれないか?」

「え? なんで? 何かやるのかい?」

「ああ。……勇、すまんがお前も来てくれ」

「へっ? 俺も?」

「ああ、むしろお前の力が必要なんだ。今日から試合当日までに、明には身につけてほしいことがある」

 

 勇にも声をかけてこちらに呼び寄せた。

 ……相手もバスケの強豪校。しかも緑間もいる。ならば最善を尽くさなければならない。だから明、お前にはさらに上を目指してもらうぞ。おそらく練習試合ではお前の力が不可欠だからな。


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