黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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第八十六話 明月、昇る時

 エースである白瀧の戦線離脱。

 白瀧はこの陽泉戦でも大部分の得点を上げ、チームを盛り立てた力強い存在だ。その彼が小林と山本に連れそられてようやくコートを後にする姿はベンチメンバーに大きな衝撃を与えた。

 

「白瀧さん……!」

 

 その中でも特に影響が大きかったのは誰か。

 おそらくは帝光時代からの親交があった西村だろう。他の選手達よりも尊敬の念を懐いているからこそ西村はウォームアップを切り上げて真っ先に白瀧へ駆け寄った。

 名前を呼んでも返答はない。不安に思った西村は未だに俯いている白瀧の顔を不安げに覗き込む。そして、彼の目を見て西村は背筋が凍る感覚を覚えた。

 

(この目。知っている。この目は!)

 

 本来ならば白瀧がするとは到底思えないような瞳だ。

 人形のような虚ろな目で覇気が消えた様子は、かつてのある者達を彷彿させるものだった。

 

(あの時の、俺達だ!)

 

 帝光中時代、キセキの世代が圧倒的な力を示してからの、西村自身を含むほかの部員達の姿だ。何をやっても敵わず、ただ圧倒される日々を経て、そして後に白瀧という光明に救われたもの。

 その救ってくれた白瀧が今、同じような状態に陥っていた。

 

「ッ!」

 

 声をかけようとしていた言葉を飲み込んだ。そもそも自分は何を言おうとしていたのさえ忘れてしまった。それほど衝撃的だった。

 

「……本田さん。白瀧さんを医務室へ連れて行ってあげてください。運んだ後はすぐにこちらに戻ってきてもらいます。橙乃さんは一緒についていって、白瀧さんをみていてください。お願いしますよ」

「う、うっす!」

「わかりました」

 

 藤代の指示により、本田が小林と山本に代わって白瀧に肩を貸して彼を医務室まで運んでいった。橙乃もついていって白瀧の表情を窺っている。

 本来ならばベンチの横に白瀧を寝かせて怪我の処置をさせるという手もあっただろう。戦況がまだ好転していない今はむしろその方が他の選手達にとってもよかったかもしれない。

 

(これ以上、うちの生徒を傷つけさせるわけにはいかない!)

 

 だがコートの近くに残す事で白瀧にこれ以上の精神的負担をかけるわけにはいかなかった。藤代の目から見て、もう彼は戦えるような精神状態ではないという判断だった。監督としてチームの勝利以上に選手のケアを優先したのだ。

 本田達がコートを後にする事を見送って、藤代はこの試合の善後策について思考を再開する。

 

(白瀧さんが抜けた今、うちの得点源は大きく制限された。だがここで受け身になっては完全に士気を失う事となるだろう。小林さんにチームの立て直しを頼むとして――ならば)

 

 相手は鉄壁の陽泉。今も大仁多は得点からかけ離れた状態で、敵の土俵に乗って守りに入っては大仁多の攻め気は失われてしまうと思われた。

 陽泉はこれまでの試合でもその圧倒的ディフェンス力で敵の戦う気力を奪っていった。相手はプレイに時間をかけた慎重な攻めにならざるをえなくなり、どんどん攻撃の機会を失っていく。陽泉高校自体もまだ百点スコアがないのもその影響だろう。

 ゆえに藤代はここで積極的に、攻撃の姿勢を崩さないようにと決断を下した。

 

「西村さん! あなたに入ってもらいます! 準備を!」

「えっ……」

 

 声の先は西村だ。オフェンスに力を入れ、加えて白瀧の抜けた穴を塞ぐ為には彼が適任だった。

 インサイドが再び活発化したことにより陽泉は外への警戒が強まっている。外からのシュートを狙う神崎は選出する時ではなく、先の理由で中澤も外れた。佐々木と西村の選択で迷ったが、よりオフェンスを重要視するならば突破力が長けて白瀧にプレイスタイルが近い彼だろうという結論だった。

 

「……ッ」

 

 呼ばれた西村は藤代の声にすぐに応えられなかった。その代わりに藤代とは逆方向、本田達が歩いていった方向へもう一度向き直る。

 徐々に遠くなっていく白瀧の背中を見て、西村の背筋が凍る。

 

『その時はちゃんと『頑張れ』って一言応援してやるよ』

『お前が困ったら俺が『頑張れ』って背中を押してやる』

 

 ふと西村の頭をよぎったのは、勇気付けてくれた白瀧の頼もしい言葉だ。あの後も何度も彼に背中を押してもらったからこそ諦めずに頑張れて、ここまで戦ってこれた。

 先もわからない絶望下で、その暗闇を照らしてくれた光。その存在が、もうここにはいない。

 

「……ッ!」

 

 西村の心に、ドロドロとした感情が生まれた。

 

「おい、西村?」

 

 未だに監督に返答せず、反応を示さない西村を不審に思った松平が声をかける。

 

「う、おぉ……」

「……西村?」

「おっ……」

 

 他の仲間の声にも応じない。

 おそらく先輩の呼びかけが耳に入っていないのだろう。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 西村のものとは思えない、怒りに満ちた叫びが木霊した。

 

 

 彼には白瀧のような強い正悪の概念はない。

 ただ、これまで彼は白瀧を信じて戦ってきた。

 ゆえに信じている存在を否定されることは許容できなかった。

 

 

 

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「……こうなってしまったわね」

「あたり前だろう。やつは考えなしで特攻するような馬鹿ではない。この状況でまだ勝利を信じて疑わないような目出度い思考は持ってない。それどころか、賢明だからこそより明白に叩きのめされた事だろう」

 

 白瀧がゆっくりと退場していく光景を見て、実渕が苦々しい表情を浮かべた。

 彼の考えを肯定するように赤司も白瀧の性格を思い返した。火神のようないわゆる熱血馬鹿のような性格だったなら、あるいは耐えられたかもしれない。だが白瀧はしっかり物事を考えて行動できる冷静な性格の男だ。

 ただ、誰かの為に自分が戦わなければならない時には無理をしてでも戦うという覚悟を持っているだけで。かつて桃井達を救う為に行動したときなどにこの性格が現れている。

 熱血馬鹿でないからこそ周囲の感情の機微にも敏感に反応してしまう。戦わなければならないと理解していても、勝ち目が無いという結論を理性が先に告げている。

 どんな手段を講じても紫原にかかれば捻じ伏せられる。この状況でまだ勝てると無心に考えられるほど彼は壊れていない。

 

「『鉄心』と呼ばれた男でさえ心が折られるほどだ。どんな選手であろうとも同じ結果を辿っていただろう。諦めないほうがむしろ破綻しているというものだ」

「っ」

 

 誰であってもこうなっていただろう。現にバスケ界では何者にも劣らない、屈強な心を持つ鉄心でさえも紫原を前には絶望に落ちることを余儀なくされたのだから。

 木吉の通り名を使ってそう語る赤司に根武谷が反応し舌を打った。

 

「でもそうなると大仁多はやばいんじゃない? ただでさえ無得点の時間が続いていたっていうのに、ここで離脱となると」

「良くも悪くも影響が出るだろうな。特に、親しかったもの達ほどその影響はより顕著に現れる」

 

 葉山が問うと、赤司は交代で入った西村を指して言う。

 小林と変わって司令塔のポジションに入った。山本と二人でボールを運び、代わりに小林は白瀧のポジションであったハイポストに入ってオフェンスを展開する。

 

(ポジション変更。確かに県大会で白瀧と小林が入れ替わったって話は聞いたが。ここで使ってくるかよ)

 

 福井は後目でチラッと小林の姿を捉えた。

 高身長のオールラウンダーは劉を背中で抑えてハイポストの位置でポストアップしている。

 高さ・身長・パスとあらゆる面に優れた選手を中心に据えて広くコートを使うつもりだろうか。

 いずれにせよ交代直後で慎重に攻めて来るはずだ。

 落ち着いて対処しようと考えて、すぐに視線を西村に戻す。

 

「――ッ!?」

 

 その福井の顔面のすぐ横を鋭いパスが通過していった。

 

「なっ!?」

「ナイスパス!」

「ちぃっ!」

 

 そして中心に立つ小林へとボールが渡る。

 小林は内側へ半歩足を踏み出し、視線をゴールへと向ける。

 すぐに単独でシュートへ行くように劉を錯覚させ、ボール持つ両手を逆側へ伸ばす。

 直後、先ほどパスをさばいた西村が福井をかわして小林からボールを直接受け取った。

 

(速い!)

「スイッチ!」

「見えてるよ」

「わかっとるわい!」

 

 ボールを受け取り一歩歩いて距離を調整すると、すぐさまシュートを撃とうとする西村を見て、福井が叫んだ。

 これに紫原と岡村が反応し、高い跳躍で西村のシュートを阻む。

 

「邪魔だ!」

 

 だが、西村はシュートを撃たなかった。

 両手を降ろして宙に浮かぶ二人をかわすようにドリブルで抜いていき、ゴールを過ぎたところでバックレイアップシュートを放ち、リングへと沈めていった。

 

「はぁっ!?」

「なんとっ!」

(動き出しが早い。なんという素早さじゃ)

(加えてパスを受け即シュートすると見せかけてのバックレイアップ? 今の動きはまるで……)

「神速の、再来?」

 

西村がまるで白瀧を彷彿させるようなプレイで大仁多が久々の得点をあげた。

 第二Q残り三分で(大仁多)18対31(陽泉)。

 交代直後の油断、何より紫原が執着を示す相手ではないという事情があったとはいえ、紫原が再び跳躍する前にシュートを決めた西村の小回りのよさとプレイを見て、岡村は白瀧の戦い方を西村から感じとった。

 

「お前が、お前達(キセキの世代)があの人を否定するな」

 

 敵が突然の猛攻に驚愕している中、着地した西村は紫原へ怒りを露にする。

 

「あの時。お前達レギュラーが姿を消し、誰も帝光の壊れた歯車を止められなかった中。白瀧さんだけが助けに戻って来てくれた」

 

 かつて西村達を救ってくれた白瀧を、自分の事を顧みずに助けてくれた大切な存在を想って。

 

「どんなに小さくても、細い光でもいいから、望みが欲しくて。だけどそれが叶う事はなかった絶望の中であの人が希望の光となってくれた! そんな人が、誰もが希望を寄せていたあの人が、否定されていいわけがない!」

 

 絶望に陥った時ほどより欲する頼りになるもの。皆が求めた役割を果たしてくれた白瀧を侮辱されたからこそ、西村は激怒した。

 

「だから? だから何? そんな事言った所で白ちんは――」

「あの場を去った何も知らないお前が、白瀧さんを語るなぁっ!」

 

 これ以上の暴言は許さない。かつて圧倒的な力で叩きのめされた相手に、西村は語気を強めて言った。

 

「……駄目だ。焦ってはいけない西村さん。司令塔であるあなたが、冷静さを失っては」

 

 だがその感情は、PGである選手が懐いてはならない感情だ。

 常に冷静にコートを観察する必要がある西村は平常心を失ってはならない。藤代は警告するが、ベンチからではコートに立つ西村には届かない。

 ボールが陽泉に渡り、福井と宮崎がボールを運ぶ。

 福井は確実にボールを受けてパスの供給を図ろうと試みた。

 

「――ッ! このっ!」

 

 そんな福井に、西村が積極的にプレッシャーをかけた。

 攻めの姿勢を崩さないという藤代の考えに知ってか知らずか応えている彼の動きは、さすが一時は赤司の控えを任されていただけのことはあった。福井に身動きさえとらせず、彼から行動の選択肢を奪っていく。

 福井も懸命に西村をかわそうと腕を伸ばすが、一瞬の隙をつかれてボールを弾かれた。

 

「ぐっ!」

「もらった!」

 

 前にこぼれたボールを西村が確保した。

 勢いそのままに西村が駆け上がっていく。

 敵は突然の攻守の切り替えに対応できない。このまま無人のコートに向かっていく。

 

「はいー? 速攻? 今度は油断なんてしないよ?」

「ッ!」

 

 全速力でドリブルを行う西村の目の前に、紫原が回りこんだ。彼より先にゴール下へと走りこみ西村の一次速攻を防ごうと身構える。

 

(やはり、紫原に速攻を決めるのは難しいか!)

「止まれ西村! 立て直せ!」

 

 それを見て小林は西村へ制止を呼びかける。

 さすがに一対一では勝ち目が無い。

 西村もわかっているのだろうか、ドリブルを続けながらもその場で立ち止まり――突如一気に前進していった。

 

「なっ!?」

「ハァッ?」

「ばっ、馬鹿! 一人で突っ込むな! 西村! 西村!」

 

 無謀としか取れない行動だった。

 勝ち目があるとは到底思えない。チームメイトが必死に彼を止めるが、西村は構わずシュートを放った。

 

「我を忘れて特攻か。若いな。やはりまだ一年か」

 

 西村の逸る気持ちを抑えられない行動に、荒木は勝負の先を理解してそう呟いた。

 

「一度決めたくらいで、調子に乗るなよ! 雑魚が!」

 

 そしてやはり、皆の想像通り紫原のブロックが炸裂する。

 

「ぐうっ!」

「舐めないでくれる? 止めようと思えばいつでも止められるんだよ!」

 

 先ほどとは違って紫原も完全に西村を意識しているとなれば、シュートが決まる可能性は限りなく低い。大仁多の攻撃は失敗に終わり、遅れて戻ってきた宮崎がボールを確保して陽泉にボールが渡ってしまう。

 

「ナイス、紫原」

「別にー」

「くっそっ」

「落ち着け西村! 冷静になれ、また陽泉のオフェンスが来るぞ!」

「わかってますよ!」

 

 宮崎が気軽に紫原に声をかけるのに対し、小林の呼びかけに反応する西村の反応は堅いものだった。表情の強張りも消えることはなく一言返すとすぐさま自陣へ戻っていく。

 陽泉のオフェンス、パスコースを探す福井にやはり西村は積極的にプレッシャーをかけていく。

 

(とにかくボールを奪う気か。確かにこの平面ディフェンスは厄介だが――)

 

 執拗なディフェンスは脅威だが、感情的になって視野が狭まっているならば打つ手はある。

 福井はアイコンタクトを岡村へ一度送ると、彼の前進に呼応して中へと侵入する。西村が追おうとするも、岡村のスクリーンによって行動が阻まれた。

 

「うっ!」

「大方そっちの事情は理解できる。が、だからと言って好きにはさせてやらねえ」

「スイッチ!」

 

 西村をかわした福井は囲まれる前にパスをさばいた。

 パスの相手はローポストに陣取る劉だ。劉はボールを受けると背に立つ小林にパワードリブルを仕掛けていく。

 

「ッ――!」

「残念だけど、ここはうちの領域アル!」

 

 いくら小林といえど劉のなれたポストプレイを防ぎきることは出来なかった。

 ゴール下へ押し込んでいった劉はそのまま自らシュートを沈めて見せた。

(大仁多)18対33(陽泉)。陽泉の得意とするパワープレイで追加得点を挙げる。

 

「よっしゃあ!」

 

 再び点差を引き離す陽泉。順調に試合を運んでいる展開に、選手の士気は上がる一方だ。

 

「皆、落ち着いて一本取りに行くぞ」

 

 対する大仁多は小林がチームメイトを静かに鼓舞して試合を再開する。

 陽泉に対して今の状況では大きな現状の打開は期待できない。ならばせめてこれ以上失速せず、この状況を少しでも維持しようという意志を篭めたものだった。

 

「撃たせん!」

「ッ――」

「ナイスブロック岡村!」

 

 しかし西村のミドルシュートが岡村のブロックに捉まり、大仁多は得点出来ないまま陽泉にボールを奪われてしまう。

 ガード陣の切込みで何とかシュートまで持っていけてはいるものの、得点には至らない。再び陽泉の屈強なディフェンスを大仁多は身をもって味合わされていた。

 

(ふざけるな! これ以上点差を離されてたまるか!)

 

 それでも西村は胸に湧いた感情に従っていく。より福井への警戒を強め、ボールの奪取を試みる。ドリブルでの突破は勿論、横からのパスもそう簡単には出させないようにとコースを制限していく。

 

(――確かに一年でベンチ入りしただけの力はあるようだが)

「相手が小林じゃねえなら、いける!」

 

 ドリブルを止めたかと思うと、福井は西村の頭上を通してボールを直接ゴール下へと入れた。

 

「ァッ!?」

(しまった!)

 

 ここまでの前半戦では福井よりもはるかに高い身長を持つ小林がマークマンであったため、福井からゴール下へ直接ボールを供給する機会は少なかった。

 だが相手が変わったなら話は別。敵も高さの警戒はあまり強くなかったため、福井は悠々とパスをさばいた。

 

「だろうな。そろそろ来ると、思ったぜ!」

 

 されど大仁多も易々と陽泉の好きにはさせなかった。ゴール下へと届く前に、コースを読んでいた山本が空中でボールを弾き落とす。

 

「おっ!」

「山本!」

(――ッ。マジか。そうか、白瀧不在とはいえ、まだまだカットが得意なやつがいたか!)

『アウトオブバウンズ! (陽泉)ボール!』

「あっ、くそっ。無理か」

 

 さらにボールを追うが、山本が追いつくよりもボールがラインの外に出る方が早かった。ボールを奪うには至らなかったが攻撃失敗の空気の一区切りつけた点は大きいだろう。

 

『大仁多高校選手交代(メンバーチェンジ)です!』

 

 ベンチの判断を実行に移す機会を作れたという意味でも。

 ウォームアップを済ませユニフォームに着替えた佐々木が、声を張り上げて一人の名前を呼ぶ。

 

「西村!」

「なっ!? ちょっ、交代って、俺ですか!? だってさっき出たばっかりで」

「いいから戻れ」

「待ってくださいよ! 俺はまだ――」

「西村」

 

 突然の指示を受け入れられなかったのだろう。

 西村は必死に佐々木に反論するが、最後まで言い切る前に山本が静かに彼を諭す。

 

「戻れ。監督の指示なんだ。ここで文句を言っても意味がないのはわかっているだろ」

「――ッ!」

「……俺達だって皆気持ちは同じだよ」

 

 肩を叩き、そう付け足して山本は離れていった。

 気持ちは同じ。大切な仲間を傷つけられて怒っていないわけがなく、その仇を取りたいという思いは誰もが懐いているもの。

 だからそれ以上は言うなと、副主将からの訴えだった。

 

「……すみません」

 

 最後に一言謝って西村はベンチへ足を向ける」

 

「大丈夫だよ。後は俺がやる」

「――え?」

 

 横を通る際、光月から彼らしからぬ声色で告げられて西村は視線を彼へと向けた。

 だが光月は紫原を見たまま動かないため、その表情は窺えない。

 仲間の変化に疑問を感じながら西村は佐々木と代わりゆっくりとベンチへ戻っていった。

 

「西村さん」

「はい」

 

 東雲からタオルを受け取り、ベンチへ腰掛けた西村。そんな彼に藤代が背を向けたまま声をかける。

 

「PGはいわばコート上の監督です。誰よりも冷静に物事を見極め、広い視野を持ってチームを導かなければならない」

「――はい」

「私は、無策のまま感情に流されて無闇に突撃するような選手を司令塔に置くつもりはないですし、そんな選手をそのまま試合に出させるわけにはいきません」

「――――はい」

「少し頭を冷やしてください」

 

 最後まで藤代は西村に視線を合わせることなく話を終えた。

 西村は反論する事無く指示を受け入れて、もらったタオルを頭からかぶり、視線を落とす。

 頬を伝って幾つもの滴が床へと落ちていった。

 

「……先輩方、お願いがあります」

 

 一方、佐々木が入ったコートでも大仁多には大きな動きがあった。

 真っ先に口を開いたのは、こういう時に滅多に自分の意見を積極的には出さない光月であった。意外な提案に、小林は「どうした」と先を促し、次の言葉を待った。

 

「紫原は俺に任せてください」

 

 そして光月の示した意志は、さらにチームメイトを驚かせることとなった。

 

「任せるって、一人でか?」

「はい」

「わかっているのか? 一人でやれると?」

「倒します。攻守どちらでも。――そろそろ試合を再開しないと不味いです。駄目でしょうか?」

 

 微塵も臆する気配を見せない光月の表情は別人ではないのかと疑問を懐くほどの変貌だった。突然の後輩の訴えに、チームメイトは困惑を隠せない。

 

「……どうする、小林?」

「判断は任せるぞ」

「どちらにせよ簡単な道ではありませんが、ご決断を」

 

 佐々木より告げられた藤代の指示は、ディフェンスは紫原には黒木と光月のダブルチームをあて、オフェンスは小林、山本の両名が外から仕掛け、佐々木のパスを使って広く攻撃を展開するというものだ。光月の提案に乗るならばその案に逆らうということになる。

 二つの提案は大きく違う。光月の意見は果敢に敵の土俵で戦いを挑む、ハイリスクハイリターンの積極的な方針。一方で藤代の作戦は大仁多の傷口を小さく抑えようというローリスクローリターンだ。

 時間も無い中での難しい選択に、山本達は最後の判断は小林に託した。主将であり、コート上の監督でもある小林に。

 

(常識で考えるならば、光月の作戦はありえない。白瀧がいない今、危険な選択肢を選んで点差を広げるわけにはいかない。監督の指示通り着実な手を取るべきだ。――だが、それは同時にうちの得意スタイルを棄てると言う事にもなる)

 

 大仁多は攻撃を得意とするチームだ。今回の藤代の意見は攻めに消極的で、堅実と感じるが大仁多らしくないとも取れる。

 確実に監督の指示を取るか。あるいは仲間の力を信じるか。

 

「――わかった。責任は俺が取る。光月、お前に託そう」

 

 小林は決断を下した。

 

 

――――

 

 

 選手交代が終わり、陽泉ボールで試合が再開された。

 宮崎が福井にボールを入れて大仁多の出方を窺う。

 するとやはり大仁多の選手達は先ほどと異なる動きを見せた。

 

「なっ!?」

「紫原に光月のマンツーマン!?」

(ダブルチームじゃない?)

 

 この大仁多の仕掛けには陽泉も、味方である大仁多のベンチも驚かされることとなった。

 

「……か、監督! どうして、まさか佐々木君から話が行ってないんでしょうか?」

「それはないでしょう。先ほど少し話している素振りが見えましたから。となると、小林さんが最終的な決断を下したのでしょうね。――ならば構いません」

「えっ」

 

 東雲が疑問を呈するが、藤代はすぐに表情を戻して彼女を静かに宥めた。

 己の意見と食い違う動き。だが小林が決めたことならば構わない。他でもない多大な期待と信頼を寄せる小林の判断を尊重した。

 

「それよりも私が気になるのは、誰がこの考えを出したのかですね」

「え? 誰って」

「小林先輩じゃないんですか?」

「彼はこういう作戦を立てませんよ。正直な話、あの五人の中でこの作戦を立案する選手が思い当たらないのですが」

(あるいは、まさか光月さん自身が、か? 今までの彼ならばそんなこと出来ないはずだが。もし本当にそうだとしたならば――)

「ひょっとしたらこの試合で大仁多は大きく変わるかもしれませんね」

 

 何故か少し嬉しそうに藤代は笑う。松平や中澤はその意図を深く理解できず、首を傾げるしかなかった。

 

「……はー? 本当に一人でとめるつもりなの?」

 

 一方、コートの方では単身で自分を止めようとする光月を見て、紫原は気分を害していた。

 

「理解できないなー。白ちんがやられるところ、見てなかったの?」

「見ていたさ。だからこそ、俺が要に代わってお前を倒す!」

「あっそ。しぶといね。……名前は?」

「光月明だ」

「ふーん。光月ね、覚えたよ。試合終了まで覚えているかは知らないけど」

 

 諦めの悪い敵は紫原が嫌うものだ。しかも彼らの最大戦力である仲間が敗れたというのに向かっているとなれば余計に苛立ちが強くなる。

 早々に決着をつけてやろうと紫原は光月を背にポストアップを行う。

 

「ッ!?」

「うぅっ!」

(こいつ、重い! 動かない!)

(絶対に、行かせない!)

「……のっ!」

 

 紫原は中に押し込もうとするが、光月は紫原の力に対抗していた。二人がかりでさえ圧倒するはずの力に、微塵も引かずにポジションを保っている。

 

「舐めるな!」

 

 スクリーンプレイで宮崎からパスを受けた紫原は一度ワンドリブルを仕掛けて光月の反応を誘い、力が篭ったと同時に受け流すようにロールターン。光月の巨体を交わしてジャンプシュートを沈めた。

 

「ぐうっ!」

「ふんっ」

(……俺の力に耐えた? 何だこいつ)

 

 (大仁多)18対35(陽泉)。陽泉の連続得点が記録されるが、紫原がわずかにではあるが攻めあぐねる形となった。

 常人離れした力に対抗できる相手など今まで戦った相手でも一人しかいない。こんな感覚は久しぶりであった。紫原は鼻を鳴らして光月の横を通り過ぎるも、その後も彼を横目で見るなど注意を集めていた。

 

「ドンマイ、光月。切り替えよう」

「はい、すみません。次こそは……」

 

 黒木に肩を叩かれ、光月はより気迫を前面に押し出してそう口にした。

 常の弱気の彼からは考えられない姿勢だ。話かけた黒木だけではなく、他の選手も思わず気後れしてしまう。

 

「それよりも、キャプテン」

「うん?」

「ここからのオフェンス、お願いします」

 

 仲間の気持ちを知ってかしらずか光月は小林に進言する。

 そして直後の大仁多の攻撃。

 光月はゴール下を守る紫原を相手にポストアップを行い、真っ向から挑んでいく。

 

「なっ! ちょっ」

「光月、紫原を相手にポストプレーで勝つつもりか!?」

 

 紫原は間違いなく高校最強のセンターだ。ゴール下において彼に敵う選手はいないだろう。

 その紫原が得意としているポストプレーで勝負しようなど正気の沙汰とは思えない。

 

「いや、それでいい」

 

 ただ一人。観客席で観戦している勇作だけは光月のこの試みを後押ししていた。

 

「何? 小細工なしで俺を倒すって言うの?」

「倒すよ。お前を倒さなきゃ皆を守れない。だから俺は勝つ!」

「――守るとか勝つとか、あんな光景を見てまだ無意味なこと言えるなんて。本当、お前ら馬鹿だよ!」

 

 光月と紫原、何もしていないときならば決して気性が悪いわけではない二人が激しく闘志をぶつけ合う。

 その二人がポジションを奪い合う光景を見て、小林は福井の一瞬の隙を突いて彼の頭上を通して光月へパスを通す。

 ボールを受けた光月は右手に力を篭める。紫原を中へ押し込んでいくパワードリブルを仕掛けていった。

 

「ッ!?」

 

 押し込む力が大きくなり、紫原の体が僅かに下がる。

 直後、光月は真下に下ろしていたドリブルを股の下へと移し、両手で掴むとステップインでゴールに向かい合いシュートを撃った。

 

「ふざ、けんな!」

 

 だが紫原が怯んだのはわずか一瞬だけだ。その一瞬の間で紫原は立て直し、光月のシュートを左手で叩き落とす。

 

「ぐぅっ!?」

「調子に乗るなよ、光月!」

 

 空中に浮いたボールも岡村がリバウンドを取り大仁多の攻撃を阻止した。

 連続得点に成功ししかも敵の動きは封殺する。陽泉の流れは止まらない。

 

「……まだだ」

「あ?」

「まだだ。何回でも挑んでやる。お前に打ち勝つまで」

 

 その流れは理解しているはずなのに、光月は一歩も引く姿勢を見せない。

 

「ねー。次のオフェンスも、俺のボール集めてよ」

「紫原?」

「またムカついてきた。光月も捻り潰さなきゃ気がすまない」

「お。おう」

 

 光月の気に当てられたのか、紫原も白瀧と戦った時のように殺意を剥き出しにした。

 一年生らしからぬ気迫に福井達も押されて彼の提案に乗る事とした。

 陽泉の攻撃。また紫原と光月の一対一という形になった。

 紫原はゴール下に陣取り、力で光月のポジションを奪い取っていく。光月も必死に対応するも、徐々に押し込まれて彼のゴール下のシュートを許してしまった。

 

「くそっ」

(まだだ。まだ力を十分に篭められていない。もっと、もっとだ!)

 

(大仁多)18対37(陽泉)。

 徐々に得点差が開いていく中、光月は何か手がかりをつかんでいく感覚を覚えた。その感覚を忘れないまま、攻撃でもまた紫原に仕掛けていく。

 だが紫原を破ることは簡単ではない。

 少しずつ押し込むことは出来るが、彼の体勢を完全に崩すことはできなかった。光月のジャンプシュートは紫原に阻まれ、ボールはラインの外へと跳ねていく。

 

「アウトオブバウンズ! (大仁多)ボール!」

 

 得点できないまま、少しずつ第二Qの残り時間が少なくなってきた。

 このまま光月が単身で挑んでいくのは不味い。何か攻略の手がかりを見つけられればよいが、それが出来なければ大仁多に降りかかりダメージは深刻なものになるだろう。

 

「小林」

「ッ!」

 

 そう考えた佐々木は小林へアイコンタクトを送った。彼の言いたいことを理解すると、言葉は返さず大きく頷く事で同調を示した。

 黒木のスローインで試合は再開。小林がボールを受けると、ドリブルで斜めに切り込み、すぐさま中へとパスをさばく。

 今度の相手は佐々木だ。上空へとパスをさばくと佐々木は大きく跳躍してボールを掴む。

 そして着地しないまま、直接シュートを放った。

 

「むっ!?」

「なっ!」

(これは誠凛戦で見せていた、アリウープレイアップ!?)

「このっ!」

 

 突然の奇襲にマークについていた劉は反応が遅れてしまった。全力で跳んだものの、指先さえ届かない。

 劉のブロックを越えた佐々木のレイアップは、だがリングに届く前に紫原が完璧なタイミングでブロックを決めた。

 

「何っ!?」

(今のタイミングでもとめるのか!?)

「はぁー。あのさー、そんなシュートどんな場面で撃とうが無駄だよ。俺には通用しない」

「――ッ!」

 

 交代して初めてのシュートで、虚を突いた。データも少ない。それでも届かない壁。

 たった一発で実力差を見せ付ける紫原に佐々木は反論することも出来なかった。

 

「ちぃっ!」

(不味い。佐々木のあのシュートも止められるとは。やはり白瀧がいない以上、ミドルでのシュートは紫原を超えられないか!)

 

 自分よりもさらに後方へと飛ばされたボールを確保しながら、小林は戦略を思案する。

 

「大丈夫です。佐々木さん」

「光月?」

「俺がやります。今は任せてください」

 

 そんな中、光月は佐々木へ声をかけた。

 短いやり取りですぐにポジションに戻っていくと、ボールをキープしている小林へ視線を送る。

 

(――やはり、そうなってしまうか)

 

 スクリーンプレイも通用しない今、ルーキーの意気込みに乗るしかないだろう。

 小林は福井のマークをクロスオーバーでわずかにかわすとすぐさま光月へパスをさばいた。

 

「うおおおおおっ!」

「……ッ! らあああ!」

 

 プレイを重ねるごとに、光月の押し込む力が増していった。

 紫原の体が大きく後退する。確実に光月はゴールへ近づいている。

 それでもシュートだけは許さない。

 光月がボールを放つ前に、紫原が彼の右手からボールをはじいて行く。

 

(……どうなってんだ、コイツ。さっきよりも間違いなく力が強くなってる)

(まだ駄目か。もっと、もっと強くだ。もっと低く!)

「……ッ!」

 

 敗れているというのに、光月の気迫は衰えていない。彼のそんな目を見て、紫原は怒りを増幅させた。

 

「いい加減に、諦めろよ!」

 

 陽泉の攻撃。紫原はどんなに抗っても無意味だと示すように、光月のブロックの上からダンクシュートを決めて行った。

 

「くそっ!」

(もう少し、次こそ!)

 

(大仁多)18対39(陽泉)。これで21点差が開いた。試合が始まってから最大の得点差となる。

このまま第二Qさらに点差が開かれるようなこととなれば、大仁多の勝機は潰えるだろう。

 そんな状況下に追い詰められても、光月はまだ挑戦の意志を消していない。

 

「……何でそこまで向かって来るんだよ?」

 

 挑発ではなく、純粋な疑問だった。

 いまだ片膝をつきながら目を逸らさずに自分を見ている光月に、紫原は問いを投げかけた。

 

エース(白ちん)はもういなくて、自分だってここまで負かされて、得点差も絶望的だ。無意味だと思わないの? 勝てるわけないって思わないの?」

 

 今までどんな選手だってここまで打ち倒せば諦めていた。試合を投げ出し、戦うことさえ放棄している選手だっていた。

 それにも関わらず、ここまで向かってくる理由がわからない。

 

「――思わない」

「ッ! 馬鹿馬鹿しい。最後まで挑めば勝てるって? 確かにお前はそれなりにバスケに向いている体はあるようだけど、それでも俺は倒せないよ」

「その考え方がそもそも違う。()がこの高校で得たものは、そんなことじゃない」

 

 勝機を見出しているから戦っているわけではない。恵まれた体型を持つ自分ならあるいは、と考えているわけではない。

 光月は自分のポジションにつくと、先ほどの紫原の問いに対する答えをさらに続ける。

 

「僕達は勝てる勝てないで、向いている向いていないでバスケをしていない。一度勝つと決めたならば、戦うと決めたのならばもう迷わない。共に立つ仲間のためにも、負かしてきた敵のためにも戦い続ける。それを教えてくれたのが要だ! 要はそのあり方を僕たちに示してくれた」

 

 この強敵を前にまだなお挑むことが出来る答えを教えてくれた大切な戦友。その名前をだして光月は紫原へ訴えた。

 

「力が足りないならば策をめぐらし」

「技術が足りないならば人に乞い」

「才能が足りないならば仲間にすがりついた」

「世間の理解を得られずとも、戦う過程でどれだけ傷つくことになろうとも。ただ約束を果たすために。成し遂げる為の覚悟を手にした!」

 

 世間に名を轟かせた彼でさえ、不足があるならばあらゆる手を講じて勝利を望んだ。

 数多くの強敵との戦いで苦しもうとも誰かの為に戦う姿勢を貫いた。

 ――そんな彼に助けられた自分だからこそ、彼の言葉を信じて、彼の代わりに戦うことができる。

 

「――ッ!?」

 

 瞬間、紫原は突如大きくなった光月の力を感じ取り目を丸くした。

 

「……そうか」

 

 異変を感じ取ったのは彼一人ではない。ベンチに座る藤代も僅かな変化を理解した。

 

(今まではドリブルを強く突こうとするあまり、腕に力をこめようと上半身が少し前のめりになっていたのか)

 

 強くドリブルをしようとするとなってしまう癖のようなものだ。これではバランスも悪くなり、最大限の効果を発揮できない。

 だが今の光月は胸を張りながらもしっかりと腰を落とし、低い姿勢を保っている。

 

「そうだ! 行け!」

 

 思わず勇作は観客席から立ち上がり、声を張り上げて光月を後押しする。

 

『一度しか使えないが。――お前には一番ふさわしいものがあるだろ』

 

 相手ディフェンスを押し込むため、バスケでは一度だけ突くことを許されたドリブルを。

 

「うおおおおおおおっ!」

『――――いいか、明。もしも俺がいなくなったら、その時はポストプレーで勝負しろ。紫原は二メートルを優にこす長身だが体重はそれほどではなかった。それは今でも大きく変わっていないはずだ。そしてこの重さの差が、お前に有利なポイントとなる。スピードによる運動エネルギーが加わっていない状況なら、お前ならきっと!』

両手(ボースハンド)パワードリブル!)

 

 光月の全力が篭められた力強いドリブルが炸裂した。光月が紫原に勝っている体重をエネルギーに変えて最大の効果を発揮する。

 試合前に、白瀧も太鼓判を押した光月の両手で突くドリブルは――

 

「なぁっ!?」

 

 紫原の体を押し込み、強引にスペースを作っていた。

 

「紫原が、押し負けた!?」

(今だ!)

 

 敵の体勢が崩れた今ならばいける。光月は空いたスペースにターンで潜り込むと、素早く跳躍する。

 

「ふざっ、けんな!」

 

 その光月の前に、再び紫原のブロックが立ちはだかる。

 

「ハァッ!?」

「何で。光月が押し勝ったのに!」

(一瞬で立て直しやがった!)

 

 隙を見せたのはたった一瞬。たとえ押し負けたとしてもすぐにブロックできる速さも持っている紫原。高校最強のセンターの名は伊達ではなかった。

 

「――ッ!」

 

 だが、たとえ最強が相手だとしても。

 

「らぁあああああああっ!」

 

 この勝負に負けるわけにはいかない。

 紫原のブロックを吹き飛ばす、光月の両手(ボースハンド)ダンクが炸裂した。

 

「なっ!」

「にいっ!?」

「ッ!?」

「……あいつ」

「やりやがった!」

 

 両校の最強の力を誇る二人の対決は、初めて光月に軍配が上がった。

(大仁多)20対39(陽泉)。ついに光月が紫原を正面から力で打ち負かす。

 

「言っただろう。お前は俺が倒す!」

「――光月、明!」

 

 尻餅をつく紫原を見下ろす形で光月は宣言する。

 初めてこの試合で味合わされた敵を見上げる光景に、紫原は噛み締める力を抑え切れなかった。

 まだ第二Q終盤。試合の勝敗は、まだ決まっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――黒子のバスケ NG集――

 

(この目。知っている。この目は!)

 

 本来ならば白瀧がするとは到底思えないような瞳だ。

 人形のような虚ろな目で覇気が消えた様子は、かつてのある者達を彷彿させるものだった。

 

(桃井さんや橙乃さんの料理を食べた時と同じ目だ!)

「いや確かにそれもそうだけど、そうじゃない!」

 

 キセキの世代と戦った時の絶望度≒マネージャーの料理を食べた時の絶望度。


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