黒子のバスケ 銀色の疾風   作:星月

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第九十話 その背中に希望を背負い

 ――バスケなど欠陥競技にすぎない。

 圧倒的な実力を持ちながらも、紫原がバスケに強い関心を懐かないのはこの思いがあるからだ。どれだけ努力を重ねようとも最後は大きく、そして強い力を持つ者が勝つようにできている。天才だから抱いた苦悩。結果がわかりきっている現状に嫌気がさしたがゆえに。

 たとえ共に全国制覇を成し遂げたものでさえ、才能の開花がなかったが故に他の凡人と変わらない敗北と言う結末を迎えたのだから尚更だ。彼のこの考えが覆ることはないのだろう。

 それにも関わらず、先ほども徹底的に叩き伏せた敗北者がまたしても自分に向かってきた。この事実は紫原を苛立たせるには十分すぎるものだった。

 

「じゃあ望みどおりひねり潰してやるよ」

 

 自ら向かってくるというのならばその通りにしてやろう。

 空の拳に力を篭める。今度こそ、もう二度と這い上がって来れない程に実力差を見せ付けてやろうと。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「まあ待て。落ち着け敦」

「ん?」

 

 今一度徹底的にひねりつぶす。

紫原が強く意識を固める中、福井が待ったをかけた。

 

「そう易々と向こうの挑発に乗るな。さっきやつはもう出来ないと思っていたロングスリーを見せ付けたばかりだぞ。まだ何か考えがあるかもしれねえ」

「だから? そんなの関係ないし」

「お前がそう熱くなるのがおそらくはやつの狙いだ。一対一で仕掛けるよりも今はゴール下を狙うのが先決だ。そうすればそもそもやつの体型じゃ手も足も出ねえ。お前にとっては別に不都合ではねえだろ?」

「――――」

 

 闘志を燃やす紫原を制する福井。

 確かに彼の言うとおり、白瀧が折角出てきたとしても彼が出来ることは限られている。インサイドの勝負では従来の活躍は難しいだろう。

 ならば白瀧の発言を無視して光月等を狙えば、敵の思いを打ち砕くにはむしろちょうどいいかも知れない。せっかく出てきたにも関わらず、自分では何も出来ない戦況で味方を蹂躙されるというのは、彼が最も嫌う状況であるはずだ。

 

「……わかったよ」

 

 結論に至ると、紫原の怒りは程ほどに冷めた。福井の意見に従ってゴール下から大仁多を攻めようと方針を変える。

 

「チッ」

(乗ってこない、か。くそっ)

 

 紫原が冷静さを取り戻した様子を見て白瀧は小さく舌打ちをした。

 福井達の予想通り、白瀧の狙いは紫原の意識を自分へと向けることであった。3ファウルの光月は勿論、黒木が抜けたセンターも付け狙われれば崩れやすい。だからこそ陽泉の最大戦力である紫原の相手を引き受けようとの考えだったが、彼の狙い通りに事は運ばなかった。

 

「明」

「うん?」

「こうなれば方針変更だ。――俺の動きに惑わされるな。お前は全力で紫原を止めることだけを考えろ」

 

 ならば善後策を取るしかない。下手に意識しすぎないように光月へと声をかけて、白瀧は動き出す。

 陽泉の反撃。大仁多の選手交代後、初めての攻撃だ。福井と宮崎で慎重にボールを運びながら大仁多の出方を窺う。紫原達がゴール下のポジションを取る中、やはり大仁多のディフェンスが動きを見せた。

 

「ッ!」

「お前だけは止める!」

「これ以上好きにはさせない!」

 

 インサイドの紫原に対して白瀧と光月、二人がかりのダブルチームで彼のオフェンスを防ごうと試みていた。

 

(光月と白瀧のダブルチーム。力には光月で拮抗し、平面のディナイは白瀧に一任し紫原をとめるつもりか)

(その代わり劉はフリーになるが、しかし)

 

 確かに紫原をとめるためにはこれが一番よい手であるかもしれない。他の守りが薄くなろうとも、紫原の脅威に比べればまだマシであると考えられる。

 加えて下手にゴール下へと直接パスをさばこうとしても――

 

「そう簡単にはいかせてくれねえか」

 

 小林や山本のマークは厚かった。特に小林は高さに優れているため、彼の上を越えてパスをさばくことはやはり難しい。しかもゴール下の戦力が下がったことを考慮してなのか、先ほどよりも幾分かマークが厳しくなったように感じる。

 

(確かに司令塔としてはお前の方が上かもしれねえな。けど)

「フリーになったからには好きに動かせてもらうアル!」

「小林! 後!」

「むっ!」

 

 ならばとハイポストの劉が小林の動きを阻んだ。スクリーンで彼の行く手を塞ぐと、さの間に福井が中央へと侵入する。

 

「ああ、だろうな」

「ッ!?」

「もらった」

 

 その福井の動きを読んでいたかのように、白瀧が一瞬のうちに彼の手からボールを奪い取った。

 

「なっ!?」

(馬鹿な。やつは紫原のダブルチームについていたはずなのに!)

(動きを読んでおったな。劉がスクリーンに出れば、スペースとなった場所に切り込んで来る可能性が高い。自身が復活したばかりで、紫原を止めると敵に意識づけさせた意表も突いて)

「白ちん……!」

「ナイス白瀧!」

 

 敵の動きを読み切り、裏をかいた白瀧の働きで大仁多はディフェンスに成功した

 一方で自分へのマークを利用され半ば無視される形となった紫原はこめかみに力がこもる。

 

「どこまで苛立たせてくれれば気がすむんだよ!?」

「紫原」

「もう意見は聞かないよ。これ以上調子に乗せられない。俺が一対一で止めてやる」

「ああ、それならいい」

 

 歯を食いしばって告げられた言葉には絶対の自信が含まれていた。

 調子の変動が大きい紫原だ。下手に刺激してやる気を削がれては困る。ロングスリーもあるとなれば、現状で白瀧を止められるのは彼しかいない。ゆえにこの言葉を信じようと福井は了承してディフェンスにつく。

 大仁多の攻撃。今度は突然のシュートにも対抗できるようにと紫原が白瀧にピッタリマークについた。

 

「陽泉は白瀧に紫原を当ててきたか!」

「先ほどのような奇襲は二度も通じないだろう。そんな甘い相手ではない。ならば真っ向から打ち破るしかない」

「連続で決められれば勝機は大きくなる。だが止められればまた前半戦のように勢いを奪われかねねえ」

「勝て……!」

 

 白瀧がリベンジを果たすのか。あるいは再び紫原が圧倒するのか。観客席、ベンチ、コートの人々の意識が二人のマッチアップに集まる。

 すると、白瀧は紫原を視界に捉えるや否や、彼の守備範囲の外を通して小林にボールを戻す。

 

「あ?」

(勝負しない? やはり無理するのを嫌ってあくまでもSGの役割を果たそうってか?)

(……いや違う! 図っているんだ。勝負を仕掛ける時を)

 

 慎重な動きを見て勝負を避けたのかと考えがよぎったがすぐに否定する。ディフェンスに成功した直後の大切な場面。動き出すタイミングを狙っているのだ。

 

(ここで止められようものなら大仁多の勢いは取り戻せない。もう負けられない。――大丈夫だ。いつもと、何ら変わりない!)

 

 先に大敗したばかりの、勝ち目の薄い戦い。されど挑む白瀧の闘志に濁りはない。勝機の小さい戦いなら今までも何度も挑んできたものなのだから。

 小林を中心に大仁多はパス回しを続け、中の光月に渡り――その時は来た。

 トップに立っていた小林が急に方向を変えて走り出す。逆サイドから走る白瀧と交差するように入れ替わり、光月からのパスが通った。

 

(来た!)

「こんなんで振りきれたと思ってるなら大間違いだよ?」

「わかっているさ。だから――」

 

 後から追いかけていた上に巨体な分、小林やそのマークについていた福井が障害であったはずなのに意にも介していないような紫原のそぶり。もはや細かい小細工では動揺さえしないだろう。

 

「――行くぞ」

 

 ゆえに、白瀧は一気に仕掛けた。

 純粋に自分の出せるスピードを発揮したクロスオーバー。常人ならば反応さえ難しい白瀧の切り返しに、紫原は見事に食らいつく。

 

「ッ」

「これで終わり?」

「いや、まだだ!」

 

 得意のスピードを封殺する。

 これでもう打てる手は限られるだろう。そう紫原が考えた直後だった。

 白瀧の上体が突如前上方に上がった。

 

(ティアドロップか!)

「知ってるよ!」

 

 まだゴールから遠い位置でのゴールに向かう跳躍となれば、得意技のティアドロップだろう。わかってしまえばなんてことはない。紫原は反射神経を活かしてすぐにジャンプして、シュートに触れることを意識し手を伸ばした。

 

「もらったぞ!」

「なっ!?」

 

 ――そんな紫原をかわすように、彼の足元をすべるように白瀧が駆け抜けた。右手に掲げたボールを胸元へ引き寄せるように体の上を通して回転し、紫原の横を過ぎた辺りで両手で掴みとる。

 

(何、これ。跳躍と呼ぶにはあまりにも低すぎる――!)

「ちぃっ!」

 

 空中で白瀧の動きに目を奪われていた紫原は、両足で着地した白瀧が劉のブロックをかわしてジャンプシュートを決める姿を見て、さらに驚愕する。

 

「そんな馬鹿な……」

 

 (大仁多)40対58(陽泉)。もう決めさせないと考えた直後の失点。紫原は納得できずに審判に詰めより抗議する。

 

「ッ。ちょっと、どこ見てるんだよ! 今の白ちん歩いてたじゃん!」

「いいや。歩いていないよ」

「ハアッ!?」

「落ち着け!」

 

 意見は通らず、得点が覆る事はなかった。審判に手を出しかねない形相の紫原を岡村が体をはって止める。

 受け入れられない。間違いなく白瀧はドリブルの後とんだはずなのだ。ダブルドリブルを取られるはずのプレイ。確かに跳躍にしては高さが低かったものの……

 

(待てよ。まさか、白ちんは本当に跳躍していなかったのか? あれはただの跳躍じゃなくて、ステップの一種か?)

 

 考えを巡らせて、紫原は早くも正解に辿り着いた。

 

「今のプレイは……」

「……まだ手を残していたのか」

 

 答えにたどり着いたのは彼だけではない。青峰や赤司、この試合を見守る好敵手たちも導き出していた。

 一度目の挑戦で紫原をかわせたという事実は大きい。これならばオフェンスを立て直すことは可能だろう。

 

「これが通用するならば、あるいはいけるかもしれない。だが……」

 

 しかし、ディフェンスで止めきることができなければ逆転することは難しい。そして今の大仁多では陽線のインサイドプレイを止めることは困難だった。

 赤司の予想は的中する。

 フリーとなっている劉を中心に、福井達はゴール下へとボールを集めた。かろうじて三浦が岡村のシュートをプレッシャーをかけて外させるも、その後が続かない。

 

「いつまでも、お前たちの希望通りにいくと、思うな!」

 

 紫原が光月、白瀧の二人のポジション争いに勝利し、リバウンドを確保。さらに連続で跳躍すると、二人のブロックをお構いなしにダンクシュートを決めて見せた。

 

「ぐあっ!」

「ッ」

「白瀧! 光月!」

 

(大仁多)40対60(陽泉)。紫原が得意のパワープレイで再び大仁多を突き放す。

 二人が揃って吹き飛ばされ、やはり同じ条件の戦いでは相手にならないという事実を突きつけられる。

 

「これ以上怪我しないうちに引っ込んだら? ゴール下(ここ)に白ちんの居場所なんてないんだよ」

「紫原!」

 

 痛みに表情をゆがませる白瀧に、紫原は淡々と告げて去っていく。

 

「ただでさえ陽線の方がインサイドは強いというのに、黒木が抜けて余計に差が広がっていく」

「白瀧が復活したとはいえ、リバウンドの奪取にはそれほど貢献できない。どこかで止めないと勝てないのに……!」

 

 力も高さも、紫原のほうが上。とてもではないがゴール下での勝負では勝ち目が薄すぎた。陽泉は今後もゴール下を中心にオフェンスを組み立てることが予想されるだけに、この展開は大仁多には苦しい展開となった。

 観客席、ベンチの選手たち。多くの者が焦りを募らせる。

 

「要……」

「大丈夫だ。まだ、手はある。心配するな」

 

 ただ、白瀧はまだ希望を捨ててはいない。光月が不安げに声をかけると、彼を勇気づけるようにそう答えた。

 

(勝つんだ! 俺が紫原に勝って希望を繋ぐ!)

 

 少しずつ感覚が強くなってきた右足の痛みを振り払うように、白瀧は心の中でつぶやいた。

 大仁多の攻撃。小林から山本のスクリーンプレイを仕掛けるものの、岡村のブロックに防がれ、光月がリバウンドを確保した。

 やはり陽泉のディフェンスは堅い。紫原のヘルプがなくても相当なものだ。

 一度三浦へ預け、再びトップの小林に戻すと……再び、白瀧にパスを供給する。

 

「通らせてもらうぞ、紫原!」

「させないし!」

 

 避けては通れぬ一対一。

 左右の揺さぶりでは突破できない。ロッカーステップで不意を突き、ゴールに迫るも紫原はまだついてくる。くわえて山本のマークについている宮崎も近く、突破は難しい状況となった。

 

(決めてやる! 負けてなるものか!)

 

 状況を理解して白瀧は再び先ほど同じ動きを繰り出した。

 

(来るか!)

「……ドライブの最中、ディフェンスを空中でかわしながらゴールに迫るステップ」

「『ギャロップステップ』。馬が走り抜ける姿を彷彿させることから、そう名付けられた技だ」

 

 敵味方が混在する密集地帯を、白瀧は潜り抜ける。右からは紫原が大きな手を掲げてブロックを狙い、左からは宮崎が隙を伺う中、ギャロップステップでその間をかわしていった。

 

「決まった! 突破した!」

(はじめのうちはどうしてもボディバランスが乱れ、身体が流れがちなステップだ。それをここまで!)

「行け! 白瀧――!?」

 

 勇作が、楠が、白瀧の新技の成功を確信して思わず声を張り上げた。

 また自分たちも気づかないところで成長していたライバルへの嫌気も抱かぬまま、ただ得点を決めろと叫んで――そして驚愕する。

 かわしたはずの紫原が、もう白瀧のブロックに跳んでいた。

 

「なっ!?」

「にぃっ!?」

(馬鹿な! いくら紫原の反射神経でも、ギャロップステップのタイミングでブロックしようとした状態では追いつけないはず!)

(まさか、二度目でもう白瀧の技を読み切っていた? さっきの跳躍ではほとんど跳んでいなかったというのか!)

 

 見たばかりの技であるというのに、紫原は完全に反応していた。しかもゴール下にいた岡村もブロックに跳び、長身の二人が白瀧のシュートを叩き落とそうと立ちはだかる。

 

「終わりだよ、白ちん!」

 

 絶望が迫る。

 

(――化け物め)

 

 白瀧でさえかつての味方に恐怖を覚えた。本音が思わず零れ落ちそうだった。

 この戦いの為にと励んでいた必殺の技を、紫原はたった一度見ただけで既に対応し、防ごうとしている。これだけの理不尽な力を示す敵をそれ以外に何と例えればよいのか。

 

「だが、悪いな紫原」

 

 しかし、それも全て承知の上。化け物でなければ、これくらいのことをしてこなければここまで励んできた意味がない。最終手段としてとっておいた意味はない。

 

「お前ならきっとそう来ると思っていたよ」

 

 白瀧はキセキの世代を過小評価などしていなかった。一度突破さえすれば得点が容易など、甘い考えは一切無い。

 ドリブルでは突破できない。新たなステップでも読みきられるだろう。ならばその次を模索し、追い求める。これが白瀧の強みである。技術を磨き、己のものとし、昇華させ、自身のプレイスタイルに適応させていく。

 

「この一本は取らせて貰う!」

「なっ!?」

 

 ボールを持っていた両腕を下げ、左手へ移す。

 動作を見て白瀧の意図を察したのか、紫原の表情から余裕が消えた。即座に空中で体を回転させ、右手をシュートコースの間に伸ばす。

 常人離れした反射神経とウイニングスパンを持つ紫原の必死のブロック。完璧な対応であった。それでも、彼をもってしても白瀧の放ったシュートに触れることはできなかった。

 

(そんなっ。まさか――!)

「ギャロップステップからの、ダブルクラッチ!」

(しかも、ループが高い!?)

 

 指先を転がすようにリリースされたシュートはスピンが加えられ、ほとんど直角に近い角度で上空へと放たれた。予想したシュートコースから外れたために紫原も止められない。

 選手達が驚愕する中、ボールが回転しながら高いループを描く。そしてバックボードに衝突すると軌道を変えてリングの中央に吸い込まれていった。

 

「やった……!」

「やりやがった!」

「白瀧、陽泉の長身包囲網を突破! これは大きい! 大きな得点だ!」

 

 (大仁多)42対60(陽泉)。

 勢いが衰えることはなく、大仁多が連続得点を記録。白瀧が次々と得点を重ねていった。

 

「長身二人のブロックをものともせずに」

「ギャロップステップだけではなかったんだ。そこから体勢を入れ替えて、フィンガーロールからのハイループレイアップ――いや」

「あれはヘリコプターシュートか」

 

 ボールをリリースする際、指の腹を転がすように放つフィンガーロール。これによりボールには回転がかかり、シュートコースやボードに当たった際に跳ね返る角度を調節する技術。ボールを制御する時間が長くなり、ディフェンスを見極めたうえでのショットが可能になるが、優れたハンドリング能力と体幹が必要となる。

 これに加えて白瀧は常のハイループレイアップシュートよりさらに放物線が高いヘリコプターシュートを打つことによって、己よりもずっと高いブロックを突破していた。

 

「練習で成功率は高くなかったって聞いていたのに、一発で……」

「あいつ、シュートの角度変えやがった」

「え?」

「多分、俺や光月より陽泉のブロックの方が高かったから、かわすためによりループを高くしたんだろ。ゴールに入る角度が90度に近くなるほど入りやすい」

 

 これは練習中、何度もこの戦いで使えるようにと仲間の力を借りて試み、そしてものにできなかったものだ。

 それを本番で最初の一発で決めた。

 本田や光月よりも紫原をはじめとした陽泉の選手たちの方が背は高い。そのため彼らをかわそうとより角度を厳しくした結果、よりループが高くなりゴールに入りやすくなったのだと、練習で何度も目にしてきた本田は変化を感じ取っていた。

 

「ただそうすると滞空時間が長くなるからずれも大きくなるし、もしリングに当たれば大きく跳ね返る危険性もあるはずだ。それを土壇場で調整するなんて……」

 

 決めやすく、しかし外れやすくもなったシュート。これを成功させることは難しい。だが練習よりも厳しくなった条件下で決めた。

 ふと本田は特訓の前に白瀧が語っていたことを思い出していた。

 

『“キセキの世代”は抜かれても一瞬で立て直し、俺を止めに来るだろう。どうしても二対一の形ができてしまう時がある』

『たとえ二対一でも勝てるように!』

 

 あの時は難しいと思っていた。彼の意志を感じ取ったために口をはさむことはできなかったものの、可能性は低いと考えていた。

 だからこそ目の前で不可能を可能にする姿はより鮮明に映ることとなった。

 

(地上戦で互角のキセキの世代を相手に空中で……)

「……そうか」

(ただ速いだけのドリブルではなく、相手の意表をつくステップなどの応用)

「――――」

「火神?」

「黒子君?」

 

 そして、彼のプレイに感化された人物は他にもいた。

 

「これだ」

「これなら」

 

 火神と黒子。先に大仁多に敗れた選手たちも、己の新たなバスケットスタイルを見出していた。




この作品では誠凛がIH出場⇒夏合宿を経ずに物語が進行したため、緑間との勝負により生まれた方針決定イベントがなかった。ゆえにまだこの段階ではまだ火神も黒子もWCに向けての意識が固まっていない状態でした。

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