ゲヘナクソ雑魚TSサキュバス   作:TSサキュバス流行れ

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覚醒

 

 

 

 儚いという言葉には夢という漢字が含まれているように、人はどれだけ思い出を閉じ込めようとしても、夢に見た光景の全てを覚えることはできません。

 

「んっ……」

 

 アビドスのうだるような暑さも鳴りを潜めてきた晩夏の朝。私はカーテン越しに差し込む陽の光によって、心地良く目覚めました。

 一人暮らし用の狭いワンルームの壁をぼうっと見つめていると、昨日見た夢がぼんやりと脳裏を巡ります。

 

「……リリス」

 

 その名を呟くと同時に、喪失感と寂しさが私の胸を締めました。

 逢瀬を重ねる中ようやっと留めることに成功した、友達なのか、恋人なのかよくわからない関係の相手。

 

 薄手の布団を外し、ベッドから起き上がる。

 すると、パジャマの下に履いたショーツが、染みによって濃くなっているのが見えました。

 

「……はぁ」

 

 リリスと夢で会った日は必ずこうなるんです。

 体に溜まった疲労や老廃物が全部抜けていくような、爽快感のある目覚めには、場違いな薄暗い欲情が必ず付いてきます。

 

 だから、週の初めは必ず()()をする必要があるのです。そうしないと、学校生活に支障をきたしてしまうので。

 布越しに滑りが良くなった股座に指を伸ばし、上下に広げてゆっくりと■る。

 

「……んっ♡」

 

 ピリッとした甘い感覚が背筋を走り、ついくぐもった声が出てしまう。

 壁に立てた枕に寄りかかりながら、様々な方法で刺激を与え続けていると、いつしかそのときがやってくるのです。

 

「っ……♡」

 

 弄りやすいよう開いた足を、つりそうになるくらいにピンと伸ばし、火傷してしまいそうなお腹の奥の熱に耐える。

 

「すーっ……はぁ♡ はぁ……」

 

 その後は、津波のように押し寄せた感覚の余韻を楽しむのが私の日課でした。

 夢を見た日は必ずと言っていいほど早起きするので、十数分ぐったりとしていても何ら問題はありません。

 

 脱力感が抜けた後は、汚れた体をシャワーで清めて学校に行きます。

 誰も居ない閑散としたアビドスの通学路を歩いていると、つい少し前まで楽しくリリスと喋っていたことを思い出し、その落差で気分が落ち込みます。

 

 だって仕方がないでしょう? 話したこと自体は覚えていますが、肝心のその内容についてはほとんど覚えていないのですから。

 また来週リリスと会えるという確証はどこにもない。覚えていない昨日の会話が、もしかしたら私たちの最後になるかもしれない。

 そう考えると、途方もなく苦しい気持ちになってしまうんです。

 

「おはようございますユメ先輩。今日は……」

 

 それを紛らわせてくれるのが、アビドス生徒会唯一の先輩である、ユメ先輩との会話でした。

 生徒会室の扉を挨拶をしますが、いつもは私より早く登校するはずのユメ先輩の姿は、どこにも見あたりません。

 

「珍しいですね。……ん?」

 

 そう呟いて荷物を置こうとしたとき、机の上に一つの置手紙があることに気が付きました。

 

「『お前らの生徒会長は預かった。返してほしければ金を持ってこい』……またですか」

 

 そのハガキ大の紙には、乱雑な文字で書きなぐるようにそう書かれていました。端的に言えば身代金の要求ですね。

 そして裏側には、待ち合わせ場所であろう町はずれの廃工場の場所が書かれています。

 

「チッ」

 

 いつもなら絶対に出ないであろう舌打ち。私は現状に焦燥感を抱いていたのかもしれません。

 リリスとの大切な思い出のほとんどが抜け落ち……復興の目途が全く見えないアビドスで、ユメ先輩とたった二人で戦い続ける。

 それはまるで、行く先の見えないトンネルの真ん中にいる様な、そんな状況を連想させました。先に行くにも光が見えず、戻ろうにもユメ先輩を見捨てることなんてできない。

 

 そんな四面楚歌な状況に、自身の知らぬ間にストレスを感じていたのかもしれません。

 

「……行きますか」

 

 愛銃のチャージングハンドルを乱雑に引き、弾倉からチャンバーにショットシェルを入れ込む。

 そして、私はユメ先輩の元へと向かうのでした。

 

 

 

 人質を取られている状況とはいえ、相手はただの金目当てのチンピラ。私が負ける訳がなく、ユメ先輩を救出することに成功しました。

 

「ひぃぃん! 怖かったよぉホシノちゃん!」

 

 涙を流しながら抱き着いて来る、相変わらず元気なユメ先輩を尻目に、私は隣に横たわるチンピラのリーダーに銃口を向けました。

 

「何でこんなことをしたんですか」

 

 そんな、分かりきった質問を投げかける。

 チンピラは仰向けに後ずさりながら、顔面を真っ青にして大声で叫ぶ。

 

「か、金が欲しかったんだ! アビドスの生徒会長を狙えば、大量の金が手に入るって!」

 

「馬鹿なんですか? アビドスが……私たちがどれだけ苦労してお金を工面しているか、知っててそれを言ってるんですか?」

 

「ホシノちゃん……?」

 

 隣で心配そうに私を見るユメ先輩の視線を、あえて気づかないふりをしながら、私はチンピラの耳を掠めるギリギリのところに弾を発射しました。

 

「ひっ!?」

 

「あなたたち、元々ここの生徒だったんでしょう? じゃないとこんな辺境にある工場を知っている訳がありませんから」

 

 口調こそ淡々としたものですが、追い詰めるように言葉を続けます

 

「アビドスを見捨てた挙句、身銭欲しさに生徒会長の誘拐ですか? アビドスの生徒という誇りはないんですか!」

 

 私が来るまでたった一人で、押し付けられた生徒会長の仕事を勤め続けたユメ先輩。

 その結果が、アビドスの生徒による身代金目的という現状に、私は沸き上がるような怒りを抑えられずにいました。

 

 再度鼻先に持ってきた銃口を押し付け、引き金を引こうとしたそのとき。

 

「良いの、ホシノちゃん。前も言ったでしょ? そうやって力で解決するのは駄目だって」

 

 グリップを握る私の手を、その上からユメ先輩が添わせるように握ってきました。

 

「ですが……!」

 

「この子たちも、きっとアビドスが復興したら戻って来てくれるよ。だから……」

 

 そう続けようとする前に、私は突き付けた銃口を逸らし、セーフティーを掛けました。

 

「ありがとうホシノちゃん!」

 

 そう言って再度抱き着いて来るユメ先輩。ですが、その言葉に感化されたわけではありませんでした。

 現状に苛立ちを感じていた私は、その言葉の続きを聞くことが出来なかったのです。

 

『戦って問題を解決しても、それは次の争いの火種になるだけ』

 

『何でも武力で解決するようになったら、いつか自分を見失っちゃうと思うの』

 

 間違いなく正論でした。普段失敗ばかりのユメ先輩の口から出たとは思えない、この世界の真理を突いた正しい言葉。

 しかし、正論というのは、時に人を追い詰める刃にもなるのです。

 

 私は行き場のない怒りを発散する手段ですら、ユメ先輩の正しい言葉に奪われた。

 ……そう、感じてしまったのです。

 

 帰り道、私はそれを悟られないように、話しかけてくるユメ先輩の言葉を返すことに必死でした。

 しかし普段からあまり愛想が良くないのが幸いしたのか、彼女が私の様子に気が付くことはありませんでした。

 

「ひぃん……朝から大変な一日だったね」

 

 生徒会室のソファに身を預け、額の汗を袖で拭うユメ先輩。

 

「朝から誘拐された先輩を助けに行く方が大変ですよ」

 

「ふふっ。ありがと、ホシノちゃん」

 

 私の嫌味にも、笑顔を崩さず返してきました。

 ユメ先輩だって大変だろうに、一切周りに当たり散らすことはありません。そんな彼女を見て、私は八つ当たりをしてしまった自己嫌悪の渦に飲み込まれます。

 

「あ、そうだ! 私ねっ、ホシノちゃんに見せたいものがあったんだ!」

 

 そんな私を元気づけるかのように、ユメ先輩は一枚の紙を鞄から取り出します。

 

「アビドス砂祭りのポスター! やっと手に入れたの!」

 

 丁寧に折りたたまれた紙を広げると、『第177回アビドス砂祭り』という文字が見えてきました。

 

「この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」

 

 昔を懐かしむように、穏やかな口調で呟いています。その言葉と共に蘇るのは、幼かった頃の微かな記憶。

 私がそれをぼうっと見つめている事に気が付くと、ユメ先輩はポスターを私に手渡してきました。

 

「えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何か()()が起きたら、またこの頃みたいに人がたくさん集まって────」

 

 そのときの私は、何もかもに憤りを感じていました。

 アビドスの状況……息つく暇もなくやってくる砂嵐に、止まらない砂漠化。

 無気力な市民、無責任な生徒、無能な前生徒会。

 自分の利益だけを考えて、悪事を働く大人。

 

 そして、毎日毎日失敗ばかりの先輩と……

 理想だけは一丁前で、何も解決できない無力な自分。

 そんな現状に、ただただ怒りに身を任せるしかありませんでした。だから……

 

 

 

「────奇跡なんて起きっこないですよ、先輩」

 

 

 

 そんな、最低なことを言ってしまったんです。

 

 

 

「そんなもの、あるわけないじゃないですか。それよりも現実を見てください!」

 

 一度口火を切ってしまえば、あとはただ燃え広がるのみ。

 私は自分のことを棚に上げて、ただ単に己の感情のまま大声で叫びました。

 

「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!? 夢物語もいい加減にしてください!」

 

「うえぇ、だってホシノちゃん……ご、ごめんね?」

 

「……っ。そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……」

 

 これだけの理不尽な感情をぶつけられても尚、怒ることなくこちらを慮るユメ先輩。

 

「もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」

 

 それを見て、もはや私はなにに怒っているのかすら、分からなくなってしまいました。

 

「もう付き合ってられません! 生徒会は終わりです!」

 

 気がつけば私は、渡されたポスターを引き破っていました。

 たった二人で活動するには広すぎる生徒会室に、ビリビリと紙を破く音が響き渡ります。

 

 ふと我に返って前を見ると、ユメ先輩は涙をこらえながら不器用な笑顔をこちらに向けていました。

 そして足元には、無残にも破られて散ったポスターの残骸たち。

 私は何故か、その残骸が私たちの関係の終わりを表しているように感じてしまったのです。

 

「先輩なんて知りません!」

 

 生徒会室を飛び出し、廊下を走る。

 歯を食いしばって廊下を駆け抜けていく私は、まるで何かから逃げるようにも見えました。

 

 

 

 そして、それから数時間の間、私はあてもなくアビドスの寂れた街を歩き回っていました。

 パトロールという名目で気を紛らわせようとしましたが、こういう日に限って悪さをしている人は見当たりません。

 

 厚い雲がかかって薄暗くなった昼過ぎの街並みは、まるで私の心模様を表しているかのようでした。

 

「……謝ろう」

 

 ですが、その静けさがかえって私を冷静にさせてくれました。

 ユメ先輩にごめんなさいって言って、一緒にポスターを直して、そしてまたいつも通り二人で過ごそう。

 そう考えて、私は再び生徒会室に戻りました。

 

「戻りましたよユメ先輩……次から気をつけてくれればいいですから。それより……」

 

 謝ると言ったのは何処に行ったのか、そんな強がりと共に扉を開けますが、ユメ先輩の姿は見当たりません。

 また誘拐されたのか。なんて考えもよぎりましたが、いつも使っている盾が見当たらないことを考えると、どこかに出かけたのでしょう。

 

「別に、待っててくれても良かったのに」

 

 自分から出て行って何を言っているんだとも思いましたが、そんな呟きを止めることはできませんでした。

 まあ、どうせすぐ帰ってくるでしょう。そう予想して待っていようと思ったそのとき、机の上に一枚の紙切れがあることに気が付きました。

 

「こんなメモ、あったかな」

 

 見慣れない場所に置かれていたメモを手に取ると、そこには『いつもありがとうホシノちゃん、お元気でね』という文字が記されていました。

 

「……ユメ先輩?」

 

 まるで今生の別れの前に言うような不穏な置手紙に、私は思わずその名前を呼んでしまいました。

 

『今、生徒会室に戻りました。どこに居ますか?』

『……さっきはすみませんでした。私も言い過ぎましたね』

『生徒会を抜けるつもりも、終わらせるつもりももうありません』

 

 まとまらない言葉を何とか文にし、モモトークを送ります。

 メッセージを見たらすぐ連絡を返してくれるユメ先輩ですが、待てども待てども既読すら付きません。

 

『……返事待ってます。直接謝りたいので、用事が終わったらでいいので、生徒会室まで来れますか?』

『下校の時間まで、ここで待ってます』

 

 そんな、やったことすらない追加のメッセージを送ってしまうほど、今の私は焦っていました。

 だって、この時間になっても帰ってこないことなんて、今まで一度もなかったんですから。

 そして、私の予想は最悪な形で当たってしまうのです。

 

 

 

 

 

「ユメ先輩、どこに行ったんですか?」

 

 結局、夜まで待っても、ユメ先輩が生徒会室に戻ってくることはありませんでした。

 二人でも広すぎる生徒会室に、たった一人だなんて寂しすぎます。

 

「……でも、私が来るまで、ユメ先輩はずっと一人ぼっちだったんですよね」

 

 そう呟くと、私が言い放った言葉の、罪の重さを再認識させられます。

 ソファの上、寒くなってきた夜の空気に耐えるため、ブランケットで体を包みます。すると、日中の疲れもあってか、私の意識はすぐに奥深くへと沈み込んでいきました。

 

 寂しさの中でまどろんでいたそのとき、ポケットに入れたスマートフォンが、振動と共に通知を知らせてきました。

 

「っ!」

 

 画面に書かれていたのはユメ先輩の名前。それは、不在着信のメッセージでした。

 

『ごめんね、ホシノちゃん。電波がうまく────』

 

 何故電話じゃないのかと思いながらメッセージを開くと、初めに聞こえてきたのはけたたましいノイズと風の音。

 

『砂漠に居たら────砂嵐に──』

 

「そんな……」

 

 脳の片隅に浮かんでいた最悪の可能性が、その言葉と共に強く連想させられました。

 電話ではなくメッセージを残したのは、録音したときに電波の届かない状況だったということ。

 

()()()()()()()()()()()()。メモも残したけど、ここでも送るね』

 

 そしてこの時間まで戻ってこないということは、砂漠から抜け出す手段を持っていないということ。

 

「嫌っ……」

 

『私の手帳は、あそこにあるから……ホシノちゃんもよく知ってる────』

 

 最後の言葉を待たずして、私は武器を持って生徒会室を飛び出しました。

 月明りを頼りに、心当たりのある場所を巡って走りますが、どこに行ってもその姿は見当たりません。

 

「ユメ先輩!」

 

 吹き積もった砂に何度も転びそうになりながら、痛む足に鞭を打って走り続けます。

 アビドスの静かな夜の砂漠に、私の荒い呼吸音が響く。

 

 ────結局、限界が来たのは十時間ほど走り回った後。地平線の奥の方に、薄っすらと陽の光が見え始めた頃でした。

 

「はぁ、はぁ……っ!」

 

 私がどれほど全力で走り回っても、アビドスの広すぎる砂漠の前では無に等しい。そんなことは分かっていました。

 

「ごほっ、げほっ」

 

 転んだ際に口に砂が入ってしまい、じゃりじゃりとした気持ち悪い感覚に咳がでてくる。

 立ち上がろうと両手に力を籠めるも、百何十キロも走った私の足は、既に悲鳴を上げていました。

 

「ひっ……うぅ」

 

 砂漠で遭難した人が生きられる時間は数日。それまでに、私は日々砂嵐によって地形すら変わってしまうアビドスの砂漠から、ユメ先輩を見つけなければいけませんでした。

 体の痛みと無力感から、とめどなく涙が溢れてきます。

 

「私だ……私のせいだ……」

 

 その感情は次第に絶望と自責の念へと変わっていき、私の心を外側から蝕んでいきました。

 手に持った砂を握り締め、しゃくり上げる事しか出来ない現実。

 そしてその現実は、私の八つ当たりによって発生させられた。分かってはいても、涙を止めることはできませんでした。

 

「……誰か! ユメ先輩を、ユメ先輩を……!」

 

 もはや誰に言っているかも分からない、そんな言葉。

 藁にもすがる気持ちで祈り続けても、状況が良くなることは決してありません。

 

「ひっぐ、うっ……うあああぁぁあああ!」

 

 いつしか私は、砂漠の真ん中で、泣き疲れて眠ってしまっていました。

 

 

 

 

 

 

 

「────あれ? ホシノちゃん?」

 

 次に意識を取り戻したときに見えたのは、私の顔を覗き込むリリスの顔でした。

 

「っ! リリス! ユメ先輩が……ユメ先輩が!」

 

 昨日会ったばかりなのにどうしてなんて、そんなことを考える暇もなく、私は目の前の小さな友人に泣きついていました。

 

「ど、どうしたの? 何があったの?」

 

 狼狽えながらも話を聞こうと部屋を変えるリリス。

 いつもの見慣れたダイニングルームへと変貌した部屋、その真ん中で、私はしゃくり上げる声を何とか抑えながらリリスに状況を説明しました。

 

「そんな……じゃあ今、ユメ先輩は砂漠で……」

 

「私が、わたしのせいで……っ!」

 

 友人の前でも心が落ち着くことはなく、むしろ自責の念は深まるばかり。

 そんな私を正面から抱きながら、リリスはこちらの肩を掴んで顔を見つめてきました。

 

「……ホシノちゃん。聞いて」

 

「ひっぐ……ひっ……うぇ?」

 

 涙を袖で拭う私の目を見つめるリリス。

 私の意識がそちらに向かうのを待った後、驚きの言葉を口にしました。

 

「私なら、きっとユメ先輩を助けられると思う」

 

「へっ……?」

 

「でもそれには、ホシノちゃんの(神秘)が必要なの」

 

 そんな、苦しみの中に垂らされた一本の糸。

 そもそも現実に居るかすらも分かっていない、小さな友人が垂らす、希望という名の細い糸。

 

「……何を、すればいいんですか」

 

 私は、迷うことなくしがみつくことを決めました。

 それを見たリリスも、覚悟を決めたように唾を飲み、はっきりとした意志の籠った瞳でこちらを見つめてきました。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 夜風が体を打ち付ける涼しさで意識を取り戻す。気がつけば一人、冷たい砂の上にうつ伏せに倒れていました。

 まだまだ陽が上っていない様子を見ると、眠っていた時間はそれほど長くはないようです。

 

 ズキズキと痛む後頭部を抑えながら立ち上がる。脳裏に浮かぶのは、夢幻の中で友人から求められ、求めた記憶。

 

「……何してるんだか。こんな状況で」

 

 現実に希望を見いだせなかった私の、現実逃避ともいえる心地の良い夢でした。

 もしかすると、今まで見ていた夢も全て、誰かとの思い出ではなく、私の幻ではないのか。

 そう思うと、色々と辻褄が会う気がしました。

 

「ありがとうございます」

 

 だとしても、折れかけていた心が立ち直ったのは事実。

 泡沫の中で辛うじて残っている、美しい記憶を噛みしめながら立ち上がる。

 不思議と、足に溜まっていた疲労も抜け落ちていました。

 

「……ん?」

 

 そのとき、紫がかったアビドスの明け方の空に、一筋の光が走っていることに気が付きました。

 流れ星かとも思いましたが……よく見れば、その輝きは時間と共に段々と強くなっているようにも見えます。

 

「いや、あれは……」

 

 強くなっているのではなく、こちらに向かってきている……? 

 そう考える間もなく光は、その輪郭が見えるようになる程こちらに近づいていました。

 

 人の形に型取られた、紫とピンクが混ざったような淡い閃光。

 その中心には、悪魔のような羽と尻尾を生やした、小さな少女の姿が……え? 

 

()()()?」

 

 当たり前のように宙に浮かぶその影は私の斜め上で停止し、ゆっくりと、ある意味神秘的ともいえる光を放ちながら地上へ降り立ちます。

 

「遅れてごめん。ホシノちゃん」

 

 薄っすらと残る記憶よりもその姿は大きく、私と同程度の身長まで伸びていますが、それは確かにリリスの面影を残していました。

 

「なんで……夢じゃなかったんですか……?」

 

 私の言葉に無言でほほ笑んだ後、リリスは再度宙へ浮かび上がります。

 

「もう大丈夫だよ……すぐに、見つけてあげるから」

 

「なっ、体が……!」

 

 リリスの体は、手のひらサイズの数百羽の蝙蝠に分かれていく。

 そして、統制の取れた動きで左右に動き回った後、アビドスの砂漠全体に広がっていきました。

 

 

 





 R18:https://syosetu.org/novel/355317/
 気が向いたらカットした内容書きたいと思います。
『夢の中の』初めてはホシノに捧げました。

 高評価お気に入りよろしくお願いします。
 全部に返すのは難しいですが、来た感想は全て楽しく読ませてもらってます。執筆する上でのモチベーションです。ありがとうございます。
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