ゲヘナクソ雑魚TSサキュバス   作:TSサキュバス流行れ

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 遅れました。

 ヒナちゃんが空気になっているとの感想が見受けられました。
 私もそう思います。…エデン条約編でいっぱい出てくるから許して…


奇跡

 

 

 

 薄明るくなったアビドスの空を、私の分身たちが支配する。

 自分という意識の境界が緩くなり、水桶に落ちたインクのように広がっていく不思議な感覚。

 ぶっつけ本番でやった魔法だったが、ひとまずは成功したと言っていいだろう。

 

 蝙蝠に分身するなんて、どっちかというと淫魔というよりは吸血鬼な気がするけど……お父さん的には元をたどれば同じ種族らしい。

 お父さんの血を引く私なら、神秘さえあれば同族の魔法は全て使えるんだとか。

 流石地球ともキヴォトスとも違う星から来た悪魔だ。スケールがデカすぎる。

 

 ……さて、どこから探そうかな

 

 いくら1000匹近い分身がいるとはいえ、相手は砂嵐によって目まぐるしく地形が変わる広大な砂漠。探索する範囲は絞った方がいい。

 

「────、──」

 

 そこで私は、呆然と飛んでいく分身を見上げていたホシノちゃんに話しかけ……ようとしたのだが、この姿で発声できるはずもなく、不快な高音の鳴き声が出てきた。

 ……仕方ない。何体か戻して体を維持するしかないか

 

「っ!? は、はい」

 

 ギリギリ体を維持できる程度……100匹程の分身を集め、人型に体を再構築する。

 身長100センチメートル程度……4,5歳程度の懐かしい体で、ホシノちゃんに話しかけた。

 

「ごめんねこんな姿で。ユメちゃんが出て行った時間って、どのくらい前か分かる?」

 

 小さな子供が流暢に言葉を発している絵面は中々気味が悪いが、そんな悠長なことを言っている暇は無い。

 

「私が出て行ったのは九時頃です! なのでもう、20時間ほどは経っているかもしれません……っ」

 

 それはホシノちゃんも理解しているようで、苦し気な表情をしながらも端的に説明してくれた。

 私本体は、伝令役としてホシノちゃんの元に居た方が良いだろう。……その他にも()()()()()があるからね。

 

「ユメ先輩は徒歩で移動していたはずです! アビドス生徒会には、車なんて高い物を持つ余裕はなかったので……」

 

 なるほど。なら大幅に範囲を絞れる。

 ……アビドスの財政難にこれほど感謝するのは、後にも先にもこれが初めてだろうな。

 

 捜索範囲をアビドス校舎から半径100キロメートルに絞り、その中を飛ぶ分身一体一体に意識を集中させる。

 神秘によって基礎能力を底上げした私の分身なら、この範囲であれば数時間で調べ尽くすことが出来るはずだ。

 

「……よし。これで何とかなるはず」

 

 さらに、分身の一体をD.U.にある両親の家まで飛ばしている。

 電話にも出ず夢でお母さんとよろしくやっているであろう、お父さんにも助けてもらうつもりだ。

 いつも働かずにぐうたらしてるんだから、こういうときくらいは役に立ってもらわないと困る。

 

「戻ろうホシノちゃん。アビドスまで案内してもらえる?」

 

「……分かりました」

 

 ホシノちゃんの後ろを飛んでついて行く形で学校に戻る。飛行によって神秘を消耗するが、歩くには歩幅が小さすぎるため仕方ない。

 それに、後から補充だってできるからね。

 

 

 

 そして校舎へと戻った私とホシノちゃん。何気にアビドスの校門をくぐるのは初めてだ。

 生徒会室に入り、その奥のソファに腰掛ける。

 そんな私の視界の端にはどこか気まずそうに、チラチラとこちらを見つめてくるホシノちゃん。

 

「ホシノちゃん?」

 

「うへっ!? な、何ですか?」

 

 声をかけると、ホシノちゃんは驚いたように大きく肩を震えさせた。

 

「いや、どうしたのかなって思って」

 

 見落としが無いよう集中する必要があるのだが、そんなにチラチラ見られては気が散ってしまう。

 何か言っていない情報があるのなら遠慮せず言って欲しいんだけど……

 

「……本当に、居たんですね。リリスって」

 

 今更そこ疑ってたとは驚きだ。夢の中で何度も会ってたじゃん。

 

「私、全然覚えてなくて……今までの思い出も、全部幻なんじゃないかって……っ」

 

 そう言うとともに、ポロポロと大粒の涙を流すホシノちゃん。

 

「それで、怖くなって……ユメ先輩に当たり散らして」

 

 この短時間で感情をぐしゃぐしゃにされ、その行き場が分からなくなったのだろう。

 

「ごめんなさいっ。私の、私のせいでこんな……」

 

 そこにはアビドスの生徒として、戦い続けた気高き生徒会副会長の姿はない。

 ただ、見た目相応に泣き腫らす少女の姿があった。

 

「……ホシノちゃん」

 

 そんなホシノちゃんの元へ歩き、膝の上に手を沿える。

 ソファに上るだけでも精一杯の今の私には、こうしてあげる事しかできなかった。

 

「ごめんね。ずっと、私が不安にさせてたんだね」

 

 私が現実でホシノちゃんと会おうとしなかったのは、現実で会って彼女に拒絶されたくなかったからだ。

 夢の中で既視感を感じていた人間が、突然現れて私はあなたの友人ですと言ってきたら、嬉しさより不気味だと思って。

 

 アビドスでの活動や、その散々たる結果はホシノちゃんの話でよく聞いている。

 もし現実で会って、その惨状を目の当たりにしても……私は彼女を助けてあげることはできないのだ。何故なら、私はゲヘナでの暮らしを捨てることが出来ないから。

 

 ホシノちゃんやユメ先輩が生徒会活動に奔放する中、私は悠々自適にゲヘナで暮らし、たまに夢の中でホシノちゃんの愚痴を聞くだけ。

 いくらそこで耳障りの良いことを言ったとしても、私は本当の意味で彼女に協力することは出来ない。

 だから、私はあえてホシノちゃんと現実で会おうとしなかったのだ。

 

 そして、その結果がこのざまだ。

 大切な友人……前世を含めたら一回り以上年下の子供の神秘をエサにして、あまつさえ泣き出すほど不安にさせたのだ。

 ……最低だよ私は。自分から見える都合のいい景色を真実だと思い込み、その裏にある現実を見ようとしなかったのだから。

 

「でも、もうそんな思いはさせないから」

 

 だから、これからの人生をかけて、その罪を償わせてほしい。

 今更何をと思うかもしれないが、どんな理由があれ、私たちはこうして直接触れ合っているのだから。

 

「リリス……」

 

 目を真っ赤に腫らしながら、私の手に自分の手を重ねるホシノちゃん。

 

「でも、今はユメちゃんを救うのが先。そうでしょう?」

 

 その第一歩として、ユメちゃんを無事に連れ戻すこと。

 これだけは、何を犠牲にしても成し遂げなければならない最優先事項だ。

 

「! はい!」

 

 袖で涙を拭い、赤くなりながらも決意の籠った目を向けて来るホシノちゃん。

 そこには、先ほどまでの迷いや絶望は一切見られなかった。

 

 ソファに上がり、ホシノちゃんの隣に腰を下ろす。そのまま体を捩って近づけ、左手を開いて差し出した。

 

「ホシノちゃん。お願い」

 

「分かりました」

 

 その言葉が何を意味しているのか、ホシノちゃんはこの半年間で理解してくれていた。

 いつもより大きく感じるホシノちゃんの手、その人差し指を手のひらで握り込む。

 

 夢の中と似たような温かい感覚が、私の体を基点に分身全体に広がっていく。

 すると、消耗していた神秘たちが、瞬く間に回復していった。

 

「ありがと。こっちでも、すっごく美味しいよ」

 

 初めて使う魔法で、友達の大切な人の命を預かっているという、この現状。

 そんな重圧も、この暖かい感覚によってどんどんと小さくなっていった。

 

 

 

 

 

 そして、捜索を開始してから3時間ほどが経過した。外はすっかり明るくなっており、段々と気温が上がってくる頃合い。

 必ず見つけ出すと啖呵を切ったはいいものの、私の中には確かに焦りが生まれつつあった。

 

「……ユメ、先輩……」

 

 隣には、苦し気に眉をひそめながら、うわごとの様に名前を呼ぶホシノちゃんの姿があった。

 その目は閉じられているが、何もこの緊急事態に居眠りをしたわけではない。私がつないだ手からこっそり魔法をかけて眠らせたのだ。

 

 もちろん本人は眠る気など更々無かっただろうが、目の下を隈で真っ黒にされたらかえってこっちが気を使ってしまう。

 勝手に眠らせたことは後で謝るとして、私はホシノちゃんの指を握りながら分身を飛ばしていた。

 

「大丈夫……絶対に見つかるから」

 

 そんな、誰に言ったのかも分からない呟きが、自然と口から流れ出る。

 ……私も大概参ってるのかもしれないな。

 

 そして、吹き付ける砂嵐を抜け、酷く高低差のある砂丘へと出たとき、

 分身の一体が、砂漠にうつ伏せで倒れる人の影を発見した。

 

「見つけた!」

 

 思わず大声で叫んでしまい、隣で眠るホシノちゃんの体が大きく揺れる。

 

「っ! ごめんなさいっ、私、いつの間に……!」

 

 緑髪のロングヘア、足に貼ってある数枚の絆創膏、馬鹿みたいにデカい胸。

 うん。ホシノちゃんが言ってた特徴と一致する。間違いないだろう。

 

「そんなことどうでもいいから! 北北西に80キロ、ユメちゃんが倒れてる!」

 

 事前に用意したスポーツドリンクと軽い食料を詰め込んだ、リュックサックを背負って窓を開ける。

 この三時間で神秘の補充は十分。分身たちも全速力で向かっている。

 

「ほ、本当ですか! 早く行きましょう!」

 

「うん! 私は先に分身と一緒に向かうから! 一匹だけ案内に置いていくから、それについて来て!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ……よし。見たところ怪我はなさそうだね。だが栄養失調と脱水症状によって、体に宿った神秘が極端に少なくなっている

 日が出てからまだそれほど時間も経ってないし、陽が短くなっていてこれだ。

 もし真夏だったら、すでに手遅れになっていたかもしれない。

 

「待ってて……今挨拶しに行くから!」

 

 そう言って、私は窓から飛び降りて翼を広げた。

 空を切って向かって行く最中も着々と目的地に集まりつつある分身たち。その数は約50。

 それらを倒れたユメちゃんの下に潜り込ませ、負荷を分散させて持ち上げる。

 

 しかし、流石にその程度の数で人の体を持ち上げることはできない。分身の更なる到着を待つしかないだろう。

 もどかしくなる気持ちを抑えながら、私は全速力で青い空を駆け抜けていく。この姿なら30分程で到着するだろう。

 途中捜索していた分身たちと合流しながら、私はユメちゃんの元へと加速するのであった。

 

 

 

 そして、本体を含む分身500体分の私が、ユメちゃんの元へと到着した。

 

「ユメちゃん!」

 

 砂漠にうつ伏せに倒れるユメちゃんの元へと向かい、膝を突いてその頭を抱えて抱く。

 

「ん……っ」

 

 返事はおろか、所々痙攣までおこしている。間違いなく重度の脱水症状を患っていた。

 身長120センチ程度まで成長した体を再び分解。降り注ぐ陽の光をドーム状に展開した分身で遮りながら、ユメちゃんの口に経口補水液を注ぎ込む。

 

「駄目か……」

 

 しかし、意識が朦朧とした状態で水分補給なんてできる訳もなく、苦しげな咳と共に吐き出されてしまった。

 そんなとき、私は視界の端で不安げに動き回る自身の尻尾に目を向けた。

 

 ……やったことないけど、きっとできるはず。

 

「ごめんね……!」

 

 長袖のワイシャツとネクタイを脱がせ、下着に包まれた大きな胸を露出させる。

 なるべく細い針を脳内でイメージし、尻尾の先を注射器の針のような形に変える。

 

「……よし」

 

 淫気の制御を練習するとき、自分を慰める時に形を変えていたのが功を奏したのだろう。思っていたよりもスムーズにできた。

 それをユメちゃんの腕へとゆっくり差し込む。その状態で尻尾を固定し、持ってきたペットボトルを飲み干した。

 口から入って来た水分と電解質、そして足りなくなった神秘を、尻尾を経由してユメちゃんの体に流し込む。

 

 そう。重度脱水症状患者の治療法である、点滴による電解質の輸液を行っていた。

 私の体液を与えているため、どちらかというと輸血の方が正しい気もするが、そんなことはどうだっていい。

 こっちが脱水症状になっては意味がないため、更にもう一本経口補水液を飲み干す。

 

「んっ……ひぃ」

 

 苦し気なユメちゃんの声を聞きながら、ショック症状が起こらないようゆっくりと注入していく。

 流し込んだ量に比例して体内の神秘が増えていき、脱水で失われた水分も幾分か戻ってきた。

 そして、30分程飲んでは流しを繰り返すと、苦し気な寝息を繰り返していたユメちゃんも穏やかな寝息を立て始める。

 

「ふぅ……」

 

 魔法を維持するため神秘はそれほど送れていないが、少なくとも危ない状態からは立ち直ったと言っていいだろう。血管を傷つけないよう尻尾を抜き、額の汗を拭う。

 私の体で運ぶのは大変なため、再度本体を除いた数百体でユメちゃんの体を包み込む。もちろん、陽の光は遮ったままだ。

 

 バランスを崩さないようゆっくりと持ち上げ、空中で静止させる。

 そして、そのまま動き出した分身たちに並走する形で、私もその横を飛んでいく。

 少しすると運悪く砂嵐に当たってしまったのか、辺り一面が砂に包まれ、風の吹く音が耳に響く。

 

 まあ、全身を私の分身で覆っているユメちゃんには何ら影響はない。

 ホシノちゃんの所に置いてきた分身の方向に向かえばいいだろうし、迷うことはないはずだ。

 

 そう思っていた、まさにそのとき────

 

 

 

 

 

「!? きゃっ!」

 

 

 

 

 

 ────目の前を飛ぶユメちゃんと私の分身たちが、凄まじい轟音と共に、飛んで来た光線によって焼き払われた。

 

 

 

 

 

「な、何が……」

 

 起こったのか……そう言おうとした私の耳をつんざくような、おぞましい大きな鳴き声が聞こえて来る。

 視界を覆う砂嵐が突如として鳴りを潜める。その奥にある光景を見て、私は思わず言葉を詰まらせた。

 

『────、────!!!』

 

 私の目の前で、大蛇と鯨が混ざったような、異形の化け物がこちらを見下ろしていた。

 顔だけでも私を縦に数人並べたサイズをしており、その奥に見える胴体の終わりが見えることはない。

 

 その特徴、名前はホシノちゃんから聞いている。

 アビドスの砂漠を根城とした、機械仕掛けの化け物。

 

()()()……!」

 

 私の言葉に応じるかのように口を開き、口腔内の砲門を赤熱させるビナー。

 遠くからでも感じる凄まじいエネルギーに身構えるが、それが私に向くことはない。

 その光は、奥で倒れるユメちゃんに向かっていった。

 

「ユメちゃん!」

 

 生き残った百体ほどの分身を壁のように展開し、気絶するユメちゃんを攻撃から守る。

 辛うじて攻撃を防ぐことに成功したが、それによって私の分身は全て蒸発してしまった。

 

 その場に残ったのは、最小限の分身によってギリギリ体を構築している私と、未だ意識が戻る様子はないユメちゃん。

 ユメちゃんに送ったことにより、私の神秘のすっからかん。

 体だって、愛銃を持つ事すらままならない小さなままだ。

 

「そんな……」

 

 ここまで来たのに。やっと、助けられると思っていたのに。

 そんな嘆きの言葉を叫ぶ暇もなく、ビナーは再度口を開く。今度は背中から発したミサイルと共に光線を発射した。

 

 辺り一面に降り注ぐミサイルの雨。そんな状況で、私は横たわるユメちゃんの上に覆いかぶさった。

 

「ぐっ……! あ゛ああぁぁあ!」

 

 舞い上がった砂で視界が閉ざされる中、眩しい光と共に背中と羽に凄まじい熱が押し寄せる。

 そのあまりの痛みに、私はただ叫ぶことしかできなかった。

 

「っぐ……ひっ、うえ……」

 

 焼け爛れてボロボロになった翼を端に、視界は流れ出る涙で滲んでいく。

 前世を含めても経験したことのない激痛に、私の心は半ば折れかけていた。

 

 ……ああ。これが、私に与えられた天罰なのだろう。

 前世で母親を一人残して死に、転生した先で恵まれた環境で、悠々自適に暮らしてきた私への罰。

 

 友だちや、親に対しても『俺には前世の記憶があるから』と、どこか俯瞰した目を向けて、正面から向き合って来なかった私への罰。小さな女の子というロールプレイを、能天気に楽しんでいた私への……

 そうさ。()()大人しく死んでいれば、本来の夜伽リリスが俺に乗っ取られることはなく、ホシノちゃんも苦しまずに済んだのかもしれない。

 

 そんなのはただの可能性の話。だが、そう考えるとどこか腑に落ちる気がしたのだ。

 

「……そっか」

 

 重度の火傷を負ったのだろうか。感覚がなくなってしまった尻尾と翼を横目に、私はゆっくりと立ち上がる。

 全身を突き刺すような地獄の痛みも、そこまで苦にはならなかった。

 

「……ごめん。ホシノちゃん」

 

 ホルスターから愛銃を抜き、震える手でビナーへと向ける。

 

『ッ────!!!』

 

 敵意を感じ取ったのか、こちらにおぞましい顔を向けて叫び声を上げる。

 全身を震わせる大きな音に交じってはいたが、確かに私の足は恐怖で震えていた。

 

 それも仕方のない話。私はここで、初めて自分の死というものを自覚したのだから。

 意図的に封印していた、前世での()()()()が鮮明に蘇ってくる。生暖かい血が流れるのを感じながら、それでも寒くなっていく体と、朦朧としていく意識。

 

 ガラスを踏みつけたような音が、どこからか聞こえてきた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな、根拠のない何かを感じ取りながらも、私は両手で銃を構えた。

 

「私が死んじゃっても、ユメちゃんと楽しく過ごしてね」

 

 そこに、私が居ないというのは……少しだけ寂しいけど。

 

「……あーあ。ヒナちゃんとの約束。初めて破っちゃうなぁ」

 

 思い起こされるのは、キヴォトスで過ごした美しい記憶の数々。

 それらの思い出たちが、私の力になってくれたのだろうか。

 すっからかんになったはずの神秘が、どこからともなく私の愛銃へと注ぎ込まれていく。

 

『!? ────!!』

 

 それを見て何を感じたのか、ビナーは先ほどまでとは比べ物にならない程の神秘を貯め込んだ。

 

 いいね。一発勝負と行こうじゃないか。

 私のありったけを込めたロマン砲を、あなたのそのカッコいいお口にぶち込んであげる。

 

「ありがとうみんな。私、すっごく楽しかったよ」

 

 そして、それが放たれようとしたその瞬間────

 

 

 

 

 

 眩しいほどに地面を照り付けていた陽の光が、空に張り巡らされた昏い帳によって遮られた。

 

 

 

 

 

「────おい。クソ野郎」

 

 そんなあり得ない現象と、突然聞こえて来た聞き馴染みのある声に驚く間もなく、

 

「俺の大事な愛娘に、なに唾つけてんだ?」

 

 ビナーの頭部は、空から襲来した紫色の光によって、その全てが飲み込まれた。

 

「お父、さん?」

 

 記憶よりも大きい、おどろおどろしい悪魔の翼をはためかせ、ゆっくりと地面に降りて来る。

 いつかの、初めて夢で会った時のような荘厳な服を身に纏っているが、その顔は安心するお父さんそのものだった。

 

「俺は誇らしいぞ。お前も、一流の淫魔になったみたいだな。それも……」

 

 その後ろには、何故か軍が使っているような四駆の自動車で砂を巻き上げるホシノちゃんの姿があった。

 

「無事ですかリリス! ……こんなに怪我して……」

 

 ボロボロになった私とユメちゃんを抱き上げ、車の後ろに乗せるホシノちゃん。

 

「こんな上玉で卒業とはな。さすがお父さんの娘だ」

 

 私の頭を撫でながら、消し飛ばしたビナーに目を向けるお父さん。

 煙が晴れた先にいたのは、所々装甲を剥がしつつも、未だ原形を保っているビナーの姿が。

 

「……やっぱ鈍ったよなぁ。まあいい。嬢ちゃん、娘を頼んだぞ」

 

「分かりました! ほら、手当しますよ!」

 

「ま、待ってよ! 一人じゃ危ないって!」

 

 そう叫ぶ私を後目に、無言でビナーの方を向くお父さん。

 

「まあ、見てろ」

 

 飛んで来たビナーの光線を手で弾き飛ばし、獰猛な笑みを相手に向けた。

 

「俺たちの戦い方を教えてやる」

 

 

 




 
 これからは17時投稿かな……とか言って遅刻してすみません!

 高評価お気に入りよろしくお願いします。
 全部に返すのは難しいですが、来た感想は全て楽しく読ませてもらってます。執筆する上でのモチベーションです。ありがとうございます。
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