ゲヘナクソ雑魚TSサキュバス   作:TSサキュバス流行れ

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 現代編突入です。

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第1章
突然の出向


 

 

 

 アコは激怒した。必ず、かの厚顔無恥の同僚を除かねばならぬと決意した。

 無論、アコは政治を知っている。風紀委員会の行政官として筆を執り、ゲヘナの治安維持のため報告書の処理を数多く行っている。そんな優秀な彼女は、現状の正当性や必要性を、十二分と言っていいほど理解していた。

 

 けれどもアコは、それを平然と受け入れられるほどの自制心を持ち合わせてはいなかった。

 

「そろそろ時間ね。じゃあ、私はこれで帰るから」

 

 風紀委員の事務室にて、処理し終えた報告書を纏める、風紀委員の腕章を手にかける少女。

 

「っ……はい。お疲れ様です」

 

 そんな彼女……ヒナを見て、アコは自身の歪んだ激情を表に出さないようにするので精一杯だった。

 砕かれんばかりに奥歯を噛みしめ、そそくさと部屋を去ろうとするヒナに挨拶をする。

 

「うん。皆も根を詰め過ぎないように」

 

 その言葉に勢いの良い返事がこだまする。

 それを見れば、この場にいる生徒たちに、ヒナがどれだけ慕われているのかを察するのは容易なことだった。

 

「ふふっ。じゃあね」

 

 それを見て満足げに頷くヒナ。その表情は、普段彼女たち風紀委員の生徒が見ているものよりも、幾分と穏やかだった。

 部屋の扉が音を立てて閉まり、辺りには静寂が立ち込める。

 そんな中、アコは机の引き出しから、ゆっくりとした動作で優雅にハンカチを取り出す。それを……

 

「くっ! きぃぃ~!」

 

 思いっきり噛みしめ、抑えていた感情を露わにした。

 また始まったよ……なんて思いを聴衆に抱かせたタイミングで、目を大きく開いて隣に座る生徒に叫ぶ。

 

「見ましたかあのヒナ委員長の美しい御顔!? 普段これだけの激務に追われても一切感情を表に出さない委員長が、今日のこの時間にだけ見せる、年相応の可愛らしい笑顔を!?」

 

 右手でハンカチを握りつぶしながら怒りを示す。

 それを見て隣に座る生徒……銀鏡イオリは呆れたようにため息をついた。

 

「もういい加減慣れなよアコちゃん。たまのノー残業デー位自由にさせてあげようって」

 

 再度ハンカチを噛み締めるアコの肩に手を置く。

 そう。本日のように金曜の放課後は、どれだけ忙しくても自由に過ごすという取り決めが数ヶ月前からなされていたのだ。

 

「許しません……! 夜伽リリス!」

 

 そんな、後輩であるイオリからの言葉も通じていないようだ。

 

 ────彼女がこうなった原因を知るためには、数ヶ月ほど時を遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 ゲヘナ学園の校舎にある、風紀委員会の部室。

 その一角に、風紀委員長であるヒナの言葉が響いた。

 

「────ということで、風紀委員会から一人、交換留学生を出さなきゃいけなくなったの」

 

 眼前に並ぶ一様の制服を身にまとった、風紀委員の生徒たちに話しかける。

 皆が静かに話を聞いていたため、ヒナの声は奥まで届いた。しかし、言葉に反応する生徒はいない。

 

「こ、交換留学って……期間はどれくらいなんですか?」

 

 少し遅れて集団の先頭に立っていたアコが、狼狽えながらも詳細を確認する。

 尊敬する委員長から発せられた理解不能な言葉に驚きつつも、すぐさま冷静を取り戻すその手腕はNo.2故か。

 

「さぁ。マコトがそこまで考えてる訳ないでしょ。でも、エデン条約が結ばれるまで……半年はかかると考えてもいいんじゃないかしら」

 

 吐き捨てるように語ったヒナ。

 普段からゲヘナの生徒会である万魔殿からの嫌がらせを受け慣れている彼女にとっても、この押し付けは相当頭に来ているようだ。

 これがただの交換留学ならば、嬉々として行きたがる者も大勢とはいわないが、一人二人は居るだろう。

 

 しかし、問題なのは()()()()だった。

 

「たった一人で……しかもトリニティにって、冗談でしょ!?」

 

 トリニティ総合学園。ゲヘナやミレニアムと並んでキヴォトス三大学園の一角を占める、由緒正しいマンモス校。

 それ故に他校との交流も深く、友好条約であるエデン条約の締結先ともあれば、何ら違和感はない。

 

 しかし、言葉を荒げたイオリを含むゲヘナの生徒は、どうしてもそれを受け入れたくない様子だった。

 

「どういうこと……? あんな奴らの所に留学だなんて」

「そうよ。絶対酷い目にあわされるに決まっているわ」

 

 イオリの叫びを皮切りに、ざわざわとした喧騒が部屋を占め始める。

 ゲヘナとトリニティは、何も仲が良いためにエデン条約を結ぶわけでは無い。

 むしろ全くの真逆で、長い歴史の中で刻み込まれた敵対意識を持ったまま、結ばれることとなったのだ。

 

「最初は私を送り出すつもりだったらしいけど、さすがにあっち(万魔殿)の中でも反対されたらしくて。こういうときだけ都合が良いのも相変わらずね」

 

 その喧騒は、小さな咳払いの後に発せられたヒナの言葉によってピタリと止まった。

 

「間違いなく嫌がらせだと思うけど、ティーパーティーも絡んだ契約となると拒否はできないわ。……運がいいのか悪いのか、こっちにはかなり適した人がいる訳だし」

 

 ヒナの視線が、自身の前に立つ更に小さな少女へと向けられる。

 

「あー……なるほどね」

 

 その少女、夜伽リリスは向けられた視線の意味を悟ったのか、頬を掻きながら言葉を濁した。

 

「? それって……」

 

 ことの成り行きを黙ってみていたチナツが、疑問符を浮かべながら呟く。

 それもそのはず。この事実を知っているのは、幼少からリリスと関わりのあるヒナしかいないのだから。

 

「こっちでもある程度の影響力があって、尚且つ母親が元トリニティ……それも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 とは言っても、リリス自身も特段それを隠すつもりはないのはヒナも知っているところ。

 血筋や伝統、品格を重要視するトリニティと違い、ゲヘナでは生徒の親のことなど気にする人間など0に等しい。

 

 当人の人望や実力が最も重視されるゲヘナにおいて、リリスの交友関係を憂慮する必要性はないと、ヒナは判断した。

 そうでもしないと、彼女たちを納得させた上で、トリニティへ送り出すことは叶わないのも大きいだろう。

 ヒナの目線程度の背丈しかないリリスだが、『風紀委員長の懐刀』として学園内外から恐れられているのだから。

 

「リリス。この仕事、あなたに任せるわ」

 

 震えそうになる声を辛うじて抑えながら、ヒナは立場上は部下に当たる親友に残酷な命令を下す。

 ヒナ自身も、こんな残虐非道な移動命令など出したくなかった。

 あわよくば、このまま卒業まで忙しくも穏やかな日常を過ごしていたい。そう思っていた。

 

 しかし、その小さな肩にのしかかる風紀委員長という重責が、そこから逃れることを許さない。

『今度夢に出てきたらいっぱい甘えよう』なんてことを思いながら、少しでも事をポジティブに捉えようとするヒナ。

 

「うん。分かったよヒナちゃん」

 

 表面上はいつも通りのヒナだったが、崩れかけた内心に気が付いたのは関係の長さ故か。

 リリスは穏やかな笑みを浮かべ、ヒナの手を取ってその場に跪いた。

 大きな翼と角を生やした眉目秀麗の少女が二人、部室の一角で見つめ合う。

 

 委員長という立場に立つ前から、ゲヘナの実力者としての名声をものにしてきたヒナ。それと勝るとも劣らない実力を持ちながら、あくまで彼女の臣下として、友人として支え続けたリリス。

 その二人が、衆目の前であるにも関わらず、あたかも蜜月を共にしているかの如く雰囲気を醸し出している。

 オフィス調の部屋という背景さえなければ、まるで宗教画のようにさえ見える幻想的な光景が、そこには広がっていた。

 

「任せて。私、お友達を作るのはすっごく得意なんだから」

 

「っ……ええ。よろしくね」

 

 ゲヘナの生徒を角付きと罵り、蛇蝎のごとく嫌っているトリニティの生徒。

 その巣穴である学園に、自らの手で友人を送り出すヒナの苦悩は、果たしていったいどれほどのものなのか。

 

 そんな彼女の心とは裏腹に、リリスは気楽に物事を考えていた。

 

(トリニティかぁ……えへへ。新しい友達できるかなっ)

 

 そう。箱入り娘であるリリスは、トリニティとゲヘナの異常ともいえる学園間対立の全容を全く持って理解していなかったのだ。

 そして、気持ちが昂れば人は普段しない行動を取りがちだ。

 

「私、夜伽リリスはヒナちゃん……いや、ヒナ委員長に永遠の忠誠を誓います♪」

 

 リリスもその例に漏れなかったのだろう。添えられたヒナの白い右手をとり、忠誠を示すかのように口付けをした。

 

「なっ……!」

 

 視線を落としていたためか、瞬間朱に染まったヒナの頬を見ることはない。

 

「リリスっ! 何して……っ。みんなが見てるのよ!?」

 

 暗に「見ていないのであれば何をしてもいい」ともとれる言葉を言い放つヒナ。

 底まで落ちた感情を突然持ち上げられたヒナは、既に取り繕う余裕を失っていた。

 

 もう片方の手で口元を押さえながら、視線を逸らして体を震わせる。

 その意志に反して大きく振れる羽を見れば、彼女が嫌がっていないことなど容易に理解できるものだった。

 

「分かった……分かったから、もうやめて……恥ずかしいわ」

 

 幼少期から際限なく与えられ続けたリリスの愛情によって、多少なりとも自己肯定感を上げることに成功したヒナ。

 そんな彼女でも、自身を尊敬する部下たちの前での行為は、流石に恥ずかしかったようだ。

 

 もっとも、リリス側に()()()()()()があったわけではないのだが。

 好意を寄せる相手に奥手になってしまうのは、お互いに似た者同士という事だろう。

 

「うわぁ……またやってるよリリスちゃん」

 

「もはや恒例行事ですね」

 

 大きすぎる好意を無意識にぶつけ、それを受けたヒナが狼狽える。

 お互いに広い交友関係を持つリリスとヒナ。彼女たちを知る者の間では、目の前の光景は日常茶飯事と化していた。

 無論、それは風紀委員として二人と接することの多いイオリやチナツとしても見慣れたもの。

 

 しかし、その光景を何回見ても受け入れられなかった生徒も、中には存在した。

 

「リリス! なにヒナ委員長を誑かしてるんですか!? 風紀を乱すようなことは慎んでください!」

 

 視線を落とすリリスの元に駆け寄り、その手を取って離させるはアコ。

 額に血管を浮かばせながら、リリスの餅のようにやわらかい頬を上下左右に引っ張った。

 

「べ、別に誑かされてなんてないわ……これはその、ただのスキンシップよ」

 

「あう、ふぁう……あうあ!」

 

 恥ずかしそうに視線を逸らし、しおらしく言い訳をするヒナ。

 それとは対照的に、形の整った眉を逆八の字に顰め、空回る口から抗議の言葉を放つリリス。

 

 二人のやり取りに怒ったアコが介入するという流れも、風紀委員では恒例のものだった。

 

「こんな淫らなスキンシップがあってたまりますか!? 委員長を誘惑する悪い子にはお仕置きが必要です!」

 

『あんたら同い年だろ……』という出かかった声を寸前で止めるはイオリ。

 そんなことを言ってしまったが最後。矛先が自分へ向かうことを理解しているからだ。

 

 しかし、いつまでもやられっぱなしではヒナの懐刀なんて務まらない。

 

「ひゃっ!? ど、どこ触ってるんですか!」

 

 見た目に反した腕力で腕をどけながら、反撃と言わんばかりに露出されたアコの横乳へと手を伸ばす。

 直に感じる手の感触に一瞬体を震わせたアコに、リリスは力強く言い放った。

 

「こんなエッチな服を着ておいて、よく風紀とか言えたもんだねアコちゃん!」

 

「っ! な、なんですって~!?」

 

 犬猿の仲という言葉は、リリスとアコの関係性を言い表すのに最も適切なことわざだった。

 

 

 

 





 先生が出るのはもうちょっと先かな?

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