ゲヘナクソ雑魚TSサキュバス 作:TSサキュバス流行れ
遅れました。
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それから少しして、ゲヘナを出発する日がやってきた。
「ふんふん、ふんふーん♪」
一人で住むには些か広めのマンションの一室にて、ご機嫌なリリスの鼻歌が響く。
大理石調の床にキャリーケースを広げ、そこにいつも着ている制服、パジャマ、下着、服を丁寧に畳んで詰め込んでいる。
留学と仰々しい名目となっているが、実際のところそれぞれの自治区の距離は遠くない。土地が大幅に離れていたら、歴史的な対立など起こるはずもないのだから。
ホシノとの行為によって覚醒を果たしたリリスにとっては、空を飛べば余裕で行き来できる距離だ。
「えっと……化粧水、ドライヤー、日焼け止め────」
そのため、留学というより中長期の旅行程度に考える方が近いだろう。
ヒナとの約束によって、週に一回は必ずゲヘナに帰ってくることが決まっているのだから。
体やメンタルを心配したヒナからの提案だったが、リリスとしても大好きなヒナと会うことを拒む理由などない。移動も大した手間ではない。
手に持ったスマホに記したメモを見ながら、再度詰め込んだ荷物の確認を行うリリス。
パッキングを完了させ、自身の肩程度の高さがあるスーツケースのチャックを締め立てる。その横に並ぶと非常にアンバランスな大きさだった。
「ふふっ、楽しみだなぁ」
幼い顔を期待一色に染め、部屋の電気を消してベッドに飛び込む。
荷物を詰め込んですぐに眠りたかったのだろう。寝支度を既に完璧に済ませているところからも、リリスの内心が伺える。
そして、そんな期待を胸に秘めながらリリスは眠りにつくのであった。
次の日。リリスはトリニティ行きの特急列車が止まっているホームへと立っていた。
「何かあったらすぐに連絡すること。無理だけはしないで」
服を多数持っている中でも一軍の服を着こなし、薄く化粧を施したリリスに話しかけるはヒナ。
哀愁漂う顔で正面から抱き着く様は、まるで兵役で遠くへ赴く息子を見送る母親のようだった。
来週の金曜日また会えるのだが、その一週間はヒナにとってはとても長いものだった。トリニティという魔境に、友人を送り出す心構えが未だできていないことも理由の一つだろう。
「大丈夫だよ! 次会ったとき、楽しいお話いっぱい聞かせてあげるから」
そんな健気な言葉を返し、ヒナの背に手を回すリリス。
「……ええ。楽しみに待っているわ」
実際のところトリニティの全貌を知らないだけなのだが、ヒナは自分の負担にならないように無理をしているのだと解釈した。
ヒナの肩の上から顔を出すリリスの前に、一つの影が差す。
「あ! アコちゃん来てくれたんだ!」
その人影の正体はアコ。ヒナの後ろに付く形で、彼女も見送りに来ていたようだ。
休日ともあれど風紀委員の仕事は多忙だ。そんな中時間を繕ってくれた事実に、リリスは嬉しそうに声を上げる。
そんなリリスに、アコは小さくため息をつきつつも、穏やかな表情で話しかけた。
「ええ。仮にも一年以上共にした同僚ですし。忙しい暇を縫って来たんですから、感謝してくださいね」
「うん! ありがとう!」
ちなみにイオリやチナツを含む他の生徒はお留守番である。
ヒナ一人が居なくなるだけでも色々と問題が生じる中、彼女の仕事を分担して回しているようだ。
そこに、元々予定ではなかったアコもついて行ったのだ。突然仕事が増えたイオリの口から「素直じゃないなぁ」なんて愚痴が出たのも仕方のないことだろう。
「これ、隠した方が良いんじゃないですか? ゲヘナの生徒だと言いふらしているようなものですよ」
「アコの言う通りよ。特にあなたは特徴が強く出ているんだし」
頭から生えた二本の角を触り、問いかけるアコ。
ヒナも同意するように、リリスの背中から生えた大きな羽を撫でる。
「うーん、そうかな? ……えいっ」
そう一瞬かけ声を出すと、ゲヘナの生徒たる特徴を示していた角や尻尾が消える。
「相変わらず不思議な力ですね」
その代わりに大きな天使の羽を生やしたリリスを見たアコが呟く。
数ある異能をその身に宿し、それを周囲に隠しているリリスが、飛行能力と並んで唯一周りに知らしめている能力だった。
事件が起きた場所に飛んでいける飛行能力はもちろん、どんな姿にでも変装ができることは、治安維持に一定の効果がある。
規則違反をしている生徒は変装したリリスを警戒する必要があるし、それをかいくぐっての潜入捜査もお手のものなのだから。
「えへへ、どう? 似合ってる?」
「ええ。似合ってるわ」
ヒナの言葉にリリスは満面の笑みで喜びを表現する。
しかし、それを見ているアコはどこか不機嫌そうだ。
「私は前の方が良いですかね。少なくとも、こっちではやらない方がいいでしょう」
言語で表すことが難しいが、その姿に嫌悪感を抱いてしまったアコ。
言葉にこそ出さないが、何故ヒナが迷わず似合っていると言えたのか聞きたいくらいだった。
ゲヘナとトリニティの
「だよねー」
変化を戻したリリスが、特に感情を荒げることなく呟いた。
これを見たゲヘナの生徒が良い印象を抱かないことは、既に知っていたのだろう。
そして、リリスは何かを迷うように顎に手を当て、首を傾げている。
「うーん……でも、やっぱり私は素の姿のままで行こうかな」
「っ……どうして?」
あっけらかんと言ったリリスに言葉を詰まらせる。
「だって、そうしないと留学する意味なくない? 私は、ゲヘナの代表としていくんだからさ」
ゲヘナに所属していることに誇りを持っているのだろう。リリスは翼をはためかせて自慢げに言った
「でも……」
それでも食い下がるヒナに、リリスは笑顔で話す。
「大丈夫だよ! だって、皆で仲よくするためのエデン条約なんでしょ? きっと話せば分かってくれるよ」
ヒナとアコからすると、その言葉は尊い自己犠牲のように聞こえただろう。
元々は都合よく押し付けられた仕事。それにも関わらず、リリスはゲヘナのため、自分の出来ることを最大限やろうとしている。
実際のところ、魔法を維持するのは疲れるからという理由が1番大きいのだが、それは二人の知るところではない。
「……分かった。あなたの意思を尊重する」
予想に反し仰々しい返答をしたヒナに、リリスは内心小首を傾げながら返答する。
「うん! じゃあ、行ってくるね!」
そう言ってリリスは列車に乗り込むと、程なくして発車を知らせるメロディーが流れてきた。
閉じた扉のガラス越しに手を振りながら、遠ざかっていく姿を見る。
「……さあ、帰りましょう。ヒナ委員長」
過ぎ去った列車の後姿を暫く見送ったヒナに声を掛けたのはアコ。
呆然と立ち尽くす背に手を置く様からは、心を痛めている委員長を支えようという気持ちが伺える。
「……うん」
そしてヒナも、その手に引かれてトボトボと帰路に就くのであった。
帰ってきた二人を見たイオリが、「来週また会うんだよね!? 何でそんな葬式の帰りみたいな顔してるのよ!?」なんて叫んだのはまた別の話だ。
そんな二人とは裏腹に、当のリリスは列車のボックス席に一人で座り、足をプラプラと揺らしている。
「まだかなー」
停車駅は把握しているため乗り過ごすことは無いのだが、それでも気持ちははやるのだろう。
出入口の上部についている電光掲示板をチラチラと見ながら、そんな言葉を呟いた。
『次はトリニティ総合学園、トリニティ総合学園です。お出口は左側です。お忘れ物の無いよう────』
そして、待ちに待ったトリニティの最寄り駅へと到着した。電車を降り、改札を抜ける。
駅のホームから出たその先には、彼女の前世のとある国を思い起こさせる、ネオゴシックや新古典主義の様式の建物が一様に並んでいた。
「おぉ……!」
トリニティには、小さい頃母親と一緒に何度か来たことがあるリリス。しかし大人になってから一人で来ると、また違う景色が見えるもの。
感嘆の声を上げながら建物を見上げる様は、まるで初めて都会に来た田舎の人間のようにも見える。
実際のところリリスはD.U.出身のためそんなことはないのだが、ゲヘナとは違った雰囲気の美しい街並みに感動しているようだ。
そもそもゲヘナの街は温泉開発部を始めとした、過激派の生徒によって常にどこかしらに補修が施されている。
そのためヒビ一つ入っていないトリニティの街並みは、リリスにとっては新鮮に映ったのだろう。
「えっと、集合場所は……」
予定では駅北口の前に送迎がつく手筈となっている。
しかし、彼女が居るのはキヴォトスでも有数の利用者数を誇るトリニティ中央駅。
リリスにとっては出口を探すだけでもかなりハードルが高かった。
「あの、すみません……」
しかし、ここでめげるようでは風紀委員など務まらない。
コミュニケーション能力に定評のあるリリスは、悩むことなく近くを歩いていた生徒へ話しかけた。
「……チッ」
しかし、トリニティの制服を着用した生徒は、リリスの顔……正確にはその上についている角を見るや否や、大きな舌打ちをして去って行った。
「わっ、急いでたのかな」
普通なら苛立って然るべき対応をされたが、リリスは前世を含めて他人からの悪意を受けずに過ごしてきた。
そんな幸せな彼女は、自身が『角付き』だからという理由で無視されたとは思わなかったのだろう。
3回ほど話しかけては無視、舌打ち、嫌味の言葉を返された辺りで、駅員らしきロボット型の人間が話しかけてきた。
「お客様、どうされましたか?」
その裏には話しかけられた生徒による「ゲヘナの角付きが付きまとってくる」という通報があったのだが、リリスはそんなことはつゆ知らず、親切な駅員に対し笑みを向けた。
「あっ! あの、北口への行き方が分からなくて……」
「北口でしたら、あちらの突き当りの角を左に曲がってください。そちらに────」
対応した駅員がトリニティに関係のない人間だったのは、不幸中の幸いだろう。
これが仮にトリニティの人間ならば、平気な顔で南口へと案内されても何ら不思議ではなかった。
「分かりました。ありがとうございます!」
右手に引いたキャリーケースを後ろに、丁寧に礼を言ってその場を後にするリリス。
『きっと彼女はロクな目に合わないだろう』なんてことを思う駅員だったが、触らぬ神に祟りなしということで、特に忠告することは無かった。
ここで、せめて「角と羽と尻尾を服の中に隠した方が良い」と言われたのなら、もう少し良い留学生活の幕開けが出来ただろう。
「北口……えーっと、ここかな」
ホームや改札前に比べて幾分か人が減っている北口は、集合場所には丁度良い場所なのだろう。
目の前には車の乗り降りが可能な、大きなロータリーが広がっていた。
予定に書かれていた送迎車のナンバーを確認するが、集合時間を過ぎているにも関わらず、そのナンバーは見つからなかった。
自分が遅れたから言ってしまったのか。不安な感情が押し寄せてくる。
そして、そんなリリスに追い打ちをかけるかのように、トリニティの生徒による『洗礼』が降り注いだ。
「あら? どうしてこんなところにゲヘナの生徒がいらっしゃるのでしょう」
「ん?」
不安げに辺りを歩いていたのを見ていたのだろうか。
声を掛けられて振り向いた先には、トリニティの制服を着た三人の生徒が、薄ら笑いを浮かべながらリリスを見下ろしていた。
何故ゲヘナの生徒だと分かったのか。そんな疑問は、自身の後ろで揺れることで存在感をアピールしている尻尾と羽を見て解決した。
「あっ、こんにちは! 私、夜伽リリスって言いま……」
「そんなことを聞いているわけではありません。……何故ここに、薄汚いゲヘナの角付きが居るのか、と聞いているのです」
リリスの言葉を遮り、集団の先頭に立っていた生徒がそう語る。
取り巻きの様に後ろを着いていた二人の生徒も、クスクスと嘲るような笑みを浮かべていた。
「その……えっと、トリニティとの交換留学のために来たんです。今日はその送迎待ちで……」
そこで始めて敵意を向けられていることに気が付いたリリスは、言葉を詰まらせながらも目的を簡潔に告げた
「交換留学? そんな話、聞いた覚えなどありませんが……ねぇ?」
「ええ。私も初めて聞きましたわ」
取り巻きの生徒に問いかけるが、彼女もどうやら知らない様子だ。
困ったように眉尻を下げるリリスから一歩離れ、わざとらしく鼻をつまんで片手を払う。
「トリニティの神聖な地に足を踏み入れないでいただきたいですね。自治区が穢れてしまいます」
「ヴァルキューレに通報するしかないですね。『ゲヘナの生徒が意味不明なことを言いながら、悪臭をまき散らしている』と」
実際の所リリスからは、彼女たちが憧れる高級ブランドの香水と、生徒を魅了する淫気の甘さがほんのりと香っている。
良い匂いだと思うのが癪だったのだろう。あえて鼻をつまんで辺りの空気を吸わないようにしていたのだ。
「……私、あなた達に何かした?」
温厚なリリスもここまで言われて引くわけにはいかない。自分だけならともかく、大好きなゲヘナの悪口を言われたのだから当然だ。
翼をはためかせ、無意識に少しだけ強くなった淫気と共に間合いを一歩詰める。
────その瞬間、一発の銃声と共にリリスの腹部にライフル弾が着弾した。
「えっ」
特段ダメージは無かったが、驚いたリリスが前を向くと、そこには鞄から取り出した銃を向けている生徒の姿が見える。
撃たれたことだけでも驚きだが、特筆すべきはその表情だった。
「……はぁ……! っ」
酔ったように頬を赤らめ、息を荒くしながら手の甲で口と鼻を抑えている。
「な、何をしたんですか!? まさか本当に毒を……!」
そんな自身の状況に理解が及ばなかったのだろう。声を荒げる生徒。
後ろに立つ取り巻きもその生徒程ではないが、顔を赤らめて視線を逸らしている。
(……あれ、ちゃんと抑えている筈なのにな)
そこで、リリスは昔父親から言われた言葉を思い出した。
(そっか。トリニティの子たちって淫気の耐性凄い低いんだっけ)
そう。理由は不明だが、
逆に、同じ悪魔の特徴を有したゲヘナの生徒は基本的に耐性がある。もちろん個人差はあるが。
「ごめんね。別に体に悪いわけ……じゃないはずだから」
そう言い切れない辺り、リリスも申し訳なく思っているようだ。
しかし、自身の体に起きた変化を受け入れられない生徒たちは、こぞって銃を引き抜いてリリスへと向ける。
「っ……この角付きが! 私たちの土地から出ていけ!!」
「そうよそうよ!」
口調を取り繕う事すら出来なくなったのだろう。顔を真っ赤し、目を蕩けさせながらも言葉は荒いちぐはぐな状況。
一触即発な状況に銃を抜こうか迷うリリスだったが、そんな彼女たちに一人の生徒が話しかけた。
「あなた達、そこでなにをしてるの?」
「見て分からないの! この角付きを……!?」
怒号と共に振り返った生徒が、話しかけてきた人物の顔を見て驚きの表情を浮かべる。
「み、ミカ様!? どうしてここに」
ミカと呼ばれた、宝石やアクセサリーでデコレーションされた翼を持つ、桃色の髪の少女がリリスの元へ向かう。
「角付き、ねぇ……だとしてもこんな小さな子を寄ってたかって、ちょっと酷いんじゃなぁい?」
「そ、それは……」
言い淀む生徒たちを尻目に、しゃがみこんでリリスと視線を合わせるミカ。
「ねぇ。あなた、名前はなんて言うの?」
「えっと……夜伽リリスです」
突然の介入に驚きつつも、リリスはミカの目を見てハッキリと答えた。
「やっぱり……この子は、私たちのお客様なの。もし怪我でもさせてたら、あなた達停学になってたかもしれないね?」
小声で何かを呟いたのち、ミカは生徒たちに鋭い視線を向けてそう言い放った。
「そ、そんな!」
「今なら見なかった事にするけど……どうかな?」
数秒ほど視線を左右に揺らしたのち、悔し気に歯を食いしばってその場を去る生徒たち。
その後ろ姿が見えなくなるまで見つめた後、ミカは振り向いてリリスを見た。
「ありがとうございます! 助かりました……」
危機を救ってくれたミカに満面の笑みで感謝を伝えるリリス。
武力で解決することは簡単だったが、親交を深める目的で来た以上、その解決策はリリスの中にはなかった。
目の前の生徒は、リリスにとって恩人と言っていいだろう。
「あの、名前を教えていただけますか?」
「あっ、えっと……ごめんね」
そんな恩人の名前を覚えようと問いかける。
「……? あの……」
しかし、ミカはリリスの方を呆然と見つめるのみで、返事が返ってくることは無い。
「────やっぱ無理♡」
その瞬間、ミカは自身の首程度の身長しかないリリスを抱きしめ、その胸に顔を埋め始める。
「うえっ!?」
突然の凶行に驚く間もなく、激しい呼吸音を響かせるミカ。
「これっ♡ この匂い……久しぶり! リリスちゃん♡」
呼び名、胸に飛び込んで荒くなる呼吸の音。リリスちゃんという呼び方。
断片的な要素一つ一つが、棚の奥にしまい入れた記憶を呼び覚まさせた。
「えっ……もしかして」
面を上げると、その顔は恍惚とした笑みで蕩けていた。
「ミカ、ちゃん?」
────聖園ミカと夜伽リリス。実に13年ぶりの再会である。
次は月曜の17時を予定しています。
高評価お気に入りよろしくお願いします。
全部に返すのは難しいですが、来た感想は全て楽しく読ませてもらってます。執筆する上でのモチベーションです。ありがとうございます。
R18版IF:https://syosetu.org/novel/355317/
自由に書いていきます。