ゲヘナクソ雑魚TSサキュバス   作:TSサキュバス流行れ

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花畑を出す魔法

 

 

 

 夜伽リリスは困っていた。

 

「あーっと……ええっと」

 

 それはもう。普段からよく口が回る彼女が、こうして言葉を詰まらせる程には困っていたのだ。

 

「……」

 

 そんな彼女の向かい側には、ベッドに正座で座る人の姿があった。

 一言も喋らず、特徴的なガスマスクで顔を隠しながら、辺りを見渡すように顔を動かしている。

 

「その……」

 

 かれこれ五分程話しかけては言葉を詰まらせてを繰り返しているリリスだが、何もこの一瞬で引っ込み思案になったわけではない。

 

「体、痛い所とかない?」

 

 自身の夢の性質を理解しているため、質問の答えは分かり切っているリリスだが、場を繋ぐためにそんな当たり障りのない質問をした。

 それに対し、首を小さく頷かせることで肯定する。

 

「そっか。良かった」

 

 この五分間の中で、声を発したのはリリスのみ……つまり、目の前の生徒は一言も声を発していないということだ。

 これではいくらコミュニケーションに自信があるリリスとて、いつもの調子で話すことはできないだろう。

 

 しかし声が聞こえていなかったり、無視を決め込んでいる訳ではないようで、このような端的な問いかけに関しては反応を返している。

 ひとまずリアクションを返してくれたことに安心しながら、リリスは目の前の生徒の姿を観察した。

 

 ミニスカートの上にポンチョを着ており、被ったフードからは編んだ髪の毛を出している。

 全体的に白を基調とした服装に長い髪、体つきは明らかに女性だが、一際目を引くのはその顔に着けたガスマスクだろう。

 

 リリスの言葉を最後に、部屋に静けさが取り戻される。

 辺りに響くのはスピーカーから流れる静かな音楽と、ガスマスク越しの特徴的な呼吸音のみだった。

 

「喋れないの?」

 

 リリスの問いかけに対して首を傾けた後、縦に1度振る。

 実際のところは『喋れない』ではなく『喋ってはいけない』が正しいのだが、どちらも似たような意味として捉えたようだ。

 それを肯定と捉えたリリスは、ベットに座る生徒にゆっくりと寄っていく。

 

「っ……!」

 

「あ、ごめんね。ちょっと手出せる?」

 

 警戒したように身を引く生徒を見て、リリスは眉尻を下げて謝罪する。

 差し出された手のひらに何も握られていないことを見た後、ゆっくり右手を差し出した。

 

「ありがと」

 

 差し出された手を軽く握ると、慣れた感覚と共に神秘が流れてくるのを感じる。

 しかし、リリスの目的は食事ではない。数年の時を経て成長した彼女は、自身が空腹でないことを理解しているからだ。

 そのため、今回彼女を呼び寄せてしまったのは完全なる事故。

 

 だとしても、このまま一言も喋らないで時が経つのを待つのは違うと思ったのだろう。

 リリスは、口を閉じたまま脳内で話しかけるイメージをした。

 

『聞こえる?』

 

「!?」

 

 突如として彼女の脳内に響き渡るリリスの声。

 口を閉じているにもかかわらず、確かに聞こえてくることに少女は驚きを隠せない。

 

『話したい言葉を強くイメージしてみて。そうすると、こうして相手に伝わるから』

 

 そう。リリスは相手と接触することで、相手に自身の思考を伝える魔法を使用したのだ。

 雑念が入るのを防止するため、強くイメージしないと伝わらないようになっているこの魔法は、少々使うのに慣れが必要だ。

 

『あったかい……』

 

 そして、反対にリリスの脳内に聞こえてくる声。

 何処か儚さを感じさせる、透き通った美しい少女の声。

 

『わっ、綺麗な声』 

 

 言葉を交わさずとも意志を伝えられる便利な魔法なのだが、慣れないうちは心の中で思ったことが表に出てきてしまうのが欠点の一つだろう。

 その例に漏れなかったのか、初めて使用するリリスの内心も相手に伝わっていた。

 

『あれ? 私の声、聞こえてる?』

 

 少女の言葉に頷くリリス。

 

『あっ、そうなんだ……』

 

 それを聞いた途端恥ずかしそうに片方の手を頬に寄せる少女。

 リリスは会話ができた喜びからか笑顔を向け、膝立ちの状態からベッドに座り直す。この状態で会話を続けるつもりなのだろう。

 マスク越しのため気づいていないが、少女はそんなリリスの服装をまじまじと見つめていた。

 

『……エッチな服』

 

「っ!」

 

 決して言葉にしようとした訳ではないのだが、そんな思考が伝わってしまう。

 リリスはとっさに掛け布団で体を隠し、顔を赤くして魔法を発動した。

 

「す、好きで着てるわけじゃないから!」

 

『あっ、そっか』

 

 自分の思考が伝わったのを理解した後、つないだ手を離す少女。

 

「喋れるから大丈夫だよ」

 

「えっ」

 

 サラッと喋り出した少女に呆けた声を上げるリリス。

 

「ごめんね。色んな事情があって、喋るなって言われてて」

 

 そう命令されている、ということをほのめかしながらも話を続ける少女。

 実際のところ、自分の意識を相手に読まれることと、会話の禁止命令を破ることの二つを天秤にかけた結果なのだが、それをリリスが知る由は無い。

 

「……そうなんだ」

 

 それでも、目の前の少女が普通ではない環境に居ることは容易に想像できた。

 色々な事情、と濁してはいたが、話すことを禁止にさせられている環境などろくでもないのは間違いない。

 

「あれ? さっきの下着……」

 

 しかし、リリスと少女は初めて会う間柄。

 あまり追及するべきでないと判断し押し黙ったリリスを見て、驚きの声を上げる少女。

 その目線は、リリスの着ている服へと向かっている。

 

「下着じゃないよ!? あれは仕方ないのっ。ここに来るとああなっちゃうから!」

 

「……そう言えば、ここ、どこ?」

 

 そう叫ぶリリスを置いて、部屋を見渡して不思議そうに呟く少女。

 一切見覚えも、ここで眠っていた理由も分からないと言った様子。初めて夢の中に来た人間は、皆同じような反応をするもの。

 目の前に居るのが露出の多い服装をした、小さな少女だから警戒していなかったが、本来ならば誘拐を疑うべき状況だ。

 

「えっと、ここはあなたの夢の中なの。現実のあなたは今も眠ってるんだ」

 

「夢の中?」

 

 そんな、リリスの荒唐無稽とも言える話に首を傾げる少女。

 ここまではっきりと意識がある夢なんて普通ならあり得ないため、至極当然の反応だろう。

 

 説明したリリスも素直に受け入れられるとは思っていないのか、右手を出して魔法のイメージを行う。

 ピンク色の光の粒子が開かれた手のひらに集まり、小さな薔薇の花束として顕現した。

 

「あっ……!」

 

 それを見て驚いたように声を上げる少女。

 マスクと前髪越しでも輝いている目を幻視するほど、興奮した様子でそれを手に取る。

 5本で1つの束にされたピンク色の薔薇は、派手さこそないものの、精巧で鮮やかな色をしていた。

 

「夢の中だから、こうやっていろいろなものを作れるんだ。この服も同じだよ」

 

 説明を続けるリリスだったが、少女の目は手に持った花束に釘づけにされている。

 

「薔薇、好きなの?」

 

 そんな少女にリリスは怒ることなく、穏やかに問いかける。

 

「うん。私、花が好きなの。でも、これは初めて見たかも」

 

 少女はゆっくりと顔を上げ、リリスの目を見ながら手元の薔薇を持って答えた。

 その穏やかな語り口と愛おしそうに花を撫でる姿を見れば、その言葉に嘘が無いことは容易に分かる。

 

「良い趣味だね! 私も小さい頃庭で色々育ててたよ」

 

「羨ましいな。私は、あんまりそういうのはできないから」

 

 一段階声のトーンを落とし、俯いた状態で語る少女。

 

「そう、なんだ。……ごめん」

 

 穏やかながらもどこか闇を含んだ語り口に、リリスは思わず言葉を詰まらせる。

 

「ううん、大丈夫」

 

 そんな彼女に、リリスはどう言葉をかけていいか分からなくなってしまった。

 そして、再度部屋に沈黙が訪れる。

 

 少女は手に持った花を眺めているだけで満足していたが、それを知らないリリスは申し訳ない気持ちを強く感じていた。

 

「……ねえ、こういうのって、他にもっと出せたりするの?」

 

 そんな、リリスが一方的に気まずく感じていた沈黙を破ったのは少女の方。

 茎の棘が刺さらないように、しかし負担にならないように丁寧に両手で持ちながら、ガスマスク越しにリリスを見つめる。

 

「できるよ! 任せてっ!」

 

 助かったと言わんばかりに声を大きくするリリス。

 再度別種の花を出そうと手のひらを広げるが、そこで思考を止めて少女を見る。

 

「やった」

 

 期待を込めた眼差しが、マスク越しでもひしひしと伝わってきた。

 

(……この子、一体どんな環境で……)

 

 話すことを禁じられている上、好きな花でさえロクに育てられないという環境に、初めて見る薔薇の花。

 短いスカートからは、栄養状態が心配になるほど細く白い足が見えている。

 

(せっかくだし、ちょっと張り切ってみようかな)

 

 少女の育った環境を勝手に案じる自己満足だとは自覚しつつも、リリスは少しだけお節介をすることを決めた。

 

「?」

 

 開いた手を閉じ、ベッドから立ち上がるリリスに、少女は不思議そうに首を傾げている。

 リリスはそんな彼女に手招きをし、同じく立ち上がった少女の視界を、後ろから両手を目に被せて覆った。

 

「ちょっとだけ、目瞑ってて」

 

「……うん。分かった」

 

 警戒心が無いかと言えば嘘になったが、それでも少女はリリスを信じてみることにした。

 

(どんな花を見せてくれるのかな)

 

 彼女の人好きのする容姿や話し方もそうだが、リリスが出した花の美しさが理由だった。

 マスク越しのため直接の接触は無いものの、時折触れ合う太ももやふくらはぎから、体温とはまた違う心地の良い暖かさを感じる。

 

(っ……何? この感覚)

 

 神秘を吸われる未知の快感に、くすぐったそうに身をよじらせる少女。

 しかし、目を閉じて集中しているリリスがそれに気づくことはない。

 

「まだだよ。もうちょっと待ってね……」

 

 待ちくたびれているのかと勘違いしたリリスが、目を抑える力を強くし、それと共に体が近づいていく。

 触れる面積と力が増えるとともに、知らない感覚はどんどんと強くなっていった。

 

「っ……」

 

 大規模な魔法を使用したことにより、吸う力が強くなっているのだが、それは全て無意識下での変化。

 お腹の奥から全身に広がる暖かさに、立っていられなくなった少女がリリスにもたれかかる。

 

「ひゃっ……!」

 

 しかし、触れる面積が増えればその分強くなるのは道理。

 知識こそあれ、実際にそれを体感したことがない少女からすれば、それは快感と共に不安も連想させるものだった。

 

(なに……これっ。私の体、おかしくなって……だめっ)

 

 そして、その感覚が臨界点を超えようとしたそのとき────

 

「────はい。もう大丈夫だよ」

 

 その矢先に、リリスが拘束を解いた。

 

「っ! はっ、はぁ……はぁ」

 

 結果的に『お預け』を食らった形の少女が、地面にへたり込んで息を荒げる。

 もどかしさを感じつつも、少女は自身が座る場所や、辺りの変化を感じ取っていた。

 

 スピーカーから流れる音楽は鳴りを潜め、露出した足や指先には心地よい陽の暖かさが伝わってくる。

 地面に付いた膝からは少し濡れた土の感触を感じ、穏やかに吹くそよ風の匂いは少しだけ甘い。

 

「……もう、目を開けていいの?」

 

 息を整え、瞼越しに眩しい光を感じながらリリスに問いかける。

 既に部屋の外にいることは分かっていた少女だったが、何が起きたかは全くもって理解していない。

 

「いいよ。ほら、立って」

 

 少女の手を取り、腰を支えて立ち上がらせるリリス。

 

「ありがとう……じゃあ、行くよ?」

 

 そして、少女は閉じていた目をゆっくりと開いた。

 

 

 

「わぁ……!」

 

 

 

 ────最初に目に入ったのは、雲一つなく広がっている青い空。

 視線を落としていくと雄大な山々が立ち並び、そして()()()()()()が見えてくる。

 

「凄い……」

 

 その奥には果てしなく続く、赤、黄、青、白といった様々な色の花で彩られた、鮮やかな花畑が広がっていた。

 暖かい風が吹くとともに、立ち並ぶ花々が振り子のように揺れる。

 

「ふふ。私の魔法、凄いでしょ?」

 

 少女はしゃがみこんで、手元の白い小さな花を指で触れる。

 二人の立っているところだけ地面が見えているのは、花を踏まないようにするリリスの配慮だろうか。

 

「凄い……凄いよ! こんな綺麗なの、私っ……!」

 

 初めて見た。という前に、何かに気が付いたのか言葉を止める少女。

 右手を顔の前に持っていき、なにやら手を小さく動かしている。

 

 気になったリリスが後ろから覗き込もうとしたそのとき、少女は地面に何かを置いた。

 

「それ……」

 

 地面に置かれたものを見て驚きの声を上げるリリスに、少女は振り返る。

()()()()()()()()()()()()が、リリスに向けられていた。

 

「マスク越しだと、もったいないかなって。こんなに綺麗なんだもん」

 

 地面に置いたガスマスクを指で撫で、小さく微笑む少女。

 その武骨なマスクからは想像できない程柔らかく、そして透明感のある整った顔がそこにはあった。

 

「そっか。……ここはね、昔お父さんとお母さんによく連れて行ってもらったんだ」

 

「そう、なんだ」

 

 この場所が現実にあることに驚きの声を上げる少女。

 彼女が今まで暮らしてきた場所からは考えられないほど、穏やかで美しい光景が広がっているのだから。

 

「……みんなにも、見せてあげたいな」

 

「みんな?」

 

 手元で揺れる花を見て小さく呟く少女。

 

「ううん、何でもない」

 

 そんな少女に疑問符を浮かべるリリスだが、今はそっとしておこうと口を閉じた。

 

「ねえ、あっちの方も見に行っていい?」

 

 首を縦に振って肯定すると、少女はリリスに向かって右手を差し出してきた。

 

「?」

 

「ほら、一緒に行こう?」

 

 当たり前かのように提案してくる少女。

 揺れる薄紫の髪の毛とその笑顔は、一面に広がる鮮やかな花畑も相まって、神秘的とまでいえる雰囲気を醸し出していた。

 

「うん!」

 

 リリスは迷うことなくその手を取り、少女と二人で走り出す。

 

「すっごい今更だけどさ! 名前教えてよ!」

 

一瞬強くなった風の音に負けないように、声を大きくするリリス。

「私の名前は夜伽リリスだよ!」と、満面の笑みで続けた。

 

「私は────」

 

 そんなリリスと対蹠的に、その手を引きながら少女は小さく微笑む。

 

 

 

「────秤アツコ。よろしくね、リリスちゃん」

 

 

 

 夜伽リリスと秤アツコ。

 奇しくも、同じく血筋に()われた二人の少女が、初めて出会った瞬間であった。

 

 

 





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 全部に返すのは難しいですが、来た感想は全て楽しく読ませてもらってます。執筆する上でのモチベーションです。ありがとうございます。

 R18版IF:https://syosetu.org/novel/355317/
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