セイバーがヴェルナンデスと再会して一夜開けた明朝、冒険者ギルドの受付にて受付嬢を睨むヴェルナンデス。
「あ、あの……」
「冒険者になりたいんです」
そうとは露知らず、他の冒険者達はヴェルナンデスを見て噂話が後を絶たない。中には一党に誘おうと登録が終わるのを待っている者さえいる。
「と、登録ですね。文字の読み書きなどは……」
「愚問です」
「では、こちらに名前と職業を……」
ペンをひったくるように取っては冒険記録用紙に名前と職業を書き記す。それを終えると受付嬢に渡す。
「かしこまりました。歳は……18で、職業は魔術師ですね。ではこちらをどうぞ」
受付嬢が冒険者の証である白磁製のタグを渡す。受け取ったヴェルナンデスは物珍しそうに眺める。
「それが冒険者ギルドにおいての身分証となります」
「身分……証……?」
「はい。あなたが白磁の冒険者という証です」
「これが……」
説明を受けたヴェルナンデスの表情に嬉しさが滲み出ている。これで自分も冒険者になったのだと考えている。ただ気になる点はある。
「白磁というのは?」
「まず、冒険者の等級は10段階ございます。ですが、最上位の白金は史上数人しかいない伝説レベル。続く金は国家規模の難事に関わる冒険者なので、事実上の在野最上位は銀等級になります。その次が順番に銅、紅玉、翠玉、青玉が中堅、その下が鋼鉄に黒曜、そして白磁となります」
「つまり、1番下……駆け出しというわけですね」
実力的には金か銀は確実であるヴェルナンデスであるが、何しろ初めての冒険者登録、そうなると話は別。ここは大人しく我慢しておくのが吉と考え、無理矢理納得する。
「ところで、あの人の等級は?」
「あの人?」
「確か……
「ああ!セイバーさんですね!あの人は正真正銘、銀等級ですよ」
「銀……ですか」
冒険者としては先輩にあたるセイバーの等級を聞いてみるが、銀等級と言われて不思議がる。だがすぐに切り替えて続く説明を受け、全部の説明が終わった。
「これで以上になります。今後の活躍をお祈りしております」
「ありがとうございます」
受付嬢に一礼すると背後の扉が開く。
「おはようございま……」
「あっ……」
女武闘家とヴェルナンデス。相容れない2人の邂逅。受付嬢には2人の視線の間に火花が散っているようにも見える。
「あの……お2人とも……」
「その辺にしときなよ」
そこに天の助け。セイバーが珍しく早起きして来た。
「で、冒険者の登録は済んだの?」
「はい。ご覧の通り」
受付嬢から受け取った白磁の認識票を見せて首に掛ける。
「よし。昨日は休めた?」
「はい!お陰様で万全です!」
「上出来上出来」
冒険者の登録を済ませたヴェルナンデスと、アグネアの指輪を使った事によって消費した分の体力を回復した女武闘家を褒める。
「よし。じゃあ早速依頼を……」
「ちょっとお待ちください!」
コルクボードに向かおうとした時、ヴェルナンデスが女武闘家に向けて異議を唱える。
「昨日申し上げたはずです。早く弟子を辞めて、他の一党に加えてもらいなさいと」
「私、辞めるつもりなんてない!セイバーさんに助けて貰ったあの日から、私はセイバーさんについて行くって……」
「時間の無駄です。この方にはここで騎士の真似事をするよりも、崇高な使命が……」
「せぇい!」
「ぎゃっ!」
昨日に続いてセイバーのチョップがヴェルナンデスの頭頂に決まる。
「な、何するんですか?!」
「冒険者になった初日のアンタが言える立場なの?」
「ですが、その辺の荒くれ者など私の前では敵ではありません」
「強いのは知ってる。けどね、ここじゃあなたが強い事は誰も知らないのよ?」
ヴェルナンデスは魔術師として優秀な部類に入る一族なのだが、残念ながら辺境の街ではその名は知られていない。故にその荒くれ者達に睨まれている。
「今のアンタにこの子を、彼らを値踏みする資格は無い」
「……分かりました」
不満はあるが、セイバーに一理あると冷静に考えこの場は引き下がる。だがこのまま受け入れて黙っているヴェルナンデスではなかった。
「では……セイバーさん。私もあなたの冒険に同行します。よろしいですね?」
何と自分もセイバーの一党に加えろと言うのだ。ヴェルナンデスと仲が良好とは言い難い女武闘家は信じられないと耳を疑った。肝心なセイバーはと言うと……
「そうね。アンタも一緒なら心強いわ」
「では、よろしくお願いしますね」
女武闘家は不服げであるが、頭目がそういうのであれば従うしかない。こうして、ヴェルナンデスを新メンバーとして迎え、一党は再スタートした……はずだった。
「納得いかん」
新一党を結成してから初めての依頼を終え、ギルドで休んでいる時、セイバーが不満を述べる。
「え?急にどうしたんですか?」
「いやね、辺境の街に来てから私は常に日頃から思っていた事がある」
腕を組んで女武闘家に訴えるセイバーに恐る恐る尋ねる。
「えっと……何を思ってたんですか?」
「私が受けた依頼、色んな種類を受けてきた。それなのに……どの依頼もおまけでゴブリンが出て来る」
「あっ……」
言われてみれば、
セイバーの肩に寄りかかっているヴェルナンデスも、毎度出現するゴブリンにウンザリしており、黙りを決め込んでいる。
「この1ヶ月ほぼ毎日って言ってもいいくらいゴブリンと戦ってる!これじゃいつかゴブリンセイバーなんて呼ばれちゃうじゃなぁい!」
「それは困りますね……。でも、実際にゴブリンスレイヤーさんと組んで依頼をこなしていた日もありましたね」
「あれは例外よ」
苦笑いする女武闘家。言われてみればセイバーと女武闘家は以前にゴブリンスレイヤーのパーティと臨時で組む事になってゴブリン退治に赴いた事はある。だがそれはそれ。これ以上ゴブリンを殺していたら、いつかは「ゴブリンセイバー」というある意味不名誉な2つ名で呼ばれそうな気がしてならない。
「ああもう!先にゴブリンから滅してやろうかしら……」
心からの不満をこれでもかと吐き出す。これ以上、セイバーの愚痴に付き合いきれないヴェルナンデスは今日の予定を尋ねる。
「それで、今日はどうするおつもりで?」
「今日は依頼を受けん!特訓もなし!1日フリーでいいわ!」
感情のままに予定を決めたセイバーに呆れのため息を吐くヴェルナンデス。そこに受付のカウンターの方を見ると珍しい面々を目撃する。
「どうかしたの?」
女武闘家も受付の方を見ると、カウンターの前で耳長の女冒険者と肥満体型な老人冒険者が何か言い合いをしており、受付嬢が困惑している。
「
「んぁ?」
不機嫌なセイバーも、肘をつきながら受付の方を物珍しそうに見ている。種族が異なる一党は珍しくない。ただ只人がいない上に多種族の一党は滅多にない。
森人の方は特に精霊に近いとされている
鉱人の方は只人よりも身長が低く、白髭を蓄えた小太りの老人のような見た目。身に纏う道士のような衣からヴェルナンデスに近しい性質を持つ者なのだろう。
そして蜥蜴人の方は一際大きな体格に緑色の鱗に覆われている。だがその見た目とは裏腹に丁寧な口調で受付嬢と対話している。
ここまで種族も在り方も異なる者同士の一党が何故このような街にいるのか、心当たりのあるヴェルナンデスがセイバーにある噂話を持ち出す。
「確か魔神王が復活して、悪魔の軍勢が押し寄せているという……」
「ふーん……」
だがセイバーには興味な無いようで、無関心を決め込む。すると、今度は一人の男と、彼について行く神官の少女が受付に行く。
「何ですかあれ?」
先程の3人と打って変わり、みすぼらしい鎧兜と武装をした男を見て、ヴェルナンデスが気味悪がる。
「知らないの?あの人はゴブリンスレイヤーさん」
「ゴブリンスレイヤー……小鬼を殺す者?」
女武闘家がゴブリンスレイヤーを知らないヴェルナンデスに教えてやる。その説明の中にはセイバーとの関わりも含まれている。
「ゴブリンしか狩らない冒険者……そんなのがいるんですね」
「だけどあれでも銀等級よ。変な話はしない方がいいわ」
ゴブリンスレイヤーの装備はゴブリン対策故なのだが、その身なり故に彼の事を知らない者達からの良い噂を聞かない。念の為、ヴェルナンデスもその者達の仲間入りとならないよう釘を刺す。
すると、蜥蜴僧侶がこちらにやって来て……
「すまぬが」
「は、はい?」
初めて見る蜥蜴人の特徴とも言える大柄な体型を前に少し身構える女武闘家。
「拙僧達は、小鬼殺し殿ともう一方の御仁に用があるのだが」
「えっと……どう言った用件が?」
「いやなに、月夜に蔓延る数多の魔物を白銀の刃で屠ってきたとされる、確か……月下の剣士殿に用がありましてだな」
月下の剣士、そう呼ばれる者は1人しかないない。その本人が起き上がって来た。
「私に何か用?」
「おお。そなたが剣士殿であらせられるか。我らは故あって、小鬼殺し殿と貴殿に用があるのだ」
「ゴブリンスレイヤーと?」
ゴブリンスレイヤーが関わる事と言えばアレしかないのだが、何故自分にまで声が掛かったのか分からず、同じく呼び出されたゴブリンスレイヤーの方を見る。
「話を聞く。お前も来るようにと……」
「それなら聞いた。なら行こっ。ねえアンタ達、ちょっと待っててね」
今日は自由と言ったが、念の為に女武闘家とヴェルナンデスに待機命令を下し、応接室へと向かって行った。
残された女武闘家とヴェルナンデスは、同じくゴブリンスレイヤーに休むよう言われた女神官と3人きりになった。だが女神官の方はヴェルナンデスとは初対面であり、とても綺麗な彼女の容姿に思わず見蕩れる。
「あ、あの……この方は?」
「初めてだっけ?この人はヴェルナンデス。見ての通り魔法使い。新しく一党に加わったの」
「初めまして。この街に来て間もないのでまだ分からない事だらけですが、同じ聖職者同士よろしくお願いします」
「は、はい!よろしくお願いします!」
女武闘家に紹介されたヴェルナンデスが一礼をすると、女神官も慌てて一礼する。
「それと、1つだけ言っておきます」
「はい?」
「今日冒険者として登録したので、駆け出し扱いされていますが、私は銀等級以上の実力がありますので、それをお忘れなきように」
「は、はぁ……」
自尊心の高いヴェルナンデスに呆れる女武闘家だが、今度はそっちに向く。
「っていうか、私の事呼び捨てですか?いつから偉くなったんですかあなたは?」
「だって同じ白磁じゃん」
「戦士としては私の方が大先輩です」
「その認識票が白磁である限り、私の同じ白磁です〜!そもそも冒険者としては私が大先輩です〜!」
いつも当てこすりばかり言うヴェルナンデスに、ここぞとばかりに楽しく煽っている。冷静沈着のヴェルナンデスの額に青筋が立っている。
そのままギャーギャーと口喧嘩が続き、そんな一部始終を間近で見ていた女神官がオロオロと慌てふためく。
「なあ、ちょっと」
そこに同じ白磁の冒険者である見習剣士に話しかけられる。彼の隣には同じく駆け出しの見習聖女もいる。
「君達、同じ白磁だろ?俺達と一緒に行かないか?」
ヴェルナンデスはともかく、2人は突然の勧誘に驚く。とはいえ、今は一緒にいる仲間がいる。気持ちはありがたいがこの誘いには乗れない。
「ごめん、遠慮するわ。もう他に組んでくれた人がいるし」
「せっかくのお誘いでありがたいんですが、私も……」
「あの変な兜被ってる奴でしょ?」
「だから声掛けたんだよ」
「……どういう事ですか?」
見習剣士の意をヴェルナンデスが問い質すが、まるで睨んでいるように見える。それを知ってなのか見習剣士と見習聖女が少し怯えている。
「いや、あのさ。銀等級なのにゴブリン退治しかしないのっておかしくないか?」
「新人引き回して、囮にしてるんじゃないかって……」
「アンタ達!」
友達が尊敬する冒険者の根も葉もない噂を口にした2人に腹が立った女武闘家だったが……
「ほら 野暮はダメ よ」
魔女特有の間の空いたセリフで割って入った。
魔女の艶妖な体型を前に、見習剣士には刺激が強いようで顔を赤らめている。
「や、野暮なんて……」
「ほら、行くわよ」
男の性に呆れた見習聖女が見習剣士を引っ張ってこの場から離れる。
女4人だけになったこの場であるが、まだ子供である女神官と女武闘家であっても、魔女の艶妖な姿を直視出来ない。
一方ヴェルナンデスもそれなりに整ったボディラインのはずなのだが、露出の多さのせいなのかどこか敗北感が拭えない。
「大変……よね」
「「へっ?」」
「あの2人……に……ついていくの」
唐突な問いに2人は答えられずに呆然としてしまっている。ヴェルナンデスはセイバーについて行くのは当たり前なので、反応を示さない。だがそんな事に構わず、魔女は自前の煙管を出すと……
「
呪文を使って煙管に火を灯した。その魔女の行為にヴェルナンデスは目を疑った。
(煙管の為に呪文を……?!)
魔術師にとって呪文は貴重な手札。それを態々このように使うなど、理解出来ない。
女武闘家も、以前にセイバーからこう教わった事がある。
『良い?道具も自分の体力も限りがある。序盤からバカみたいに使って、後半で使えないなんて事が起こらないようにね?』
故にヴェルナンデスと同じ反応になる。
「私も ね 変な依頼を 受けたことがあるの 彼から」
「変な依頼……ですか?」
女武闘家が恐る恐る尋ねた。それを聞いたヴェルナンデスは驚きを隠せなかった
キャラ紹介
女武闘家
容姿は原作とほぼ同じ。変化点は胸当てと脛当て、格闘用のグローブを装備しており、悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲に登場したサブウェポン「アグネア」を着けている。
原作ではゴブリンに凌辱されて精神崩壊したが、こちらではその寸前でセイバーに助けられた為、健在である。
現在は尊敬するセイバーの弟子として同じ一党となる。
同じ新人一党だった女神官とはまるで姉妹のような仲であり、定期的にこれまでの冒険の様子を話したりしている。
一方で後に一党に加わったヴェルナンデスの事は一方的に弟子をやめろと言われてから嫌っている。お互いに仲は悪いのだが、セイバーを慕う者同士息がピッタリだったりする。